艦隊これくしょん ストレンジリアル軍艦艦娘転生海戦譜 Season1   作:岩波命自

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 コメントで「エグイ量の資源が飛びそうな編成ですね」と言われて、確かにとなった日米重量級編成の戦艦同士の殴り合いです。


第九話 演習Ⅱ

「教練、対艦戦闘用意!」

 戦闘用意の号令を張り上げるタナガーの凛と張った声が上がる中、先行する大和、武蔵、長門、陸奥でも同様の台詞が上がり、五人の艤装で水上戦闘用意のベルが鳴り響く。

「各部配置良し! 教練対艦戦闘用意良し!」

 CIC妖精が艤装各部から上げられてきた配置良しの報告をまとめてタナガーに伝える。

 ターレットの旋回音が鳴り響き、タナガーの主砲が対抗艦隊へと指向される。

「本艦の目標、赤艦隊五番艦戦艦ワシントン! 砲撃用意!」

 砲撃目標を明示するタナガーの指示にCIC妖精が直ちにレーダー測距を開始し、主砲の射撃諸元を算出しにかかる。

「主砲撃ち方用意」

「方位012、的針113、的速二四ノット」

「主砲一番二番、撃ち方用意。システムは砲撃に切り替え」

「諸元入力。方位012、仰角調整」

「主砲一番二番、交互撃ち方、演習弾装填」

 CICと主砲塔内で装備妖精が確認と合図の掛け声をかけ合い、主砲砲撃の準備を進めていく。今回の対抗演習ではミサイルは使用しないのでミサイル科員はダメコン予備要員として待機している。

 揚弾機が一六インチ三連装主砲に演習弾を装填し、その後部から装薬をラマーが砲身内部へ押し込む。装填完了した六門の主砲各部から「用意良し!」の報告が上げられてくる。

 主砲の射撃準備が完了するまでの間、タナガー自身は双眼鏡を覗き込み対抗艦隊を務める赤艦隊の五人の姿を眺める。

 赤艦隊のアイオワ、ニュージャージー、サウスダコタ、マサチューセッツ、ワシントン共に砲撃準備は完了して既に発砲態勢に入っている。

 演習は既に始まっているが、撃ってこないのは必中を期して距離を詰めにかかって来るからだろう。アメリカ艦の主砲の得意領域は近接砲戦だ。実戦時はSHS弾を使用する関係上威力と引き換えに射程が犠牲になっているのもある為、普段から戦闘や演習時には近距離で殴り合うのがアメリカ戦艦艦娘の戦法だ。被弾のリスクは上がるが、反面短期決戦を望める。

 一方の第一戦隊の艦娘は大口径、長射程を生かしたアウトレンジ戦法が得意領域だ。短距離戦に持ち込もうとするTF58に対して、タナガー以外の第一戦隊の四人は鍛え上げた妖精との練度と精確な照準、射程を生かしたアウトレンジ射撃で優位に立つつもりだった。

「青艦隊赤城、戦域より離脱!」

 戦艦艦娘と違い直接砲撃戦を行える艦娘では無い赤城が戦艦艦娘五人の隊列から分離し、対抗艦隊である赤艦隊の加賀からの空爆に備える。

「赤艦隊、一二度、距離七五〇、速力二八ノット、急速に近づく!」

「教練対艦戦闘用意。教練対艦戦闘、右砲戦。射撃指揮所指示の目標、主砲、撃ちぃ方始めぇ!」

 凛と張った声で大和が砲撃を発令すると、彼女の艤装に備えられた五一センチ三連装主二基が発砲の砲煙を瞬かせた。

 轟音と共に砲口から発砲炎と砲煙が迸り、勢いよく後退した砲身から演習弾が撃ち出された。

 大和の砲撃開始に続き、武蔵、長門、陸奥の主砲も演習弾を装填した巨砲を撃ち放った。

 

「大和、撃ち方始めました」

「武蔵、撃ち方始めました」

「長門、撃ち方始めました」

「陸奥、撃ち方始めました」

 

 タナガーの肩の上で、艤装の上で四人の装備妖精が双眼鏡を覗き込みながら第一戦隊の艦娘四人の砲撃開始を報じる。

 最大戦速へ加速して青艦隊である大和以下五人へ向かってくる赤艦隊の五人の周囲に着弾の水柱が幾つも突き立つ。散布界は初弾とあってやや広めだ。

 腹に響く砲声を轟かせる第一戦隊の艦娘の砲撃を見て、戦艦艦娘としての血が滾る思いを覚えながら、タナガーは自身の主砲の有効射程に入るまでじっくりと時期を待つ。

 今回の相手は先のナイト・ランナー作戦の時に一撃確殺が出来たネ級やリ級と言った巡洋艦級では無く、自分と同レベルの戦艦だ。正確に砲弾を送り込んで確実に無力化判定を出していかねばならない。

 青艦隊の第一戦隊の砲撃開始からやや遅れて赤艦隊の五人から砲撃が始まる。一六インチ主砲の砲声が一斉に鳴り響き、放たれた演習弾が青艦隊の五人の頭上から降り注ぐ。

「着弾、右三〇度、距離二〇!」

 見張り員妖精がタナガーの右舷側に着弾した演習弾の突き立てる水柱を見て叫ぶ。

 TF58全艦が高性能レーダーを標準装備しているだけあって、初弾からの照準は比較的正確だ。

「本艦の目標、赤艦隊五番艦ワシントン、主砲射程に入る!」

「右砲戦、CIC指示の目標、主砲撃ちー方始めー!」

 必中射程に収めたタナガーの砲撃開始の合図と共に彼女の一六インチ三連装主砲が発砲の火蓋を切る。交互撃ち方に設定された主砲は三連装主砲の右砲と左砲からまず初弾を撃ち放つ。

 轟音と共に真っ赤な発砲炎と真っ黒な砲煙が砲口から迸り、砲煙を突き破る様に飛び出して行った演習弾が飛翔音を響かせながらタナガーの狙うワシントンへ砲弾を飛翔させていく。

 タナガーの発砲を確認したワシントンは左右の主機の機関主力を微妙に変え、進路を維持したまま微妙に中心線をずらす回避運動を取ってタナガーの砲撃を回避しにかかる。

 噂に聞く限りでは異常に上手い砲術の腕前だと聞くが、どれほど卓越した腕前を持とうが初弾命中は早々上手く行くとは思えない。多少は手を抜いても相手取れるだろう。そうタカを括るワシントンは第一射を放った主砲の再装填を急ぐ。

 少なくともワシントンが知る限りの艦娘の常識ではそうだった。相手の練度は自分よりも格下、実戦経験も演習の経験も浅い新米艦娘。魔境のサーモン北方海域から生きて帰って来られたと言う点では朝飯前とは行かないだろうが、それでも自身の方が格上の自信があった。

 だが飛翔音が急激に彼女に迫る中、ワシントンは脳内で本能的に「近い!」と叫んでいた。

「Hard to Starboard!」

 咄嗟に面舵一杯を咄嗟に命じるワシントンの目に、飛来する四発の演習弾が映った。

 戦艦艦娘と言うだけに舵の効きには若干のタイムラグが付く。ほんの少しだけだが生じるタイムラグにワシントンが苛立ちの舌打ちをした時、彼女の舵が効き進路を大きく右に変える。

「ワシントン、隊列を維持して!」

「あれは当たるわよ!」

 面舵に回避した結果隊列から分離する形になるワシントンを咎めるアイオワに、ワシントンが本能的に感じた危機感をそのまま返した時、回避運動を行ったにも拘らずワシントンの目と鼻の先の位置にタナガーの砲撃が着弾した。

「Holy shit……」

 周囲に突き上がる水柱の壁を突き破りながら、ワシントンはタナガーを見返す。初弾でこの散布界と着弾位置。練度Lv50以下の艦娘とはとても思えない腕前だ。

 まさかの新米相手に早々撃破判定を貰いそうな自分にワシントンは信じられない思いを噛み締める。相手は本当に自分よりもLvの格下なのか? 本当は歴戦の艦娘では無いのか?

 胸中と脳内で渦巻く疑念と困惑は、即座に意地と本気の闘志へと変換される。

「マイティ、援護は必要か?」

 良く張り合っているライバルであり、心の底では互いによく認めている良き友でもあるサウスダコタが伺う声を寄こすが、ワシントンは丁重に「No Thankyou」とそれを断った。

 ここで新米戦艦に撃ち負けては、先輩戦艦として見せる所が無くなる。新米戦艦相手に二人がかりで相手取って勝ったとなっては戦艦ワシントン、愛称マイティWの名を持つ自身のプライドが許せない。真っ先にやられてたまるか、と言う彼女の意地と闘志がその目にギラギラとした眼光を浮かべていた。

 再装填完了した主砲をタナガーへと指向する。新米相手に負けたくない、と言うワシントンの静かなる闘志とプライドが燃え上がっていた。

「Fire!」

 鋭い声と共に彼女の一六インチ三連装主砲Mk.6 mod2二基の右砲二門がその砲口から火焔を吐く。力強い砲声が響き渡り、撃ち出された演習弾がタナガーに向かって飛翔して行く。

 再装填に要する時間はアイオワやニュージャージーと同じ筈。つまりワシントンと大差はない。次弾が来る前にジグザグ運動を取って相手の照準をずらすまで。

 鋭い眼光で見つめるタナガーが大きな艤装を傾けてワシントンの砲撃を回避しにかかる。完全に読めている? と言うワシントンの疑念への答えは数秒後タナガーの右舷側の手前に集中して着弾した自身の砲撃の水柱で示された。突き上がる水柱はタナガーから随分離れている。レーダー測距してこの位置である。初弾よりも命中位置が悪化していた。

 躱された、それも余裕面で。その現実にワシントンはプライドが傷つく思いと共に、絶対にタナガーに撃破判定を出してやる、と言う並みならぬ闘志に変えられる。

 砲口の仰角を取る主砲の中砲をタナガーに指向し、精確な射撃諸元を導き出し、CIC妖精が「Ready to Fire!」と告げる。

「Fire!」

 再び鋭いワシントンの射撃指示が下るや、彼女の二基の主砲の中砲が発砲する。同時にタナガーの二基の主砲の中砲の砲門に発砲炎が走る。

 空中を彼我の砲弾が行き交い、交差した二人の砲弾はそれぞれの着弾位置へと降り注いでいった。

 面舵に切っていた舵を取り舵に切ってジグザグ運動するワシントンの目の前にタナガーの砲撃が着弾する。文字通り手を伸ばせば届く距離に突き上がる水柱を顔面を保護する様に両腕をクロスしたワシントンが突き破る。目の前で炸裂するタナガーの砲撃の水柱の爆風でワシントンの靴の爪先が少しばかり浮かび上がる。

 またしてもワシントンの至近距離に砲撃を送り込んで来るタナガーに対し、ワシントンの砲撃はタナガーの頭上を飛び抜けて反対側に着弾していた。虚しく外れた二発の砲弾が背の高いタナガーの背後で二つの水柱を突き立てる。

「Reloading!」

 発砲を終えた右砲、中砲の再装填を急がせながらまだ撃っていない左砲に仰角を取らせて砲撃態勢に入る。

 タナガーも右砲と左砲の再装填を行いレーダー測距と自身の微調整を入れた射撃諸元を砲塔に入力し、準備が完了すると「てぇーッ!」の号令と共に砲撃を放つ。

 四つの砲煙がタナガーの艤装上で噴き出すのが見えた直後、ワシントンの主砲の左砲が応射の火焔を砲口から放つ。

 射撃の時だけジグザグ運動を止めて直進していたワシントンは左砲の発砲を終えるや即座に舵を切って回避運動を行う。左右に傾斜する艤装内で装備妖精が砲身内へ演習弾を再装填する作業にかかる。

 腕時計を見て着弾までのカウントダウンをしている彼女の耳に急速に迫る砲弾の飛翔音が急激に大きくなる。

「All hands Brace for shock!(総員衝撃に備え!)」

 本能的に叫んだ時、ワシントンの艤装上に着弾の閃光と衝撃が走った。

 直撃したのは実弾ではない演習弾、運動エネルギーや貫通力は大幅に実弾のそれより劣るが、それでもワシントン自身の主砲と同口径かつ長砲身の主砲から撃ち出された高初速弾の直撃の衝撃は並のものではない。

「ダメコン指揮所、ダメージリポート!」

 じんと痺れる身体とくらくらしそうな頭を振りながら被害報告を求めるワシントンに、ダメコン指揮所からやや遅れて被害報告が上がる。

 

「直撃判定、第一主砲搭、第一甲板高角砲群。本艦は中破判定を受けています!」

「第一主砲、直撃により主砲搭全壊と判定。艤装セーフティロック作動、第一主砲使用不能です!」

 

 ダメコン指揮所からの報告と同じくして、無線から演習を監視していた鹿島からワシントンのヘッドセットに≪赤艦隊戦艦ワシントンさん被弾、判定中破≫の評価が入る。

 火力を一基減らされる損害を受け、ワシントンが悔しさから大き目な舌打ちをした時、対抗艦隊である青艦隊の長門と陸奥の艤装上にサウスダコタとマサチューセッツの砲撃が直撃するのが見えた。

≪第一戦隊、長門及び陸奥被弾。損害判定小破≫

 直撃を受けた長門と陸奥のマストに黄色い旗が旗りゅう(きりゅう)される。ワシントンのマストには中破を示すオレンジの旗が旗りゅうされていた。

青艦隊は被弾二隻、判定は小破。一方赤艦隊の被弾はワシントンのみ、ただし判定は中破。彼我の被害の度合いではワシントンの方が大きい。

 それでもまだ稼働する第二主砲とまだ使用していない第三主砲の射界を確保したワシントンはタナガーへの応射を継続する。

 対するタナガーもワシントンが依然健在なのを認めるや、砲撃を継続する。直撃弾を二発得た事でタナガーのワシントンに対する砲撃は斉射に移行していた。

 拙い、とワシントンは焦りを覚えた。斉射に移行したと言う事は投射される砲弾の数も増大する。ただ斉射すると言う事は再装填の間が全砲門に及ぶから砲撃が飛来する回数は交互撃ち方よりも減少する。

 早めにこちらも有効弾を、とまだ稼働判定を受けている第二主砲と第三主砲の右砲から演習弾を放つワシントンにタナガーの斉射が降り注いだ。

 機関部は損傷判定を受けていない分、全力発揮が可能だし、舵も同様だからワシントンは可能な限り自身の砲撃の射撃諸元が狂わないレベルでの回避を行うが、タナガーの砲撃は容赦なくワシントンを捉えていく。

 彼女を振り回すような被弾の衝撃が身体を打ち据え、艤装に衝撃音を走らせる。

「シャレにならないわね……」

 警報音が鳴り響く艤装に目を向けると、複数の演習弾が直撃して真っ赤に染まっている艤装がワシントンの目に入る。

 ダメコン指揮所から被弾箇所の損害判定が上げられると、ワシントンは眩暈染みたものを覚えた。

 

「青艦隊タナガーの砲弾、第一甲板を貫通し、機関部にて爆発判定」

「舵故障判定が出ました」

「左舷高角砲群全滅。負傷者判定を受けた装備妖精は速やかに救護員の手当てを……」

 損害報告が次々に上がってくる中、ワシントンのヘッドセットに鹿島から無情なる通告が入る。

≪赤艦隊戦艦ワシントンさん、撃破、航行不能判定。轟沈と認めます≫

 

 悔しさがこみ上げて来る彼女の背後でマストに青旗が旗りゅうされる。撃破轟沈判定だ。ワシントンの機関部には完全破壊されたと言うシミュレーション信号が送られ、強制停止が入る。

 ぐっと拳を握りしめて敗北の味を噛み締めながらもワシントンは判定に異議を唱える事は無く、無言で沈没した判定を受けた自身を受け入れた。

 同格の主砲を持つタナガー相手にあっという間に撃ち負けたワシントンが轟沈判定に大人しく従ってその場に座り込む中、大和、武蔵、長門、陸奥の四人はアイオワ、ニュージャージー、サウスダコタ、マサチューセッツと砲戦を継続する。

 長門と陸奥の二人が被弾判定を受けたものの、大和と武蔵は依然健在だ。最も二人の砲撃はアイオワとニュージャージーに直撃していないのでイーブンである。

 

「てぇーッ!」

 

 砲撃号令を下す大和が伸ばした左手に応じる様に五一センチ三連装主砲が火を噴く。五一センチ演習弾がアイオワ目掛けて空中を飛翔して行く中、アイオワからも一六インチ三連装主砲Mk.7が発砲炎を瞬かせ、大和へ応射の砲弾を撃ち放つ。

 アイオワとの演習はこれが初めてではない。これまで何度も対抗演習は行って来た。大和とアイオワの戦績は今のところは五分五分だ。この演習で勝てば六対四、負ければ四対六の勝率に代わる。

 自身の五一センチ三連装主砲は一発当たりの威力に優れる一方、命中精度に関してはアメリカ戦艦艦娘程の高性能な水上電探を備えていない分劣る。射程と威力では優位だが、命中精度と速射性ではアイオワに負けているのが大和型だ。

 これまでの演習でアイオワに負けたとされるの要因の全ては、ボクシングのジャブの連打の如く撃ち込まれた正確な砲撃による被弾ダメージが嵩んだ結果による判定負けだ。

 一方大和の判定勝ちは文字通り力業押し勝ちである。アイオワに与えた直撃ダメージの判定は大和型改二の主砲の徹甲弾のそれなだけにはるかに大きい。直撃弾一発だけでアイオワの艤装の機能をダース単位で奪って行動不能判定へと追い込んでいった。

 命中弾さえ得られれば、機能停止判定を多数得る事が出来、それでアイオワの行動力を限定して更に追い込めるのだが、アイオワとて馬鹿ではない。いや寧ろアイオワは頭が良い。次女ニュージャージーの知的さに隠れがちではあるがアイオワも相応の判断力と状況推理力を持ち合わせた優秀な艦娘だ。現に彼女のその肩に付けられた大佐の肩章がアイオワの積み重ねたキャリアが伊達では無い事を示している。

 同じ大佐の階級章を襟と肩に付けている大和としても、アメリカが誇る大艦巨砲主義の申し子アイオワと対を成す日本の大艦巨砲主義の申し子と言う立場としてもたかが演習とは言っても負ける気は起きない。同格の戦艦艦娘相手に負けていてはもっと容赦のない深海棲艦の脅威を前に生き残れないのだ。

 自身の周囲に着弾するアイオワの砲弾を横目に、大和の砲撃も着弾する。アイオワの左舷側の至近距離に着弾しているが直撃弾は無い。さっきから同じだ。至近弾は得る事が出来ても、それ以上の効果は得られない。

 

「長期戦になりそうね」

 そう大和が呟いた時、直撃の金属音が後続の武蔵から響き渡る。

 被弾に驚く武蔵の呻く様な、驚く様な短い声が上がり、少し遅れてヘッドセットから鹿島の判定が入って来る。

≪青艦隊戦艦武蔵さん被弾、判定小破≫

「……ッ、宜しい、もっと撃って来い、私はまだ二本足で立っているぞ」

≪Okay Finishing this fight(良いわ、ケリをつけてやるわ)≫

 ニュージャージーに挑発的な台詞、悪く言えば喧嘩を吹っ掛ける武蔵に、ニュージャージー自身も吹っ掛けられた喧嘩を上等だと買う。

 普段からの眠たげな眼つきから、本気でやりにいくハンターの目に変えたニュージャージーから武蔵に更なる砲撃を浴びせる。有効弾を得ただけにニュージャージーの放つ砲撃は斉射だ。

 彼女からの砲撃に武蔵はバイタルパートを差し出して全て受け止めると、ニュージャージーに五一センチ連装主砲の砲口を向けて反撃の砲撃を放つ。

 五一センチ連装主砲から演習弾を放つ武蔵の砲撃に、ニュージャージーは昂ぶっている戦意とは裏腹にひんやりと冷えている頭が冷静に回避運動を指示する。

 武蔵の放った演習弾をギリギリの距離で躱し、主砲の再装填を待つニュージャージーの後方で長門と陸奥の二人が命中判定を出して来たサウスダコタ、マサチューセッツの両名にカウンターパンチとなる命中弾を与えていた。

≪赤艦隊戦艦サウスダコタさん及びマサチューセッツさん被弾、判定小破≫

「当てて来たか……」

 自身に命中弾判定を出した陸奥を見据えながらマサチューセッツが呟く。

「こっちの装甲は伊達ではない、Fire!」

 被弾して黄色い旗がマストに上がるのをちらりと見やったサウスダコタが主砲を長門に向け、演習弾を込めた主砲を放つ。

 いよいよノーガードの殴り合いになりつつある演習で未だに被弾無しなのは大和とアイオワだけだ。二人の砲撃は互いに至近距離に砲弾を送り込みつつも僅差で躱し続けている。

 そろそろ挟叉か命中弾の一発でも、とアイオワの姿を見据える大和だったが、脅威はアイオワだけでは無かった。

 緊急通報の無線着信音が鳴り響くや、脅威を検知した赤城から第一戦隊の四人とタナガーに向けて警報が飛んだ。

「対空警戒赤! 攻撃機複数の接近を検知!」

「しまった! 加賀さんね!」

 砲撃戦に夢中になり過ぎた結果、赤艦隊に随行していた加賀の存在をすっかり忘れていた。

 直ちに大和、武蔵、長門、陸奥、タナガーに「対空戦闘用意!」の戦闘号令が下る一方、上空直掩機を上げていた赤城は戦闘機隊を加賀から発艦した攻撃機隊に差し向けた。

 

 超低空を一糸乱れぬ編隊を組んで飛行する流星改の機影を確認したと烈風一一型の航空妖精から赤城へ報告が入る。

「気を付けて、加賀さんの戦闘機隊は太陽を背に襲って来ます」

≪何故分かるんです?≫

「私ならそうします」

 戦闘機隊に流星改の護衛についている加賀の戦闘機隊の奇襲迎撃に警戒する様に赤城が忠告した時、無線から別の航空妖精が≪タリー、ツー・オクロック・ハイ!≫と叫ぶ。

 警報を受けた航空妖精がサッと二時上方に目を向けると、逆落としの要領で加賀の紫電改四が襲い掛かって来るのが見えた。

≪レッド1からゴールド1、対抗編隊を迎撃する。ゴールド中隊はアタッカーを攻撃してくれ!≫

≪了解だ!≫

 急降下して烈風一一型に襲い掛かる紫電改四に赤城の戦闘機隊の一つレッド中隊の八機が迎撃に向かう。ゴールド中隊の八機の烈風一一型は流星改の編隊を目指した。

 紫電改四と烈風一一型のドッグファイトが始まる中、流星改の編隊に取りついたゴールド中隊の八機は一機、また一機と流星改に撃墜判定を与えて行くが、別高度、別方位から青艦隊の五人の戦艦艦娘に近づく機影があった。

 

「敵機九時方向上方より急速接近! 加賀の彗星一二型甲です」

 CIC妖精がレーダーで探知した加賀の艦爆隊の接近をタナガーに報告する。

「艦攻隊と艦爆隊を別々にして戦闘機隊の注意を分散させたのね。ミッドウェー海戦で図らずしも米軍が成功する形になったシチュエーションを意図的に作り出したか」

 図書室で戦史本を読んで知った「この世界」における過去の戦いであった偶発的戦術に例えながらタナガーはCIWSをスタンバらせる。

 

 

≪青艦隊戦闘機隊の機影無し。上空クリア≫

「攻撃開始。手加減しては駄目よ」

 演習だからと言って、同じ日本艦隊の艦娘だからと言って加賀が対抗艦隊の艦娘相手に演習攻撃の手を緩めた事は一切ない。

 自らを厳しく律すると同時に他人にも軍人として厳しく律する時は律するのが加賀のやり方だ。それは艦娘相手に限らず、自身の艦載機の航空妖精に対しても同じである。

 手加減無し、と告げる加賀に彗星を駆る航空妖精から「了解!」と唱和した返事が返される。

≪ブルー・リーダーよりブルー中隊各機、全機突入!≫

≪了解ブルー・リーダー≫

≪了解ブルー・リーダー≫

≪急ぎましょう≫

 青艦隊の戦艦五人からの急報を赤城の戦闘機隊が聞きつけて駆け付けるまでそう時間はかからないだろう。いくらかは紫電改四が稼いでくれるかも知れないが、青艦隊の戦艦艦娘五人が水上戦闘をいったん中止して対空迎撃態勢を整えてしまったら命中弾を得る前に対空弾幕で被撃墜判定を受けかねない。

 ダイブブレーキを展張した彗星二四機が一斉に眼下の青艦隊の戦艦艦娘へ急降下爆撃を開始する。

 照準悍に各々の目標を収めた彗星の航空妖精達だったが、突如眼下から撃ち上げられてきた無数の曳光弾が彗星二四機を包み込んだ。

≪ブルー4、6、7……いや中隊の三分の二が撃墜判定です!≫

≪グレイ1からブルー・リーダー、我被弾、撃墜判定により戦域を離脱する≫

 溶ける様に急降下爆撃突入を開始したばかりの彗星が被弾撃墜判定で投弾前に翼を次々に翻して離脱していく。

 尋常ではない事態にブルー中隊、グレイ中隊の残りの航空妖精と母艦艦娘である加賀は目を剥いた。

「何事……」

 唖然とした様に呟く加賀に離脱したブルー中隊機から犯人の名前が明かされた。

≪タナガーです! タナガーの近接防空砲の弾幕で編隊の八割が撃墜判定を受けました!≫

「タナガー……そうかCIWSね」

 既存の防空艦娘を遥かに凌ぐ対空戦闘能力を有したCIWSを備えているタナガーの対空射撃で、加賀の攻撃隊は一瞬で無力化されたのだ。

 タナガーがいる以上は、青艦隊の戦艦艦娘への爆撃は出来そうにない。数で押せば弾切れで押し切れるかも知れないが、加賀の航空戦力しか今は無い。

 艦攻隊は赤城の烈風に食われてしまい、九割が既に撃墜判定で離脱している。全滅は時間の問題だろう。艦爆隊も同様だ。

「やってくれるわね、タナガー」

 圧倒的防空戦闘能力を持つタナガーに加賀は悔しさを口元に浮かべるが、どうする事も出来ない。

 残存する彗星が何とか爆弾を投下を目指すが、その残存する僅かな彗星もタナガーのCIWSは見逃さなかった。撃ち上げられる演習弾の猛烈で濃密な弾幕が数えるほどの機数に減った彗星を呑み下し、撃墜判定を与えて離脱に追い込んでいく。

 加賀の彗星全機が撃墜判定を受け、離脱する羽目になるまでに要した時間は一分とかからなかった。

 航空攻撃は完全に無力化された事を受け、青艦隊と赤艦隊の戦艦艦娘達は航空機の邪魔が無くなった演習海域で殴り合いを続けた。

未だに対抗目標であるアイオワへ有効弾を得られていない大和にタナガーが援護に入り、アイオワと二対一の戦力比を作り出す。

 あくまでもアイオワを仕留めるのは大和の役目と心得ているタナガーはアイオワにプレッシャーをかける目的の砲撃を仕掛けるにとどめた。他人の手柄を奪う程自分は戦果と言うモノに貪欲でもない。

 アイオワの進路上を塞ぐように放たれ、着弾するタナガーの砲撃でアイオワの行動にプレッシャーをかける。意図的に精度を落とした砲撃ではあったが、大和との対戦にかかりきりだったアイオワの集中力に僅かながら影響を及ぼすには充分だった。

 そしてそのタナガーからの援護射撃もあって大和は二〇射目でようやくアイオワに挟叉弾を得る事が出来た。挟叉ならもう射撃諸元はそのままで問題はない。

「タナガーさん、ありがとう、行けます!」

「No Sweat(お安い御用です)」

 大和からの謝意ににこりと笑ってタナガーが応えた時、大和の艤装上に着弾の閃光が走った。

≪挟叉を得たからと言って、Game setになった訳じゃ無いわよヤマト?≫

 一対一の関係を崩された事にほんの少しばかり苛立ちを含ませた様な口調でアイオワが大和に呼びかけて来る。挟叉弾を得た大和に対してアイオワは一発演習弾の命中弾を得ていた。

≪青艦隊大和さん被弾、判定小破≫

 演習をオペレートしている鹿島が事務的な口調で大和に損害判定を報告する。

「ここからが面白くなってきたところね」

 にやりと不敵な笑みを口元に浮かべた大和は主砲の仰角、射角を調整し、アイオワへ照準を合わせた。アイオワも同様に全砲門の照準を調整し、精確な射撃諸元を一六インチ三連装主砲Mk.7に入力していく。

 砲撃準備が完了した大和とアイオワが主砲を放ったのは同時だった。鏡合わせの様に二人の主砲が同時に演習弾をその巨大な砲口から殷々とした轟音と発砲炎と共に叩き出す。

「てぇーッ!」

「Fire!」

 二人の号令が同時に下った直後、二種類の砲声が鳴り響き、撃ち出された演習弾が空中を飛翔して交差する。

 互いの目を見つめ合う様に凝視する大和とアイオワの艤装上で、演習弾が着弾する爆破閃光が走った。同時に撃っただけあってか着弾も同時だった。

 被弾の衝撃で二人とも姿勢を崩す中、演習弾の着弾で赤く塗りつぶされたアイオワのマストにオレンジの旗が掲げられる。同様に被弾した大和のマストには小破判定の黄色い旗が掲げられたまま変わらない。

≪赤艦隊戦艦アイオワさん被弾、判定中破。青艦隊戦艦大和さん同じく被弾、判定はまま≫

 二人の損害判定を報じる鹿島の言葉に大和は行けると踏んで、主砲の再装填を急いだ。アイオワは中破判定こそ受けたが主砲搭は依然健在判定だ。だが損害判定から言ってもう一撃を打ち込めばアイオワは次で撃破ないし大破判定へ持ち込めるはずだ。

 続航する武蔵は依然ニュージャージーとの砲戦を継続している。長門と陸奥の二人もサウスダコタ、マサチューセッツとの砲戦を継続中だ。

 だが、どちらもそう長くは続かないだろう。いずれ決着がつく。

 最初にその決着をつけるのは私だ、と大和は再装填を終えた主砲をアイオワに向けて照準を合わせた。先に再装填が終わったアイオワから砲撃が飛来するが、飛来した九発の演習弾の内五発は外れ、四発が命中したに留まった。判定で高角砲群が壊滅したが、主砲搭、機関部、射撃指揮所共に健在だ。

「てぇーッ!」

 砲撃の号令と共に大和の主砲が発砲し、演習弾が撃ち出された。既に複数被弾判定を受けていたアイオワは大和の発砲を見て何かを悟ったような顔になった。

 数十秒後、アイオワの艤装上に大和から放たれた演習弾が着弾すると、アイオワのダメージ判定装置がそのマストに撃破轟沈判定を示す青旗を旗りゅうした。

≪赤艦隊一番艦戦艦アイオワさん、撃破、轟沈判定。機関停止≫

≪Game set、ね大和。Youの勝ちよ≫

 判定を聞き、敗北を受け入れたアイオワが無線で大和の勝利を認めると鹿島からの判定通り機関停止した。

 先に撃破判定を受けて脱落したワシントンに加えてアイオワが脱落した事で青艦隊と赤艦隊の戦力差は五対三の状況になったが、残るニュージャージー、サウスダコタ、マサチューセッツがこれでギブアップする事は無かった。

 

「ここからがMeの本気の見せ所よ!」

 鮮やかなバラ色の髪に手を通しながらニュージャージーが自身に砲口を向けて来る大和と武蔵の二人に、普段と違う目つきで見据えた。




(Twitterフォロワーさんからお借りしているニュージャージーがちょっとキャラずれした気もしなくはない……)

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