咲-Saki- side K 京太郎、雀士への道   作:しおんの書棚

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お待たせしました、今年最初の更新です。


三本場 埋める物

智美 side

 

 私が入学した時、鶴賀学園には麻雀部が無かった。立ち上げたのは私とユミちんが仲良くなった一年の時だったなー。

 たまたま一緒に麻雀する機会があって誘ったユミちんが負けず嫌いでハマってなー、立ち上げることになったのが懐かしい、ワハハ。

 けど残りの三人はすぐ幽霊部員、だから大会に出たことが無かった。それでユミちんが今年こそは出るって言い出した結果が今の状況なんだけどな?

 

 ……正直にいえば二年から私は出たかった。

 一番麻雀歴が長いのは私で、強くはないけど好きだからなー。

 最後の年になんとか出られる様になって楽しむつもりだったんだけど、モモの手紙と色々聞いた話で気が変わった。

 ユミちんだけじゃない、私にも火をつけたんだ、須賀京太郎って人間がさー。

 

 京太郎……キョウタがいいな? キョウタの情熱をモモから聞いた今の私は本気で勝ちたい。

 だからキョウタには感謝してるし、胸に空いてしまった穴を埋めるのが私に、私達にできるせめてもの恩返しだろー?

 

「なあ、キョウタ〜。次は私が相手するぞー?」

「もしかしてキョウタって私の渾名ですか?」

「そうだぞ、いいだろ〜。私は渾名付け名人だからな、ワハハ。

 ついでにキョウタも素で話していいんだぞ? なんか無理してるだろー」

 

 こうやって少しでも早く距離を縮めていけるのが私、キョウタには居場所が必要だろー?

 だからこっちから砕けていくのが一番良いんだ。

 部長らしいことはユミちんの仕事だけど、らしくない部長の私にはこっちが向いてるからなー。

 

「ありがとうございます部長、じゃあ俺らしく話しますよ」

 

 そういってキョウタは笑ってくれた……。

 

智美 side out

 

 

ゆみ side

 

 蒲原が須賀君に渾名を付けるのは不思議じゃない、一通り付けた実績があるからな。

 だが私は知っている、それが蒲原の信念に基づく行動であり、だからこそ部長は蒲原なのだ、と。

なんでもない様にするりと懐に入って、いつのまにか仲間になっている、蒲原にはそれができるからこそ私は部長を断った。

そして今、須賀君もペースに巻き込まれて素を引き出されたという訳だ。

 

「それが須賀君本来の口調か。

 蒲原も言ったが私達は仲間でライバルだ、遠慮などする必要はない。

 ここはそういう場所、そして君の居場所だ」

「そうっす! みんなで競って、みんなで楽しんで分かち合う場所っすから、京さん。

 もう一人じゃないっす、みんなが、私がいるっすよ!」

「そっか、俺も輪に入れるんだな……」

 

 モモのヤツ、さりげなくアピールしてるつもりだな? まったくこれで隠せてるつもりでいるとは可愛い後輩もいたものだ。

 それにしても私達にとっては普通のこと、しかし須賀君にとっては……。

 

「なに当たり前のこと言ってるんだー? さあ次いくぞー」

 

 はははっ、やはり蒲原には敵わないな。軽々と空気を変えられるのも蒲原らしい。

 

「そうだな、当たり前の話だった。さて、蒲原と妹尾が入って私と津山が抜けよう。

 津山は須賀君の麻雀から学ぶことがある筈だ、彼の後ろでよく見るといい」

「同じ事を考えてました、牌譜を取りながら見ることにします」

 

 さて……、これで妹尾の役満が能力か判別できる。津山の実力を引き上げることもだ。

 そして蒲原、お前だってまだまだ強くなれると私は信じてる、そのための起爆材が目の前にいるんだからな。

 

 こうして東風戦二戦目のメンバーが決まった。勿論私も学ばせてもらおう、須賀君が自分自身の力で築き上げてきた“振らない麻雀”の真髄を。

 

ゆみ side out

 

 

京太郎 side

 

「早速、席を決めるぞー」

 

 部長の言葉で意識を引き戻され、新しいメンバーで席決めが行われる。

 

 部長が東場で親。妹尾先輩、俺、モモの順となり席に着いた。

 さて切り替えていくか……、まずは噂の役満が能力なのか確認するとしよう、それによって妹尾先輩の鍛え方が変わるからだ。

 部長は一番麻雀歴が長いとはモモの情報、今後を考えれば実力もすごく気になるしな。

 

 さっきのモモは堅かったけど振るわなかったからか随分気合いが入ってる、俺も人のことは言えないが。

 再び俺を除く全員の理牌が終わって二戦目の麻雀が始まった。

 手牌は普通か……けど、どんな状況だろうと堅くいきながら上がりを目指すのは変わりない。

 

 部長が切り出して場が進んでいく中、いつものように俺は全員を観察する。

 勿論、手作りしつつ河に迷彩をかけ、さらに聴牌気配に意識を割くのもいつものことだ。

 既にこの辺りは無意識で行う様になっているのは成長の証だろう、加えてさっき気づいた聴牌までの近さを読み取れ!

 

 それにしても嫌な感じがする、一番手が進んでいるのは噂の妹尾先輩だ……。

 

「三つずつ、三つずつ……」

 

 そんな呟きが聞こえるが、これで役満が出る様なら“能力者じゃない”。

 見極めさせてもらいますよ、妹尾先輩。鶴賀が県大会を抜けられるキーになれそうなその力を。

 

京太郎 side out

 

 

佳織 side

 

 よくわからないけど、一杯三つずつが揃ってきた。対々和だったかな? もうちょっとで上がれるんだよね、これ。

 

 私は全然麻雀を覚えられないんだけど、智美ちゃんに連れて来られて部員になった初心者。

 最後の年だから大会に出たいって言う智美ちゃんの願いを叶えてあげたくて所属したんだ。

 そしたら睦月さんと桃子さんが加わって大会に出られる様になって単純に私は喜んでいた。

 

 でも須賀君の話を聞いてから智美ちゃんも加治木さんも変わった、大会を楽しむ予定が勝つことに目標が変わったんだって気づいてる。

 だからって私が強くなれると思えないけど、できるだけ迷惑をかけない様にはなりたい。

 

 そんなことを考えてたら持ってきた牌で揃っていた、ツモっていうんだっけ?

 

「あ、ツモです。えっと対々和? かな?」

「それは四暗刻、役満ですね、妹尾先輩」

 

須賀君が教えてくれたけど、よくわからない。

 

「え? ええと?」

「いつもながらとんでもないな、妹尾は。

 子の役満、8,000/16,000だ」

 

 それを聞いているうちにみんなから点棒が一杯渡された、私が麻雀をするとこういうことが結構ある。

 みんなは驚くんだけど、やっぱりよくわからない。ただ、大会でもこうできたら迷惑をかけないで済むのはわかってる。

 

 だから弱い私は麻雀を打つ、みんなとの楽しい時間が少しでも長く続く様に……。

 

佳織 side out

 

 

モモ side

 

 京さんが同卓していて役満をあがったってことは能力じゃないんすね、ってことはビギナーズラックっすか!?

 流石に続き過ぎとは思うんすけど、他に理由が思いつかないっす。

 それが本当なら、かおりん先輩には余計なことを覚えさせないに限るっすね。

 チョンボだけ避けられれば多少振ったところで一気に回収できるっすから。

 

 それにしても京さんの成長速度は怖いくらい早いっすね、今むっちゃん先輩に説明するから手牌を晒したんすけど……。

 なんすか? あの安牌の山。まだ私が一向聴なのにロンあがりできないほど準備済み。

 部長が聴牌にはまだ遠かったってことっすよね? その集め方は。それでいて京さんはダマで聴牌とか……。

 

 かおりん先輩がツモらなかったら、多分京さんがあがってた。

 気になるっすね……。さっきといい今といい、京さんの引きは良過ぎる気がするっす。

 そんな都合良く集まるもんじゃないっすよね? “相手の安牌で聴牌”とか。

 

 だから、むっちゃん先輩も食い付いてる。そんな理想的聴牌が目の前で出来上がったんだからわかるっすよ、その気持ち。

 でも、その割にあがれてはいないんすよね……。能力が発現したならあがってたはずっす、かおりん先輩が役満をツモる前に。

 

「おーい、そろそろ次行くぞー?」

 

 おっと対局中だったっすね、って京さんは全く集中力を切らしてなかったのか手牌の準備が終わってるっす。

 部長は勿論終わっていて、私とかおりん先輩は配牌から理牌。そしてかおりん先輩が切り出した……。

 

モモ side out

 

 

睦月 side

 

 須賀君の麻雀、理牌しないことで位置から手牌を読ませない。そしてツモった牌もランダムに並べてトコトン情報を制限してる……。

 それは河にも言えて迷彩をかけ……って今回はかけてない? これも正確な情報を与えず読ませない手法か!

 引っかけも視野に入っていると……。とにかくありとあらゆる物を利用した堅い打ち筋、にも関わらず安牌確保と聴牌を同時に目指す。

 

 私から見てもわからないんだけど須賀君は“誰が一番聴牌に近いか”を観察で読み取れるらしく、その相手の安牌で手作りしてみせた。

 さっきはモモが一向聴だったからと聞いたし、佳織から危険な雰囲気を感じたけど“態と”無視したという。

 例の役満が能力か確かめたかったそうだけど……、そう言いながら結果がアレだというのには脱帽するしかない。

 

 ちなみに今回の須賀君は二向聴スタート、これだと早々に聴牌する可能性が高いのは言うまでもないか………。

 だけど、そんな状況でも安牌確保はしっかりやっていて、どうも見たところ相手は部長みたいだ。

 佳織とモモは手が遅いということか、そして……。

 

「リーチだぞー」

「安易なリーチは危険だぞ? 蒲原」

「ユミちんは慎重過ぎるぞー、行く時は行かないと勝てるものも勝てなくなるからなー」

 

 どちらの言い分もある意味で正しいと思う、しかし……。

 

「ロン、断么、平和、一盃口、ドラ2

 満貫は8,000点ですよ、部長」

 

 これが須賀君の怖さ、“安牌で構成された手牌によるあがり“。

 今回は一歩部長が遅かった、しかし堅い守りとあがりを同時にこなすのはとても難しい。

 そして同時に思うのは引きが良過ぎるんじゃないかという疑問。

 

「だから言っただろう、須賀君は堅いだけじゃない。常にあがりを目指している。

 安易なリーチは逃げ道を潰し、手作りを優先すれば振るのは蒲原もわかっていただろう?」

「……こんなことでは泣かないぞ」

 

 ちょ、部長! そこまで悔しいですか? いや、今の部長は勝ちに拘っているから……。

 

「部長」

「なんだー、キョウタ〜」

「今、恐らく普段ならしない場面でリーチしましたよね? それは焦って強くなろうとしたからじゃないですか?」

 

 通って来た道なんだろう、須賀君も。だから部長の気持ちが……。

 

「……キョウタ、私は勝ちたい。高校生活最後の大会をみんなで勝って少しでも長く一緒にいたいんだ……」

「蒲原……」

「智美ちゃん……」

 

 そう言った部長と名前を呼んだ加治木先輩に佳織、俯いた部長に声をかけるのは憚られ……!?

 

「いいじゃないですか! 俺も勿論勝ちにいきますよ?

 そのために鶴賀の麻雀部ができることは一つです、それは振らない堅さを得ること。

 これは絶対条件です、その上であがるという麻雀の基本を極めるしかないんじゃないですか?」

 

 みんなが須賀君を見ている、勿論私も。

 

「今の麻雀、特に女子は能力に頼っています。勿論、地力をしっかり鍛えた選手もいますが。

 そんな相手に勝つには俺の経験が生きる筈です。

 能力持ちに負け続けていたにも関わらず勝って鶴賀に来た俺の」

 

 そう言うと須賀君は席を立ち、ホワイトボードにこう書いた。鶴賀学園麻雀部強化合宿と……。

 

睦月 side out

 

 

京太郎 side

 

 何がそうさせたのかはわからないが、本気で勝ちたいんだという意思は俺に伝わってきた。

 俺だってまだまだ弱いけど、それでもできることがある筈だ。

 なら、それを伝えてみよう。それが鶴賀学園麻雀部の輪に温かく迎えて貰った俺の今できる全てだから。

 

「強化合宿……か、案としては悪くないな。須賀君、説明してくれるか?」

 

 加治木先輩は乗り気だな、この人も勝ちに来てたけど部長より冷静だった。

 部長は気持ちが先行し過ぎてるから、色々と説明が必要だろう。

 

「ええ、加治木先輩。

 まず麻雀という競技から能力を除いた強さを獲得しなければいけません。

 何故なら、能力持ちの方が間違いなく少ないからです」

「つまり本来の麻雀を極めろということか。

 それで須賀君の持論である堅い守りの麻雀に行き着くという訳だな?」

 

 理解が早くて助かるな、とはいえ加治木先輩だけわかってもダメだ。

 

「ええ、麻雀は技術を競う物、間違っても能力を競う物ではありません。

 確かに能力持ちは強力ですが、それを憂う前に自分自身を鍛えきってますか?

 俺は鍛えきれていません、勿論ここにいる全員もそう見えます」

「そこに強くなる余地があるってことっすね? 確かに素の雀力が無いと凌げないっす。

 そこを凌ぎきってからが私のステルスの出番っすから」

 

 ん、ありがとう、モモ。そうやって援護してくれると話を進めやすい。

 

「今、モモが言った様に持っている人ですら、地力が無ければ活かせない。

 なら、持っていない人は何を置いても地力向上が必須ですよね?

 そこで単純に打つだけでは得られない物を、俺が経験して得た全てを伝えます」

「そんなことしていいのか、キョウタ〜。それはキョウタの財産だろー?」

 

 そう言った部長は申し訳なさそうで、けど貪欲さも見える目をしていた。

 

「俺の居場所なんですよね? 鶴賀学園麻雀部は。なら嫌でも受け取って貰いますよ。

 俺達は勝つんですから、昨年の覇者龍門渕にも名門風越にも、勿論その他の麻雀部にもね」

 

 不敵な笑みを浮かべてそう言い切った、言い出しっぺが強気でなくてどうするっていうんだ?

 俺に居場所をくれたみんなに感謝を込めて、意地でも衣さん達が待つだろう決勝までは絶対に辿り着いて貰う。

 そこで勝てるかはこれからの日々にかかっているんだから……。

 

京太郎 side out




鶴賀の面々は京太郎を温かく迎え、京太郎はそれに応えようとしています。
京太郎の失った物を埋め、鶴賀学園麻雀部員に足りない物を埋める。
そう言う意図でタイトルとしました。

ちなみに少々しつこく、もしくはテンポが落ちた様に感じるかもしれません。
ですが、鶴賀の面々の想いや今後の行動へ至る経緯を表現しないとなんの脈絡もなくアレコレ知ってたり、行動が原作から大きく離れた理由が不明で後程違和感として襲って来ます。
今話でそこはクリアしたので心置きなく次の展開へ移ることができるんだとご理解下さい。

そう言うことで次回は思い切り時間を飛ばす予定です、お楽しみに!

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