咲-Saki- side K 京太郎、雀士への道 作:しおんの書棚
久 side
ハギヨシさんが準備してくれたスマホから、私達は一部始終を見ていた。それはもうこれ以上ないってぐらい理想的な麻雀で、咲が聞いた加治木さんの言葉を裏づける確かな証拠。
「あのメンバー相手に……」
思わず溢れ落ちた言葉、だってしょうがないじゃない? 全国出場経験者の二人と名門風越の大将を相手にしてまったく動じないどころか、言葉巧みに場を支配したのは二カ月前まで初心者だった須賀君なのよ?
最後の対局とすら比べるのが馬鹿馬鹿しくなる程の違いに、彼の気持ちを察しようともしなかった私は、麻雀にかける想いの強さをまざまざと見せつけられた。
「久の口撃まで自分流にして使うんじゃな、京太郎は。
同じデジタルでも和と違って、
堅くて読み辛い麻雀、そして振らずにあがる力量、京太郎は
優希は言葉も出ないようね、福路さんと打った訳だし、その手強さをよく知ってるんだから余計に。
「須賀君が本領を発揮したなら、私達の誰も勝てなかった。
本気ではあるが先程のはまだ序の口、少しでも知ってるなら理解できる筈だ」
「
私の言葉に加治木さんは頷いて続ける。
「
まあ、須賀君のことだ、あの場で何かを得るためだろうな。
彼は対局の全てを無駄にしない、そして得られたものが須賀君の実力を高め続ける。
私達も彼を見習ったからこそ、堅さや思考の柔軟性を得られた」
加治木さんは須賀君と自分達を誇らしげに語る、天江さんが言った「より高みに」ってことの結果が、鶴賀全国出場の決め手なんだという意味を込めて。
そんな話をしているうちに天江さんの説明から始まった会話も終わり、屈託のない笑顔で須賀君が礼を述べ、本来の目的である研究に移った所で電話は切れた。
「良い笑顔だったな、だからこそやり甲斐がある。
私達や龍門淵は直接、風越は間接的にだが須賀君を知った。
彼の人柄に惹かれた者、境遇に共感した者といった違いはあるが……。
そう言って沈黙、それが私達の本心はどうなのかと問いかけているようで……。
「わかっているとは思うが……。
君達のことを最低でも三校十五人は多かれ少なかれ快く思っていない。
その中でもうちの東横桃子は須賀君に命を救われ、特別な理由や経緯があり彼を慕っている。
君達が来て倒れたのはモモだ、モモは私達以上に君達のしたことを知っているようだからな」
「え?」
私は思わず間の抜けた声を発してしまった、それは須賀君が清澄にいた時、すでに東横さんと知り合いだったってことを意味するから。
だから鶴賀に? その疑問の答えは一枚の紙で氷解したわ、手渡されたアンケートという形で。
「鶴賀も女子団体戦メンバーが不足していてな? その時、部員ではなかったんだ、モモは。
校内LANを利用した麻雀イベントで目星はつけたものの、
まあ、見つけられたら入部してくれるとは言ってくれたが、匿名で特定できなかったんだ。
そして届いたのが、ソレだ」
読めば何を懸念してるのかわかる内容、そして身に覚えがあり過ぎる内容。
「ソレが届いたのは、須賀君に助けられた後だったと、今ならわかる」
「東横さんは……、須賀君のために鶴賀の麻雀部を下調べした、と?」
加治木さんは頷いて、経緯を話し始めた。
「モモはその時、清澄で須賀君は育たないと確信していたそうだ、それで自主的に調べた。
鶴賀は鶴賀で共学にしたものの男子の転校が相次いでな、転入者の優遇が決まった頃だ」
「……京太郎が麻雀に打ち込めて、転入しても家族に負担がかからんどころか、軽減される。
じゃからか、あれほど突然いなくなれたのは……。
ならこっちも誠意を見せんとな、京太郎の置き手紙じゃ、読んで欲しい」
そう言ったまこは手紙を取り出すと加治木さんに手渡した、目を通した加治木さんは柔らかく、けれど力なく笑って。
「須賀君らしい、彼だけだよ、君達を悪く思っていないのは。
少なくとも私は彼の口から聞いたことがない、君達に対する愚痴の一つも。
だからモモは清澄に連れ戻される可能性を恐れた、そして知るからこそ君達を拒絶する。
少々過剰反応だったと思うが……、気持ちはわからなくもないな」
聞けば聞くほど、須賀君を犠牲に言い訳しながら、私は自分自身の目標を優先してたという事実と罪深さを突き付けられる。
それとは逆に、例え命の恩人であったとしても東横さんは須賀君のことを一番に考えて行動したんだと。
そして最終的に置き手紙の経緯を経て、須賀君が自分の意志で鶴賀へ転入したのは正しい選択だったことも、さっきの対局と団体戦の結果が証明していた。
けれど、過ぎてしまったことを嘆いても過去に戻れる訳じゃない。ならやっぱり私は、私達は今できることを!
「そうね、私が同じ立場だったら東横さんに近いことをしたと思うわ。
けど私達も引けない、なんて言われようと貰った機会、今更だろうが全力を尽くすだけよ!」
誰になんて思われようと関係ない、須賀君が知らなくても構わない、できることをする、ただそれだけのこと! 強いて言えば、須賀君の望む麻雀ができる手助けの一片にでもなれば本望よ!
久 side out
衣 side
作業の進捗を見るに問題ないと判断した衣は、風越のメンバーに礼を述べ宿舎に帰した、風越は個人戦に出るのだから限度があろうと説得するのは骨が折れたが。
まったくキョータローの求心力にも困ったものだ、そう思いつつトーカとサトミに後を任せて清澄の元へと戻って来たのだが……。
「なんだ、この雰囲気は! 暑苦しいにも程がある!
説明せよ、ユミ! 流石に鬱陶しいぞ!!」
「現実を直視した結果、かえって本気度が増したといったところだ、衣」
サトミからキョータローがトーカ達と打つと聞いて、衣は使えると思ったのだ、今のキョータローを知らねば此奴らなど役に立たんからな。
勿論、衣自身見たかったのは言うまでもないが、最も重要なのは
そのためならば奴腹がどうのといった感情など衣は抑えてみせるし、それこそユミとて同じだろう、清澄のことなど結果をもって後からゆっくり考えればいいのだ。
「ふむ、それで進捗と出来は?」
「必要性を感じた時はアドバイスしているが、やはり直に見たのが効いている。
予想以上のペースだな、良い物に仕上がるだろうが……」
ふむ、
「衣達も加わるぞ、ユミ」
ユミは衣の言に頷くと、最高の物を仕上げるべく作業に加わった、全ては友達であるキョータローのために!
衣 side out
美穂子 side
天江さんに説得された私達は、挨拶してから帰ることにして須賀君の部屋を訪ねた。
「それじゃあ、須賀君、明日はお互い頑張りましょうね」
「はい、福路さん。風越の皆さんも本当にありがとうございました。
私も皆さんのご健闘を祈っています、厚遇の御礼は結果で示して見せましょう」
そう言った須賀君を華菜が揶揄ったり、文堂さんが止めたりと随分仲良くなったのね、時間は短かったけれど良い出会いだったと思いながら、私は微笑ましく見ていたのだけど……。
「お帰りになるところ申し訳ないのですが、福路さんに一つ質問してもいいですか?」
急に真剣な表情になった須賀君、答えられるものなら、そう思った私は……。
「ええ、私でよければ」
そう言ったわ、けど須賀君はこう返したの。
「話したくなければ無理に話さないで下さいね?」
どんな内容かはともかく、気遣ってくれてるのは嬉しくて、余計に答えられればと思ったわ。
「ええ、ありがとう、でも大丈夫よ? 聞かせてくれるかしら」
「では遠慮なく、
その瞬間、心臓を鷲掴みにされたかと思うくらい私は動揺してしまった、だってそれはトラウマに触れる内容だったから。そんな私を見て、須賀君は……。
「すみません、今の質問は忘れて下さい、ただこれだけはお伝えしておきます。
福路さんの瞳はとても綺麗でした、事情はあるのでしょうが隠しているのが勿体無いくらいに」
「え?」
私は小さい時から、この目のせいで一人だった。男の子に揶揄われて、女の子に嫌われる、それが普通で……、だから片目を閉じた。そうしたら友達ができたわ、嬉しくて私なりに色々頑張ったんだけど、今度はウザがられる様になってまた一人に……。
そんな私にとって華菜は特別、自分から私の所に来てくれて、自分の方がウザいから私はウザくないなんて……、本当に嬉しかったの。
そして須賀君、彼は私の目を見ても揶揄うどころか綺麗だって……、そんなことを言った男の子は初めてだった。
「その、本当にそう思うの? だって、昔からみんなは変だって……」
「それを言ったのは小学生男子では? そうなら好きな子を揶揄って気を引きたいからですよ。
女子はそれを見て、その男の子が好きだからいじめたりするっていうやつですね、きっと。
福路さんは、とても優しくて家事も万能だと風越の皆さんから聞きました。
私も優しい方だと、他校の私なんかに力を貸してくれた、とても魅力的な人だと思っています」
須賀君は笑顔でそう言い切ったの、私を真っ直ぐ見つめながら……。
美穂子 side out
京太郎 side
知りたかったのは経緯じゃない、まずは片目の期間、次に
片目で麻雀をしたら最初は見落としが増えるだろう、けど人は慣れる生き物で使った側の目が適応しだすと観察力は徐々に上がり、最終的には片目だけでも十分な実力に届くんだと福路さんを見て思った。
そこまでになった時、もう片方の目を使ったら? 多分情報過多で熱が出たり、頭痛になったりした筈だ。
片目で十分な情報量を得て処理していた脳に、追加で情報を与えれば処理しきれないだろ? そうなれば何か影響が出てもおかしくないからな。
そして、そこをクリアしたなら素養次第で能力に昇華されるんじゃないか、モモの件から福路さんの異常な観察力を俺はそういう類のものだと予想して質問したんだ。
ところが、その福路さんからタブーっぽい目について聞かれるのは流石に想定外。
聞けば、ガキの頃ならよくある話。とはいえ本人にとっては辛い過去なんだと思った俺は、わかりやすく説明することにした訳だ。
まあ、口説き文句みたいになったのはアレだが、これで少しでも自信に繋がればと御礼にもならないだろうけど思ったことをそのまま伝えてみたんだけど……、もう少し必要か? なら……。
「あー、ちなみにですが私は金髪ですよね? これが原因で私も随分色々とあったんですよ。
ですが生まれ持ったものはどうしようもないので、一度は地毛だって説明しています。
その後はもう開き直ってますね、だってこの姿が須賀京太郎なんですから。
福路さんだって生まれ持ったもの、隠す以外に思いつかなかったのでしょう?
私は事情も知らなければ悩みもわかりませんが、その瞳は福路さんだけのチャームポイント。
そういう風に良い方へ捉えてみませんか? きっと何かが変わると私は思います」
俺に言えるのはここまでだな、今の言葉でさえ捉え方一つで良くも悪くもなるし。
「きょ・う・さ・ん? 何、口説いてるんすかー!?」
「モモ!? 何勘違いしてるんだ……って、やめろー! 俺は口説いてねー!
そうですよね!? 部長って、なんで一緒にー!!」
「ワハハ、諦めろ、キョウタ〜」
いつの間にか現れたモモと、面白がった笑顔の部長に簀巻きにされた俺だったが、まあいいかと思っていた。
「ふふふっ、鶴賀は仲が良くて賑やかなのね」
そう言った福路さんは、笑顔だったのだから……。
京太郎 side out
清澄勢は京太郎の実力と現状、これまでのことを。
ゆみは京太郎が清澄でどう思っていたのかを。
美穂子は京太郎が思う過去の理由を、それぞれ知ることになりました。
京太郎は美穂子の観察力を独自解釈して、知りたいことがある様です。
新たな視点を示した京太郎と何かが変わったかもしれない美穂子。
まあ、最後はモモと智美の手で簀巻きにされて締まらない京太郎でしたw