艦隊これくしょん ストレンジリアル軍艦艦娘転生海戦譜 Season1   作:岩波命自

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第一四話 特殊砲撃

「ポイント5-5Pから敵艦隊が前進して来た?」

 その知らせにタナガーは両眼を見開いてその顔に驚きを浮かべた。先のナイトランナー作戦の時と言い、5-5Pの敵艦隊が積極的に打って出て来る事が起きているのは意外な現象であった。本来深海棲艦は展開海域に駐留する部隊はその海域から離れないと言う習性のようなものを備えている。にも拘らず、ポイント5-5Pからタナガー着任以来二群の艦隊が艦娘艦隊追撃と迎撃に出て来ている。

 一体どういう事だろうか、と疑念を頭の中で浮かべながらタナガーは第三目標と定めたヲ級改flagship級に止めの一撃を撃ち込む。彼女に襲われた三隻目のヲ級改は直撃したSHSによって艤装を打ち砕かれ、本体は炎に包み込まれて断末魔の叫びを上げながら海中へと沈降を始める。

「次!」

 残るヲ級改は二隻。全速力で離脱を図る二隻に快速なタナガーも最大戦速で追撃を行う。前方に二隻だけで離脱を試みるヲ級改に視線を向けたタナガーの前で、ヲ級改二隻から艦載機が発艦するのが見えた。収容した艦載機の一部を再武装してタナガー迎撃の為に緊急発艦させたのだろう。

「対空戦闘用意!」

 主砲の照準を第四目標と定めたヲ級改に定めつつ、CIWSをスタンバる。四基のCIWSが起動し、白いサイロの中に仕組まれたレーダーが接近する深海艦載機群に照準を合わせる。目と鼻の先の深海艦載機群に対してCIWSが直ちに反応する。金切声と言うよりは猛牛の唸り声の様な射撃音が艤装上で響き渡り、放たれた赤い曳光弾が高度も速度も不十分な深海艦載機群に銃弾の雨を浴びせた。飛来する赤い鞭の様な曳光弾の飛来を視認できても回避に移行出来るだけの運動エネルギーをまだ有していなかった深海艦載機群は諸にCIWSの二〇ミリ弾を浴びる事となった。

 瞬く間に三分の一の機体がサッと汚れをふき取るかのように撃墜され、砕けた機体の残骸を空に散らす。残る機体は爆装を抱えてタナガーへ接近を試みるが、射撃照準を修正したCIWSが即座に銃口を向けなおしてガトリング機関砲の砲身を回転させて銃弾を撃ち上げる。深海棲艦攻が機体を蜂の巣にされ、機体の原形を失ってバラバラになり、同艦爆が抱いていた爆弾を射抜かれて爆弾諸共空中で火の玉と化して果てる。

 猛烈な射撃音を響かせ続けるCIWSの発砲音をかき消すかの如く、タナガーの主砲が第四目標と定めたヲ級改に向かってSHSを撃ち出す。紅蓮の火焔が主砲の右砲と左砲の砲口から迸り、衝撃波と砲声が殷々と響き渡り、海上と周囲の空気をぶるりと震わせる。

 飛来する砲弾から逃れようと第四目標と定めたヲ級改は右に、第五目標となるヲ級改は左に分かれて回避運動に入るが、ヲ級改にとっては理不尽にも、そしてタナガーからすれば想定通りに、交互撃ち方で放たれた三発の砲弾の内一発が第四目標と定めたヲ級改に着弾する。被弾するまでの運は無かったが、被弾した場所、つまり当たり所は良かったのか直撃時の衝撃でぐらりと姿勢を崩しはしたものの、ヲ級改は黒煙を上げつつ全速力で逃げる。このままだと第五目標のヲ級改に逃げられてしまいかねない。

 あまり使いたくなかったのだけど、とタナガーはちらっと艤装上の対艦ミサイルランチャーを見やり、仕方ないと諦めの吐息を吐くと、第五目標のヲ級改に対して対艦ミサイル攻撃を行った。

「SSM、攻撃始め! 目標、第五目標のヲ級改。主砲は第四目標のヲ級改に攻撃続行!」

「アイ・マム」

 CIC妖精が了解と応じ、即座に対艦ミサイルの発射準備にかかる。対艦ミサイルのシーカーのウォームアップに二〇秒ほど時間をかける間、タナガーの主砲は第四目標と定めたヲ級改に引き続き交互撃ち方で砲撃を浴びせ、左舷側に二発、右舷側に二発の至近弾を叩き出す。一方CIWSは残る艦載機に最後の連射を浴びせ、不十分な機速と高度の状態から雷撃を試みた艦攻四機をひとし並みに薙ぎ払い、海面に制御不能になった機体を突っ込ませた。

 悪あがきに発艦させた攻撃隊が全滅するのを見てヲ級改の表情に絶望が浮かんだ時、絶望のあまり回避運動が一瞬遅れた第四目標のヲ級改の艤装に二発のSHSが再び直撃する。

「命中! 命中!」

 弾んだ声を上げる見張り員妖精の叫び声ににやりと満面の笑みを浮かべながらタナガーは斉射に移行する。その時、CICから対艦ミサイルの準備完了の知らせが入った。発射弾数二発、ヲ級改の耐久性を考えれば妥当な弾数だ。

「SSM発射始め! 三番、四番、てぇっ!」

 被弾したと錯覚させるバックブラストの噴煙と火炎がタナガーの艤装上で噴出し、その猛煙と反対側へ二発の対艦ミサイルが彗星の如く飛び出していく。上空でミサイルは軌道を変えて第五目標のヲ級改へと弾頭の先を向けるとロケットモーターで大加速をかけながら最大速度でタナガーから逃れようとするヲ級改に食いついた。距離が近かった分まるまるミサイルの燃料は残っており、ヲ級改の両眼がミサイルを捉えた時には艤装と本体に一発ずつダイレクトに対艦ミサイルが直撃した。

 第四目標のヲ級改に斉射を放ったタナガーの耳に、九門の主砲を斉射する轟音とは別の、花火の様に吹き飛ぶヲ級改が上げる轟沈の音が聞こえて来た。艦載機を再武装させて発艦させてきていた辺り、頭部の艤装内には燃料弾薬が弾薬庫や燃料庫に仕舞い切れていなかった様だ。先に沈んだヲ級改と同じく、艦載機の燃料弾薬、対艦ミサイルの炸薬、そして燃料、これらの爆発とそれに伴う火災の炎の二つの破壊の力によって第五目標のヲ級改は文字通り爆発四散して、千切れた艤装の破片や本体の残滓を海上にぶちまけた。

 僚艦の轟沈に手負いの第四目標のヲ級改が成す術も無く見つめていると、タナガーの放った斉射の終焉の火が降り注いだ。九発の内七発が命中し、右に左に強烈なパンチを叩きこまれている様に大きく揺れるヲ級改が艤装から発生した火災の炎に包まれ、海上を悶えのた打ち回る。浮力を失ったヲ級改が炎に焼かれながら海中へと没し始めるのを見届けたタナガーは「撃ち方止め」の号令を下した。

≪タナガーさん、今どこにいますか?≫

 大和から現在位置を確認する通信が入り、タナガーはCIC妖精に確認を取らせ、現在位置の座標を伝達する。GPSを基に出した座標を見てタナガー自身、随分艦隊からはぐれた事に気が付く。

「現在位置は5-5Kのグリッドアルファ1です」

≪そんなに!? 今すぐ戻ってください、5-5Pから敵艦隊がこちらに急行中です≫

「すぐに戻ります」

 レ級とル級の二種類の戦艦相手にタナガー一人でどうにか出来る数的差ではない。反転して大和達が居る方へと足を向けた時、CIC妖精がレーダーのスコープに映る六つの艦影を報じた。

「艦影を捕捉、数六隻。方位055、距離二万メートル、速力約三〇ノット。敵艦隊と推定」

「思ったより早かったわね」

 最大戦速へと加速しつつ、タナガーは後ろを振り返って水平線上に薄らと影を魅せる5-5Pからの刺客を見つめた。

 

 

 ポイント5-5Kに展開する深海棲艦の空母機動部隊を殲滅した第一水上打撃群は、旗艦である大和の周りに再集結を始めていた。

 護衛艦艇を攻撃した武蔵、長門、陸奥の艤装のバイタルパートには被弾の跡があったが、その強靭な装甲によって完全に弾き返していたので事実上無傷と変わらない。大和もヌ級を一方的に屠っただけでタナガーと違い抵抗を受けなかった分艤装に被弾の跡はない。

 戦域から離れたところで単艦行動中の赤城も合流を果たす中、最も遠い所にいたタナガーの合流が遅れていた。逃げるヲ級改を追って殲滅したは良いが、深追いし過ぎた様だった。今回の作戦目標にポイント5-5Kの空母機動部隊撃滅が含まれているからタナガーの行動に問題は無いが、その単艦行動状態のタナガーの方へと5-5Pから転進した深海棲艦のレ級elite以下の艦隊が迫っていると言う。

「艦隊再集結完了だ大和。一人を除いてな」

 次席旗艦を担う武蔵の言葉に大和は無言で頷くと、長門と陸奥に目を向け、艦隊の並び替えを実施した。

「長門さん、陸奥さん、前へ出て特殊砲撃の準備を。打って出て来た深海棲艦の艦隊を特殊砲撃を持って撃破。その後5-5Pへ進出し、敵艦隊の一群を撃破します」

「了解だ。第一戦隊長門、最前列に出る。大和、大物は頂くぞ?」

「構いません」

 にこりと先輩戦艦艦娘に微笑みながら大和と武蔵の二人は長門と陸奥の後ろに並ぶ。それまで大和と武蔵が一、二番艦、長門と陸奥が三、四番艦に立っていたのが入れ替わった形だ。

 五人が前進を再開した時、遠くの水平線上で砲声が轟き、発砲炎が瞬くのが見えた。

「タナガーさん?」

≪現在、レ級elite級及びル級flagship級の超射程砲撃を受けています。大丈夫、あの位置からなら当たりはしません。そちらとの合流を急ぎます≫

 艦娘の中には自身のスキルを過信して深海棲艦に単独で挑んで返り討ちにされた者も少なくないし、それで落命した者だっている。幸いタナガーは単独で挑むような無茶はせず、艦隊行動を重んじる艦娘である様で大和としては少し安心する所であった。彼女の前世を考えれば艦隊行動と言う集団行動の重要さを説くのは愚考と言うべきだったかもしれない。

 間もなくタナガーの姿が目視確認出来た。全速でこちらへと向かって来たタナガーは、艦隊の順番が入れ替わっている事に少し驚いたような顔をしつつ、キレのあるターンを決めて五番艦の位置に戻った。

 タナガーが戦列に戻って直ぐに第一水上打撃群の最前列に立って航行する長門の視界にレ級elite級一隻とル級flagship級二隻を先頭に立てた艦隊の艦影が見えて来る。

「ビッグセブンの拳を食らわせてやる。陸奥、特殊砲撃撃ち方用意!」

「了解」

 三番艦以降の四人から分離した長門型の二人だけで梯形陣に移行すると、長門は特殊砲撃の射撃準備に取り掛かった。

 CIC妖精が特殊砲撃の射撃準備を進める中、大和、武蔵、タナガーも主砲の仰角を最大に取り、レ級とル級の随伴艦のホ級とハ級に照準を合わせた。依然健在なヤンキー隊が深海棲艦の上空で触接し、弾着観測射撃の為の位置データを三人に送る。

「雑魚を散らし、長門さん達の砲撃の邪魔を排除します。大和の目標、第一目標軽巡ホ級」

「武蔵の目標、第二目標駆逐艦ハ級」

 流れる様に射撃目標を定める大和と武蔵の台詞に、タナガーは消去法で残る敵艦である第三目標、駆逐艦ハ級に主砲の砲口を向けた。

「タナガーの目標、第三目標駆逐艦ハ級」

 続航する二人の砲撃目標を確認した大和は、傘を持たないもう片方の手である左腕を伸ばして砲撃開始を命じた。

「旗艦指示の目標、主砲、撃ちー方始めー! 発砲!」

 五一センチと一六インチの二種類の砲声が轟き、山なりの弧を描いて砲弾を飛ばしていく傍ら、長門と陸奥の特殊砲撃の準備が整う。

「スタビライザー調整よし、射撃管制二艦連動。第一から第三目標に対して一斉射撃開始」

「陸奥了解。主砲射撃管制を長門に移行」

 同調を完了した二人の主砲が揃って同じ動きを始める。長門の頭部のヘッドギアに連動した射撃照準に基づいて二人の四一センチ連装、三連装主砲が砲口をレ級とル級に向ける。

「魚雷を流されたら厄介だ、手早く仕上げるぞ」

 レ級elite級は長距離から正確な照準の魚雷を発射して来る事で知られている。ほぼ無航跡の魚雷なので早期に察知するのが困難であり、駆逐艦娘や軽巡艦娘の様な高精度ソーナーを備えていない戦艦艦娘にとって聴音による早期探知も困難だ。対抗策は一つ、魚雷を海中に流される前に撃破する事。

「方位081、仰角最大。諸元入力良し。旗艦の諸元にて砲撃を行う、全艦統制砲撃用意」

「旗艦の諸元にて攻撃開始」

 レ級elite級とル級の艦影を見据える二人の視界に三隻からの砲撃開始の発砲炎が映る。攻撃を受けている事に慌てず、氷のように冷静さを保った長門と陸奥の主砲が第一目標と定めたレ級に向けられる。

 砲弾が飛来する音が鳴り響き、それが極限にまで高まったと思った直後二人の周囲にレ級とル級の放った砲撃が着弾する。着弾の水柱と衝撃波を受けて微妙に揺れる二人の動揺が収まった時、長門の凛と喉を張らした砲撃開始の合図が発せられた。

「全艦、旗艦指示の目標、撃ちー方始めー! 発砲、てぇっ!」

 発砲の衝撃に備えて両手の拳を握り歯を食い縛った長門に、主砲発砲の衝撃が加わる。水をたっぷり含ませたタオルで顔面を張り飛ばすような衝撃が押し寄せ、一〇門の四一センチ主砲の砲口からは真昼の太陽を思わせる火焔が迸る。耳を聾する巨大な砲声が響いたと思った直後、主砲の砲口が若干動かされ第二目標のル級flagship級に向けられると再度発砲炎が長門と陸奥の艤装前面に目くるめく。第二目標への砲撃を完了すると、第三目標のル級flagship級に主砲が砲口を向け、直ちに砲撃を開始する。

 

 特殊砲撃は最大三目標への連続射撃を行うと言う特性上、本来充分な砲身冷却と装填装置への負荷を考慮して時間をかけて再装填するのをすっ飛ばして、五秒以内に三連射を放つと言う主砲システム周りにかなり無理を言わせた砲撃だ。特殊砲撃後も引き続き砲撃は可能だが、特殊砲撃を行うだけでかなりの負荷を主砲周りに掛ける関係上実戦の場で撃てる特殊砲撃は一回に限られる。二回行えば主砲の砲身が割けたり、装填機構が不可に耐えられず故障する可能性が高いのだ。

 長門型の特殊砲撃、通称ながむつタッチと呼ばれる砲撃を放った二人の主砲の砲口から、ドバっと冷却水が白い水蒸気を伴って飛び出す。過熱し切った砲身は生のベーコンを巻き付ければ一瞬で焼き上がる程に熱を持っていた。当然ながら素手で触れば火傷どころの話では済まない。過熱した砲身は歪んでしまうので冷却水で速やかに砲身を冷却しておこないと以降の砲撃の精度は大幅に低下してしまう。

 主砲周りにも負荷をかける特殊砲撃は艦娘側にも相応の負荷をかける。二隻の戦艦艦娘の射撃管制装置を一つのものとして同調して扱う関係上FCSに高度な演算を要するし、システム以外にも発砲時の衝撃を通常砲撃の時以上に受けるから、戦艦艦娘の身体でなければ衝撃に耐えられない。総じて戦艦艦娘が高身長で腰回りがしっかりしているの者が多い理由が自分達の取り扱う主砲の発砲時の衝撃に耐えきるだけの強靭な身体を要求されるためだ。

 

 その長門型二人の特殊砲撃によって五秒以内に三連射された一〇発の砲弾が、レ級とル級の三隻の頭上から降り注ぐ。何かに気が付いたように空に顔を向け、咄嗟にサイドキックを決めて右へと横滑りしたレ級に四発、ル級には六発の四一センチ主砲弾が命中した。

 周囲に外れた主砲弾が突きあげる水柱によって右に左に振り回される三隻の戦艦の本体と艤装上に、一式徹甲弾改直撃の爆破閃光が連続して走る。被弾の衝撃でぐらりと揺らぐ三隻の戦艦からぱっと砕かれ、吹き飛ばされた艤装の破片が舞い上がり、紅蓮の炎と三隻の悲鳴が上がる。 当たり所の悪かったル級三番艦は大火災を起こし、艤装の傾斜を立て直せないまま転覆しようとしていた。

「ル級三番艦、沈黙。ル級二番艦、戦線より離脱します。レ級は依然健在」

 遁走を図る二番艦に代わり、手負いながらも立て直したレ級が動く主砲を向けて再攻撃の構えを取る。魚雷発射管は潰れているから雷撃の恐れはない。純粋な戦艦同士のノーガードの殴り合いに舞台は移行していた。

「通常砲戦に切り替え、砲身冷却完了し次第、砲撃再開」

 依然冷却中の主砲砲身から上がる白い煙を払いながら長門は命じる。完封し切れなかったのは少し心残りだが、ル級の一隻を仕留め、もう一隻を大破戦線離脱に追い込んだだけでも随分やる事が減って最大脅威のレ級へ取り掛かりやすくなっていた。

 

 すばしっこく逃げ回るハ級の周囲に、タナガーの放った一六インチ主砲弾が着水の水柱を突き立てる。至近弾だけでも転覆しかねない距離に落ちているが、ハ級はしぶとく、粘り強く逃げ回っていた。回避に専念している分、応射は無いが時間稼ぎを目的に回避に専念されると駆逐艦と言う艦種ほど厄介な相手極まりない。

(対艦ミサイルを撃ち込めれば、直ぐに片付く相手なのだけど)

 唇を噛みながら主砲だけでなく、高角砲まで動員してハ級に集中砲火を浴びせる。対艦ミサイルは現状補充の宛がない貴重品なだけに、駆逐艦相手に使うのは余りにも勿体なさ過ぎた。補充が効かない兵器と言う合理的判断とは言え、弾薬の節約と言う自身の方針に苛立ちを感じなくはない。

(想像しなきゃ……)

 ハ級が次どう動くのか、それだけに頭の思考力を巡らせる。軽く目を閉じて耳を通して聞こえる音と肌に伝わる空気の五感を研ぎ澄ますタナガーが再び目を見開いた時、彼女にはハ級の未来位置が見えた気がした。

 見えたような気がするハ級の未来位置に向けて主砲と高角砲の射角と仰角をすぐさま調整し、発射する。二種類の砲声が鳴り響き、異なる初速で飛び出していった砲弾がハ級に吸い込まれていくように着弾していった。高角砲の砲弾の直撃だけでも大きなダメージを受けるのに主砲弾の直撃はもはやオーバーキルそのものであった。

 ほぼ全弾が命中したハ級の艦体が文字通り爆散し、砕け散った残骸が海上に散っていく。

「よし」

 心の中でガッツポーズを取りながら、これが艦長の言う「イメージ」と言う事なのだろうか、と前世のタナガーの艦長、トーレス大佐の名言を思い起こす。考えに耽りそうな自分に今はそうしている場合では無いと考えを改めたタナガーは、大和と武蔵の援護に回ろうとする。するとホ級に一発高角砲弾を当てた大和は振り返ってタナガーに長門の方へ向かうよう指示を出す。

「タナガーさん、長門さんと陸奥さんの援護に回ってください」

 大和の指示に続いて行け、と目で告げる武蔵の視線を受け取ったタナガーは頷いて、進路を変えて長門と陸奥の援護に回る。

 再砲撃可能になった主砲でレ級と砲撃戦を開始する長門と陸奥の内、先頭を行く長門の周囲にレ級の放った砲弾が着弾していた。特殊砲撃を食らって砲戦火力、雷撃戦火力の両方が低下する損害を受けていたレ級だが、持ち前の素の耐久の高さを生かし、長門と陸奥との二対一の状況でもしぶとく応射を撃ち返してきていた。

 援護の為に接近して来るタナガーの姿を見た長門は、陸奥に目配せて戦線離脱を試みるル級の後を追わせると、タナガーに砲撃目標を直に指示した。

「タナガー、レ級に一六インチの拳を叩きこんでやれ!」

「了解!」

 砲身を冷却したとは言え、まだ精度にムラが出ている長門の主砲とは違い、高精度を維持しているタナガーの主砲がレ級に向けられ、速やかに射撃諸元を入力した主砲がSHSを放つ。長門型の四一センチ主砲とはほぼ同口径ながら異なる砲声がタナガーの艤装上で轟き、発砲炎と砲煙が砲口から噴き出す。

 新手からの砲撃にレ級が忌々し気にタナガーの方を見た時、長門とタナガーの二人からの砲撃が飛来し、レ級の装甲を抉った。ローブの下からギザ歯を噛み締めてレ級が健在な主砲で頑固に抵抗を試みると、その数倍の砲弾が長門とタナガーから浴びせられた。被弾する度に火焔と衝撃がレ級を殴り飛ばす様に揺さぶるが、被弾から少し間をおいてレ級から応射の砲弾が長門目掛けて発射されてくる。

「白旗上げても……いや白旗の概念も持たぬ害獣のようなものか」

 正規の国家軍でもない、言ってしまえばテロリストと同義の非正規軍も同然の深海棲艦である。人に似せた姿をしようが、人ではない以上は自分の行う事は害獣駆除の様なものか、と理屈っぽい事を長門が考えていた時、レ級の放った砲撃が一発、注意のそれていた長門に命中した。

 右舷艤装に着弾したレ級の砲弾で長門の身体がたたらを踏む様に揺らめく。被弾した右舷艤装で爆発炎が噴出し、被弾痕から黒煙が上がり始める。直ぐに応急修理妖精が被弾箇所へ向かい、消火器で火災消火に務める。

「いい加減に沈みなさい!」

 頑強なレ級に向けてタナガーの一言と共に一六インチSHS九発が放たれ、既に満身創痍のレ級に六発が命中する。前を塞ぐ様に外れた三発が水柱のカーテンを作り、残る六発がレ級の装甲を貫通して内部で爆発する。一拍置いてレ級の主砲搭のバーベットから紅蓮の炎が噴き出し、爆発音と共に主砲搭が宙を舞った。

 バイタルパートを射抜かれ、弾薬庫に誘爆したレ級の足が止まり、がくりと膝を突く様にレ級が海上に倒れ込んでいく。誘爆の炎が瞬く間にフードを被ったレ級の本体と艤装を覆いつくし、海水とせめぎあって白い水蒸気の靄を作り出していく。

「撃ち方止め」

 砲撃止めの号令を下しつつ、長門はレ級の最後の最後にはなった一撃を受けた被弾箇所を確認する。火災発生しているが、火の手は大きくはない

「長門さん、消火の援護は要りますか?」

 長門の元へと近寄りながらタナガーは自身の応急修理妖精にスタンバイをかける。火災の規模は外観からは大きくないが、内部で延焼が広がっているなら自分からも応急修理妖精を増援として送り込むつもりだった。

「大丈夫だ、間もなく鎮火できる。よくやったなタナガー。お前の援護が無かったらレ級に返り討ちにされたかもしれん」

「あら、私だっていたのに?」

 ル級を追撃して砲撃を行いながら心外だ、と言うよりはからかうような口調で陸奥が長門を茶化す。

「タナガーに援護を求めなかったら私は一対一でレ級を相手にしなければならなかった。レ級はいくら戦艦艦娘と言えど一対一で容易に勝てる相手では無い、それだけの事さ」

「そう言葉を飾っても、本心では焦ってたのはバレバレよ」

 すばずばと本心を暴露していく陸奥に長門は参ったなと言う様に頭を掻く。姉に対して軽口を叩く陸奥は大破戦線離脱するル級に主砲の一斉射を撃ち込み、止めを刺すと、すぐさま反転して仲間の元へと戻る。

 レ級の残骸が海中へ没する頃、大和と武蔵もホ級とハ級を撃破して、今度は長門を中心に艦隊は再集結を始めた。

 離れたところで対空警戒に当たっていた赤城も合流すると、再度一番艦兼旗艦が大和に戻る。

「全員、怪我はないですね?」

 念を押す様に被弾した長門含めた全員の身体と艤装を見回して、問題が無い事を確認した大和は第一水上打撃群に再度単縦陣を組む様指示した。

「陸奥先輩、次が今作戦の最終目標ですよね?」

 単縦陣を組み直す中で、自分の前を進む陸奥に確認するタナガーに、陸奥はくるっと振り返って「そうよ」と頷いた。

「この先にあるポイント5-5Pが、サーモン北方海域北方ルート最大の難所と呼ばれる場所よ。レ級を旗艦とする艦隊がうろうろするこわーいエリア。貴女、大丈夫?」

「? 何がです?」

「怖くないのかって事よ。この海域は魔の海域と恐れられて来た海域。最深部へ至るルートでも最も難所と言われるエリアにこれから行くことになるのよ。普通なら緊張や恐怖で足がすくんじゃう子の一人や二人は出て来るものなのだけど」

 伺う視線を寄こす陸奥にタナガーはそう言う事かと軽く吐息を吐くと、陸奥の眼を見据えて簡潔に答えた。

「深海棲艦なんて脅威度が違うだけで結局はどれも艦娘を殺せるだけの力がある。私に出来るのはその殺意に屈しないだけです」

「強いのね貴女は。あ、それと先輩付けしないで陸奥でいいわよ」

「了解です」

 自身からすれば艦娘として先輩になる陸奥の堅苦しく呼ばなくていいと言う言葉に、タナガーは頷きつつも心の中では癖で陸奥先輩と呼んでいた。

 

 

 ヤンキー隊が5-5Pへと進出し、更に航空支援艦隊から発艦した彩雲も展開して5-5Pの深海棲艦との触接を図った。

 各偵察機の航空妖精が見下ろす眼下に、レ級を先頭に航行する深海棲艦の深海南方任務部隊水上打撃群の艦影が、白い航跡を引きながら西進していった。

 

 

「先の海戦で一群を撃破し、更に今一群を撃破したから、残る5-5Pに展開する深海棲艦の艦隊は二群一二隻、か」

 航空支援艦隊の前衛に立ちながら青葉は指を折って確かめる。簡単な計算だが、どうしても5-5の敵艦隊となれば青葉としても緊張してしまう。

「第一水上打撃群の進軍は順調そうね。私達の出番も余りない様だし、良い事と言えば良い事なのかしらね」

 若干物足りなさを感じさせる口調で加賀が言う。もっと激しい航空支援要請が来るのかと思っていた彼女からすると、意外とすんなり前進でき、深海艦載機群の空爆をそれ程激しく受けていない第一水上打撃群と航空支援艦隊の状況に少し歯ごたえを感じられないのだろう。

「艦爆隊と艦攻隊があれば、私達でも一発痛いのを奴らに叩き込んでやれてたのにね」

 同じ様に少し消化不良気味の表情を浮かべた瑞鶴が左手で弓をくるくると回しながら溜息交じりに天を仰ぐ。赤城と加賀と共に精鋭航空戦隊を形成する瑞鶴としては、攻撃隊を用いて深海棲艦を痛撃する事も無く、ひたすら制空戦闘に終始している自分の任務にやや不満が残る様だ。

「これも仕事の一つよ。空母艦娘の役目は味方の艦娘に深海棲艦が手を出すのを事前に防ぐ事。それがどんな形であれ、その任務が果たせれば私達空母艦娘の使命を果たしたも同然よ」

 優しい口調だが確固たる信念のある声で翔鶴が瑞鶴や暗に加賀に対して諭す様に語り掛ける。

「……若気の至り、とでもいうべきかしらね」

 苦笑交じりに加賀が返す。するとそれまで黙っていた照月が欠伸を漏らし、伸びをしながら手ごたえの無さに不満を漏らす。

「でもなあ、やっぱり敵が来ないと暇ですよぉ」

「それが本当は良い事なのよ」

 不満を漏らす妹に秋月が暇な方が状況は良い事だと告げる。そうだそうだと二人の艤装の中で四基の連装砲も頷いた。

 暫くして、深海南方任務部隊水上打撃群と触接を行う航空支援艦隊の彩雲から新たな情報が送られて来た。戦艦レ級一隻、戦艦ル級flagship級二隻、防空巡ツ級一隻、駆逐艦ハ級後期型二隻からなる艦隊が第一水上打撃群へ向けて進撃中だと言う。高精度雷撃を行えるレ級elite級を含む艦隊は既に二群が殲滅され、残る一群はポイント5-5Pの防衛に残された様だ。消去法で深海棲艦に残されている5-5Pの艦隊は無印となるレ級とflagship級の戦艦ル級二隻を中核とする部隊だけになる。

 なんだかんだ苦戦を続けて来たサーモン北方海域に展開する深海棲艦も、先の第八艦隊による輸送船団撃滅戦で補給と補充が途絶えて以来、失った戦力の補填は出来ていない様だ。ある意味で人類軍艦娘艦隊優位に事は進んでいると言えよう。

「この海域の解放も現実味を帯びて来たわね」

 そう呟く翔鶴の言葉には希望が見えて来た翔鶴他艦娘達の想いが代弁されていた。




 今年の目標としては「ストレンジリアル軍艦艦娘転生海戦譜シーズン1」の完結と行きたいところです。シーズン2のプロットも固まりつつある中、アウトプットが中々進まないジレンマに悩むこの頃です。

 感想評価ご自由にどうぞ、ご質問等も受け付けています。
 ではまた次回のお話でお会いしましょう。
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