艦隊これくしょん ストレンジリアル軍艦艦娘転生海戦譜 Season1   作:岩波命自

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第三話 初陣前夜

 南方艦隊第八方面軍にタナガーが着任して一週間後。

 艦隊総軍太平洋総軍司令部から北宛に一通の封緘命令書が届いた。

 差出人に太平洋総軍だけでなく艦隊総軍までついている事に、封緘命令書の中身の重さを悟った北は即参謀と陸軍、空軍、海兵隊司令官を招集し、会議室で封緘命令書の封を解いた。

 艦隊総軍発令の作戦指令書を会議室に集まった第八方面軍参謀と隷下の司令官たちと共有しながら、北は指令書に目を通す。

 送られてきた指令書は攻撃作戦の指令書だった。艦隊総軍内で練られた作戦綱領が会議室にいる全員のパソコンの画面に表示される。

 大型戦艦を始めとする主力艦隊の戦列復帰にまだ時間を要する第八方面軍に下された作戦指令は、サーモン北方海域前面に展開する敵巡洋艦戦隊並びに空母機動部隊を夜間攻撃にて排除せよ、と言うものだった。

 敵巡洋艦戦隊並びに空母機動部隊を排除する事で、サーモン北方海域における深海棲艦艦隊戦力の漸減を狙うのが作戦目標となっていた。

 投入戦力は先の輸送船団攻撃に参加した第八艦隊のメンバーから天龍を外し、タナガーと入れ替えた編成を指定して来ていた。

「早速タナガーを出撃させよ、と言ってきたか」

 まだ艦隊に編入されたばかりのタナガーを指定して来た艦隊総軍の指令書に、北は軽く唸りながら顎を揉む。

 

 艦娘として正式に配備されたタナガーは指導役の練習巡洋艦鹿島の指導の下、着実に艦娘としての練度を上げている。

 今のところ鹿島が下したタナガーの練度はレベル45。艦娘としての再教育を開始して僅か三日でタナガーは驚異的な勢いで艦娘としての練度を上げていた。

 特に砲術に関しては彼女はずば抜けて腕が良かった。理論上彼女の主砲射程一杯と言う彼方の小さな標的に斉射した砲弾の半分を当ててのける腕前だ。

 航海に関しても呑み込みが極めて良く、着任したばかりの艦娘の中では恐らく最上位で育成が進んでいると言えた。

 艦隊運動演習はまだ二回しか行っていないが、成績は極めて上々。艦隊運動演習を行った第六戦隊の四人も驚嘆する腕前だ。

 日本艦隊に配属された為、日本語の指導も行われているがこちらも呑み込みが極めてよく、すでに日常会話レベルで全く支障がないくらいに上達していた。

 

 そのタナガーを今回の作戦、ナイト・ランナー作戦、に参加させよ、と艦隊総軍は指示して来た訳である。

 タナガーを太平洋総軍や艦隊総軍へ相談なしの第八方面軍の事実上の独断で日本艦隊に編入したからには、艦隊総軍が送ってきたこの作戦指令書に異を唱えるのには無理がある。カシを作ったからにはそのカシを返さなければチャラにはならない。

 実質拒否権なしの作戦指令書を突き付けられた形だ。

 北としてまだ経験も浅い、演習育ちのタナガーをこの作戦に投入する事には抵抗を感じていたが、やれと言われたからにはやらざるを得ない。

 自分たちに出来る事は艦娘達が生きて帰られる確率を可能な限り上げる算段を整える事だ。

 その為にも万全な艤装の整備、補給、艦娘自体の健康チェックが重要だ。

 

 作戦決行は明日。艦娘母艦「わかたか」で作戦海域近辺に進出後、艦娘を発艦させ作戦行動に移行。攻撃目標たる深海棲艦艦隊四群を攻撃。作戦目標達成後は直ちに敵の空襲が来る前に現場海域より離脱。

 一艦余すことなく撃滅せよ、と言う殲滅戦指令も添付されている。

「やれとならばやるしかあるまい。第八艦隊及びタナガーを招集しろ。あと天龍もバックアップ要員として現場裁量で編入だ」

「了解しました」

 北の指示に作戦参謀が頷くと第八艦隊のメンバーとタナガーへ招集をかけた。

 

 

 ブリーフィングルームへ招集をかけられた一三人の艦娘を前に北と岩瀬が作戦内容を伝達する。

 集合した鳥海、青葉、衣笠、古鷹、加古、天龍、愛鷹、磐梯、黒姫、大峰、北上、大井、それにタナガーを前に北が直々にスクリーンに表示したサーモン北方海域のマップと、攻撃目標の敵艦隊の予想展開位置をレーザーポインターで指示する。

「今回の作戦目標はサーモン北方海域に展開する敵巡洋艦戦隊五群と空母ヲ級改二隻を中核とした空母機動部隊一群の計七群の撃滅にある。

 第八艦隊は明日艦娘母艦『わかたか』で出撃。作戦海域に進出後、夜陰に乗じて敵六群を強襲しこれを撃滅せよ。

 敵艦隊の構成だが、巡洋艦戦隊は重巡ネ級またはリ級を三隻ずつ配備し、随伴に軽巡ツ級一隻、駆逐艦ロ級後期型二隻とする艦隊と、ヲ級改二隻、ネ級二隻、ツ級一隻、駆逐艦ハ級一隻からなる空母機動部隊だ。

 戦艦が含まれる艦隊ではないが、夜間水上戦闘となればどの敵も侮りがたい難敵だ。対水上警戒は厳にするよう心掛けてくれ。

 今作戦に当たって第八艦隊の鳥海以下はA任務部隊、愛鷹以下第九戦隊はB任務部隊と呼称する。A、B任務部隊は対水上電探出力全開で敵艦隊を捜索し、逆探してきた敵艦隊を誘い出す。

 二手に分かれて攻撃するわけだが、A任務部隊はリ級中核の巡洋艦戦隊を、B任務部隊はネ級中核の巡洋艦戦隊を攻撃して貰う。

 各三群を撃滅後、A、B任務部隊は合流、空母機動部隊を共同で攻撃し撃滅だ。

 なお敵艦隊からの集中砲火を浴びる危険がある為、探照灯の使用は緊急時を除き原則禁ずる。

 作戦に当たってここショートランドより君らの警戒管制支援の為にP1哨戒機を一機飛ばす。コールサインはスカイガーディアンだ。

 今回の作戦はA任務部隊を鳥海、青葉、衣笠、古鷹、加古、タナガー、B任務部隊は愛鷹、磐梯、黒姫、大峰、北上、大井で行う」

「おいおい、俺は留守番かよ」

 ブリーフィングを聞いていた天龍が意外そうな声を上げる。また派手にやれると意気込んでいただけあって留守番と聞いて拍子抜けしてしまったようだ。

「天龍は何かあった時に備えて『わかたか』でバックアップ待機だ。少々荷が重くなるが『わかたか』護衛の任にもついて貰う。

 今回の作戦は攻撃する目標の数が多い。

 今まで何度も繰り返し言って来た事であるが、新任のタナガーを今回の作戦に参加させる関係上敢えて言う。

 全員で生きて帰って来い。

 私からは以上だ。各員質問はあるか?」

 鳥海が挙手をする。艦隊旗艦を任されているだけあって真っ先に質問をしてくるのは割と自然ではある。

「敵艦隊の増援の可能性は?」

「あるとみるべきだろう。増援艦隊が来て敵の反撃体制が強固なものになる前に攻撃目標の七つの艦隊を攻撃するんだ」

「時間的余裕はシビアですね」

 腕を組んで呟く鳥海に別動隊指揮官の愛鷹が相槌を打つ。

 二人の旗艦が軽くなる中、タナガーが挙手をする。

「なんだタナガー?」

「敵艦隊の編成は理解しましたが、本当に戦艦が来ないという保証はあるのでしょうか? 私を編入したからには万が一戦艦が出てきた時に備えて、と言う見積もりが見えるのですが」

「ポイント5-5Mにはタ級を中核とした戦艦戦隊が確認されている。今回の作戦エリアはポイント5-5Mの近くで行う為に同ポイントの戦艦戦隊が増援として現れる可能性も皆無ではない。

 夜戦ともなれば諸君らの練度をもってすれば5-5Mの戦艦戦隊くらいは容易かも知れんが、火力面で見れば劣勢気味であることに変わりはない。

 タナガー、君はその万が一敵艦隊が戦艦戦隊を振り向けてきた時のその劣勢気味な火力を補完する重要な役を担ってもらいたいのだ」

「5-5Mの戦艦戦隊のタ級数は?」

 続けて問うタナガーに岩瀬が「二隻だ」と答える。

「ただし、取り巻きにネ級やツ級が含まれるから艦隊そのものの脅威度は高い。タナガーの火力と防御力であればタ級は相手に組し易いだろうが、取り巻きと合わせて見れば脅威度は変わらない」

「了解です」

 理解したとタナガーが頷く。

 他に質問は? と問う北にそれ以上質問の手は上がらず、解散と作戦準備となった。

 

 

 作戦前にタナガーを第八艦隊一同の外食にでも誘おうと思った青葉は、タナガーに宛がわれた戦艦艦娘寮にある彼女の自室を訪れた。しかし、不在なのかノックしてもタナガーの反応は無かった。

 不在か、と青葉が肩を落としてタナガーの自室の前を辞した時、丁度出先から戻って来たタナガーが自室に戻って来た。小脇に何冊か本を抱えている。

「あら青葉さん」

「お、タナガーさん。丁度良かったです。明日の出撃前の外食に誘おうと思って。第八艦隊の皆も集まりますよ」

「せっかくの招待、お受けするわ」

 快諾するタナガーに青葉は満足げに頷く一方で、タナガーが小脇に抱えている本に目を移す。

「よぉし。ん、ところで何の本です、それ」

「これですか。図書室から借りて来たんです」

 小脇に抱えていた本について問われたタナガーは、青葉に持っていた本の表紙を見せる。

 表紙に書かれているタイトルを青葉は読み上げる。

「『戦艦史』『戦艦年鑑』『戦後の水上戦闘艦艇』。はあ、艦娘じゃない軍艦に興味があるんですね」

「元々、私は人間じゃなくて『違う世界の戦艦』だったから……この世界の軍艦と私がいた世界の軍艦は艦種名こそ違うけど、同じ外観と武装の艦艇が沢山あるみたいね。

 私の艦娘になる前の姿とそっくりの戦艦もこの世界にはあるみたいね」

「アイオワ級戦艦最終改装形態ですね。この世界だと一九九〇年代初頭に全艦が第一線から退いて、全艦が記念艦になりましたが。

 ハワイが深海棲艦の侵略を受けて陥落するまでは戦艦ミズーリも観る事が出来たんですけどね。映画とかで戦艦ミズーリは一躍有名になったんですよ」

「そうなのね。私が『戦艦タナガー』だった世界では、ユークトバニア連邦共和国やエストバキア連邦、レサス民主共和国、オーレリア連邦共和国、それに我が祖国エルジア共和国ではまだまだ何隻も現役だったわ。

 どこの国も私と同じような近代化改修をして現役だったし、ユークトバニアの戦艦ウポールとは一緒に太平洋を航行したこともあったわ。

 あ、ごめんなさい、言っても青葉さんには分からない話ね」

 本来の姿だった頃に思いをはせていたタナガーが我に戻って青葉に謝罪するが、青葉はニコニコしながら「謝る事じゃないですよ」と首を振る。

「タナガーさんが『戦艦だった頃』の話をしている時の目がとても輝いてましたよ。凄く戦艦として誇りに思ってたんではないですか?」

「勿論よ。祖国エルジア海軍の象徴だったのだから……まあ、エルジアも王国だったり連邦共和国だったり、共和国だったり国が何度も変わったのだけど」

「自分の国の姿が何度も変わるのって不思議ですねえ。青葉の祖国の日本も何千年の歴史の中で何度か姿を変えてますけど、タナガーさんが戦艦として存在した期間並みのスパンで国が変わったことは無いですね」

「私の祖国エルジアは元々はユージア大陸の西の端っこにある小さな王国だったの。時代が過ぎるにつれて東へ東へと領土拡張政策を推し進めて、私が進水して二〇年くらいしてシラージ大公国とボスルージ共和国を併合した後、連邦共和国に移行したわ。

 で、また政変が起きて共和国になったの。正直中身がコロコロ変わる国よりは、国境が存在しない海が私には実家のような安心感があったわね」

「そう言う戦艦だった頃の話、食事しながら聞かせて下さいよ。艦隊新聞のネタにもなります」

「いいわよ。もっとも私の昔話を聞いても誰も興味持たないだろうけど……」

「いやあ、異世界からの転生者タナガーさんの経験談は貴重ですよ。だって青葉が知る限りじゃ、異世界からやって来た人間なんて多分タナガーさんが初めてですよ」

「私、人間じゃなくて戦艦だったのだけど……」

 

 まあいいか、と軽く首を振りながらタナガーは自室に入って机の上に借りてきた本を置くと青葉に連れられて第八艦隊が外食に集まる予定の店へと連れて行った。

 

 作戦前の外食を第八艦隊のメンバーとタナガー達は心行くまで堪能した。

「人間って、やっぱり作戦前にはこうやって宴をするものなのね」

 提供された食事を平らげたタナガーの言葉に青葉の妹の衣笠が不思議そうな目でタナガーに尋ねる。

「タナガーさんの『戦艦だった頃』もこんな事やってたんですか?」

「私は元々艦娘でも人間でもない『戦艦タナガーの船魂』と言うべき存在だったから、自分の艦の艦内で宴をする私の乗員達の姿は見て来たわよ。

 最後にこんな感じの宴を見たのはいつだったかしら……」

 前世に思いを馳せる顔になるタナガーに、ウーロン茶を注いだコップを口に傾けていた天龍が「懐かしいか?」と問う。

「懐かしいと言うより、そうね……うん、やっぱり懐かしいわ」

「俺達は艦娘、人間だからなぁ。タナガーみたいに前世ってやつが無いから分かららねぇな、そういうとこ」

 コップを置きながら腕を組んで呟く天龍に、北上が相槌を打つ。

「まー、一応アタシらにも前世みたいなもんはあるっちゃるあるけどね。艦娘として今名乗っている名前。

 元はと言えば八〇年以上前の第二次世界大戦に参加した軍艦の名前だもんねぇ」

「私達は第二次世界大戦中に就役していない軍艦。いわば幻の軍艦である超甲型巡洋艦ですけど」

「あ、そーだったわ。ごめん」

 超甲巡姉妹の一人の大峰がため息交じりに言うと北上は苦笑交じりに詫びる。

 

 愛鷹型超甲型巡洋艦の元であるB65超甲型巡洋艦は第二次世界大戦中計画艦として存在はしたが、建造はされていない為、艦娘として初めてこの世に登場した形だ。

 艦娘戦力拡大の軍拡計画の際、「深海棲艦の重巡級に対抗する重巡キラー」として艤装が開発され、適正者のスカウトが行われた結果誕生したのが愛鷹型の誕生経緯である。

 超甲型巡洋艦姉妹の長女の愛鷹は大和型戦艦一番艦大和の実の双子の妹であり、それ故によく姉とは容姿で誤認される。

 長女大和と同じく艦娘適正を持ちながら、戦艦としての適性は無く、かと言ってその他の艦種にも適性がないが故に、愛鷹型の長女である愛鷹は艦娘としての訓練課程を終えてからも実戦配備されないまま過ごしていた為、実戦経験の長さではここにいる第八艦隊のメンバーの中では少し短い。

 三人の姉妹磐梯、黒姫、大峰もまた同じである。

 一方、鳥海、青葉、衣笠、古鷹、加古、天龍、北上、大井は戦争初期から艦娘として戦っているいわばベテランだ。

 

 そんな古強者とそこそこ場数を踏んで来た愛鷹型の四人と比べたら、自分はまだ新米同然だ、とタナガーは水を注いだコップの中身を飲み干しながら溜息を吐く。

 経験面では本来、この場にいる誰よりも長く「軍艦として」やって来たのだが、艦娘となった今は全てがゼロにリセットされたような形である。

 

「タナガーさんって、好きなものってあります? 逆に嫌いなものとか」

 メガネを正しながら鳥海が質問して来る。鳥海とは訓練以外あまりまだ深く話した事がないし、自分の事をまだよく話していないだけに今のタナガーは質問攻めにあう側だった。

「私に好きなものと嫌いなものね。好きなものは……やっぱり海。海は私の居場所よ。

 国境と言う煩わしい線引きが存在しない、自由に駆け回れる青い海原。私の魂の場所と言ってもいいくらいよ」

「へえ、で、嫌いなものは?」

 魂の場所とまで言い切るタナガーに軽く驚く大井の問いかけに、タナガーの表情に少し陰りが走る。

 少し顔をうつむけたタナガーは自分の顔をのぞき込む一同に右手で空を指さす。

「私は、飛行機が大っ嫌い。前世の私を沈めたのも飛行機だったわ……」

「タナガーって、撃沈されたの……?」

 初耳であると同時に、聞いてはいけない事を聞いた、と気まずい顔になる大井にタナガーは顔を上げてはっきりと答える。

 

「そう、前世の『戦艦だった頃』の私は独立国家連合軍ISAFの航空攻撃でコンベース港の沖合に沈んだわ」

 

 一様に神妙な顔持ちでタナガーを見る一同に対して、タナガーは前世の、「戦艦だった頃」の話を始めた。

「丁度昼時だった。私が所属するエルジア共和国海軍エイギル艦隊は大陸戦争でISAFを追い詰めていた。

 

 戦局はエルジアに有利だったわ。空は巨大な大砲ストーンヘンジの超長距離対空砲撃で制圧され、私達艦隊はその制空権の下でISAF艦隊を蹴散らして来た。

 

 痛快だったわ、私の巨砲が火を噴き、敵艦に砲弾が当たって次々に撃沈していく様は。時々僚艦や空母ジオフォンに手柄を譲ることもあったけど、水上戦闘では私の巨砲を前にISAF艦隊は成す術がなかった。

 

 だからこそ、ISAFは艦隊決戦をあきらめて、航空攻撃で港に停泊中の私達を襲ったのかもね」

 

 話しながらタナガーはふと外食先の店の天井を、その先にある空を見上げる。

 見上げた先に右手を伸ばし、虚空をかく。

 

「自由に空を舞い、海と同様境目のない世界を圧倒的な速さで駆け抜け、二次元の動きしかできない私たちと違って自在な三次元の動きを押下する飛行機。

 

 羨ましい限りよ。私には無い自由の全てを持つ。鳥の様に自在に駆け巡る姿は愛おしさすらある。

 

 それと同時に込み上げて来る恨み……そうね、これは憎悪と愛だわ。

 

 

 二律背反する想いである空と飛行機への情景と怨嗟。私には空と言う世界、飛行機と言う乗り物が愛おしく、羨ましく。そして恨めしくて、憎たらしい。

 私達エイギル艦隊を一方的に爆撃で屠ったISAF。卑怯と言いたい気持ちはあるわ。でもそれも戦争だと言われれば確かにその通りよ」

「確かに航空攻撃はキツイぜ。俺が改二化されたのも対空迎撃用って意味合いもあったしな。

 まあ、タナガー程俺は飛行機は嫌いじゃないし、複雑な気持ちもないが」

 腕を組んで自分の話を聞く天龍に対し、タナガーは微笑を浮かべて返す。

「私の場合は複雑そのものよ。単純な好き嫌いでは言い切れないものがあるの」

「確かに聞いている感じだと、タナガーさんって空と飛行機に憎悪と怨嗟と言う負の感情を持つ一方で、それが愛おしいと感じるくらい、空と飛行機の事を肯定もしてるわね。

 簡単な事の様でそうでもないか」

 複雑そうな表情を浮かべて衣笠が呟く。

 衣笠の隣に座る青葉が考え込む様に軽く鼻を鳴らすと、タナガーに別の質問をする。

「タナガーさんの祖国エルジアとか前世の世界について青葉達にも話してくださいよ」

「私もタナガーさんの祖国のお話聞いてみたいです。どんな国だったんですか?」

「戦艦を持っているってことは結構軍事力高い国だったとか?」

 話題を変えた青葉に同調する様に古鷹と加古も尋ねる。

 三人からの質問に頷きながらタナガーは覚えている限りの範囲で祖国エルジアの事を話した

 前世がそもそも人間ではなく、鋼鉄の軍艦の船魂だったのでタナガーとてエルジアと言う国を一から十まで知っている訳ではなかったが、それでも第八艦隊の仲間達には極めて新鮮な話に映ったようだった。

「つまり、ユリシーズって言う小惑星の欠片がタナガーさんの祖国エルジアを始めたユージア大陸に降り注いで甚大な被害を被って、その後起きた難民押し付けにエルジアがキレて戦争を始めたと言う訳か。

 うーん、聞いてる限りじゃ、戦争を始めたエルジアに非があるような気もするけど、あたしには事情を聴いている感じじゃエルジアにも情状酌量の余地がある様にしか思えないなあ」

 話を大方聴き終えた加古の言葉に、第八艦隊の面々が同感だ、と頷く。

 爪楊枝で歯に詰まったモノを突いていた天龍が爪楊枝を皿に置きながら、ふと気になった様に呟く。

「で、エルジアはその後どうなったんだろうな」

「さあ、それは私にも分からないわ……。ただエイギル艦隊を失った事はエルジア海軍にとっては大打撃であることは確かね。

 エルジア海軍の稼働艦艇がゼロになったと言う事ではないにせよ、主力の艦隊戦力を失った訳だから海軍戦略は大きな見直しを迫られるでしょうね」

「ストーンヘンジでしたっけ、でっかい隕石迎撃砲の名前。同じ名前の遺跡が英国にあるんですよねえ」

 そう語る青葉の言葉にタナガーは意外そうな顔を浮かべる。

「固有名詞や言語では私のいた世界とこの世界とでは結構共通点も多いのね」

「と言うか、タナガーさんの話を聞く限り、ユージア大陸ってユーラシア大陸によく似ていますよね」

「それは私も思った」

 何気なく言う鳥海の言葉に大井が相槌を打つ。

「オーシアって国はこの世界でのアメリカに似ていますし、ユークトバニアって国はロシアかソ連に似てるし、エストバキアって国は東欧の国か、ロシアじみてるし」

「ベルカって国なんか、諸にドイツじゃん」

 指を折りながらタナガーが前にいた世界と現実世界の国をそれぞれ比較する磐梯に、北上が付け足す。

「でもその割には日本にそっくりな国は無いんですね」

 腕を組み、片手で顎を摘まみながら言う青葉に、タナガーは確かに、と頷く。

「一応、ユージアの極東にノースポイントと言う国があって、そこが皆さんの祖国日本に一番近いかもしれないわね」

「ノースポイント……。何だか簡単な響きの国名ね」

 思わず本音交じりに黒姫が言うと、タナガーは苦笑を浮かべた。

「日本語に訳すると『北の地』っていうい意味合いかしらね。まあ確かにエルーゼ王室が国の始まりであり国名の由来となったエルジアと比べたら簡単なネーミングかも」

「エルジアはこの世界で言うとどの国に近いのかしらね」

 何気ない衣笠の言葉に、全員が顔を見合わせる。

 隣の青葉が顎を摘まんでいた手で顎をさすりながら考え込む。

「聞いている限り、王室があったところはフランスの様でもあり、多民族国家であるとこはアメリカ的なところもあり、エルジア軍の組織構造はソ連かロシアに通じるところがあるからなあ」

 考え込む青葉と同様にタナガーも猛勉強で身に着けたこの世界での国の情報を頭から引き出して、祖国エルジアに一番近い国を探すが、オーシアやユークトバニア、ベルカなどの大国と比べて自分の祖国エルジアはこの世界で似ている国が考え付かない事に気が付く。

 似ている様で違うところも多いのがこの世界と自分がいた世界の相違点か。

「さて、そろそろお開きにして、基地に戻りましょうか」

「おっと、明日はサーモン北方にカチコミだったな。歓迎会は終わりだな」

 店の時計を見てパンと手を合わせて宴の終わりを告げる鳥海に、天龍が思い出した様に顔を上げる。

「会計は割り勘だったっけ?」

 自分の財布を覗き込みながら不安げに尋ねる加古に古鷹がそうだよ、と答える。

 割り勘、の言葉にタナガーはあることに初めて気が付いた。

 自分は財布はおろか、まだお金を持ったことがない。艦娘として正式に配備されて以来タナガーは大尉として任官されているから当然大尉の昇給が出るが、まだその昇給支払いの日は来ていない。

「あ、あの、私、まだ一銭も持ってないのだけど……」

 恥ずかしそうに告白するタナガーに対し、加古と黒姫、大井が驚きの顔を浮かべるが、鳥海が微笑交じりに返す。

「タナガーさんはお支払い免除でいいですよ。まだこの世界に来たばかりなのだから、お給料支払いはまだでしょう」

「ええ、その通りで」

「考えてみれば、こういう外食の時とか以外、艦娘ってお金を使わない分給料を貰っている実感が時たま薄れますよね」

 制帽を被り直す愛鷹が思い出した様に言う。

 艦娘の生活は統合軍の手厚い生活支援が受けられるので、貸し借りや趣味、外食以外で金銭を使う事があまりない。

 衣食住すべてが担保されている艦娘と言う軍人なのだ。

「国なんて儚い存在だと戦艦時代は思ってましたけど、人間になって少し分かったわ。

 飯と寝床に困らない、国民に感謝しないと」

 そう語るタナガーの言葉に全員がその通りだ、と頷いた。

 

(提督さん。ご報告です。第八艦隊作戦参加艦娘、全員艦娘母艦『わかたか』に乗艦完了です。

 『わかたか』も出帆準備完了、いつでも出港可能です)

 執務室で作戦参謀達と別件で話し込んでいた北のデスクトップパソコンの画面端にテレビカメラ越しで彼の秘書艦職を務めている鹿島が表示され、彼女から第八艦隊とその支援に当たる「わかたか」の準備完了の報告が入る。

「了解した。定刻通りに『わかたか』は出帆だ」

(了解です)

 一礼して画面を閉じる鹿島を見やりながら、北は参謀達に第八艦隊の作戦開始が迫っている事を告げた。

「いよいよですね。戦艦タナガーの初実戦。さてどう転ぶか」

 期待と不安が入り混じった表情を浮かべるギャリソンの言葉に、北は「信じよう」と言葉をかける。

「第八艦隊の僚艦艦娘は皆サーモン北方を始めた各海域で場数を踏んでいるベテランから中堅揃いだ。

 彼女達が何かあったらカバーしてくれるだろう」

「油断は出来ません。歴戦の艦娘である大和型ですら余裕で大破させられる魔境です。新人のタナガーに万が一の事があったら」

「だからこそ、彼女たちの幸運を信じるんだ。我々に出来るお膳立ては全てやった。あとは見守るだけだ」

「既にP1哨戒機、コールサイン・スカイガーディアンは離陸して作戦エリアへと向かっております。彼女たちを警戒監視してくれる空の目は準備万端です。

 深海棲艦が奇行をしない限り、幸運が彼女たちの上にあることを願いましょう」

 手持ちのノートPDAを見ながら話す作戦参謀の言葉に北は頷きながら、ギャリソンを一瞥する。

 タナガーとは何やら軽い絆を結んでいるかの様にも見える。初めて彼女と話をした人間の一人であるだけでなく、ギャリソンは艦娘を思いやる心が深い。

 艦娘として事実上新米のタナガーの事が彼には気がかりでならないのだろう。

 その心遣いは大切だ、と北は認めていた。

 

 艦娘母艦「わかたか」がサーモン北方海域の作戦海域進入ポイントに差し掛かった時に、第八艦隊のメンバーは艦尾のウェルデッキに集まり、艤装を身に纏って発艦の時を待った。

 タナガーもこの世界に来た時に最初から身に纏っていた艤装を装備し、新しく作られた主機を履く。

 魔境と呼ばれるサーモン北方海域。どれ程の海域なのか自分はまだ知らない。

 艤装を装着して暖機運転に入っている青葉にサーモン北方海域について尋ねてみる。

「サーモン北方海域ですか。あそこは魔の海域ですよ」

「魔の海域……」

 その言葉だけで背筋がひやりとするものを感じるタナガーに、青葉は過去に自分も行った事があるサーモン北方海域について語った。

 

「人類統合軍海軍最前線海域サーモン北方海域。通称魔の海域。

 

 青葉達艦娘に与えられた舞台。そこには上座も下座もありません。

 

 条件は皆同じ。所属も階級も関係ありません。

 

 制海権を巡って艦娘と深海棲艦が死闘を何度となく繰り広げて来ている海域。

 

『生き延びろ』

 

 それがサーモン北方海域に挑む艦娘達に与えられた唯一の交戦規定です」




 エルジアの歴史やストレンジリアル世界などに関して一部独自解釈をいくつか交えております故、公式設定ではありません。ご容赦ください。
 
 世界線はまったく異なる弊艦これSS「この世に生を授かった代償」からの出張登場である愛鷹は本作では「大和の実の妹」と言う扱いになっております。「この世に生を授かった代償」における愛鷹の本設定に関しては是非そちらでご確認を。

 終盤の青葉のサーモン北方海域に関する言及はエースコンバットゼロのラリー・フォルクのエリアB7Rへの言及を基にしております。
 
 次回はいよいよ第八艦隊のサーモン北方海域における戦闘です。
 
 ではまた次回のお話でお会いしましょう。


PS.2022冬イベントで弊鎮守府にタナガーのモデルであるアイオワ級戦艦の艦娘アイオワが着任しました。
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