艦隊これくしょん ストレンジリアル軍艦艦娘転生海戦譜 Season1   作:岩波命自

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第六話 サーモン北方海域夜戦 後編

 第八艦隊の二番艦青葉から艦娘母艦「わかたか」を経由して南方艦隊第八方面軍司令部へ被害報告が入った。

 旗艦鳥海及び雷巡北上が敵艦隊の雷撃で大破、戦闘不能だと言う。二隻も大破させられては進撃不能だ。鳥海から指揮権を移譲された青葉は撤退を決断し、第八艦隊は退却を開始していた。

 しかし、深海棲艦も易々と逃がす気は無いらしく、スカイガーディアンが探知したところによると、近海の深海空母機動部隊から夜間攻撃可能な戦爆連合部隊が発進していた。

 手負いの艦娘二人を抱えての敵中からの脱出な上に、未だ健在なタ級を含む複数の深海棲艦の艦隊が追撃に入っていた。

 特に追っ手のタ級は厄介だ。艦隊の中でタ級の一隻はタナガーの対艦ミサイルで撃沈されたとはいえ、残り一隻を相手にするのは第八艦隊の火力と防御力を勘定すると危険だ。随伴のネ級、ツ級、ハ級も脅威度は高い

「敵機動部隊戦爆連合、第八艦隊との会敵までフタゴーマル秒」

「第八艦隊次席旗艦青葉、対空戦闘部署を発令」

 支援艦の「わかたか」を経由して入って来る現地の情報を司令部要員が淡々と読み上げる。

 夜間戦闘はどれ程場数を踏んだ艦娘でも一発大破の可能性があるだけに、どうにもならない所が北提督以下司令部要員として歯痒い思いがあった。

「交戦は程ほどにして後退を最優先。鳥海と北上及び曳航艦の衣笠と古鷹、加古、大井を先頭にし、損傷の少ない艦娘は殿軍に務めよ。

 中破した磐梯は殿軍艦娘の火力支援に当たれ、砲撃支援位なら出来る筈だ」

 指示を下す北の指令を司令部要員がヘッドセットを介して第八艦隊の艦娘各員に伝達する。

 スカイガーディアンから送られてくる情報を基に表示される司令部の戦況図モニターを見つめるギャリソン中佐がタナガーの事を気かけていると、スカイガーディアンからよく無い知らせが入った。

≪スカイガーディアンから司令部。ポイント5-5Pより一個艦隊が転進、第八艦隊へ向かう≫

「ポイント5-5Pだと!」

 音を立てて椅子から立ちがあった北が焦りを滲ませた声で呻く。

 ポイント5-5Pはサーモン北方海域エリアで唯一、最深部手前の深海棲艦の防衛ラインに戦艦レ級が配備されている地点だった。

 多くの艦娘がそこのポイントで撃破され、撤退の憂き目に遭って来た地点だ。長距離砲撃支援艦隊の砲撃も満足に通用しないレ級が防衛線を築いているだけあって、国連海軍では5-5Pを回避する航路を二種類策定してサーモン北方海域攻略を進めていた。

 レ級は航続距離が短いとされており、実際サーモン北方海域の最深部であるポイント5-5Sと5-5Pから動く事はまずなかった。

 にも拘らず、レ級は随伴艦と共に転進して第八艦隊追撃に入っている。

「スカイガーディアン、ポイント5-5Pから転進した敵艦隊の陣容は?」

 警戒監視を行う哨戒機へ直接訪ねる岩瀬の問いにスカイガーディアンは≪スタンバイ≫と返す。

 暫しの間をおいて敵艦隊の艦種識別が終わったスカイガーディアンから、戦況図モニターに答えが表示された。

 表示された艦隊編成図を見て北はありありと苦々しい表情を露に深海棲艦の陣容を呟く。

「レ級elite級一にル級flagship級二、防空巡ツ級一にハ級後期型二か……」

「現状の第八艦隊の艦隊戦力では、太刀打ち出来ません……」

 暗い表情で岩瀬が横から口を挟む。

 椅子に座り直す北と傍らの岩瀬を見やったギャリソンはやってみる価値はあると思った自身の意見を具申して見る。

「提督、北米艦隊のTF58の一部と日本艦隊の第一遊撃部隊第三部隊を救援に回すことが可能です」

 北米艦隊の第五八任務部隊、通称TF58と、戦艦扶桑、山城を中核とした第一遊撃部隊第三部隊。扶桑型は改二化されているとは言ってもレ級相手にするには火力不足が否めない。一方、TF58には日本艦隊の大和型や長門型の様な特殊砲撃機能は持たないモノの、強力な一六インチ主砲を矛とする戦艦艦娘が配備されていた。

「第三部隊では火力が足りん。TF58で動ける戦艦艦娘は何人いる?」

「サウスダコタ、マサチューセッツ、アイオワ、ニュージャージーがスタンバっています」

「よし、随伴にジョンストンとサミュエル・B・ロバーツを付けて直ちに出撃させろ。作戦海域に緊急展開させる必要がある、オスプレイをスタンバれ」

「空挺輸送ですか?」

 少し驚いたように目を見開いて聞く岩瀬に北は頷きを返す。

「オスプレイに吊り下げて輸送すれば、支援艦よりも素早く現場海域に展開できる。ジョンストンとロバーツは艤装のサイズから言ってオスプレイの機内から発進も可能だ」

「了解しました、直ちに六人を招集します」

 

 

 艦娘の空挺輸送と言っても色々あるが、一番艦娘に専門技量を要求しない空挺輸送がヘリやMV-22オスプレイの様なVTOL輸送機からワイヤーで懸架した状態で輸送すると言うモノだった。

 宿舎で就寝中またはくつろいでいたサウスダコタ、マサチューセッツ、アイオワ、ニュージャージー、ジョンストン、サミュエル・B・ロバーツの元に艤装整備場へ招集命令が下る。

 何事かと首傾げる六人がとりあえず艤装整備場に向かい、艤装を装備しているとギャリソンが現れ、手早く手短にブリーフィングを行った。

「サーモン北方海域に進撃中の第八艦隊退却の援護だ。ポイント5-5Pからレ級elite級一とル級flagship二を中核とする戦艦部隊が第八艦隊を追撃している。

 第八艦隊は鳥海と北上を大破させられ、曳航しながらの退却となっている為発揮出来る速度が低下している。ポイント5-5Pは遠いが、夜明けごろには追い付くだろう。最悪の場合、『わかたか』への収容作業中のところを襲われかねない。

 輸送機で第八艦隊の元まで空挺輸送する。諸君らの火力で追っ手のレ級とル級にぶちかましてきてくれ」

「Yes sir !」

 六人が唱和した返事をギャリソンに返した。

 

 一方第八艦隊は大破した鳥海と北上を抱えながら全速力で離脱を行っていた。

 とは言え、航行不能の鳥海と北上を曳航する衣笠と加古、古鷹、大井は艤装機関部の出力を最大にしても強速がやっとだった。

 残る青葉、愛鷹、磐梯、黒姫、大峰、タナガーの内、磐梯を除く五人が艦隊の後衛に立ち、追っ手の深海棲艦との間に割って入る形を取った。

 とは言え、追っ手はスカイガーディアンからの通知でまず夜間航空攻撃を行う戦爆連合が一波、その後方に戦艦タ級、重巡ネ級、防空巡ツ級各一隻と駆逐艦ハ級二隻の艦隊、更にその後方から戦艦レ級elite級一隻、戦艦ル級flagship級二隻、ツ級一隻、ハ級後期型二隻からなる艦隊が追撃して来ているのが判明している。

 タ級を含む艦隊は何とか出来るかもしれないとして、レ級elite級一隻を含む艦隊はタナガー以外はいくら練度に優れる第八艦隊の艦娘でも荷が重すぎた。レ級elite級とル級flagship級はタナガーを除けば最大火力を誇る愛鷹型の三一センチ三連装砲でも歯が立たない。

「せめて北上さんにだけでもダメコンがあれば……」

 先を行く衣笠達に肩を貸す形で曳航される鳥海と北上を見て青葉は唇を噛む。

 ダメコン、もとい応急修理女神妖精があれば大破艦娘の傷や損傷を戦闘可能なレベルにまで現場で回復させる事が可能だが、その応急修理妖精が艦娘の身体の高速治療と艤装の高速修理を行う際に消費するナノマシンが極めて高価な事もあって艦娘に標準装備される事は極めて稀だ。

「ないモノをねだっても始まりませんよ。それにダメコンがあればレ級をどうにか出来る訳でもないですし」

 時折心配気に後ろを振り返る愛鷹の返しにそれはそうではあると思いながらも、北上の雷撃戦能力ならレ級に大打撃を与えられるかもしれないと思うと、歯がゆさが残る。

 歯噛みする青葉の背中を見てタナガーは腕を組みながら、この世界での主力かつ対艦攻撃において最大火力を発揮する水上艦艇による魚雷攻撃と言う戦術に不思議な気持ちを覚えていた。

 彼女自身が戦艦そのものだった頃、魚雷攻撃をするのは潜水艦だけだった。水上艦艇による魚雷攻撃など対艦ミサイルにとって代わられて廃れて久しかった戦術だ。

(水上艦艇による魚雷戦……そんなやり方が最も有効な世界になるなんて戦術も随分退化したわね)

 退化したのか、寧ろ通常兵器艦艇に代わって新たな海上戦力として台頭し始める艦娘の新戦術として進化しているのか。

 考え事をしているタナガーのヘッドセットに、彼女の艤装のCIC妖精が「レーダーに感あり!」と報告を上げる。

「来たわね……対空レーダーにマージ! 小型機多数飛来を検知」

 深海棲艦の空母機動部隊から発進した夜間航空攻撃部隊をタナガーの対空レーダーが捉えた。レーダーの性能で言えば第八艦隊の艦娘の中ではタナガーの物が最も優れていた。何しろ他の艦娘には無いレーダーまで備えているのだから。

「数、方位は!?」

 鋭い声で尋ねる青葉に、タナガーは装備妖精が報告して来た数を返す。

「方位130、小型機多数。到達まで六〇秒」

「くっそ、こっちは重傷者二人を抱えていると言うのに」

 罵声を漏らしながら黒姫が艤装の10cm高角砲群 集中配備に対空戦闘用意を発令する。

 追っ手の空母機動部隊から発進した夜猫深海艦戦と夜深海艦爆、夜復讐深海艦攻の大編隊は不気味な飛行音を立てながら第八艦隊の頭上に急速に迫って来ていた。

 方位130度に主砲を指向した愛鷹が妹三人へ対空射撃を発令する。

「第九戦隊、全艦連動。三式弾改二、対空戦闘よーい!」

 その号令に、愛鷹と中破している磐梯を含め、黒姫、大峰の三一センチ三連装主砲が仰角を最大にとり、砲身に三式弾改二を装填する。

 既に愛鷹達の対空電探でも敵機の機影は捕捉出来ていた。

「黒姫、攻撃準備完了!」

「磐梯、攻撃準備完了!」

「大峰、攻撃準備完了!」

 三人からの射撃用意良しの言葉に、愛鷹は夜目を凝らし、真っ黒な夜空の向こうを飛ぶ深海棲艦の夜間航空攻撃部隊を見据えて射撃号令を下した。

「右対空戦闘、旗艦指示の目標、撃ちー方始めー! 発砲! てぇーっ!」

 愛鷹型四人の三一センチ三連装主砲の斉射音が夜の海上に鳴り響き、発砲の砲炎で四人の姿が夜の海上に浮かび上がらせられる。

 撃ち出された三式弾改二が空中を飛翔していき、深海棲艦の夜間航空攻撃部隊の鼻先で炸裂する。

 夜空に花火の様に炸裂する三式弾改二の対空榴散弾が夜間航空攻撃部隊に散弾を降り注ぎ、数機が諸にその散弾を食らって四散する。

 しかし、事前に愛鷹達の発砲を視認していた夜間航空攻撃部隊は回避運動を行っていた事もあり、撃墜できたのは全体の一割程度だ。

 愛鷹達の主砲では一回の三式弾改二の斉射が限界だ。次弾装填が間に合ない。

 対空射撃を回避した残る多数の敵機が編隊を組み直して進撃を再開する。

「ターゲットサーヴァイヴ! 敵機多数、尚も突っ込んで来る!」

 夜間航空攻撃部隊を目視したタナガーが叫んだ時、夜深海艦爆のダイブブレーキの音が夜空一杯に響き渡るのが聞こえた。

 出番だ、とタナガーは夜空を凝視して自身の艤装に対空戦闘を発令する。

「対空戦闘、目標接近中の敵機。CIWS、AAWオート、撃ち方始め!」

 攻撃開始を命じた直後、彼女の艤装に四基備わっているCIWSが一斉に射撃を開始した。猛牛の唸り声の様な連射音が彼女の艤装で鳴り響くや、赤い曳光弾の弾幕が夜間航空攻撃部隊へと延びて行った。

 分間三〇〇〇発の連射速度を誇るガトリング機関砲から撃ち出された自己破壊弾が夜間航空攻撃部隊に銃火を叩き付ける。目で見える曳光弾と目で見えない自己破壊弾を諸に食らった十数機が機体に無数の破孔を穿ち、墜落或いは爆発四散していく。

 一瞬で夜間航空攻撃部隊の編隊が複数が消し飛ぶ中、愛鷹型四人の10㎝連装高角砲 集中配備の猛烈な対空射撃が始まる。

 小太鼓を連打するような砲声が鳴り響く中、夜空に向かって撃ち上げられた対空弾の内、近接信管が作動した対空弾が爆破閃光を走らせる。

 近接信管が作動した対空弾の散弾が夜間航空攻撃部隊に襲い掛かり、金属の着弾音が鳴ると数機の深海棲艦航空機が黒煙を引きながら高度を落とし始める。

 残る夜間航空攻撃部隊の機体の内、戦闘機と艦攻は高度を落とし、艦爆は高度を上げて攻撃ポジションを取り、アタックポイントへと進入する。

 第八艦隊の各艦娘に備えられた二五ミリ三連装機銃が射撃を開始する中、それよりも大きな連射音を立てるタナガーのCIWSが再び弾幕を夜間航空攻撃部隊に浴びせる。

 一部外れた自己破壊弾の爆破閃光がチラチラと夜空に瞬く中、数百発の弾丸を浴びた夜間航空攻撃部隊の機体が、黒板の表示をかき消すかのように撃墜されて消滅する。

「対空目標、トラックナンバー2610から2645までを撃墜! サヴァイブターゲット、一二!」

 三〇機以上を単独で撃墜するCIWSにタナガーは満足気な笑みを浮かべる。

(コンベースで相手をしたISAFの戦闘機と比べれば、こいつらは射的も同然ね)

 速度も遅く、回避運動能力も大して早くない。超音速のミサイルを迎撃する事も想定しているCIWSの反応速度から言ったら片手間でも出来るくらい与しやすい。

 再度CIWSが射撃を行い、残る一二機の敵機に銃弾の雨を浴びせる。汚れを雑巾でふき取る様に夜間航空攻撃部隊の編隊が撃墜されて消し飛び、打ち砕かれた機体の破片が炎を引きながら海上へと散っていく。

「て、敵編隊全滅……」

 圧倒された様に黒姫が敵機編隊が文字通り消滅し静かになった夜空を見上げて言う。

 何て対空戦闘能力だ、と愛鷹は畏怖を込めた目でタナガーを見る。磐梯、黒姫、大峰も同様の視線を向ける中、タナガーは涼しい顔で即応弾を消耗したCIWSに予備弾を給弾させる様に装備妖精に指示を出していた。

 鎧袖一触とはまさにこの事。叩き甲斐も無い、と前世で相手をした航空機と比べて標的同然の深海棲艦の航空機に対し、タナガーは愉悦感すらを覚えた。

 防ぎきれなかったミサイルや、神業回避を成し遂げるあの「リボン付き」とは比べるまでも無い。

 もしかしたら自分はこの世で最強の対空艦娘なのでは? と言う自信すら湧いて来る。最もその自信はCIWSの対空弾が続けばの話だ。現に夜間航空攻撃部隊を撃墜するだけでCIWSのほぼ全弾使い切っていた。

 敵が五〇機程度の編隊だったからまだしも、これがレ級やヲ級改、空母棲姫等が艦載する一〇〇機を超える艦載機が一度に押し寄せたら、弾切れで対応不能になる。

 もっと対空射撃の練度を上げて、無駄弾を減らす努力をするか、自身の主砲で対空射撃が出来る様に特訓するか。三式弾改二はタナガーの主砲でも撃つ事は可能だし、彼女の艤装なら正確な三式弾改二による対空射撃が可能だろう。

 しかし、タナガー自身の心が「主砲による対空戦闘」に否定的な気持ちを抱いていた。この大口径の主砲は敵艦を打ち砕く為に、水底に叩き落す為に作られたモノ。空とを飛ぶ蚊トンボを撃つ為に作られたものではない。第一、そういう使い方をするのは自分自身が受け入れられない。

 そもそも自分は単艦行動を取る事は前提にされていない艦種の戦艦だ。随伴艦と共に対空戦闘をするのがセオリーだし、それが正しい戦艦の使い方だ。

 そういう一種の信念の様なものを覚えながらも、どこかその頑固な考え方が前世で自分自身を滅ぼしたのではないか、と言う二律背反する考えがタナガーの心の中で呟く。

 

「タナガーさん?」

 不意に掛けられた青葉の言葉に我に返ったタナガーは無言で青葉の方を見る。

「もう行きますよ?」

「あ、ああ、失礼。しかし、青葉さん。深海棲艦の航空機とはこれほどの物なのですか?」

「ええ、まあ、大体あれくらいが強い部類に入りますね。もっと強い上位種はいるにはいますけど」

「あれで『強い部類』か……」

「タナガーさんの対空火器がチートなだけです。既存の艦娘からすれば、脅威に他なりませんよ」

「だが、私が居れば問題は無い。違いますか?」

 自信あり気に胸を張って言うタナガーに、青葉はどう返せばいいのか分からなかった。自分は対空艦娘では無いから対空戦闘はそれほど得意領域ではない。タナガーと同じ、水上艦艇と殴り合う事を想定された艦娘だ。

 まあ、ここは肯定しておくのが正解だろう。ただし一言はそえて置くべきかも知れない。

「その通りですね。ですが、タナガーさんが随伴艦と共に戦うのが前提の艦種であることは忘れないで下さいよ?」

「熟知しています」

 エイギル艦隊と言う大艦隊の一員として活動して来た前世を思い出しながらタナガーは頷いた。

 

 夜間航空攻撃部隊を殲滅した第八艦隊は退却を再開した。

 しかし、高速戦艦であるタ級を含む艦隊がどんどん距離を詰めて来ていた。このままではいずれ追いつかれる事になる。

 スカイガーディアンから彼我の距離が二〇キロを切った事を告げられた時、青葉は思い切って艦隊を二分する事を選んだ。

「作戦を変更します。磐梯さんは衣笠達と共に離脱を続行。愛鷹さん、黒姫さん、大峰さん、タナガーさんは青葉と共に接近する敵艦隊を邀撃します」

「まさか青葉、新人のタナガーさんにタ級を相手させることを前提の作戦じゃないでしょうね?」

 本気か、と見つめて来る衣笠に青葉は否定せず頷く。

「だ、だけど相手はタ級flagship級だよ? いくらタナガーさんが戦艦だからと言っても」

 不確定要素に掛けるのは危険だと反論する古鷹にタナガー自身が答えた。

「だけど、奴を相手取れるのは私しかいない」

「そうだけどね……」

 貴女はまだこの世に艦娘として生を授かって間もない、と諭そうとする古鷹にタナガーは「分かりませんか?」と押し被せる。

「私は戦艦です。戦艦と殴り合う為の軍艦……いや、艦娘です」

「天狗になって、身を滅ぼした艦娘は少なくない。お前の実力を疑う訳じゃあないけど、あまり調子に乗り過ぎない方が良いぞタナガー」

 先輩艦娘として、人生経験の長さから体験して来た事を基に忠告する様に加古が言う。

 確かに加古の言う通りなところもあるかも知れない、と調子に乗り過ぎないよう自戒を込めながらタナガーは「了解」と加古に返した。

 

 その後、青葉の作戦通り艦隊は衣笠を臨時旗艦とした負傷者護送部隊と、青葉を旗艦とした遊撃部隊に別れた。

 長身揃いの愛鷹型とタナガーと比べると小柄な青葉を先頭に遊撃部隊は反転し、タ級を旗艦とする戦艦部隊に挑むべく前進した。

 水平線上を見やった青葉は腕時計も見てため息を吐く。

「あと一時間で夜明けか」

 夜が明けたら、追っ手のレ級やポイント5-5Sを始めとするサーモン北方海域全域に展開する深海棲艦の空母機動部隊から航空攻撃隊が飛来する可能性がある。サーモン北方海域に展開する深海棲艦の空母機動部隊はA、B、Cの三群で各群に四個艦隊の計一二個艦隊が確認されている。

 最もこの前の輸送船団攻撃でこの海域への深海棲艦の兵站を破壊したから、満足な航空攻撃が行えるかは正直怪しい所もある。

 寧ろ今は航空攻撃よりもレ級を含む水上艦隊の追撃の方が脅威度は高かった。

 まず、目の前にいるタ級を含む艦隊の排除が先決だ。

 例によってタナガーのレーダーが真っ先にタ級を含む艦隊の艦影を捉える。

「レーダーコンタクト、敵艦隊五隻捕捉。主砲砲撃用意!」

 交戦態勢に入るタナガーに遅れて、青葉、愛鷹、黒姫、大峰の四人の電探にもタ級を含む艦隊の艦影が映る。

「水上戦闘用意!」

 戦闘用意の号令を下しながら、青葉も主砲の艤装の射撃グリップを展張し射撃体勢を取る。

 上空には青葉から発艦した零式水上観測機が空中待機し、弾着観測射撃支援の為に展開していた。

 スカイガーディアンから新たな敵艦隊捕捉の続報は無い。今のところ対処すべきは目の前のタ級を含む艦隊とレ級を含む艦隊だ。

 水平線上にタ級を含む艦隊の艦影を捉えたタナガーは主砲を指向し、照準を合わせる。狙うは敵艦隊の先頭を切って進むタ級のみ。

「砲撃用意良し! 撃ちー方始めー!」

 タ級の位置を「イメージ」し、照準を合わせた一六インチ三連装主砲を撃ち放つ。轟音と共に徹甲弾が砲口から砲煙と火炎と共に叩き出される。

 空中を飛翔して行く六発の徹甲弾の赤い軌跡が夜闇の中へ消えて行く中、タナガーの艤装CICから敵艦隊のレーダー照射を検知した知らせが上がる。

 敵艦隊の射撃レーダーのレーダー照射が来たと言う事は、向こうも撃って来ると言う事だ。やられる前にやるしかない。

 夜空の彼方に消えたタナガーの砲撃は数十秒後、深海棲艦艦隊のタ級の傍に着弾の水柱となって再び姿を現した。

 外れたか、と水平線上に突き上がる六本の水柱を見てタナガーは唇を噛む。流石のこの距離からの砲撃は初弾命中は望めない。

 だが自分の艦長、トーレス大佐は砲術長時代水平線の向こうのいる敵艦に当ててのけた。それも時化の酷い嵐の中で。

 艦長に出来て、その艦長が乗り込んでいた自分に出来ない訳がない。いや出来ないのがおかしい。

 次は当ててやる。その意気込みで次弾装填を終えたタナガーが二斉射目を放つ。

 轟々たる砲声が海上に轟き、撃ち出された砲弾が空中を飛翔して行く。反航戦を描く形になるだけに、彼我の距離は急速に縮まっている。

 青葉、愛鷹、黒姫、大峰も射撃の構えを取り始めた時、タナガーの砲撃が着弾した。水平線上に着弾の爆破閃光が走り、タ級の艤装上で火災が発生するのが見えた。

 一発直撃した様だが、タ級はそれ如しで参る様子もなく、反撃の砲火を青葉達に向けて放つ。遅れて続行するネ級、ツ級、ハ級からも砲声が轟き、四隻の発砲炎が水平線上に瞬く。

「旗艦指示の目標! 撃ちー方始めー、てぇーっ!」

 青葉の号令が下るや、各個に目標を定めた青葉、愛鷹、黒姫、大峰の主砲が発砲する。砲口炎が四人の主砲から迸り、撃ち出された砲弾が空中を飛翔して行く。

 入れ替わる様にタ級以下の五隻の敵艦隊からの砲撃が降り注ぐ。五人の周囲に包み隠さんばかりの水柱が林立し、爆発の轟音が鳴り響く。

 深海棲艦艦隊からは間断の無い砲声が轟いている。速射性の高いツ級とネ級が主砲を連射している様だ。

 連射された分だけ、五人の周囲に砲弾が着弾し、数えきれない数の水柱が突き立つ。次第にその水柱と五人との距離が近くなるのが暗に精度が上がって来ている事を示す。

 青葉はツ級に狙いを澄まして砲撃を放つ。レーダーを備えているツ級は砲撃の精度が高く、脅威度が高い深海棲艦の一つだ。

 タ級もレーダーを備えているが、あっちは青葉の砲撃火力ではどうしようもない。タナガーに任せて自分はツ級を狙うまでだ。

 彼我の距離がさらに縮まる中、第三斉射を放ったタナガーの砲撃がタ級に三発の直撃弾を出していた。

 どうだ、と夜目を凝らして見つめるタナガーの視界に、流石にダメージを負った気配を見せるタ級が姿勢をやや崩しているのが見えた。

 チャンスだ! と主砲の再装填を行いながら胸中でしたり顔を浮かべる。火災が発生した艤装の消火に手間取っているのか、タ級の艦上から見える火災の明りは消える気配がない。

 タナガーの主砲が再装填を終えた時、愛鷹の重要装甲にネ級の砲撃が着弾する。金属の轟音が鳴り響き、愛鷹のくぐもった呻き声が走るが、重要装甲で弾いたお陰で愛鷹に深刻なダメージは出なかった。

 被弾の衝撃で多少姿勢をぐらつかせながらも愛鷹は三一センチ三連装主砲を構えて、照準を合わせたネ級へ攻撃を行う。

 双方の砲声が海上に殷々と鳴り響き、飛翔する砲弾の砲声が轟々と響き渡る中、タ級の砲撃が遂にタナガーにも着弾する。

 第二主砲の天蓋に着弾の閃光と火花が散り、第二主砲を中心に突き飛ばすような力がタナガーに加わる。両足に力を込めて押し倒されそうな衝撃に堪えながら、タナガーはこれだ、と被弾の衝撃にも満足する高揚感を覚えていた。

 戦艦は戦艦と殴り合ってこそその存在が示される。撃つも撃たれるも、戦艦であればこそ味わえる醍醐味だ。

 砲撃戦、敵艦と殴り合うこの戦いこそが私の生きる意味だ。

 昂ぶる気持ちからその口元に不敵な笑みを浮かべつつ、タナガーは装填が終わった主砲をタ級に向ける。

「Die you SOB!」

 唐突な彼女の母国語の言葉と共にタナガーの主砲が火を噴く。

 既に被弾しているタ級に更にタナガーからの砲撃が着弾し、その艤装上に広がる火災の手がさらに広がりを見せる。炎はタ級全身を包み始め、もうタ級からすれば反撃どころではなくなっていた。ようやく消火作業が始まったのか、白い煙がタ級の艤装上から立ち上がる一方、辛うじて機能している主砲一基がタナガーに対して応射の砲炎を放つ。

 あれは当たる、と本能で悟ったタナガーが咄嗟に回避行動をとる。

「All ship take evasive action!」

 再び口から出る母国語と共に取り舵に舵を切ってタ級の砲撃を躱す。右舷側にタ級の砲撃が降り注ぎ、辛うじて躱した砲撃の水柱の水飛沫がタナガーに降りかかる。

 回避運動を取った分、リセットされた主砲の射撃諸元を修正するタナガーを尻目に、青葉以下の四人も攻撃を継続する。

 旗艦青葉の砲撃はツ級を捉え、ツ級の主砲を一基潰していた。愛鷹、黒姫、大峰の砲撃もそれぞれ狙いを定めた敵艦に直撃弾ないし至近弾を送り込んでいる。

 ハ級はその高い回避運動能力をもって黒姫、大峰の砲撃を回避してのけていたが、至近弾の破片までは躱しきれておらず、艦体に至近弾の破片が破孔を穿っていく。

 破孔からの浸水で機動力がじわじわと低下していくハ級に二人の副砲である10㎝連装高角砲 集中配備が追い込みをかける。二五ミリ三連装機関砲まで射撃を開始し、ハ級に小口径火器の火力を叩き付ける。

 ネ級と交戦する愛鷹も有効弾を数発与えてネ級を気息奄々の状態に追い込んでいたが、最後の足掻きとばかりにネ級は未だ健在だった魚雷発射管から魚雷を発射する。

「二〇度方向より雷跡二!」

 魚雷警報を発する愛鷹が面舵に舵を切って雷撃を躱す中、黒姫、大峰、タナガーも遅れて舵を切って回避する。射線上にいなかった青葉は直進を続けてツ級への砲撃を継続していた。

 ネ級の雷撃に続き、ハ級の一隻も魚雷を発射して抵抗を試みる。再び迫る五本の雷跡を視認した黒姫から回避の叫び声が上がる。

 だが、まだ面舵に舵を切ったばかりだった大峰は回避運動の反応が遅れた。

「危ない!」

 咄嗟に叫ぶ彼女の舷側に魚雷直撃の水柱が突き上がる。轟音と共に魚雷爆発の火焔と爆破閃光が彼女の足元から走り、遅れて白い水柱が突き上がる。反対側にのけぞる大峰の悲鳴が上がる中、彼女の名前を叫ぶ愛鷹と黒姫の叫び声が響く。

「やったな!」

 黒煙を上げて速力を落とす大峰に向けていた視線をハ級に向けた黒姫が敵意をむき出しにした顔でハ級に主砲を撃ち放つ。

 三一センチ三連装主砲弾が装甲の薄いハ級を捉え、射抜き、爆炎の中に包み込む。花火の様な爆発音を立ててハ級が海上で爆散する中、もう一隻のハ級が小口径主砲を断続的に黒姫に浴びせる。

 艤装の装甲でハ級の砲撃を悉く弾き返す黒姫が副砲でハ級に応射の一撃を撃ち込む中、大破していたネ級に愛鷹が仕上げの一撃を叩きこむ。

 海上でネ級が燃える松明となって海面に倒れ込み横転する中、ツ級も青葉の砲撃を食らって炎上しながら速力を落としていく。

 今日何度目か分からない斉射をツ級に撃ち込む青葉の視界がじわりと全体的に明るくなる。炎上する敵艦によるものではない、見る世界全体が明るくなりつつある。

 

 夜明けだ。

 完全に太陽そのものが姿を見せている訳でないが、時間的に見ても夜明けの頃合いだ。

 これ以上この場でかけられる時間は無い。仕上げの砲撃をツ級に撃ち込み、完全沈黙するツ級を見て青葉は砲撃の手を止めた。

 愛鷹、黒姫もそれぞれの攻撃目標の撃破を終えていた。タナガーが狙うタ級だけ、未だ海上にあったが彼女からの砲撃を一方的に食らうがままの状態だ。撃沈は時間の問題だろう。

 魚雷一発を食らった大峰が心配だが、鳥海と北上とは違って愛鷹型の水雷防御は高い。魚雷一発程度で参る艦娘では無い。

 実際黒煙こそ上げていたが、大峰の損傷はそれ程大したものではない様だった。

 静かになりつつある海上に聞き慣れたタナガーの主砲が砲声を上げて砲弾を撃ち放つ。

 大破炎上するタ級に止めの一撃を撃ち込むタナガーの目に、満足に身動きが取れない程に叩きのめされたタ級が被弾し、横倒しになる。

 艤装上の火災は再び激しくなり、主砲搭や副砲塔を飲み込み、タ級本体をも包み込んでいた。

 

≪敵勢艦隊の全艦沈黙を確認。全艦よくやった!≫

 戦況をモニターしていたスカイガーディアンから労いの無線が入る。

≪悪運は今日も味方だったな、青葉≫

 軽口をたたくようなノリで青葉に言うスカイガーディアンに対し、青葉はため息を吐きながらヘッドセットを押さえて返す。

「艤装なしでの帰還はもうお断りです。さあ、皆さん、レ級が来る前に衣笠隊の後を追い、戦場海域を離脱しましょう。大峰さん、全速発揮は可能ですか?」

「第四までなら……それ以上は機関故障で無理です」

 大峰が返す第四の言葉にタナガーは険しい表情を浮かべる。第四戦速が限界か、追っ手のレ級を含む艦隊の速度は第四戦速。低速艦であるル級を含む為向こうも発揮出来る速度は抑えられているとは言え、こちらも大峰被弾で発揮可能な速度に制限がかかっている。

 いやそもそも自分達は第四戦速で振り切れるとしても、鳥海と北上を曳航する衣笠達は戦速以下の強速がやっとだ。いずれ追いつかれる。

 とにもかくにも衣笠達との合流を急ごうと青葉は愛鷹、黒姫、大峰、タナガーに単縦陣を組むよう指示し、反転離脱に入る。

 すれ違い様にタナガーの顔が見えたが、どんな表情をしているのか見えなかった。ただ、どこか満足気な雰囲気を漂わせていたのは肌で感じ取れた。

 戦艦艦娘として、戦艦と殴り合えたのが大満足だったのかも知れない。もしかするとその勢いでレ級とも殴り合いを望む旨を言い出しかねない。

 実際、レ級とも手合わせしたくて仕方がない程タナガーの気分は高揚し切っていた。一方で、手負いの味方艦娘を抱えた状態で交戦するわけにはいかないと言う自制心がその思いを押さえにかかっていた。

 今は退却を優先する時だ、と高まる気分を押さえながら、反転離脱に入る青葉達の後をタナガーは追った。

 先行して退却を急ぐ衣笠達の後を追う青葉達の視界の端で太陽が水平線上に姿を現し始めた。

「東の空に明るみが……朝が来る」

 そう呟くタナガーにヘッドセットを介してそれを聞いた先頭の青葉が応える。

「青葉達の夜戦が終わります。でも、この地獄の魔境からはまだ抜けきっていません。母艦に帰るまで全員気を引き締めて」

  

 

 程なくして衣笠達と合流する青葉、愛鷹、黒姫、大峰、タナガーが母艦「わかたか」へ進路を取る中、その後方五〇キロ圏内にまでレ級を含む艦隊は迫っていた。

 不敵な笑みを常に浮かべるレ級が航空艤装を展開すると、そこから飛び魚艦爆九〇機が次々に発艦し、退却を続ける第八艦隊の方へ編隊を組んで飛び立っていった。

   




次回予告としてTwitterのFFさんからお借りした戦艦艦娘ニュージャージーが登場します。

では、また次回のお話でお会いしましょう。
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