風になりたい逃亡者と走ったら死ぬ風神 作:Hetzer愛好家
フウ君から「死んでも走りたい」と告げられたあの日は、これと言った答えを出せなかった。
また後日、私の考えを告げると言う事にしたのだが……。
「どうしよう……」
何も思い付かないのである。1日、2日と悩みに悩んでも、これと言った考えが出て来ない。
普通にフウ君の考えを否定するだけではダメだ。彼が意思を固めたら、誰であっても動かす事は不可能になる。
しかし、賛成をする訳にもいかない。彼には死んで欲しくないし、何よりもっとフウ君が走っている姿を見たいのだ。
また走る姿を見たい。しかし、確実に起爆して死ぬ爆弾を抱えて走っては欲しくない。このジレンマが、私を大いに苦しめた。
フウ君は死なず、かつまた走れる方法を探さなければならない。
仮に私がフウ君の意見を尊重し、賛成の意を表したとしよう。そうすれば、彼は怪我を治してから喜々として走るに違いない。強い決意によって、彼は風にもなれるだろう。しかし、その代償は命。間違いなくフウ君は死ぬ。
だが、頭ごなしに反対をしたとしよう。当然、すぐにフウ君が死ぬ事はなくなる。しかし、それはあくまでも“すぐに死ぬ“に限るのだ。時が経てば分からない。自殺をする可能性も大いにある。
肯定も否定もしない、第3の提案が必要と言う訳だ。
と、ここまで考えていた私であるが、とある事に気が付いた。
フウ君がしてくれたように、彼のために己の命すらも差し出すような選択肢は考えていなかった、と。
「私だって。私だって、フウ君のためなら……!」
思い立ったら即行動。私は深く考えはせず、思い付いた事をトレーナーさんに告げに行った。
「何だって!? そ、そんな事をしたら、君はただじゃ済まないぞ!?」
案の定、トレーナーさんは私の思い付きに仰天していた。それもそうだろう。前例が間違いなく存在していないのだから。
危険だってあるだろう。共倒れになる可能性だってゼロではない。だけど、それでも私は実行に移したかった。
彼が私の事を、命を懸けて救ってくれたように。私もフウ君を、この身を削ってでも助けたい。
「お願いします。彼を。フウ君を、どうしても助けたいんです!」
「しかしスズカ。もしもの事を考えてくれ。失敗したら、君も彼も死んでしまうんだぞ? 僕は反対だ。そんな危険な目に遭わせるなんて判断をするのは……」
「それでもです! トレーナーさんがどうしても反対するなら、私は貴方を殺してでも……!」
ちょっと言い過ぎたが、それくらいに決意を固めているのだと言う意思表明である。
体感にして10数分。実際時間は10秒。深く考え込んでいたトレーナーさんは、やがて重い口を開き、そして……。
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「へ? 肺移植の手術をするんですか?」
「そうだ。実は、君に肺をどうしても移植して欲しいと頼む人が現れてね。相当に難しい手術にはなるけどね。でも成功すれば、君はまた自由に走れるようになれるぞ!」
怪我をしてから数ヶ月。骨折はある程度癒えたのだが、スズカちゃんが全く顔を見せなくなったので、寂しい思いをしながらも退屈な入院生活をしていた僕に、唐突にそんな知らせが舞い込んだ。
そもそもの前提として、僕の右肺の機能と釣り合う肺と言う物が見つからず、やむを得ずに片肺となったと言う事情がある。僕の肺は一般的な物よりも遥かに高い機能を持っている。それとある程度互角の能力を持つ肺でないと、移植してもあまり意味が無いのだ。
で、そんな僕の肺と釣り合う奴が唐突に現れたと。流石にビックリする。
「あの、僕に肺を移植しても良いと言ったのは誰ですか? 手術が終わったらお礼したいんですけど」
「ごめん、今は名前を出さないでくれって頼まれてるんだ。手術が成功して、君が陸上競技に復帰してから教えろってね」
「は、はぁ。そうですか」
提供者は僕が陸上競技をやっていた事を知ってるのか。だとしたら、自分の身の回りに提供者が居るのかもしれない。
名前をすぐに知れないのはモヤモヤするが、またリスクなく走れるようになると言う事に心が踊る。
スズカちゃんには「死んでも良いから」と言ってしまったが、これで死ぬ必要もなくなる。彼女にも「吉報だよ!」と言いたい。
両親には既に了承を得ていたらしく、僕が手術を受けたいという旨を伝えると、2日後には手術を行う事が決定した。
スピード決定にほんの少し訝しがりはしたが、まあ良いかと思ってその時は深く考えもしなかった。
手術自体は成功し、予後経過も順調。移植した肺が異常レベルで適応したため、退院までの時間が非常に短くなった。本来なら入院数ヶ月延長のところを、一気に2週間程度にまで短縮が出来たのだから驚きだ。
その後何かがある訳でもなく、僕は無事に退院をした。
退院の際には高校の友人や部活の同僚が迎えに来てくれた。世界大会にも同行してくれた後輩ちゃんなんかは泣きながら抱き付いてきた。柔らかい何かが当たっていたのだが、他人の目もあるので無反応を貫く。役得だとは正直思ったけど……。
だが、僕が退院する日になっても、スズカちゃんは全く姿を見せなかった。帰宅後に両親に聞いてみたが、ここ数ヶ月はサッパリ連絡が取れていないと言う。トレセン学園にも電話したり、直接出向いたりしたらしいのだが、彼女には会えなかったと伝えられた。
最後に会った日。僕はスズカちゃんに割とエグい事を言った自覚はある。その事について「もう心配要らないよ」と。そして「ごめんなさい」と一言伝えたかったのだが……。
結局、僕が陸上競技に復帰しても。度々大会に出場するようになっても。顔を真っ赤にした後輩ちゃんに告白をされ、雰囲気に流されて危うく恋人関係になってしまいそうになった時も。スズカちゃんとは話すどころか、会う事すらも叶わなかった。
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『さあ、間もなく1500m走の決勝がスタートします! 解説の◯◯さん。今回のオリンピック陸上は、多くの選手が注目をされているとか?』
『はい、そうですね。かつて1回だけ世界大会に出場して、現在まで一切破られていない記録を樹立した“風神”が再起不能と言われる怪我から復帰。遂にこの舞台にまで帰ってきたんですからね。注目しない訳がないでしょう』
『“風神”とは嵐山選手の事ですね。それにしても◯◯さん。嵐山選手ってあんな髪色をしていましたか? 私も彼の走る様子は何回か見た事があるのですけどね。あんな明るい茶髪ではなかったような気がしますが……』
『染めたんでしょうかね? 黒髪を靡かせて駆け抜ける姿も中々に格好良かったんですけどねぇ』
『あの髪色だと、どうしてもウマ娘の“サイレンススズカ”さんを思い出してしまいますね。そう言えば、彼女も嵐山選手と似た走りをしますね』
『“大逃げ”ですか? 私も彼女の走りを見るのは好きでしたので良く覚えてますし、彼の走る姿が彼女と重なる事もあります。もしかしたら、あの髪色はサイレンススズカさんを意識してるのではないでしょうか』
ガチャリ
「お、もう始まるのか?」
「ええ。もう数分もしたらスタートですよ」
“寝た切りの私”でも負担なく見られる位置にあるテレビを眺めていると、トレーナーさんが部屋に入って来た。
「そうか。何か感慨深いな。あれからもう3年だろ?」
「そうですね。もう3年です」
「……彼の親御さんな。ここに来るってさ。息子の晴れ舞台を見終わったら、大急ぎで来るみたいだぞ」
フウ君の親御さん。私はかれこれ5年以上会ってないけど、今もお変わりなく元気に過ごしているのだろうか。
と、今はそんな事に気を遣るのは辞めよう。今は、フウ君の勇姿をジックリと堪能する時だ。
「フウ君の髪色。私と似ましたね」
「臓器を移植すると、移植元の人物の特徴を引き継ぐ事があるらしい。黒人の臓器を移植したら、肌の色が真っ黒になった人も居るそうだ」
「なら、しっかりと彼の身体に入っているんですね。私の肺が」
「ああ。お前の決断の御蔭で、彼はまたあの舞台に立てた。本当に凄い奴だよ、お前は」
……いけない。今泣いてしまったら、フウ君の勇姿が見れなくなってしまう。
あの日。私はこれからの人生を大きく変える決断をした。
「私の肺をフウ君に移植して欲しい」
トレーナーさんには勿論だが、執刀を担当する事になったお医者様にも猛反対をされた。
それもそうだ。前例が無いのだから。ウマ娘の臓器を人間に移植するなんて、前代未聞以外の何物でもない。
片肺になれば、フウ君よりも必要な酸素の量が多い私は寝た切りになるし、それだけの代償を払っても、仮に手術が失敗したらフウ君は死んでしまう可能性が大いにある。
ハッキリ言って博打でしかない。超ハイリスクハイリターンである。
だが、フウ君が再びリスク無しに走れるようにするにはこれしか無かった。だから私は、何度も何度も頭を下げて頼み込み、無茶苦茶な要求を引き受けて貰ったのだ。
結果として手術は成功。フウ君はまた走れるようになった。しかも以前よりもずっとずっと速く。その証拠として、彼はオリンピックに出場しており、優勝の最有力候補とまで言われている。
私は当初の予定通り寝た切り状態となった。昔からの夢を捨てるのは悲しいし、何よりもう走れないのがとても悔しかったけど、それ以上にフウ君を助けたいと言う思いが強かった。
私の夢は、間接的にフウ君に託した。この決断に未練も後悔も無い。
「お、もう始まるな」
トレーナーさんがテレビに指を指すと、そこにはスタートラインに足を掛けて準備をするフウ君の姿が。
『On your marks』
これから彼の走りを見た人は、以前の世界大会以上の衝撃を味わうだろう。
人間としては常識外れなフウ君の肺と、ウマ娘が持つ発達した肺。それ等を併せ持った彼の走りは、もう別次元のレベルになっているはずだ。
バァン!
ピストルの発砲音。それと共に、フウ君は前へと飛び出した。
スタートダッシュから圧倒的。そう気が付いた時には、彼は既に数メートルは先に走っている。
数年来に見たフウ君の走りは、かつての世界大会の時以上に凄まじい。最初から影すら踏ませる気のない、全てを振り切る“大逃げ”。その完成度を更に上げ、もう誰であっても彼の次元に立つのは不可能なレベルにまで仕上げている。
この時点で私はフウ君の勝ちを確信した。あとはどれだけのタイムが出るか。
『速い、速いぞ嵐山! ◯◯さん、これはもしや!?』
『“大逃げ”ですね。嵐山選手が1番得意とする走法ですが、まさかこの舞台でもやってくれるとは……』
『さあどんどん加速していくぞ! 嵐山選手の真骨頂は加速が乗った後半戦ですが、御覧くださいこのスピード! 加速無しでも恐ろしい速度で走っています!』
フウ君が立っている舞台はオリンピック。後ろを走る選手たちも、本来なら「とんでもないスピードでトラックを駆け抜けている!」と騒がれたのだろう。だが、今回ばかりは相手が悪過ぎた。
フウ君が400mを経過した時点で、2位とは既に半周近くの差が付いている。ラップタイムは脅威の40秒台。このタイムは400m走の世界記録を難なく超えてしまっている。とんでもないスピードだ。
これでもまだ加速し切っていない。むしろ、ここから更に速度が上がっていく。彼の能力は底が知れない。
『こ、これは凄まじいですよ。本職の400m走者よりもタイムが上です。スタート方法が短距離に向いていないスタンディングなのに、これは恐ろしい。しかも嵐山選手の顔を見てください。まるで何事もないかのように涼しい表情です。ひょっとしたら、私たちは世紀の瞬間を目の当たりにするかのしれませんよ!』
『おっと、ここで遂に周回遅れが発生したぞ! 10000mならまだ分かりますが、1500mと言う比較的短い距離で周回遅れを作る嵐山選手の凄まじさに会場がどよめいている!』
彼の走っている姿を見ていると、残された私の肺がドンッドンッと反応し始めた。遥か遠くで走っているフウ君の肺と共鳴しているのだろうか。それとも、ただの気のせいか。
真相は分からない。だが、決して悪い物ではない。
走っているフウ君の隣に誰かが走っている。彼と同じ髪色をした、1人のウマ娘が。
『1000m経過だ! そしてこの瞬間に、後続の選手を全員周回遅れにしたぞ嵐山選手! もう何者も彼の影を捉える事は叶わない! 圧倒的独走だぁぁあ!』
『紛う事なき“風神”ですね! ここまで来たら、人間の限界を軽く超えてしまった欲しい所です!』
身体は別々だけど、確かに一緒に走っている。私たちは一心同体で走っている。彼が感じている風も、音も、何もかもを。私も感じ取っている。
風に。一筋の、何者よりも疾い風に。
もっと速く。もっと速く。もっと。もっと……!
「フウ君っ!」
果てしなく上がるスピード。上体を限界まで倒し、ドリフトするようにして最後の曲線を抜けたフウ君は、最後のダメ押しと言わんばかりに足の回転数を更に上げた。
最早“風その物”とも言える状態のまま、フウ君は一切スピードを落とす事なくゴールラインに突っ込んだ。最後は実況も解説も黙りこくり、とても静かにゴールラインを跨ぐフウ君の姿が放送されたので思わず苦笑いをする。
速報タイムは2分27秒36。当然ながら世界新記録だ。かつてフウ君が叩き出した記録よりも遥かに速い。
当の本人は走り終わっても息を殆ど乱していない。何事もないかのように佇んでいる。
バケモノだ。彼はバケモノである。
走るために生まれたと言っても全く誇張表現ではないだろう。そのくらいに圧倒的だ。
風となったフウ君の横顔を眺めていると、不意にコンコンと病室の戸がノックされる音がした。
動けない私の代わりにトレーナーさんが立ち、戸の外へ出て対応する。
「ええ、はい。貴方たちですか。はい、はい。起きてますので、どうぞ入ってください」
中に人が複数人入って来た。私はテレビから顔を背けて戸の方を見やる。
「あ……フウ君のお父さんとお母さんですか?」
入って来たのはフウ君の御両親だった。数年振りに顔を見たが、ほんの少し老けたように感じる。
「やあ。久しぶりだねスズカちゃん」
「こんなに痩せちゃって。家の息子が迷惑をかけてごめんなさい。それと、フウのために色々としてくれて本当にありがとうね」
「医療費もバカにはならないだろう。微力ながら私たちにも支援させてくれ」
痩せこけた私の頬を撫でながら涙を流すフウ君のお母さん。人肌に触れるのは久しいからなのか、無性に泣きたくなってしまう。
でも、泣く前にこれだけは言っておかなければなるまい。
「フウ君が肺を失う直接的な原因になったのは私です。フウ君を傷付けた罪滅ぼしと、彼がまた全力で走るのを見たくて決心したまでですから」
フウ君のお母さんが謝罪を述べる必要も、お父さんが資金援助を持ち出す必要もない。私が勝手に取った行動だし、こうなったのは自業自得であるのだから。御両親が責任を感じる必要はないのだ。
ただ、何か与えてくれるのだとしたら。私は……。
「少しで良いから、フウ君とお話し出来たら私は満足です。謝罪の言葉や資金援助よりも、私はフウ君との時間が欲しいな、なんてね……」
「ああ、それならすぐに叶えられるよ。フウはここに向かってるからね」
「えっ」
想定外。え、嘘でしょ? 向かっているのか。ここに。フウ君が。
この数年、彼らの前から姿を消したのは、変にフウ君が責任感を負わないようにするためだ。会いたいとは何度も思ったが、その気持ちを口に出さないように細心の注意を払っていた。口にした瞬間、トレーナーさんが動くのは分かっていたから。
だが、5年近くの月日が過ぎた事で、自制心と言う物が弱くなっていたらしい。そもそも彼の御両親との対談を了承した時点でチェックメイトだったようだ。
「そ、その。フウ君はどのぐらいで到着しますか?」
「試合終わったらすぐに行くって言ってたな。だからもうすぐじゃないかな?」
コンコン
「ああ、来たね。走って来たんだろう」
ガチャリ
心の準備をさせる時間は数秒もなかった。こんな細かい所まで彼は風のように動くらしい。
「ハァ、ハァ……スズカちゃん、居る?」
私と全く同じ色の髪を靡かせて。珍しく息を上げて。
私が愛した人はそこに立っていた。
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「スズカちゃん、居る?」
インタビューをすっぽかし、僕は彼女が居る場所までやって来た。今頃記者団は大騒ぎだろうが、リーダーには先に事情を説明してあるので大丈夫なはず。多分、きっと。
「フウ君……」
久しぶりに彼女の顔を直接見た。随分と痩せてしまったけど、相変わらず綺麗な姿形をしている。
先に居た父さんと母さんが彼女の側から退く。
「フウ君、ユニフォームのまま走って来たの? まだ色々やる事あったんじゃ……」
「良いんだ。僕はスズカちゃんと会いたかったんだから」
メダルを受け取ると、そのままダッシュで会場を後にして。父さんから予め伝えられていたこの場所までノンストップで全力疾走し。そして、この場にやって来たのである。スポーツ選手としては色々と終わっているが、まあそんな事はどうでも良い。彼女に会えると来たら、僕はそっちを最優先に考えるさ。
彼女の寝るベッドの横にある椅子に腰を下ろし、すっかり肉が落ちた頬をまずは撫でる。肉こそ落ちているが、肌はきめ細かい絹のようにスベスベだ。耳も優しく触ってみると、スズカちゃんはくすぐったいのか、軽くモジモジして顔を赤くしている。可愛い。
「ずっと会えなくて寂しかったんだ。これぐらいの悪戯は許してくれないかな?」
「もうっ。身体は大人になっても、心は全く変わってないじゃん」
「スズカちゃんの前だけだよ? 流石にその辺りは弁えてる。まあ、小さい頃の日々が変わらなかったら良かったとは思うけどね」
冗談めかしてそんな事を言うと、彼女の表情が不意に曇った。
「ごめんなさい。私があの日、自分勝手に行動しなかったら……」
シュンと垂れたウマ耳。ウマ娘の感情は耳と尻尾に出るらしいので、感情の機微が非常に分かりやすい。
少しでも気分が晴れるように、モフモフと耳を撫で回す。
「あれは僕の自業自得だって。むしろ僕の方こそ謝らせてくれないか? 僕があんな発言をしたばかりに君にあんな決断をさせてしまって。本当に申し訳ない」
「そんなフウ君が謝る必要はないよ。あれは私の自業自得で」
「そこまで言うなら、お互い様じゃダメかな? 僕もスズカちゃんも自業自得で辛い思いをした。これで良いじゃん」
「……そう、なのかな」
良いんだよ。その意を込め、少し強めに頭を撫でる。気持ち良さそうに目を細め、やっと険が消えたスズカちゃんを見て僕も静かに笑った。
そうだ。君はそうやって笑っていて欲しい。無邪気で綺麗な笑顔を浮かべてくれ。君に泣き顔や悩み顔は似合わない。
「確かにあの日、僕は滅茶苦茶に痛い思いをしたよ。でもさ、スズカちゃんが肺を僕に譲ってくれた御蔭でこのメダルを取れたし、あの最高の舞台で風になる事が出来たんだ」
「そっか。風になれたんだ。夢を叶えられたんだね」
「1人の力じゃない。スズカちゃんと一緒にね」
彼女が僕に肺を譲渡したと気が付いたのは髪色が変わり始めた時。スズカちゃんと全く同じ髪色になった時点で、僕は彼女が何をやったのかを察し、そして確信した。同時に、スズカちゃんは自身の夢を僕に託したのだとも。
だから、これまで血の滲む努力をして来た。僕の夢と、スズカちゃんの夢を叶えるために。
そして今日。努力の成果が出た。誰にも影すら踏ませない、僕とスズカちゃんの走りを限界まで引き出し、およそ人間には出せない速度を叩き出した。風になれた。
これで僕の夢は1つ叶った。しかし、僕が持つ夢は1個ではない。
「僕の夢は叶った。でも、もう1つ夢があるのは言ってなかったよね」
「奇遇ね。私もフウ君に言ってない夢がある」
そうか。君にももう1個夢があるのか。それも、僕と似た夢が。なら、ここで緊張をする必要はなさそうだな。
スズカちゃんの手を軽く握る。そして目を真っ直ぐ見る。透き通った翠眼を。
「僕の夢は」
「私の夢は」
「スズカちゃんと」
「フウ君と」
「「結婚したい」」
ピッタリと言葉が揃った。顔を見合わせてクスリと笑う。
親が見ていて少し恥ずかしいが、そんな事がどうでも良くなるぐらいに幸せだ。
君に1度は壊された後に救われたこの身体。これからは君だけに捧げよう。全てを君に渡そう。
陰ながら、君は僕をずっと支えてくれた。僕が走るのを。生きるのを。ずっと、ずっと。
今度は僕がスズカちゃんを支える番だ。
僕らが生きている間、君と歩む道が幸福でありますように。
スズカちゃんを抱き締めながら、僕は神に祈った。
本来ならこのルートだけ描く予定でした。
さて、ここで1つアンケートを。このルートの「その後」か、制止ルートの「フウが死ぬ前」のどっちを見たい人が多いのかアンケートを取らせてください。多い方を描きます。
また、正史についてのアンケートはそろそろ打ち切ります。回答してくださった皆様、本当にありがとうございました。
今後の投稿についてのアンケート
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譲渡ルートの「その後」が見たい
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制止ルートの「死ぬ前」が見たい