艦隊これくしょん ストレンジリアル軍艦艦娘転生海戦譜 Season1   作:岩波命自

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第二四話 いつかまた、この海へ(season1最終回)

「NO!」

 アイオワとニュージャージーの悲痛な絶叫が海上に響き渡った。二人がタナガーの元に駆け寄り、アイオワがぐったりとしているタナガーの上半身を抱き起す。

 口元から顎へと延びていた血の跡を、口元から溢れ返る大量の血が覆いつくしていく。抱き起すアイオワの大胆に開かれているオープンな制服と素肌をタナガーの傷から溢れ返る鮮血が濡らしていく。

 近傍で七隻中二隻の潜水艦を沈めたヘレナ以下のTF58の対潜部隊と那珂率いる第四駆逐隊の爆雷攻撃のくぐもった騒音が響き、ネ級改に猛攻を加えて撃沈に追い込んだワシントン、サウスダコタ、マサチューセッツ達が「撃ち方止め」を命じて急速に海上に静けさが戻ってくる中、アイオワとニュージャージーの手の中でもう一つの戦いが始まっていた。

 取り乱しかけたアイオワとニュージャージーの二人だったが、今自分達が何をするべきかを理解するまでに然程時間は要らなかった。

 タナガーの身体を横たえたアイオワが両手で最も出血の激しい患部を抑えて、止血を試みる中、ニュージャージーが艤装内からファーストエイドキットを取り出して、止血剤と包帯、消毒剤を取り出す。タナガーの身体の複数個所に赤黒い血だまりとなって空いている被弾痕に止血剤を投与して破孔を塞ぎ、消毒剤で傷口を消毒して、破いた袋の中から取り出した包帯を巻き付ける。だが、止血剤を打っても、タナガーの身体からは尚も血が滲み、溢れ出す。ニュージャージーが施した止血処置を嘲笑うが如くタナガーから血が流れ出ていく。変色海域による赤く染まった海では無く、タナガーから流れ出て、失われていく血が、タナガーの全身だけでなく、アイオワとニュージャージーの足元を、艤装をも覆いつくす程に広まっていく。

「ニュージャージーより『ジオフォン』へ。タナガーが負傷、容体は非常に危険と判断、大至急メディバックを要請!」

 緊急医療搬送を要請するニュージャージーに、「ジオフォン」のCDCから了解の返答が返る。

真っ青どころか血の気を喪っているタナガーの顔をアイオワが両手で包み込む。

「You can’t die! (死なないで!)」

 必死に呼びかけるアイオワにタナガーは反応する事はない。被弾と出血による失血性ショックと多臓器不全を起こしかけていたタナガーには声を出す力も残っていなかった。

 

 

 遠くで誰かが自分を呼んでいるのが聞こえる気がした。馴染んだ声な気がするが、タナガーには分からない。判別が出来なかった。

 

 一体何日前の事だろうか。この世界に来た時と同じ、遠のいていく意識の中で、タナガーの魂は漆黒の闇の底へと沈んで行った。

 

 暗い水底に沈んでいく様な感覚に全身と全神経が浸る中、光が視界の端に溢れ出す。視線を向ける彼女の目に、一隻の軍艦が汽笛を鳴らしながら海上を進んでいくのが見えた。

 

 全長二七〇メートルに及ぶ長く細い船体に、三連装主砲を前甲板に二基、後甲板に一基載せ、低い塔状の艦橋を頂いた艦上構造物が艦の中央部にあった。

 舷側には大勢の乗員が並び、登舷礼をしているのが見える。タナガーに向かって、大勢の乗員達が笑顔で舷側に並んでいた。

 

 ああ……あれは、私だ、とタナガーは、いやタナガーの意識は認知する。ストレンジリアル世界の頃の、鋼鉄の戦艦だった時の自分が、大勢の乗員の手で運行されていた時の栄光あるエルジア海軍エイギル艦隊の旗艦だった自分が、海上を威風堂々と進んでいく。

 

 背後から汽笛が複数鳴り響いた。

 

タナガーは振り返る。

 

 闇は晴れ、晴天の下に広がる大海原が視界一杯に広がる。

 

彼女の目には在りし日の、エルジア共和国が誇る無敵艦隊を成す二九隻の戦闘艦艇と四隻の補助艦艇からなる三三隻に及ぶ大艦隊が、気高く、誇り高く驀進していた。

 

 戦艦「タナガー」、空母「ジオフォン」、イージス艦「レイヴン」、巡洋艦「コルガ」「ベルガ」「ラズーリ」「フェンリス」ら九隻、駆逐艦「ハーン」「タイチ」「チアシ」ら七隻、潜水艦「ベイオウルフ・ニュー」「ベイオウルフ・パイ」ら五隻、補給艦と輸送艦二隻ずつの計四隻。

 

 上空を「ジオフォン」の艦載機であるラファールMが編隊を組んでフライパスしていく。空を守る守護天使達が、ツインターボファンエンジンの音を轟々と鳴らして、四機一組のフィンガー・フォーと呼ばれる編隊を組んだラファールMの編隊が艦隊の上を飛び抜けて行く。

 

 あの日、コンベースの港の底に沈んで散ったタナガーの仲間達が、海を、空を征く。艦首にオレンジのバラの紋章を書き込んだオレンジの軍艦旗を力強くたなびかせて、白波を鋭く切り裂きながら海上に白い航跡を後ろへと長く伸ばしていく。

 

 ああ、愛しいまである我がエイギル艦隊がいる。私を先頭に皆が海を征く。

 

 ボォーッ! と言う低い重低音から奏でられた三三隻の軍艦が鳴らす汽笛が、タナガーの意識に染みとおる様に響いて行く。

 

 人間としての本能に動かされて、タナガーはコツンと踵を打ち合わせ、制服の擦れる音を立てて、誰もが見惚れるであろう敬礼をエイギル艦隊へ向けて送った。

 

 栄えあるエルジア海軍の艦隊と勇士達が海を、空を……。

 

 

 旗艦だったであろう戦艦水鬼、または空母棲姫の撃沈で戦意を喪ったのか、残存する深海棲艦が戦域からの離脱に移る。ワシントン、サウスダコタ、マサチューセッツの三人は追撃を目論むも後方に展開するP-8哨戒機スカイアイの合成開口レーダーが捉えた深海棲艦の現状を把握した北の指示で戦闘の停止が命じられて引き返して来た。

 負傷者の回収の為に「わかたか」と「ジオフォン」から救難ヘリが発艦する。

 戦闘の騒音が止み、風の音が静かに響く海上で、サーモン北方海域にあった海域異常は、画質の悪いテレビの映像の様に、急激にその姿を薄れさせていった。濃紫色の柱はその実体を急激に薄め、天空を覆う黒雲は五分と立たずに白い雲へと色彩を弱め、そして霧散して行き、周囲を暗く覆っていたサーモン北方海域最深部の海域異常は音も無く消滅して行った。

 同時に、海面を覆う変色海域も同心円状に縮小していき、濃紫色の柱があった場所を起点にして消え去った。あとには紺碧の海が残され、静かな音を立てて風が吹き、低い波が立った。

 静けさを取り戻していくサーモン北方海域に、程なくしてせわしないローターの羽ばたきが近づき、海上にダウンウォッシュの波紋を広げながら救難ヘリ仕様のMH-60四機が降下を開始した。

「タナガーさん、ヘリが来ましたよ! もう大丈夫です!」

 ぐったりとするタナガーに向かって、硝煙に煤けた制服を纏う青葉が叫ぶ。青葉以外にも彼女が率いる第八艦隊の衣笠、古鷹、鳥海、天龍、夕張がアイオワとニュージャージー、そしてタナガーの周りに集まって、反応がないタナガーを呆然と見つめていた。つい先日まで同じ艦隊を組んで、戦った着任歴の浅い戦友が、朱に染まって倒れていた。

 海面に膝をついて、タナガーの首元を探る青葉が焦りを露にする。脈が、タナガーと言う艦娘の命の鼓動が、弱まっていく。

「タナガーさん、死なないで……!」

 胸を熱くする激情が目頭をうるりと滲ませる中、うすらとタナガーの目が開いた。

「タナガーさん!」

「Tanager!」

 反射的に叫ぶ青葉に、アイオワとニュージャージーも揃って叫ぶ。タナガーの右手を握りしめる青葉の方へとゆっくりと顔を向けたタナガーは、次いでアイオワ、ニュージャージー、そして周りを囲う様に立つ第八艦隊の面々を見た。

「皆さん……怪我は……無いですか……」

「大丈夫です! タナガーさんのお陰でみんな無事ですよ!」

 そう答える青葉の答えは半分だけ嘘であった。加古は無事とは言い難いが、生死にまつわる程では無く、救難ヘリの中に収容されて、必要な医療措置を受けていた。少なくとも充分な病院生活を過ごせばまた元気に青葉達と共に過ごせる。

「良かった……」

 満面の笑みを浮かべて、タナガーは息を吐く。途中、激しく噎せ込み、血がごほごほと噎せ込む度に、海面に向かって吐き出された。

「もうじき救助が来ます。タナガーさんも頑張って!」

「Don‘t Give upヨ!」

「諦めては駄目よ」

 タナガーの右手を握る手に左手を添えて両手で握りながら呼びかけ続ける青葉に、アイオワとニュージャージーも続き、さらに第八艦隊の面々も声援を送る。

「頑張って、タナガーさん!」

「もう少しで助かります!」

「絶対に助かりますよ!」

「諦めんなよ! この世界に来て授かった命だろうが!」

「回復したら一緒に皆でご飯食べに行きましょう!」

 相次ぐ声援に、タナガーは微笑みを浮かべながら、呼吸を繰り返す。彼女が必死に命を繋ごうとすればするほど、患部から血が滲み上がった。

 

「私……この世界に……来た時、不安……でした……」

 静かに胸の内を吐露するタナガーに青葉やアイオワ等は静かにそれを聞き取る。

「仲間のいない……世界。……勝手の違う……人間の姿……。不安が無い訳じゃ……無かったです。

 

 でも、そんな私に……皆さんは当たり前の様に受け入れて……くれた。昨日、一昨日、……ずっと前からいる友達の様に……」

「ったりめーだろ、タナガーだって俺達と同じ艦娘。同じ人間じゃねーか! 友達に決まってんだろ!」

 励ます様に天龍がにこやかな笑顔で答える。その両目の涙腺にはその場いる全員と同じ熱いものが辛うじて堰き止められていた。

 天龍のその言葉に、青葉、衣笠、古鷹、鳥海、夕張、アイオワ、ニュージャージーが相次いで同じような言葉をかける。

 相次ぐ言葉にタナガーは非常に満足そうな笑みを崩さなかった。

「私……この世界が好きです……成す術もなく、沈められたストレンジリアル世界……その世界よりも、戦艦らしく戦え……生きる事が出来た……。

 

 この世界の……海が……こんなにも居心地がいいなんて……皆が知ったら、羨ましがる……だろう……な」

 

 タナガーの言う皆、とは一体どの程度の範疇で指し示されているのか、青葉を始め、その場にいる全員が図りかねた。タナガーの古巣のエルジア海軍はエイギル艦隊か、果ては航空機の手で蹂躙されて来たストレンジリアル世界の軍艦たちの事だろうか。

 両手で握りしめる手を掴む力が弱まる一方になり始め、青葉が狂乱の一歩手前で叫ぶ。

 

「死んでは駄目です! 死んでは駄目! 沈んでは駄目です! もう一度、生まれ変わったこの世界を……!」

 

 必死に呼びかける青葉を一瞥してニュージャージーがもう見ていられないと視線を逸らす。アイオワは滝の様な涙を流し始め、それでも懸命に両手で血が溢れるタナガーの傷を抑え続けた。

 

「何度生まれ変わっても……また、人の姿が好きになりたい……その時、いいです……よね……? また、皆さんと……友達になっても……皆さんと……また、もう一度……友達に……」

 

 

 するりとタナガーの右手が青葉の両手の中からすり抜け、ばしゃんと言う海面を打つ音を立てた。

 周囲を飛び交うヘリのローター音が空気を震わせる音に負けじと懸命に打たれていたタナガーの心臓の鼓動が静まり返り、ゆっくりとその目が閉じられた。

 

 

「駄目だぁ……タナガーさん……返事をして下さい……タナガーさん! タナガーさん!」

 縋る様に海面に落ちた手をもう一度取り、両手で握りしめ、青葉が叫ぶ。

 幸せな笑みを浮かべてタナガーは物言わぬ骸となって青葉の呼びかけに答える事は無かった。

 ぐずぐずと泣きながら呼びかけ続ける青葉の傍らに屈んだ鳥海が、その左肩に手を置く。

「……もう、駄目よ……亡くなられたわ……この上は、安らかに眠らせてあげましょう……」

「そんなはずないです! まだ、この世界に来て半年も経ってないのに、タナガーさんが青葉達を置いて逝ってしまうなんて……そうでしょう、タナガーさん!」

 胸の中で堰き止められていた激情が爆発し、狂乱状態になりながらタナガーを呼ぶ青葉に、タナガーが答える事は二度となかった。

「返事をして下さいよ……タナガーさん……どうして、黙ってるんですか……」

 

 泣き崩れる青葉と、その隣に屈む鳥海の耳に、タナガーの艤装の乗降ハッチが開くのが聞こえ、中から疲れ果て、喪失感に苛まれた表情の妖精達がぞろぞろと出て来た。

 妖精達も大なり小なり傷ついている。担架に乗せられて運び出されてくる妖精も少なくない。

 鳥海に向かって直立不動で敬礼した副長妖精が、無念さをにじませた声で自身の下した決断を口にした。

「ヒトサン・マルナナ時、戦艦タナガー全妖精、総員退艦部署を発令しました。残存妖精の移乗、回収を願います」

「了解、タナガーの全妖精の鳥海への移乗を許可します」

 タナガーの艤装から妖精達が鳥海の艤装に飛び移っていく。鳥海はタナガーの首元に手を伸ばして、その首から下げられているドッグタグを抜き取った。

 程なくして全妖精の退艦が完了し、鳥海の艤装上にタナガーの艤装内部の各部署で戦い抜けて来た妖精達が舷側と言う舷側に並んで、亡骸となったタナガーへ敬礼を送った。

 

 

「もう一度、友達に」

 それが、戦艦艦娘タナガーの最期の言葉となった。

 第一、 第二艦隊の負傷者の救助を優先していた救難ヘリがタナガーの元へ参上した時には、時すでに遅し。

 タナガーの艤装の浮航機能が停止し、アイオワとニュージャージーのアイオワ級戦艦艦娘の二人がかりの機関出力をもってしても支えきる事が出来ず、青葉以下第八艦隊の艦娘、そして疑似的な姉妹と言えたアイオワとニュージャージーの看取られながらタナガーの遺体はサーモン北方海域最深部の水底へと沈んで行った。

「誰も置いて行かない」、それがモットーだった筈の艦娘として、タナガーと言う生体反応を喪った艤装はもはや浮力の無いただの鉄の塊に過ぎず、タナガーの身体を艤装から外す事も叶わず、仲間を喪ったと言う喪失感と、遺体を回収し、弔ってやる事も出来なかったという苦い敗北感が、特に青葉、アイオワ、ニュージャージーの心を苦しめた。

 

 

 長きに渡る人類統合軍海軍太平洋艦隊第八方面軍の苦戦の末に、ようやく勝利を刻んだサーモン北方海域最深部であったが、タナガーと言うその命の重さで言えば、一〇万級の大型原子力空母何千隻を積んでも釣り合わないかけがえのないたった一人の艦娘の命を一つ失って掴んだ勝利の海域と言う、苦い勝利の果ての先に掴んだ結果となった。

 

 

 

 

 海底へと沈むタナガーの遺体と艤装は、そのまま海底へと着底し、そこでそのままプランクトンや海中の微生物の手で緩やかに、長い年月をかけて解体される長い永遠の眠りにつく事になる……筈だった。

 着底した筈のタナガーの遺体と艤装は、そのまますり抜ける様に海底を抜けて、もう一つの空間へと沈降していった。

 赤く染まる海面、紫色の空へとタナガーの遺体と艤装は堕ちて行く。引き上げるモノも無く、ただ下へ下へと落ちるがままにタナガーの遺体と艤装は堕ち、そしてどれ程の高さから落ちたか分からぬ時間をかけ、ようやくその沈降が終わった。

 紫色の空からゆっくりと舞い降りて来たタナガーの遺体を見た深海魔鎖鬼は、修復された玉座に腰かけたまま、今度こそ着底したタナガーの遺体を見つめた。

「異物ハ拒むノデハ無く。ソノ身の内ニ、取り込ム……ソレも一興カ……」

 自らに手痛い一撃を食らわせて、戦況をひっくり返した一人の艦娘を見つめる魔鎖鬼の口が不敵に歪む。

 そして一人の艦娘の遺体と艤装を前に、深海棲艦の王、深海魔鎖鬼は嘯く。

「ソシテ一欠けラノ死者を蘇ラセルノモ、マた一興……」

 哄笑を上げる深海魔鎖鬼の前で、胸の上に両手を組んだタナガーの顔は、ただ死者の沈黙を化粧にして目覚める事のない筈の眠りについていた。

 

 

 

 

 タナガーが戦死してから約半年後。

 今年も年末の月となったか、と青葉はショートランド泊地の基地内を散歩しながら年の瀬を迎えた南洋の空を見上げた。

 艦娘艦隊は今、KW環礁の手前エリア6-4のウィスキー島を攻略する為に、準備を進めていた。この島を橋頭保として整備する事で、人類統合海軍は、KW環礁への足掛かりを手にする事が出来る。

 第八方面軍第八艦隊が管轄していたソロモン諸島の戦いは一応の終息を見せ、その艦隊の中で重巡戦力の主力部隊を担っていた第六戦隊は一時的な活動の休止、端的に言うと長期間の休暇を与えられていた。単純に愛鷹型超甲巡の四人が新編第二戦隊として再編されて、それまで深海重巡と激闘を繰り広げて来た第六戦隊のお株を持って行ってしまい、六戦隊の四人が半ば用済み気味な所はあった。

 今は六戦隊の内、第二小隊の衣笠、古鷹の二人は日本本土への帰国を許されて休暇帰国を果たし、加古はショートランド泊地直轄艦娘へ編入されて予備艦娘として待機状態が取られていたが、青葉だけは改二航などの更なる改装を受け最前線への投入が続いていた。

 青葉も六戦隊から一時的に編入を求められた第一六戦隊において、制空補助を担当する航空巡洋艦として新たな改装を受けた青葉改二航として活躍の場を設けられていた。来るウィスキー島攻略戦においては航空巡洋艦となった青葉が確保した航空優勢の元、駆逐艦娘の天霧、狭霧、陽炎、不知火、そして戦艦艦娘の金剛からなる混成艦隊が前衛艦隊として突入し、本隊として戦艦艦娘の長門、陸奥、駆逐艦娘の霞、満潮、秋月、水上規模艦娘の秋津洲と言う同じく混成艦隊が進撃してくる予定だった。

 ふと青葉は首から下げているカメラに手を触れる。既にPCにアウトプットしているのでデータとして残ってはいないが、このカメラにタナガーを収めた初邂逅の時の事は昨日の事の如く覚えている。タナガーがこの世を去って半年程が立つ事がまだ信じられない、と言うのが青葉にとっての本音だった。

 

 

 タナガーが戦死して間もない半年前、太平洋総軍司令官の成田提督が視察に訪れた時の事を青葉は思い出した。

 ショートランド泊地の基地施設のはずれに立てられた戦死した艦娘達の慰霊碑の中にあるタナガーの慰霊碑へ、案内役として呼ばれた青葉の案内で、成田は慰霊碑の前に立った。脱帽して合掌した後、成田は寂しそうに呟いた。

「彼女は……もういないのだな……」

「ええ、亡くなりました。大勢の艦娘達の命を救い、引き換えに自らの命を……」

 既に涙は乾いた青葉の言葉に、成田は重い顔を浮かべてその横顔を見る。不思議と青葉の顔は悲嘆には暮れ切っていなかった。

「でも、不思議と……そう不思議な事に、死んでしまったって言う実感が段々薄れて来るんです。

 戦死したのではない。ただ行方不明なだけなんじゃないかって。だから、今もどこかで元気に暮らしている……」

 そこまで言ってふふふと微笑を浮かべた青葉は、成田ではなく、ショートランド泊地の青空を見上げて締めた。

「そんな気がして……」

 

 

 成田に言った事はあながち間違っていないのではないか。その思いを日増しに強くしながらも、目の前で息を引き取ったタナガーが蘇る事など、あるのだろうか。そんな事ばかりを考えている内に、青葉はいつの間にか、タナガーの慰霊碑の前に来ていた。

「タナガーさん……今どこに居るんですか……?」

 そう尋ねる青葉に、慰霊碑は答えず、綺麗に反射する表面に青葉自身の顔を映し出していた。

 

 

 

 

「艦隊これくしょん ストレンジリアル軍艦艦娘転生海戦譜season1」 ≪完≫




 これにてseason1は完結です。
 長らくお付き合い頂いた読者の方々には感謝の気持ちを。

 ですが、「艦隊これくしょん ストレンジリアル軍艦艦娘転生海戦譜」の物語は、まだまだ続きます。
 年内の、そうストレンジリアルであの艦が最期を遂げた12月30日にseason2の第一話を投稿したいと思う所です(リアルだとコミケ一般参加でクソ忙しい日だと思いますが……)

 ではまた次のseason2の日まで、お元気で。
 またお会いしましょう。
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