風になりたい逃亡者と走ったら死ぬ風神   作:Hetzer愛好家

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アンケートの結果が覆らなさそうなので、譲渡ルートのその後を描いて行こうと思います。


その後の物語①

「ふう。今日の買い物はこれで最後かな?」

 

 マイバックの中に入った商品を確認。うん、漏れはない。これでOKだ。当面の料理の材料も、生活用品も。全部買えている。

 

 地を照らす陽の光。透き通らんばかりの青空。そこを駆ける白い鳥たち。今日は素晴らしい天気だ。こんな日に走れたなら、絶対に気分が良いだろう。

 

 と、そんな事を以前なら考えていただろう。だが、今はもう違う。

 

 トレセン学園の近くに建てられたマンションの3階。そこの角部屋。鍵を開け、その奥へ入った。

 

「ただいまぁ」

「お帰りなさい。材料は買えた?」

「バッチリだよ。ほらっ」

 

 出迎えてくれたのはスズカちゃん。僕の嫁だ。

 

 医療の発展に加え、ウマ娘の異常な回復力により、彼女は服薬をする事で短時間なら立ったり座ったりと行動が出来る様になった。今では失った肺が再生しつつあるとか。

 

 基本的に家事は僕が受け持っているが、彼女の身体の調子次第ではお任せする事がある。本当にごく短時間しか動けないため、任せるのは専ら夜ご飯の制作だが。ちなみに正確な時間で表すと、彼女が動けるのは180分である。

 

 同棲を始めて早数年。基本は寝た切りであるスズカちゃんとの生活に慣れて来たなと思う今日この頃。幸せを毎日のように噛み締めている。

 

「それじゃあ作っちゃうね。フウ君はゆっくりしてて」

「はいはい」

 

 台所に消えたスズカちゃんを見送り、僕はパソコンを立ち上げた。

 

 生活するための資金を得るため、僕が就いた仕事は“コーチ業”だ。大体は陸上のコーチを。時たまウマ娘の走行指導を受け持つ。そんな仕事である。それなりの苦労もあるが、走る事の楽しさを誰かに伝えると言う、僕からしたら天職のような仕事だ。

 

 賤しい話ではあるが、お給金もかなり良い。オリンピックを制覇したと言う肩書きをフルに活用した御蔭で、僕とスズカちゃんはそこそこ贅沢な暮らしをしている。

 

「お、スペシャルウィークさんの娘さんに指導依頼が来てるじゃん。これは了承してっと……」

 

 最近はウマ娘の指導依頼が増えて来た。中には僕やスズカちゃんの走りに憧れてお願いをして来るウマ娘も居る。自分に憧れてくれるのは当然ながら嬉しいが、スズカちゃんに憧れてくれるのはもっと嬉しい。彼女が走った期間はとても短いのだが、そんな中でもしっかりと彼女の走りを見てくれた事が自分の事のように嬉しいのだ。

 

 カタカタとキーボードを叩いて「OKです」と送り、その娘のための練習メニューを考えていると、料理の乗った皿をテーブルに置いたスズカちゃんがパソコンをヒョイと覗いて来た。

 

「あれ、その娘って……」

「スペシャルウィークさんの娘さんだね。スズカちゃんは会った事があったっけ?」

「うん。スペちゃんにお守りの手伝いをお願いされて、何度か顔を合わせてる。スペちゃん似で良い子だったな」

 

 どうやら顔見知りらしい。立ったり歩いたりしなければ問題ないので、この際彼女にも練習に立ち会って貰おうか。

 

 そう提案しようと口を開く前に、スズカちゃんがたおやかな指で僕の唇を押さえてしまった。

 

「私も行く。スペちゃんもきっと来るから久し振りにお話しをしたいし、何より彼女の娘さんの走りを見てみたいわ」

「そっか。僕の考えてる事はお見通しだった?」

「何年一緒だと思ってるのよ」

 

 そうでした。もうかれこれ10数年の付き合いだ。何か言わなくても意思が伝わるのも可笑しくはない。実際、僕も彼女が言葉を口にしなくても考えている事を察する時がかなりある。

 

「もう出来たんだね。今日はカレーかな」

「キーマカレーに挑戦してみたの。結構難しかったわ」

「そう言ってる割には綺麗に完成しているけどね。いただきま〜す」

 

 パクリと1口。うん、しっかり美味しい。ここ数年で随分と料理スキルが上がっている。最初の頃は結構凄まじかったのだが……。

 

 こうやって嫁の料理に舌鼓を打つ日が来るなんて。それもスズカちゃんの料理を毎日楽しめるなんて。数年前は全く考えてなかった。

 

 いや、憧れはしていた。だが、それよりも走る事で頭がいっぱいだったのを思い出す。そう言えば後輩からはランニングジャンキーだなんて言われてた。否定したくても事実なため、全く否定が出来ない。

 

 まあ、今が幸せなら何も問題は無いので良しとする。

 

「そうだフウ君。今度纏めて休みが取れる日があったら教えて欲しいな」

「ん、纏まった休みか。再来週辺りに1週間ぐらい取るつもりだけど、何かしたい事でもあるの?」

 

 皿に載った料理を大方胃の中に送り込み、一息ついた所でスズカちゃんから投げ掛けられた急な質問。纏めて休みを取れるホワイトな職場なため、やろうと思えば何時でも取得が可能だ。

 

 こうやってスズカちゃんから質問をする時は、何かやりたい事があって、それを僕に提案する時である。

 

「こうやって動くのにも大分慣れてきたかし、今なら新婚旅行も行けるかなと思って」

 

 新婚旅行。そう言えばまだ行ってない。挙式当時、スズカちゃんは動くのがほぼ無理な状態であった。彼女の容態を気遣った事もあり、新婚旅行は後に回したのである。

 

 成る程。確かに今なら行けるかもしれない。

 

「スズカちゃんの身体が大丈夫そうなら行くのは大賛成だよ。ちなみに行く場所の目星は付いてる?」

「沖縄。実はスペちゃんからペアの旅行券を貰ったの」

「ふむ、それなら沖縄に行こう。ボチボチで良いから準備をしておいてくれ」

 

 再来週の1週間休暇が俄然楽しみになって来た。

 

 楽しみが1個出来ると仕事も随分と捗る。僕は何の気負いも無く再来週を迎えるために、仕事で提出する書類の作成を急ぎ、終わったら提出期限がかなり先の奴も終わらせてしまおうと考えたのだった。

 




その後の物語は多くても4話ぐらい。文字数も少なめで考えています。
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