雨粒と爆発と千切れた鎖
薄暗い曇り空から、ぽつりぽつりと小さな雨粒が溢れ出す。まばらな雨粒は次第に勢いを増していき、直ぐに土を抉るような大きな粒がザアザアと音を立てて宙を埋めつくす。
まばらに街を歩いていた人々はみな一様に頭を庇いながら、急いで屋内へと駆け込んでいく。土のむき出した街道はあっという間にぬかるんで、あちこちに水溜まりができていた。歩けばぐちゃりと泥が跳ねる。往来を歩いていた人々は、運が悪いと眉をひそめ、仕方が無いと肩を落とす。大粒の雨空の下ではしゃいで喜んでいるのは、小さな子どもくらいなものである。
そんな泥まみれの街道を、一人の少女が歩いていた。フラフラとおぼつかない足取りで、何かで雨を防ぐこともせず、ずるずると足を引きずるようにして歩いていた。
じゃらりじゃらりと、少女の歩調に合わせて金属の擦れる音が鳴る。ボロ切れのような服を着た少女の両手両足には、細身の身体にまるで似合わない無骨な手枷と足枷が嵌められていた。左右の枷を繋いでいたと思われる鎖は途中で無理やり壊されたかのようにちぎれていたが、足を地面に擦るようにして歩いている様子を見る限り、引きちぎられた鎖に意味があるようには思えなかった。
少女は顔を曇天へと仰ぎ、整った相貌を雨に打たれるままに笑っていた。甲高い声で、哄笑のように。慟哭のように。
突如、少女の後方、街道の奥に建つ巨大な商館が炎上し、爆発する。雨粒が煽られ弾け、爆風が街道を吹き抜け、道行く人々が悲鳴を上げる。
ガラガラと豪快な音を立てて崩れ落ちる商館は、この街1番の商業施設であった。食料品、日用品、雑貨、嗜好品、貴重品、ペット、人間。およそ売れるものならなんでも売っている。街の住人からすれば、生活に欠かせない唯一無二の建物だ。そんな、街の住人ならば誰もが知る建造物がいきなり爆音を立てて焔と共に崩壊したというのだから、住人達のショックは計り知れない。
建物の窓から顔を出す者、逃げる者、呆然と立ちつくす者、近くに寄って何が起きたのか確かめようとする者。街の人間が各人各様の反応を示す中、少女だけは後方の火事など一切気にとめず、ただひたすらに笑い続けた。
少女の甲高い声は、雨と爆煙、人々の喧騒に掻き消され誰の耳に届くことも無い。叫び声を上げながら慌ただしく駆け回る群衆の中を、少女はただ足を引き摺り前へと進む。
やがて少女は、強まる雨の中、蛇のように蛇行した足跡をぬかるんだ土に残し、どこへともなく消えていった。残った足跡も、商館へと駆け寄る群衆に踏み荒らされて直ぐに消えた。
その後の少女の行方を知るものは、誰もいない。