咲-Saki- side K 京太郎、雀士への道 作:しおんの書棚
モモ side
まずはアンケートっすね。そう思いながら昨夜、部屋のPCで作ったアンケートを持って麻雀部に人が来るのを待つ。するとこっちに向かって歩いてくる人達がいた。
「ゆみちん、まだ探してるのか?」
「勿論だ、あんな魅力的な打ち手は逃せない」
お、この人が私を勧誘した人っすか。そんなことを考えながら様子を窺ってると、麻雀部の鍵を開けてドアが思いっきり開けられた。ちょっと驚いたっす。
「
「ワハハ」
今のうちっす! 素早くすり抜けて中へ。私は邪魔にならない場所で部員が集まるのを待った。
「あ、
「こんにちは」
「
これで全員……、雰囲気は良い、仲良さそうっすね。ここに私と京さんが加わったら清澄と同じメンバー構成っすか……。
雀卓に向かわず談笑してる今がチャンスっすね、その間にアンケートを置いて様子を見るっす。あ、ついでにボイスレコーダーもっと。
「じゃあ、始めようか」
そう言いながら雀卓の前まで来て、確か加治木先輩? が封筒に気付いた。
「誰か置いたか?」
「おー、ゆみちんにラブレターか? 私は置いてないぞ〜、ワハハ」
「私も」
「私もです〜」
加治木先輩が怪訝そうに封筒を開く、そしてアンケートを見て……。
「彼女からか!」
そう言うと読み出した。
モモ side out
ゆみ side
“勧誘を受けている者です、諸事情あってアンケートを送ります。
大袈裟ではなく人生を左右する内容ですので嘘偽り無く真剣にお答え下さい。
また、お答えいただいた内容について入部した場合は遵守して下さい、よろしくお願いします。”
出だしからコレとは……。しかし、どうやって此処に?
「ワハハ。責任重大だぞ、ゆみちん」
「笑い事じゃないぞ、蒲原。とにかく全員で真剣に考えるぞ」
“問1 女子・男子部員の2名が入部しました、女子部員が入った事で団体戦に出る事ができます。
男子部員は初心者ですが本気で麻雀をやるための入部、麻雀部はどの様な対応をしますか?”
正直なところ団体戦に専念したくはある。だが、初心者でやる気がある者を育てる事すら出来ない場所は部を名乗ることすら
勿論、育てる事はそれ自体が教える者の力を高める手段の一つでもあるしな。
「ワハハ。何も考えることはないぞ、ゆみちん。
誰だって初めは初心者なんだ。
「そうだな、私もそう思う。よし、次だ」
”問2 入部した男子部員が唯一の1年生でした。麻雀部の雑務について、どの様に対応しますか?”
「雑務と言うと牌磨きや部室の掃除、あとはちょっとした買い出しでしょうか?」
「それなら今までも皆で分担してやってたから変わらないよね〜?」
「ああ、誰か1人に押し付けるような事は私自身好まない。
それよりもさっきからずっと気になっているんだが……。
この男子生徒。余程酷い扱いを受けていた、もしくは受けているかの様に読み取れる。
それを彼女が、勿論彼かもしれないが快く思っていない。
だが、うちの麻雀部に男子生徒はいない、転入でも考えてるのか?」
そうとでも思わなければ質問の意図が分からない。
「そう言われてみると確かに、ともかく次に行きましょう」
「ああ」
“問3 女子生徒が男子生徒への指導について異論を唱えました、麻雀部はどの様に対応しますか?”
「悩むまでも無いな。より良い方を選ぶし、全員で意見を出し合って更に良い方法をも探す。
それとこの女子生徒は彼の事を本気で応援しているのが窺える。
友人か恋人かわからないが余程大切なんだな」
「恋人じゃなくても好きな人だったらわかりますね」
「そう言われればそうだな、さて最後は……」
“ご協力ありがとうございました。
内容を書き記した後、封をして部室前の窓辺に置いて下さい。
また、置いた後は部室にお戻り下さい。詮索は禁じます。
私の入部条件は現状、自力で見つけるという事をお忘れなく。”
「ワハハ。先に釘を刺されたな、ゆみちん。私が置いてこよう」
「ああ、頼む蒲原」
そう言うと蒲原はまた豪快にドアを開けて、封書を指定の場所に置くとすぐ戻って来た。
「しかし、あそこに置いて誰か他人に持ち去られることは考えないのか?
そもそもどうやってアレを部室の雀卓に置いたのかすらわからんぞ」
「ワハハ、これだけ探して見つからないなら幽霊だなあ」
足音に聞き耳を立てていたが何も聞こえない……か。まったく蒲原は……、妹尾が青くなってるぞ? わざとだな?
「馬鹿を言うな。
幽霊が学校に通ってネット麻雀を打ち、アンケートを作ってあそこに置ける訳が無い」
「そ、そうですよね〜」
待て、自分の言葉に疑問が湧いた。逆説的に考えれば幽霊は無いが他の可能性が出てくる、それが原因で見つけられないのか?
しばらくしてから皆で部室を出たが封筒は無くなっていた、人の足音や気配すら感じなかったにも関わらずだ。
「一体どうやって……」
そう皆は驚いていたが、私はさっきの予想が的外れでは無いと直感していた。
ゆみ side out
モモ side
自宅の部屋、私は一人ゴロゴロ転がりながら悶絶していた。
「やばいっす、恥ずかし過ぎるっす!」
ただ必要な事をアンケートにしたつもりだったけど、よくよく読み返して見れば……。
「誰から見てもあの先輩の言う通りっす! あそこに入るっすか!?」
アンケート結果は最高。京さんに伝えれば今の仲間(正直仲間とは思えないっすけど)と家族から離れるデメリット。それ以上に金銭的な負担は減り、麻雀に取り組めるメリットの方が上回るはずっす。
まあ京さんは優しいから、それだけで判断しない可能性はある。そう思いつつも来てくれると私には思えた、当然来てくれれば私は凄く嬉しいっす!
それはいいんすけど一緒に入部するつもりだった麻雀部に私の好意がもろバレと考えると……。
「ああああううぅぅぅっ、超恥ずかし過ぎるっす!」
一時止まり考えていた私は再びゴロゴロ。そこでふと思い出す、“余程大切な”。
「それっす! 京さんは命の恩人で友人をアピールすれば解決!」
そう無理矢理自己完結した私は頭を切り替えて早速連絡することに。
ワンコール、ツーコール、スリーコール……。
『もしもし、どうした?』
あれ? 名前で呼んでくれないっすか? もしかして……。
「今、部活中っすか?」
『ああ、けど大丈夫だ、例の件か?』
やっぱり、流石に女子5人の中で私の名前を呼んで誰かの耳に入れば面倒事になりそうっすね。
「そうっす、部員は良い人そうで雑務は全員で分担。
団体戦に出るとしても、しっかり鍛えるって確認したっす。
もし指導に納得出来なかったら全員でもっと良い方法を考えるとも言ってくれたっすよ?」
『そうか、それはありがたい話だな。俺も資料はネットで確認した、少し考えさせてくれ』
京さんがそう言った時、とんでもない言葉が聞こえてきたっす。
『犬! 飲み物が切れたじぇ!』
『わかった! すぐ準備するからちょっと待ってろ、優希!
ごめん、そう言う事だからまた連絡するよ』
「良い返事を期待して待ってるっす」
『ああ、またな』
そう言うと電話は切れた。
「なんすか、犬って。京さんは私の世界一大切な人、許せないっす。
それに飲み物ぐらい自分で用意すればいいじゃないっすか。
『親しき仲にも礼儀あり』って言うのは当たり前なのに……。
確信したっす、清澄は最悪なだけじゃなくて最低っすね! 絶対転入すべきっす!」
私は心の底から怒っていた、さっきまでの好意云々を完全に忘れる程に……。
モモ side out
京太郎 side
あの日、モモを見送ってから俺は直ぐに病院へ向かった。
「全治一週間ですか?」
「ええ、ですが治っても肩から上には殆ど上がらないでしょう。
先ほど伺った以前の故障に加えて部活の雑務で徐々に蓄積。
そんな状態で人ひとり引っ張ったのは致命的です。
殆ど痛みが無いのも肩まで上がるだけでも相当運が良かった。
サポーターで肩を保護します、あとは定期的に無臭の湿布を交換して下さい。
勿論、重い物を持つのは厳禁です」
モモを引っ張った直後は予想外な事も重なり変なアドレナリンでも出てたんだろう、落ち着いて話している内に肩が熱を持ってると気付いて出た診断結果がこれだ。
麻雀するのに支障は無い、けど以前ほど無理は効かなくなった。
不幸中の幸いか、開校記念日を含んだ3連休初日にやったお陰で順調に回復してる。
怪我については両親以外に話してない、誰にも言わないよう頼んであるから余程の事が無い限りバレる事も無いだろう。
そして迎えた休み開けの今日は月曜日、モモから早速連絡があったと言う訳だ。とりあえず向こうの環境が整ってるのはよくわかった。
それはそれとしてだ。モモの言う清澄の環境は置いておくとしても俺に出来る事は極端に減るだろう、それだけは間違い無いと断言できる。特に部長は結構な無茶振りをするから尚更だ。今後、力仕事でも頼まれたら俺はそれに応えられない。
そうこう考えながら優希のついでに全員へ飲み物を配る、そして俺は和の後ろで牌譜を取りながら卓の全員を真剣に観察していた。勿論、和の打ち筋もだ。完治までの残り四日間で俺は身の振り方を決める、これはその一環であり俺なりの行動指針による物。
「須賀君、今日は随分と熱心ね」
「部長、
なら現実的に言って和の打ち筋から少しでも学ぶのが一番でしょ?」
「のどちゃんから学ぶとは目の付け所が良いじょ! 流石は私が躾けた犬だ!」
はあ、どうして優希はいつもこうなんだ?
「ていうか、お前に躾けられた覚えは無い!」
親愛の形なんだろうけど、他人が聞いたらどうなるか誰か教えてやってくれよ。マジで大変な事になる前にさ。
「まあまあ、ともかく京太郎の言う通りじゃ。ウチらの打ち筋は参考にゃあならんしのぉ」
「残念ながらそう言う事です。ほら、俺のこと気にしてる余裕なんかあるんですか」
「そうですね」
話はここまでという意図で放った言葉、和が照れ臭そうに同意して麻雀は再開された。
京太郎 side out
久 side
須賀君には本当に悪いと思うけど、私にとって念願であり最初で最後のチャンス。団体戦参加が決まってからメンバーの強化に全力を尽くしているんだけど……。
彼には指導一つしてないのが現状。当然罪悪感を覚えるし、好意に甘えるだけで何も返せていないジレンマを常々抱えていた。
そんな状況にも関わらず彼は私達のサポートを嫌な顔一つしないでこなしてくれる。卓に寄り付こうともしないで、ネット麻雀を利用した自主練習の日々。
きっと邪魔にならないようにとか考えて気遣ってくれてるのよね、でも感謝することはあっても邪魔だなんて思った事は一度も無かった。だから決めていたのよ、大会が終わったら私に出来る限りの恩返しを必ずするってね。
そう思っていた私の目に今日の須賀君は何かが違って見えた。いつもなら和を見てデレデレしそうな距離。そこで牌譜を取りつつ全員を観察し、和の打ち筋から何かを得ようとする真剣な表情。
だから、揶揄う素振りで話しかけたんだけど……、軽くあしらわれたうえに反論の余地も無い正論が返って来た。
皆は違和感を感じないのか、それとも須賀君なりの取組みに感心したのか肯定した。私も良い事だとは思ってるけど、どうしてか違和感が拭えない。
とはいえ何一つ教えてすらいない私と、サポートをこなしつつ自主的に学ぼうとする彼。止める意味もなければ追及する程の確証は無いし、理由は彼自身から既に聞いた。
結局、何もわからないまま部活は終わり、須賀君だけが後始末に残るいつもの光景。本当にこれでいいのかと思いつつも、また彼の好意に甘えてしまった。
思えば何故この時、残って彼と話さなかったのか、『後の祭り』っていうのはこういうことなんだとわかった時には既に手遅れ。一生後悔し続けるかどうかのターニングポイントを見誤ったのに気づいたのは……。
須賀君が消えた後だったのだから。
久 side out
原作によれば京太郎は中学時代、ハンドボール部でしたが肩を痛めたと言う経緯があります。
確か県大会準優勝だった筈です、つまり怪訝さえ無ければインターミドル全国大会出場の可能性が……。
2022/03/09 改訂