艦隊これくしょん ストレンジリアル軍艦艦娘転生海戦譜 Season1   作:岩波命自

5 / 24
 嫁艦の青葉の進水日に間に合わせようと他の作品の原稿そっちのけで書き上げました(そんなんでいいのか?)

 前回から大分時間が経って申し訳ありません。


第五話 サーモン北方海域夜戦 中編

「コンタクト。敵艦隊インバウンド、艦影五。方位120、敵針220。艦種識別、ネ級通常型二隻、ト級elite型一隻、イ級後期型二隻」

 先行する鳥海から敵艦隊目視の報が上がるやA任務部隊の一同は艤装を構え直し、戦闘に備える。

 タナガーの対艦ミサイルで一番艦のネ級を撃沈された敵艦隊だが、進路、速度を変えずにA任務部隊へ急接近していた。

 旗艦鳥海からA任務部隊の五人へ装備妖精が発行信号で彼女が下した指示を伝達する。

「全艦、左一斉回頭用意、新進路005。右砲戦、雷撃戦用意」

 発行信号を見たタナガーは復唱する様に先頭を航行する鳥海の艤装上で明滅する光を見て呟いた。

 右砲戦と分かるや、タナガーの第一第二主砲が右舷を指向する。一式徹甲弾改が主砲塔内で三門の砲身に装填され、二基の砲塔から「装填完了」のブザーが鳴る。

「撃ち方用意よぉし」

 風に負けない大声で装備妖精が親指を立てながらタナガーに各砲塔射撃用意良しの合図を送る。

「了解、射撃指示を待て」

 頷きながら返した時、スカイガーディアンから緊急電を告げる着信音が六人のヘッドセットに鳴り響いた。

《警報、新たな敵艦隊の接近を検知、参照点より方位170。艦種識別、戦艦タ級flagship級二隻、重巡ネ級一隻、防空巡ツ級一隻、駆逐艦ハ級後期型二隻。ポイント5-5Mより作戦海域へ高速で接近中。

 A任務部隊が一番近い。会敵予想時刻はおおよそ五分後》

「戦艦部隊⁉ またお客さんかよ」

「タナガーさんがいるとは言っても、相手は今目の前にしている五隻合わせて一一隻。合流されたら相手に余るわね」

 舌打ち交じりに頭を掻く加古を見ながら衣笠もやや厳しい状況になりつつあることに眉間に皺を寄せる。

 溜息を漏らす二人に青葉が先行する鳥海と続航する衣笠、古鷹、加古、タナガーの顔を見て腕を組む。

「敵は目の前が五隻。遅れて来るのが六隻でこっちは六人……数では負けてないですね。寧ろ目の前の敵に対しては数ではこっちが上」

「練度も充分。負けてないね」

 自信ありげに口元に笑みを浮かべる古鷹が頷く。確かに数では負けていない。ただ今回がデビュー戦であるタナガーが少し気がかりではある。

 不安げに青葉はタナガーの方を振り返るが、当の本人はやる気満々の表情だ。

(生き合いは良し……さてそれに実力がどの程度カバーしてくれるか)

 チートクラスの命中精度を発揮していたとは言え、ここは魔境サーモン北方海域。他の海域の深海棲艦とはひと味違う深海棲艦揃いだ。

 Lv99と判定された熟練の艦娘でも容易に大破させられる敵が揃う海域で、新兵クラスの経験とLv45と判定された練度のタナガーがどこまでやれるか。

 確かにさっきは妙に無双してのけたとはいえ、今度もまたそうなるとは限らない。

 そう不安に思う自分もまた例外ではないと自戒の念を胸に刻みながら青葉は右肩に担ぐ艤装を担ぎ直す。

 

 先行する鳥海の二二号水上電探が五隻の深海棲艦を捉えて間もなく、単縦陣を組んで白波を蹴立てながら接近する深海棲艦五隻の姿が六人の目でも見えた。

「砲戦用ー意! 右舷深海棲艦五隻、全艦最大戦速! 取り舵一杯!」

 鳥海の合図と共にその頭を抑える様にA任務部隊は鳥海に続いて一斉に取り舵に舵を切り砲門を右舷へ指向する。

「衣笠の観測機、吊光弾投下します」

 最大戦速に再加速して取り舵に舵を切った鳥海の肩で、装備妖精が全員に向けて事前に発艦させていた衣笠の観測機が敵艦隊をマークする照明弾投下を知らせる。

 接近する五隻の深海棲艦の頭上でぽっと明るい光が瞬き、単縦陣を組んで接近する五隻の深海棲艦の艦影を海上に浮かび上がらせる。

「目標確認、全艦撃ちー方始めー!」

 号令と共に旗艦である鳥海が先んじて砲火を開く。遅れて青葉、衣笠、古鷹、加古と撃ち始める。タナガーは仕留め損なった敵艦に備え発砲を控えて先に撃った五人の砲撃が着弾するのを待った。

 遠方で吊光弾に照らされる深海棲艦五隻の内、ネ級一隻とト級一隻、イ級一隻に命中、着弾の爆破閃光が走る。鳥海と古鷹、加古の砲撃が命中したようだ。

 直撃はしたもののネ級とト級は持ち堪えており、先手を打たれながらも反撃の砲火を放つ。

 一方、青葉と衣笠の砲撃を躱したネ級とイ級は魚雷発射管からそれぞれ五発の魚雷をA任務部隊目掛けて発射する。

「雷跡視認! 方位080!」

 鳥海の肩で装備妖精が双眼鏡を覗き込みながら叫ぶ。

 扇状に放たれた魚雷の雷跡に対してA任務部隊の鳥海、青葉、衣笠、古鷹、加古は一斉に面舵に舵を切り回避運動を取る。

 魚雷の射線に入っていなかったタナガーが回避運動中は射撃が出来ない五人に砲門を向けるネ級の一隻に第一、第二主砲の砲門の照準を合わせた。

「発砲! てぇーっ!」

 射撃指示が彼女の口から下るや、六門の一六インチ主砲が発砲の火焔を放つ。

 砲炎が砲口から迸り、徹甲弾が轟音と共に撃ち出されていく。

 回避運動を行う旗艦鳥海を狙っていたネ級にタナガーが放った主砲弾二発が直撃する。轟音と共に重巡クラスとは桁違いの運動エネルギーと破壊力を誇る「戦艦の徹甲弾」が直撃したネ級が海上になぎ倒され、艤装が爆発する。

圧倒的火力と艦娘になったばかりとは思えない程の高い命中精度の砲撃に、A任務部隊のメンツはもう驚く事も無くなっていた。

 ネ級とイ級からの魚雷攻撃を躱してのけた五人は再び射撃の構えを取り、各自目標を定めた敵艦へ砲撃を再開する。

 鳥海の砲撃がト級に着弾し、ネ級に青葉と衣笠の砲撃が集中して直撃する。

 重巡の砲撃を食らったト級が爆発炎上して燃える松明となって海上で停止するが、ネ級は青葉と衣笠の集中砲火に尚も耐えて反撃の砲撃を放つ。その照準はタナガーに向けられていたが彼女のバイタルパートがあっさりとそれを弾き飛ばす。

 痛くも痒くもないと言う顔でタナガーがネ級を見る中、再び青葉と衣笠の斉射の砲声が轟き、既に被弾損傷していたネ級の艤装艦上に着弾の爆破閃光を次々に走らせる。

 青葉の右肩に担ぐ主砲艤装の第一、第二主砲と左足の第三主砲、衣笠の両手に持つ第一、第二主砲と青葉と同じく左足にマウントされた第三主砲が発砲の火焔を砲口から迸らせると、撃ち出された徹甲弾がネ級に降り注ぎ、当たるべくして当たった砲弾がその艤装に着弾の炎を咲かせる。

 古鷹と加古の二人は尚も健在のイ級に砲撃を浴びせており、それぞれ直撃弾を既に得ていた。被弾したイ級の内、加古の砲撃を受けたイ級は早くも損傷が甚大なものとなっており、炎上しながら戦域離脱を図る。

 もう片方のイ級は身軽な動作で古鷹の砲撃を躱していくが、その回避機動に振った動作のお陰で応射は全く出来ていない。反撃を受けない分、古鷹の砲撃の修正は正確になっていき、五斉射目でイ級に直撃弾を得た。四回の発砲音が古鷹の右腕の艤装から響くや、打ち出された二〇・三センチ主砲弾がイ級へと飛翔していく。正確に照準を定めた砲撃の直撃を受けたイ級が姿勢を崩し、回避機動に衰えを見せる。

 畳みかける様に浴びせられる古鷹の砲撃を受けたツ級が屈する様に黒煙にその身を包ませながら沈黙していく。

 この時点でA任務部隊は大破したネ級と戦域離脱を図るイ級以外の全艦を撃沈していた。青葉と衣笠の砲撃を浴びるネ級は既に虫の息であり、イ級も加古からの追撃の砲撃を受けて行き足を鈍らせていく。

 する事がないタナガーは先輩であるA任務部隊仲間の重巡五人の戦い様をその目でじっくりと観察する。あっさりと深海棲艦を複数隻撃沈してのけたとは言っても、自分は所詮は新兵の域をまだ出ていない。先輩である第八艦隊の重巡五人の戦いを人としての形を得た際に授かった「目と耳」でじっくりと観察していく。

 ほぼ全艦を片したのを確認した鳥海はスカイガーディアンに無線を繋いで戦艦部隊の位置を確認する。

 

(方位、速力変わらず。急速に貴艦隊に接近中。別動隊と交戦中のB任務部隊が別動隊掃討を完了してそちらに向かっているが、間に合いそうにない)

「了解しました……タナガーさん」

「はい、艦隊旗艦?」

 上官格である鳥海に向き直るタナガーに鳥海は対艦ミサイルによる戦艦部隊への攻撃が可能かを問う。

「対艦ミサイルを戦艦部隊のタ級に当てる事は可能ですか?」

「対艦ミサイルは弾頭部に仕込まれたレーダーの反射が一番大きい目標を優先攻撃しますから、戦艦であるタ級以外がチャフでも打たない限りは外さないと約束できますよ」

 右手の人差し指を立ててニコリと自信溢れた笑みで返すタナガーに鳥海は充分ですと頷くと、再びスカイガーディアンとの無線を開く。

「タナガーさんの対艦ミサイル攻撃でタ級を一隻削ります。スカイガーディアンは中間誘導をお願いします」

(了解した。データリンクは良好、いつでも中間誘導可能だ)

 

 対艦ミサイル攻撃でネ級を撃沈する事は出来た。だが、タ級と言う戦艦までにどれ程の打撃力を与えられるかは分からない。

 そもそも艦娘サイズの誘導弾はまだ限られた装備の範疇に過ぎず、実用化されたモノは空対艦誘導弾レベルであり、それをもってしても戦艦クラスを撃沈したと言う例はまだない。いやそもそも実用化された対深海棲艦用の空対艦誘導弾で重巡以上の艦艇を仕留めたと言う実績自体が無い。

 それを一瞬で塗り替えたのがタナガーの対艦ミサイルだったわけだ。

 

「目標座標取得中……目標座標再入力。CIC指示の目標、対艦ミサイル二番(ふたばん)、こーげき始めー! てぇーっ!」

 暗闇に包まれる海上に再び主砲の発砲とは異なる閃光が走り、暗い海上をタナガーの艤装から放たれた対艦ミサイル一発が飛翔していく。

 ブースターの燃焼音の殷々とした轟音と噴煙を残して二発目の対艦ミサイルが飛翔してA任務部隊とタナガーを後にすると、途中からスカイガーディアンの誘導を得てA任務部隊へと接近する戦艦部隊へと迫る。

 燃料を使い果たしたブースターを捨て、ロケットモーターに点火すると亜音速でタ級へと迫った対艦ミサイルはあっという間にタ級の至近距離まで迫ると事前にプログラムされた通りポップアップし、タ級の頭上から襲い掛かる。

 対艦ミサイルの直撃を受けたタ級が艤装で起きた大爆発にぐらりとその姿勢を崩す。

(スカイガーディアンからA任務部隊。目標への対艦ミサイル命中を確認。タ級未だ健在なるも速力低下。大破したとみられる)

「残る艦艇は?」

 尋ねる鳥海にスカイガーディアンは(スタンバイ)とだけ返す。

 待機する鳥海にタナガーが意見具申を図る。自身ある顔で意見具申を求めるタナガーに鳥海は聞くだけ聞いてみようと先を促す。

「敵の戦艦は大破艦一、健在艦一。残存敵艦の艦種から見ても重巡五隻を有する我が方が優勢です。鳥海さん、我が隊の戦力でも残存する敵戦艦戦隊は充分掃滅可能と判断します。前進し、敵戦艦戦隊撃滅を図るべきです」

 私が「戦艦」だった頃なら「戦艦タナガー」単艦でも捻り潰せた数の艦艇だ、行ける、躊躇う必要はない、そう言う思いを含めて具申するタナガーに鳥海は両腕を組んで思案顔になる。

 何を躊躇う理由がある、艦では無く艦の命そのものを討つのが戦だろう、と目で訴えるタナガーに鳥海に続航していた青葉が静かな声で返す。

「タナガーさんはこの海域の恐ろしさを知らないから言えるんです。自信過剰になり過ぎると帰られませんよ。戦艦戦隊に構っている間に本来の作戦目標の敵空母機動部隊を取り逃す事になりかねません。

 敵の空母艦載機は深海棲猫艦戦改と深海地獄艦爆、深海復讐艦攻改。攻撃目標であるヲ級改flagship級には艦攻だけでも七二機艦載されています。爆撃を受けたらひとたまりもありません。この海域を攻略するために進軍して来た『場数を多く踏んで来た経験豊富』な艦娘艦隊の多くはヲ級flagship級の爆撃で大破して撤退を余儀なくされてきました。タナガーさんが前世で何によって撃沈されたか、覚えているでしょう?」

「……」

 

 航空攻撃、自分が嫌な被攻撃手段だ。前世の自分が何で撃沈されたかは勿論忘れてはいない。忌々しいリボン付きの戦闘機を始めとした航空機達。自分には出来ない大空を自由に空を舞い、二次元の動きしかできない自分を三次元の動きで翻弄し、爆弾を落としてコーンベースの水底へ沈めた仇敵。

 青葉に説き伏せられて下がるタナガーを横目に鳥海はスカイガーディアンからの報告を受ける。

(敵艦隊は大破したタ級を置いて前進を再開した。更に参照点より方位050より本来の攻撃目標である重巡戦隊三個と空母機動部隊が転進してそちらへ向かっている。B任務部隊と合流して挑んだ方が良い)

「了解しました。敵艦載機に動きがあれば連絡を」

 深海棲艦の艦載機各種は夜間攻撃能力を有している。少なくともヲ級改の夜間攻撃で撃沈された艦娘が出た事はないが、気を抜いて中破や大破に追い込まれた例は複数ある。夜間のせいで肉眼での対空射撃照準が難しいだけに回避も困難だ。もっとも深海棲艦の夜間航空攻撃自体の命中率があまり宜しくないのでそうしょっちゅう起きている事例ではないが、気を抜けば轟沈して水底の藻屑となって横たわるのは艦娘の方だ。

 取り敢えずまずはB任務部隊との合流を目指すべきだろう。

 敵は恐らく各個撃破を恐れて艦隊を集結させ、物量をもってこちらを圧倒しにかかる筈だ。ならばこちらも一二人の艦隊戦力を結集して連合艦隊戦力で挑むべきだ。

 鳥海がB任務部隊旗艦の愛鷹に連絡を取り、被害を再確認する。磐梯と北上が小破していたが戦闘航行の継続に支障なしとの事だった。

 流石重巡キラーである愛鷹型超甲巡の火力もあってかネ級はその火力に捻じ伏せられ、随伴艦も改二の姿である北上と大井の卓越した射撃で制圧されていた。そんな中でラッキーショットを貰った磐梯と北上だったがそれでも大した被害にならずに済んでいる。

 B任務部隊と一旦合流を図るA任務部隊の各メンバーが時計を見やると、既に交戦開始から一時間が経過していた。夜明けまで後三時間。

 夜が明けたら敵艦載機の空爆が来るかもしれない。愛鷹型超甲巡の対空戦闘能力は極めて高いとは言っても、空母艦娘のエアカバー無しの艦娘艦隊程航空攻撃に弱いものは無い。

 

 

 一五分と経たずにB任務部隊の艦娘六人がA任務部隊の艦娘六人と合流を果たした。

 磐梯と北上の艤装に焼け焦げた被弾孔があったものの、二人とも身体に傷は無く、大事には至らずに済んでいた。

 合流したA、B任務部隊合わせた第八艦隊のメンバー全員はA任務部隊を前衛に置いた第四警戒航行序列陣形を組んで、前進を再開した。

 第八艦隊が第四警戒航行序列陣形に移行したのを何らかの形で察知した深海棲艦も二個重巡戦隊からなる連合艦隊編成と、重巡戦隊一個と空母機動部隊一個からなる連合艦隊編成の二手に分かれて第八艦隊へと進撃を開始した。

 一番第八艦隊に近いのは二個深海重巡戦隊一二隻。リ級flagship級三隻とネ級elite級三隻を中核とした強力な水上打撃部隊だ。

 後方にはリ級三隻を主力とする重巡戦隊と合流した空母機動部隊。相手にする敵はこちらの二倍だが、正面からぶつかる戦力の差で言えば頭数は同一だ。

 第八艦隊一二人の先頭を切って航行する鳥海の後を青葉、衣笠、古鷹、加古、タナガー、愛鷹、磐梯、黒姫、大峰、北上、大井と続く。

 暗闇に包まれた海上を凝視する各艦娘の熟練見張り員妖精が警戒監視に当たる中、タナガーのレーダーが接近する深海棲艦の重巡戦隊を捕捉した。

「第八艦隊全艦へ、こちらタナガー、レーダーにて敵艦を捕捉。方位220」

(こちらスカイガーディアン。敵深海重巡戦隊コンタクト、おおよそ五〇秒後にエンゲージ。全艦対水上戦闘用意)

「旗艦鳥海、了解。全艦、水上戦闘用意! 左主砲戦。衣笠さん、観測機に吊光弾投下を」

「了解」

 上空を飛行する衣笠の艦載水上観測機が再び吊光弾を投下する。

 暗い海上の空にぼっと明るい灯りが光る。その下にリ級三隻、ネ級三隻、それにへ級とト級が一隻ずつとロ級が四隻の艦影が照らし出される。

「合戦準備! 第九戦隊、最大戦速。取り舵、新進路方位220!」

 ネ級とリ級の姿を認めた愛鷹が隷下の第九戦隊に突撃を発令する。単縦陣を組んだ愛鷹型超甲型巡洋艦艦娘四人と北上、大井が最大戦速へと加速して前へ出る。

 タナガーを含む残る第八艦隊のメンバーが見守る中、夜間の海上に三一センチ三連装主砲の発砲炎が瞬くと同時に砲声が轟き、第九戦隊の愛鷹型の四人が砲撃を開始するのが分かった。

 双眼鏡を取り出したタナガーがナイトビジョンモードにして第九戦隊の砲撃を見ると、ネ級elite級三隻のかなり傍に第九戦隊の愛鷹型四人は初弾を送り込んでいた。

 中々に上手い砲撃だ、とタナガーが感心していると遅れて北上と大井が一四センチ主砲を撃ち出すのが聞こえた。

 無論、鳥海以下の残りの第八艦隊のメンバーも黙ってみている訳では無い。

 最大戦速に加速すると、左舷に指向した主砲を各自照準を合わせ発砲を開始する。

 六人の「撃ちー方始めー!」の号令が下ると二〇・三センチ連装主砲と一六インチ三連装主砲の轟々たる砲声が響き渡り、赤く光る徹甲弾を暗闇の虚空に飛翔させていく。

 リ級flagship級三隻の周囲に鳥海、青葉、衣笠、古鷹、加古の放った砲撃が着弾し、水柱を各個に突き立てる中、タナガーの放った重巡でも超甲巡でも雷巡よりも大きな戦艦の大きな主砲弾の着弾の水柱を立ち上げる。

「次弾装填急げ!」

 装備妖精に主砲の再装填を急がせる中、鳥海以下の五人の重巡艦娘が再び発砲し、リ級flagship級三隻の周囲に照準を修正した次弾を送り込んでいく。

 第九戦隊の愛鷹型四人は早くもネ級elite級三隻に直撃弾を出していた。ネ級elite級の一隻の艤装上に火災の炎が見えたが、elite級なだけあってか三一センチ主砲弾の直撃に耐えるだけでなく応射して来ていた。

 本能的にネ級elite級の存在に危機感をタナガーが覚えた時、先行する第九戦隊の愛鷹型の二番艦磐梯の艤装に着弾の閃光が走る。

「ぎゃッ!」と言う短い悲鳴が磐梯から発せられ、彼女の艤装から火災の炎がゆらりと立ち上がる。

 小破艦を的確に狙撃して来たか、とタナガーが歯噛みした時、磐梯の艤装に更に着弾の爆発の閃光が走る。火災が発生しただけあって格好の的になっていた磐梯にヘ級flagship級とロ級後期型からの集中砲火が着弾していた。

 超甲型巡洋艦の艤装装甲のお陰でへ級、ロ級の攻撃は致命的なダメージには至っていない様だが、それでも四散した破片や爆発が磐梯の身体をと艤装を傷つけて行く。

「こちら磐梯、我多数被弾! 損害大きい、戦列を離れます!」

「こちらタナガー、磐梯さん援護に入る!」

「ネガティブ、タナガーさんは磐梯さんの代わりに戦列を維持して下さい」

 本能的にヘッドセットに向かって吹き込んだタナガーに鳥海が抑揚のある声で却下する。

 しかし、と食い下がろうとしたタナガーに磐梯から直接無線が入る。

「私はいいですから、奴らを叩いて」

「……だけど……」

 負傷し痛む体を引きずって離脱を図る磐梯の痛身を堪える声にタナガーは、コンベース港で最期を遂げたあの日の事を思い出す。

 磐梯の様に損傷し、離脱を図った艦すら情け容赦なく敵は襲い掛かり、沈められた。

 もうあの惨禍を自分の目の前で繰り返したくない。そう願うタナガーに磐梯は「構うな」と言う様に手を振った。

「すぐに終わらせる……」

 主砲を構え直し、ネ級elite級の一隻を凝視したタナガーは「イメージ」した敵艦の位置へ向けて主砲を撃ち放つ。

 第一、第二主砲の六門の砲門から明るい発砲炎が迸り、撃ち出された徹甲弾がネ級elite級へと轟音を立てながら飛翔していく。

 ネ級elite級が急接近するタナガーからの砲撃に気が付いて回避行動を取ったが、吸い込まれる様にタナガーの砲撃はネ級elite級に着弾していた。

 轟音と共にネ級elite級の艤装が打ち砕かれ、爆発炎上の炎が立ち上る。タナガーの砲撃を諸に食らったネ級elite級が速力を落とし、隊列から落伍していく。

「凄い……」

 瞬く間にネ級elite級を下すタナガーを見て、青葉は艤装の射撃グリップを握り直しながら舌を巻く。経験で言えばこの場にいる誰よりも浅いタナガーだが、砲術の腕前は誰よりも高い。

 青葉も負けてられないな、と握り直した射撃グリップの発射ボタンを押して、自身の二〇・三センチ連装主砲に射撃信号を送る。

 六回の砲声が青葉の艤装に備えられた主砲から響き渡り、タナガーの大口径主砲よりは控え目ながらも明確な攻撃意思をもって撃ち出された徹甲弾がリ級flagship級を捉えた。

 既にリ級flagship級三隻の内二隻が被弾して発生した火災にその身を包まれていたが、尚も応射を盛んに繰り返して第八艦隊の艦娘の周囲に至近弾の水柱を突き立てて行く。

 しかし、第八艦隊の艦娘はタナガー以外経験は豊かで練度も高い。磐梯は運悪く被弾して離脱を余儀なくされたが、それ以外は巧みな回避運動で深海棲艦の攻撃を躱していく。

 砲撃では埒が明かないと見た深海棲艦は主砲を撃ち放ちながら、第八艦隊の艦娘目掛けて魚雷を全弾発射した。

 ソーナーで魚雷接近を捕捉した青葉が砲撃の手をいったん止めて、艦隊全員に警報を発する。

「ソーナー探知! 魚雷群多数急速接近! 的針185、的速四五ノット、発射雷数は一六!」

 ソーナーモードに切り替えたヘッドセットに手を当てて聴音をする青葉の警告に、第八艦隊の艦娘各員は即座に回避運動に入る。

 艦娘が使う無航跡の酸素魚雷と違って、深海棲艦の魚雷は一部例外を除いてはっきりと航跡を引くから海上をしっかり見ていれば回避にしようはある。

 が、この時は双方彼我の距離が近すぎた。四五ノットの速力で海中を進む深海棲艦の魚雷はあっという間に距離を詰めると、艦隊旗艦である鳥海と磐梯同様既に被弾していた北上を捉えた。

 鳥海と北上の二人の左足でそれぞれ一発ずつ魚雷の爆発の閃光と水柱が突き立ち、二人の悲鳴が続けて走る。

「旗艦鳥海及び雷巡一番艦北上被弾!」

「北上さん!」

 タナガーの肩で双眼鏡を構えて見ていた見張り員妖精が叫ぶと同時に、北上被弾に大井が悲鳴の様な叫び声をあげる。

 即座にヘッドセットの通話ボタンを押してタナガーはまず艦隊旗艦である鳥海を呼び出すが、ヘッドセットからは雑音以外流れてこない。対象を北上に切り替えるが、結果は同じだ。

「通信途絶か……。魚雷一発の直撃で無傷では済んでいるまい」

 艦娘にとって被弾ダメージが一番大きい被攻撃方法が魚雷の直撃だ。戦艦クラスなら戦闘、航行の継続が可能な事もあるにはあるが、巡洋艦以下であると大抵は戦闘、航行が困難なレベルの損害を受ける。艤装がやられるだけで済むならまだしも、海上に足を付けている足元で爆発するだけに足を失う大怪我を追う事も決して珍しくはない。

 暫く双方の砲声が止み、深海棲艦、艦娘共に損傷艦の状況把握が始まる。

 魚雷を食らった鳥海と北上の艤装上で装備妖精が発光信号を第八艦隊の各艦娘へ充てて発信する。鳥海と北上、二人とも直撃を受けた左舷主機だけでなく右舷主機までもが破壊されて航行不能との事だ

 旗艦鳥海がやられた、となると指揮権は第八艦隊の二番艦である青葉が引き継ぐことになる。実際鳥海からの発光信号から続けて次席旗艦青葉に「二番艦青葉さんに指揮権を移譲す、鳥海オワリ」と信号が送られてくる。

 指揮権を移譲した青葉は即座に「頂きました」と返すと、衣笠と大井に対して鳥海と北上救援を指示する。

「ガサと大井さんは鳥海さんと北上さんの救援に回ってください。他は戦闘継続」

「了解!」

 衣笠と大井から唱和した返事が返される中、戦闘継続を指示された残りの第八艦隊の艦娘は損傷艦の状況を伺っている残りの深海棲艦に襲い掛かった。

 愛鷹、黒姫、大峰の砲撃を受けて既に被弾していたリ級flagship級二隻と、ネ級elite級一隻が更に被弾し、沈黙させる。

 残る深海棲艦も応射を試みるが、青葉、古鷹、加古、タナガーの砲撃が降り注ぐや、ト級一隻がタナガーの砲撃を食らう。

 一六インチ主砲から撃ち出された徹甲弾がト級がその艤装の装甲をティッシュペーパーの如く容易くぶち抜き、飛び込んだ艤装内部で爆発するやト級がいた場所に巨大な火球が炸裂する。

 一瞬にしてト級を轟沈させたタナガーに続き、古鷹と加古の砲撃がロ級二隻を捉え、主砲と魚雷発射管を破壊し戦闘不能に追い込む。

「援護をお願い」

「任せろ」

 兵装を破壊されたロ級に止めを刺すべく古鷹と加古の二人がロ級へ接近し、対空機関砲を含めた全砲門を開いて攻撃を撃ち込む。

 耐えきれなくなったロ級が爆散し、海上にめらめらと炎を立ち上がらせて轟沈する中、青葉も残るロ級に直撃弾を与えていた。轟沈して海上に燃える残骸の明かりを残す深海棲艦のその明かりをちらりと反射させたロ級を見て青葉は目を細めて呟く。

「ロ級の後期型ですか……」

 ロ級は火力が高めの駆逐艦だが、後期型となればよりその火力は向上している。魚雷を放って鳥海と北上を戦闘航行不能に追い込んだのはこいつのせいかも知れない。

「てぇーっ!」

 狙いを澄ました一撃を六門の主砲放つと、青葉の砲撃は吸い込まれる様にロ級の艤装の装甲を射抜いた。

 金属の破壊音が響き、被弾したロ級後期型が一瞬爆発の轟音を上げると、そのまま呑み下される様に海中へと姿を消していった。深海棲艦の駆逐艦は半潜水機能を持つ艦が多いが、青葉がどう見ても海中へと姿を消すロ級の沈降は撃沈によるものだ。

 愛鷹達三人の攻撃を受けたリ級、ネ級は既に始末され、海上にその姿は無い。深海棲艦重巡戦隊全艦撃沈は確実だ。

「スカイガーディアン、敵艦隊の反応は?」

 哨戒機に伏兵の有無を尋ねる青葉にスカイガーディアンから「ネガティブ」と反応が返される。

 よし、全艦撃沈敵艦隊撃滅、と青葉が一息吐く一方で、第八艦隊の受けた被害は少なくなかった。

 深海棲艦重巡戦隊全艦撃沈と引き換えに超甲巡磐梯が中破、第八艦隊旗艦重巡鳥海と雷巡北上が大破し、この内鳥海と北上は戦闘継続が困難な状況だった。

 大破艦を抱えた状態で、進撃を行うのはご法度と言い聞かされてきた青葉として、下せる判断は一つしかない。

「全艦、反転し……」

 青葉が撤退を発令しようとした時、スカイガーディアンから新たに警報が飛んだ。

(警告、敵機多数をレーダーで捕捉。参照点より方位270、高度2000。敵夜間攻撃戦爆連合編隊、第八艦隊へ向かう)

 

 

 戦爆連合。航空攻撃で前世の自分は撃沈されただけに、タナガーの眉間に緊張の汗がしたたり落ちる。深海棲艦の空母から夜間航空攻撃能力を持つ艦載機が戦爆連合を組んで発艦した。

 こちらは大破艦二隻を抱えた状態だ。もっとも回避能力が失われた二人の艦娘を守りながら撤退をしないとならない。

「対空戦闘用意! CIWS、AAWオート!」

 微妙に暗闇に明るみが混じり始めた夜空を睨み上げて、タナガーは対空戦闘部署を発令した。彼女の艤装の上で四基のCIWS(近接防御火器システム)が稼働し、銃身を虚空へと向ける。

 他の艦娘も「対空戦闘用意!」と叫ぶ中、タナガーは一人、ありありと湛えた確かな決意をその目に呟いた。

「今度は護る……絶対に……」




 イベント挟みつつちょくちょく他の作品の原稿も書き進めております。
 次回はタナガーの初陣回の締めくくりです。

 ではまた次回のお話でお会いしましょう。

 感想評価ご自由にどうぞ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。