艦隊これくしょん ストレンジリアル軍艦艦娘転生海戦譜 Season1   作:岩波命自

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 タナガーの初陣回となります。
 


第四話 サーモン北方海域夜戦 前編

 夜陰に乗じて艦娘母艦「わかたか」から発艦し、サーモン北方海域に侵入した第八艦隊は予定通り鳥海、第六戦隊、タナガーからなるA任務部隊と、第九戦隊からなるB任務部隊に別れて作戦行動に入った。

 タナガーにとって艦娘として初任務になる。実戦経験なら前世で何度も経験してきたが、今の自分は姿形変わった人間の艦娘だ。

 前世とは戦い方の勝手が大きく違うだけに、多少の緊張感も湧いてくる。

 鳥海、青葉、衣笠、古鷹、加古と言う大先輩が付いているとは言え、「ここはサーモン北方海域。死人に口なし」と言われるほどの超激戦区に新人同然の自分がいきなり放り込まれたのだ。

 多くの艦娘がこの海域の敵、深海棲艦を前に辛酸と苦汁を舐めさせられ、何人かの艦娘は轟沈し戦死している。人類統合軍が管轄する海域は広しといえど、サーモン北方海域は別格と言われる程だ。

 唯一の救いは、今回挑む敵はこの海域では割とまだ救いのあるレベルの敵、という事だった。

 交戦した経験のある青葉曰く南方戦棲姫と戦艦レ級の攻撃力、防御力は並のモノではないらしい。戦艦でありながら大規模な航空戦力も有しており、空母部隊による攻略すら退けて来ていると言う。

 生半可な覚悟で挑んでは帰って来られない。それ程に恐れられる敵がこの海域の最深部にいる。

 今自分たちがいる所まで南方戦棲姫やレ級が出張ってくる可能性は低いとはいえ、油断は出来ない。

 作戦エリア近辺には高速戦艦タ級を含む有力な深海棲艦の水上打撃艦隊が展開している。増援として呼び寄せられたら巡洋艦主体の第八艦隊には分が悪い。愛鷹達超甲巡の火力でならタ級程度相手には何とか拮抗可能と言われているが、あくまでも拮抗であり、本物の戦艦と比べたら見劣りしてしまう。

 第八艦隊の唯一の戦艦であるタナガーは万が一タ級が出張って来た時の保険だった。ただその保険たるタナガーの実戦経験がゼロであることがこの作戦のネックの一つでもあった。

 

 

 第八艦隊各艦娘はそれぞれ艤装の各部に見張り妖精を立て、更に電探(レーダー)もフル稼働させて、海域に展開する敵艦隊の索敵に当たっていた。

 新人のタナガーも艤装に装備されているレーダーを起動する。タナガーの艤装に搭載されているレーダーはSK+SGレーダー。第八艦隊に配属されている艦娘が装備する電探(レーダー)の中でも一番索敵能力に優れたレーダーだ。 

 艦娘側の電探索敵以外にも、支援に着くP1哨戒機コールサイン・スカイガーディアンの合成開口レーダーの目が第八艦隊の艦娘を見守り、警戒監視を行っていた。

 

 

 A任務部隊二番艦として一番艦兼第八艦隊旗艦鳥海の後に続いて航行する青葉は時折心配そうに最後尾のタナガーの方へと振り返っていた。

 練度は確かに上げているし、艦娘としての立ち回り方はしっかり心得ているとは言え、艦娘としての実戦経験は今回の出撃が初めてだ。

 これが沖ノ鳥島等ならまだタナガーでもやりおうのある敵艦なのだが、ここはサーモン北方海域。歴戦の艦娘すら苦戦を強いられている魔境。

 そんな魔境に新人を放り込むのははっきり言って無謀に近い。

 艦隊総軍の決定、とは言え、もう少し他の海域で実戦経験を積んでから投入すべきだったのでは、という思いが青葉の中に渦巻いていた。

 第八方面軍司令部内でも多分難色は示しただろう。タナガーを保護し、艦娘として軍籍登録する事を決定したのは第八方面軍司令部だ。

 相応の思い入れの様なものは第八方面軍司令部内で持っている筈だ。

 前線部隊司令部である第八方面軍司令部と違って、所詮は安全な後方の総司令部でしかない艦隊総軍司令部とでは艦娘への認識や対応に温度差もあると聞く。

 艦娘を深い絆で結ばれた戦友と見る風潮があるのが第八方面軍司令部の様な前線部隊司令部なのに対して、所詮一介の戦力、駒に過ぎないと言う認識が強いのが艦隊総軍司令部内の認識だと言われている。

 タナガーが知っているかは分からないが、艦隊総軍司令部内で重要視されているのは大和型戦艦やアイオワ級戦艦等の既存の戦艦艦娘であり、突然現れた素性もよく分からないタナガーと言う艦娘に対しては重要視していない、別に失っても惜しくない艦娘、などと言う見方をする声もあると言う噂を聞いている。

 戦艦艦娘は戦艦というカテゴリーなだけに維持には多大なコストを要する。タナガーも例外ではなく、第八方面軍所属の工作艦艦娘プロメテウス曰く燃費や弾薬の消費量はアイオワ級戦艦艦娘よりも微妙に重たいと言う。艤装の修理や整備コストに関してはタナガー固有の対艦ミサイルや対艦巡航ミサイル、CIWSと言った特殊な兵装が祟ってアイオワ級戦艦艦娘の四割増しになっているらしい。

 兵站を圧迫する要因が現れたと言っても過言ではない。

 前世が異世界の「戦艦」だった、というフィクション地味ている得体の知れない素性の持ち主、艤装の燃費、維持コストが馬鹿にならない、という二つの問題点から、艦隊総軍司令部内から胡散臭い目で見ている可能性が高い。

 もしかしたらこの作戦で意図的にタナガーを喪っておきたい、という思惑があるのではないか。そんな疑念が青葉の頭の中に湧き出ていた。

 考え過ぎだろう、と思っても、ナイト・ランナー作戦前にやっていた艦隊新聞執筆の為の方々への取材で聞いたきな臭い話を思い返すと、そう考えてしまう自分がいた。

 もしタナガーにこの事を話したらどういう反応をするだろうか。しなくてもいい話か、するべき話か。

 

「青葉、どうかした?」

 背中から衣笠が考え込んでいた青葉に声をかけて来た。知らない間に索敵が疎かになる程に考え込んでいたらしい。

「なんでもないよガサ。大丈夫」

 取り繕った笑顔で返しながら、今は作戦に集中しよう、と考えを改めて青葉は双眼鏡を構え直した。

 

 作戦開始から一時間半が経過した頃、スカイガーディアンからA任務部隊の六人に「敵艦捕捉」の報が飛んだ。

《敵艦隊六隻。駆逐艦級と思われる。ポイント5-5チャーリー。敵哨戒水雷戦隊の可能性大。脅威度は低なるも警戒されたし》

「旗艦鳥海、了解。B任務部隊の状況は?」

《依然、コンタクト無し。警戒監視を続行せよ》

「了解。アウト」

 作戦目標ではないが、深海棲艦の艦隊が捕捉された。5-5チャーリーとなれば結構近い。哨戒部隊だとすれば近辺に主力艦隊や有力な重巡戦隊、つまり作戦目標が遊弋している可能性が大きい。

「A任務部隊旗艦鳥海よりA任務部隊全艦。合戦準備部署発令」

「了解」

 唱和した返事が鳥海に返される。

 合戦準備部署発令と共に、装備妖精たちが砲口の砲栓を外しにかかり、魚雷発射管の内部へと潜り込む。

 タナガーの艤装でも装備妖精が各艤装の持ち場へと着く。彼女の艤装にはCIC(戦闘情報指揮所)があり、そこからCIC妖精が「各部戦闘用意良し」の報告を上げる。

 前世の戦艦だった頃を思い出しながら「了解」と返す。

 エルジア海軍戦艦タナガーだった頃、自分と大して体格の違わない乗組員が艦内各部で働いていた。CICもそうだし、砲塔や機関部、艦橋と言った様々なところで「自分」を動かす乗組員が存在した。

 今は小さな「装備妖精」と呼ばれる小さな存在が自分の艤装を動かす乗組員の様な感じになっていた。

 ここ辺りは案外艦娘になっても変わらないものなのだな、と意外にも思えて来る。

 その一方で、初めて艦娘と言う存在になって初めて敵艦に対してこの主砲を撃つ日が来た、と言う事に心が躍る思いでもあった。

 敵艦は重巡洋艦と空母が自分にとって殴りがいのある存在になるだろう。重巡洋艦など前世ではすっかり廃れてしまった艦種だ。

 それが今この世界では戦艦や空母に並ぶ高脅威目標として恐れられている。特に重巡リ級flagship級改とネ級改は時に戦艦よりも脅威度が高まると言う。

 深海棲艦側の戦艦は戦艦でまた高脅威の艦が多数存在すると言うが、今の自分にとって重巡くらいが丁度いいのかも知れない。

 前世では実戦経験豊富だったとはいえ、この世界に艦娘と言う形で転生してからはそれらもゼロにリセットされた形だ。

 戦場に出て初めて兵士は一人前になる、と昔から言われている。自分は実質まだ半人前だ。

 敵艦との砲撃戦の機会に心躍る一方で、それを抑えて謙虚に、新兵であることを肝に入れて立ち回るべきだろう。

 

 合戦準備部署発令から二〇分が経過した頃、スカイガーディアンから警報が入った。

《A任務部隊全艦に警告。敵正反応、敵巡洋艦戦隊がそちらへ向け急速接近中。重巡リ級flagship級三隻、防空巡ツ級一隻、駆逐艦ロ級後期型二隻と見られる。方位097、敵針232、敵速二〇ノット。おおよそ五分後にコンタクト》

「旗艦鳥海、了解。全艦、戦闘よぉい!」

 鳥海の号令と共に一斉にA任務部隊の艦娘はそれぞれの火器を構える。

 戦闘用意の号令を聞きタナガーも主砲を構えながら、探知範囲では第八艦隊全艦娘で一番優れている自分のSK+SGレーダーよりも早く敵艦隊を探知してのけるP-1哨戒機の探知能力に舌を巻きつつ、少しばかり悔しくも思う。

 水上艦より高い位置にいる分、水平線の影響をもろに受けてしまう水上艦より遠いところまで探知出来ると言う理屈は前世で充分知っている事とは言え、航空機と言う存在の介入には疎ましく思う自分がいる。

 しかし、航空機が無ければ自分達よりも広域の索敵は出来ないし、自分の艤装に備えられている対艦ミサイルの中間誘導も出来ない。

 航空機と水上艦、この二つが共存しなければやっていけない現代海軍の常識と構造は理解していても根っからの水上艦主義者であるタナガーには中々受け入れ難いものがあった。勿論私情は挟むまいと決めているので、航空機の介入と言うモノに嫌な気持ちを抱きながらも、彼女は文句の一つ零さず、目先の作戦目標に集中する事にした。

 五分後にコンタクト、と言う前に単縦陣を組んで進むA任務部隊の先頭を進む鳥海の見張り員妖精が「右舷前方に敵艦隊見ゆ!」の報告を上げる。

「全艦右砲戦、撃ち方用意!」

 A任務部隊の艦娘の主砲が右舷に指向される。それぞれ夜目をきかせている艦娘の目にも暗闇越しに重巡リ級flagship級三隻と防空巡ツ級一隻、駆逐艦ロ級後期型二隻の艦影が見えた。

 主砲射程にとらえた双方の砲撃はほぼ同時だった。

「撃ちー方始めー! 発砲!」

 旗艦鳥海の号令と共に青葉、衣笠、古鷹、加古、タナガーの主砲が火を噴き、徹甲弾を撃ち放つ。

 A任務部隊の発砲と同時にA任務部隊を射程に収めていた深海棲艦側も砲撃の発砲炎を暗い海上に瞬かせる。

 重巡五隻と戦艦一隻の砲撃が赤い光を夜空に瞬かせながら飛翔していき、深海棲艦の傍に着弾の水柱を突き立てる。

 即座に諸元修正を行った鳥海、青葉、衣笠、古鷹、加古が主砲の第二斉射を放つが、タナガーの主砲は再装填が五人よりも長いので直ぐには撃てない。

 流石に初弾命中はいかないか、と唇をかむタナガーの脳裏にふと聞き慣れた懐かしい言葉が蘇る。

 

(砲術で目標に弾を命中させるのに必要なのはなんだ? 分からんか? それはイメージ!)

 

 砲術で目標に砲弾を命中する極意。それは想像力。

 それこそが砲術で砲弾を目標に向けて送り込むのに必要な要素だとかつての自分の艦長、マティアス・トーレス大佐は言っていた。

 

 そうだ、想像するのだ、敵艦がいる場所を。

 

 イメージするのだ、敵艦の命のある場所を。

 

「想像せよ、装備妖精諸君! 一発で一隻の敵艦の命が奪える!」

 装備妖精に檄を飛ばすタナガーの言葉に、先行する鳥海、青葉、衣笠、古鷹、加古が驚いた表情で振り返る。

 タナガーさんってこんなかキャラだったっけ? と青葉が目を丸くする中、再装填が終わったタナガーの主砲が交互撃ち方の要領で三連装一六インチ砲の右砲と左砲をそれぞれ撃ち放った。

 殷々たる砲声が夜の海上に眩い砲炎と共に走り、タナガーが「イメージ」した位置へ砲弾が飛翔していく。

 腕時計を見ながら弾着までのカウントダウンをするタナガーが「マーク」と呟いた時、遠方で大口径砲弾が直撃した爆破閃光と爆発音が走る。

「なんと!」

 驚く鳥海が双眼鏡で深海棲艦艦隊を見るとリ級flagship級一隻が爆発炎上しながら傾いて動きを止めていた。

 

(二射目で撃破確実の有効弾を送り込むなんて、これが初デビュー戦の新人とは思えない腕前だわ)

 

 双眼鏡を下ろしても見える燃え上がる松明とかしたリ級flagship級の姿と最後尾のタナガーを交互に見やりながら、俄には信じられない程の精度の砲撃をいきなり叩き出したタナガーにただただ驚きの念を禁じ得ない。

 まだ自分を含む重巡五隻は直撃はおろか、至近弾も出していない。それぞれが着弾位置を「近」「遠」と判定される中、二射目でタナガーはリ級flagship級を撃破した。

「あたしらも負けてられないね」

 舌を巻きながら主砲を構え直した加古が第四斉射を放つ。

 加古の砲撃はロ級後期型の至近距離に着弾する。ロ級後期型は寸前に回避運動を取っていた為惜しくも直撃は逃した形だ。

 ロ級後期型に至近弾を送り込んだ加古に続き、古鷹がロ級後期型のすぐ傍に砲弾の着弾の水柱を突き上げ、青葉と衣笠もツ級一隻相手に集中砲火の構えとり、鳥海も残り二隻となったリ級flagship級の片方に主砲の照準を合わせて発砲する。

 交互撃ち方の要領で今度は三連装砲の中砲の仰角を取ったタナガーは目をつむって敵艦の位置を脳内で「イメージ」する。

「射撃認証完了、諸元修正良し、仰角よし、射角よし、撃ち方用意良し」

「発砲! てぇーっ!」

 射撃用意良しと告げる装備妖精の報告を受けて砲撃の号令を発するタナガーが右手を振り下ろすと、三門の中砲が発砲し鳥海が狙っていないもう一隻のリ級flagship級へ砲弾を飛ばす。

 暗い海上をタナガーが放った三発の砲弾が飛翔していき、轟音を上げながらリ級へと迫る。

 タナガーが放った砲撃に気が付いたリ級が寸でのところで回避運動を行って直撃弾を何とか躱してのけるが、そのすぐ傍に彼女から放たれた砲弾が高々と水柱を突き立てる。

 

(艦長は砲術は二発に一発当たれば勝利だって言っていた、やってやる)

 

 駆逐艦ハーンの砲術長時代のトーレス艦長は時化。それもかなりの高波の中で水平線の丸みでハーンのレーダー圏外になる三〇キロ離れた先の敵艦に二発に一発は当ててのける偉業を達成している。

 今の自分の環境はどうだ、波も風も時化の時と比べれば凪いだ状態にも等しく、敵艦は自分のレーダーどころか目視で確認出来る所にいる。

 

 次はあててやる。

 再装填が終わった主砲を向けて射撃トリガーに指をかける。

 自分に狙われているリ級の主砲が火を噴き、タナガー目掛けて砲弾が飛翔していく。

 あれは当たるな、とタナガーが思った時、彼女の艤装の重要装甲部分にリ級の砲弾が着弾する。鈍い金属音と共にリ級の砲弾が弾き飛ばされる。

 応急修理妖精から「異常なし」の報告を受けたタナガーがフッと不敵な笑みを浮かべ、再装填が終わった主砲の照準を合わせたリ級へ発砲する。

 タナガーが「イメージ」した位置へ送り込まれた砲弾がリ級を捉え、その艤装に着弾と爆発の炎を走らせる。

 一六インチ砲弾二発が直撃していたが、リ級は辛うじて轟沈は免れたらしく、進路を変針して離脱を図る。

「逃がすか」

 背中を見せるリ級へ照準を合わせると躊躇わずに引き金を引く。三連装砲の中砲三門が轟音と共に砲弾を撃ち放ち、空気との摩擦熱で真っ赤に焼けた砲弾を空中に飛翔させていく。

 よろよろと離脱を図るリ級の背中にタナガーが放った砲弾が直撃し、突き飛ばされたようにリ級が姿勢を崩して爆発炎の中に消える。

 あっという間に深海棲艦側はタナガーの攻撃でリ級二隻を失い、劣勢に陥っていた。

 沈没していくリ級二隻の後を追う様にツ級が衣笠の砲撃を受けて航行不能に陥ったところへ青葉の砲撃を受けて炎上しながら海面下へと沈み始める。

 ロ級後期型二隻に古鷹と加古の放った砲撃の直撃の閃光が走り、艤装から破片を散らし一隻が炎上し始める。

 鳥海が狙うリ級も鳥海の二〇・三センチ三号砲の放つ砲撃が着弾し始め、身動きが次第に鈍くなる。

 被弾を重ねるリ級が鳥海へ生きている主砲で反撃を試み最後の足搔きを見せるが、先読みした鳥海はあっさりと砲撃を躱してのけ、次弾をリ級へと送り込み、止めを刺す。

 止めを刺されたリ級が夜間の洋上に燃える松明とかして動きを止め、沈降を始める中、古鷹と加古が狙うロ級後期型二隻に青葉と衣笠の援護射撃が入り、手負いのロ級後期型二隻の艦上に更なる着弾の爆発炎が走る。

 リ級やツ級よりも粘りを見せるロ級後期型二隻だったが、重巡四隻からの集中砲火は流石にいかんともしがたい。

 六戦隊の四人から集中砲火を浴びていたロ級二隻の内一隻が突如花火の様に大爆発を起こして轟沈し、続いて二隻目に過去の放った砲弾の着弾の閃光が走るや、それが致命傷となったのかロ級が潜航とは異なる、死の潜航を始める。

 全艦撃沈を確認した鳥海がP-1哨戒機へ敵艦隊撃滅の報を入れる。

「スカイガーディアン、こちら鳥海。敵艦隊撃破。全艦の轟沈を確認。我が方被害なし」

《了解。B任務部隊も先程ネ級三隻を中核とする敵艦隊と交戦を開始した》

「B任務部隊の状況は?」

《磐梯被弾、小破。されどネ級elite級を早々に二隻仕留め、残敵掃蕩中だ》

「分かりました。新たな敵艦隊の反応は?」

《今TACCOが確認している、スタンバイ》

 敵艦隊を捜索するP-1からの続報を待つ間に第一群を撃破したA任務部隊は一旦第一戦速へと減速する。

《スカイガーディアンよりA任務部隊各艦へ。新たな敵艦隊を確認。方位120、敵針220、敵速二〇ノット。

 敵艦隊はネ級通常型三隻、ト級elite級一隻、イ級後期型二隻》

「了解。全艦、転進します。回頭面舵」

 鳥海の回頭指示に従ってA任務部隊は面舵一五度の転舵を開始する。特に細かい指定がない限り、面舵、取り舵の指示だけで一五度の変針が行われるのが海軍の指示の仕方だ。

 次の敵はネ級三隻を主体とする重巡戦隊。リ級よりも脅威度は高めだ。

 夜戦ともなればネ級の脅威度は更に高まる。A任務部隊の間に緊張が高まる。

 そんな中でタナガーが鳥海に意見具申をする。

「タナガーから旗艦鳥海へ意見具申」

「何でしょう?」

 振り返って尋ねる鳥海にタナガーは対艦ミサイル発射機を指さして提案を述べる。

「私の対艦ミサイルによるネ級一番艦への先制攻撃を具申します」

「対艦ミサイル攻撃ですか、しかし電探で捕捉出来ていない敵艦へどうやって誘導を」

「中間誘導はスカイガーディアンでも行えます。ちゃんとデータリンクも備わっています」

 可能だ、と言い切るタナガーの顔を見つめながら鳥海は少し考え込む。

 

 深海棲艦の重巡以上の艦艇には謎のバリア機能で対艦ミサイル等の誘導弾は無効化されてしまう事が判明している。有効打となりえるかは怪しい。

 それに彼女の艤装で初めて艦娘サイズの艦対艦ミサイルが突然に実用化されたと言っていい。当然ながら現時点で補充の利く弾薬ではない。

 また対艦ミサイルと巡航ミサイルはそれぞれ一発ずつが技術解析の為に降ろされている為、タナガーのミサイルの手数も各一発ずつ減っている。

 一方でタナガーの対艦ミサイルも無効化されてしまうのか、と言う事自体まだ検証もされていない未知の分野だ。

 検証がてら、ここは一発だけタナガーの対艦ミサイル攻撃でどこまで深海棲艦に有効なのか試してみるのもありかも知れない。

 

「良いでしょう。対艦ミサイル攻撃を許可します。スカイガーディアン、データリンク接続、タナガーさんの対艦ミサイルの中間誘導を願います」

《了解した。当機で中間誘導を行う》

 発射許可が下りるやタナガーの方でミサイル発射準備が始まる。

 スカイガーディアンからデータリンクでネ級一番艦の座標が送られ、それが彼女の対艦ミサイルの一発の弾頭にインプットされる。

 CIC妖精が慣れない対艦ミサイルのコンソールを操作してデータリンクで送られてきた座標を入力し終えるとタナガーに「対艦ミサイル発射用意良し」と告げる。

「目標の座標を取得」

「対艦ミサイル発射用意」

「射線方向クリア」

「用意よぉし」

 CIC妖精が発射用意良しと報告を上げて来ると、タナガーは凛と張った声で発射命令を発令した。

「対艦ミサイル一番、こーげき始めー! てぇーっ!」

 刹那、タナガーの艤装上に煌々とした灯りと噴煙が走った。対艦ミサイル発射機からバックブラストが発射機後方に噴出され、発射機先端の発射口を突き破って対艦ミサイル一発がブースターの輝きを暗闇に光らせながら飛翔していった。

「バーズ・アウェイ!」

 暗闇へ飛翔していく対艦ミサイルを見送るタナガーのヘッドセットにスカイガーディアンからミサイルの誘導管制の引継ぎ開始が宣告される。

《タナガー、こちらスカイガーディアン。対艦ミサイル発射を確認。正常に飛行開始。これより中間精密誘導を開始する》

 

 

 地球は丸い為、水平線の向こうまでは直進するレーダーで探知するのにも限界がある。艦娘ではない洋上艦艇のレーダーでも最大で二〇キロが限界だ。そして艦娘は人サイズの大きさ故に、どうしても通常の洋上艦艇よりもレーダーの高さの位置が稼ぐことが難しくレーダー索敵範囲が狭い。

 それは即ちタナガーを含む艦娘自身による対艦ミサイルの誘導可能範囲も洋上艦艇よりも狭いと言う事になる。

 このレーダーの探知範囲の限界を補うのがスカイガーディアンの様な哨戒機、つまり航空機の目だ。

 今のところタナガー以外に艦対艦ミサイルを搭載する艤装を持つ艦娘はいない為、この点は問題になった事が無かったが、タナガーの登場以降は急遽艦娘と哨戒機などとのデータリンクが構築され、彼女の対艦ミサイルをその限界の大きい艦娘サイズのレーダーに代わって航空機が目標まで誘導するシステムが作り上げられていた。

 艦娘の艤装に艦対艦ミサイルが装備されていないのは、艦娘サイズのミサイル開発に手こずっていると言うのもあるが、艦娘のレーダーでは探知と誘導に限界があると言う点から、武器のコストパフォーマンスの面で有視界戦闘となる砲撃戦の方が艦娘が負傷すると言うリスクを除いてよいと言う面があった。

 艦娘と言う容易に替えが効ない存在を有視界の砲撃戦、雷撃戦で失う事の方が遥かに失った時の「損失」は大きいのだが、技術的にそれを補えるものが開発できていないのが現状だ。

 しかし、タナガーはそれを一夜で彼女だけに限られた話ではあるものの解決していた。

 彼女の艤装からミサイルを一発ずつ降ろしているのはこの艦娘サイズの対艦ミサイル研究の為に利用する事であり、彼女の対艦ミサイル、巡航ミサイルの技術が応用されれば何れは艦娘サイズのミサイルの実用化も早まるだろう。

 

 

 タナガーから発射された対艦ミサイルは暫し飛翔した後、燃料を使い果たしたブースターを切り離し、ロケットモーターに点火して海面すれすれを亜音速で飛行し始める。

 海面すれすれを飛行するのは敵艦のレーダーにとらえられるのを可能な限り遅くする為だ。飛行高度が高ければ早期に対空レーダーで検知され、迎撃されてしまう。

 もっともそれはミサイル同士で戦っていた艦娘ではない洋上艦艇で通じていた話であり、ミサイルを迎撃する手段をそもそも持たない深海棲艦相手なら別にミサイルの飛行高度は関係ないのだが。

 海面すれすれを飛ぶ、シースキミング飛行を亜音速で飛びぬける対艦ミサイルはスカイガーディアンの航空機の目でネ級一番艦へと誘導される。

 瞬く間にタナガーとネ級との距離を飛翔した対艦ミサイルはネ級の手前でポップアップすると規定高度で急降下に転じ、ネ級の頭上から襲い掛かった。

 亜音速で近づく対艦ミサイルを凝視していたネ級の艤装に対艦ミサイルの直撃の閃光と爆発炎が走る。

 本来なら対艦ミサイルの直撃には何らかのバリア機能で弾いていたネ級だったが、タナガーから放たれた対艦ミサイルの直撃は有効打となった。

 爆発炎に包まれるネ級が更なる大爆発を起こして木っ端微塵に砕け散る。

 一瞬にして轟沈し、ディスプレイ画面から消えるネ級をスカイガーディアンのTACCO(戦術士官)はにわかには信じられない気持ちで見ていた。

《こ、こちらスカイガーディアン。ネ級一番艦に対艦ミサイル命中を確認。轟沈を認む》

 その一報にヒューと加古と青葉が口笛を吹く。

「ワンダウンね」

 にやりと口元を緩めながらタナガーは呟く。艦娘サイズに最適化された自分の対艦ミサイルならネ級クラスの深海棲艦相手には十分有効だと判明した瞬間だった。

 この時点で水上戦闘においてはタナガーは極めて強いと言えた。砲術の腕前は一級モノであり、更に一撃必殺の対艦ミサイルまで持つ。

 航空機の支援さえあれば、対艦ミサイルを用いてアウトレンジ攻撃で深海棲艦を屠る事も可能だ。

 

 愉悦の感を覚えながらも、タナガーは(まあ……)と自分が苦手とする分野がある事も自覚していた。

 まず対潜攻撃は装備もないだけに出来ない。こればかりは戦艦と言う艦種そのものが対潜攻撃を想定していないから致し方ない。既存の戦艦艦娘でも対潜攻撃が可能な者はいない。

 もう一つタナガーが苦手とするのが対空戦闘だった。いや苦手と言うよりは不安とする分野だった。

 前世でISAFの航空攻撃に成す術もなく撃沈された自分だ。深海棲艦はISAFの航空機よりはましな方であると思ってはいるが、寄ってたかって数で押し寄せられたら自分でも防ぎきれるか怪しい。

 CIWSと言う艦娘の対空火器では特に高性能な対空火器が四基備わっているとは言え、それでもどこまで凌ぐことが出来るのか。

 一応演習での模擬対空戦闘では上々以上の成績を収めているとは言え、深海棲艦相手にそれがどこまで通用するかはまだ分からない。

 自分に酔いしれず、謙虚に、そして用心深く行こうと自分に言い聞かせる。

 

 再び水底に沈むのは御免だった。

 

 艦娘として再び艦としての生を得たこの素晴らしさを、簡単に手放す気はなかった。

 スカイガーディアンから五隻に減じてしまった深海棲艦が視認射程内に間もなく入ることが通知された。

 第二幕の始まりだ、とA任務部隊の鳥海、青葉、衣笠、古鷹、加古、そしてタナガーの六人がサーモン北方海域夜戦第二幕の構えを取った。

 




 タナガーにエースコンバット7のトーレス艦長の台詞を喋らせてはいますが、タナガー艦長時代のトーレス大佐はまだ虐殺信条がないと言う事を設定としているので、あくまでもタナガーはトーレス艦長譲りの砲術チーターと言う扱いになっております。

 個人的な考察ですがトーレス艦長が虐殺信条を唱え始めたのは彼がタナガーを喪った後、と考えております。
 
 次回の投稿、長い目でお待ちください(2022春イベが始まるので執筆時間が取れないかも知れません……善処します)。
 タナガーとリアル世界での彼女と言えるアイオワとの掛け合いや。近日艦これ本家実装予定の改二化された大和との掛け合いも予定しております。
 
 ではまた次回のお話でお会いしましょう。
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