艦隊これくしょん ストレンジリアル軍艦艦娘転生海戦譜 Season1 作:岩波命自
今年もよろしくお願いします。
本編をどうぞ。
ナイト・ランナー作戦の戦略的敗北を受け、第八方面軍司令部では即座に次の作戦構想を実行段階へ移すべく動き始めていた。
新たな作戦はフォックストロット・ノベンバー作戦と名付けられ、その作戦目標、作戦綱領が司令部内で立案、計画された。
作戦内容は大規模な陽動作戦だった。大規模と言っても、動員する艦隊戦力は六隻に留められているが動員する艦娘の艦種がいつもとは違った。
艦隊の陣容は修理、負傷治療が終わった大和型戦艦艦娘の大和改二重と武蔵改二、長門型戦艦艦娘の長門改二、陸奥改二の第一戦隊を中核として、これに制空戦闘を担う第一航空戦隊の赤城改二と有効な戦力たりえる事が判明した戦艦タナガーを加えた戦艦五隻、空母一隻による重艦隊だった。
フォックストロット・ノベンバー作戦、略称FN作戦の作戦目標はサーモン北方海域に複数設けられた進撃路の中でも北方ルートと呼ばれるルート上に展開する機動部隊A群と深海南方任務部隊水上打撃群を強襲してこれを撃滅し、サーモン北方海域に展開する深海棲艦の注意を北方へそらす事が作戦目標とされた。
交戦する事になる機動部隊A群及び深海南方任務部隊水上打撃群が展開するのはサーモン北方海域のポイント5-5Kと5-5P。この内5-5Pに展開する深海南方任務部隊水上打撃群の一群は先のナイト・ランナー作戦で一群を撃滅されているから、展開している艦隊は三個艦隊と見積もられている。ナイト・ランナー作戦前の深海棲艦輸送船団撃滅により深海棲艦は戦力の補充や充分な補給が出来ていないと見られているので、消耗したままの敵艦隊に万全の状態の艦娘艦隊をぶつける形になる。
補給などが不十分、とは言っても5-5Pに展開する敵艦隊三個群すべてに戦艦レ級が含まれるし、flagship級の戦艦ル級やelite級のネ級等高脅威の深海棲艦が多数含まれているから決して侮れる戦力でもない。
それに5-5Kの機動部隊A群は空母ヲ級改flagship級と言う搭載機数一四四機を誇る大型空母が中核だ。三群確認されている機動部隊A群の内訳はヲ級改flagship級一隻、軽空母ヌ級flagship級一隻、重巡ネ級elite級一隻、防空巡ツ級elite級一隻、駆逐艦ハ級後期型二隻とヲ級改flagship級二、重巡ネ級elite級、防空巡ツ級elite級それぞれ一、駆逐艦ハ級後期型二隻、そしてヲ級改flagship級二隻、ヌ級flagship級一隻、ツ級elite級一隻、ハ級後期型二隻。
空母の展開数は七隻にも及ぶ。搭載機の総数は九〇〇機近くにも上る。
それに対抗する赤城改二の艦載機は索敵を担当する彩雲四機を除く搭載可能枠八六機全てに烈風一一型を搭載すると言う徹底した艦隊防空空母運用とされた。
さらにFN作戦の主力部隊の機動部隊A群撃滅を援護する為に、第五航空戦隊の翔鶴改二甲と瑞鶴改二甲の二人を中核とした航空支援艦隊も投入される。支援艦隊を構成するのは五航戦の翔鶴、瑞鶴と第一航空戦隊の片割れの加賀改二、第六戦隊の青葉、第六一駆逐隊の駆逐艦秋月、照月となっていた。
南方のソロモン諸島近海のサーモン北方海域に戦艦や正規空母の多くを投入する事が出来る様になったのは、ひとえに新任の人類統合軍太平洋総軍の司令官に就任した成田光大将による根回しが大きい。
北方海域での深海棲艦討伐の為に二航戦と四航戦、それに南方艦隊第八方面軍配備の第一遊撃部隊第三部隊を抽出、提供する事を条件に人類統合海軍西太平洋艦隊第二艦隊配備の第一戦隊と第一、第五航空戦隊を南方艦隊第八方面軍に派遣する事を取り付ける事が出来たお陰で同軍の艦隊戦力は大幅に拡充されていた。
拡充はされたものの、北や岩瀬たちの表情は晴れ晴れとはしていなかった。
先のナイト・ランナー作戦で大破した鳥海と北上、大峰の損傷、怪我の具合は深く、早期の戦列復帰は困難だと判定されていたからだ。
中破で済んだ衣笠、古鷹は既に修理、治療完了しているが、同様に中破となった磐梯はまだ艤装の修理が完了していない為戦列復帰は望めない。
主力艦、それも夜戦火力に秀でた鳥海と強力な雷撃戦能力を持つ雷巡の北上、深海棲艦の重巡キラーたる超甲巡磐梯、大峰の二人の長期戦線離脱は痛手に他ならない。
しかし、嘆いても始まらない。今ある戦力で出来る限りの手を打って、サーモン北方海域の攻略を目指さなければならない。
FN作戦はあくまでも前哨戦だ。本命のサーモン北方海域完全攻略作戦である「荒海作戦」、通称RS作戦はもっと大掛かりな艦隊戦力で挑むことになる。
≪貴殿らは前哨戦と言う位置づけているが、それにしては随分投入戦力も大々的になったな≫
テレビ会議システムの画面共有で作戦参加艦娘の一覧を見た成田大将の言葉に、北は自身の考えを口にする。
「サーモン北方海域は魔境です。過剰な程の資産を投じるのがここは正解です。寡兵をもっての長期消耗戦を挑むより、大規模な精鋭部隊をぶつけて短期決戦を挑む方が損害も兵站への影響も少なくて済みます。作戦に当たって要請した補給物資の手配は?」
≪既に補給艦「ましゅう」でそちらに輸送中だ。作戦に参加する戦艦艦娘全員分の一式徹甲弾改や対空弾等の弾薬、燃料をふんだんに積んでいる。のちのRS作戦の分は現在手配中だ、準備が整い次第、船団及び輸送機でそちらに送る≫
「よろしくお願いします。サーモン北方海域でケリを付けられれば、我が軍はその先のKW環礁へ歩を進められます」
≪KW環礁か……現状未知領域だったな。偵察衛星での偵察結果もあまり芳しいとは言い難い……≫
「KWへ進む為にも、そしてそれ以前にそこに何が潜んでいるかも含めて我々はサーモン北方海域は突破せねばなりません」
力説する北にモニター越しに成田は深く頷いた。
≪貴官に作戦は一任する。必要があれば私に連絡を寄こしてくれ、最悪手間な時は私の名前を使ってくれても構わん≫
「恐縮であります大将。艦娘及び部下一同心してかからせていただきます」
≪うむ。ところで話が少しそれるのだが≫
話題を切り替えて来た成田の言葉に北は軽く首をかしげて先を促した。
≪第八方面軍が艦娘として着任を許可したタナガーと言う艦娘。どのような艦娘なのかね?≫
「それは、彼女の人なりの事でありますか?」
≪人として、艦娘としてタナガーと言う艦娘全てについてもっと具体的に知りたい。概要データは読ませて貰った。だが、そう実際に普段から接している貴官らの生の感想を聞きたいのだ≫
そうは言われても北とて決して盛んにタナガーと接している訳でもない。ナイト・ランナー作戦の失敗に伴う事後処理やFN作戦、さらにRS作戦に向けた作戦立案と協議でここ数日忙しかったので廊下とすれ違った際に挨拶を交わした程度だ。
寧ろ彼女と比較的親密な中を築いているらしいギャリソン中佐に聞くのが早いだろう。
「小官よりも盛んに接している将校がおります。呼びますか?」
≪ああ、頼む≫
北から彼のオフィスへ出頭命令を受けたギャリソン中佐が出頭して来て、テレビ会議システムのモニターを前に座ると、成田は早速タナガーと言う艦娘について質問をぶつけた。
「彼女を一言で表すなら、大艦巨砲主義の信者です。洋上艦艇による艦隊決戦を信奉し、巨砲には巨砲をもって相手取るが彼女の信念です。
前世が本物の鋼鉄の戦船たる戦艦だったことも相まってでしょう。他の艦娘と違い彼女は人間の親から自然に生み出された人間ではなく、異世界の戦艦の船魂が撃沈された際の現世への未練、悔恨、恨み正と負が入り混じった強い意識がこの世に艦娘として転生して形成された、と言うのが小官の推測する所の彼女の出生と思われます」
≪異世界の戦艦か。レポートによればもう一つの地球世界のエルジアと言う国の海軍の戦艦だったとの事だな。
にわかには信じられんが、現に彼女はこの世に存在するわけか≫
「彼女の性格ですが、礼儀正しい艦娘です。アイオワやニュージャージー達とも早くも打ち解けています。
一方で根っからの大艦巨砲主義の信者であるが故でしょうか、いささか頑固な所もあります。
特に航空主兵論に関しては理解を示しつつもそれに強い嫌悪感を抱いています。前世で成す術もなく航空機に撃沈された事や、航空機の手で自身が所属する艦隊の身動きを封じられたと言う経験からかと思われます」
≪前世でコンベース港で撃沈された、と言う話は聞いているが、所属する艦隊の身動きを封じられた、と言うのは初耳だ。何があったのだ?≫
「彼女から経緯を聞いたところによると、敵対組織ISAFの最後の拠点への侵攻作戦を前に戦略物資の補給路と燃料供給路を航空攻撃で破壊されて、艦隊による侵攻作戦が頓挫させられたところへ仕上げの航空攻撃をコンベース港停泊中に行われて、前世の彼女は撃沈されたとの事です。
もともと前世が自力での情報収集が可能な人間ではない戦艦の船魂だったので、彼女自身も概要程度の事しか把握出来ていない所があるようです」
≪そうか、分かったありがとう。RS作戦を前に私もそちらに視察を兼ねて向かう予定だ。その時是非彼女自身と会ってみたいものだな≫
そう言って成田はやんわりとした笑みを口元に浮かべた。
その頃、タナガーは基地の図書室で大量の書籍を読みふけっていた。
この世界におけるタナガーの前世と同じ姿をルーツとするアイオワ級戦艦艦娘のニュージャージーから「勉強は大事」と説かれてから、暇なときは図書室で読書に耽っている事が多くなっていた。
勿論、第八艦隊等の仲間やよく気に掛けてくれる青葉との交流も蔑ろにはしていないが、読書に耽っている時が心が落ち着く気がして彼女は好きだった。
前世の鋼鉄の戦艦だった時と違い、人としての姿を得てから書物を用いて大量の知識を得る事が出来ていた。この世界に転生し、人間と言う姿を得て、さらに自由に知恵の実をも食らう事が出来る喜びにタナガーは浸っていた。
彼女が読む本は多岐に渡った。水上砲戦に関するモノから忌み嫌う航空機による航空戦、果ては思想や国、経済に至るまで。
様々な本を読破して来たが、どうにも思想や政治、経済と言う分野は彼女には刺さらない世界だ。前世のエルジアがあった世界もそうだが、この世界も深海棲艦の出現以前は醜いパイの奪い合いの様な醜悪な政治争いとそれに起因する国家間の戦争に明け暮れていた。
今は深海棲艦と言う共通敵を前に一致団結しているとは言え、脆い組織であることに変わりはない。戦争が終わったらまた各国は勝手な事を言い出すだろう、と指摘する本もありタナガーは否定しきれない思いを胸に抱いていた。
エルジアだってかつては一つの国家連合に加わろうとしたことがある。しかし、各国間の利権争い、特に超大国オーシア連邦の存在がエルジアのあるユージア大陸を「ユージア同盟軍」と言う一つの組織の下に統一する国家連合化への道を阻んだ。
その果てはユージア大陸内での大規模なクーデター発生となり、ユージア大陸紛争が勃発した。戦艦だった頃のタナガーもモスボールにて予備役状態から復帰してこの紛争に参加した。自分の最後の艦長トーレス大佐が当時駆逐艦の砲術長として名声を上げたのがこの紛争だった。
そしてユージア大陸紛争後、またユージア大陸はバラバラになり、更にユリシーズの落着後エルジア対ユージア大陸諸国と言う二大対決構造が生まれあの戦争が始まった。
ニュージャージーからは勉強は大事とは言われたものの、政治関連の本は読んでいるとだんだんげんなりして来てしまい、耐えられず本を閉じて軍事関係の本に逃げた。
忌み嫌う分野ではあるが、それでも現代の軍事力の要である航空戦について書いた本に目を通していると、コツコツと言う足音を響かせながら誰かがタナガーの隣に立って彼女が読んでいる本の文章を覗き込んだ。
「勉強好きなのですねタナガーさんって」
感心した様に言う人物にタナガーが振り返ると、大和が彼女の隣に立っていた。
「や、大和さん!」
大和の姿を見てタナガーはバタバタと慌てふためきながらかしこまった。硬い態度を取るタナガーに苦笑を浮かべながら大和は堅苦しい態度は無しだと手を振る。
「同じ艦娘同士じゃないですか、そんなにかしこまらないで下さい」
「は、はい」
そうは言われてもタナガーにとって大和はある意味憧れの存在であった。艦娘大和の史実の鋼鉄の戦艦の方の大和の事は既にタナガーも知っている。
世界最大の口径を誇る四六センチ三連装主砲を備えた世界最大の戦艦。目の前にいる大和はその在りし日の戦艦大和の船魂の継承者として戦艦艦娘大和として着任した艦娘だ。
現在の大和は改二重と呼ばれる大和型戦艦艦娘の改二形態の一つとして運用されている。主砲の口径は五一センチになり、その圧倒的な火力投射能力は先んじて改二化されていた長門型改二を遥かに凌ぐ。
実際の戦艦としても、艦娘の戦艦としても、大艦巨砲主義の信者であり自身が戦艦であることに強い誇りを持つタナガーが大和に憧れを抱くのはごく自然な流れと言えた。
「航空戦の本ですか。空母艦娘でもないのに多方面に興味を持つのは良い事ですよ」
「私は前世で航空機に沈められたので……大和さんのルーツである戦艦大和と同じように航空機に完膚なきまでにやられました。
だから私は航空機に怨嗟の念を抱いています。ですが、ただ拒絶するだけでは意味がない。嫌いな世界だからこそ理解しておかなければならないのだと私は考えています」
「物事を見るときは様々な視野から見つめることが重要ですからね、貴女の言う事は間違っていませんね。あ、そうだごめんなさい私としたことが。
妹が世話になったようで。どうもありがとうございました」
妹……双子の妹の愛鷹の事か、と思い出す。実の姉妹で艦娘になった例は大和と愛鷹くらいだ。
世話になったと言われたが、寧ろ愛鷹の方がタナガーにとっては先輩だし、別段世話になるような事も無かった。
その旨を言おうと思ったが、社交辞令と言うモノだろうと考え直す。
「こちらこそ、愛鷹さんの艦娘としての先輩の戦い。しかと見させていただきました。流石は大和さんの妹さんですね。
砲術の腕前は素晴らしかったです」
「貴女の砲術の腕前も大したものだったと青葉さんから聞いてますよ。何でも二発に一発は当てていたと。
どうやったらそんなに凄い命中精度を発揮できるのですか?」
彼女自身戦艦としてタナガーの射撃の腕前に強い興味が湧いているのだろう。目を少し輝かせて尋ねて来る大和にタナガーは本を閉じて腕を組んだ。自分で実践している事を他人に伝授する事は難しい。
端的に言えば「考えず、行動しろ」の概念でやって来ているから口で自分が実践している砲術論は容易には語れない。
「そうですね……イメージする事ですかね」
「イメージ?」
「敵ではなく、敵艦の命を狙う、それが砲術。敵艦のいる場所をイメージする。ざっくりとした形で言えば私の中での砲術の信念はこれです。
……すみません、人に伝授する事って考えたことが無くて」
「俗にいう『考えるな、動け』でやっている訳ですね。それが出来るだけでも凄いです。生まれつきの才能ですね」
ニコニコと笑顔で言う大和にタナガーは「生まれつき……」とだけ呟き返す。
自分はもとはと言えば鋼鉄の戦艦の船魂の転生者。人間の母親のお腹から生まれて来た存在ではない。この世界に転生して来た時の事は覚えていないが少なくとも今の肉体を得た自分には「生みの親」と言うものが存在しない。
一方の大和は、双子の姉として母親のお腹から生まれ、育ち、艦娘となった。タナガーには知りえない暖かな家族の愛情に育まれて来た人間。
その事を考えると急に無性に寂しい気持ちになる。
話し相手の表情に陰りが見えた事に気が付いた大和は話題を変えた。
「今度のFN作戦、妹の武蔵、僚艦の長門、陸奥、赤城さん共々よろしくお願いしますね」
「こちらこそ、先輩である大和さん達の戦い方をこの目で見てみたいところです。戦艦同士の殴り合いとなると戦艦艦娘として血が滾ります」
暗い表情から一転生き生きとした表情になって言うタナガーに大和は微笑みを返す。
戦艦は洋上艦と殴り合ってこそ存在意義ありと表情で語るタナガーにそうではあると認めつつも、ただ洋上艦艇同士で殴り合うだけが戦艦の任務ではないと大和は胸の内で反論していた。
だが言わずともタナガーはそれ位理解しているだろうと言う確証が彼女の中に自然と湧いていた。
その時、館内放送で鹿島の声がスピーカーから流れ出て来た。
≪伝達します。第一戦隊大和、武蔵、長門、陸奥、戦艦タナガー、一航戦空母赤城は13:00より艦隊演習を実施します。
12:30までにドック内ブリーフィングルームへ集合して下さい。伝達終わり≫
FN作戦前に参加艦娘による艦隊演習が行われる事は二人とも知っていた。内容は艦隊運動から対水上戦、対空戦闘を考慮した模擬戦まで。
初めて艦隊運動を共にする仲として、大和はタナガーの横顔を見つめながらお手並み拝見させて貰いますよ、と呟いていた。
既に第八艦隊の艦娘とは良好な艦隊運動が取れていた事が判明しているが、さて我が精鋭第一戦隊の足並みについてこられるか。
通達通り12:30までに艦娘出撃ドックにあるブリーフィングルームに大和、武蔵、長門、陸奥、赤城、そしてタナガーの六人が集まった。
六人が12:30をブリーフィングルームで迎えて数分後、書類を抱えた鹿島が部屋に入室して来た。
ブリーフィングルームの演台にたった鹿島は六人全員に持って来た書類を一枚一枚手渡すと、スクリーンパネルを起動させて艦隊演習のブリーフィングを始めた。
「本日行うのは艦隊運動演習と模擬戦として対水上及び対空戦闘訓練です。皆さんの艦隊運動能力に提督さんが疑問を持っている訳ではありませんが、第一戦隊、一航戦とタナガーさんは共同での艦隊運動を行った事がありません。
よって作戦前に念入りに艦隊運動を中心とした演習を実施します。
艦隊運動演習の後、模擬弾による実戦スタイルでの戦闘訓練を実施します。皆さん第一水上打撃群を青軍とし、赤軍をTF58と一航戦の加賀さんが務めます」
スクリーンパネルにはFN作戦参加部隊の部隊名として六人の名前の隣に「第一水上打撃群」の文字が表示される。
そしてその左隣に赤の文字でアイオワ、ニュージャージー、サウスダコタ、マサチューセッツ、それに一人増員されワシントンの五人の戦艦艦娘からなるTF58と模擬戦航空攻撃を担当する加賀の六人の名前が演習対抗部隊の赤軍として表記された。
「相手にとって不足なしだな」
不敵な笑みを浮かべて武蔵が言う。
自身とほぼ同じ主砲口径の戦艦五隻との模擬戦とは言え、腕がうずうずするのか長門も無言で右手をさすっている。
タナガー自身も「模擬戦」とは言っても実戦スタイルで行われる演習に胸が高鳴っていた。アイオワ、ニュージャージーは自分とは同格の性能の主砲を使う戦艦艦娘だ。経験の差を除けば艤装のカタログスペックではタナガーがこの二人に劣る要素はない。
勿論まずは艦隊運動演習を行ってから、である。
伝達する情報を伝達し終えた鹿島が「良き成績を期待します」と告げて部屋から出て行くと、六人は別の出口から出撃ドックへと足を踏み入れた。
六人がそれぞれ「抜錨」を書かれたステップに立つとドック内にいた作業員がクレーンを操作して、巨大な大和型、長門型、そしてタナガーの艤装を五人の背後に移送させる。赤城の艤装はドック内の作業員が数人がかりで彼女の身体に装着していった。
作業員が赤いハンドライトを振り、クレーンから吊るされた艤装がじわりじわりと五人の戦艦艦娘に近づいていく。
「オーライ」の掛け声がドック内に響き渡る中、五人の背中の艤装コネクターに艤装の連結部が接続され、作業員が即座に固定作業を開始する。
クレーンで吊るされていた艤装の機関部の点火始動作業が始まり、程なく定格出力にまで達した機関部の力で艤装がクレーンの補助なしでも艦娘に接続された状態で浮かび上がる。
「電圧チェック、油圧チェック、温度チェック、回転数正常、リグ・グラビリティ・チェッキングプログラムスタート。燃料温度正常、IFF異常なし、艦娘間戦術データリンクアクティベート。システムオールグリーン、抜錨、用意良し」
チェック項目のリストをすべてチェックしえ終えたタナガーはリストを挟んだクリップボードを作業員に返還して抜錨準備に入る。
≪全区画に通達。第一水上打撃群の出港準備フェーズを3に移行≫
≪航路管制情報。ドック周辺に脅威となるオブジェクト無し。ドック内作業要員は主要区画の監視を警戒レベル2へ≫
≪抜錨に関する休止信号、中止信号共に無し≫
≪管制センターとの艦娘間データリンクは継続中≫
≪艤装機関部及びその制御に関する統合軍艦娘運用機関の抜錨手順項目を全てクリア≫
≪ドック内注水開始。作業員は速やかに指定退避ステーションへ退避≫
警告灯が光り、警報が鳴り響く中ドック内作業員が退避したドックへ海水の注水が始まる。
既に機関部を始動していた第一水上打撃群の艦娘六人は注水される海水の中に沈む事無くふわりと浮かび上がる。踝辺りまでの高さがある波が六人の足元を洗う中徐々に水位を増していく。
ドック内で二本の足を海水上に立たせた艦娘達の目の前で、出港ゲートが開いて外の明りが暗いドック内に入り込んで来る。
≪第一水上打撃群六隻からの抜錨シグナルに対し、『許可する、抜錨速度を維持せよ』との返信あり≫
ドック内のゲート開口部上にある赤色灯が消え、緑のランプが点く。
それを確認した大和がゆっくりと前進を始める。彼女の足元で艦首波が立ち上がり、航跡がラダーヒールの後に流れ出る。
大和の抜錨に続き、武蔵、長門、陸奥、タナガー、赤城の順に錨を上げて抜錨していく。
≪第一水上打撃群、ドック内操艦モード。抜錨速度で前進≫
五人の戦艦艦娘のラダーヒールと赤城の高下駄の後部から流れ出る航跡が、徐々に加速していく六人の速度に合わせてその長さを伸ばしていった。
ドックから抜錨した六人は先に出港していた鹿島の監督の元、まずは艦隊運動演習から着手した。
単縦陣の先頭を航行する大和に続く形で武蔵、長門、陸奥、タナガー、赤城が速力を合わせて航行する。
「大和の通跡、基準進路130度、ヨーソロー」
二番艦の武蔵の号令に、続航する長門、陸奥、タナガー、赤城が進路速度を合わせて「ヨーソロー、大和の通跡」と唱和した返事を返す。
「基準艦速力、黒三〇、第一戦速」
先頭を切るポジションであるがために艦隊の基準艦となる大和が自身を基準として各種号令を下す。
加速の号令が下るや六人の主機が回転数を上げて加速し、第一戦速へと加速していく。
タナガーも第一戦速へ加速しつつ、前方を進む陸奥の航跡にしっかりと自身の進路を重ねる。一ミリたりとも前を征く陸奥の功績からずらさない、と言う自信があった。
高い経験と練度を誇る第一戦隊の四人と一航戦の赤城に交じって進むタナガーの艦隊運動能力は、良くて中堅レベルとは思えない程高かった。
大和が下す回頭指示や加減速指示にぴったりと息を合わせて、隊列を崩す事無く付いて来る。
「ヨーソロー」
舵を上手い具合に切り、隊列を維持しながらタナガーはひたすら先輩となる艦娘達に付いて行く。
しっかりと付いて来るタナガーの姿を見て、大和は内心驚きを強く感じると共に、これが所謂「生まれつきの才能」と言うモノかと感心していた。
「新入り、中々に操艦技量がよろしいな」
自分と同様感心した様に武蔵が大和に対してタナガーに感じた感想を言う。
すると聞こえていたらしいタナガーから応答が入る。
「先輩たちに負けはしませんよ。艦だった頃の経験が生きてますからね。寧ろ艦だった頃の経験で言うなら先輩達よりも長く海の上にいますから」
「どういう事だ……」
前世の戦艦そのものだった頃を含めて第一戦隊や一航戦の艦娘よりも長く海の上にいた、と自負するタナガーの言葉に、彼女の事情を深くは知らない長門が首を傾げた。
「話すと長いので帰ったら長門さんにもお話しますよ。『私の本当の姿』と言う奴を」
微笑を浮かべて返すタナガーに長門は緊張と怪訝さの入り混じった表情を浮かべた。
一時間程かけてみっちりと艦隊運動演習を行った第一水上打撃群は、予定通り演習の第二段階である対空、対水上戦闘訓練へと移行した。
「教練、対艦戦闘用意!」
大和の張り上げる号令に応じて水上戦闘準備に入る第一水上打撃群の六人の前に、対抗部隊であるTF58の五人の戦艦艦娘が姿を現した。
一六インチ主砲を構えたアイオワ、ニュージャージー、サウスダコタ、マサチューセッツ、ワシントンの五人が手ぐすねを引く様に第一水上打撃群と対峙した。
「手は抜かないわよヤマト」
不敵な笑みを浮かべてアイオワが大和を見据えて、自身の主砲を向けた。
次回は「演習Ⅱ」をお届けしようと思います。
ではまた次回のお話でお会いしましょう。