咲-Saki- side K 京太郎、雀士への道 作:しおんの書棚
モモ side
現状から見て来たとするなら心当たりはたった一つっす、つまり……。
「流石にもう心当たりは……」
「駄目っす! 開けるのも聞くのも絶対駄目っす!!」
誰がなんと言っても絶対認めないっす! 清澄なんか!!
「モモよ、もしや……」
「消去法っす! 後は京さんを追い出した清澄しか! だから絶対駄目っす!!」
ここは京さんが作り上げた温かい場所、いていいのは京さんを純粋に応援したい人だけっす! あいつらにその資格なんて無い! どんな理由があっても、例え京さんが許しても私は絶対に許さない!!
「……ユミ、外に出る、共に来るか?」
「……ああ」
「それじゃあ、私達で進めるわ……」
ここにはいれない? そう聞いた私は……。
モモ side out
衣 side
今のモモを刺激するのは危険だ、能力が安定していない上に無理を通した影響など医学で計れるものではない。過剰に反応しているのも恐らくは感情の暴走……。
「おっと!」
「ジュン、安静にしてやるのだぞ?」
「任せとけ!」
案の定、激昂した後に安堵したのかモモは崩れ落ちかけた。まったく清澄は余計な事しかしない、灸を据えねばならんか……。
「行くぞ、ユミ、屋上だ。トーカ、任せてよいな?」
「ええ、これだけのメンバーがいますもの、余裕ですわ!」
そしてユミを引き連れた衣はドアを開けると、そのまま部屋を出て自動施錠に任せる。目の前には三人、しかしモモの声が聞こえたのだろう、言葉も無い。
「話を聞いてやろう、だがここでは駄目だ、貴様らが来ただけで既に一人倒れたからな……」
今の衣は冷静を通り越している、故に淡々と告げることはできるがあくまでも表面上に過ぎん。まあ、モモが派手に取り乱したのを見てというのもあるが、それはそれだ。ともかく衣を先頭にユミ、清澄が続き屋上に出た。
「話せ」
「わしは清澄の二年、染谷まこじゃ。話をする前にこれを、京太郎の手紙を読んで欲しい」
キョータローの手紙? ああ、ユミが嶺上使いに渡した物か。
ユミが受け取り、二人で読む。うむ、キョータローは自分をよくわかっているな、当然ともいえるが此奴らならやりかねん。
「……須賀君には会えない、だが私達を訪ねた。……罪滅ぼしのつもりか?」
「こんなことでどうこうなるなんて欠片も思っとらん。
じゃがなんと言われてもいい、ほんの少しでも京太郎の力になりたいと思って行動した。
それだけじゃ、他意はなか……」
「ほう? それを今さら口にするのか、有象無象。
ならば何故最初からそうしなかった? 衣は知ってるぞ?
そこの部長とやらが二度と一緒に打たないと宣言し、貴様はそれを止めなかった」
「なに!? 初耳だぞ! そんな馬鹿げた話があっていいと思っているのか!?」
まあ、当然そうなるな、
衣が知っているのは影響力について調べるため聞き出したからであって、そうでなければキョータローは話さなかっただろう。
「……確かに止めんかった、部員の中で反論したのは和だけじゃ。
じゃが天江、どういう経緯で京太郎と知り合ったか知らんが……。
おんし京太郎と打ったことがあるか?」
「ある、それがなんだと?」
「京太郎の影響力を知らずにか?」
ああ、なるほど? 奴腹は恐怖したのか、悲しいことだ……。
「何かと思えば……、衣はキョータロー自身に対局を望まれ、お互いを知りつつ打った。
だが、貴様らの様な有象無象と一緒にするな、衣は
そしてキョータローも楽しかったと言ってくれて友達となったのだ、初めてのな!」
「……能力を封じられて楽しかった?」
キョータローを犬呼ばわりした奴か……、貴様や嶺上使いが壊れるのを懸念した訳だ。なんと情け無い理由、まったくもって度し難いがキョータローならば……。
「実力で勝負することのなんと楽しいことか、結果のわかる物ほどつまらん物はないからな。
お誂え向きに三人か……、ならばここで衣と打て。
さすればわかる、それがどういうことかな……、ハギヨシ!」
「衣様、こちらに」
「うむ」
さて事前に聞いておこうか、念のためな。
「貴様らが来たということは個人戦に出ないのだな?」
「そうじゃ、うちらは辞退したからの」
ならば遠慮は無用……、示してみよ! その覚悟を!
「ユミよ、ここは衣に任せよ。
そして貴様らは知るがいい、
さあ、始めるとしようか! それ以上の痛みを負っても進み続けるキョータローの強さを知らしめるために、そして貴様らを衣自ら測る!
衣 side out
久 side
私達はただ少しでも須賀君に協力したかっただけで、誰かを傷つけるつもりはなかったのに、一人の子があんなに嫌がって倒れてしまった。
それだけじゃないわ、須賀君は鶴賀で私達の麻雀については話したけど、それ以外何一つ……。
「ユミ、清澄の先鋒を有利にする方法は?」
「東風戦で起家にすればいい、最も能力を発揮する筈だ」
「ならば東風戦で清澄は好きに座るがいい、衣は残った席に座ろう。
協力し易い席を勧めるぞ? これは慢心ではなく貴様らのためだ。
ハッキリいうが衣の支配を破るには上回るか、人の輪を利用するしかない。
打つ打たないは好きにしろ、だが結果の責任は己で持て、くれぐれも後悔せぬ様にな?」
三対一でも勝てるっていうの? でも今の言葉には自信とは違う何か、いうなれば確信めいたものがあって。気が付けば優希、まこ、天江さん、私の順で座っていた。
今の天江さんには逆らえない何か、さっき言っていた支配の様にも感じられる雰囲気があるわ、よく咲は闘えたわね……って始める前から呑まれてどうするのよ!
「ふむ、心意気に免じて衣が誰か一人にでも負けたなら、協力とやらをさせてやろう。
だが……、それは断じてありえん!」
「!」
なんなの!? この酷い感覚! 思わず後ずさった私は見てしまった、いきなり嘔吐する優希の姿を……。
久 side out
ゆみ side
ここまで夜が
その証拠に能力を発揮し易い状況にいた片岡は、影響を強烈に受けて耐え切れず……。そういえば宮永もギリギリだったな、能力の強さが反動になって返ってくるのか? 無くて良かったなどと思う日が来ようとは因果なものだな。
それにしても信じ難いことを口にしたものだ、二度と同卓しないなどとは。詳しい経緯はわからないが……、転入を決意するには十分過ぎる理由だ。
そしてこの対局、衣が本領を発揮したならまず一向聴地獄から抜け出せない。抜け道は先程言った三人による協力、しかしそれすらも海底を逃れるのが精一杯で得点力の高い出あがりの餌食になるだろう。
つまり衣に勝たせる気など一切無い、ならばどうして条件をつけた? 何を期待している?
「まずは挨拶代わりだ」
片岡の復調を待って始まった東風戦東一局、進むにつれて苦渋に満ちた表情となっていく清澄の面々。
「ポン」
衣の副露でコースイン、だが誰も鳴かない、いや鳴けないが正解だな、決まりだ。
「ツモ。
これは宮永の邪魔が無い分、十全に能力を発揮できているのか? 始めから打点がここまで高いとは……。
「ふむ、では続けるとしようか」
何かを確認する様に衣は告げた、やはり目的があるのだな? ならば私は見届けよう、この先に待つ何かを。
ゆみ side out
優希 side
東場の親で何もできなかったじぇ……、一向聴までは行けるのにそこから一つも進まない……、しかも倍満の親被り……。
それにさっきの感覚、まるで海の底に引き摺り込まれてくみたいだったじょ、また気持ち悪くなってきた……。
「わしの親番じゃな」
染谷先輩はそう言って気合いを入れたみたいだじぇ、けど私はまた一向聴地獄、そしてあっという間に十七巡目……。
「リーチ」
今リーチをかけるってことは……、また!?
「ツモ。リーチ、一発、
数え役満、8,000/16,000」
なんなんだじぇ、これ! ホントに何もできないじょ……、しかも染谷先輩が満貫もらっただけで飛ぶ! そして次の親は……。
「……先に教えた筈、何故全力を尽くさない?
このままでは
それともキョータローへの想いとは、所詮その程度ということか!!」
今、なんて言ったんだじぇ? 確かに私達が京太郎を追い出しちゃったのは事実だけど、あの日から京太郎のことを想わなかった日は一日もなかったんだじょ!
「冗談言わないでくれるかしら」
「そうじゃの、笑えない冗談じゃ」
「勝負はこれからだじぇ!」
今の私が一番怖いのは京太郎の力になれないこと、ならこれくらい乗り越えてみせる! 咲ちゃんにできたんなら……、東場で私にできない訳ないんだじょ! そう思った瞬間、何かが変わった気がした……。
優希 side out
衣 side
む、彼奴の気配が明らかに変わった、同時に衣の支配への介入を感じる。やっとか、まったく手間をかけさせてくれるな、清澄は。
「ならば見せてみよ! その言葉に相違無いと麻雀でな!」
衣の親、配牌には陰り無し。しかし、月に若干の陰りを感じる。
意志の力で
衣の手の進み具合に違和感がある、勝負に影響するほどでは無いが油断大敵、一切手を抜かずに勝つ! そんな衣の内心を知る由もなかろうが抵抗は徐々に強くなっていく。
ふっ、ふふふっ、昂ぶるなっ! そうでなくては張り合いが無い! そして、キョータローの手助けをする資格もな!
「リーチ!」
遂に抜け出たか! 態々条件を整え、
「うむ、よくぞ衣の支配から抜け出したと言っておこう、だが!」
「ツモ! 断么、三暗刻、三色同刻、赤3、ドラ2!
親の三倍満は12,000オール! そして……、終局だ」
マコといったか? 奴腹を飛ばした衣はそう宣言した。清澄の三人は悔しさを滲ませている、ならば教えてやろう、この対局の意味を。
「よく聞け、三人共。
貴様らが今感じているもの、それを京太郎に幾度となく味合わせてきたのはお前達だ。
悔しかろう、腹立たしかろう、だが貴様らはそれすらも京太郎から奪った。
その感情がある限り、そこな東場の豪運使いが今成した様に自身を高められるにも拘らずな。
加えて京太郎がいれば貴様らはもっと高みへ昇れたというのに……、愚かなことだ」
心当たりがある筈だ、その証拠に俯いているのだから。そして、衣の
「さて、勝負はついたが……、何か言い分があれば聞こう」
「……恥を偲んで頼む、ほんの少しでもいいんじゃ、京太郎の力にならせてはくれんか?
うちらのことを伝えて欲しいなどとは言わん、どうか聞き入れて欲しい、頼む!」
そういったマコとやらは伏している、勿論三人揃ってな。さて、今ならば真にキョータローの苦しみを理解しただろう、ならば……。
「ユミよ、あの部屋に清澄を連れてはいけんな?」
「……ああ、流石にそれは無理だ、清澄に反感を持つ者は多いからな」
「ふむ、衣もそう思う。そこでだ……、ハギヨシ!」
ここまでして追い返すなら、そもそも話しなどせん。まったく衣も甘くなったものだな、そうは思わんか? キョータロー。
「一室確保しました、いつでも御利用になれます」
その声に顔を上げた清澄の三人は驚きの表情であったが、期待は隠し切れておらんな。
「清澄の、ハギヨシに案内させる。そこで待て、多少融通してやろう。
それならよかろう? ユミ」
「一つだけ、何故三人なのか聞きたいところだが時間的に厳しいな、手紙にでも記してくれ。
それと衣、作業するには部屋が狭い、私達もそちらでどうだ?」
ふむ、それは妙案だ、
「では、そうするとしよう」
「恩にきる! 本当にありがとう!」
「勘違いするなよ? あくまでもキョータローを想えばこそだ。
勿論、キョータローだけでなく誰にも遭遇しないよう細心の注意を払え」
そう言い残し、衣とユミは部屋へと戻る、別室で作業する旨を伝えるために……。
衣 side out
モモはまだまだ本調子ではありませんので、精神的に疲弊して休養せざるを得なくなりました。
衣はゆみに真実の一端を教えつつ、自分の感情より京太郎ならと考えての行動。
京太郎が与えた影響の大きさは予想以上の様ですね。
そして突如勃発した最多得点王、月下の天江衣VS清澄の麻雀対決。
この条件下では衣のいう通りまず間違いなく勝てません、ですが目的を達成し御眼鏡になんとか叶った結果、折衷案としてこうなりました。
まあ、あの部屋に入れたら作業どころじゃないので当然ですね、モモもいる訳ですし。
とにかく今回の主役は天江衣。その存在感が表現できていればいいなと思う筆者でした。