艦隊これくしょん ストレンジリアル軍艦艦娘転生海戦譜 Season1   作:岩波命自

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第一三話 攻撃開始

 時刻は一〇時になろうとしていた。

 潜水艦の襲撃と空襲を凌ぎ、前進を続ける第一水上打撃群の前方を大和から発艦した瑞雲隊が索敵網を広げ、敵機動部隊の在処を探っていた。

 日が高くなり、南方海域特有の気温の暑さが高まる。

「空襲が来ないな……」

 訝しむ様に武蔵が呟く。敵機動部隊は三群もいるから、波状攻撃を仕掛けて来てもおかしくはない。にも拘らず、最初の空襲以降敵艦載機が飛来する事は無い。瑞雲隊から敵艦載機群を確認と言う報告すら入らず、第一水上打撃群は今のところ大した抵抗を受ける事無く前進を続けられていた。

 武蔵だけでなく、大和、長門、陸奥、タナガー、赤城の五人も妙にその動向が静かな敵機動部隊に疑念を持っていた。何かの罠では無いだろうか、とすら思えて来る。

 一同が疑念にかられながらも、ポイント5-5Kへ前進を続けていると最も対空捜索範囲の広いレーダーを備えているタナガーのレーダーに、深海艦載機の機影が映った。

「タナガーより全艦へ、バンディットコンタクト。一時方向上方。機数二機」

「……偵察機かしら?」

 攻撃隊にしては余りにも数が少ない。敵機動部隊から送られて来た偵察機の可能性が高い。第一水上打撃群の上空に居座って触接を維持されたら、敵機動部隊が放って来るかもしれない第二次攻撃隊に道案内される可能性が高い。

「大和よ、どうする?」

 対応を聞いて来る武蔵に大和は水上機カタパルトを備えた自身の航空艤装を展開しながら答えた。

「撃墜するわ。触接されて敵の第二次攻撃隊を誘導されたら厄介よ。瑞雲隊、制空戦闘部隊発艦始め」

 ちりんちりんとベルが鳴る中、格納庫から引き出され航空機用エレベーターで航空甲板へと瑞雲改二を載せた台車が上げられてくる。航空甲板へとエレベーターが達すると、瑞雲改二を載せた台車がレールの上を航空装備妖精達の手で押されながらカタパルトへと移動していく。装備妖精達の掛け声と共に押される台車の重々しい車輪の音が響き、カタパルトの後端に付くと瑞雲を載せた台車をカタパルトへと押し出してセットする。

 エンジンが始動させられ、回転数が上がっていく発動機の小気味の良い音が響き、出力テストの為のパワーアップとパワーダウンの二種類のエンジン音が周囲に鳴り渡る。フラップ、ラダー、各種昇降舵のテストが行われると、甲板上の装備妖精が異状なしと親指をコックピットの航空妖精に送る。

 発艦用意の掛け声が飛び交い、甲板上の装備妖精が四方に散って瑞雲改二の発艦の邪魔にならないよう退避する。それを確認した発艦士官の装備妖精が出力上げのハンドサインを瑞雲改二の操縦席に座る航空妖精に送る。航空妖精がスロットルレバーを押し込んで出力を上げると、発艦士官妖精は艦首方向を見て、波間を踏み越える度にピッチングする大和の上下運動から発艦のタイミングを見計らう。

 今だ、と前方の波と大和の揺れのタイミングを掴んだ発艦士官妖精が旗を振り下ろすと、機械の作動音と圧搾空気の噴出音が立ち、瑞雲改二が右舷カタパルトから射出された。同時に左舷カタパルトからも瑞雲改二が射出され、対空戦装備の二機の瑞雲が深海偵察機と見られる機影へのインターセプトへと上がっていく。発動機の音を空に鳴らしながら空を掴んで昇って行く瑞雲改二二機は爆装をしていない分、その挙動は身軽さそのものだった。

 瑞雲二機の機影を見送っていたタナガーが目を離して水上警戒に戻った時、航空支援艦隊から緊急電が入った。

 

≪加賀より第一水上打撃群へ。ワレ、敵機動部隊の深海艦載機群の空襲を受く。航空支援艦隊全艦、対空戦闘攻撃始め!≫

 

 ヘッドセットから旗艦加賀から普段と違う低い声に焦りを滲ませた報告が六人の耳に入る。

「青葉さん……」

 タナガーの脳裏を初陣で共に戦った朗らかな性格の重巡艦娘の顔がふと過る。自分の様な対空戦闘能力が無い航空支援艦隊だ、何隻かやられるのではないか、そんな前世の記憶に裏打ちされた悪夢の様な不安が彼女の胸の中で一気に膨れ上がる。

「大丈夫ですよタナガーさん」

 背後から心配はないと赤城が断言する様に言う。不安顔を振り向けるタナガーに赤城はいつものように微笑を湛えて、だが言葉は絶大な信頼を寄せた自信を含ませた口調で答えた。

「加賀さんや、五航戦のお二人、青葉さん、それに防空戦闘では日本艦隊でも屈指の腕利きの秋月さんと照月さんのお二人が居ます。彼女達なら凌げますよ」

 

「対空戦闘用意!」

 対空戦闘部署発令と戦闘用意の号令を発令する青葉は航空支援艦隊の先頭を切る前衛艦であった。青葉に続航する加賀、翔鶴、瑞鶴の左右を秋月と照月が硬め、各自高角砲、機銃の仰角を取って空を睨ませていた。

 不気味な飛行音を鳴り響かせて接近する深海艦載機群の数は約一〇〇機。既に加賀達から防空隊が発艦して制空戦闘を開始していた。

 頭上で銃撃音とエンジンの咆哮する音が殷々と響き、飛び交う銃火が互いの機体を絡め取ろうとしなる鞭の様に振り回される。やや発射レートの遅い紫電改四の機銃の発射音とは対照的に、深海棲艦の戦闘機の機銃は発射レートが速いので聞き分けが可能だ。

 不定期に被弾する音が鳴り、黒煙を引きながら、或いは爆散した機体の残骸が火と煙を吹きながら眼下の海上へと落下していく。確認出来る限りでは、落ちて行く機体は深海艦載機が圧倒的に多かった。

 三〇機程の防空隊に対して深海艦載機群は物量を持って突破を図るが、熟達した航空妖精が駆る紫電改四はよくよくその進行を食い止めていた。護衛の戦闘機に構う事無く、片っ端から艦爆、艦攻ヘ二機一組の攻撃と援護のペアを組んだ編隊を維持し、銃弾を浴びせる紫電改四の射撃は吸い込まれる様に艦爆、艦攻を捉え、制御不能になった機体が次々に脱落していく。

 護衛戦闘機隊も紫電改四を迎撃するが、練度では圧倒的に優れる紫電改四が護衛戦闘機隊の迎撃の銃火をバレルロールやスライドで巧みにかわして、お返しだと一撃を叩きこんで返り討ちにしていく。

 防空隊の活躍もあって多数の攻撃機が撃墜された深海艦載機群だったが、それでも防空隊を突破した艦載機が航空支援艦隊へと接近する。

 最前衛を担う青葉の主砲が仰角を最大にとり、砲身と砲口が迫り来る艦載機群へと指向される。砲身内部には対空弾である三式弾改二が既に装填されており、砲塔内や射撃指揮所では装備妖精が青葉自身の発射号令を待っていた。

「目標射程に入った」

 左肩に立つ見張り員妖精が青葉に向かって叫ぶと、青葉は右肩に担ぐ主砲艤装のフォアグリップを握る左手の指を発射ボタンに移し、射撃号令を下した。

「主砲、右対空戦闘。撃ちー方始めー! 発砲!」

 号令が青葉の口から飛び出た直後、彼女の二〇・三センチ二号砲の砲口から火焔と砲煙が噴出し、上向きの砲身がぐっと後退した。

 宙を飛翔して行く三式弾改二は従来の時限信管だった三式弾と違って新型の近接信管である分、適切なタイミングと位置で起爆し、深海艦載機群に損害を与える事が出来た。ドップラー周波数が弾頭に仕込まれたレーダーから放たれ、深海艦載機群に当たって帰って来た波長を確認した弾頭が最適な距離で信管に起爆信号を送る。炸裂音と共に三式弾改二が無数の散弾をシャワーの様に深海艦載機群に浴びせ、先頭集団を形成していた四機の深海棲艦爆MkⅢが音速を超える勢いで飛来した散弾を浴びて、機体をずたずたに切り裂かれる。

 青葉から放たれた六発の三式弾改二が四機の艦爆を粉みじんに砕いて、空の欠片へと変える間に、防空隊を突破した他の艦爆、艦攻がバラバラな小規模な編隊を組んで攻撃ポジションを目指す。

 しかし、次に深海艦載機群を待ちうけていたのは、日本艦隊屈指の対空戦闘のスペシャリストである秋月型駆逐艦娘の秋月と照月の対空射撃だった。

「照月、左翼はお願い。六一駆、対空戦闘用意!」

「了解、秋月姉」

 二人の艤装にセットされた長一〇センチ高角砲二基が砲身の鎌首を持ち上げ、接近する深海艦載機群に砲口を向ける。揚弾機が即座に対空弾を砲身内部へ送り込み、左右各一基の長一〇センチ高角砲から撃ち方用意良しのブザーが鳴る。

「照月は左翼から来るトラック2713から2720をお願い。私はトラック2701から2712に対処するわ」

 妹に指示を出しながら、秋月は自分が担当する一一機の敵機に目を向ける。照月に任せたのは全て艦上攻撃機である深海棲艦攻MkⅢだ。七機くらいの艦攻なら妹の技量でも余裕である。照月の技量を疑う訳では無いが、数の多い方を妹に任せるのは秋月型の長女としての立場的にも秋月には出来ない話だ。

「トラック2701、主砲、撃ちー方始めー! 発砲」

 射撃号令と対空射撃の火蓋を最初に切ったのも秋月だった。弾頭に近接信管を仕込んだ対空弾が空へと撃ち上げられ、高高度から急降下爆撃を意図して接近を試みる艦爆に対して、弾幕を撃ち上げる。秋月型の長一〇センチ高角砲の連射速度は毎分一五発。四秒に一発の間隔で対空砲弾を放つ事が出来る。高初速の長一〇センチ高角砲から撃ち出される対空弾が深海艦載機群に届くまでほんの数秒の事だった。

 青葉の三式弾改二と弾頭の構造は同じだが、起爆時にばら撒かれる散弾の数は秋月型の長一〇センチ高角砲の方が少ない。その代わり分間当たりの投射量は青葉の主砲を遥かに凌駕していた。速射性に優れる秋月の対空射撃は三射目で艦爆一機を捉えた。時限信管の対空弾と違い、無駄に爆発する対空弾が無い分、爆破閃光が走ったと言う事は敵機の至近距離に対空弾を送り込めたと同義だった。

 至近距離で爆発した対空弾の散弾を浴びた深海棲艦爆MkⅢが機体表面に無数の破孔を開けられて、制御不能に陥ってそのまま高度を急激に落としていった。急降下爆撃でも無く、死のダイブをする艦爆が引き起こしをかける事は一切なく、そのまま海面へ激突してバラバラに砕け散った。

 秋月の砲撃開始に遅れて照月も仰角を浅めにとった長一〇センチ高角砲の砲撃の火蓋を切る。低空へと舞い降りる艦攻に対して照月からの対空射撃が飛来し、作動した近接信管が艦攻の機体を引き裂いた。大鉈で薙いだ様に散弾で切り裂かれた艦攻が姿勢を立て直す間もなく海面に突っ込み、水柱を突き上げる。

 六一駆の二人がそれぞれ一機撃墜の戦果を挙げている間に、青葉の担当する方向からは八機の艦攻が迫って来ていた。相対的に見て秋月型よりも対空戦闘能力の低い重巡艦娘の方から突っ込むのが難易度が低いと判断したのだろうが、その判断に対して青葉の対空射撃が早々に二機に直撃弾と言う形で誤りであると答えを突きつけた。

 主砲の斉射で二機の艦攻が爆散し、残る機体に対して二五ミリ連装、三連装機銃の弾幕が浴びせられる。ほぼ平射となる機銃の射撃は、シャワーの如く深海棲艦攻MkⅢを包み込んだ。間断なく浴びせられる機銃弾の弾幕を前に一機、また一機と艦攻が脱落していく。想像以上の対空砲火の厚さにこれは無理だと判断したのか、残る艦攻が魚雷を遠距離から投下して身軽になった機体を緩やかに旋回させながら離脱に入る。

「撃ち方止め!」

 機銃座に射撃止めを命じた青葉が投下された魚雷の航跡を見つめて、予測進路を予想する。あれは当たらない、と即分かった青葉の予想通り、白い航跡が航空支援艦隊の左右両側十数メートル先を通り過ぎて行く。

 対空射撃の手を止めた青葉と違って、秋月と照月は引き続き射撃中だった。二人がそれぞれ受け持った敵機の内、既に半数は砕け散るか、制御を失って海面に突っ込んで果てていたが、残る半数は怯む事無く突撃を続ける。

 秋月が五機目を撃墜し、一機を損傷離脱させた頃、残る艦爆五機が横一列に並んで急降下爆撃を開始した。日本艦娘艦隊の取る縦一列に並んでの急降下爆撃と違い、投下する爆弾の数で勝負する深海棲艦の急降下爆撃は横一列で投下すると言う関係上、回避がやや困難と言う厄介さがあった。

 急降下爆撃に転じる深海棲艦爆に秋月は休む事無く撃ち続けた。既に急降下に転じようと突入進路を逸らせられればこちらの勝利だ。当たらない爆弾は脅威ではない。

 秋月の艤装の二五ミリ三連装機銃、一二センチ三〇連装対空噴進砲までもが弾幕を張り始める。噴進砲は無誘導の対空ロケット弾だが面制圧能力と航空機側への心理的プレッシャーは高い。一機が噴進砲のロケット弾に機体を抉られ、急降下が死のダイブへと変わる。距離が近まるにつれて密度が増す高角砲から機銃、噴進砲の三種の弾幕は更に二機の艦爆を空の欠片へと変え、残る二機は及び腰な高度から爆弾を投下した。

 空気を切り裂く甲高い音を立てながら二発の爆弾が落下して来る。一発は秋月の右側面に着弾して水柱を高々と突き上げ、もう一発は瑞鶴の左側面一〇メートル先に着弾して無為な水柱を立てた。

 艦攻を半分に撃ち減らしていた照月は更に一機を屠り、残る機体は一か八かの遠距離から魚雷を海中へ投じて、手を伸ばす照月の対空砲から逃れようと機体をブレイクさせた。艦攻を睨んでいた照月の視線が、海中を疾駆する二本の雷跡に移る。航空支援艦隊の左側面から二本の魚雷が白い航跡を引きながら六人の足元へと迫る。

「左九〇度より雷跡二!」

「全艦、前進一杯!」

 加賀から五人に前進一杯の命令が飛ぶ。遠距離からの雷撃なら舵を切らずとも最大速度で振り切れば射線から逃れられる。

 六人の足元で機関出力が高まる重低音が響き、それぞれの踵から白波と長い航跡が後方へと流れていく。あとに残される白い泡ぶくの塊で出来た航跡と交差する様に二本の魚雷の航跡がすれ違い、航空支援艦隊の後背を音も無く通り過ぎて行った。

 それで空襲は終わりだった。残る深海艦載機群は紫電改四によって撃退され、攻撃ポジションに入る事が出来た機体は三分の一にも満たない。兵装を投棄した艦爆や艦攻、或いは対空砲火から生き延びた艦爆や艦攻が遠方の空で残存護衛機と合流して、母艦への帰路に着いた。

「各艦被害報告」

 ヘッドセットに手を伸ばして通知スイッチを押した加賀が自分以外の五人の損害の確認を取る。即座に青葉、秋月、照月、翔鶴、瑞鶴から異常なし、の返事が返される。至近弾の破片ダメージも無い、完勝だった。普段感情の起伏に薄い加賀の顔にうっすらと満足げな笑みが浮かぶ。

 ぱっぱと制服に付いた硝煙の煤を払い落としながら青葉は遠くに展開する第一水上打撃群に思いを馳せていた。

「後は頼みましたよ、大和さん、タナガーさん」

 

 

≪ヤンキー1-4より大和。ワレ敵機動部隊との触接に成功。敵艦隊、空母複数隻を中心とした輪形陣三つを確認。現在位置は……≫

 大和艦載機の瑞雲の一機が深海棲艦の空母機動部隊との触接に成功したと報告を寄こしてくる。ポイント5-5Kに到達した様だ。コールサインヤンキー1-4から送られて来た現在地と第一水上打撃群の現在地を照らし合わせた大和は、会敵まで一五分とない距離である事に驚いた。片手に持つ戦術タブレット端末には「Next15」の文字が表示されている。

「旗艦大和より各艦信号。敵機動部隊との会敵まであと一五分。全艦戦闘配置、通信管制維持。対空警戒引き続き厳に!」

 後続の武蔵以下五人へ発光信号を打つよう命じる大和に直ちに装備妖精が探照灯を操作して、武蔵、長門、陸奥、タナガー、赤城へ発光信号で指示を伝達する。

「了解、旗艦に応答信号」

 大和からの発光信号とその内容を確認したタナガーは装備妖精に応答信号を返すよう指示しながら、後続の赤城にも伝達信号を送る。

 単縦陣を組んで前進を続ける第一水上打撃群の視界には今のところ敵艦の姿は見えない。水平線上に発砲炎が雷の稲光の様に瞬く事も無い。だが一五分走れば空母ヲ級改flagship級を中核とする三群の空母機動部隊が展開しているポイント5-5Kに到達できる所にタナガー達はいた。

「空母ヲ級か……」

 敵艦隊の主力艦の名を呟きながら、識別表で見た敵艦の艦影をタナガーは脳裏でイメージしていた。前回のナイトランナー作戦の撤退時に大峰を撃破し、衣笠と古鷹の二人に手傷を負わせたのもヲ級の艦載機だ。あの時とは違う個体ではあるが、タナガーにとってはその手で首をねじり切ってやりたい程積もる恨みもある相手艦種だ。戦艦の艦砲で直に空母を蹂躙してやれると言う事にタナガーの手が武者震いと興奮で震え始める。

 前世では航空機によって撃沈された自分が、現世では航空機を主兵装とする空母を一撃出来ると言うのは誠に痛快な話だ。前世で味わった苦杯と共に海の底へ葬ってやる。ギラギラとした復讐に燃えた目つきでタナガーは水平線の彼方を見つめていた。

 

 

 ヤンキー1-4こと瑞雲一機に触接は、他のエリアへ進出していた瑞雲が進路を変更してヤンキー1-4の援護に入った為、四機の瑞雲によって確実なる触接が成功した。上空を飛ぶ水上爆撃機の機影に深海棲艦は気が付いている様だったが、逃げる素振りは見せない。

「おい、あれを見ろ」

 触接を行う瑞雲の一機、ヤンキー2-2の後席に座る航空妖精が操縦席に座る航空妖精に一方を見るよう促す。

 二人が見る先には、航空支援艦隊に対する航空攻撃を行って帰投して来た攻撃隊の影が見えた。

「タイミングがいいぞ、敵機の収容作業中の無防備な所を第一水上打撃群は狩りに移行できる。僚機と第一水上打撃群にも伝達しろ」

「了解だ」

 後席員が早速信号灯を取り出して僚機、ヤンキー1-4、ヤンキー2-1、ヤンキー3-3へ帰投中の攻撃隊発見の発光信号を送る。信号を確認したヤンキー2-1の後席員が打鍵を叩き、第一水上打撃群へ敵機動部隊の状況を伝達した。

 

「艦載機収容中?」

 その報に大和は不敵な笑みを浮かべた。最も空母が無防備な状態だ。無論随伴艦艇は応戦して来るだろうが、戦艦五隻と言う圧倒的火力を前にどうにか出来る随伴艦艇では無い。何とか勝負になりそうなのは二隻のネ級elite級だが、それでも殆どの戦艦艦娘が改二化されている第一水上打撃群の大火力を前に非力気味と言わざるを得ない。

 その時、大和の二一号対空電探が空母機動部隊へ帰投中の深海艦載機群の機影を捕捉した。目視では確認出来ない長距離、空の彼方にいる敵機の機影を電波の眼が捉えていた。大和の艤装内部に設けられた電探室でレーダースコープを覗き込む電探妖精が補足できた機影を数える。瑞雲隊が確認した攻撃隊と同数だ。

「敵機動部隊が艦載機収容中の無防備な状態を襲撃します。全艦、最大戦速! 武蔵、長門、陸奥は随伴艦艇を攻撃、大和とタナガーは敵空母を攻撃します」

「了解」

 唱和した返事が返される中、タナガーは一人両腕の拳を合わせて指をぽきぽきと鳴らして、自身の主砲を発射する時に備えていた。

 水平線上に敵機動部隊の姿を捉える前に、敵艦隊の姿を捉えたのはタナガーに備えられた高出力かつ広範囲にわたって捜索可能なSK+SGレーダーだった。彼女の艤装内部に設けられたCICでレーダースコープを覗き込む電探妖精がレーダーに映るブリップを見て、敵艦隊探知の報告を上げる。

「レーダー探知、089度、距離二二〇〇。速度二四ノット。目標群アルファと認定。進路、速度変わらず」

「空母赤城、戦列を離脱します」

 砲戦は出来ず、艦載機による航空攻撃も出来ない赤城が第一水上打撃群の戦列から離れ、戦闘エリア外へと退避を開始する。一方、大和とタナガーの主砲は丁度帰投して来たばかりの艦載機の収容作業中のヲ級改flagship級やヌ級flagship級へと向けられ、武蔵、長門、陸奥の主砲は第一水上打撃群の接近を察知した護衛艦隊に向けられていた。

 彼我の距離が詰められていくにつれ、水平線上に被り物を被っている様な長身のヲ級の艦影と、長砲身の主砲を備えた艤装を構えるネ級elite級の艦影が見え始める。艦載機の収容作業中だったヲ級とヌ級は収容作業を一時中断し、退避に入ろうとするが、最大戦速で突入して来る第一水上打撃群からは既に逃れられない距離にいた。

 空母の周囲にいたネ級やツ級と言った巡洋艦級や駆逐艦ハ級後期型と言った駆逐艦が応戦に出るか、盾に徹するかの二つに分かれる中、第一水上打撃群も空母を攻撃する大和とタナガー、随伴艦艇を攻撃する武蔵と長門、陸奥の二手に分かれた。分離した武蔵以下三人が隊列も艦種もばらばらな深海棲艦の護衛艦艇へと進路を取る中、大和とタナガーの二人は遁走に移るヲ級とヌ級へ向けて突撃していた。

「全艦、水上戦闘用意! 水上戦闘、正面砲戦!」

 大和の号令が下るや、彼女と続航するタナガーの主砲が前方のヲ級とヌ級へ向けられる。大和の五一センチ三連装砲とタナガーの一六インチ三連装砲が仰角を取り、砲身内部へ徹甲弾と装薬を装填する。

「主砲、撃ちー方始めー! 発砲、てぇっ!」

 砲撃開始を発令した大和の艤装上で五一センチの発砲音と巨大な発射炎が瞬く。二基の三連装五一センチ主砲から一式徹甲弾改が何百ジュールにも及ぶ爆発の力によって砲身から叩き出され、狙いを定めたヲ級へと弾道を伸ばしていく。

「Commence Firing!」

 同様に攻撃開始を発令するタナガーの艤装上で三基の一六インチ三連装主砲の砲口から砲煙と火炎が迸り、大和のそれより一回り小さいが充分に大きな発砲音が海上に響き渡る。アメリカ戦艦艦娘艦隊でも多用されているSHSが砲口から撃ち出され、轟音を空中に鳴らしながらタナガーが目標としたヲ級へと飛翔して行く。

 二人の初弾はそれぞれ外れた。大和の砲弾はヲ級の後方に着弾し、逆にタナガーの砲弾はヲ級を飛び越してその前面に着弾していた。

 

 遁走を図るヲ級とヌ級の機動は一直線であり、左右に蛇行している訳では無かった。蛇行せずに単調な軌道を描いている分、砲撃そのものは当てやすい方だがヲ級の船足は大和よりやや勝る分、全速力で逃げられると徐々に間を開けられてしまう。ヌ級の速度は大和と同じくらいなので引き離れないで済む。アイオワ級戦艦艦娘と殆どが同じ艤装であるタナガーはスピードに勝る利点がある。

 そこに着目した大和の判断は早かった。

 

「旗艦大和は軽空母ヌ級を攻撃します。タナガーさんはその快足を生かしてヲ級を攻撃して下さい」

「了解です」

 速度の差を無理に全速発揮で埋めようとして結果燃料を悪戯に消耗し過ぎてガス欠になっては元も子もない。低速艦であるヌ級へ攻撃の手を切り替える大和に対して、足の速いヲ級を同じく高速艦であるタナガーが追撃に移る。

「第一目標、ヲ級改flagship級。主砲、撃ちー方始めー!」

 一時止んでいた一六インチ主砲の発砲音が再度響き渡る。照準を修正した三連装主砲三基から放たれたSHSが弾道を描いてヲ級の頭上から襲い掛かる。暴走列車が迫るかの様な轟音を立てて降り注いだSHSがヲ級の右側面にまとまって着弾し、突き上がる水柱と衝撃波のあおりを受けたヲ級の艦体が左側へと仰け反る。

 交互撃ち方に切り替えていたタナガーから殆ど間を置かずに次弾が放たれる。三基の主砲の中砲が発砲し、三発の砲弾が轟音に等しい飛翔音を立てながらヲ級改へと降り注ぐ。再度右側面に二発が着弾し、一発が挟み込む様に左側面に着弾する。手を伸ばしても届かない所だが、レーダーでしっかりと捕捉を維持出来ているヲ級改にレーダーで得た照準補正が主砲へと送られる。

 早くも挟叉から斉射へ移行したタナガーの一六インチ主砲九門から紅蓮の炎が噴き出し、真っ赤に焼けたSHSが砲身から放たれてヲ級改へと飛翔して行く。必死に遁走を図るヲ級改の背中から追いすがる様にソニックブームを放ちながら迫った一六インチSHS九発が纏まって着弾する。挟叉からの斉射だった割には一発も当たらなかったが、ヲ級改の行く手を阻む様に九発のSHSが同艦の目の前に水柱のカーテンを作り出す。

 目の前の水柱のカーテンに突っ込んで、その分厚い海水の壁によろけるヲ級改を見据えながらタナガーは落ち着いて主砲の再装填を行い、諸元を微調整する。砲塔内で砲術妖精が各種機器の操作を行う中、弾薬庫から揚弾されてきたSHSがラマーで押し込まれた後に装薬の薬嚢を同じくラマーが砲身内へ押し込む。

 発射用意良しのブザーが三回鳴り響き、タナガーの肩にいる見張り員妖精が耳を抑え、口を開けて衝撃に備える。

「てぇっ!」

 斉射を放つタナガーの全身に自身の主砲発砲の衝撃が伝わる。鼻から口に駆けて抜ける衝撃とじんと痺れるような勢いが顔を張り叩く。右側の第一、第二主砲と左側の第三主砲が砲口から火焔を迸らせ、真っ黒な砲煙へと火炎が姿を変える。砲口から轟音と共に叩き出された砲弾が真っ赤に光りながら宙を駆け抜け逃げるヲ級改を、捉えた。

 ヲ級系統に共通したデザインと言える頭の巨大な被り物と本体に四つの直撃弾炸裂の爆破閃光が走り、SHS四発の直撃を受けたヲ級改の艦体がぐらりとたたらを踏む様に揺れた。

「敵空母に直撃弾を確認! 命中四!」

「敵空母、発進口付近に直撃を確認。敵空母発着艦能力を喪失したと認む」

 肩の上で見張り員妖精が弾んだ声を上げる。試射をさほど要さずに有効弾を送り込み、命中弾の初手から敵空母の肝と言える発着艦機能を奪ったのは大きい。だがそれで満足する程タナガーは謙遜では無い。寧ろ貪欲に得物の死を求めた。

「Fire as they bear!(沈むまで撃て!)」

 タナガーと言う艦娘の殺意そのものを示すその台詞に答える様に、再装填が完了した主砲からSHS九発が発砲炎と共に躍り出る。

 被弾箇所から黒煙を上げながらも必死に逃げるヲ級改の艦上で再度爆炎が噴出し、火災の炎と被弾の衝撃が突き飛ばす様にヲ級改を大きく倒す。辛うじて両足で踏み止まったヲ級改だったが、何かに気が付いたかのように上を見やった直後、タナガーの第三斉射の直撃を受けていた被り物の様なヲ級改の航空艤装から艦載機の燃料弾薬に引火した火焔が噴出した。

 第一水上打撃群と航空支援艦隊に攻撃隊をそれぞれ一回送り込んでいた深海棲艦の空母機動部隊は第三次攻撃隊の準備を各艦で進めていた。当然ながら空母各艦の航空艤装内では艦載機に装備する為の燃料弾薬が、弾薬庫や燃料庫から運び出されており、帰還した機体に即時再装備出来る様に航空艤装内部に置いてあった。それは万が一艦娘艦隊の攻撃を受けた場合、それらが一斉に誘爆する可能性を孕んでいた

 その深海棲艦のヲ級改にとっては最悪の、タナガーからすれば好都合な事が惹起したのである。航空艤装内で誘爆が発生し、瞬く間にその炎が航空艤装だけでなくヲ級改そのものを包み込み始める。燃料系に引火したのだろう、激しい炎に包まれるヲ級改は速度を落とし、海上で制止すると紅蓮の炎に焼かれるヲ級改がのた打ち回った。

 そこへタナガーの第四斉射が飛来し、炎に身体を焼かれるヲ級改を苦痛から解き放った。爆沈の爆発炎と黒煙、そして水柱を立ち上げてタナガーから第一目標と定められたヲ級改が血祭りにあげられた。

「第二目標、敵空母ヲ級改flagship級!」

 ヲ級改を一隻撃沈したタナガーの主砲の矛先が同級の二番艦へと向けられる。

 後ろでは大和がヌ級を、別の方では武蔵、長門、陸奥の三人が護衛艦艇と交戦する砲撃の音が聞こえて来る。五一センチと四一センチの巨砲の群れに蹂躙される深海棲艦の空母機動部隊は早くも空母と護衛艦艇が分断され、空母は成す術も無く大和とタナガーの砲弾を浴びた。

 修正射を幾度か重ねた後に大和の放った五一センチ主砲弾がヌ級を捉え、装甲を射抜き、艦内に飛び込んで艦載機の燃料弾薬に火をつけ、直撃のダメージと内側からの誘爆のダメージのダブルパンチでヌ級を爆散させる。

 タナガーの主砲の砲撃も必死に逃げるヲ級改の後背から追いすがる様に水柱を突き立て、砲撃の手が届いたヲ級改の艦体を直撃した一六インチ主砲弾がなぎ倒した。海上に倒れ伏すヲ級改が立ち上がろうとする前に、一六インチ主砲弾が止めの一撃を撃ち込み、海上から海底へヲ級改の残骸を沈めた。

 

 

 

 ヤンキー1-3のコールサインを与えられた大和艦載機の瑞雲一機が海戦の舞台から少し距離があるところで哨戒、警戒の任務に就いていた。

 水平線の向こうで砲声が轟き、爆発音が鳴り響き、空母機動部隊が蹂躙、いや虐殺されている音が聞こえてくる中、ヤンキー1-3の航空妖精は眼下の海上に六本の白い航跡を視認していた。

「なんてこった……」

 操縦席に座る航空妖精が眼下に見える航跡を引くものの正体を確認して、双眼鏡を下ろしながら息を呑む。

「第一水上打撃群に緊急電。ポイント5-5Pより戦艦レ級elite級一、戦艦ル級flagship級二、軽巡ホ級flagship級一、駆逐艦ハ級後期型二からなる艦隊がポイント5-5Kに向け前進中」

 後席員に緊急電を打電する様指示した時、その後席員妖精が空の一方を指さして叫ぶ。

「敵機接近! ブレイク!」

 レ級elite級から発艦した飛び魚艦爆四機が単独飛行中の瑞雲一機へと急速に迫った。戦闘機では無いが、それでも軽快な運動能力と空対空兵装として使用可能な機関砲を備える飛び魚艦爆四機にヤンキー1-3はフルスロットルで離脱に入る。飛び魚艦爆四機からの銃撃をラダーを駆使した横滑りで躱していき、とにかく緊急電を打電する後席員が打電し終えるまで、操縦桿を握る航空妖精は必死に回避運動に務めた。

「打電終わりました!」

 後席員が打鍵を叩き終えて緊急電を打ち終えた事を叫んだ時、ヤンキー1-3の機体を躱しきれなかった銃弾が射抜いた。

 二人の航空妖精の悲鳴が一瞬上がるも、キャノピーの窓ガラスが砕け散る音と共にそれも消え、操縦者と制御を失った瑞雲が眼下の海上へと機首を向け、引き起こす事無くそのまま部品を散らし、火災による黒煙を引きながら死のダイブをしていった。

 




 この第一三話が弊アカウント今年最後の投稿になるか、それとも「この世に生を授かった代償」をもう一話投稿できるか、どうなるかは分かりませんがストレンジリアル軍艦艦娘転生海戦譜は今回で今年の更新は終わりになるかもしれません。
 モチベが続けば……。

 ではまた次回のお話でお会いしましょう。
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