「ねえ、知ってる?最近出てきた都市伝説!」
「最近?なにそれー」
「えっ!?聞いたことない?結構有名になってるよ」
「んー……聞いた事ないなー。教えてよ」
「本当に知らないんだ。びっくりー」
「しょうがないじゃん、そういうのに疎いんだから」
「あははっ、教えてあげるって。えっとね……その都市伝説、うちの学校の生徒が見たらしいんだ」
「うわ、マジ?身近すぎて寒気した」
「あれ?もしかしてホラー耐性無かったりする?」
「ううん、怖い話は嫌いじゃないよ。続けて」
「うん、それでね、その生徒が深夜にコンビニに行った時に出会ったらしいんだ。都市伝説の正体は、小さい女の子だったんだって」
「へぇー、可愛いじゃん。でもなんで深夜に?」
「そう、そこなのよ。その生徒も不思議に思って聞いてみようとしたの。で、呼びかけたら振り向いたんだけど、その女の子の顔………どうなってたと思う?」
「えー、もしかしてグロい系?口が耳元まで裂けてました的な?」
「それ口裂け女じゃん!流石に違うよー」
「えー?じゃあなに?」
「もうちょっと粘って欲しかったなぁー。もう正解言っちゃうけどいい?」
「いいよ。早く早く」
「うん。それでね、その子の顔がどうなってたかと言うとね……」
「左目が無かったんだって」
———————————————————————
———時刻は昼頃。
私の学校は昼休みだ。
昼食も済まし、次の授業まで席に座って携帯をいじっていた。あと10分もすれば授業が始まる。
私の名前はともこ。高校生だ。
下に小学生の妹がいる。
妹には左目がない。
なぜかと言うと3年前、私を助ける為に山の神に奪われたからだ。
あれから3年が経つ。
妹は未だに夜に出歩く事をやめていない。
妹は巡回だの、やらなきゃいけないことがあるだのとなんだかんだ理由をつけて夜に飛び出していく。
本当は理由なんて無いんだろうけど……。
夜に片目を置いてきた妹には、何か感じるものがあったのかもしれない。
………そしてそんな妹を、私はもう止めていない。
私がダメと言っても、隙をついて飛び出していくくらいだったからだ。
それに妹は優しかった。
亡くなってしまった愛犬ポロの所にたびたび行き、お花を添えているらしい。
そんな話を知っていれば止めるに止めれず。
かくして私は、妹を止めなくなった。
夜の"ナニカ"は十分怖いけれど、3年前のあの日から"よまわりさん"に目をつけられているせいか、妹に"ナニカ"が寄ってくることが少なかった。
そう言う事もあって、妹の事をどこか信頼しきっていたのかもしれない。
「………………」
携帯をいじるフリして、周りの人の話を聞く。流行り物が好きなクラスメイトは、すぐにそ̀う̀い̀う̀話̀に食いつく。
———さっきのクラスメイトが言っていた都市伝説は本当だ。
そして紛れもなく私の妹———"ことも"のことだ。
左目が無いことが分かるということは、眼帯をしていないのだろう。何かによって外されたのか、あるいは自ら外したのか。
眼帯を外してしまうと、妹のクラスメイトに怖がられてしまうらしい。
だから、自分から外す事はまず無い。
そして神出鬼没。
どこを彷徨い歩いているかわからないという。
もっと現実的に言うと、現在妹は行方不明だ。
数日前、いつも通りに夜に飛び出して行ったっきり帰って来なくなった。
もちろん警察に捜索願を出した。
目撃情報はある。どこかで見つかるはず。
———しかしそんな考えとは裏腹に、未だに見つからない。
その事実だけが、今の私を焦らせていた。
「はぁ……」
ため息を吐く。
ただ単に夜に依存し過ぎて帰って来なくなってしまったのか、町を徘徊する"ナニカ"に襲われてしまったのか。
それとも………山の神にまた目をつけられたか。
考えうる最悪の可能性が頭の中に浮かぶ。
ポロの時もこんな感じだったっけ。
まだお父さんには言っていない。
帰って来れないお父さんに、変な心配をさせてしまっては仕事に差し支えると思ったからだ。
言うなら、全てがはっきりしてからだ。
妹の安否の確認が取れてから。
キーン……コーン……カーン……コーン……
始業のチャイムが鳴る。
ガヤガヤしていた教室内が次第に静かになる。
私は携帯をポケットに滑り込ませ、授業を受ける準備を整える。
「……はぁ…………」
何度吐いたかわからないため息を、再び吐く。
なんの音沙汰もない事が気にかかって仕方がない。
私が守ると決めておきながらこのざまだ。
綺麗事だけで、なにも守れてない。
そんな私への失望。それによるため息でもあった。
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時刻は夕暮れ。
もう晩夏だと言うのに、残暑が厳しい。立っているだけで汗が滲むほどだ。蝉の音がうるさいくらいに、夕焼けの空に響く。
学校も終わり、一緒に下校していた友達とも途中で別れ、家の前まで来ていた。
いるわけがない妹の姿を願いながらドアノブに手をかける。もし開いていたら………。
…………しかし、鍵はかかっていた。
わかっていた事だったが私は少し落ち込む。
可能性が0ではないせいで、どうしても期待してしまうのだ。
ふとポロの小屋を見る。
ポロがいなくなったあの日から、私に代わって妹が毎日綺麗にしてる犬小屋。
今はまた私がしているけれど、『ポロ』という名前の札を見る度にどこか胸が痛くなる。
……妹もそれを感じていたのかも。
そんな事を思いながら、私はカバンから家の鍵を出し、ドアを開けた。
「ただいまー」
返事を求めるかのように少し大きめに言ってみた。当たり前だが返事はない。
2階に上がり、カバンを置く。
夕食を作らなくては。
妹が居なくても、必ず2人分を作る。いつ帰ってきてもいいようにだ。
忙しなく物が動き、やがて夕食が出来上がる。
「いただきます」
今日もまた1人の食卓。
いつもなら妹の学校での話を聞き、そして昨日の夜の話を聞く。
しかし今は静寂に包まれ、響く音は茶碗や箸が掠る音。
「…………………」
正直、気が滅入ってきてしまっていた。
頭の中から常に不安が消えないし、何も解決しないまま過ぎ去るこの時間が苦しかった。
後悔ばかりだ。
起きてしまった事は仕方がないとは言うが、こんな状況下において、そんなもので割り切れる人はいないだろう。
———ああ、私はなんて甘いんだろう。
少し考えればわかった事なのに。
そう思う度、自身の情けなさに涙が出てきそうになる。こんなことになるという事は結局、"私の決意は口先だけだった"という事への証明になるからだった。
午後9時。
妹がいつも夜に飛び出して行く時間。
そして、堪らなく寂しくなる時間。
朝起きれば帰ってきている事が分かるので、寂しさを紛らわすようにさっさと寝てしまう時間でもあった。
しかし、妹は帰ってこない。
妹は居ない。
「………………」
冷めきった夕食にラップをかけ、冷蔵庫にしまう。そのままなら明日の朝食になる。
「はぁ…………」
ふとため息が出る。
……もう寝てしまおうかな。
朝になったら、ひょっこり帰ってきている気がして。いつも通りに「おはよう」と言ってくれる気がして。
絶対に無いと知りつつ、そんな淡い期待をどうしても抱いてしまう。
……もし帰ってきたら私は怒ってしまうかな。泣いてしまうかな。それとも、何も言えないのかな。
———きっと、どれも当てはまる。
私は基本妹に怒ろうとはしない。妹は怒られずとも分かってくれる良い子だから。
でも、今回ばっかりはいっぱい怒ってしまいそうだった。
こんなに心配して、疲れて。
気力まで削がれて。
そんな心境で、ふらっと帰ってきた妹を怒らずに迎え入れる自分が想像できない。
ヴーッ、ヴーッ………
「きゃっ」
携帯が鳴る。私の耳は静寂に慣れすぎてしまったせいか、こんな音にもびっくりしてしまう。
慌てて携帯を取り出す。
画面に表示されていたのは"警察署"だった。
もしかして……!
「……もしもし」
『夜分遅くにすみません。こちらの番号は……』
少し安心する声。しかしその声とは裏腹に、伝えられた内容は辛い物だった。
『………なので、本当に申し訳ございませんが……捜索はこれで打ち切らせて頂きます』
「………はい。ありがとうございました……」
電話を切る。
警察を持ってしても、妹が見つからなかった。
警察に見つけられなければ、私が見つける事は無理に近いんじゃないだろうか。
「………なんで……」
私はその場に座り込む。
頼れるものはもう無くなった。妹は完全に行方不明。行方不明者として掲示板に貼られるだけで、あとは完全に目撃者頼り。
———そんなので見つかるわけがない。
しかしこの状況は、私の中のある衝動を動かすきっかけとなった。
「……私が、行くしか……」
お母さんにも、ポロにも守るって決めたんだ。私が守らなくてどうするんだ。
こんなんじゃ、きっとお母さんやポロに怒られてしまう。
見つけるのが不可能に近いから、何だ。
そんな理由で、私はまた逃げるのか。
もう、私は家族を見捨ててしまうほど弱くないんだ。
私は小さなポシェットを物置から出す。夜に出るんだ。"ナニカ"に会うのは確実。石ころでもなんでも、何か持っていけるようにしなければ。
家の電気を消し、外に出る。
最後に家の鍵をかけた。
深呼吸。
大丈夫。今の私ならもう"ナニカ"からも逃げ切れる。小さい頃とは違う。
「こともを……探さなきゃ」
———そして私は、夜に飛び出した。