艦隊これくしょん ストレンジリアル軍艦艦娘転生海戦譜 Season1 作:岩波命自
満を持っしてTwitterフォロワーさんから借りた戦艦艦娘ニュージャージーの登場です!
夜が明けて朝日が水平線上に上って来た。
大破した鳥海と北上を抱えて退却を続ける第八艦隊はあと一時間半で母艦「わかたか」との合流地点に到達する見通しだった。
だが、追っ手の深海棲艦の艦隊は一時間以内には退却中の第八艦隊を射程に収めると見積もられていた。
深海棲艦の深海南方任務部隊水上打撃群から分派されてきた一群は戦艦レ級elite級一隻を旗艦として、戦艦ル級flagship級二隻、防空巡ツ級一隻、駆逐艦ハ級後期型二隻から成っていた。
夜明けと共にレ級からは深海飛び魚艦爆九〇機が第八艦隊目掛けて発艦し、更なる追撃の手を伸ばしていた。
スカイガーディアンからレ級より発艦した艦爆九〇機を探知の報は既に第八艦隊にも知らされていた。
「対空戦闘用意」
戦闘可能な全艦娘に対して青葉から対空戦闘用意の号令が発令される。
鳥海と北上の曳航を行う衣笠、古鷹、加古、大井の艤装に備えられている対空機関砲の砲座が起動し、銃身を空へと向ける。
青葉、愛鷹、磐梯、黒姫、大峰、そしてタナガーもそれぞれの対空火器をレ級が放った攻撃隊が飛来する方向へ指向し、対空迎撃の構えを取る。
タナガーの四基のCIWSも予備弾を装填し終えて対空迎撃の準備を整えていた。
「さあ、来るなら来なさい」
空を見据えて呟くタナガーが腕組をして待ち構える。機数は夜間航空を仕掛けて来たヲ級からの航空隊よりも多い。
雷撃機が一機もいない分、攻撃手段は急降下爆撃と緩降下爆撃、反跳爆撃の三択だ。魚雷を撃ってこないとは言っても、強力な破壊力を誇る爆弾を抱えて来るだけに侮れない敵機だ。
スカイガーディアンから会敵まで三分の通知が来た時、青葉が陣形転換を命じた。
「全艦、第三警戒航行序列に陣形転換。損傷艦及び曳航艦は内側へ、外郭を無傷の艦で固めて下さい」
即座に大破艦と中破艦の磐梯を輪形陣の内側に置いた対空防御陣形である第三警戒航行序列へと艦隊は陣形を転換する。
タナガーは前衛を務める形で艦隊の前に遷移し、対空迎撃の構えを取った。
三分後、例によってタナガーの対空レーダーが飛び魚艦爆の編隊を捉えた。
「レーダーコンタクト、敵機群方位020、距離一万。機数九〇、本艦隊へ近づく」
CIC妖精からの報告をそのままヘッドセットに向かって吹き込む。
接近する艦爆九〇機はそれぞれ三〇機ずつの三つの編隊に別れて向かって来ていた。スカイガーディアンは高高度を飛ぶ三〇機を目標群アルファ、中高度を飛ぶ三〇機を目標群ブラボー、低空を飛ぶ三〇機を目標群チャーリーとして認定し第八艦隊の攻撃目標を定めた。
恐らく、チャーリーの編隊が高度からして反跳爆撃を行ってくる可能性がある。反跳爆撃は深海棲艦による空爆の中でも最もタチが悪い戦法だった。アトランタ級、秋月型と言った防空艦娘の対空射撃ですら全く防ぎきれず、被弾する艦娘が多発し、艦隊が撤退に追い込まれた事もすくからなずある。
「本艦の目標、目標群チャーリー」
CIWSを低空を飛行する飛び魚艦爆に指向し照準を合わせる。
一方、目標群アルファとブラボーに三式弾改二を装填した三一センチ主砲を指向する愛鷹、磐梯、黒姫、大峰から対空射撃の号令が発せられた。
「主砲三式弾改二、右対空戦闘、撃ちー方始めー! 発砲、てぇーっ!」
愛鷹の射撃号令が下るや、四人の三一センチ主砲の砲声が鳴り響き、撃ち出された三一センチ三式弾改二が目標群アルファとブラボーの飛び魚艦爆へ向かって飛翔して行く。
高高度と中高度を飛行する飛び魚艦爆計六〇機の編隊の鼻先で対空砲弾が炸裂する。日が上がって明るくなり視界が確保されているだけあって、夜間航空攻撃部隊を狙った時よりも正確な位置に三式弾改二は送り込まれていた。
ぱっと空で炸裂する三式弾改二が散弾を飛び魚艦爆へ浴びせる。白い煙を引きながら空一杯に飛び散る三式弾改二の対空散弾が飛び魚艦爆を多数捉え、散弾を浴びた飛び魚艦爆が爆散ないし、黒煙を引きながら高度を落とし始める。
≪目標群アルファおよびブラボー、トラックナンバー2611から2647まで撃墜≫
凡そ三〇機は撃墜とスカイガーディアンが告げる。
愛鷹型の四人の三式弾改二射撃に遅れて目標群チャーリーを射程に捉えたタナガーのCIWSが射撃を開始した。
「目標群チャーリー、対空戦闘、CIWSコントロールオープン!」
多連装銃身の凄まじい射撃音が鳴り響き、赤い曳光弾が自己破壊弾と共に虚空へと火箭を伸ばしていく。
目視可能な距離にまで迫っていた目標群チャーリーの飛び魚艦爆がCIWSの弾幕の火箭に次々に絡め取られ、四散していく。
タナガーはCIWSの射撃管制を半自動に切り替え、自身の判断と照準で射撃を行っていた。こうする事で無駄弾を抑える射撃に切り替える事が出来ていた。現状タナガーが取れるCIWSの射撃設定はそれが限界だ。元々CIWSは照準から射撃までほぼ全てが自動化されており、手動で出来る範囲は限られていた。
始めて撃った時よりも短いCIWSの射撃音が海上に響き渡るたびに、飛び魚艦爆がサッとかき消すように撃墜されて四散していく。
無数の銃弾を浴びた飛び魚艦爆が砕け散っていく音が響く一方、10センチ連装高角砲群 集中配備の射撃音が加わり、青空に対空弾を次々に撃ち上げていく。
目標群アルファとブラボーの敵機が高角砲群の弾幕で一機、また一機と撃墜される中、残存する艦爆はアタックフォーメーションを組んで攻撃ポイントに侵入し、各自目標を定めた艦娘へ爆撃を開始した。
爆撃を開始する艦爆へ向け、輪形陣を組む各艦娘の艤装に備えられている対空機関砲が射撃を開始して弾幕を張る。
タナガーのCIWSと比べると密度の薄い機関砲の火箭が空を飛び交い、濃密とは言い難いも接近を阻む心理を与えるには充分な弾幕を形成する。
急降下爆撃を開始していた目標群アルファの艦爆が複数機、被弾して姿勢を崩し、錐もみ状態になりながら海上へと墜落していく。
爆弾を投下される前に、と必死に弾幕を張る第八艦隊の艦娘達の耳に艦爆が展開したダイブブレーキの音が入る。
来る、と身構える一同の頭上からダイブブレーキの音と共に投下された爆弾が迫る轟音が響き、引き起こしをかける艦爆の飛行音がそれに交じって轟く。
回避行動を取る第八艦隊の艦娘達の左右手前に、投下された爆弾が着弾し、セコイアの様に高い水柱を突き立てる。
そそり立つ水柱に翻弄されながら回避運動を続ける一同だったが、大峰に、続いて衣笠と古鷹に爆弾が着弾した。
大峰の艤装上に三発の爆弾がまとまって着弾し、爆発音とけたたましい金属の破壊音が響き、くぐもった大峰の悲鳴が上がる。
衣笠と古鷹にはそれぞれ一発が直撃し、衣笠は背中に背負う艦橋艤装の頂部が全壊し、古鷹は右腕の第二主砲が大破する。
三人分の悲鳴が発せられる中、目標群チャーリーの編隊と依然交戦を続けるタナガーは黒煙を上げる大峰、衣笠、古鷹の姿を見て、フラッシュバックする様に脳裏にコンベース港に在泊中に空爆を受けたエイギル艦隊の姿を思い出した。
(畜生、忌々しい航空機どもめ!)
確実に数を減らしている目標群チャーリーの編隊と爆撃を終えて離脱する目標群アルファとブラボーの艦爆を交互に睨み上げながら、胸中で罵声を吐き散らす。
味方にいればこの上なく頼りになるが敵にすれば害悪極まりない敵、それがタナガーにとっての航空機への認識だ。二次元の動きしかできない自分らとは違って三次元の動きが出来るアドバンテージを存分に生かし、好き放題やる航空機。
羨ましさと忌々しさの二つがせめぎ合う感情を噛み締めながら、目標群チャーリーの編隊の迎撃に務めるが、あと七機と言う所でCIWSの残弾が尽きた。
「サヴァイブターゲット7、真っすぐ近づく! ワレCIWSの残弾無し!」
警戒せよ、とヘッドセットに向かって叫ぶように吹き込むタナガーの視界の中で、残った七機が爆弾を海上へ向けて投下する。
一見すると爆弾を投棄した様に見える挙動だが、投下された爆弾は絶妙な角度で海上を跳ね続けながら第八艦隊の艦娘へ襲い掛かる。
石の水切りの要領で飛び跳ねながら急接近して来る爆弾は回避運動を取る第八艦隊の艦娘の前後を飛びぬけて行ったが、三発が既に被弾していた大峰を再び捉えた。
バイタルパートと非装甲区画にそれぞれ直撃した爆弾で大峰が突き飛ばされた様に姿勢を崩す。バイタルパートで一発は無力化されるも、非装甲区画に直撃した二発の内一発は彼女の右足元で爆発してラダーヒールをたたき割り、一発は彼女の身体に直撃する。
二か所で爆発した爆弾で大峰が苦悶の表情を浮かべながらその身を折る。
「大峰! 返事をして、大峰!」
「だ、大丈夫……でもないかも……」
黒姫の呼びかけに正直に自身の損傷を答える大峰が右脇腹を抑えながら血痰を海上に向かって吐き出す。
最も多くの敵爆撃を受ける羽目になった大峰に黒姫が寄ってダメコン作業にかかる中、衣笠と古鷹もそれぞれ応急処置に入る。
幸い二人とも艤装こそ損傷したが、身体には深刻なダメージは無く、絆創膏を張るだけで済んでいた。ただ衣笠は艦橋艤装の頂部が破壊されて射撃指揮所が全壊した為砲撃の測距が砲塔測距に頼らざるを得なくなり、古鷹は第二主砲大破で火力が減じてしまった。
第八艦隊の受けた被害は大峰と衣笠、古鷹被弾に留まったものの、被弾艦娘の増加は良く無い知らせである。
悪い知らせは続くもので、反跳爆撃の直撃でラダーヒールを片方たたき割られた大峰は舵の反応速度が半減してしまい、発揮速度は維持できているものの舵の反応性が低下して回避能力が低下していた。その上、衣笠と同様射撃指揮所が全壊し、高角砲群も複数破壊されて戦闘不能だと言う。
被害は大破に近い中破の大峰と、中破の中でも比較的損傷の度合いが軽めの方の中破で済んだ衣笠と古鷹。
健在艦は青葉、愛鷹、黒姫、加古、大井、タナガー。艦隊の半数が被弾して損傷している状況だ。
この状態で追っ手のレ級を含む艦隊とさらにやり合うのは極めて危険だ。
被弾艦娘が半数に上る艦隊を見やりながらタナガーは考えを巡らせる。どうする、対艦ミサイルでレ級を含む敵艦隊の足止めを図るか? 戦艦にもミサイルは有効だが、それはタ級レベルの装甲ならではの話であり、レ級の様な重装甲戦艦にも通じるかはまだ分からない。
レ級は無理でも随伴のル級flagship級二隻くらいは、と言う考えが浮かぶ。ル級の装甲ならタ級とは大差ない。撃沈は無理でも戦闘不能ぐらいには追い込めるかもしれない。
意見具申するか、と妹を気遣っている臨時旗艦青葉の方を見た時、一同のヘッドセットからスカイガーディアンとは異なる声が流れ込んで来た。
≪Good morning 艦娘艦隊のフレンズ。こちらYou達の救世主。シートベルトをしっかり締め、テーブルを元に位置にお戻しになり、帰還に備えて下さい≫
第八艦隊の救援の為に送られてきたTF58の艦隊旗艦を任されていた戦艦艦娘アイオワからの無線だった。
オスプレイに懸吊された状態でショートランド泊地から送り込まれてきたアイオワ他TF58のマサチューセッツ、サウスダコタ、ニュージャージとオスプレイのキャビンに乗り込んで輸送されるジョンストンとサミュエル・B・ロバーツの六人がようやく到着したのだ。
艦隊の半数が被弾し無視できない損害状況になりつつある中でのTF58の来援に、青葉はほっと溜息を深く吐いた。
「どうもアイオワさん、調子良さそうですね」
≪実際良いわよ青葉ちゃん。それに優秀だから≫
自信たっぷりに答えるアイオワからの返答に再び安堵の溜息を吐き出す一方、四式水中聴音機(ソーナー)で聞き取れるレ級を含む水上打撃群の航走音が距離を詰めて来ている事に青葉は眉間に浮かぶ冷や汗が止まらなかった。
≪こちらリフター1-1、AOインバウンド。LZまで一〇秒≫
第八艦隊の前方から接近して来るオスプレイ五機がティルトローターをVTOLモードにし、海上の降下ポイントへ輸送して来た六人の艦娘を空挺投下する。
海上でホバリング状態に移行したオスプレイ輸送機がワイヤーで懸吊していたアイオワ、ニュージャージー、サウスダコタ、マサチューセッツの四人を切り離す。もう一機は海上すれすれでホバリングして、後部のランプからジョンストンとサミュエル・B・ロバーツの二人が海上へ飛び出す。
大なり小なり損傷している第八艦隊の面々に颯爽と現れたTF58は、隊列を組むと第八艦隊の進行方向とは逆の方へ舵を切り、各々の艤装に戦闘配置を命じる。
レ級を含む水上打撃群はTF58に任せて、第八艦隊は一旦大破艦の鳥海と北上、大峰の具合を伺う。
諸に魚雷を食らって負傷した鳥海と北上はモルフィネを打っている為もあってか、少し意識が混濁気味だ。二人の足に巻いた包帯に滲んでいた血は既にその染みの広さを拡大するのをやめている。止血は出来ている、後は後方で本格的な治療を行うだけだ。
一方の大峰は制服の右脇腹に広がる赤い染みが大きい。黒姫が止血剤を打ったお陰で辛うじて重度の出血は防げているが、被弾の際に骨も逝ってしまった様でかなり苦しそうな表情を浮かべている。
TF58を輸送して来たオスプレイに鳥海と北上を収容して貰う様に青葉が要請を入れる。実際その気だったらしいリフター1-1と1-2が海上でホバリング態勢に入り、機内にそれぞれ鳥海と北上を収容した。艤装のサイズが大きい大峰はオスプレイの機内に収容できない為、TF58の戦艦艦娘を輸送して来た時と同じように艤装の各部にワイヤーを接続して懸吊状態でリフター1-3が引き取った。
オスプレイ三機に大破艦を預ける第八艦隊一同の耳に、水平線上から砲声が轟くのが聞こえた。
「始まった……」
水平線上で砲口炎が瞬くのを見て青葉はTF58と深海棲艦水上打撃群の交戦開始を悟った。
「Open Fire! 」
旗艦を務めるアイオワの攻撃指示が下るや、続航するニュージャージー、サウスダコタ、マサチューセッツの一六インチ主砲がレ級とル級の三隻目掛けて火を噴いた。
アイオワ自身の一六インチMk7三連装主砲も砲口に発砲炎を瞬かせ、装填されているSHS(超重量砲弾)を撃ち出す。
レ級とル級合わせて三隻に対して一六インチ徹甲弾の雨を降らせる四人に、レ級とル級も応射の砲撃を放つ。
トラック泊地からショートランド泊地に回航されたばかりの日に、レ級とル級からなる水上打撃群と殴り合いに向かう事になるとはとニュージャージーはのんびりと寝ている暇もないショートランド泊地の現場の忙しさに軽く溜息を吐く一方、第八艦隊の中に見慣れない艦娘が一人いた事を思い出す。
「ねえ、アイオワ。第八艦隊に『私達も知らない妹』が加わっていた、って話聞いてる?」
姉と同じ一六インチMk7主砲を撃ち放つニュージャージーが、第八艦隊の中にいた「自分らアイオワ級とそっくりな艤装を持つ艦娘」が居たのを思い出しながら尋ねる。
「貴女もやっぱり思った? Meも知らない子だけど、あれは明らかに私達アイオワ級の艤装よね」
アイオワも第八艦隊の中にいた見慣れない艦娘の事を思い出しながらニュージャージーに返す。
見慣れない艦娘が纏う艤装はアイオワ級の艤装そのものであったが、二人の妹ミズーリとウィスコンシは別方面で作戦行動中だから第八艦隊の中にいる訳がない。
そもそも二人が見かけた容姿は彼女達自身今まで見た覚えがない。今まで数多くの艦娘と出会って来たとは言え、統合軍海軍に所属する艦娘の顔は大体は覚えている。
特にニュージャージーは暇な時は読書するのが趣味だし、その際読んでいた本の中には統合軍海軍に属する艦娘についての人事書も含まれているからアイオワよりも統合軍に属する艦娘の顔は知っている方だ。
その姉よりも頭の中の情報量が多いニュージャージーですら知りえない艦娘である。ただ噂では自分達がショートランド泊地に派遣される頃、日本艦隊に新規に戦艦艦娘が配備、着任したと言う話くらいは聞いていた。
今時日本艦隊に新規に配備、着任する戦艦がいただろうか、と耳に挟んだ際は不思議に思ったものだったが、図らずしもその答えをこの目で見る事になるとは思ってもみなかった。
「ま、こいつらを片して、あのmysteriousな子と対面すれば分かる事よ」
けろりと返すアイオワにその通りね、とニュージャージーは頷き返し、再装填が終わった主砲を撃ち放つ。
アイオワ級艦娘二人の砲撃はレ級に対して向けられていた。一方ル級二隻を相手取るのはサウスダコタとマサチューセッツだ。
一六インチ主砲をル級flagship級に向けて撃ち放つサウスダコタは、ル級の艤装上に着弾の閃光を認めるとにやりとほくそ笑む。
「スコアは頂くぞ、マサチューセッツ」
「ダコタ、マイティに最近いい所見せられてないからって無茶しないでくれよ?」
マイティことワシントンに常にライバル心を抱くが余り、先走った行動も多いサウスダコタにマサチューセッツは釘をさす様に言う。
四人の戦艦艦娘の砲撃を浴びるレ級とル級は応射の砲撃を放ちながら速度を上げて距離を詰めにかかる。
接近するレ級とル級を見てニュージャージーは目を細めて意図を推し量る。
「アイオワ、レ級はどうやら雷撃戦に勝負をかける気よ」
「させないわよ」
フッと不敵な笑みを浮かべたアイオワが諸元を修正した主砲を構える。ニュージャージーにも伝達された諸元が主砲の砲口の角度を調整し、最適な砲撃の射角を取る。
「Fire! 」
二人の唱和した号令が下るやレ級目掛けて一二門の一六インチMk7主砲が火を噴き、発砲炎を瞬かせる。発砲する主砲の衝撃波がアイオワのブロンドの髪を、ニュージャージーのバラの赤髪を揺らす。
レ級の艦上に二人からの砲撃が着弾しレ級が微妙に姿勢を崩す。しかし、見た目によらず重装甲のレ級はアイオワとニュージャージーからの集中砲火に参った様子もなく、応射を続けながら二人との距離を詰める。
「All ahead flank3(両舷前進第三戦速) Hard to starboard」
最大戦速から第三戦速へ減速しつつ面舵一杯を命じるアイオワに、ニュージャージーも三速へ減速しながら面舵に舵を切る。
接近して魚雷戦を挑もうとするレ級とは距離を取るのが対レ級戦の対抗策の一つだ。レ級の魚雷は威力と精度は極めて高いモノの有効射程は短いのが弱点だった。
距離を取り、接近戦を封じて魚雷を撃たせない長距離砲撃に徹する、これがアメリカ艦隊独自に編み出した対レ級戦術だった。シンプルながら有効な戦術である。距離を取ると必然的に砲撃の命中精度は下がるし、アメリカ戦艦艦娘で使用されているSHSとは相性がよろしくないが、この部分は高精度の水上レーダーで補う事でアメリカ戦艦艦娘達はどうにかしていた。
魚雷戦を挑もうとするレ級との距離を取りつつ、レーダー測距による精度の高い砲撃を効果的に送り込むアイオワとニュージャージーに、レ級は被弾するが一方である。レ級の砲撃はレ級自身がレーダーを備えていないのもあってアイオワとニュージャージーの傍に至近弾を送り込めるくらいの精度は発揮できても、直撃弾を送り込むまでには至っていない。二人とも主砲の射撃諸元に影響しない程度の最低限の回避運動を行っている為レ級からの砲撃の直撃弾を受けずに済んでいる。
最もこの「戦術的優位」もいつまで続くか、とアイオワとニュージャージー共に楽観視はしていなかった。
二人からの砲撃が着弾してもレ級は中々参った様子を見せず、果敢に反撃を繰り返している。幾度となく二人の傍に砲撃が着弾してひやりとする局面もしばしばだ。
破局がいつ来てもおかしくない、と身構える二人の後方ではサウスダコタとマサチューセッツがル級に対して直撃弾を出していた。
今のところTF58側に被害は無い。それが救いだった。
主砲の斉射を放ったアイオワが攻撃目標であるレ級を見つめていると、突然レ級が魚雷発射の挙動を取った。
「What?」
何を考えている、とアイオワが呟いた時、CIC妖精が「ソーナーに感あり!」と叫んだ。
「魚雷急速に接近! 雷数五、方位034」
「見えた!」
魚雷が来る方向を見てニュージャージーが叫ぶ。長距離から放たれた雷撃であるにも拘らず、白い航跡を引く魚雷は正確にアイオワとクロスするコースに乗っていた。
「Break!」
回避を叫ぶニュージャージーに、アイオワは必死に舵を切って回避を試みる。
(この距離からこんなにも正確な雷撃を放って来るなんて……)
射撃の腕によほど自信があるレ級だとでもいうのだろうか、とニュージャージーが思った時、魚雷がアイオワの舷側で爆発する轟音が響き、思わず彼女は舌打ちを漏らした。
「Oh shit! やられた!」
命中した魚雷は一発。だが一発でもアイオワの機動力を削ぐには充分だった。
「アイオワ後退して、奴は私が相手取るわ」
「Roger Good luck」
即座に戦線離脱を図るアイオワを見送りながらニュージャージーはふうと溜息を吐き、レ級を睨むように見据える。
先頭立って戦うよりも二番手のポジションで戦うのが本来彼女の性に一番合うのだが、一番手がやられてしまったからには不本意ながら自分が先頭に立つしかない。
「サム、聞こえる? アイオワが被弾して戦線離脱するから援護をお願い」
≪Copy≫
離れたところでジョンストンと共にツ級とハ級と交戦していたサミュエル・B・ロバーツに戦線離脱するアイオワの援護を頼み、自分はレ級と対峙する。
さて、どうしてくれようか、とレ級を睨むニュージャージーが主砲を構え直した時、スカイガーディアンから彼女宛に通信が入った。
≪戦艦タナガーより対艦ミサイルをレ級に対して発射した。ニュージャージーは射線上から退避せよ≫
「SSM(対艦ミサイル)? 戦艦タナガー?」
聞き慣れない名前を口にして初めて彼女は見慣れない艦娘の名前はもしやタナガーと言う名前なのでは? と思い至る。
しかし、対艦ミサイルなど一体誰が発射したのだろうか? この海域で対艦ミサイルを発射できる艦艇は艦娘は勿論、通常艦艇すらいない筈だが。
疑問に思う彼女の耳に亜音速で飛来する対艦ミサイルが迫る轟音が瞬く間に聞こえて来た。轟音に気が付いたレ級が振り返った時、その艦上で爆破閃光と衝撃波が走り、爆炎がレ級を包み込んだ。
既にアイオワとニュージャージーからの砲撃を多数被弾していたレ級に、対艦ミサイルの直撃はジャブで弱っていたボクサーにストレートを叩きこむのと同然だった。
対艦ミサイルの直撃を受けたレ級が火焔に包まれ、瞬く間に左舷に傾き始める。海水とせめぎ合う炎で白い水蒸気が黒煙に交じって立ち上る。
「Cease fire(撃ち方止め)」
次弾装填を行おうとしていた自身の主砲に攻撃止めの指示を出す。サウスダコタとマサチューセッツの二人と交戦していたル級の片割れはマサチューセッツに一発命中弾を与えたものの、バイタルパートで弾き返され、逆に彼女からの主砲斉射を浴びて航行不能に追い込まれていた。サウスダコタと交戦していたル級も大破沈黙している。
「スカイガーディアン、敵勢艦隊の反応は?」
≪無しだ、敵艦全ての沈黙を確認。第八艦隊の『わかたか』への収容は完了した。貴艦らも『わかたか』とのランデブーポイントへ向かわれたし≫
「Roger」
ゲームセット、と胸中で呟くニュージャージーはアイオワに代わってTF58各艦に集結を命じた。
長居は無用、第八艦隊の撤退支援は成功したからTF58も引き上げ時だ。
艦隊全艦の集結を確認してからニュージャージーはもう一度無線をスカイガーディアンに繋いで、一つ頼みごとを入れた。
「スカイガーディアン、SSMで支援攻撃してくれた艦娘に一言伝言をお願い」
同じ艦娘母艦「わかたか」に乗り込むのだから直接言えばいい事ではあるが、敢えてニュージャージーはスカイガーディアン経由で先に言っておきたく頼んだ。
「『先に感謝の言葉を述べておく、TF58二番艦戦艦ニュージャージー』と」
≪了解した≫
こうして第八艦隊の撤退戦は無事、轟沈犠牲者を出す事なく全員での撤退に成功した。
しかしナイト・ランナー作戦そのものは本来の作戦目標を達成する事が出来ず、戦術的勝利を部分的に収めたものの戦略的には失敗に終わった。
サーモン北方海域に展開する多数の深海重巡戦隊を撃破し、更にレ級一隻を含む水上打撃群一群を撃滅したものの、第八艦隊は旗艦鳥海、雷巡北上、超甲巡大峰が大破、超甲巡磐梯、重巡衣笠、古鷹中破、TF58からもアイオワ小破の損害を出す事となり、先日の輸送船団撃滅時の様なワンサイドゲームの再来はなる事なく終わった。
ショートランド泊地へと帰路に着く「わかたか」の艦尾キャットウォーク上で後方へと延びる航跡を眺めていたタナガーは艦娘として、この世に転生して来て初の実戦を終えた自身の右手をふと見つめた。
初の実戦は惜しくも戦略的敗北に終わった。負けは負けだ、それは少しばかり心残りである
しかし彼女自身の心の中では単なる敗北で終わった気持がしていなかった。寧ろ高揚感に似たものが彼女の中で踊っていた。
この世に転生し、艦娘として新たな生を授かり、戦艦として水上戦闘を経験する事が出来た。それだけでも極めてタナガー個人にとっては極めて意義のある、戦いであった。
何より全員生きて帰る事が出来た、それだけでも彼女からすれば大勝利だ。
「私達は負けていない……私達は、絶対に負けない!」
ぐっと右手に拳を作ってタナガーは自分自身に言い聞かせる様に呟いた。
次回は来年になると思います。
来年も空衛命自の諸作品をよろしくお願いいたします。
良きクリスマスを、良き年末をお過ごしください。
感想評価、ご自由にどうぞ。
ではまた次回のお話でお会いしましょう。