咲-Saki- side K 京太郎、雀士への道 作:しおんの書棚
久 side
大将戦が終わった直後から控え室に声は無かった。心配だった優希が唯一のプラス収支で後は全てマイナス…と言っても、まこの失点は事故の様な物だし、咲は盛り返して逆転の一手すら打ってみせた。
いつもの和なら咲の所へ飛んでくんでしょうけど、それすらできないのは大量失点の責任を感じて声も無く泣いているから。
聞けばいつもの台詞を鶴賀の東横さんに言った直後から、彼女の河は見えなくなり、声も聞こえなかったとか。
モニター越しの私達には見えるし、聞こえていたこと。和以外にも同じデジタル打ちの龍門淵さんが、あり得ない振り込みをして驚いた様子から
つまり全力を尽くした和にも責任は無いのよ、なら部長である私が大戦犯。まこが言ってた通り、須賀君というあたり牌を切ってしまった時点で私自らこの結果を引き寄せた。いえ、そういう問題じゃないわよね。何考えてるのかしら、私は……。
そう考え込んでいると不意にガチャっと音がして、出入り口を見れば咲が。
「すみませんでした、最後の一手を読まれて河にも騙されて……」
「あれは仕方ないわ、咲。向こうが一枚上手だった、そういうことよ」
加治木さんはセンスがズバ抜けてた。しかも恐らく須賀君から吸収した河や手牌による情報制限・誘導が恐ろしく上手い。そして鶴賀には私達の情報が強化合宿前のものとはいえ全て伝わっていて対策も完璧だったし……って、私は咲が手紙を持っていることに気づいた。
「咲、その手紙は?」
「京ちゃんから私達にって……、加治木さんから手渡されました」
その言葉に全員が反応した。当然よね? 勝って謝りたいと思っていた相手からまさかの手紙。
咲から渡された手紙には確かに須賀君の名が、私は開封して読むことに。
“清澄高校麻雀部の皆さんへ
先日、何か私に話したい様子が窺えましたので筆を取りました。
この手紙を書いている時点では、どの様な結果になったのか当然わかりません。
ですが勝ち負けに関わらず、お会いするつもりはありません。
何故なら皆さんの団体戦は終わったのでしょうが、私の闘いはこれからです。
話をすることで闘いに影響が出る可能性がある以上、
以前、手紙に記した様に私は鶴賀学園麻雀部の一員として大会に参加しています。
同時に全国へ行くこと、そしてその先でも勝つために一局一局が背水の陣の覚悟。
ですので、お話を聞くのは個人戦の結果が出てからにしていただきたいと思います。
また皆さんも個人戦に出るのでしたら、ご健闘をお祈りいたします。
鶴賀学園麻雀部 須賀京太郎より”
……当たり前過ぎて自分の馬鹿さ加減にほとほと嫌気がさした、私は自分のしたいことばかり考えて須賀君の想いをまったく考慮していなかったのだから。
「何も学んでないなんて……、自分のことながら呆れるわ……」
無意識に呟いた言葉、それが全てだった。
久 side out
咲 side
部長は手紙を読んで呟いた。
「何も学んでないなんて……、自分のことながら呆れるわ……」
何も学んでない? そう思ってたら染谷先輩が……。
「わしらにも見る権利はあるんじゃろ?」
そう言って部長から手紙を受け取ると、全員が読める様にしてくれたんだ。そして部長の言葉の意味が良くわかった、また間違えてたんだって。
あっ、加治木さんの言葉もみんなに伝えた方がいいよね。
「あの、大将戦の後で加治木さんから言われたんですけど……」
そう言って私は一言一句変えずに伝えた。あの言葉には悪意が無かったし、何か込められてるって思ったから。
「加治木さんは大人ね、他校の下級生やチームにそんな言葉をかけられるなんて。
しかも、須賀君の件があるんだから余計に、ね」
「君達はどうだ……か。すまんがわしは個人戦を辞退する、京太郎の応援をしたいんじゃ」
染谷先輩……。
「目標だった団体戦には出ることができた、それは須賀君から始まったって気づいてはいたのよ。
そしてそれこそ今更だけど、私の未熟で自分本位な考えが須賀君を転校にまで追い込んだ。
罪滅ぼしじゃなく、私自身が須賀君を応援したい。だから私も辞退するわ」
部長……。
「私も辞退するじょ、京太郎には迷惑ばっかりかけたのに悪い所を教えてくれたんだじぇ?
……それをあの時に活かせなかった私だけど、謝る前に行動で示すんだじぇ!」
優希ちゃんまで……。
「……須賀君には申し訳ないですが私は出ます。
どうしても勝たなければいけない理由がありますから。
宮永さんはどうするんですか? 宮永さんの目標は団体戦じゃなくても叶えられる筈です」
「私は……、私は個人戦を全力で闘い抜きます!」
そうだ、まだ可能性はある! 京ちゃん、応援できなくてごめんね? 全部終わったら会って謝らせて欲しいっていうのは、我儘で虫が良すぎると思う。けど、そんな未来が来ることを私は心から願った、新たな決意と共に……。
咲 side out
華菜 side
強がってみたけど、あそこで捲れなかったのは正直堪えるし……。でも去年とは違う! 私は全力を出し切ってミスもしてない! キャプテンを団体戦で全国に連れて行ってあげられなかったのは悔いが残るけど、胸を張って帰るんだし!
そう思いながら、控え室のドアを開けて……。
「華菜! 華菜は私達の誇りよ!」
「うわっぷ」
いきなりキャプテンの声が聞こえたと思ったら、前が見えなくなったし。って、これ……。気づいた私は顔が熱くなるのを感じたし。
「池田」
コーチの声が聞こえたと思ったら、キャプテンが私を胸から解放してくれたし。とりあえずコーチに向き合うしかない。
「池田、私が見て来た風越の大将でお前が一番だ。
今日のお前は完璧だった、全国出場は逃したが……私も誇らしく思う」
「コーチ……」
駄目だ、もう涙が我慢できない。狡いし、コーチ。今日に限ってそんな優しい表情と声で……。そしてコーチは私の横を通り抜けながら言ったし。
「連泊できる様にしてある、親御さんにも連絡済だ。個人戦に向けてしっかり備えろよ?」
そう言い残すとコーチは笑顔で控え室を出て行った、感極まった私達を残して……。
華菜 side out
京太郎 side
あれからしばらくいた衣さん達が引き上げて、ここには俺達しかいない。
さっきの騒ぎを聞きつけナースさんが本当に来て怒られた、というかモモの容態を見に来たらって話なんだが。一緒にいた先生の診察で、モモは無理しないって条件付きだけど表彰式に出られる様にもなった。
まあ、そういう条件だから移動は車椅子ということになって、そこは変わらない。
そう思いながら色々とみんなで話してたら、俺のスマホから着信音が。って、これは……。
「はい、須賀です」
『京太郎様、団体戦全国出場おめでとうございます』
そう、電話の主は今回お世話になった……。
「ありがとうございます、神代さん達も団体戦全国出場おめでとうございます。
丁度、皆さんの協力に感謝していたところです」
『……』
あれ? 返事が無いんだが……。俺、何か変なこと言ったか?
「あの、神代さん?」
『小蒔と呼んで下さる様にお願いしましたよね、京太郎様?』
あー、確かに言われたがここでそれを言うのか? ちょっと、いやかなり拙い気がするんだが……。そう思いながらも俺は腹を括った、じゃないと話が進まないからな。
「えっと、小蒔さん、ありがとうございました」
『はい♪ それでは個人戦頑張って下さいね? 応援しております。
全国の会場でお会いできるのを楽しみに待っていますので、それでは』
そう言って電話は切れた……が、別のモノもキレたらしい。
「京さん……、小蒔って女っすよね?」
「いてててっ! 落ち着けって、モモ! 左肩がっ! あー!!
離してくれないと話せないだろって!」
何か日本語がおかしくなってる気はするが、それどころじゃない! マジで痛いって!
「神代小蒔……、団体戦全国出場ということは永水女子か?」
「知ってるんすか、加治木先輩!?」
その声に手が緩んだ!加治木先輩! ありがとうございます!!
「ああ、一応な。去年の全国で活躍してインハイチャンプの宮永照、衣と同じ位に有名だからな。
そう言えば巫女でもあったか?」
「ええ、鹿児島にある霧島神宮の巫女ですね。
そして、あの御守りは神代さん達の手による特別な一品。
昔、家族旅行で行った時に知り合ったんですが、その時のツテでお願いしました」
まあ、往復丸一日かかったうえ、麻雀に付き合わされて大変な目にあったんだけどな?
「じゃあ、あの二日間で行ったんすか!?」
「行ったぞ? 往復だけで丸一日かかる。だから、あの
なんだ? また沈黙が……。
「……須賀君、今日はゆっくり休んで明日に備えてくれ」
「? ええ、勿論万全の状態で臨みますよ?」
よくわからない溜息をみんなにつかれた、なんでだ? まあ気にしても仕方ないか。
とにかく俺は俺のやり方でコンディションを最高に仕上げて、一局一局の結果を積み上げるんだ。そう、手紙に書いた様に!
京太郎 side out
ゆみ side
……先程話題になった二日間、それは大会までに許された
まあ、自己管理できるアスリートだった須賀君が、他人を見れて自分を見れないとは思っていない。ただそれとこれは別、気持ちの問題だからな。大切な仲間であり、団体戦全国出場の立役者である彼。そんな存在の心配をしない方がどうかしている、であれば安堵の溜息が漏れたのは当然だろう。
そんな取り留めも無いことを考えながら私は表彰式会場の控え室へ、本当に勝ったんだと実感が湧いたのは……。
「風越の福路美穂子です、最後の団体戦で皆さんと闘って私は大切な物を得たわ。
おめでとう、そして全国での活躍を応援しています」
「鶴賀の加治木ゆみだ。その言葉、そっくりそのまま返そう。
そしてありがとう、長野代表として恥じない闘いをするとここに誓うよ」
個人戦全国の常連、福路美穂子。恐らく今年も行くのだろうな、特に龍門淵が一人もいないなら例え清澄のメンバーが全員出ようと問題にならん。
「それにしても少し残念だよ、君と打ってみたかったな」
「個人戦には出られないんですか?」
「ああ、鶴賀の麻雀部にはもう一人大切な仲間がいるからな。
彼のお陰でこの場にいると言っても過言では無い」
そう言った瞬間、彼女の顔が曇って……。
「あの、立ち入った話だから断ってくれてもいいのだけれど……。
その彼は清澄から転入して来た人で、不遇な扱いを受けていたっていうのは……」
「本当の話だ。須賀京太郎君というのだが……、雑用を押し付けられていた様だ。
女子団体戦のメンバーが確保できてからは麻雀すら一切打たせなかったとも。
指導など一度もなく、ネット麻雀を一人打っていたらしい」
口にするだけで感情が乱れる。それだけ私は彼に恩義を感じているし、大切な仲間だからな。
「……らしいって、本人からは?」
「本人はそう受け取っていない様でな……。
ただ麻雀に打ち込める環境じゃないとの判断で転入を決断した、それ自体には敬服するよ。
だが、とある筋からの情報と彼の話を統合した結果、浮かび上がった内容は今話した通りだ」
須賀君は多くを語らない、ただ前を向いて進むのみだ。だからといって私達まで許せるかといえば……、答えなど決まっている。
「龍門淵……からなのね? 華菜に聞いたわ、その彼が天江さんの大切な友人だって……」
「ああ、衣を含む龍門淵全員が彼を気に入っている、応援のために個人戦を全員辞退する程にな。
勿論、私達はそれ以上。鶴賀も個人戦には参加せず、彼の応援とサポートに全力を尽くすさ」
「そう……、なのね。ごめんなさい、どうしても信じられなくて確認したかったの」
そう言った彼女は、とても悲しそうな表情だった……。
ゆみ side out
モモ side
『只今よりインターハイ長野県予選の表彰式を始めます。
呼ばれた各高は順次壇上へ上がって下さい』
まさか本当に全国へ行けるなんて、未だに信じられないっす。けど、この場にいるってことはそういうことっすよね。ちょっと現実味が湧かないっすけど。
『準優勝、風越女子高校麻雀部。
名門の名に恥じない素晴らしい闘いぶりでしたね、藤田プロ』
『ああ、特に先鋒と大将戦は見事だったな。
他にしても非常に高レベルだった、来年が楽しみだ』
コメントが流れる中、風越のメンバーは慣れた感じで段上に登ると拍手が。流石は常連っすね、うちとは大違いっす。
『続いてインターハイ長野県代表を初出場で勝ち取った優勝校、鶴賀学園高等部麻雀部。
終始安定した麻雀で一度トップに立ってからは譲らず、最後は劇的な国士無双で決着。
如何ですか? 藤田プロ』
『そうだな、堅守が持ち味だけにどこも隙が極めて少ない。
それでいてチャンスをモノにする嗅覚にも優れている印象を受けた。
加えて副将と大将の得点力は驚異的で、特に大将のセンスは本物だ』
プロの目からはそう見えるんすね? で、私のことに多く触れないのは全国を考えてって辺りが妥当っすかね?
そう思いながら一際高い段に登ると、想像以上の歓声に驚いたっす。そして、もう一つ……。
ありがとう、京さん! あの時、私を助けてくれて。今の私があるのは全部京さんのお陰、だから最高の笑顔で歓声に応えるっすよ! 見てくれてるっすか? 京さん! これが今の私にできる唯一の恩返しっす!
モモ side out
清澄は和と咲のみ、個人戦に参加。二人とも戦意を取り戻した様です。
残る三人はそれぞれの想いで京太郎の応援に、特に久は過ちに気づけた様で良かったと言えるでしょう。
風越は大団円、全国出場こそ逃しましたが龍門淵を倒すという目標は達成。今回は池田あぁぁ!されなくて、優しいコーチに違う意味で泣かされました。
美穂子は京太郎の件について信じられず、ゆみと会話。しかし、現実と知り何やら悲しげな様子でしたね。
そして表彰式は……、ハイ! モモ祭りです!
モモの京太郎愛が溢れた台詞を書く自分が非常にキモかったですw
それは置いといて、これもまたモモの能力コントロールに良い影響を齎すでしょう。
これだけ多くの人に認識されたことを実感できたのですから。
さて、男子個人戦は少々お待ち下さい。丁度キリもいいことですし。