咲-Saki- side K 京太郎、雀士への道   作:しおんの書棚

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一つの闘いが終わった場でのお話をお送りします。


八本場 終わりは新たな始まり

ゆみ side

 

 さて、浸ってばかりはいられんな。用を済ませて、モモと須賀君が待つ部屋に行かなくては。

 

「清澄の宮永、須賀君から君達宛の手紙を預かっている」

 

 私の言葉にピクリと反応した彼女の目に幾分か光が戻る。その想いがあるなら須賀君がいる間に示すべきだったな。そう思いつつ手渡す時、気づけば一言だけ告げていた。

 

「君が味わったものと同じではないだろうが……、須賀君は何をどれだけ味わったのだろうな。

 だが、彼は自力で立ち上がり前へと進んだ。宮永、君は。君達はどうだ?」

 

 勝負の最中に怒りを覚えたのは確かだ。だが、例え宮永自身の放った言葉が原因だとしても敗者を痛ぶるほど私は落ちぶれていないつもりだ。

 そしてだ、そんなことを須賀君が望むとは私には思えない。ならば彼女の背中を押すのが他校とはいえ上級生である者の務め、そうだろう、須賀君?

 

 しばらくの間、手紙をじっと見詰めていた宮永だったが、ふらりと立ち上がり……。

 

「今の言葉、京ちゃんの手紙をよく読んでもう一度考えてみようと思います。

 対局、ありがとうございました」

 

 そう言った宮永は、私達に深々と礼をしてから対局室を出て行った。須賀君の癖が移ったか? 私も随分とお人好しになったものだ。さて、次はこちらか……。

 

「風越の池田、私は君を尊敬する。

 苦境から立ち上がり、最後まで諦めず鎬を削ったこの対局を私は一生忘れないだろう。

 君達風越が決勝の相手で良かったと、心からそう思うよ」

 

 須賀君が対抗策を用意してくれたからこその勝利だと私は思っている、ではもし無かったら? 池田の様に立ち向かえたと、私には断言できない。

 対抗策、つまり御守りの加護が無かった局の精神的苦痛は並ではなかった。それを彼女は最初から最後まで凌ぎ、数え役満を含む役満を二度もあがって見せた。

 そして遂には一度も振ることなく風越の二位を勝ち取ったのだ、これを尊敬せずに何を尊敬するというのか。

 

「……正直に言って鶴賀は眼中に無かった。

 龍門淵に勝って去年の雪辱を晴らすのが風越の目標だったし。

 けど、進むにつれて強敵だってわかった。

 

 それに聞いたんだ、キョウタロウっていう人のことを文堂から。

 私達には他人事に聞こえなかった、だから清澄には絶対負けられないって思ったし。

 

 加治木……さんは来年いないけど、次に勝つのは風越だし!

 私も覚えとく。初出場で全国の切符を手にした鶴賀の大将、その打牌と言葉を」

 

 そう言って池田は手を差し出した、勿論私はその手を握る。

 

「ユミよ、衣との麻雀は楽しかったか?」

 

「勿論だとも、さきほど池田にも言ったが一生忘れられない対局となった。

 須賀君の言葉の意味を身をもって思い知らされたしな。

 天江のお陰で全国への心構えがより一層強固になったさ」

 

「私も楽しかったし! けど来年は風越が勝つ!」

 

 私に続いて池田が笑顔でそう言ったのを聞き、天江も笑顔になった。……余計な(しがらみ)さえなければ宮永も此処にいたんだろうが非常に残念だ。

 

「ほざいたな? 風越のカナ、だったか?

 名は覚えた、次は完膚なきまでに叩き潰すゆえ楽しみに待つがいい。

 

 それにしてもキョータローは本当に凄い奴だな。

 こうして衣が他人と麻雀を楽しめる日が来るとは……」

 

 天江には天江なりの苦しみがあった……ということか? 須賀君はプライベートな話は一切漏らさなかったからな。差し出された天江の手を私は握り返し……。

 

「ああ、彼は大切な仲間であり、素晴らしいコーチ。

 そして、鶴賀インターハイ出場の立役者だ。ところで天江……」

 

「衣でいい、ユミ。それとだな……、衣と友達になってはくれぬか?」

 

 私の話を遮って天江、いや衣は対局中の態度から想像できないほど不安げにそう告げた。私は迷うことなく……。

 

「ああ、これも何かの縁。私からも是非頼むよ、衣」

 

 そう言いながら笑顔で答えると、衣は別人の様に幼くも天真爛漫な笑顔になった。

 

「そうか! よろしく頼む! ユミ!

 

 ところで決勝後に会いに行く約束だった、何か要件がある様だが想像はついている。

 その場で見て話す(・・・・・・・・)としよう、家族もキョータローに会いたがっていたからな。

 龍門淵全員で行きたいのだが……、案内を頼めるか?」

 

 天江、いや衣の話に頷くと私はこう告げた。

 

「ああ、では行こうか、須賀君が待っている。池田もそろそろ仲間の所に戻るのだろう?」

 

 その後、私達は三人揃って対局室を出る。今はただの学生として、他愛無い話をしながら……。

 

ゆみ side out

 

 

京太郎 side

 

「流石は加治木先輩、これは俺も続かないとな? なぁ、モモ……

 決戦で勝てたのは稼ぎ続けた点差を有効に活かしたからだ。

 

 モモはよくやったよ、でも無理は禁物だぞ? 気持ちはわからなくもないけどな」

 

 あれから随分と時間が経って点滴も外れてる。車椅子なら出歩いてもいいと許可は出てるんだが……俺が無理させたくなかった。

 何があったかは、なんとかモモから聞くことができた。あれは和の口癖みたいな物なんだが、モモにとっては認められる訳が無い(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「あの時はただ許せなかったっす。

 冷静になった今なら他意は無かったって、一応理解してるっすよ?」

 

一応(・・)、ね。

 まあ、俺がモモの立場でも同じだったとは思うから、この話はここまでだな。

 

 で、そろそろみんなが来ると思うんだが……」

 

 加治木先輩に頼んで勝敗に関わらず、衣さんには俺が呼んでるって伝言を。咲には手紙を渡して欲しいと頼んでいた、あの時何か話したいことがあったみたいだからな。

 そう思っているとノックの音がして……。

 

「どちら様っすか?」

 

「私だ、モモ。入るぞ」

 

 そして入って来たのは鶴賀のみんなと……衣さん達、龍門淵が全員揃っていた。

 

「キョータロー、よくぞ約束を守ってくれた。まさか我らを下すとは思っていなかったがな」

 

「約束? 何の話だ、衣?」

 

 ん? 今、加治木先輩が衣さんを名前で呼んだってことは……そういうことか? なら良かったな、衣さん。

 

「聞いてないのか? 我らの事を仔細に告げて相手になる者を用意してみよと言ったのだ。

 だから衣はキョータローが集めたものだとばかり思っていたのだが……、どうも違う様だな」

 

「鶴賀にはそんなことをしなくても闘えるメンバーが始めから揃ってたんだ、衣さん。

 打ち筋や能力は伝えたけど、勝ったのはみんなの実力だよ」

 

 俺の言葉に繁々と見られるみんなは面映いのか、なんとも言えない表情だったけど俺は本気でそう思ってる。

 

「……須賀君、誉め殺しはやめてくれ。君の協力があったからこその結果だ」

 

「そうっすよ! 京さんがいなかったら……」

 

「貴女! 倒れたと聞きましたけど大丈夫ですの!?

 いえ、それも大切ですが何をしたのか聞かなければ! わたくしの気が晴れませんわ!」

 

 そこまで言ったモモの言葉を遮ったのは、ステルスの餌食になった透華さんだった……。

 

京太郎 side out

 

 

衣 side

 

 トーカ……、いくらなんでも今のは無いぞ? 衣ですら空気くらい読むというのに……。

 

「落ち着いて、透華。ここ病室だよ? あまり大きな声で騒ぐとナースさんが飛んで来る」

 

 うむ、ハジメの言う通りだな。しかし、ここまで来てやっとわかった。だが、一応聞いておくとしよう。

 

「うむ、とりあえず、トーカ、少し待て。キョータロー、衣に話があるのだろう?」

 

「ええ、実はここにいるモモの状態を聞きたくて」

 

 やはりか……、だが。

 

「モモというのはトーカと打った、そのベットにいる者だな?」

 

「はい、そうですって……、あれ? もしかして見えてる(・・・・)んですか?」

 

 なるほど、やはりそういった能力(・・・・・・・)か。

 

「トーカに見えて、衣にも見える。他の者はどうだ?」

 

「質問の意味はわからないが見える(・・・)ぞ?」

 

「まあ、そうだよね……って、ああ、そういうこと?」

 

「……見えない打ち手?」

 

 唖然としているな、だがそれも当然か。恐らくは……。

 

「一つ聞く、モモとやらは本来見えなかった(・・・・・・)のだな?

 だが今は見えている、どうだ? キョータロー」

 

「え、ええ。俺以外には見えなかった……筈なのに今はみんな見えてる?」

 

 答えは出たな、これはやはり恐ろしい能力だ。だが、今はまだ使い熟せていない(・・・・・・・・)……か。

 

「うむ、衣の予想が入ってはいるが一応答え合わせといこうか。

 

 モモとやらは以前見えなかった、それは能力が能力と言えないほど不完全な状態で発動していたからだ。

 例えるならガスがわかりやすいだろう、生産するが制御されておらず弁から漏れ出ていた。

 漏れ出る以上、納める量の把握ができずに生産量は増加していく。

 

 だが、生産するからには蓄えることもコントロールすることも本来ならできる。

 そして今見えるのは、漏れ出ていない(・・・・・・・)からだ」

 

 よく考えて完全に受け入れよ、さすれば……。

 

「じゃあ、今はどこに行ったんすか? そのガスは」

 

元々あった貯蔵タンク(・・・・・・・・・・)にだ、空になったのだから今は蓄えている。

 

 其方、あの対局中に一度受け入れたであろう?

 それまでは受け入れていなかったゆえタンクのバルブは閉まっていたのだ。

 それを一気に解放した結果、本来の今まで通っていなかったルートを無理矢理開き全放出した。

 

 倒れたのはその反動だ、故に心から受け入れよ。

 さすれば訓練次第で自在に発動と停止が可能になる。

 

 恐ろしい能力だぞ、己の意志一つで自由自在に消える(・・・)など。

 だが、ガスの様な物である以上は多用すると枯渇しかねん、今回の様にな?

 普段は極力温存し、ここぞという時に使ってこそ最大限の効果を発揮するであろう」

 

 この能力が完成すれば全国で強力な武器となる、鶴賀が勝ち進むには絶対に必要となるだろう。そう思った衣の目に映ったのは……、涙を零すモモとやらの姿だった。

 

衣 side out

 

 

モモ side

 

 もう孤独に怯えなくていい、京さん以外のみんなとも普通に過ごせるんだって思ったら自然と涙が溢れたっす。

 

「私はずっと独りだったっす、春に京さんと出会うまでは。

 麻雀部にいても、わかってはいるんすけどいないって思われるのは正直辛かったっす」

 

「モモと呼んでもよいか?」

 

 今のは天江さんっすよね!? 何か話があるっぽい雰囲気、知らず知らずの内に頷いてたっす。

 

「モモよ、衣は見えているからこそ幽閉された」

 

「えっ……」

 

 どういうことっすか? 全然想像がつかないっす。

 

「衣は異常に強力な能力を持って生まれた、だがその能力を恐れられ疎まれたのだ。

 父君と母君が現世(うつしよ)にいた頃は良かった。

 だが御隠れになったのは衣のせいだと叔父上は……。

 

 よいか、モモよ?人は見えていようがいまいが他人の都合で簡単に孤独へと陥る。

 衣とモモは特に似ているな、能力によって孤独になった(・・・・・・・・・・・・)という点においてだ。

 

 だが、そこから救い出してくれるのもまた人なのだ。衣を救ったのは、キョータローと家族。

 そして、モモを救い出したのもキョータローと仲間ではないのか?」

 

 私はみんなを見たっす、最後に加治木先輩、そして京さんを。不意に髪を撫でる感触が……。

 

「モモはとっくに一人じゃないだろ? 俺も加治木先輩も、そしてみんながいる。

 気づけない時はあったかもしれない、でも麻雀部にはモモの居場所があったじゃないか。

 

 みんなと一緒に合宿してさ、勝って負けて泣いて笑って。その時間は全員の物だった筈だろ?

 そしてこれからはもっと仲良くなれるんだぞ?

 

 前を向け、モモ。これから全国に向けて、まだまだ扱いてやるからな!」

 

「うむ、良い事を聞いた。トーカ、鶴賀が全国で闘えるよう友達に力を貸す(・・・・・・・)ぞ。

 

 我らですら敗北したのだ、何も知らず全国に乗り込めば敗北は必至。

 二か月の間、可能な限り、我らで相手をする。そしてさらに腕を上げるのだ。

 それに折角集めた情報を活かさぬ手は無い、構わんな?」

 

「勿論ですわ! わたくし達に勝った以上、全国制覇して貰わなくては!」

 

 いやいや、個人戦はどうするつもりっすか?

 

「有難い申し出ですけど、個人戦があるなら規約違反ですよ、透華さん?」

 

「何を言ってるのだ、キョータロー?衣の初めての友達が個人戦で闘うのだぞ?

 衣達が個人戦に出ていては応援できないではないのか」

 

 うわー、京さん、とんでもないっすね。まさか龍門淵全員個人戦不参加とか、まあ人のことは言えないんっすけどね? こっちも全員不参加なんすから、京さんには秘密っすけど。

 

「は、はははっ、理由にはなってるっすね、それ」

 

 私の笑いに釣られて、みんなが笑ってる。ああ、今、私はここにいる(・・・・・)んっすね。ありがとう、京さん! ありがとう、みんな!

 私はもう二度と一人だなんて思わないっす、だってこんなにも大きな笑いが響いてるんすから!

 

モモ side out




さて、モモの能力が限定解除され、コントロール可能な準備ができました。
完全なコントロールに訓練が必要とは衣の弁。

そして龍門淵五人衆という強力なスパーリングパートナーが誕生、全国大会に必要な情報を携えての参戦は追い風になるでしょう。

さらに龍門淵と鶴賀の女子個人戦不参加が決定済。愛されてるねー、京太郎!

とまあ今回は以上の情報と関係構築メインのお話でした、次回は清澄側の出来事などでひとまず締めます。

その後、次局、男子個人戦編へ突入です!
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