艦隊これくしょん ストレンジリアル軍艦艦娘転生海戦譜 Season1 作:岩波命自
第一艦隊の艦隊再編、進撃再開を聞いたTF58、第二艦隊、第三、第四艦隊が動き出す。
「索敵班より、水平線上に艦影多数を確認! 右舷一時より近づく!」
「艦種識別!」
「棲姫級航空戦艦四、航空戦艦四、空母三、重巡一、防空巡一、駆逐艦八!」
「ソーナー探知、081度、深さ一〇メートル、速力五ノット、距離七五〇〇。敵潜水艦数三。雷撃深度へ浮上中の模様」
忙しく報告を連鎖してあげて来るCIC妖精の報告を聞いた総旗艦大和が水平線上に浮かび上がる南方戦棲姫、レ級elite級、空母ヲ級改flagship級らのHVTの姿を見つめて、凛と張った声を上げた。
「全艦戦闘配置! 面舵三〇、砲雷同時戦、対潜戦用意!」
「おもーかーじ!」
「戦闘配置発令!」
第一艦隊、第二艦隊の陣形が梯形陣へと移行していく。特殊砲撃射撃体勢に陣形を組み替えたのだ。
長門型、そして大和型の特殊砲撃を持って一挙に六目標を撃破する目論見を立てる第一艦隊と第二艦隊の視界の向こうで、突撃を開始するTF58の姿が見えた。深海南方任務部隊本隊の隊列のど真ん中へ突入していくTF58の六人に対してレ級elite級四隻から精密雷撃が放たれる。
「Torpedo trail! Starboard saide, Bearing 081! (雷跡確認、右舷081度!)」
先頭を切るアイオワが叫ぶ。レ級四隻が放った精密雷撃が海中を疾駆し、TF58の六人の誰かの足を絡め捕り上げようと迫る。
右舷側、081度から来る、と言うアイオワの叫びに、全員が単縦陣を組んだまま魚雷の方へと舵を切り、横列を組んで接近するレ級の雷撃に対し被弾面積を最小限に抑える。万一アイオワが食らったとしても、被害は先頭のアイオワに集中するから、後続のニュージャージー以下は守られる。
それに入射角によってはアイオワの靴底のバルバスバウで魚雷を弾けるかもしれないと言う淡い期待もった。
四隻のレ級elite級は時間差を置いて五発の魚雷を四回にわたって発射していた。更にレ級四隻のそれぞれの展開位置から微妙に射角も異なり、合計二〇発に上る魚雷群も五発ずつに的針が少しずつだが異なっていた。
海面に白い航跡を浮かび上がらせながらするすると白い一文字の雷跡を自身の方へと伸ばして来る魚雷群の第一波を見据えたアイオワが微妙に舵を修正し、ニュージャージー以下五人がそれにぴたりと続く。
程なくして機械室から鳴り響くモーター音を海上に立つ六人にも聞こえる距離で鳴らしながら、最初の五発がアイオワを掠める様に通り過ぎて行く。
「取り舵五度、Follow me!」
即座に第二波に備えるアイオワが次の五発の魚雷群に備えて舵を切った時、遠方で砲声が響き、水平線上を砲煙が埋め尽くした。深海南方任務部隊本隊が砲撃を開始したのだ。数十秒後には砲弾の雨が六人を包み込むことになる。
舌打ちしたアイオワは即座に作戦を変更した。自身の主砲に最大限俯角を取り、迫る魚雷群の鼻先に砲口を追従させる。
「Open Fire!」
タイミングを合わせたアイオワの射撃が海面を打ち、海中に飛び込んだ徹甲弾が水中で爆発する。魚雷群の鼻先で爆発した砲弾九発の爆圧が、魚雷群の進路を捻じ曲げ、あらぬ方向へと五発の魚雷を誘う。
アイオワの射撃で第二波を躱したとはいえ、続く第三波、第四波の来襲までに主砲の再装填が間に合いそうにない。
「ニュージャージー、ワシントン、海面を撃って! 魚雷群の進路を砲撃で捻じ曲げるのよ!」
「Aye ma'am」
二人から即座に返事が返され、アイオワがニュージャージーと位置を変える。ニュージャージーの瞳が第二波の魚雷群五発を見据え、正確な射撃諸元を導き出し、主砲の俯角を最大に取って海面を狙う。
「Battery release!」
ニュージャージーの射撃号令が発せられ、アイオワと同じMk.7一六インチ三連装主砲が海面を薙ぐ。
散布界は近距離とあって上出来だ。海中に飛び込んだ九発の砲弾は、五発の魚雷を目視不能な爆圧と言う手で折り曲げ、二発は艦隊の左右へ、三発は海底へと進路を曲げられてTF58を捕捉する事無く燃料が尽きるまで無為な航走を続ける。
即座にニュージャージーはワシントンと位置を交代し、自身は主砲の再装填に移る。ワシントンが「Open Fire!」と叫び、Mk.6一六インチ三連装主砲mod2を海面に向けて撃った後、ワシントンがアイオワに問う。
「第四波はどうするの?」
「それは当たらないわ、無視して良し」
レ級の射角が拙かったのだろう、第四波となる魚雷群五発はTF58が少し進路を変えるだけで余裕で躱せる進路を取っていた。
ワシントンが第三波の魚雷群を無力化した時、深海南方任務部隊本隊の砲撃が着弾した。挟み込む様に大口径主砲の砲弾がアイオワ、ニュージャージー、ワシントン、サウスダコタ、マサチューセッツ、サラトガの左右で巨大な水柱を突き上げる。
しこたま水柱を成す海水を頭から浴びながらも、サラトガは果敢にも残存機で構成された攻撃隊を打ち出した。
「Attack!」
射出音と共にSB2C-5とTBM-3D、F6F-5の混成編隊が空を掴む。三〇機程度の攻撃隊が空へ飛び立ち、深海南方任務部隊本隊の随伴艦を務める中小型艦を目標に吶喊していく。
ヲ級改flagship級三隻からも遅れて艦載機が発艦し始めていたが、編隊を組む前にTF58と深海南方任務部隊本隊の相対距離が近づきすぎており、攻撃の構えを取る事は無かった。
距離が縮まると言う事は、深海南方任務部隊本隊の砲撃も精度を上げると言う事であった。だがその条件はTF58もまた同じだった。
「Fire!」
アイオワの凛と張った号令が下る。直後、四五門にも上る一六インチ主砲の砲声が鳴り響き、深海南方任務部隊本隊の方へと四五発の砲弾の弾道を伸ばしていった。
最大速度で吶喊するTF58に深海南方任務部隊本隊の南方戦棲姫四隻とレ級四隻が集中砲火を浴びせる。TF58を上回る火力が投射され、六人の前後左右を水柱が包み込む。水柱がカーテンとなって六人の視界を遮る中、電子の眼、即ちアイオワ、ニュージャージー、ワシントン、サウスダコタとマサチューセッツに備えられたSK+SGレーダーによって正確に照尺された主砲が水柱の壁を突き破り、深海南方任務部隊本隊の周りに着弾の水柱を立ち上げる。
最初に有効弾を得たのはアイオワだった。まだ発砲していないネ級elite級に着弾の閃光が走り、爆炎が炸裂してネ級elite級の姿勢がぐらりと揺らぐ。次いでニュージャージー、ワシントン、サウスダコタとマサチューセッツ一六インチ砲が南方戦棲姫とレ級に着弾の爆炎と、黒煙を突き刺していく。
南方戦棲姫とレ級、それにヲ級改flagship級らは応射をしようとしたが、出来なかった。深海南方任務部隊本隊の中央を突っ切るTF58に向かって撃てば当たるかも知れなかったが、万一外した場合、反対側にいる深海南方任務部隊本隊の味方に当たる可能性が高かった。
中央突破で深海南方任務部隊本隊の混乱を誘発する、と言うニュージャージーの策は成功に終わった。だがTF58の砲撃による成果はネ級elite級一隻を大破、南方戦棲姫とレ級全艦に直撃弾数発を与えるも中破にもならない、痛手とはやや遠い結果を残すにとどまった。
サラトガから発艦した攻撃隊が大破しているネ級elite級に止めを刺したものの、深海南方任務部隊本隊の大半の艦艇は実質無傷も同然に残った。ただその隊列は大きく崩れ、隊列を再編しようと右往左往する各艦は、どの艦がどの一群なのかでまた混乱を生じさせていた。
その間にTF58は深海南方任務部隊本隊をすり抜け、一時的に戦域外へと離脱した。
「愛鷹一号機、深海南方任務部隊本隊の上空にて触接を開始。射撃諸元データ、来ます」
「座標、57、33、19、21、21、45!」
「射撃データ入力完了、愛鷹、黒姫、青葉、加古、四艦連動。支援砲撃、撃ち方用意良し!」
第三艦隊の愛鷹のCIC妖精が矢継ぎ早に報告を上げて来る。今、愛鷹の諸元に基づいて、彼女と黒姫、青葉、加古の三一センチ三連装主砲と二〇・三センチ連装主砲二号砲の二種類が、効力射支援の為に深海南方任務部隊本隊の位置へと狙いを定めていた。
「攻撃始め。愛鷹型二隻及び六戦隊重巡二隻による統制射撃を行う、各艦は旗艦愛鷹の諸元にて統制射撃を実施」
「了解!」
黒姫、青葉、加古の三人から相次ぐ返答が返され、愛鷹を含めた超甲巡艦娘と重巡艦娘の四人の主砲が深海南方任務部隊本隊のいる方向へと差し向けられる。一方第三、第四艦隊の随伴の一八駆と一一駆の八人の駆逐艦娘は、四人の周りで対空対潜警戒に付いていた。
「目標、深海南方任務部隊本隊! 射撃諸元は愛鷹一号機のデータを使用。交互撃ち方!」
愛鷹から発艦して触接を維持している零式水上観測機の一号機からの諸元を受け取ったCIC妖精が、速やかにそれを射撃管制装置に入力し、愛鷹の九門の三一センチ三連装主砲の右砲と左砲がまず仰角を取る。主砲砲身内部には一式徹甲弾改が装填され、装薬も押し込まれ発砲用意良しのブザーが鳴り響く。
「射撃用意良し。愛鷹、攻撃準備完了」
「黒姫、攻撃準備完了」
「青葉、攻撃準備完了」
「加古、攻撃準備完了」
三人からの返答を聞いた愛鷹は息を軽く吸って、水平線の向こう側にいる深海南方任務部隊本隊の姿を凝視しているかのように見据えると、張り上げた声で叫んだ。
「全艦、急斉射! 主砲、撃ちー方始めぇッ!」
次の瞬間、愛鷹、黒姫の三基の三一センチ三連装主砲の右砲、左砲が、青葉と加古の右砲が一斉に火炎を迸らせた。
急斉射、即ちまだ先に撃った射撃が空中にある段階で次弾を送り込む、間断なき砲撃が第三、第四艦隊から発射される。海上に間断の無い砲声が轟き、交互撃ち方で撃ち出された砲弾が宙を飛び、深海南方任務部隊本隊の頭上から降り注がれていく。
TF58の突入で隊列は愚か艦隊の行動に混乱が生じただけでなく、決して軽くは無い損害も受けた深海南方任務部隊本隊の頭上から、第三、第四艦隊の砲撃が降り注ぎ始める。
超甲巡の愛鷹と黒姫、やや近年の深海棲艦重巡の性能のインフレーションからすれば、性能的な陳腐さは否めない六戦隊の青葉と加古の砲撃は、南方戦棲姫とレ級、ヲ級改flagship級に致命的ダメージを与えるには至らない。だが、その周囲を固める、或いは従属する防空巡ツ級、駆逐艦ハ級後期型合わせて九隻に取っては一撃で大破、ないし撃沈に至れるほどの大火力である事は間違いなかった。
急斉射で雨あられと撃ち込まれる支援砲撃が、ツ級、ハ級の周囲に着弾し、やがてその艤装上に、本体に着弾の火焔を噴出させる。轟音を上げてハ級三隻が瞬く間に轟沈し、二隻が大破、航行不能になり、ツ級が中破して魚雷発射管を損傷し雷撃戦不能に陥る。
規定数の効力射を撃ち込んだ第三、第四艦隊は砲撃を止めて、残る深海南方任務部隊本隊の主力艦の掃蕩を第一、第二艦隊にバトンタッチした。
「後は頼みますよ」
ひとしきり撃ち尽くした主砲の冷却を開始しながら、愛鷹は水平線の向こう側にいる大和、武蔵、長門、陸奥、そしてタナガー達の健闘を祈った。
その時、双眼鏡を構えて警戒監視に当たっていた陽炎が、水平線上に黒煙を上げながら接近する人影を確認した。
「第一艦隊の戦列から離脱した宗谷の姿を確認! 結構ボロボロよ……あれだけやられて良く生きてるわね……」
半分呆れ、半分感心交じりに言う陽炎に駆逐隊の同僚の霞もこめかみに冷や汗を浮かべて頷く。
「奇跡の船、とはよく言われている宗谷だけど、奇跡ってものは安売りしてる訳じゃないものね」
「奇跡は安売りしてねえ、か。上手い事言うな霞よ」
深雪が堪え切れない苦笑を顔に浮かべて言う。その宗谷の「奇跡」と言うものの加護かは分からないが、宗谷とのポーカー対決で深雪は全敗を喫している経験がある深雪にとっては笑わざるを得なかった。
程なく宗谷との合流を果たした第三、第四艦隊は一八駆を護衛につけて宗谷を下がらせると、逆に愛鷹、黒姫、青葉、加古、吹雪、白雪、初雪、深雪と言う形で艦隊を再編し、最深部との距離を詰めた。旗艦となる愛鷹としては、第一、第二艦隊とTF58に更なる支援砲撃が必要なら、三一センチと二〇・三センチで更に深海南方任務部隊本隊に効力射を浴びせるつもりだった。
「敵、陣形が乱れる」
「第一戦隊、第一、第二小隊。統制砲撃戦用意! 長門型及び大和型各艦は梯形陣へ移行」
大和からの号令が飛ぶ。射撃用意のアラームが統制砲撃事特殊砲撃の射撃管制艦である大和と長門、そしてそれに従属する武蔵と陸奥の艤装上で鳴り響き、四人の艤装上に備えられている巨大な艦砲を頂いた砲塔が、混乱から復帰できていない深海南方任務部隊本隊へと指向する。
「攻撃始め。第一戦隊各小隊にて統制砲撃を行う!」
「了解、二小隊長門より一戦隊各艦に達する。小隊ごと深海南方任務部隊本隊に統制砲撃を行う!」
復命する長門の右斜め後ろに陸奥が遷移し、長門と同じ四一センチ三連装主砲と連装主砲の砲口を南方戦棲姫とレ級へと差し向ける。
特殊砲撃の号令を下命する大和の右斜め後ろには同じように武蔵が展開し、五一センチ連装主砲に一式徹甲弾改を装填していく。武蔵を始め、第一戦隊の戦隊旗艦として指揮を執る大和、二小隊を構成する長門、陸奥の主砲の砲身にも同じように一式徹甲弾改が装填されていく。入射角にもよるが、理論上その強化徹甲弾はこの世に存在するあらゆる深海棲艦の装甲を射抜き、内部から引き裂いて行く力を持っている。
「砲術、目標深海南方任務部隊本隊旗艦南方戦棲姫及び随伴航空戦艦レ級。目標への射撃データは愛鷹一号機の物を使用。交互撃ち方」
「了解!」
艤装内部のCICで砲術科妖精がディスプレイを見つめながら、大和のヘッドギア型測距儀と連動した照準に細かい補正を加えていく。コリオリの力、砲弾のコンディション、大気中の湿度、温度と言った環境要素と艦娘に丸投げすると、その計算の為だけに多大な時間とリソースを割く事になる作業を、CICに居る妖精が補っていく。
「艦娘間データリンク接続。システムは特殊砲撃に切り替え」
「スタビライザー、波の波長を計測し、安定化を最適化」
「主砲搭、各砲身強制冷却装置オンライン。冷却水放水開始」
「装填装置各部異常なし」
「大和と武蔵の射撃管制装置、同調を確認。以後、第一戦隊第一小隊の射撃管制は戦隊旗艦大和に一任す」
データリンクが接続され、大和と武蔵、長門と陸奥の射撃管制装置がそれぞれ一つの物として同調、管制され、射撃目標を割り当てていく。
特殊砲撃の態勢を整えていく第一戦隊の視界の向こう側で、体勢を立て直した深海南方任務部隊本隊が隊列もそこそこに各個に応射を開始した。魚雷はTF58に既に発射してしまっており、再装填に時間がかかるから撃てなくても、レ級、南方戦棲姫にはそれぞれ大口径の主砲が備わっている。それらが深海棲艦からすればこちらを凝視したまま一発も撃たない不気味な状態を続ける第一戦隊に向けて火を噴いた。
さらにレ級から深海飛び魚艦爆が次々に発艦を開始し、上空集合もせずに小隊規模の編隊を組んで第一戦隊に向かって来た。
特殊砲撃の統制下に無いだけに余裕があったタナガー以下、第一、第二艦隊の他の艦娘がここで動いた。
「対空戦闘! 目標、第一戦隊に向かう敵機群。全部まとめて空の欠片にしてやりなさい!」
空の一点を指さし、鋭い眼光で睨み上げるタナガーの視線と同じ方向をCIWSの銃口が向く。更にその隣で雪風が対空迎撃の構えを取り、やや後方では加賀が戦闘機を込めた矢を空へ向けて放ち、その両側を長波と朝霜が硬め、加賀の後ろに山汐丸が布陣する。
一方、時雨はと言うと洋上の喧騒に紛れて接近を図る三隻の敵潜水艦に対して阻止行動に移行していた。時雨の上空では加賀から発艦した彩雲が上空から援護の構えを取り、浅深度へ浮上して来る深海棲艦の潜水艦を上空から目視で確認しにかかっていた。
「対空戦闘、攻撃始め!」
短いガトリング機関砲の射撃音が複数回叫び声をあげ、レ級から発艦して来た飛び魚艦爆の小編隊を片っ端から吹き飛ばす。雪風の主砲も対空弾を撃ち上げ、更に加賀から発艦した震電改一二機が邀撃に入る。編隊の規模は小さい。上空で大規模な編隊を組む余裕がないから、小隊規模の各個投入になっており、それは結果として各個撃破と戦力の逐次投入と言う結果に繋がっていた。
だが、戦術的には愚策と言われるそのレ級の航空攻撃も、今この場では有効ではあった。数が多ければ多い程、タナガーと雪風、加賀の戦闘機隊が相手をせねばならない敵編隊の数は多く、しかもその全てが爆装しているからには一機たりとも見逃すわけにはいかない。
飛び魚艦爆が艦隊へと迫る。タナガーのCIWSに空から消去される様に撃墜されても、雪風の的確な対空砲撃の砲弾を食らって四散しても、加賀の震電改の三〇ミリを食らって制御不能になって海面へと死のダイブを始めようと、仲間の上げる黒煙や爆炎を踏み越えて、飛び魚艦爆の群れが押し寄せる。
「望み通り海に叩き落してくれる!」
CIWSで四機単位に飛び魚艦爆を抹消しながらタナガーが叫ぶ。雪風に加えて長波、朝霜も対空射撃を開始している。一二・七センチと一〇センチの二種類の小口径主砲の射撃音が大気を引き裂き、戦艦艦娘の主砲弾を遥かに凌ぐ初速で空を駆けのぼり、敵機を一機、また一機と撃ち落としていく。
だがそれでも依然四〇〇機以上の飛び魚艦爆を残すレ級はいくら撃墜されようが構わず飛び魚を放ち、同時主砲による砲戦も行う。第一戦隊の前後左右の海面にレ級と南方戦棲姫の放つ砲弾がめり込み、海面を震わせながら巨大な水柱を作って四人の姿を隠す。
「着弾、右30度! 至近!」
「武蔵、及び長門、挟叉されました!」
見張り員妖精が焦りを滲ませた声で叫ぶ。
「武蔵、隊列を維持して」
内心焦るなよ、と妹に呼びかけながら、大和は南方戦棲姫とレ級elite級の姿を一対の目で見据えた。
再び飛来した砲撃が大和の左足の靴のバルバスバウを水柱で軽く掬い上げた時、CICの砲術科妖精が「射撃用意良し!」と叫ぶ。
「第一戦隊旗艦大和、攻撃準備完了!」
「攻撃準備完了!」
武蔵、長門、陸奥から同じセリフが同時に重ねて返されるや、大和は喉を張らして力強い一声を上げた。
「主砲、撃ちぃ方ぁ始めぇッ!」
「発砲! てぇッ!」
CIC妖精が射撃グリップの撃発ボタンを押し込んだ。
直後大気を震わせ、耳朶を殴りつける二種類の砲声が洋上の全ての世界を支配した。紅蓮の炎が大和、武蔵、長門、陸奥の艤装前面に噴出し、四人の髪を後ろへ靡かせる強風が衝撃波となって現れ、四人の周囲の海面が衝撃波でローラーされて凹んだ。
一斉砲撃が放たれた直後、第一戦隊の艦娘の砲身から冷却水が放水され、焼けた砲身を冷やす水が砲口から吐き出される。水平に戻る砲身に即座に装填装置が次弾を装填し、装薬が押し込まれ、慌ただしいが正確な動作を持って再装填が終わるや、第二射が続けて放たれる。顔面を強打した様な衝撃が四人の戦艦艦娘を襲う中、四人は努めて噛まない様に舌を引っ込め、口を半開きにして衝撃を口から逃がし、腹に力を込めて耐える。衝撃と轟音と眩い閃光が更にもう一度走った後、急斉射で放たれた三連射の砲撃が深海南方任務部隊本隊へと降り注いだ。
五一センチ一二発、四一センチ二〇発。真っ赤に焼けた灼熱の鉄塊が、南方戦棲姫とレ級、そして弾道がそれた一発がヲ級へと弾道を伸ばし、着弾地点へと結びつけた。
南方戦棲姫とレ級が次弾を装填する間に、第一戦隊の放った砲撃が着弾した。一式徹甲弾改が秒速数百メートルの速さで上空から弧を描いて落ち、南方戦棲姫とレ級、そして不運なヲ級の装甲版を射抜き、内部で起爆した。
金属の分厚い板を射抜く轟音が鳴り響き、不気味な沈黙を一瞬置いた後、まずレ級二隻がその艤装上に紅蓮の炎を溢れ返らせた。耳をつんざく轟音と共にレ級の主砲搭が宙を舞い、ターレットから溢れ出た炎の濁流がレ級を飲み込む。二隻のレ級は何とも運の悪い事か、主砲搭部の天蓋を五一センチ主砲弾によって容易く撃ち抜かれ、その直下にある弾薬庫で一式徹甲弾改が起爆したのだ。誘爆の嵐がレ級を襲い、再装填中の魚雷発射管がその誘爆の炎の中に消えて直ぐ、艦娘の脚を吹き飛ばさんとする深海魚雷が持ち主のレ級に牙を剥いた。
二種類の誘爆の火焔に焼き払われたレ級が断末魔の叫びをあげて、悶え、のたうち、喫水の深さを深め始める。お世辞にも長いとは言い難い二本の脚が急激に海中へと沈み込み始め、浮力を喪失したレ級elite級二隻が炎を新たな死に装束として纏って沈んでいく。
二隻のレ級elite級が轟沈する中、残るレ級elite級は辛うじて耐えた。艤装とレ級elite級本体に立て続けに鉄塊が激突し、運動エネルギーによる衝撃、内部に潜り込んで起爆した徹甲弾の炸薬によってぐちゃぐちゃに引っ掻き回されながらも、辛うじて戦闘能力を維持していた。青い体液を大量に流し、火災の炎を赤いオーラに代わって上げながら、レ級elite級は稼動する全火器を第一戦隊の方へと向けた。
南方戦棲姫も全艦が五一センチと四一センチの両方を浴びて、三隻が瞬く間に深刻な損傷を負った。強固な装甲は大和型改二の一式徹甲弾改の前には意味を成さず、まず先に突入して来た五一センチ数発によって装甲を粉砕され、南方戦棲姫は己を守る鎧を喪う。鎧を喪った生身の本体、艤装に留めの長門型の四一センチが突入し、南方戦棲姫を内側から破壊して行った。飛行甲板が轟音と共に吹き飛び、砲塔が基部から外れて海中へと転がり落ちる。南方戦棲姫の中でも三番艦の艦載機格納庫で艦載機の為の補給物資が誘爆し、揮発性のガスに引火するのと同じ恐怖を煽る音共に誘爆の火焔が南方戦棲姫三番艦を包み込む。
南方戦棲姫一番艦、二番艦はその大きな艤装をそれぞれ左右へと傾け始めている。主砲搭は第一戦隊の方を向いているが、傾斜が急になった為か、弾薬を上げられなくなったらしく、撃つ事は無かった。四番艦だけ比較的被害は軽微で済んだのか、黒煙を上げつつも主砲搭を構え直して砲撃戦の継続を目論んでいた。
撃沈四隻、大破一隻、中破三隻と言った具合の砲撃結果に大和は満足気な溜息を吐く。紅蓮の炎と漆黒の黒煙に包まれる海上で、なお戦闘続航を選ぶ深海南方任務部隊本隊の残存艦艇が第一戦隊の方へと砲撃を再開した。
火力投射量が大幅に低下した深海南方任務部隊本隊の射撃が作り出す水柱を眺めながら、大和は低い声で告げた。
「残敵を掃蕩。この海域に勝利を刻みます」
「左回頭270度、最大戦速」
二本の細長い足先に履くローファーのヒールアップしている踵の下から、最大戦速へブーストするパワーが流れ出し、時雨の身体を最大速度で走らせる。
遠くでは戦艦艦娘の砲撃戦が行われる雷鳴の様な砲声が轟き、びりびりと震える大気が時雨の元にまで伝わって来る。
「魚雷音!」
焦り過ぎて方位と距離を端折った水測員妖精が叫ぶ声が、時雨の艤装内のCICから飛ぶ。
「訓練通りやるんだ、方位、距離を知らせ」
「水中に突発音。右舷真横、距離三〇〇メートル」
時雨の頭が右横へと向く。彼女の視界に一対の魚雷の航跡が目に入った。あれは当たらないな、と確信を感じる時雨の見る先で、二本の魚雷が時雨のラダーヒールを掠める様に後方を流れ去っていく。
「面舵一杯、急げ!」
二式爆雷改二を投射機にセットさせながら、時雨が回頭を叫ぶ。右へと進路を振る彼女の右手で、相棒とも言うべき雪風が先んじて敵潜水艦を探知したのか、三式爆雷投射機からドラム缶型の爆雷を海中へと投射する。
「時雨、こちら雪風。現在爆雷攻撃中!」
あどけなさのある声で伝達する雪風の声と小さ目の身体の背後で、四発の爆雷が爆発する水柱が立ち上る。
「了解、雪。爆雷投下の為、そっちへ回頭する」
改めて旋回する時雨のCICで傾く艤装の傾斜に足や腕に力を込めてコンソールにしがみ付きながら水測員妖精が報告する。
「海中で爆発音のみ探知。敵潜の状況不明」
「面舵、方位010度」
更に右へと回頭を続ける時雨は海面を凝視し、潜望鏡、潜水艦の船体、その他が浮かんでこないかを確認する。対潜戦の成績は白露型でもトップクラスの時雨だ、逃す気は更々ない。
右へ右へと旋回を繰り返す時雨にソーナーが回復したのをCIC妖精が通告する。探信音が鳴り響く中、ソーナーの状態を再調整した水測員妖精がレシーバーを掴んで告げる。
「敵潜探知、方位001、距離三五〇メートル」
「面舵一杯、方位065度」
右旋回して敵潜水艦への攻撃態勢に入る時雨に、水測員妖精がソーナーから聞こえる音源をヘッドセットに共有して来た。ローファーの靴底に備え付けられた四式水中聴音機が拾う敵潜水艦ヨ級の機関音が、雪風の機関音と時雨自身の機関音に交じって聞こえて来る。
その時、タンクのブロー音が聞こえ、時雨は驚いた。一隻が浮上を試みている。
右舷後方を振り返る時雨の視界に、ヨ級が浮上するのが見えた。艤装に損傷痕が見られる辺り、先程の雪風の爆雷攻撃が有効打となったようだった。
双眼鏡を構えて潜水艦の様子を伺う見張り員妖精が時雨に、環境音に負けない声で叫ぶ。
「損傷激しく潜航困難の模様」
「よし、面舵一杯!」
浮上砲撃戦で仕留めてやると再び面舵に転じた時雨は背中に背負う一二・七センチC型改三H砲を展張すると、両手で構え水上射撃の構えを取る。
ぐるりと旋回した時雨が主砲の砲口をヨ級に合わせるや、即座に時雨は砲撃を開始した。
両腕でコントロールする主砲が発砲音と共に小口径砲弾をヨ級の元へ飛ばし、そのすぐ傍に着弾させる。機銃座も射撃を開始し、二五ミリ対空機銃が曳光弾交じりの火箭を潜水艦に浴びせる。ヨ級が時雨の内懐に飛び込んで離脱する挙動を取ろうとするが、接近される前に時雨の砲火がヨ級の船体に突き刺さる。
雪風は対潜警戒に戻る中、時雨の砲撃がヨ級を捉え、空気を震わせる爆発音を一回鳴らした後、ヨ級の姿が薄らとした黒煙を上げながら急激に海中へと没した。
「敵潜、急激な浸水音確認。撃沈を認む」
「よし。残り二隻、行くよ」
主砲を再び背負い込みながら、時雨はヘッドセットに両手を当てて、残る二隻の潜水艦の行方を探った。
海中にまで響く砲声に、もう一つの伴奏が加わっていた。
「撃ち方始め!」
沈没したレ級、南方戦棲姫の奥で、遁走を図ろうとしていたヲ級三隻と中破しているツ級に、タナガーは単独で強襲をかけていた。
彼女の一六インチ三連装主砲三基が砲口から火焔を放ち、赤黒く焼けた鉄塊を九つ空中へ投げ飛ばした。既に被弾し、中破しているヲ級改flagship級に応戦する術は無く、航行能力に難がある一隻を置いて、二隻が遁走を図っていた。
タナガーはそれを見て、砲撃を行いつつ策を巡らせた。航行能力に難がある一隻とツ級を先に片すとして、この二隻を攻略している間にあの二隻のヲ級は最大速度で自分との距離を開けていくだろう。幾らタナガーの砲撃の腕前が良くても、遠すぎる相手に正確無比な射撃は望めない。
であるならば、導き出せる回答は一つしかなかった。
「SLCM、攻撃始め! こちらタナガー、哨戒機スカイアイへ。本艦はこれより巡航ミサイルによる敵空母への追撃を敢行する。中間誘導を求む」
≪こちらスカイアイ、了解した。貴艦の巡航ミサイルの中間誘導を担当する≫
タナガーの艤装にはまだ未使用のSLCM Mk72対地対艦巡航ミサイルが三二発あった。類似する兵装の対艦ミサイルよりは近距離での取り回しが効かない点を除けば、タナガーの中で主砲と対艦ミサイル以外では最もリーチの長い兵装だった。
四発の巡航ミサイルを収めている装甲ボックスランチャーが立ち上がり、発射口の蓋が開いた。射撃データをCIC妖精が入力し、ヲ級改flagship級二隻の遁走ルート、方位などをミサイルへインストールしていく。
艤装上でSLCM発射前の警告のアラームが長く、鳴り響いた。
「SLCM、発射始め、てぇッ!」
猛然とした噴煙がタナガーの艤装上からあふれ出し、四発の巡航ミサイルが一発ずつ空高く駆け上って行く。噴煙でタナガーの姿が隠される中、四発の巡航ミサイルがブースターの力で上昇していき、そのまま空高く天空を目指すかに見えた時、ブースターの燃料が切れて自動的にパージされ、安定翼を展張したSLCMが慣性飛行に移る。
遁走する二隻のヲ級改flagship級二隻に亜音速で四発の巡航ミサイルが追いすがる。最大速度で逃げるヲ級改flagship級は捨て置かれたもう一隻ヲ級改flagship級の相手をするタナガーの視界外で、徐々に距離を放していく。
艦娘の追撃は無い、自分達を最初に行動不能にしたアメリカ艦隊は警戒に当たっているらしく、攻撃して来ないからこのまま離脱出来そうだ、安心がヲ級改flagship級二隻を包もうとした時、その安堵を四つの長槍が切り裂いた。
亜音速で追いかけて来た巡航ミサイルが二発ずつヲ級改flagship級に着弾し、弾頭に充填された大量の高性能炸薬を起爆させた。艦娘の視界外、かつ主砲の射程外からの攻撃にヲ級改flagship級が驚愕の表情を浮かべた時、二隻の視界は紅蓮の炎に包まれ、世界が深紅に染まった。
直撃した二発の巡航ミサイルは既に手負いのヲ級改flagship級の航空艤装と本体を直撃し、起爆した炸薬の炎の中に包み込んだ。浮力を喪失した一隻が横転し、もう一隻は海上に膝をついて天を仰ぐ。燃える人影となるヲ級改の姿を海水とせめぎ合った炎によって生み出された水蒸気の白煙と頭部の航空艤装の上げる黒煙が包み隠し、水泡と気泡の弾ける音を立てながら二隻が海中へとその身体を没させていく。
遠く水平線の彼方で二つの爆炎が閃光と共に走り、二隻のヲ級改flagship級が轟沈した事を示す黒煙を空高く立ち昇らせた。
≪敵空母二隻の撃沈を確認≫
撃沈を報告するスカイアイの報告に、タナガーは了解とだけ返すと、目の前のヲ級改flagship級に留めの一撃を撃ち込んだ。
手負いのヲ級改flagship級に仕上げの一六インチ砲弾が突き刺さり、足を引きずる様に航行していたヲ級改flagship級がその引きずっていた足から海中へと沈み始める。もがく両手が海面を掴もうとして虚しく水飛沫を立てる中、引きずり込まれる様に消えていくヲ級改flagship級の最期を見届けたタナガーは、第一戦隊の援護に向かった。後にはヲ級を護衛しきれず、タナガーに一蹴されたツ級が横転しようとしていた。
大破一隻、中破三隻を残すのみの深海南方任務部隊本隊だったが、深手を負っても尚激しく抵抗をしていた。
一方の第一戦隊はと言うと、被弾は無いものの、特殊砲撃を行った直後とあってFCSや砲身への負荷が激しく、直ちに応射へと移行出来ていなかった。深海南方任務部隊本隊の半数を仕留めた第一戦隊は残る半数の深海南方任務部隊本隊の基幹戦力に押し返されかけていた。
だが損傷で索敵能力が大幅に低下した深海南方任務部隊本隊の北と東からTF58の五人の戦艦艦娘とタナガーが挟撃にかかっている事に、深海南方任務部隊本隊は気が付いていなかった。
「Let‘s finish the job. Fire four at will. (仕上げにかかりましょう、適宜撃って)」
出番が来たとアイオワがニュージャージー、ワシントン、サウスダコタ、マサチューセッツへ射撃の合図を送る。
「Fire」
乾いた声でニュージャージーが右手を振り下ろした直後、TF58の一六インチ三連装主砲Mk.6とMk.7の二種類が火を噴いた。
一拍遅れて、タナガーの主砲も大破しているレ級elite級へ砲弾を送り届けた。
「主砲、好きなだけ撃ちなさい」
艦隊決戦、その最終盤の場において、仕上げの砲撃を自然と任される形となったタナガーは込み上げて来る興奮を抑えながら、主砲をレ級elite級へ向け、引き金を引いた。彼女の艤装上で三基の一六インチ三連装主砲が咆え、徹甲弾が唸り声を上げ、九つの軌跡を薄らと空に引きながら飛んで行く。
最大戦速で前進するタナガーは、勝利をつかみ取らんと前進するかの様に赤い海を進んだ。鋭い艦首波を爪先で立ち上げ、ラダーヒールの後ろへと長い航跡を引きながら彼女の胴体を取り囲む様に備えられた艤装にセットされている主砲が砲口から紅蓮の炎を迸らせ、黒煙を吐き、焼けた鉄の塊を撃ち出す。
身動きが取れないレ級の周囲にTF58とタナガーの砲撃が注ぎ込まれ、正確無比なタナガーの砲撃が早くもレ級elite級へ砲弾を命中させる。
レ級がその場回頭を行い、タナガーへと残る全ての火砲を振り向けた時、タナガーの砲撃が再び飛来し、レ級elite級の主砲搭を弾き飛ばした。
胸を空くような高揚感を覚えながら、タナガーは砲撃を継続した。前世でも中々経験しえなかった戦艦同士による艦隊決戦の場に、姿を変えながら再び立ち会えた事に、感動と感激を覚えつつもあった。レ級elite級から残る主砲搭を用いた応射が飛んで来る。だが、タナガーには当たる事は無かった。安定性を欠いた砲撃など、脅威でもない。
それでもタナガーが砲撃を加えながら距離を詰めていく事はそれ即ち、レ級も砲撃を当てやすくなる距離になりつつあると言う事だった。
レ級の砲撃が作り出す水柱がタナガーの前面に壁の様にそそり立ち、真っ先に突っ込んだ艤装と爪先、身体でその水の壁を突き破る。突き破った海水の壁を被った砲身が冷やされ、焼けた鉄を水につけた時の様な音を立てる。
立て続けに着弾するタナガーの砲撃に、レ級は既に虫の息だった。撃沈まであと一手、と言う所だろうか。
「行ける、あと少しで勝てる! 我が艦砲の内に、勝利あり!」
確認に似たものを感じ、タナガーが笑みを浮かべた。この戦いを制せられれば、艦娘艦隊は勝利を……、
(勝ッタトデモ思ッテイルカネ……?)
突然、タナガーの脳裏に囁きかけるかのような声が響く。
胸がざわつくような不気味な感覚を覚えたタナガーは何かに呼び止められた様に、砲撃の手を止めた。既に放たれた砲弾はレ級に突き刺さり、その息の根を止めたが、それで終わる気配をこの時タナガーは感じていなかった。いや、その場にいた艦娘達全員が感じていたし、声を聴いていた。
ふと、タナガーが思い出した様に撃沈したレ級を見る。複数個所で艤装に破孔を空けられ、黒煙上げ、炎に包まれていくレ級の息をしていないその顔が不気味に笑みを浮かべてタナガーの方を向いていた。ぞっとする感覚にタナガーが一瞬恐怖を覚えた時、赤い海が急激に紫へと変わり始めた。
「おい……こいつは拙いぞ……」
急激に紫へと変色を変える海を見た加古が呟き、青葉も危険を察知して咄嗟に180度反転を試みた。
同じ危険を悟ったのだろうか、大和から「反転! 全艦離脱!」の叫び声が上がった。
刹那、まだ海上に残骸が残っていた南方戦棲姫とレ級elite級を中心に緑の閃光が海域を包み、艦娘達の視界を奪った。
足元を喪う感覚と共にタナガーは平衡感覚を失った。手が空を掴み、脚が宙を蹴る中、頭が辛うじて落下している事をだけを確認する。
「……落ちる……‼」
視界を転じた時、滝壺の様になった視界の向こうで、次々に奈落へと落ちていく艦娘達が見えた。その方へとタナガーが手を伸ばした時、着水音と共に彼女の意識は暗転した。