真剣で旭に恋しなさい!〜月鏡、朝日に照らされて〜   作:夢迷月

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何故展開が定まってからの方が筆が遅くなるのか……


第八話

 2009年 6月 6日

「くぁ……」

 土曜日夜の工場地帯。近未来的な造形をしたこの一帯に似つかわしくない古風な裃姿の男は、暇すぎて欠伸を漏らしていた。

 なぜ巴が旭を伴わずにこんなところにいるかと言うと、東西交流戦、という胡乱なイベントのせいであった。

 水曜の全校朝礼の中、学園長川神鉄心は軽い口調でこう宣言した。

『福岡の天神館が……週末、修学旅行で川神に来るらしいの。学校ぐるみの決闘を申し込まれたので、ひきうけたぞい。東西交流戦と名付ける、激しい戦になるな』

 なんでも、その福岡の天神館とやらは川神学園と同様校内での決闘を許可しているバリバリの武闘派な学校らしい。

 そして、学生の強さが東高西低と言われているのが気に食わないらしく喧嘩を吹っかけてきた、というお話。学年ごとに行われ、大将を倒せば勝ち。学年ごとに200人まで出してよいことになっていた。

 これはその二日目、3年生の部。初日の1年生の部は大将を由紀江が務め、見事勝利を収めていた。

 戦場全体を見渡せる位置で、待機どころか参加を断るよう命じられた巴はぼやく。

「いや、俺は戦わなくていいから楽でいいんだけどさ……」

 ぼんやりと立つそんな背中に声をかける壮年の男性が一人。

「スマンな。師匠からお前がもう問題ないことは聞いてんだけどよ。さすがに戦力差がな」

「大丈夫っすよ。天神館館長鍋島正殿」

 黒のカッターに白いスーツ、そして大き目のトレンチコートを羽織って葉巻を吸う、なんとなくヤがつきそうな風体をした男、川神鉄心の高弟の一人鍋島正は、不快さを隠そうともせずに応対する。

「……おめえ、達人相手だと慇懃無礼になるってなほんとだったんだな」

「学長が自分のことをなんて言ってるかも今理解しましたよ」

「まあ若いうちは上に生意気と思われてるくらいがいいさ。つっても、こんなこと出場自粛を頼んでる立場の人間が言えるこっちゃねえがな」

 打って変わって朗らかに笑いながら鍋島は嘯く。

「まあ、表向きは出場拒否なんでいいですよ。人数制限もあることですしね」

 またしても川神鉄心翁直々に、参加を見合わせるよう巴は言われていた。

(喧嘩売りに来て、あなた強いから出ないでくださいって正直……いややめとこ)

 ひと学年200人は人数制限になってるか甚だ疑問であり、しかも三年生の部は天神館側が助っ人を大量に連れてきていたのだが。

「第一鍋島館長が今おっしゃった通り、実力差がどうしようもないですよ。あれがいるんで」

 肩を竦めて、巴は自分が気にしていないことを伝える。

 その視線の先にいたのは、もちろん我らが武神、川神百代である。

「ワクワクしてきたぞ。なあ京極」

「皆の者! 敵はあの武神! 倒されたが最後、身ぐるみはがされてラーメンにされて切って叩いて伸ばしてなんやかんやされてしまうという逸話を持っている凶戦士だ! 不退転の覚悟で臨め!」

「……川神。とんでもない噂の伝わり方をしているぞ」

「いーんだよ。さあて、どんな技使ってくるのかにゃーん」

 拳をゴキゴキと鳴らしながら、川神学園三年大将の百代は天神館本陣の真ん前に立つ。

 すると、組体操のように天神館のメンツが集合していく。

「我ら、文字通り一丸となって武神を打倒せん! 行くぞ! 天・神・合・体!」

 そう唱えると、みるみるうちに助っ人を含めた敵軍がまるで一人の巨人になったかのように合体していく。巨人は工業地帯を覆い隠すほどのサイズまで大きくなっていった。

 それを見た巴と鍋島は驚く。

「うわー。あんな技もあるんですね」

「ほー。あいつらもしっかり実力磨いてたわけだ。感心感心」

 唸り声を上げて迫る巨人。それに正対して、川神百代は両手を後ろにする構えを取り……

「川神流! 星殺しーーーーー!!!」

 突き出した手から、特大のビームを放った。胸に風穴を開けられた巨人は指先から崩壊していく。

 残党の掃討に移り始めた戦況を見た鍋島は思わず訊ねる。

「あのお嬢ちゃんもやりたい放題だな……おい、相馬の。お前と武神ちゃん、今闘ったらどうなるんだ?」

 目上の人間の問いに青年はおどけて答える。

「さあ?」

「さあって」

「殺していいなら勝てますよ」

「物騒なこった。で、ほんとに勝算はあんのか?」

「勝つだけなら、やりようはいくらでもありますから」

「……近頃の若者は逞しいねえ。色んな意味で」

 煙に巻くような態度を崩さない巴に、鍋島はうんざりしたような声で呟いた。

 ともあれ、これで二日目を終えた時点で2勝0敗。そして、西方十勇士に苦しめられながらも最終局面で謎の援軍が来た2年生も勝利。つまり無敗の完全勝利で、東西交流戦は終わった。

 

 

 2009年 6月 8日

 その日の最上家のリビングでは、珍しくテレビが付いていた。幽斎は朝食を手早く済ませて家を出ていたので、二人で画面から出る音に耳を傾ける。家の主が居なくても届く新聞には、『壇ノ浦の興奮再び』などの見出しが躍っていた。

 画面に映った龍造寺というイケメンが武士道プランと呼ばれる計画について話している。

『世界最大の財閥である九鬼は本日未明……』

「ふーん、英雄を現世に蘇らせる、武士道プランねえ……この前旭さんが言ってた気がするけど」

 既にクローン四名と面識がある巴は、その四人と旭になにか共通点があるのか、と味噌汁を啜っていた旭に話を向ける。

「そうね。入学式の日に言った気がするわ」

「まさかクローンだったりして……なんちゃって」

「そうだったら面白いでしょうね」

 川神学園評議会議長は、平静を崩さず朝食を終えた。

「ほら巴、学校行きましょう。テレビによると英雄達は転校生になるみたいだから」

「……うん」

 いつも口では勝てない目の前の女のどこか高揚した姿に猜疑心を抱きつつ、巴も学園へ行く支度を整えた。

 ちなみに最上家でテレビを見る機会が少ないのは、旭が扱えないからだったりする。

 

 

 

 巴と旭が教室に入ると、黒板横のプリントを貼るスペースに京極彦一が視線を注いでいた。

「おはよう、彦一」

「おはよ京極くん。何してんの」

「おお、おはよう最上くん、相馬。いやなに、今日来るらしい転入生の名前が張り出されていたのでな」

 視線を三人が集中させたプリントには、”葉桜清楚”と書かれていた。その名前を見て巴は苦笑いを漏らし、旭は笑いを嚙み殺そうとして失敗した。

「あー、こっち来るんだ」

「……っく、ふふ」

「その様子だと、二人とも転入生がどんな人間か知っているようだな」

「まあ、知ってるっつーかなんというか」

「ふふ……まあそれは来てからのお楽しみね、彦一。人間観察はお手の物でしょう?」

「そうだな。名は体を表すというし、せいぜい名前通りの人間かどうか見ることにしよう」

 こんな会話が交わされたのち、校内放送で全校集会が行われるとのアナウンスが入った。

 

 

 

 ぞろぞろと並び、ざわざわと騒ぐ。

 臨時の全校集会とはいえ、普段のものとは種類の違う喧噪が川神学園のグラウンドを満たしていた。

「ねえ、どんなのが来んのかな」

「テレビで見たけど、義経は可愛かったよなー!」

「弁慶は女らしいんだけど、ごりっごりのムキムキ女とかだったら嫌だよなー」

「那須与一も女なのかな」

 いや弁慶はめちゃくちゃ美人ではあったぞ、与一は男だったけど、とざわめきの中にいる巴は内心突っ込みを入れる。

 評議会議長である旭は壇の横の列にいたが、懐刀と言っても一般生徒には変わりない巴はクラスの列で背筋を伸ばしていた。

 それからも数分騒がしい時間が続いたが、壇上に川神鉄心学園長が上がると水を打ったように静まった。

「皆も今朝の騒ぎで知っているじゃろう、武士道プラン。この川神学園に、転入生が6人入る事になったぞい」

「6人?」

 4人だけじゃないのかと巴が思わず呟く間にも、学長の説明は続いていく。

「まあ、武士道プランについての説明は新聞でも見ることじゃな。重要なのは学友が増えるという事。仲良くするんじゃ……競う相手としても最高級じゃぞい、なにせ英雄。武士道プランの申し子達は、全部で4人じゃ。残り2人が関係者。まず3年生、3‐Sに一人入るぞい」

「残り2人って……」

 巴は思わず身を震わせる。気で探知すると、あのヒューム・ヘルシングが学校に向かいつつあったからだ。ついでに那須与一が屋上にいるのも気づいた。

(いやいやまさか、護衛につくくらいでしょ……まさかね)

 嫌な想像を振り払いつつ、巴は壇上に視線を戻す。

 一人の女子がしゃなりと壇に上ると、生徒群の各地からほうと溜息が漏れた。マイク越しでも耳障りでない声が校庭に響く。

「こんにちは、はじめまして。葉桜清楚です。皆さんとお会いするのを、楽しみにしていました。これからよろしくお願いします」

 深い知性を湛えた瞳と、楚々とした雰囲気。枝毛一つない黒髪に光を燦爛させて立つその姿は、まさに美少女の理想的な姿の一つだった。ヒナゲシの髪飾りを付けた清楚がたおやかに腰を折って挨拶すると、男子たちから歓声が巻き起こる。

 二年生辺りで騒がしいのが何人かいたが、巴の耳は近くにいた百代の愚痴を拾う。

「なんだよカワユイのにSクラスとか……Fにきてくれー」

「ハイハーイ! 気持ちは分かるけど静かにネ!」

 ルー先生の言葉が校庭中に届くが、それを遮って2年生から声が飛ぶ。

「が、学長、質問がありまーす!」

「あれは……福本くんか」

 いい話は聞かないが、と巴は男子生徒に注意を向ける。

「全校の前で大胆なやつじゃのう。言うてみぃ」

「是非、3サイズと、彼氏の有無を……!」

 そう言った猿のような顔をした生徒に鞭が飛んだ。2-F担任、小島梅子の愛の鞭であった。

「全校の前でこの俗物が―っ! 皆、私の教え子がすまん」

「アホかい! ……まぁ確かに3サイズは、気になるが」

 鉄心の言葉に転入生は顔を赤くし、孫娘は悪態をついた。

「……ええっ」

「おいジジイ死ね!」

「総代、真面目にやってくださイ!」

 すまんすまん、と言いながら学長はマイクを持ち直す。

「葉桜清楚、という英雄の名を聞いた事がなかろう皆」

「これについては、私から説明します」

 清楚が説明したのは、他の3人と違って自分にすら誰のクローンか教えてもらっておらず、25歳になったら教えてもらえる、それまでは学問に打ち込むように言われているという、巴が聞いた事のある事情だった。

「私は本を読むのが好きなんです……だから、清少納言あたりのクローンだといいと思ってます」

「まあ俺は違うと思うけどね……」

 清楚の言葉を受けて呟いた巴の言葉を彦一が耳ざとく聞きつける。

「ほう、葉桜くんの正体について、相馬は目星がついているのか?」

「目星なんてものはついてないけど、あの子あれで結構武闘派だよ」

 この言葉に彦一は思わず目を見開いた。

「なんと……人は見かけによらないものだな」

 他愛ない会話をしている間に、紹介は進んでいく。

 義経、弁慶、与一の3人は2‐Sに入るらしい。弁慶が登場したときは男子のほぼ全員が野太い声を上げていた。挨拶を終えた壇上では義経と弁慶が並んで立っている。

「挨拶できたぞ、弁慶!」

「義経、まだマイク入っている」

「……しきりに、反省する」

「ごくごく……ぷはー! しょげてる主を肴に飲む川神水もおいしー!」

 主従漫才をやっているようだった。

 思いっきり酒飲んでるじゃないか! という突っ込みの声も聞こえたが、それについては飲んでいるのがノンアルコールの川神水であること、弁慶は好きな時に飲んでいい代わりテストで学年4位以下になったら退学になることも伝えられた。

 そして与一の紹介の番になったのだが、本人がいない。巴が気を探ると、まだ屋上にいた。

「挨拶は損しないからやった方がいいとは言ったんだがなあ」

 まあいいや関係ないし、と思いつつ巴が視線を義経に戻すと、与一の主人は深々と頭を下げていた。

「与一がいない件は義経が謝る。だからみんな、与一のことを悪く思わないでやって欲しい」

 なんというか、気の毒だった。巴はひきずって連れて来てやろうかとも思ったが、屋上に複数の気配が乗り込んだことを確認するとやめた。面倒くさがりで、薄情な男だった。

 そして1年生の紹介に入る。残り2名とは一体誰なんだ、と思っていると、校門から大量に九鬼の従者たちが入ってくる。

 交響楽団のオーケストラをバックに彼らが自分達の体で橋をかけたかと思うと、その上を高笑いしながら歩く小さな影が一つ。

 壇上に上がると、小さな影は手に持った扇を生徒たちに示しながらこう宣言した。

「我、顕現である! フハハハハ!」

「……紋様じゃん」

 九鬼家次女、九鬼紋白であった。額に十字傷を持ち、白銀に輝く髪を天真爛漫に日光の元にさらす可愛らしい少女である。巴は何度か姿だけは見かけたことがあった。

 だが、巴の関心はすでに紋白からは外れている。その後ろにいた最強執事のせいだった。

「皆さんよろしく。ヒューム・ヘルシングです」

 そう自己紹介をしたかと思うと、ヒュームは百代の近くに行って何事かを呟いた。

 それから巴の元にも一瞬で現れる。その喉元に巴は気で創った刃を向けた。

「いきなり後ろに来ないで下さいよ。1‐Sのヘルシングくん」

「ククク。お前はちゃんと備えていたな。失礼しました。相馬先輩」

 巴は先輩という響きに背筋が凍るような思いをした。

 ヒュームが戻った後、従者部隊三番のクラウディオ・ネエロがマイクを持ち、紋白の護衛と武士道プランの調整のため執事たちが学校に出入りするが仲良くしてほしい、との旨を伝えた。

 波乱の全校集会は終わり、各生徒は整列して各自の教室に戻っていった。

 

 

 

 3‐S。

 教室内はすっかり色めき立っていた。それもそのはず、受験期の殺気立った雰囲気漂う教室に一輪の花が咲いたからである。

「朝礼でも挨拶しましたけど、改めまして葉桜清楚ですっ。短い間ですがよろしくお願いしますね」

「うおおおおっ! 文学美少女キターーーーー!」

「我ら3-Sにもついに花が……っ!」

 いーや旭さんの方が花だね、と謎の対抗心を内心持ちつつ、巴は転校生に目線を向ける。

「あはは……まあ得体の知れない者ですが……」

 テンションの高い教室に対し半笑いで自虐を見せる清楚に、クラスを代表して彦一が近づく。

「同じクラスになる京極彦一だ。我々は君の正体が誰であろうが気にすることはない。あまり自意識過剰になりすぎないことだ」

 酷い言い草だと巴は思ったが、清楚は感じるものがあったらしく良い笑顔で彦一の言葉に応じた。

「……うん。ありがとう、京極くん」

 柔らかく微笑む清楚に、また一段とクラスが沸き立った。

 さて、これでお終い……とはならず。

 転入生は教壇から知った顔、つまり巴が見えたので近づいて来た。

「あっ、久しぶり相馬くん! 腕と肋骨大丈夫だった?」

 巴はヒクと頬を震わせた。もちろん苦笑いのためである。クラスメイト達からは、また相馬の知り合いの女かよ、最近女に囲まれすぎだろという不穏な空気が漂い始めた。

「ほう。葉桜くんは相馬が腕を骨折していたことを知っているのか」

「うん。だって私が怪我させちゃったし」

「なっ、なんだってっ!?」

「まさかこの読書好き美少女までとなりの武神サマみたいだと言うのかっ……!?」

 級友たちからは驚愕の声が上がり、彦一は元々細めな目を丸くさせた。それから愉悦に満ちた声で友人に語りかける。

「……ほう。相馬、梯子から落ちたと言っていたが」

「うるさいな、女子に折られたなんて恥ずかしくて言えないに決まってるだろ」

 巴は思わず顔を逸らす。こういう話題で正直になってしまうところが、この男のクラスにおける位置付けを決めていた。要はいじられ役である。

 清楚はそんな巴と、クラスが朗らかな笑いに包まれた様子を見てクスクスと笑っていた。

 場が温まったところで、旭が控えめに手を上げてあることを提案する。

「では、転入生歓迎会でもやりましょう。今日は皆放課後暇かしら?」

 口々に賛成を3-Sの面々が表明する中、清楚は恐縮したように顔の前で手を振る。

「いやいや、そこまでしてもらうことないよ……えっと」

「最上旭よ。旭でいいわ、清楚」

「じゃあ、アキちゃん」

「ふふ。清楚も放課後はお暇かしら?」

「私は大丈夫だけど……」

「じゃあ決まりね。巴、買い出し班の指揮よろしく」

「了解了解」

 忠犬が返事をしたところでホームルームは終わった。

 

 そして放課後。

「おう野郎共! 買い出し行くぞ! 財布は俺持ち!」

「オーエスッ!」

 四人ほどを引き連れ、裃姿の男は教室を意気揚々と出て表のコンビニへ向かった。

 ものの10分ほどで買い出しを終え、戻ってくると机が教室の中央と端に寄せられていた。そして教卓前に用意された、主役用に連結させてある椅子では……

「うへへ。アキちゃんも清楚ちゃんも、もちょっとこっちに寄らんかうへへ」

「ちょっ、モモちゃんそんなとこ触っちゃダメッ」

「百代。あんまり調子に乗ると学長が来るわよ」

 武神がキャバクラにいるようなセクハラ親父になっていた。

「んー美少女に囲まれるの真剣サイコー……お、相馬! ジュースくれジュース!」

 巴はクラスメイト達に目を向ける。ほぼ全員が一斉に目を逸らした。買い出し帰りの男に視線を向けたままだった数少ない人間たちの目も、武神には勝てなかったよと雄弁に語っていた。

「……じゃ、コップ回してくれ」

 何を言っても無駄そうだと判断した男は、バーベキューの時に使うようなプラスチックのコップを袋から取り出して回させて行く。

 黒、薄緑、透明、黄色といった色とりどりの色をした液体が入ったカップを皆が手に持ったところで、旭が音頭を取る。

「では、シンプルだけれど私たちのクラスに清楚が加わったことに」

 旭が杯を掲げると、乾杯という声が教室を満たした。

 話題はもちろん清楚のことが中心だった。孤島で自然に囲まれて過ごしたこと、義経たちとは少し違うカリキュラムで育てられたこと、詩集を好んで読むことなど、清楚の口から語られるエピソードの数々に、クラスの男子と百代はメロメロ度を上げていた。

(まあ、ちょっと突き飛ばしただけで俺の腕へし折ったくらい少なくとも腕力はある人なんだけどね……)

 と巴は思いつつ、ジュースをグッと飲み干した。

 

 

 

 宴もたけなわ、というところで夕日の差して来た3年生の教室に大きな影が一つ乱入してきた。

「清楚、時間だ。今日は引き上げるぞ」

「もうそんな時間ですか……うう、みんなのお話もっと聞きたいけど……」

 ヒュームが門限を告げにきたのである。清楚は大人しく椅子から立ち上がり、腰を折って深々と挨拶した。

「皆さん、今日は私のために歓迎会を開いてくださりありがとうございました。これからよろしくねっ」

 にぱっと無邪気な笑顔をしたところで、葉桜清楚は無事3-Sの仲間になった。

 

 

 後片付けの最中、百代が巴に話しかけてくる。

「なあ、相馬。これ持って帰っていいか?」

「いいけど……うわっ」

 返答しようとした男と肩を組むようにして、女はささやき声で会話を始める。

「……清楚ちゃんがお前の腕折ったってほんとか?」

「ほんと。とんでもなく強いよ、葉桜さんは」

「お前が言うなら多分間違いないんだろ。あの清楚ちゃんがね……」

 武神が悪魔のような獣のような笑みを浮かべ、手付かずだったスナック菓子の袋を持ち帰ったところで、歓迎会は終了した。

 

 

 

「相馬、いい加減川神院に来いよー。土曜か日曜とかさー」

「まあそのうち行ってやるよ」

「お、初めてっぽい好感触……真剣?」

「真剣真剣。ちょいと殻を破る必要が出て来たんでね。学長の許可さえ降りれば」

 後日、安請け合いを後悔することになったり……ならなかったり。

 

 

 

 何はともあれ、川神学園における武士道プランが開始されたのであった。

 

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