咲-Saki- side K 京太郎、雀士への道   作:しおんの書棚

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うーん、とりあえず更新はここまでで一旦止めます。
その後の反応をしばらく見て続けるか、やめるか判断しますね。


三本場 須賀京太郎の一週間 その壱

京太郎 side

 

 連休初日に肩をやって、モモの言葉を思い出した俺は基礎固めを決意した。

 

 半端だった役と符計算を完全に覚える第一歩は早々にクリア。

 

 自分に有利な状況を作るため意識的に表情をコントロールする第二歩。

 これは簡単じゃないから、まずはポーカーフェイスと平常心を。それが出来る様になったら、相手を惑わす方向へ意識を切り替えることにした。

 

 河・捨て牌や相手を観察して聴牌・安牌を察知し、回す手札を不用意に減らさないようにしたり降りたりするための第三歩。

 ただ役を作るため考え無しに鳴くのも聴牌したらリーチするのも止めて振らない麻雀を。そう考えた結果、鳴きとリーチを封印。

 

 俺はハンドボールの経験から視野の広さと観察眼には結構自信がある。だから聴牌・安牌の察知に必要な読みを鍛えるため教本をぼろぼろになるまで読み込んだ。後はネット麻雀で対局したり、実際に観察して精度を上げていく。

 

 和って言う先駆者がいるんだ、そこから学ばないなんて馬鹿げてるという事で、ここまでを第一段階とした訳だ。

 

 当然いきなり強くなる訳が無いし、振らなくてもツモ上がりは防げない。けど、振ってしまえばそれ以前の問題だ。場合によっては振らず凌いで上がることも不可能じゃないしな。

 

 そこまで行ったら鳴きを解禁するのが第二段階。まあ、そうは言っても一朝一夕でここまで来れるとは思っていないから、まずは第一段階だ。

 

 3連休は治療と並行して、第一段階を意識したネット麻雀に食事と寝る時間以外全て費やした。

 鏡を置いて表情の確認も忘れずにやり続けた結果、なんとかポーカーフェイスは保てる様になったし、放銃率も打てば打つほど下がっていく。

 如何に適当だったか、よくわかって自分の事ながら呆れた。そりゃ、初心者だって言われる訳だと納得した位だしな。

 

 これに加えて部活では和の後ろからリアル麻雀の全てを観察して、俺は自分の成長に取り組んだ。和が打っていても俺が打ってると意識することでポーカーフェイスも磨いた。

 

 帰って来たら、またネット麻雀三昧。ただし、寝る時間を馬鹿みたいに削りはしない。かえって集中力が下がるし、そんな状態で打っても伸びないのはハンドボールで十分わかってる。

 脳にしろ体にしろ休ませることを怠っては無駄になるからな、だから必要な休息を忘れず毎日過ごす内に六日間はあっという間に過ぎていった。

 

 ちなみにその間、モモからアドバイスを受けられたのには感謝してる。気分転換にもなるし、仲良くなれた俺は正直言って嬉しかった。それとは逆に部活で何も無い事で、居場所の無さを十分実感させられて。

 

 そして、今日。モモとよく相談して一週間目の明日、俺は5人に挑むことにした。これまでで此処に俺がいる必要はないんだと思い知ったし、今の自分を図るために。

 観察は十分、打ち筋も能力も傾向すら掴んだ。短期間だったけど初心者だからこそ、今の俺は振らない雀士の第一段階をほぼクリアした。

 

『あとは実践あるのみっすよ』

 

 ああ、そうだな、モモ。俺は明日、どんな結果が出ようと鶴賀に行く、能力に頼らない雀士が集まるあの学園へ。

 

 既に両親と担任を通して両校に話はつけてある。明日には両校で編入について詰めることも確認済だ、上手く行けば来週の月曜日から鶴賀学園に通えるとも。

 

 そうそう、鶴賀学園といえばモモが麻雀部に入部した。聞いた話では、モモを見つけられはしなかったけど教室まで来てこう叫んだそうだ。

 

『私は君が欲しい!』

 

 聞いた時には流石に唖然としたさ。どこの世界に見つからないけど教室にいると確信したからって、そんなプロポーズ紛いの言葉を叫べる? 百合か? 百合なのか? って思った俺はおかしくないと声を大にして言いたい。

 

 モモ曰く。

 

『あそこまで探そうと必死になって私を必要としてくれた唯一の人っすから。

 でも、京さんの方が私には大事っす!』

 

 ちょっとグッと来た俺は自意識過剰だと自制した、まさかポーカーフェイスの訓練で養った平常心がこんな所で役立つとは思わなかったけどな。

 

 まあ、そんな経緯で入部してだ。モモが打ったら対局中にリーチも捨牌すら認識されなかったらしい、体質だからどうにもならないとはモモの弁。

 因みにモモを能力持ちなんて俺には絶対言えない、苦しむ体質から生まれたそれは代償でしか無いんだと俺は心から思うから。

 

 とにかく清澄はある意味、能力持ちの巣窟だ。そこで俺がどれだけ通用するか図る、それに対抗できなくてもある程度凌げるだけで個人戦への指標にはなるだろう。

 なんせ男の雀士で能力持ちは圧倒的に少ない、プロでも南浦プロが優希の南場版ぐらいしか俺は知らないんだ。なら、学生にそう多くいるとは思えない。

 

 女流雀士が人気なのには能力持ちの多さや派手な展開が影響してるし、インターハイチャンピオンなんかその最たる物。比べて男の麻雀が盛り上がらないのは地味だからだ。

 

 さて、いい時間になったな。俺は明日に向けて必要な睡眠を取る。今発揮出来る最高のパフォーマンスを引き出すために……。

 

京太郎 side out

 

 

咲 side

 

 今週に入ってからの京ちゃん、麻雀に対する取り組みが中学校時代のハンドボールと同じ。ううん、それ以上になってると私は気づいてた。

 きっと皆にも真剣さは伝わったんだと思う、京ちゃんに刺激されて前より練習が濃くなってるんだから間違いないよね。

 

 部活以外でも京ちゃんが教本を読んでたり、スマホ? で麻雀してるのをよく目にしてた。

 

 その他は、いつもと変わらない京ちゃん。言い訳にしかならないけど……だから私は気づけなかったんだと後で思い知ることになる、いつも手を引いてくれた京ちゃんを失うっていう最悪の形で。

 

 金曜日、もう当たり前になった部室へ京ちゃんと一緒に向かう。

 

「一番乗りだね、京ちゃん」

「そうだなぁ。さて、俺は準備を始めるとするか〜。

 咲は自分のことに集中してていいぞ」

 

 いつものやり取り、そして京ちゃんが雀卓や飲み物の準備を始めた。二人の時間は短くて次々と皆が部室に集まって来る、女子四人が揃ったところで対局が始まった。

 

 全員が揃って女子の対局は続く、飲み物を配った京ちゃんは今日も原村さんの後ろで牌譜を取っていた。

 たまにはそこで何故切ったかとか、何から安牌を読んだか質問する京ちゃん。原村さんの答えに納得して頷くのも最近では珍しくなかった。

 今の京ちゃんってどの位の打ち手なんだろう? さっきの質問も結構鋭かったから気になる。

 

 でも、全国に行ってお姉ちゃんと戦うためには練習が必要で。ちょっとした休憩を挟みながら入れ替わり立ち代わり打ち続けた。

 

 部活の時間が残り少なくなってきた頃、不意によく知る声が聞こえてくる。

 

「部長、お願いがあります」

「何かしら?」

 

 京ちゃんがお願い?

 

「東風戦二回、俺に打たせて下さい。メンバーは全員と打てれば任せます、どうですか?」

 

 今まで一度も打ちたいなんて京ちゃんは言わなかったのに、私はただ驚いて部長の返事が聞こえてくるまで京ちゃんを見ていた……。

 

咲 side out

 

 

久 side

 

 これが晴天の霹靂って言うものかしらね、まさか須賀君から打たせて欲しいとお願いされるなんて思ってもいなかった。

 

 けど、この願いを私は断れないし、その気もない。サポートを一手に引き受け、自分自身の手で実力を磨いていく姿。それを見せられ続けた私には。

 だって、そうじゃない? 私は彼のために何も出来ていないのよ。

 

 それに気になってた今の力量、和への質問内容から言って決して低いとは思えない。仮に、あくまでも仮にだけど私達と渡り合えるまで成長してたなら部全員にメリットがある。

 新たな打ち筋を持った対局者が増えれば、まこのデータが増えて対応力が向上。勿論、全員にも言えることだけどね?

 

 そして、これが本命、須賀君を鍛える事ができるようになって私の恩返しにもなる。まあ、どちらにせよ打つことに変わりはない。

 

「わかったわ。初めはまこ、和、優希で行きましょう。それでいいかしら?」

「ありがとうございます。

 一つだけ追加ですが俺の手牌を後ろから見るのは打ち終わった人以外禁止でお願いします」

 

 何か策があるようね。

 

「OKよ。じゃあ、始めましょうか」

 

 私の声で席決めが始まる。

 

「東風戦をこの私に挑むなんて百年早いじぇ!」

「あ〜、そうだよなぁ」

 

 柳に風ね、精神的にも強くなってるのかしら?

 

 優希が東場で親。まこ、和、須賀君の順に決まり席に着いた。さて、どうなるかしらね? 楽しみだわ。

 

久 side out

 

 

優希 side

 

 席に着いてサイコロを回す、ツモってきた配牌を理牌して驚いた。

 

「おかしいじぇ……」

 

 思わず口にして、すぐ黙る。気付いたら部長と咲ちゃんが後ろにいた。

 

「どうかしましたか? 優希」

「なんでもないじょ!」

 

 のどちゃんが首を傾げてるけど、それどころじゃないんだじょ。なんで東一局の配牌が“普通”なんだじぇ!? とにかく親番、気合いを入れていくしかないじょ!

 私は最初の牌を切って皆がそれに続く。けど、ツモってもツモっても手がいつもみたいには進まない! そんなことを考えてたからか周りが見えてなかったんだじぇ……。

 

「ロン、平和、三色同順。30符3翻は3,900点だ、優希」

 

 はっとして顔を上げれば、真剣な顔の京太郎と申告された手が見える。あっさり親を流されたじょ……、それは私にとってあまりにもショックだった。

 

優希 side out

 

 

まこ side

 

 優希が見た時、京太郎は理牌を終えてた。つまりじゃ、それまで理牌せずに打ってたと。

 なるほどのぉ、どうりで手配の並びから読めん訳じゃ。しかもツモってきた牌を入れたり入れんかったりする、並びはまったく参考にならんの。

 

 今の待ちは面前で聴牌も早い方じゃったんだろうが次はどうなるかの? わしが一向聴(イーシャンテン)、和も聴牌しとらんかった。

 京太郎が何処まで読めてたかは判断できんの。わかったのは情報をまともに与えん位じゃ、河にも迷彩がかかってたしの。

 

「次じゃ」

 

 配牌を終えたわしは眼鏡を上げる、よっしゃ! 勝負手が入って来た! 今日は優希の調子がおかしいのか、随分順調に手が伸びるの。という事は和も京太郎も伸びとるのか?

 そう懸念しとる内に聴牌。純チャン、三色、ドラ3の8翻で倍満確定。リーチ一発でも変わらんし、裏ドラに期待して振り込みたくはないの。ここはダマじゃな。

 

 河からチャンタは読めるじゃろうが、そこから先はどうかの……。和も今のツモで張った。

 

 さて京太郎はどうするって、わしと和の安牌を手出しで切りおった! しかもツモって来た牌で張った! そう、うちの勘が告げとるんじゃ。捨て牌から見れば断么臭いが読み切れん。

 

 優希が危ういのぉ、聴牌は遠そうじゃ。後は3人の捲り合いか……。

 

 にしても京太郎は随分固い雀士になったようじゃのぉ。以前なら間違いなくリーチしてたはずじゃ、にも関わらずダマな時点で降りも考慮しとると。

 

 優希は降りたの、和は安牌を切ったが安目に手代わりしたか?

 

 わしのツモは……。あがれんなぁ、しかも生牌(ションパイ)中張牌(チュンチャンパイ)。純チャン消して満貫一向聴か、しゃーないの。

 

「ツモ、断么、平和、赤1。20符4翻は1,300/2,600点」

 

 危な! 捨ててたらあがられとったわ、京太郎の1人浮きか。運の要素があるとはいえ大した成長じゃの、残り二局が楽しみじゃ。

 

まこ side out

 

 

和 side

 

 須賀君、見事ですね。たった四日間。後ろから見ていただけでは、ここまでにならないでしょう。ネット麻雀で鍛えたという事でしょうか。

 

 ですが同じデジタルなら私に一日の長があります、簡単に負ける訳には行きません。配牌は悪くないですね、優希はいつもの調子が出ないようですが……。

 

 とはいえ残り二局。点差は無いに等しく、満貫でトップに立てる程度。場は粛々と進み、今回は優希も伸びている。配牌の良さの割に時間がかかりましたが、これで聴牌ですね。

 

 次順で染谷先輩が、続いて須賀君が、最後に優希が意地で通して聴牌。

 既に残り牌は少なくなっているうえにツモって来たのは不要牌、降りるしかありませんね。私はノータイムで既に決めていた安牌を切りました。

 国士無双以外では上がれないドラ表示牌、白の暗刻落としで3順凌げますから。後はこの不要牌が順子になる事を願うばかりですが、そう都合良く行くはずがありませんね。

 

 染谷先輩も降りましたか、既に河にある発を切ったと言うことはこちらも暗刻落としですね。須賀君は……、優希の安牌をツモ切り。優希もツモれず、手出しで須賀君の安牌を切りました。

 

 そこからはひたすらに安牌を切り続けて流局。

 

「ノーテン」

 

 私の後に染谷先輩と優希が続き……。

 

「聴牌」

 

 そう言ったのは須賀君一人で3,000点追加。勝利条件は最低跳満ですか、少し厳しくなって来ましたね。

 

 そしてこの三局で須賀君は振らない麻雀を突き詰めていると確信しました。彼一人聴牌だったのは回り順による物ですが、三局とも鳴きがありません。それに有利な状況でリーチしなかったのですから間違い無いでしょう。

 

 ツモあがりと流局時のノーテン以外では今の須賀君から点を取るのはまず無理ですね、それが私の結論でした。

 

和 side out

 

 

咲 side

 

 優希ちゃんは東場での力をまったく発揮出来ていない、まるで封印されてるみたいだと私は思っていた。いつもと違うのは京ちゃんと打ってることだけ、でも京ちゃんからは何も感じない。

 

 それにしても京ちゃんは強くなった。私ならツモあがりか、大明槓からの嶺上開花(リンシャンカイホウ)じゃないと点を奪えない。京ちゃんがミスしない前提だけど。

 

「オーラスだ」

 

 京ちゃんの声で始まったこの局も優希ちゃんの配牌は普通。ツモも普通か、それより悪い位。精神状態が影響してそう。

 優希ちゃんがこの状況だと他は伸びやすいのか見たくて原村さんの後ろに移る、数順見たけどやっぱり伸びやすいみたい。

 

 原村さんは順調に手を伸ばしてるし捲るつもりかあ、跳満をツモればそれで終わる。けど、京ちゃんが先に聴牌した。当然だよね、早あがりすればそれで終局。高い手を狙う必要なんて無いんだから。

 

 こうなると他は厳しい、なんといっても京ちゃんのあたり牌は河から読むしか手が無い。理配しないまま引いて来た牌を入れたり、通常字牌の位置に置くからどこに何があるか読みを効かせる情報が減ってる。

 工夫はそれだけじゃなく、河にも迷彩がかかってたりなかったりして引っかけも狙ってる。今なら安手で十分だから余計に読みづらい、役牌でも平和でもいいんだから。

 

 実際、東と北は河に一枚だけ。三元牌も似たりよったり。まあ、原村さんが北と中の暗子を抱えてるから残りってことになるけどね。

 中がドラだから後は一杯口(イーペーコー)混一色(ホンイツ)かチャンタ、三暗刻(サンアンコウ)混老頭(ホンロウトウ)。どれも狙えるけど、決め手の牌が来ないから進めない。

 

 そして、その時が来た。

 

「ロン、白のみ。50符1翻は2,400点だ」

 

 面前で東の対子(トイツ)、白。残りは順子で両面(リャンメン)待ち。 

 

 ……振り込んだのは優希ちゃん。集中力を欠いてたし、河から読み切れないあたり牌、安牌は無かったんだろうね。

 

【東風戦一回目】

 優 希 -13

 和   - 8

 ま こ - 7

 京太郎 +28

 

 京ちゃんがダントツでトップ、原村さんに勝つなんて凄いよ! 私は純粋に喜んだ、京ちゃんの努力が実ったことに。

 

咲 side out




堅いデジタル打ちの雀士を目指す京太郎、東風戦とはいえ勝ちは勝ちですね。
筆者は麻雀素人です、結構勉強して闘牌を私なりに表現して見ましたが如何でしょう?
感想・できれば高評価お待ちしております。

2022/03/09 改訂
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