艦隊これくしょん ストレンジリアル軍艦艦娘転生海戦譜 Season1   作:岩波命自

18 / 24
※いつもよりも長尺になっています


第一八話 オペレーション・ラフシーズ

 第三、第四艦隊の出撃から遅れる事凡そ六時間後。

 艦娘母艦「ジオフォン」から三個艦隊が波間へ足を付けて発艦し、二手に分かれてサーモン北方海域を東へ進んだ。

 アイオワを旗艦とするTF58こと第五八任務部隊の六人は北東へ進路を取り、一方長門を旗艦とする第二艦隊及び大和を旗艦とする第一艦隊は南東へ進路を取り、サーモン北方海域深部への進撃を開始した。

 サーモン北方海域中央下ルートと呼ばれているルートの前衛を担う第二艦隊を構成する長門、陸奥、タナガー、山汐丸、時雨、雪風の六人は単縦陣を組んで最初の経由地ポイント5-5Bへと向かっていた。

 進撃の途中で六人のヘッドセットに着信のビープ音が鳴り、第二、第一艦隊を後方から警戒監視支援してくれるP-8哨戒機の一機から、明朗な声が入った。

≪こちら哨戒機スカイアイ、全艦娘聞こえるか? 第二艦隊の諸君、貴官らはこちらの管制下に入った。全てのターゲットへの攻撃を許可する。無敵と恐れて来たサーモン北方海域深部、深海南方任務部隊本隊を沈めろ、幸運を祈る!≫

 スカイアイ、か……知らない言葉では無い気がしてしまうその名前と声に奇妙な気分を覚えながら、タナガーは先頭を進む長門が「了解」と答えるのを聞いた。

≪ポイント5-5Bは方位100、距離五マイル≫

 ご丁寧に最初に進出予定の経由地への距離と方位を知らせてくれるスカイアイに従い、第二艦隊の六人は方位100へ進路を取り、雪風と時雨を艦隊左右に展開させた警戒陣に移行する。初手経由地のポイント5-5Bは潜水艦が潜んでいる場所だ。前回のフォックストロットノベンバー作戦である程度の打撃を与えたとはいえ、殲滅したかは定かではない以上、対潜警戒を厳とする必要があった。

 山汐丸からは、警戒の為に既にF4U-7が二機発艦して、前路警戒に当たっている。番犬のように第二艦隊の前面に出て海面と空の両方に警戒の目を向ける二機のF4U-7のエンジン音が遠くで重低音を響かせる。山汐丸の航空艤装上ではさらに四機が五分以内に発艦出来る様に態勢を整えて待機していた。初手は潜水艦戦なので、戦闘爆撃機のF4U-7で対潜戦闘は出来ないが、潜望鏡深度に浮上して来た深海棲艦の潜水艦の潜望鏡の航跡を目視確認して、第二艦隊に知らせるくらいの事は出来る。

 警戒陣を維持して前進する第二艦隊の中で、山汐丸と共に後衛に付くタナガーにとって潜水艦は手の出し様がない相手だ。とは言え、タナガーの重装甲をもってすれば、万が一潜水艦の雷撃が飛んで来て、装甲が薄く脆い山汐丸の盾になる事は出来るだろう。一発くらいなら、一撃で大破する事は防げるはずだ。

(もっとも、前回魚雷二発食らって大破したわよね……)

 内心溜息を吐きながら、苦い経験を脳裏に思い起こす。あれは当たり所が悪かった気もしなくはないが、ストレンジリアル時代の感覚で装甲を過信すると痛い目に遭う可能性はあった。実のところ艦娘は実物サイズの軍艦程打たれ強くはない。寧ろ人サイズになっている分、脆いと言えた。

「雪風さん、時雨さん、潜水艦の気配は?」

 ソーナーで警戒についている駆逐艦娘の二人に、潜水艦の気配を伺うタナガーに、時雨が頭を振る。

「潜水艦も、駆逐艦娘の随伴する艦娘艦隊に無理に仕掛けて来るとは限りません」

 快活な顔を神妙な風貌にしてソーナー聴音を行っていた雪風が答えた。意外だと表情で返すタナガーに雪風は目配せで時雨に少し任せると頼むと。深海棲艦の潜水艦の行動の特性をタナガーに教えた。

「深海棲艦の潜水艦が艦娘艦隊へ雷撃戦を挑む時の条件は大きく二つです。まず随伴艦の中に、対潜攻撃可能な艦娘が居ない事、もう一つは独航船である事。この二つです。今の雪風達にはあたしと時雨の二人の対潜艦娘が居ます。だから深海棲艦の潜水艦も手を出しづい、と言う訳です。勿論、勇気を振り絞って、魚雷攻撃を仕掛けて来る個体もいます。でも、その勇気は時に無謀と紙一重です」

 表と裏の関係である「勇気」と「無謀」の二つの行動要素について語る雪風に、タナガーはふむふむと頷く。

「でも、仕掛けては来なくても、ピケット艦として他の海域に展開する味方に僕らの存在を知らせる事はあるね」

 低いと言うよりは、余り感情が表に出て来ない様な声で時雨が雪風の解説に、補足を付け加える。

「ピケット艦ですか」

 ストレンジリアル時代の頃にもあった概念を思い返しながらタナガーは呟く。エイギル艦隊にもピケット艦としてイージス艦「コンドル」「フィンチ」「スパロー」「マグパイ」が居たのを思い出す。ただこの四隻はピケット艦の中でも対空ピケット艦だったので、深海棲艦の潜水艦の行う「ピケット艦」の概念とはやや異なる。

 

 ポイント5-5Bに進入した第二艦隊はそのまま何事も起きずに済む時間が続いた。潜水艦の潜望鏡を視認したと言う急報が飛ぶ事は無く、ただ海面を機関音を鳴らしながら行軍する第二艦隊の騒音だけが、紺碧の海に響き渡っていた。

 状況が変化したのは、5-5Bを出ると言う時だった。

「ESM探知! 後方、いや真後ろだ!」

 素早いターンで後ろを振り向く時雨が叫び、全員に緊張が走る。時雨と雪風の艤装に備わっているE27逆探知機が、艦隊の真後ろから放たれて来た深海棲艦の潜水艦の電波を拾ったのだ。

 一瞬の間をおいて、スカイアイから知らせが入る。

≪貴艦隊の後方より深海棲艦の潜水艦の暗号電を受信した。解読は出来ないが、味方艦隊へ君たちの存在が通報された可能性が高い。対空、対水上警戒を厳に≫

「バレたな……」

 空を見上げて長門が呟いた。最も近い深海棲艦の艦隊はこの先にあるポイント5-5Hに布陣する深海棲艦の空母機動部隊だ。元々は三個機動部隊が布陣していたと言うが、何度か行われたサーモン北方海域深部への侵攻作戦で同ポイントに展開する深海棲艦の空母機動部隊も損耗が激しく、尚且つ先の第八艦隊による補給船団襲撃も相まって、戦闘能力を万全な状態で維持出来ているか怪しい。とは言え、頑丈なヲ級改flagship級二隻を中核とした第三群は艦隊そのものが無傷で残っているとされているので、油断は禁物だった。二隻合わせて三〇〇機近い艦載機を放てる。一方の第二艦隊は戦闘爆撃機のF4U-7が二〇機未満だけ。あとは艦隊の対空砲火だけで凌ぐしかない。

「対空戦闘部署発令、全艦、対空戦闘用意」

 静かだが威厳のある声で長門が予測される深海棲艦の一手を見越して、対空迎撃部署を発動させる。六人の艤装上で対空戦闘用意のベルが鳴り、艤装内で装備妖精が弾薬箱を抱えて機銃座へ駆けて行き、高角砲には対空弾を抱えて砲座へ乗り込む。

 タナガーもCIWS四基を自動交戦モードにセットして、迎撃態勢に入る。

「誰にも、指一本触れさせはしない……」

 険しい表情を浮かべ、遠くない内に雲霞の如く押し寄せて来るであろう深海艦載機群を脳裏に思い浮かべながら、タナガーは空全体を見回して、警戒に当たる。長門と陸奥の主砲艤装からは三式弾改二の砲身内装填完了のブザーが鳴り、四一センチ主砲がぐいと蛇が鎌首をもたげる様に青空へ鈍色に光る砲身を差し向ける。

 

 経由ポイントであるポイント5-5FとDを通過し、ポイント5-5Hへ進入すると言う時に、それは来た。

 後方に布陣するもう一つの支援機、AEW&C機であるE-7ウェッジテイルから警報が入る。

≪こちら空中警戒管制機ヘビークラウド。第二艦隊へ通知する、ポイント5-5Hより敵艦載機多数接近を検知。さらに前方に敵機動部隊を確認。アローブレイズ隊は自軍艦隊を護衛しつつ、敵艦隊随伴艦に可能な限りの打撃を与えよ≫

≪了解、アローブレイズ1から各機。二手に分かれて迎撃と攻撃に移行するぞ≫

 上空でCAPに付くF4U-7の航空妖精から山汐丸の艤装上で待機中のF4U-7へ、仕事の時間が来た事を告げる連絡が入る。即座に彼女が航空艤装を展開すると、Wワスプエンジンの咆哮が殷々と海上に鳴り響きだしだし、飛行甲板を滑走したアローブレイズのコールサインで呼ばれるF4U-7が山汐丸から次々に発艦して行く。八機は対艦装備、八機は機銃弾満載の対空装備だ。

 F4U-7の爆装を見てタナガーは不安に駆られる。見たところ大型の爆弾は無く、対艦ロケット弾を左右の翼下に四発ずつの計八発を積んでいるに過ぎない。堅牢かつ頑丈なヲ級改flagship級相手には火力不足にしか思えない。

「あの爆装で空母を仕留められるのですか?」

 不安のあまり山汐丸に振り返って尋ねるタナガーに山汐丸は全機を発艦させた航空艤装を畳みながら、専門外の知識を持ち合わせていない彼女へ説明した。

「F4U-7の役目はあくまでも大物の周囲を固める取り巻きを散らす事にあります。始めから空母を仕留める事は求めておりません」

 本物の空母艦娘とはひと味違う運用形態である艦娘の山汐丸が微笑を浮かべて、海軍式と言うよりは陸軍式の口調で語る。

 彼女を始め、所謂「陸軍艦娘」と呼ばれる艦娘は、予算面だけでなく、深海棲艦との戦いでより存在感と発言力を増したいと言う陸軍が管轄し、海軍に運用を委ねると言う歪な関係で生み出された艦娘だった。

 

 たった八機のF4U-7の編隊はアローブレイズ9を編隊長として、深海棲艦空母機動部隊へ向けて前進していた。翼下に装備しているのは、対艦ロケット弾。機動力を大きく削ぐ大型の一〇〇〇ポンドの徹甲爆弾や魚雷とは違い、装甲貫徹能力は良くて軽巡級に打撃を与えるくらいだが、求められている彼らの役目を果たすには十分な火力であった。

 案の定と言うべきか、稼働全機を艦隊へ差し向けていたのか、ヲ級改から迎撃機が上がって来る事はない。何度も何度もこのラフシーズ作戦以前に中央下ルートを経由して艦娘艦隊が進撃し、その都度の出撃で稼働機を摩耗し、補充を受け様にも、それら補給物資や装備を満載していたワ級は第八艦隊の攻撃で海の藻屑となった為だろう。

 たかが八機、艦隊の対空砲火で退けて見せる、とでも言うのだろうか。既に早くもアローブレイズ隊を確認したツ級が高角砲に仰角を取って、迎撃態勢に入っていた。

「行くぞ、ツ級なんかに叩き落とされるなよ」

 バンクして味方機へ攻撃開始を合図したアローブレイズ9は、スロットルレバーを押し出し、操縦桿を倒して深海棲艦空母機動部隊へ向けて降下を開始する。僚機七機がそれに続き、エンジン音の力強く甲高い音を轟かせながら八機のF4U-7がヲ級改の周囲を固める軽巡へ級flagship級、防空巡ツ級elite級、そして駆逐艦ハ級後期型へ吶喊して行く。

 防空を担うツ級の対空砲火が撃ち上げられ始め、曳光弾と対空弾の炸裂がF4U-7の周囲で瞬間的な炸裂音を鳴らす。爆竹を鳴らした様な対空弾の炸裂音が機体の前後左右、そして上下斜めで響き、ふわりと見えない大きな手で押された様に機体が揺れる。

「なるほど、近接信管対空弾は在庫切れか」

 精度こそは高いものの、意外と明後日の位置で爆発する対空弾の数の多さに、アローブレイズ9の航空妖精はしめたとほくそ笑む。補給物資を積んだ補給艦を沈められた結果、高い迎撃精度を誇る近接信管を備えた対空弾の在庫が払底して、従来通りの時限信管対空弾しかない様だ。突っ込むタイミングをしくじると、諸に対空弾の散弾を浴びるが、ツ級の挙動を見越して立ち回れば、対空砲火を躱して攻撃が出来そうだ。

 問題は、高角砲の対空弾よりも、対空機関砲の火箭だった。対空機関砲の射撃は、深海棲艦、艦娘問わずに直撃による迎撃よりも、射撃位置に取りつかせない牽制射撃が基本だ。ツ級の対空機関砲も同様の挙動を取っており、接近を阻む弾幕を形成している。

≪編隊長、アローブレイズ1-2がチャフを試しに撒いてみたら対空砲火が一時的に弱まりました。電波妨害をかければ対空砲火が弱められるようです≫

 アローブレイズ1-0からの通知に9は即時に判断を下した。

「アローブレイズ全機へ。全ての火力をツ級へ集中しろ」

≪飽和攻撃……?≫

「ついて来い、痛いのをお見舞いするぞ」

≪了解しました≫

 八機のF4U-7はチャフを撒きながら散開すると、ツ級は対空砲火の手を緩めた。どの機体にターゲティングすればいいのか、判断を下せない様だった。八機全機が一定の距離を保ってツ級を取り囲んでいる以上、全目標へ迎撃の砲火を差し向けるべきだがツ級にはそこまでの多目標同時対処能力は無い。せめてへ級では無くツ級がもう一隻配備されて居たら、話は多少なりとも違ったかもしれない。

 タイミングを見計らっていたアローブレイズ9が攻撃開始を命じるとると、一斉に八機のF4U-7が機首をツ級に差し向け、同時飽和攻撃を開始した。

「全機、撃て!」

 照準器にツ級を収めたアローブレイズ9がロケット弾の発射ボタンを押し込むと、左右の翼端からロケットモーターの作動音が鳴り、微かな振動を伴って二発のロケット弾がツ級へ噴煙を引きながら飛んで行った。同様の攻撃を行った七機のF4U-7から二条の軌跡が放たれ、飛翔音を鳴らしながら右往左往するツ級へロケット弾の弾頭を突き立てた。

 艦娘の艦砲射撃を被弾するよりは小さ目な爆発が一六回炸裂し、大きく震えるツ級の艦体から引き剥がされ、砕かれた艤装や火器の残滓が爆炎と共に噴き上げられる。装甲を貫通して内部で爆発したロケット弾によって引き起こされた火災の炎がツ級を包み込み、火焔と黒煙を引き摺って行く。

≪ツ級の対空レーダー、作動停止を確認≫

「よし、残る随伴艦を叩きのめすぞ」

≪アローブレイズ9編隊に告ぐ。第二艦隊は現在、空母機動部隊まで残り一五キロの地点まで進出。まもなく主砲射程圏内に入る≫

「艦隊に被害は?」

 最も重要な事を尋ねるアローブレイズ9に、ヘビークラウドは簡潔に、だが重要な意味を込めて答えた。

≪ネガティブ、一切ない≫

「よーし、次の目標はへ級flagship級だ。1-3、1-4、1-5、1-6、攻撃開始! 1-0、1-1、1-2は駆逐艦を狩れ」

≪コピー!≫

 僚機七機の航空妖精から返事が返され、機能停止したツ級からの弾幕を気にしなくて良くなったアローブレイズ9編隊は、好きな様に射撃ポジションを取り、射線方向に味方機が居ないか、味方機に進入コースと被っていないかを確認すると、翼下の爆装の砲火を深海棲艦に向けて発射した。

 軽巡へ級のそこそこ頑丈な舷側の装甲が射抜かれ、内部で爆発したロケット弾によってへ級の主砲搭が吹き飛び、魚雷発射管が旋回軸を破損して動かなくなる。ハ級後期型の艦体にロケット弾が突き立てられ、目玉の様な構造物が叩き割られた一隻はその場をぐるぐると円を描いて回り始め、もう一隻は舷側に大穴を開けられて浸水で瞬く間に横倒しになった。

 たった八機のF4U-7の攻撃はヲ級改flagship級を中核とした深海棲艦空母機動部隊の航空攻撃力に何ら漸減する効果は出せなかった。だが、随伴艦を壊滅させたことで結果として本隊であるヲ級改flagship級を護る艦が無くなり、ヲ級改flagship級は事実上丸裸、外堀も内堀も埋められた状態になった。

 無傷のヲ級改flagship級が艦載機を更に発艦させて来るのを見て、あろアローブレイズ9はむずがゆさを感じる。F4U-7の爆装ではヲ級改flagship級を仕留められるだけの火力は無いし、既に全機対艦ロケット弾は全弾使い切っている。痒い所に手が届く、では無く痒い所に手が届かない、と言うべき状況だ。

 発艦して来る敵機が襲って来るかと身構えるアローブレイズ9編隊の航空妖精が見る視線の先で、深海棲艦戦、艦爆、艦攻のそれぞれマーク2機体は編隊を組んで、アローブレイズ9編隊の母艦が居る艦隊へ進路を取った。

 

 空へ向けて金切声を上げて放たれる銃弾の噴水は、文字通り無数の飛沫となった曳光弾を深海艦載機群へと浴びせ、朱色に光る曳光弾が青空を撫でた後には無数の弾丸が放たれた銃声が殷々と響き渡り、墨汁の跡の様な黒煙と、海面へと降り注ぐ深海艦載機群の残骸の微かな音だけが残された。

「凄い……」

 自身の主砲艤装を構えたまま空を見上げる雪風の口からようやく零れたのがその一言だった。防空任務を担う自身の主砲が空へ向けて火焔を放つ出番は来ないまま、タナガーのCIWSが接近する全ての深海艦載機群を叩き落としていた。事前にF4U-7との空戦で数機を戦列から失っていたとは言え、六〇機程は居たヲ級改flagship級からの刺客の群れは、跡形も無く消え去って、黒ずんだ血痕の様な黒煙を青空に遺しただけとなった。

 驚嘆の目でタナガーを見る雪風に対し、当のタナガー本人は涼しい顔で空を見上げ、CIWSの弾丸の再装填を砲術科妖精に命じる。

「次弾装填、急げ」

 涼しい表情と同じ涼しい声で命じる彼女の左隣に布陣する時雨も、その顔に驚きを浮かべていた。後続の山汐丸も同様であり、驚いていないのはタナガー本人を除けば、長門と陸奥だけだった。

「本船がCAPを上げる必要ってあったのでしょうか?」

 少し自信が無さそうに質問の矛先を向けて来る山汐丸に、タナガーは砲術科妖精がCIWSの弾丸の再装填作業を眺めながら、上空を旋回して着艦態勢に入るF4U-7を見上げた。

「たった八機の戦闘機でも、その八機が何機か敵機を食ったから、私の対空射撃で敵機を殲滅出来たのです。つまりF4U-7が何機か食っていなかったら、その分私が取り溢して、爆弾や魚雷がこの艦隊に降り注いでいたと言う事です」

 戦艦として航空機の価値を認めるのは内心癪ではあったが、今言った事、先程やった事、起きた事の全ては事実であるから、ありのままの事をタナガーは語った。山汐丸は飛行甲板を展開させながら、しげしげとタナガーの端正な顔立ちを見つめてそれを聞いた。

「貴殿は今の戦争、航空機が戦場を支配する事に対して、疎ましく思ってはおりませぬか?」

 制空戦闘に出ていたF4U-7の一番機、アローブレイズ1がドスンと音を立てて飛行甲板艤装に着艦し、ワイヤーを捉えるのを確認しながら、横目でタナガーを見る山汐丸が言う。航空機の価値を認めているが、その口調や姿勢には航空機と言う概念に対して疎ましく思うタナガーの想いが、山汐丸には僅かながら見えていた。

 タナガーとしては航空機運用艦である山汐丸に配慮して、言葉を選んで発言した筈だったのだが、どうやら自分の根幹にある感情はどうしても抜け出せないらしい。その事に苦笑を浮かべながら、神妙な視線を向けて来るの三人に正直にタナガーは答えた。

「私は根っからの大艦巨砲主義者です。航空機は本音を吐けば嫌いです。ですが、この世界の戦争も含めて、戦場を制する者はまず空を制する者です。戦艦として、これ程までに屈辱的で腹立たしい事はありませんが、現実と事実は受け入れるしかないですからね」

 そう返すタナガーに山汐丸、雪風、時雨はなるほど、と内心呟きながら、彼女のリアリズムにも感心していた。

 再度ビープ音が鳴り響き、ヘビークラウド第二波の接近が報じられる。

≪警報、深海艦載機群第二波。方位100、高度五〇〇。機数五〇≫

「山汐丸、迎撃、間に合うか?」

 振り替えって山汐丸へ問う長門に対して、山汐丸は頭を振る。空母艦娘であれば、素早く着艦した航空機に補給作業を行い、直ちに発艦させていくことも可能だが、山汐丸は所詮は飛行甲板を備えて限定的な航空機運用能力を備えた補給艦でしかない。航空機運用妖精は空母艦娘の航空機運用妖精程配備されていないから、どれ程訓練をこなして効率を上げても妖精の数が少ない以上はマンパワーにも限界がある。

 今の山汐丸の艤装上ではその少な目な航空機運用妖精が燃料ホースや弾薬箱を抱えて走り回り、着艦した八機のF4U-7に再装備、補給を行っている。エンジンを回したまま給油するホットフュエリングも行って給油作業が進行中だ。

 山汐丸の艤装上で行われる再装備作業を見たタナガーは、拙い状況だと内心焦りを浮かべていた。

(ストレンジリアル時代の空母『ジオフォン』が被弾した時と同じね……航空機の燃料、弾薬が甲板上に溢れている状態で戦闘を行っている。被弾したら、花火の様に吹き飛んでしまうわね)

 そうはさせないとタナガーは方位100度の方向の空を見据えて、きっと表情を引き締める。既にCIWSも給弾が完了して、敵機を求めてくいくいと白いサイロを頂いた本体を上下左右に動かしていた。

 

 不気味な飛行音を鳴らして、五〇機の深海艦載機群が姿を現したのは凡そ五分後。

「主砲、三式弾! 対空戦闘!」

 長門の鋭い指示が飛び飛び、彼女と陸奥の主砲が仰角を取り、高度五〇〇メートルを悠然と飛ぶ深海艦載機に対して、射高の概念を取り込んだ射撃諸元を入力し、砲撃開始の火蓋を切る。

 空中で三式弾が炸裂する尺玉の破裂音の様な轟音が空一杯に響き渡り、無数に枝分かれした三式弾の散弾の集中豪雨が深海棲艦戦、艦爆、艦攻の区別なく打ち付ける。見た目こそ派手ではあったが、それで致命的な大損害を負って制御不能になって高度を落とす機体は少ない。

「三式弾、改二になってもこれか……」

 落胆した様に肩を落として長門が言う。

(そもそも、対空射撃に向いていないのよ、戦艦の主砲は。発射速度は遅いし、初速も高角砲と比べたら遥かに遅い。初速が遅いと言う事は、それだけ敵機に回避の猶予を与えてしまう)

 自分以外の全員が深海艦載機群の方を向いているのを良い事に、タナガーは口には出さず、胸中で呟いていた。大口径の戦艦の主砲の砲弾に、対空制圧砲弾を仕込み、敵編隊に向けて放つと言う発想は面白いが、それが果たして効果的かはタナガーにとって疑問であった。三式弾の様な砲弾は寧ろ対地砲撃において面制圧で効果を発揮するだろうが、大口径砲の三式弾による対空射撃は信管をより精度に優れた近接信管にしたところで、敵機との相対速度、射高と言った要素を加味しても相性がいいとは言えない。SF作品でならありそうなもっと広域に渡って、空と言う世界そのものを焼き尽くすかのような砲弾で無ければ、大口径主砲による対空射撃は効果的とは言い難いとタナガーは考えていた。

 五〇機中、落ちたのは精々一〇機と言ったところだ。

「対空戦闘、旗艦指示の目標。各艦、撃ちー方始めー!」

 F4U-7による防空戦闘が出来ない分、艦隊独自の力で退ける以外ない。雪風の長一〇センチ高角砲と時雨の一二・七センチC型改三H砲が対空射撃を開始し、青空にパッ、パッと小口径対空弾の炸裂した黒煙を咲かせる。

 それを見上げるタナガーはCIWSの射程に深海艦載機群が入って来るまで、両腕を組んで二人の駆逐艦娘の対空射撃を眺めた。爆炎の規模からして先に撃墜機を上げたのは雪風だった。タナガーと並んで防空戦闘を任されているだけあり、雪風の対空射撃は一機、また一機と確実に敵機を空と言う舞台から引きずり落としている。正確な射撃諸元に基づいて鋭い砲声と共に撃ち出された対空弾が、高高度を飛ぶ艦爆に元へ届き、アッパーカットを食らわせる様に深海棲艦爆を吹き飛ばす。

 一方の時雨は主砲の仰角の問題もあって、最初から低高度に進入して来る艦攻だけを狙っていた。接近する艦攻は全部で二〇機。最も深海艦載機群の第二波の中で数が多かった。

 時雨が叫ぶ度に、一二・七センチ対空弾が艦攻を真正面から打ち砕く。「てぇい!」と彼女が喚く度に撃ち出された砲弾が艦攻を切り裂き、揚力を失った残骸が海面に突っ込んで水柱を上げる。

 時雨が四機を撃墜した時、艦攻は突如四方向へ分散を開始した。

「クソ! 多方面からの飽和攻撃! 雪! タナガーさん!」

 相棒とも言える雪風を呼ぶと、呉の豪運艦娘は手が離せないと首を振る。佐世保の豪運艦娘は舌打ちし、タナガーを見ると、任せろ、と言う戦艦艦娘タナガーからの無言の返事が返された。

「新たな敵機、本艦のCIWS射程に入る。射線方向クリア! 対空戦闘、CIWS、コントロールオープン!」

 一方向は時雨に任せて、三方向の別角度から進入を試みる艦攻各四機に対して、タナガーのCIWSが咆えた。

 しなる赤い鞭の様に無数の弾丸が一本の線となって放たれ、計一二機に及ぶ艦攻を薙ぐ。弾丸の豪雨を浴びた深海棲艦攻マーク2が原形を失い、崩れきった機体の残骸の山が抱えていた兵装諸共に海面へ力なく落ちて行く。

 だが、一機の艦攻が味方機の残骸を盾にする形で弾幕を凌ぎ、僚機撃墜の黒煙を振り払い、艦隊へ迫った。

 一機討ち漏らした、とタナガーが焦りを覚えた時、

「そいつは私に任せろ!」

 叫ぶと同時に長門の主砲搭上にある二五ミリ三連装対空機銃が射撃を開始した。CIWSのそれより太いが、発射レートは大分遅い二五ミリが艦攻を真正面から迎え撃つ。弾道がやや不安定な二五ミリだが、艦攻の行く手を阻むには充分だった。陸奥からも援護の二五ミリの火箭が撃ち上げられる中、弾幕が艦攻を射抜き、黒煙を引きながら艦攻が軌道を大きく崩して、海面へ突っ込む。

「よし」

「まだです!」

 安堵した様に時雨が溜息と共に一言吐いた時、タナガーは上空を見上げてまだ終わっていないと言葉を叩き付ける。

 雪風ただ一人が迎撃していた艦爆の内、一一機が急降下爆撃に転じようとしていた。

 ダイブブレーキを展開して、急降下に転じた深海棲艦爆マーク2 一一機の不気味な飛行音が鳴り響きだした時、それをかき消さんばかりの轟音が響き渡り、赤い豪雨が上から下に降り注ぐのではなく、下から上へ向かって放たれた。

 始まりが唐突だったのと同様に、終わりもまた唐突に訪れた。赤い豪雨が止み、空に殷々と響き渡っていた銃声が静まって行く内に、一一機の深海棲艦爆マーク2だった欠片が空から投げ落とされた。

 

≪ヘビークラウドより第二艦隊。敵機の全滅を確認。第三波の兆候、認められず≫

≪スカイアイより第二艦隊。間もなくポイント5-5Hの深海棲艦空母機動部隊が主砲射程に入る。通知する、ポイント5-5Nより雷巡チ級flagship級三隻、防空巡ツ級elite級一隻、駆逐艦ハ級後期型二隻の重水雷戦隊が空母機動部隊の増援に向かっている。警戒を怠るな≫

 フッとタナガーは笑みを口元に浮かべた。

「航空機によって駆逐された戦艦が、航空機を運用する空母を一撃すると言うのは痛快ね」

 楽しくなってきたぞ、と不敵な笑みを浮かべるタナガーの前方、水平線上に求める敵の姿が薄らと姿を現した。トップに航空艤装を載せた空母ヲ級改flagship級の艦影を見つけた第二艦隊は、増速をかけ、二隻の空母へ突撃を敢行した。

「重水雷戦隊への対応はこの長門が行う、時雨は援護を頼む。陸奥とタナガーは敵空母を追撃し、これを撃沈せよ。雪風は山汐丸の直掩だ」

「了解!」

「弾を無駄にするなよ」

 弾んだ声で返事を返すタナガーと、無言で了解と頷く陸奥以下の仲間達に注意を喚起しつつ、長門は時雨を伴って艦隊から分離し砲撃態勢に入る。

 ヲ級改flagship級を任されたタナガーは陸奥と共に増速するとヲ級改flagship級一番艦に照尺を合わせた。

「敵一番艦に対して照尺合わせ!」

「正面砲撃戦、第一から第四砲塔、全門一式徹甲弾改、装填良し」

「照尺良し!」

「撃ち方用意良し!」

 砲術科妖精達が射撃準備を整え、用意良しの号令をタナガーに上げる。

「対水上戦闘、主砲、撃ちー方始めー! てぇッ!」

 一式徹甲弾改を装填したタナガーの一六インチ三連装主砲が発砲の火焔を吐き出し、真っ赤に焼けた徹甲弾をヲ級改flagship級一番艦へ向けて投げ飛ばす。砲弾が飛翔する轟音がヲ級改に亜音速で迫り、反転離脱を急ぐヲ級改のすぐ傍に砲弾を撃ち降ろす。巨大な一六インチ弾の水柱がヲ級改の側面にそそり立ち、ゆらりと衝撃を受けたヲ級改flagship級の艦体が揺らめいた。

 遅れて陸奥が主砲の砲撃を開始し、ヲ級改flagship級二番艦へ四一センチ主砲弾を飛ばしていく。

 艦載機を失ったヲ級改flagship級は反転して、全速で離脱を試みるが、ヲ級改flagship級の逃げる足並みよりも、砲弾が飛ぶ速度の方が速い。交互撃ち方で精確な照準をヲ級改flagship級に近づけていくタナガーと陸奥の砲声が、死を宣告する死に神の歩み寄る足音のように徐々にヲ級改flagship級へと近づいて行く。

 第二射の三発を放ち、ヲ級改flagship級の手前に落とした後、更に第三射目の六発を放つ。追いすがる様に飛翔した六発の砲弾がヲ級改の背後を覆い隠す様に着弾し、一種の壁となってヲ級改の姿を一時的に覆い隠す。

「第三射、近! 諸元修正」

「次で挟叉を出したいわね」

 そう呟くタナガーの主砲が第四射を放つ。各砲塔の中砲の砲口から紅蓮の火焔が迸り、駐退機で支えられながら砲身が勢いよく後退する。全三発の一六インチ砲弾が、巨峰の様な弾道を描いてヲ級改一番艦へ頭上から降り注ぎ、艦首側と艦尾側にそれぞれ二発と一発ずつヲ級改flagship級の前後を挟み込む様に着弾し、三つの水柱を突き上げる。

「挟叉を確認!」

「宜しい、次で斉射に移行」

 斉射に移行したタナガーの主砲の砲身九門が水平に戻され、一式徹甲弾改が装填されていく。装填完了、撃ち方用意のブザーが艤装上を駆け抜ける様に鳴り響く。

「主砲、斉射! 撃ちー方始めー! てぇっ!」

 次の瞬間、九門の砲身の正面に目くるめく閃光が走り、紅蓮の炎と黒煙が吐き出され、九つの砲弾が砲煙を突き破って宙を掴んだ。

 斉射された九つの砲弾が弾道を描いてヲ級改に向かう中、タナガーの主砲は再装填作業に取り掛かる。挟叉したとは言え、全弾命中するとは思っていない。必ず何発かは飛翔中の互いの弾道の干渉でコースを逸らす可能性はある。それを可能な限り減らす為に、斉射時は僅かなラグを設けて連続発射する形を取っているが、それでも外れる時は外れる。

「五、四、三、二、弾着、今!」

 砲術科妖精が叫んだ時、ヲ級改flagship級の艤装上に着弾の閃光が走った。何かに思いっきり突き飛ばされた様にヲ級改がよろめき、たたらを踏む。その艤装上には三つの破孔が穿れ、真っ赤な火炎と黒煙が噴出していた。被弾によって機関部にも影響が出たのだろうか、徐々に速度が落ち、タナガーとの相対距離が縮まる。

 速力の低下はこちらの油断を誘発する偽装か? と一瞬疑うが、現状それを行って得られるメリットをヲ級改は持たない。所詮は砲撃戦が出来ない空母だ。戦艦などの水上艦艇艦娘に襲われたら逃げの一手に徹するしかない存在だ。

「第二斉射、撃ち方用意!」

 九つの砲身を手負いのヲ級改に差し向けながら、タナガーは立て直そうともがく空母を見据える。

 ブザーが鳴り、発砲用意良し合図が響き渡る。

「てぇっ!」

 凛と張った声で命じられた射撃号令が合図となり、九つの砲身から九つの一六インチ主砲弾が叩き出される。被弾箇所から火焔を吐きながら必死に遁走を図るヲ級改に、九つの砲弾が追いすがり、鉄橋の下で特急列車の走行音の様な轟音を立てながらヲ級改の艤装上に業火の炎となって着弾した。

 先程の着弾数の倍の六発がヲ級改の艤装上に着弾の爆炎を噴出させる。艤装上とヲ級改の本体に六発の砲弾が直撃すると、内部で爆発した砲弾によって掻き乱された装備品の誘爆の炎が艤装を包み、本体の被弾箇所からは血潮の様なヲ級改の体液が海面上に流れ出る。

 なぶり殺しの様だが、悪く思うな、と思いつつ、タナガーは第三斉射を、ヲ級改に引導を引き渡す一撃を放った。

 二発の一六インチ弾が外れて、ヲ級改の左右に一発ずつ真っ白な水柱を突き上げ、残りの七発がヲ級改を襲った。次の瞬間、タナガーの腹に響くドン、と言う爆発音を上げ、艤装からはじけ飛ぶように現出した大量の炎と黒煙の中にヲ級改は飲まれ、姿を消した。吹き飛んだ艤装の欠片が海上に飛び散り、気泡が膨れて弾けるぶくぶくと言う音を立てて撃破され、砕かれたヲ級改がその身を海中へと沈めて行った。

「敵空母一番艦の撃沈を確認!」

 第二艦隊の全員に聞こえる周波数帯でタナガーが勝利の宣告を誇らしげに告げる。

「流石ね」

 まだヲ級改を仕留めきれていない陸奥が口元に笑みを浮かべて言う。

 次は、重水雷戦隊か、と首を巡らせるタナガーの振り向いた方向に、チ級三隻、ツ級一隻、ハ級後期型一隻に対して砲撃を敢行する長門の姿が見えた。射程のアドバンテージを生かして遠距離から一隻ずつ仕留めようと言う算段のようだが、長門のその思惑とは裏腹に重水雷戦隊は機敏に左右に不規則な軌道を描いて、長門の艦砲射撃を躱していた。

 幾ら長門の主砲を前に重水雷戦隊の装甲は意味をなさないとは言え、当たらなければ意味がない。時雨もいるとは言え、数の上での不利は否めない。ここにタナガーが加わったとしても数的な不利は三対一から二対一へ縮むだけだ。

「ならば、これの出番ね」

 艤装のを振り返って、まだ未使用の一二本の艦対艦ミサイルランチャーを見たタナガーは、既に目視確認出来る距離にいる六隻の重水雷戦隊の内、四隻に艦対艦ミサイルの照準を合わせた。

「こちらタナガー。長門さん、私からチ級全艦とハ級一隻にSSM攻撃を行います。射線方向に注意して下さい」

「了解だ、かたじけない」

 チ級三隻、ハ級一隻を意識しなくて済む様になった長門はツ級elite級に改めて照尺を開始し、主砲が自動追尾を開始する。長門の援護に周る時雨もハ級一隻を気にするだけで済む様になった事で、背中に背負う主砲艤装の照準をハ級六番艦へ差し向けた。

 一方、タナガーのCICではCIC妖精がコンソールを操作してSSMこと艦対艦ミサイルの照準を、チ級三隻とハ級一隻へ合わせる。敵艦の的針、的速、現在位置を算出し、ロックオン。艦対艦ミサイルの射程からすれば、目と鼻の先にいる四隻に対しての発射なので、哨戒機による中間誘導は必要ない。

「データ入力! SSM発射用意良し!」

「対水上戦闘、艦娘指示の目標。SSM攻撃始め!」

 CIC妖精の射撃データ入力完了の報告を聞いたタナガーは、攻撃開始を叫ぶ。

 艤装上で猛然とした噴煙が四つ溢れ、茶色の煙がタナガーを覆いつくす。直ぐに風によって噴煙は吹き流され、煙の中からタナガーの姿と、発射された四発の艦対艦ミサイルが姿を現した。上昇していく四発のミサイルのブースターが早々に燃料を使い切って切り離され、ミサイルが低空へと自由落下していく。その間にミサイル本体のロケットモーターが点火し、チ級三隻、ハ級一隻に向け亜音速で対艦ミサイルが飛翔を開始する。

 海上に衝撃波の航跡を引きながら迫り来るSSMの姿を認めたチ級三隻ハ級一隻が回避行動を試みるが、四隻から跳ね返って来るレーダー反射波を頼りに追尾して来るSSMから四隻が逃れられる手は無かった。主砲を撃ち放って迎撃を試みるが、その放たれた対空弾はSSMの遥か後ろで爆発し、単なる無駄撃ちに終わった。

 瞬きをする間に四隻の深海棲艦が水平線上に火柱を上げて轟沈した。艦娘サイズにスケールダウンしているとは言え、重装備の重巡ネ級すら撃破可能なSSMの直撃を受けた軽装甲のチ級とハ級が耐えられる筈も無かった。一瞬で弾頭の数百キログラムの高性能爆薬と、比較的近距離だった分、丸々残っていたロケットモーターの燃料と言った可燃物と爆発物の爆発の呑み下された四隻は、自身の兵装、機関部の誘爆を引き起こしながら、あっという間に海上から姿を消した。

「凄い!」

 驚嘆の声を上げる雪風の声に、タナガーはにこやかな笑みを返すが、内心では残り八発となった対艦ミサイルの在庫に焦りも覚えていた。タナガーの艤装のミサイル類は、一応データ取りに供出して、データを全て取らせたうえで全て発射機に戻されているが、その発射機の中にこの世界で補充用に作られたミサイルが収まった事はない。研究所に供出されていたミサイルが戻っただけで、補充の目途が立たない各種ミサイル類は撃ち切ったらもう予備は無い状況だ。

「ミサイルが無くなったら、私も普通の戦艦艦娘ね」

 そう思うと苦笑が込み上げて来た。ミサイルによる超射程攻撃が可能なアドバンテージは撃ち尽くすと共に失われるが、純粋な艦砲を持って戦う戦艦艦娘の一人になるのも、案外悪くはないかも知れない。ストレンジリアル時代と違って、艦娘として姿を変えたとはいえ共に戦う戦艦が大勢いるこの世界だ。孤独感よりも満足感がタナガーの中で大きかった。

 程なくしてツ級elite級を文字通り瞬殺した長門と、ハ級を片した時雨から掃蕩完了の知らせが、全隊に通達された。

 

≪スカイアイより第一艦隊旗艦大和へ。第二艦隊は前路掃蕩を完了。進路上に敵勢艦隊は認められず。サーモン北方海域深部への扉が開いた≫

「了解しました。北方ルートのTF58は?」

≪そちらを管制する哨戒機サンダーヘッドからの報告では、ポイント5-5Kを通過して、5-5Pの深海棲艦艦隊の第一群と交戦中との事だ≫

「第三、第四艦隊の状況は?」

≪第三、第四を管制する哨戒機クラックスによると、現在ポイント5-5Oに到達し、索敵警戒を実施中との事だ≫

「こちら大和、全て了解しました。アウト」

 無線を切りながら大和は全艦隊が、サーモン北方海域深部の手前まで到達した事に安堵を覚えていた。第一艦隊も5-5Hに進入した際に、軽空母ヌ級二隻を中核とする深海棲艦の空母機動部隊の残党を思われる攻撃隊二〇機の襲撃を受けたが、加賀から発艦した震電改と大和と武蔵から発艦した強風改二らによって完全に撃退され、第一艦隊も無傷だ。TF58の戦況が気になるが、ポイント5-5Pに展開する深海棲艦艦隊の第一群なら、レ級は弱個体であるノーマル級であり、随伴のル級とツ級、ハ級後期型がほんの少し面倒なだけでTF58の戦力からすれば障害足りえない。

 後は最大投射火力を有するTF58の進路を狂わす航法機器の異常が起きない事を祈るばかりだ。艦隊総軍のシミュレーションでは、海域異常を受けずにサーモン北方海域深部へ到達可能な確率は六五パーセント。フォックストロットノベンバー作戦の時、艦隊が離脱の為に経由したポイント5-5Qにそれてしまう可能性が三分の一の確率で生じる恐れがある。

 だがもし確立に勝てば、戦艦五隻、空母一隻と言う重火力を持つTF58がサーモン北方海域深部の深海棲艦艦隊に圧倒的な火力を投射出来る。

「TF58がサーモン北方海域深部へ突入出来る目途が立つまで、艦隊の進撃を見送らせるのもありでは?」

 そう進言する加賀の言葉に、大和は思案を巡らせた。ポイント5-5Sの南方戦棲姫を基幹とする敵艦隊は航空戦力においてこちらを圧倒しているし、戦艦戦力の火力、雷撃戦火力、何れも現在確定で進撃可能な艦娘艦隊と拮抗している。TF58が加わったところで航空戦力の不利は覆せないが、それでも砲撃戦の火力において不利を被る可能性が減る。

「TF58からの連絡を待ちます。全艦、赤二〇、両舷前進強速」

 友軍の突入の目途が立つまで、一時進撃速度を落とす判断を下す大和に従い、TF58を除く全艦隊へ向けて減速が指示された。

 

 

 それから約三〇分。もどかしいまでの待機が続く中、総旗艦大和の元へスカイアイからサンダーヘッドより共有されて来た一本の通信が入った。

≪スカイアイより大和へ。TF58より暗号通信。『茶会は海では無く陸で行おう』。以上≫

 その知らせを聞いた大和は閉じていた眼を見開き、凛と張った声で全軍に通達した。TF58の旗艦アイオワが打電した暗号通信、それはサーモン北方海域深部への突入可能を知らせるものだった。

 

 

「全周波数帯に発信。総旗艦大和より全軍に達する。『我ラハ来タリ、ソシテ見タリ、誓ッテ共ニ勝タン。全軍突撃セヨ!』」




 六月あまり小説を投稿できなかった分、七月はなるたけ投稿頻度を上げたいと思う所存です。
 エルジア海軍のイージス艦「コンドル」「フィンチ」「スパロー」「マグパイ」はACECOMBAT04の没音声データから判明した艦名(ACE Wiki参照)で、今回タナガーの回想に登場する形で反映させました。

 感想評価ご自由にどうぞ。
 ではまた次回のお話でお会いしましょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。