キィィ………
軋んだ音を立てて、コンテナがゆっくり開く。出た瞬間何をされるか分からないのでいつでも閉めれるような位置で音を探る。
「………………」
ドクン……ドクンと、心臓の音が邪魔をする。
コンテナの隙間から風がヒュウッと舞い込んで耳を撫でる。
それでも懸命に探る。
探らなければ最悪死んでしまう。この状況はそんな危険をはらんでいる。
………しかし、音どころか気配すら感じない。
コンコンコン………
再び音がした。
少し開けている上にすぐ真横から音がしたせいで心臓が飛び出るほど驚き、私は飛び上がった。
「きゃっ!」
ゴーン…………
鉄に頭が当たった音が鳴り響く。かなりの痛さに私は反射的に頭を押さえる。
「〜〜〜ッ!」
その瞬間、私はハッとし咄嗟にコンテナから飛び出した。もちろんこれだけ音を立ててしまっては気づかれないわけがないからだ。
確実にバレた。逃げなきゃ。
そう思い、逃げようとした時。
…………コンテナの扉に、風で流された小石が当たってコンコンと音を鳴らしているのを見た。
気づけば少し風が強くなっている。そのせいで飛んできた小石がノックしているような音に聞こえたんだ。
「は、はは………」
私は苦笑し、その場に座り込んだ。
理由がその程度と言うことを知って気が抜けてしまった。
「お、驚かさないでよね……」
何事もなかったかのように、周囲の鳴き虫が再び騒ぎ出す。緊張から一瞬だけ解放された身体は眠気を呼んだ。
「ふあ……」
あくびがひとつ出る。
その緊張感の無いあくびに、私は再び苦笑する。
いつもなら寝てる時間だ。それに走り回ったり過度に気を張り詰めていたのだ。眠くないわけがない。
「ダメダメ……眠気を覚まさないと」
こんな所で寝たら死ぬに決まってる。大体妹がこの一晩でどうなってしまうかもわからないのに、寝てるわけにはいかない。
私は眠気を覚まそうとし、コンテナに近寄る。
その冷たい鉄に、頬をぴたりと当てる。
夏に似合わないほど冷たいそれは、私をびくっとさせる。
「冷たっ……」
眠気が多少吹き飛ぶ。これならもう少し動けるだろう。
夜はまだ長い。
だが、時間がない。
———急がなくては。
私はそう思い、また門の方へと向かう。
どのくらいの周期で空いてるのかわからないが逃す方が惜しい。
早足。
ほぼ安全だったコンテナから離れるのが急に怖く感じた為だった。
空いていることを願いながら、ひたすら歩く。
………願っているが。
先ほどから10分少々しか経っていない。門もそんな高頻度で開くものでもないはずだ。
逃すのが惜しいという思いと、"よまわりさん"に襲われるかも、という恐怖が私の中で入り混じる。
こんな早く出なくても良かったんじゃないか?
30分くらいは待つべきじゃなかったか?
「……………」
どっちが良かったかなんて、私には分からない。
リスキーな行動。
常に死と隣り合わせのこの場所で、数打ちゃ当たるようなやり方は危険すぎるのだ。
そんな後悔と、僅かな希望を持て余しながら歩く。
お願い、開いてて………。
やがて、辿り着いた。
扉は開いていた。
「……良かった……」
張り詰めていた肺を緩ませるように、大きく息をついた。
この隙を逃してはいけない。
私は足早に工場の外へと出る。目の前で閉まったりなんかしたら絶望だ。
やっと抜けたという安心感を覚えながら、おもむろに振り返る。
———そして私は、振り返ったことをすぐに後悔する事になった。
「——————ッ!!」
そこにい̀た̀。
いくつもの手のような白い触手に黒い身体を引きずらせているその姿が。
顔の部分に見える目のような、横に一本の線が入っている白い仮面が。
私の真後ろに、いた。
「よ……"よまわりさん"……」
私はペたりと尻餅をつく。
頭の中がサーっと冷えて、ジワジワ熱を持つ。
逃げなきゃ。
早く……早く逃げなきゃ。
わかってるのに、足が動かない。
近すぎて逃げれる気がしない。
震えて動けない反面、"よまわりさん"はただじっと工場の門を境にして私を見ている。
扉は全開だ。工場の外まで追って来れる。
身体は私の意思に反して立って逃げ出そうとしているが、力を入れるとガクガクと震えて再びぺたんと座り込んでしまう。
数十センチしか離れていないのだ。
たとえ立てたとしても逃げる事は不可能という事実が、私をここまで恐怖させているのだろう。
「…………………ッ」
恐らく数分が流れていた。
一向に動かない"よまわりさん"に、私は違和感を覚えた。
「………な、なに……?」
何かおかしい。そもそも、なぜこんな真後ろにいながら私を襲わなかったのか。
いや、でも。
そんなはずは………。
「……見逃してくれるの?」
そんな事をふと思いついた。
私がそう呟くと、"よまわりさん"は工場の奥へと去っていった。
「………見逃すんだ………」
少々拍子抜けしたが、見逃してくれるならそれはそれでいい。襲われるよりかは遥かに良い。
私はゆっくり立ち上がり、服についた砂を払う。
さて、どこに向かうか……。
「……!そう言えば……」
妹を追いかけている最中に、妹の背負っていたリュックから何か落ちたのを思い出す。
あの時は、拾うようなそんな余裕がなかったが、それがなんなのか確認するだけしたほうが良い気がする。
工場を出て道沿いに歩く。
記憶があやふやだが、このまま道沿いに行けば再び商店街まで戻れる……はずだ。
"ナニカ"達も周辺にはいなかった。それもそのはず、"よまわりさん"が出る時に限って、何故か"ナニカ"達はいない。
さっき、"よまわりさん"が現れたせいなのだろうか。
そんな事を考えながら歩いていると、やがて大きな橋に出た。昔は工場に行く人々のために使われていたであろう大橋は、いまや割れたコンクリートが散乱する通りにくいものとなっていた。
しかし耐久性だけはあり、まだ自動車やトラックが通っても崩れる事だけは無さそうだった。
オイ
「!」
橋を半分渡りきった途端に何か聞こえた。
端的な音だったからか、気のせいとも思えた。
私は再び歩き始める。
オイ
再び声。
今度は確実に聞いた。しかし、音はそれだけではなかった。
びちゃびちゃと何かが橋に来る音。異様に大きな気配はすぐさま斜め後方から感じ取れ、そして背後に回った。
「…………ッ!」
正直、振り向きたくない。
もう追われるのは散々だ。
ましてや背後にいる絶対に大きいであろうモノにこれから追い回されるなんて、最悪すぎる。
しかし、振り向かなければ相手との距離を測れない。
今この状況の私には振り向く以外の選択肢は残されていなかった。
「………はぁー………」
深く息を吐き、叫ぶ準備もして、意を決して恐る恐る振り返る。
———橋いっぱいに広がる球体がそこにいた。
グネグネと黒い管のようなものが隙間なく纏わり付いていて、所々に大きさがバラバラの眼が大量に見えている。
それは、グジャラッという潰れたような音とともに、大量の黒い手を周囲に伸ばした。
当然かのように私は悲鳴をあげ、逃げ出す。虫ですら苦手なのに、こんな姿をしたものまで現れたらたまったもんじゃない。
その黒い巨大な"ナニカ"は時々真っ黒な球体を飛ばしては、一本に連ねた巨大な手を長く伸ばしてくる。
飛ばされた黒い球体は私の前まで来ると、近所の学校付近にもいたような球体に大きな口がついた化け物に変化した。
私はそれらをギリギリで交わしながら逃げ続ける。だが相手も巨体の割にスピードがある。なかなか距離が離れない。
……距離が離れないのは、私自身の足も限界に近いからでもあった。
その時だった。
道の角の公衆電話が鳴った。
「ムカデの神様っ……」
私は咄嗟にそれを思い出し、公衆電話に駆け込む。
「お願いっ……助けて!」
———しかし、受話器を取ったというのに、世̀界̀が̀暗転しない。
「な、なんで………」
疑問の言葉を口にするが、すぐに気づく。
ムカデの神様にはもう力が残っていない事を。
さっと後ろを振り返る。
巨大な"ナニカ"は、もうすぐそこまで迫ってきていた。
私は公衆電話を飛び出し、更に走った。これはもう私が振り切るしかない。
………でも、どうやって?
ここからどこに行けば良い?
私だってそんなに体力があるわけがない。いつまでも走ってるわけにはいかない。
動悸が激しくなる。
すでに疲弊している身体は、いつもよりも早く私に疲れを感じさせた。
このままじゃいつか捕まる。
………そんな事はわかってる。
解決策だ。
それを探さないと………
考える事と走る事の両立がどれだけ難しいか、かつて考えた事があっただろうか。
疲れのない頭なら思いついたかもしれないが、眠気も混じったような頭じゃ何も思いつかない。
………なのに、死にたくないって事だけは頭にすぐ思い浮かぶ。死にたくないのはわかってる。だから考えなければならない。
「っああー!もう!来ないでよっ!」
そんな叫びも届くわけがなく、黒く巨大な"ナニカ"は追う事をやめない。
足が重い。
喉が痛い。
胸が苦しい。
———私はこんなとこで死んじゃうの?
そんな考えがよぎったその時。
「こっち!」
路地から出てきた何かに私は手を引かれる。限界だった足は、手を引かれる事でただ転ばないように反射的に踏み出すようになる。
私は手を引っ張ってくれる何かを見る。
背は小学生くらい……妹と同じくらいかな。ちょうど私の目の前に青いリボンが揺れている。
青いリボン………。
青いリボン?
私は咄嗟にそ̀の̀子̀の̀左̀腕̀を̀見̀た̀。
———ない。ただ袖口が揺れているだけ。
私の疑惑は確信に変わる。
「ハルちゃん!?なんでここに……」
「それはあと!今は逃げよう!」
ハルは振り返らずに私にそう言った。片腕で私を引っ張り、足だけで力強く走る。
速い。
高校生の私にも劣らない速さ。
「……ハルちゃん……」
ハルが来てくれたことに、私は安堵した。この状況で独りじゃなくなった事は、私にとっては大きな救いだった。
やがて商店街入り口へ。
ハルは最短で曲がり、商店街を突っ走る。
黒い巨大な"ナニカ"との距離は離れているが、ハルはそれ以上離すことはしなかった。
私はこんな状況下でありながらも、逃げたいという思いから聞いてしまった。
「ハルちゃんっ、どうして距離をもっと離さないの?」
その問いには、ハルは答えてくれた。
「あれは"群霊"って言うの。離れすぎると小さい霊に分裂して、今より速く追ってくるの。それじゃ逃げきれない。だからあの状態で、私達をギリギリ追えるような距離にいれば分裂しないし、このまま逃げ切れる」
「に、逃げ切るってどこに!?」
「神社だよ!そこに行けば、"群霊"は追って来れない!」
予想以上に知っていた。
妹もこれぐらい知っているのかな。
私とハルは商店街を駆け抜ける。
工事中の看板や、仕切られたフェンスを避けて更に走った。
やがて商店街を抜け、神社に向かってラストスパートを切る。そして難なく神社の中に入ることが出来た。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
お互い息を切らす。そうしている間に、"群霊"も神社の前にたどり着く。
おぞましい叫び声をあげ、神社に突進しようとする"群霊"。
しかしその時一瞬だけ世̀界̀が̀変̀わ̀っ̀た̀。
次に戻った時には、"群霊"が消滅している光景が見えた。
「………助かった……」
私はハルにお礼を言う。
「ありがとうハルちゃん。ハルちゃんが来てくれなかったら私ダメだった」
「私も偶然だったから、気づけて本当に良かったー」
私は疲れすぎて、石畳の上にパタンと倒れ込む。ハルはそんな私を覗き込みながら、軽く笑った。私の疲労を、ただ"群霊"に追われただけじゃない事をわかったようだ。
「そんなに疲れる事があったんだね」
「そうね……。……あ、そういえば」
さっき聞こうと思った事を思い出した。が、ハルはそれに気づいてくれた。
「そうそう、私今おばあちゃんの家に帰ってきてるの。それで隣の町の方に来てたんだ」
「あーそっか、お盆だもんね……。でもなんでこんな夜中に出歩いてるの?」
「本当は花火大会見て帰る予定だったんだけど……こともに会いたくなって」
ハルにそう言われ、私は困惑する。
どんな顔して言えばいいだろう。
私が甘すぎたばっかりに、妹は……
その時、私は走っていて忘れていた事を思い出す。
「あっ!そうだ落とし物……」
「……落とし物?何か落としたの?」
ハルは不思議そうに首を傾げる。私はこれまでの経緯を話そうとしたが、止めた。
ハルまで巻き込むわけにはいかない。言えば絶対に着いてきそうな気がした。
「そ、そう!商店街で落としちゃって、ちょうど取りに行く所だったの」
私は作り笑いをしながら誤魔化そうとした。
しかし、ハルはちょっと良くない顔をする。
「……疑って悪いんだけど……なんでこんな夜中に?それもどうしてあの工場に続く橋から?」
………バレてないよね。
私は努めて平静を装って答える。
「……何かに襲われて、気づいたら工場のコンテナの中にいたの。そこから何とか抜け出したところ」
———我ながら、良さげな嘘をついたと思う。
「あー、"よまわりさん"に攫われたんだ。よ̀く̀抜̀け̀出̀せ̀た̀ね̀」
普通は抜け出せない。
あの工場は"ナニカ"の巣窟でもあり、そして"ナニカ"がいない所には"よまわりさん"が襲ってくる。相当運でも良くない限りは抜け出せないような所だ。
「あれは運が良かったというか……」
「運が良かったってどうして?」
「その"よまわりさん"に襲われる事無かったし」
「………どうして"よまわりさん"に襲われると思ったの?ただの廃工場なのに」
「あ………ッ!」
………それはそうだ。
何̀も̀知̀ら̀な̀い̀なら襲われる事も知らないという事になる。
つまり、"襲われる事は無かった"なんて言葉は出ないのだ。
………私は思ったより、夜に慣れすぎていたらしい。
「…………えーっと」
「"よまわりさん"と"ナニカ"が廃工場に潜んでいる事は知ってたんだね。多分だけどお姉さん、前にも攫われた事ない?」
「…………うーん」
答えに詰まる。
攫われたと言ったとしたら最初に"よまわりさん"をわからないフリしたのがバレる。
しかしさっきの発言のせいで攫われてないとも言えない。
思ったより、私は単純だったようだ。
ハルの誘導に簡単に引っかかってしまっている気がする。
今思えばハルが言った「よく抜け出せたね」は引っ掛けだったのか。
ハルはさらに聞いてくる。
「………なんだか夜に慣れてそうだね。そこまで知ってるのに、どうしてこんな危険な真夜中に落とし物を……?」
「……えと……」
ハルの言う事は最もだ。
こんな夜の町の危険を知ってたら、尚更家から出ようとは思わない。
答えあぐねている私に、ハルは心配そうな顔をして聞いてくる。
「……何かあったの?」
返す言葉が見つからない。
誤魔化しきれなくなった私は、半分諦め話すことにした。
———————————————————————
「……そっか。こともが……」
ハルは少し不安そうな顔をする。
「うん………本当、どこに行っちゃったのか……」
私がそう言うと、ハルはすぐさま私の予想通りの言葉を口にした。
「私も探すよ。お姉さん1人じゃ危ないし」
「だめ」
私はすぐに断った。
半分諦めたが、もう半分は諦めてない。
ハルは絶対に行かせない。
ハルには父も母も、それに祖父母もいる。そんな立場で、こんな危ないことに巻き込むわけにはいかない。
「ごめんねハルちゃん。気持ちは嬉しいけど、ハルちゃんには帰りを待ってる家族がいるでしょ?だから着いてきちゃだめ」
「でもお姉さん1人じゃ、誰も助けに来てくれないよ?」
さっきの"群霊"の事を心配しているのだろう。たしかに、私のあの様を見た後ではハルが心配するのも無理はない。
ハルは現実的な事を言ってくれている。夜の"ナニカ"に関わるのは、本当に甘くない事を知っているから、なのだと思う。
それは私もよくわかっている……つもりだ。
「心配してくれてありがとう。でもハルちゃんまで巻き込まれちゃうよりは全然良いよ」
「で、でも………」
なかなか食い下がらないハル。本当に心配しているという事が伝わってくる。
———その時だった。
「いっ———!」
ハルが無い左腕を押さえながらよろめいた。今にも倒れそうだ。
「ハルちゃん!?」
私は驚き、すぐにハルの元へと駆け寄った。顔を見ると、痛みに耐えているのがわかった。
ハルは左肩を抑え、座り込む。
「どうしたの!?傷口が開いたの……?」
私は焦りながらそう聞くと、ハルは首を横に振った。
「ひっ……ぱられて………」
「………え?」
ひっぱられて………
引っ張られてる?
何に?
私は直感的に右を向いた。
そこには、ハルと同じくらいの背の茶髪の女の子が、ハルの無̀い̀腕̀を̀掴̀ん̀で̀いた。赤いリボンが特徴的だった。
しかし、この世のものではないことも見てすぐにわかった。
あまりにも薄い。
半透明よりもっと薄い存在だったのだ。
「だ、誰……?」
その茶髪の女の子は、ハルの方を見て少し怒っているような顔をしていた。それでいて何か言いたげだ。
ハルは私の発言に聞き返してくる。
「だれ、って……誰か……いるの……?」
「あ、うん……ハルと同じくらいの茶髪の女の子……」
私がそう言った途端、ハルの顔色が変わった。
しかし、ハルはすぐに顔色をもどす。
「ユイ……私は友達を………」
ハルがそう言いかけると、"ユイ"と呼ばれた女の子はハルの腕をグッと引っ張った。
「いたたっ……わかったよ……ユイ……」
……よくわからないけど、"ユイ"は私の気持ちを汲んでくれているのだろう。
ハルの"友達だから助けたい"という思いはよくわかっている。でもそれ以上に、残された人達の事を考えなくてはならない。
人によっては非情な話だ。
友達を見捨てろなんて。
でも、ハ̀ル̀が̀も̀う̀関̀わ̀っ̀て̀は̀い̀け̀な̀い̀というのは何よりも正しいと思う。
私が頼るべきなのはハルじゃない。もっと大人の人とか、お父さんとか。そういう人だ。
ハルは痛みから解放されたのか、何事もなかったかのように立ち上がった。"ユイ"という女の子も既にどこにもいなかった。
「ごめんね、迷惑かけちゃって」
しおらしく言うハルに、私は首を横に振った。
「ううん、迷惑なんかじゃないよ。気持ちは嬉しかったよ」
「そっか……」
ハルは少しだけ微笑むと、不意に何かを思いついたようにカバンから何か取り出した。
「お姉さん、ちょっと待ってね……」
取り出したのは紙と人形だった。
紙に何やら書いている。そしてそれを綺麗に折りたたみ、私に渡してくれた。
「本当に危険な時になったら、書いてある事読みあげて。その時その人形は絶対に離さないでね」
わけのわからないまま受け取った私は、適当な返事をしてしまった。
「え、あ、うん。わかった」
ハルは私の手を握る。
「死なないでね……。私は何もできないけど……絶対にこともを取り戻してくれるって信じてるから……」
そう言うハルの顔はやはり不安に包まれていたが、何となく妹が私を頼る姿に似ていた。
「わかった。気をつけるね」
ハルは私の返事を聞くと、クルリと神社の出口の方に向いた。
「……じゃあ、そろそろ帰るね。日が変わっちゃうと、きっとお父さんに怒られちゃうから」
「そっか、ハルちゃんも気をつけてね」
「うん、ありがとう。またね」
そうしてハルは、私に手を振りながら走って神社の外へと行った。
「また、ね……」
見送りながら、私はそう呟いた。
"また"があれば良いんだけど。
「………さて」
とりあえず一度商店街に戻って、妹の落とし物を回収しないと。
私は神社に一礼し、その場を後にした。