さて、今この状況をどう説明したものか…。
場所はIS学園内の第3アリーナ。本日はここで、IS学園の教師を相手に機龍の戦闘データを取るための模擬戦が行われるはずだった。
なのに、機龍の対戦相手である山田真耶女史は機龍の足元で目を回して倒れている。対する機龍は、どうすればいいのだろう、というように管制室にいる俺の方へ視線を向けている。いや、そこで俺に振られても困る…。俺の隣に立つ織斑さんの方を見れば、彼女は頭を抱えため息をついていた。うん、本当にどうしてこうなった…。
俺は天井を仰ぎ見ると、事の経緯について思いを巡らせた。
正直に言うと、俺は今回の模擬戦において機龍の勝率は低いと思っていた。というのも、機龍とISでは機動力に決定的な差があるからだ。スピードなら問題ない。ブースターをフル稼働させればISにも勝るとも劣らない。
問題は小回りと空中での自在性だ。
はっきり言って、ISの空中での動きは反則もいいところだ。急加速、急停止、急旋回、急上昇、急降下、空中浮遊。ある程度は操縦者の力量がものをいうとはいえ、いずれの動作も機龍にかなり難しいものだ。
また、機龍の武装の多くは前面に向けられており、機龍の機体の可動域の問題が付きまとう。最悪の場合、常に後ろを取られ続け、一方的にボコられることもあり得るのだ。
なぜこうも、ISと機龍で機動性に差が生まれたのか?その理由は、ISが空中でも行動を前提に制作されたのに対し、機龍は地上での戦闘を前提に制作された事に起因する。たとえるなら、戦闘機と戦車が闘うようなものであり、現状では機龍とISの相性は最悪と言ってもいい。
だからと言って、機龍が簡単に敗れるとは思いたくないが、急遽決まった模擬戦で対策もなしに最強の機動力を持つ兵器に勝てると思うほど俺は楽観視できなかった。
ところが、史上初のISと生体ロボットの戦いは当事者たちの予想を超える展開を見せた。
第二世代型ISを装着したIS学園、1年1組副担任の山田真耶は初めて相対した機龍に対し、緊張したのか、はたまた速攻で勝負を決めてやろうと思ったのか、開始直後ブースターを全開にして機龍に突撃していった。そしてそのまま機龍の装甲に頭から激突し、目を回して倒れてしまったもであった。
そして冒頭の状況へとつながる。
山田さんはすぐに現場にいたほかのスタッフに介抱されたが、頭にたんこぶが出来た以外に特に外傷はなく、すぐに意識を取り戻した。しかしながら、頭を強く打ったこともあり、検査のために医療施設へと行くことになった。その際、うわごとのように「またやっちゃた…、またやっちゃた…。」と、ひどく沈んだ様子で呟いていた。またって…。山田さん…前も同じようなことをやったんですか…。
俺は織斑さんに模擬戦を続けるのかと聞くと、織斑さんは首を横に振る。
「正直に言うと、今回の模擬戦は外野からの声を受けて無理やり予定にねじ込んだものだ。これ以上はこの後のアリーナの使用者に影響が出る。今日はこれで終了だ。」
「でも大丈夫なんですか?機龍のデータを出すように各国から言われてるんじゃ…。」
俺がそう言うと、織斑さんは目を細めた。
「君がどこからその情報を手に入れたかは知らんが、あまりそういったことに気を回さない方が君たちのためだ。もともと無理を言ったのは我々の方だ。こうして言われたことをやった以上、文句は言わせない。」
「はぁ、そうですか…。でも、本当にいいんですか?周りが満足するようなデータは、今回の模擬戦からは得られなかったと思うんですけど…。」
「まあ、いずれまた、日を改めてデータ取りは行うことになると思うが、今回の模擬戦が全くの無駄だったとは思えないな。なんせ、」
そこで言葉を切ると、織斑さんは不敵に笑って見せた。
「最高出力でISがぶつかったというのに、微動だにしないどころか傷一つ負わなかったのだからな。予想通り、あいつがまた規格外の代物を送ってきたと分かっただけでも十分な収穫だ。」
「なあ機龍…、今回の模擬戦、お前的にはどうだった?」
俺はアリーナを後にし、自室に戻ると右手のガントレットに向けてそう聞いた。すると、ガントレットが黄色く光り、そこから音声が発せられる。
『どうもこうもないと思うけど。あんなの勝手に相手が自滅しただけだよ。』
おいおい、いくら本当の事だといってもその言いぐさは少しきついんじゃないか?
山田さん、相当落ち込んでいたんだからな。
『でも、あの加速力は脅威だね。もし、あの速度で自由に飛び回られてたら、たぶん対応できなかったよ。』
「やっぱりお前もそう思うよなあ…。」
現段階で機龍とISには空中戦で圧倒的な差がある。今日は相手が自爆して事なきを得たが、今度対決する時はいい様にやられる公算が高い。機龍の防御力が高いとはいえ絶対ではない。早急に対策を練るか、ISに対応できるだけの装備が必要だ。
「とはいっても、一人じゃできることに限度があるし、対策なんてそんな簡単に思いつくもんでもないしなあ…。」
そう言ってため息をついていると玄関のドアがノックされた。いったいこんなところに誰が…。そう思いつつ玄関を開けると、二つの巨大なメロンが…。
「て、あれ、山田さん。どうしたんですか?こんな所にまで。」
「あ、先ほどはどうも。実は少しお話をしたと思ってきたんですけど…。お邪魔じゃなかったですか?」
「いえいえ、大丈夫ですよ。じゃあ、立ち話もなんですから、どうぞ上がってください。お茶くらい出しますから。」
「いえ、そんな気を回してもらわなくても結構ですから!」
「そう…ですか。じゃあこのままで。」
流石にあって間もない男の家に上がらせるというのは軽率だったか。山田さんもほっとしているようだ。でもなんで少し残念そうなんだ?
「えーと、ではまずは、本日は本当に申し訳ありませんでした!せっかくお時間をいただいたというのに、私がミスしちゃったせいで…。」
「そんな気にしなくてもいいですよ。俺も急に模擬戦だなんて少し戸惑っていましたし。」
「やっぱりご迷惑でしたよね!すいません、こっちの都合を押し付けちゃって。」
「いやだからいいですって。」
女性の涙は武器なんだから、そんな涙目でこっちを見られたら罪悪感が半端ないです…。
俺が必死に宥めたことでようやく山田さんは謝罪をやめてくれた。そして、仕切りなおすように咳払いをすると、口を開いた。
「明日から本校は始業式なんです。そこで、ISの授業に中条さんも参加させたらどうかという話が出ているんですけど、中条さんの意見を確認してもいいですか?」
「ISの授業にですか?」
「ええ、そうです。詳しい事は分かりませんけど、どうも学園の理事会からそういった話が出ているみたいなんですけど、中条さんは何か心当たりがないですか?」
「うーん、心当たりはないですね。でも、IS学園は女子校ですよね?俺なんかが女の子たちの中に入っちくのはいろいろと問題がないですか?」
「まあ、本来はそうなんですけど…。なんというか、今年はかなり特殊でして…。」
山田さんは苦笑しながらそう言った。どうもIS学園にもなかなか複雑な事情があるようだ。
しかしながら、ISの授業が受けられるというのは、今の俺にとってはかなり魅力的だ。個人的にISに興味があるというのもあるが、機龍の機動力の問題を解決する糸口として、ISの技術を応用するというのは模擬戦の前から考えていたことだ。ただ、そのために必要な基礎的な知識が俺には足りない。それを埋めるためにもISの授業は絶対に受けておきたいところであるが、周りが女子しかいない環境というのどうしても尻込みしてしまう。
でも、目の前に機龍をパワーアップさせるための鍵がある以上それを手にしないという選択肢は俺にはない。
「わかりました。ISの授業、是非とも受けさせてください。」
こうして俺たちはIS学園と、そこで学ぶ生徒たちと深く関わっていくことになった。
この時はまだ気づかなかった。
この出会いによって、俺と機龍の本当の物語が始まることを…。