真剣で旭に恋しなさい!〜月鏡、朝日に照らされて〜 作:夢迷月
2009年 5月 26日
火曜日の評議会室、昼休みのこと。つまり、黛由紀江が先輩に向けて一回目の弁当を持ってきた日の翌日。
相馬巴は二人の女に囲まれていた。見方によっては……というか、この光景を見た人間は皆、この男が美少女二人を侍らせていると感じるだろう。巴の着ているものが着ているものだけに、殿様が側室を横にして酒盛りをしているようなイメージだ。
「で、気巡らせれば一週間で治るって言ってるのになんでここまで……」
「相馬先輩っ、あ、あーん、です」
「巴。ほら、食べなさい。あーん」
右に正座で陣取るのは、黛由紀江。艶のある黒髪を二つに分けた可愛らしい髪型で、きりっとした顔立ちの中に優しさを滲ませる、お尻の肉付きが魅力的な後輩女子。
反対には、巴が想いを寄せる、こちらはマットな黒色が目立つコシのある黒髪で前髪をアシメにし、整ったパーツ一つ一つが怪しい魅力を醸し出す美女、最上旭がしなだれかかるように座っていた。
「もぐもぐ……ちょっ、ペース早いって」
「そ、そうでしたかっ!? 申し訳ありませんっ」
「大丈夫よ由紀江。巴は口に放り込めば食べるから」
箸の往復を止めた由紀江をよそに、旭はひょいひょいと白米と甘辛く煮付けた牛ごぼうを男の口に詰め込んでいく。
「もぐもぐもぐ……いや旭さん、いくら俺が咀嚼早いって言っても限度が……もがもがもが」
「こ、こっちの唐揚げも美味しく出来てますっ、先輩」
由紀江は負けじと、冷めても美味しさが保たれるよう味付けしてある唐揚げを食べさせる。
まるでひな鳥の給餌のような風景を、襖の隙間から覗く影が複数。
一番上が川神百代。その下に舎弟直江大和。そしてそのさらに下に由紀江の友人、大和田伊予がトーテムポールのように折り重なって覗いていた。後ろには数名の評議会議員たちもいる。
「ほら見てみろ大和。めちゃくちゃ面白い光景だろ。いい気味だ」
「趣味悪いなあ姉さん……」
「頑張れ~まゆっち~! いい感じになったらチャンテ流すからね~」
野次馬に対し文句を言いたかったが、徹底的に食物で埋められた巴の口は憎まれ口さえ叩くことが出来なかった。
(なんでこんなことになってんだろうね、ほんとね……)
遡ること一日。
武神と一年生の襲来で騒然となった教室は変な静寂に包まれていた。
『そうね……明日は弁当の食べ比べでもしましょうか? そっちの方が面白そうだし』
という、最上旭の爆弾発言によってである。巴は必死に左手を顔の前で振る。
『いやいやいや、弁当二つも食べられないよ』
だが、由紀江は負けず嫌いを発揮してしまった。ここが勝負の時なのだと言わんばかりだった。
『そ、その勝負、お受けしますっ!』
『はいはーい! 百代ちゃんも見たいなー、その勝負。ついでに美少女の弁当食べたーい!』
『はい、これで三票。決まりね、巴』
『民主主義の暴力だ……』
かくして、一番大事な審判役の意見が反映されないまま勝負が始まってしまったのである。
自分に向けて作られたものを自分が食べないわけにはいかない、とこういう所では妙な男気を発揮した巴は、なんとか重箱4箱分を胃袋に収めた。そのせいで昼食の当てがなくなった百代からは睨まれたが。
実食を終えた巴は、結果を待つ由紀江の真剣な眼差しと旭の愉しげに細められた視線に晒される。
「さて、どちらのお弁当が美味しかったのかしら? 昼休みももう終わるから早めに結論を出して欲しいわね」
旭の弁当は、浅めの重箱一つ分の白米に梅干し二個。一つ段を上がれば甘めの味付けが為された卵焼き、牛ごぼう、鶏の照り焼きにほうれん草のお浸しなどが整然と並べられたもの。
「ど、どうでしたでしょうか、相馬先輩」
由紀江の弁当は、白身魚のフライと海苔とおかかが乗ったご飯、別の箱にメインとして多めに鶏の唐揚げ、パプリカ入りの野菜炒めやきゅうりと春雨の酢の物と彩り豊かな仕上がりになっていた。
巴は腕を組んで唸る。
正直、どっちも美味だった。美味しいものと甘いものは好きだが、もともと食べられれば御の字という人間である。最上家に入ってからはいわゆる一流の料理というのも食す機会があったが、繊細な味付けがどうこうだの素朴で上品な味わいがあれこれ、と言われるものたちよりも二人の弁当の方がはるかに巴の舌に合っていた。
さりとて、どちらが美味しかったかと問われると。
「巴」
「先輩!」
二人に挟まれて巴はいよいよ進退窮まる。彼が出した結論は……
「どっちも美味しかった」
廊下でずっこける音が聞こえた。旭は髪をかき上げながら悪戯っぽい視線を向ける。
「それはダメよ。ちゃんと決めなさい、巴」
「いや、ほんとに決められないんだ。旭さんのは俺の好み抑えられてて文句なく美味しかったし、由紀江さんのも一つ一つクオリティ高くて」
「あ、ありがとうございますっ! やりましたね松風!」
「めっちゃ高評価受けてね? さっすがまゆっち!」
「でもなあ……どっちが上かと聞かれるとなあ……」
この時、巴はさっさと旭の弁当の方が良かったと言ってしまえばいいものを、その結論を出しあぐねていた。
それを見かねた旭が助け船を出す。胸の前でパンと手を合わせた彼女は最高にいい笑顔をしていた。
「じゃあ、延長戦といきましょう」
「……旭さん?」
「う、受けて立ちますっ!」
「燃える展開じゃねーかYO! まゆっちファイトだぜ!」
「じゃあ、土曜日にしましょう。由紀江は時間空いてるかしら?」
「だ、大丈夫ですっ!」
「……おーい」
「一発で決められない優柔不断な人の意見なんて聞かないわ」
「んがっ……」
巴の意思が尊重されることはなく、その日の勝負は引き分けに終わり延長戦が最上家で行われることが決まった。
2009年 5月 30日
今日は半ドン授業もなく、制服姿の由紀江は朝に島津寮へ来た送迎車に乗せられて最上の屋敷へ連れてこられていた。
既に気での治療で骨が繋がり固定具を取った巴と私服姿の旭は玄関先に行き、由紀江を出迎える。由紀江はガチガチに緊張しながら、手土産を渡した。
「きょ、今日はお招きいただきありがとうございますっ! ここここれつまらないものですがっ!」
「ん、あんがと由紀江さん。じゃ上がってって」
「ごきげんよう由紀江。ふふ。たっぷり可愛がってあげるわ」
巴は菓子箱を受け取り、旭は由紀江の横にぴったりついて最上家に入っていく。
入り口の戸を開けると、ホテルのロビーのように豪華な玄関が広がっていた。由紀江と松風は思わず感嘆する。
「わあ……!」
「最上パイセン、マジでお嬢だったんだね……」
「こっちがリビングよ。先にキッチンの方が良いかしら?」
「は、はいっ。お料理から取り掛からせていただきますっ」
「旭さん、由紀江さん。お茶でも用意しとくよ」
一緒に台所へ入ろうとした巴を、旭はやんわり追い出す。
「貴方はいいわ。キッチンは女の戦場よ?」
「そ、そうですっ。先輩は料理が出来るまでお寛ぎくださいっ!」
「そ、そうか。じゃあリビングで待っとくね」
巴は引き下がり、すごすごと居間に向かった。
その姿を見送ると旭はヘアゴムで手早くロングヘアをくくってから手を洗う。
今日は最初から髪をひとくくりにしていた由紀江もそれに倣って手を洗うと、旭は冷蔵庫から食材を取り出し始めた。
挽き肉、キャベツ、ニラ、にんにく、そして皮。どこからどう見ても餃子の材料だった。
「さて、早速作りましょうか」
「あ、あの、最上先輩」
「旭でいいわよ」
「旭、先輩」
「……まあそれでいいわ。それで、なに? 由紀江」
材料を眺めてから、由紀江は恐縮しつつ訊ねる。
「これ、餃子ですよね」
「そうね。ほかにも変わり種入れる? 紫蘇とか」
「いっ、いえいえいえ、十分です、けど」
「なら問題ないわね。ほら、キャベツお願いするわ」
「は、はい……」
不思議と従いたくなる気分になった由紀江は押し切られ、包丁を手渡される。
それからしばらく、トントンとまな板と包丁がぶつかる音が鳴る。
「ニラって切りにくいのよね。すぐバラけるし」
「苦労されているような包丁さばきではありませんが……」
「ふふ。ありがとう。料理はたまにしかしないのだけれどね。作るとお父様と巴が喜ぶの」
「ちなみに、最近はなにを作られたのですか?」
「私自慢の十割蕎麦よ。ふふん、凄いでしょう」
蕎麦、という単語に由紀江の目が輝いた。
「自家製蕎麦ですか……!」
「興味ある?」
「はい! 好物です! あ……でも」
さすがに図々しかっただろうか、と表情を曇らせた由紀江に、みじん切りしたニラをボウルに放り込んだ旭が優しく声をかける。
「遠慮することないわよ。また今度うちに来た時は作ってあげるわ」
ありがとうございます、とどもりながらもお礼を言った由紀江は話を続ける。
「あ、あの……相馬先輩と旭先輩は、同棲、なさっているんですか?」
「同棲、というと違う気もするわね。お父様もいらっしゃるし、付き合っているわけではないし。同居?」
「な、なるほど。では、どれくらいの期間同居なさってるんですか?」
旭は形のいい顎に白魚のような指を当て、数秒思案してから返答する。
「……そうね。あれからだから、大体ちょうど三年かしら」
「あれ、とは」
「巴が巴のお父様を殺した日、ね」
「……っ」
由紀江はボウルに移動させようとしていたキャベツを取り落としかけた。
「それは、私が聞いていい話なのでしょうか」
「うーん……なんというか、由紀江には話しておいた方がいい気がするのよね……」
そうだ、と旭は手をポンと叩く。
「由紀江。貴方巴のこと、好き?」
「えっ、えと、その」
「ライクか、ラブか」
「す、好きというのは確定なんですね……」
「それはそうよ。お弁当も、食べて欲しいから作ったんでしょう?」
顔を紅くしてしまった由紀江は頷く。旭は餃子のタネの調味料を作りながら畳み掛ける。
「先に言っておくけど、私はラブよ」
「う、う……」
醤油、酒、にんにくにごま油、その他諸々が混ざっていく。それを挽き肉、キャベツ、ニラが入ったボウルに入れ、手袋をはめてまたかき混ぜる。
たっぷりかき混ぜて、ラップして、寝かせるために冷蔵庫へ。
旭がここまでやったところで、由紀江は意を決して口を開いた。
「私は……私も、ラブです」
答えを聞いて、旭は頷く。
「そう。つまり、恋敵というわけね。私たち」
「こ、恋敵なんて。旭先輩はもう相馬先輩から告白されてるとお聞きしました」
「きっと百代からね。じゃあ、まだ付き合ってないことも知ってるんでしょう?」
由紀江が頷くのを見て、先輩はにこりと笑った。
「ん、じゃあ、タネを寝かせる間の暇つぶしに話しましょうか。題して、相馬巴少年はいかにして最上家に来たか〜ぱちぱち〜」
「わ、わ〜……ぱちぱち」
「急にエキセントリックになり始めたぜこの先輩……」
「私の家に巴が来たのは、三年とちょっと前の話。木曽の山奥で彼と出会ったの」
旭の話は、こんな出だしから始まった。
巴が裏稼業に入ったのは12の年。この時点で既に相馬流は免許皆伝、父遙に匹敵する実力を持っていた。
その後も研鑽を重ね、14になった時。ある仕事を受けた巴は、よりによって九鬼のパーティに来ていた賓客を暗殺しようとした。そのときにヒューム・ヘルシングに敗北。以降は九鬼が身柄を預かることになる。この後、相馬遙は行方をくらます。
九鬼の更生プログラムを受け、表面上は取り繕えるようになった……というより、もともと巴は殺人衝動がある訳ではなく手段として殺害が入っていただけで、それをする必要がないことさえ教えてしまえば後は簡単だった、というのがヒュームの談だ。
ちなみに旭は知らないことだが、この時点でヒュームは巴のことを川神百代に匹敵する天才であり、いつか自分を超える者と評している。そのためか、老執事はその生意気な少年にも比較的親身に接していた。
そして、従者部隊としてではない形で九鬼財閥に入った巴に最上幽斎が興味を持ち、自分の護衛として雇った。この時、木曽の山奥で相馬巴と最上旭は出会ったのである。
ここまで話したところで、旭は寝かせたタネを冷蔵庫から出す。
「とまあ、ここまでが出会い編よ。次は作りながら話しましょう」
「なんというか、相馬パイセンって波瀾万丈な青春送ってんだな……」
松風を持っていないのに松風ボイスでツッコミを入れつつ、由紀江は皮と水を入れたボウルを用意する。
二人が手際よく餃子を大量に成形していく中で、話は続く。
旭が初め巴と会った時の印象は、鍛え上げられた日本刀だった。触れれば全てを断つ、一振りの刀。
そして、言ってしまえばそれだけの人間。
高校修了程度の学はあったが教養はなく、表面上の優しさはあっても思いやりはなく、命に対する感謝はあったが命を奪うのに躊躇はなかった。
ただ、強いだけの生物だった。
「この時、私は思ってしまったの」
こんな人間を、自分のものに出来たら。正確には自分の刀に、道具に出来たら。
「さぞ、面白いんじゃないかしらって」
それからは、調教の日々。寝ながらでも返事出来る習性を利用した睡眠学習も含め、様々な教育を施していった。
「ああ、ちなみに性知識も皆無だったから教育したわ」
「せっ……!?」
「あれでなかなかにエロエロよ」
「エロエロ!?」
「私のせいで、巴は"温泉旅館の女将は金持ちのでっぷりしたおじさんに買われるもの"だと思ってるわ」
「あわわわわわ」
「なんか馬鹿にされた気がしたから来たよ、旭さん」
「邪魔。あっち行ってて」
「はい……」
「……由紀江、結構遠回しに言ったつもりだけど理解出来てるってことは、貴方むっつりね?」
「ひゃあうっ」
「まあその辺りは後で追求するとして……」
調教を続けていたある日。その山奥が襲撃された。最上幽斎が恨みを買っていた中国の精鋭傭兵集団、曹一族からである。
幸い村の一部が燃えるだけで済んだが、巴と共に逃げた最上一家を山狩りしていたうちの人員の一人が、相馬遙だった。知己がいた曹一族に傭兵として身を寄せていたのである。
そして実の父親と骨肉の争いに発展し、殺した。最上旭を守るために、である。最後には、疲弊したところを襲撃してきた史文恭から旭を逃すために立ち向かい、討たれた。
その場は"何故か"曹一族が引き、意識を失った巴が残された。
とっくに成形は終わり、油を引いたフライパンの上で餃子がぱちぱち焼ける音が鳴る。第一陣の餃子はコップ一杯の水を放り込んで蒸す段階に入る。
「以来、最上旭に毎日告白してくる可愛い雄が一匹生まれたのでした。めでたしめでたし」
「……逆ではないのですか?」
「あら、私も恋してるし、愛してるわ。命を救ってもらったのは事実だし」
「なのに告白を受けないのには、理由があるのですね」
フライ返しで餃子を皿に乗せながら、由紀江が断言する。そんな姿に旭は思わず笑みをこぼした。
「ふふ。そうね。まだ巴にも明かしていないけれど……いずれ分かるわ。だって、色々動き始めているから」
「その色々ってのが分かんねーとまゆっちも納得できねーんだよー!」
松風の抗議はどこ吹く風と、旭も餃子を盛り付けていく。
「その時がきたら、みんな分かるわ。それまでは友達でいてくれるかしら? 由紀江」
友達という単語に、平静をなんとか保っていた由紀江の動揺がマックスになる。
「とっ、ととと友達ですか!?」
「そう。恋敵で、友達。こんなことを頼むのは、最低かもしれないけれど」
「い、いえいえとんでもないです! どうぞよろしくお願いします!」
由紀江の返答で、旭の口角がさらに上がる。
「ありがとう、由紀江。私貴方のことがちょっと心配よ。チョロすぎて」
「チョロいってなんだよ最上パイセン! まゆっちは身持ちもかてえ大和撫子だぜい!」
「エロエロなのにね」
「えっ、エロエロでは……ありますけど」
「ふふふ。本当に可愛いわ、由紀江。妹がいたらこんな感じなんでしょうね」
なんにせよ、と前置きした旭は皿を手に持ってキッチンの出口へ向かう。
「巴とも、仲良くしてあげてね」
「はっ、はいっ! 是非っ!」
慌てて、由紀江も餃子がたっぷり乗った皿を持って歩き出す。
「……そう、たとえ私がいなくなっても、ね」
女の戦場の微かな残り香、旭の不穏な呟きは誰にも聞こえていなかった。
「では、手を合わせてください」
旭の号令で、三人が手を合わせる。
いただきます、と言った瞬間、箸につままれた餃子が巴の目の前に二つ差し出された。
「巴、あーん」
「相馬先輩っ、あーん、です!」
巴は自分の箸で持ち上げていた餃子を口に入れてから、二人の箸からまた餃子を食べる。
もちもちした皮を歯で突き破ると溢れんばかりの肉汁が出て来て、食べ応え抜群の逸品になっていた。
味わいながら咀嚼し終えると、
「おいしいよ、旭さん、由紀江さん」
とだけ巴は言った。
酢醤油単体や、それにラー油を垂らしたものなどを使いながら、大量に作った餃子は瞬く間に消えていった。
三人で手を合わせて、ご馳走様でしたと礼を捧げる。
皿洗いくらいはと巴が片付けとお茶汲みを担当しようとして、三人で片付けた後。
玉露のいいものを淹れたリビングでは旭から話が切り出された。
「さて、巴。どっちの料理が美味しかった?」
「……んん? 何か違いあった?」
巴は、自分の舌が鈍かったかと訝しむ。味を思い出しても特に違ったところはなかったはず、と思っていると旭からさらに言葉が続く。
「そうね、違いはないわ。由紀江は私と入れるタネの量を合わせてくれてたし」
「だったら、どっちがとかはないんじゃ」
男がここまで口にしたところで、由紀江が得心がいったように感嘆の声を上げる。
「……ああ、なるほど!」
「俺、ついてけないんだけど」
「相馬先輩、今日は私と、旭先輩で餃子を作りました」
「はい、巴。貴方がもう一度言うべきことは?」
むむむと唸った後、巴の頭の上で豆電球が光った。
「どっちも、美味しかった」
「よく出来ました。正解ね」
「ありがとうございますっ、相馬先輩」
ぱちぱちと拍手をする旭と、頭を下げる由紀江。そんな二人を見て、巴は納得がいかないようにテーブルへ頬杖をついた。
「なんか上手く誤魔化された気がする……」
「先に誤魔化そうとしたのは貴方よ。自業自得」
「んがっ……」
巴が頬杖から顎を落として、それについ由紀江が微笑んだところで、食事会は終わった。
日が沈みかける時間帯、巴と旭は由紀江を見送る。由紀江は二人に向けて深々とお辞儀していた。
「今日はありがとうございました。相馬先輩、旭先輩」
「今度は蕎麦を食べにいらっしゃい、由紀江」
「じゃあまた学校でね、由紀江さん」
「はい。では失礼しますっ!」
元気に返事をした由紀江を乗せた送迎車は、滑るように道路の向こうへ消えていく。
二人は玄関から連れ立って本館へ戻る。
「でもさ、旭さんが友達なんて珍しいね」
「だって、由紀江は可愛いでしょう?」
「それは否定しないけどさ」
前を歩く旭の表情は、巴には読めなかった。
「私にも思うところがあるのよ。ところで巴、今日の鍛錬は?」
「あー、今日はみっちりやるよ。ブランクあるからね」
巴はなまった右腕を振って見せた。長い影でその動きを見た旭は、進路をシェルター兼用の地下修練場に変えた。
「今日はとことん付き合ってあげるわ。種目は寝技でいかがかしら?」
「……分かった」
もちろん、性的な意味ではない。
二人はそれから基礎鍛錬を一時間、グラウンドでの攻防をみっちり二時間やり、さらに二時間の組手を経て、濃い一日が過ぎていった。
2日後、月曜日。評議会室で由紀江の弁当を食べていた巴、旭、百代、由紀江の四人は息急ききって入ってきた人間からあるニュースを耳にする。
「……東西対抗戦?」
物語は、ゆっくりと加速していく。
加速すると……いいなあ。
エプロン付けたポニテ旭さんが見たい。