咲-Saki- side K 京太郎、雀士への道   作:しおんの書棚

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四本場 須賀京太郎の一週間 その弍

京太郎 side

 

 優希がおかしかった、東場であいつが暴れないのを見た事が無い。咲や和がそれを上回って先にあがったのならわかるが、流局まで長引くのを初めて見た。

 ともかく優希が不調で集中力を欠いてたからこそのあがりが二回、それが勝負の分かれ目になったのは間違いない。

 

 そして俺の目指す振らない麻雀は間違ってなかった、ただ運が良かった事は否定しない。実際、東三局の聴牌は回り順次第で俺が降りてたからだ。

 

 とにかく一戦目はツモれたこともあって人生初のトップ。だけど、二戦目がさらに厳しい戦いになるのは目に見えている。たった一度勝った位で勝利の余韻に浸れるほど、いくら俺でも楽天的にはなれない。

 麻雀は運の要素が勝負を決めるのも珍しくないからな、しかも東風戦なら余計に。だから俺は、第二戦に備えて集中力を高める。

 

 咲の嶺上開花、部長の悪待ちは能力だ。優希が東場に強いのも能力の筈なんだが……。まあ、わからない事に意識を割く余裕は無い。

 

 ただ、部長の悪待ちにはその前に癖がある。悪待ち聴牌する局では牌を引き入れる時、ほんの一瞬だけ遅れるんだ。

 

 咲は正直言ってどうしようもないな、槓材が入れば嶺上開花の餌食にも関わらず、槓材が配牌の時点であったり集まって来たりする。

 もし咲を乱す方法があるとしたら“アレ”くらいな物。まあ、まず有り得ないから意味ないな。

 

 どちらにせよ、俺は俺の麻雀を打つだけだ。

 

京太郎 side out

 

 

久 side

 

 さっきの優希はいつもと違っていた。そして、いつもと違う要素は須賀君だけ。

 

 確かに須賀君は予想以上成長して堅い雀士になっていたけど、それとこれは別の話。どちらにせよ、次でハッキリするわね。なら続きといきましょうか。

 

「私と咲が入るわ。優希とまこ、チェンジよ」

 

 和はなんの影響も受けてない様に見えた、安定したデジタル打ちの強みね。それに優希は、打たせるべきじゃない位のショックを受けてる。

 

「まあ、妥当じゃの」

 

 まこはわかってくれたみたいね、私と入れ替わってくれる。

 優希はふらりと席を立ってベットへ、本当はこういう時に立ち直れる強さが必要なんだけど今はそっとしておくのが一番かしら。

 

「早速、席決めからね」

 

 和が起家(チーチャ)。私、須賀君、咲の順に決まり席に着いた。

 

 さあて、どうなるかしらね? あら、まこは咲の後ろ?

 

 和が賽を回して配牌、まあ普通よね。

 

 ちらっとまこを見ると丁度目が合って首を横に振る。咲の表情も硬い、というか顔色が悪い? やっぱり何かあるわね……。

 

 こうして始まった第二戦東一局。私が見る限り、それぞれ手が進んでる。勿論、私も。けど違和感がずっと付き纏っていた。

 

 ()()()()()()()()()。それは手が進んでるにも関わらず、私にとって()()()()()()を感じないのよ。

 

 そうこうしているうちに須賀君から聴牌の気配……、咲はまだね、和は今のツモで聴牌か。そして私もこのツモで聴牌。

 二人に通る安牌を切れば悪待ち、この状況じゃリーチは無理ね。いつもの確信が無いけど、どっちにしろこれを切るしかないわ。

 

 須賀君は……引き入れて二人の安牌を切った、安手に手代わりした?

 

「ツモ、断么、平和。親の20符3翻、1,300点オールです」

「やるわね、和」

 

 これで一つハッキリした、ツモは防げないのね。点棒を払いながら、そう分析している冷静な私がいた。

 

久 side out

 

 

咲 side

 

 どうなってるの? いつもなら来る槓材が来ないし、牌がよく見えないよ。

 

 さっきなんか七対子直前で暗子無し、しかも鳴けなかった。優希ちゃんが変だったのはこういう感じだったのかな……、これって本当に麻雀なの?

 

 私は泣きそうになってた、それでも対局は続く。

 

 東一局一本場……。あれ? さっきは全く見えなかったし配牌も酷かったけど、今回は槓材があって配牌も結構良い。それに一瞬だったけど加槓すればあがれる嶺上牌が見えた!

 

 手は順調に伸びてる、これなら行ける!

 

 私は勝負を決める態勢に入っていた。部長は聴牌、原村さんと京ちゃんは一向聴かな。そして、遂にそのチャンスが!

 

「ポン」

 

 部長の捨て牌を副露(フーロ)、原村さんは安牌をツモ切り。京ちゃんが今ツモって手出しで安牌を切った……聴牌だ。

 

 でも私はツモれた、狙い牌を! ここで決める!

 

「カン!」

 

 来る! 嶺上開花が! あがりを確信して嶺上牌に手を伸ばす。

 

「咲、その嶺上牌は取れないぞ」

「え?」

「まさか! 嘘でしょ!?」

 

 部長? どう言うこと?

 

「ロン、槍槓、断么、平和。30符4翻7,700点の一本場は8,000点だ」

 

 ゾクリと背筋に悪寒が走った、私の嶺上開花が狙われた? あまりのショックに呆然とする。

 

「槍槓なんて役満より遥かに出づらいのに……」

「そうですね、私も初めて見ました」

「……」

 

 部長と原村さんの会話、それを京ちゃんは無言で聞いてた……。

 

咲 side out

 

 

久 side

 

 須賀君、とんでもない楔を打ち込んでくれたわね? これで咲は加槓に迷いが生じる。槍槓自体は偶然でしょうけど、何も言わないことでさらにプレッシャーをかけるなんて……。

 

 それとまた一つわかったことがある、須賀君の影響力には恐らくブレがあるのね。咲が嶺上開花を確信してたから間違いないわ、という事はまだ未完成なのかしら?

 

 ともかく東二局は私の親番、連荘させてもらいましょうか。

 

「さて、私の親番ね」

 

 態と声に出して咲の意識を麻雀に引き戻す、配牌はまあまあかしら。手なりに進めてたんだけどツモって来た牌に意味を感じた、やっぱりブレがあるのは確定ね。

 

 そして聴牌、カンチャンの悪待ちでリーチと行きましょう。他はまだ聴牌にはなっていないし、ツモれる確信があった。

 

「リーチ!」

 

 須賀君との対局、初のリーチよ。そして一巡後……。

 

「ツモ! リーチ、一発!」

 

 打ち上げた牌を卓に叩きつける。

 

「30符3翻は2,000オールね」

 

 須賀君が2,000点の僅差でトップ、あって無いようなものよ。

 

「一本場、勝負はこれからよ」

 

 私はそう宣言した。

 

久 side out

 

 

和 side

 

 部長の親は流局で終了、聴牌していた私と須賀君が1,500点を得て須賀君の親番になりました。ですが私は私の麻雀を打つだけです、強いて言えば宮永さんの様子が気になりますが……。

 先程は嶺上開花が不発、それから萎縮している様に見えますね。毎回槍槓なんてオカルトはありません、いつもの様に私を楽しませて下さい。

 

「東三局、俺の親番だな」

 

 須賀君の一言で始まったこの局、私の配牌は速攻でのあがりが狙える一向聴。一巡してツモった牌で暗子を含む断么を聴牌、迷う事なく……。

 

「リーチ」

 

 河には捨て牌一枚、それ以外に安牌はありません。

 

 部長は迷う事なく安牌ですか、須賀君は……ドラ表示牌の中。暗子だった訳ですか、これで三巡須賀君からはあがれませんね。宮永さんは完全に勘でしょう、とはいえ通ったのですから見事です。

 

 私のツモ、残念ながら一発は無い様ですね、河に安牌がもう一つ増えましたがいつまで凌げますか?

 

 そこからは先程の焼き回し。部長の対子落とし、須賀君の暗子落とし。宮永さんは先程私が捨てた牌を持っていた様ですね。

 

 そして……。

 

「ツモ、リーチ、断么。40符3翻は1,300/2,600点です」

 

 トップですね。誰かが満貫以上をあがるか、私が誰かに振らない限り負けはありません。さあ、オーラスですよ、宮永さん。貴女の麻雀を見せて下さい。

 

 私の意識は縮こまっている宮永さんに向いていました、かと言って他の面子を見ていない訳ではありませんが。

 

和 side out

 

 

京太郎 side

 

 第二戦のオーラスが始まった。配牌は三向聴、まあまあだが一切油断出来ない。

 だけど、部長じゃないが麻雀は勝ちを目指す物。守りながら少しでも高目を狙う、最低でも満貫が必要だ。

 

 淡々と進めながら、周りの観察は怠らない。とはいえ一向に動く気配が無い中、来たのはドラ。

 まだ誰も聴牌している気配は感じない、俺はそれを抱えこんだ。

 

 次順、ドラが重なる。三色、ドラ2 で一向聴まで来た。だけど続かない、そして残り牌は減る一方だ。

 

 強いて言えば誰も聴牌してないのが救いだろう。そんな時だ、和がドラを切ったのは。一瞬悩んだ俺だったが……。

 

「ポン」

 

 ここは勝負時。封印を解いて鳴き、聴牌しての単騎待ちでプレッシャーをかけてツモにかける!

 

 咲は安牌を切ったが、あがりを諦めていない。和はドラ3と俺の聴牌から安牌を手出し、安手でいいんだから聴牌を目指す。部長も死んではいない、安牌を手出しして和への直撃狙いのためにこちらも聴牌を目指してる。

 

 そして、ここから膠着状態が続いたがまず咲が完全に降りた。俺はまだツモって来れない。単騎待ちだから読み辛く出あがりを期待するけど、ここまで来れば安牌も多い。

 

 次いで降りたのは部長、引ききれず安牌の手出し。マズいな、まだツモって来れないし、出あがりは期待できない。

 

 そして、ついに和も降りた。残り配は極僅か、自力で引くしかない。そして……。

 

「流局か、聴牌」

 

 俺の宣言に返って来たのは三人からノーテンの声。

 

【東風戦二回目】

 和   +25

 久   - 5

 京太郎 ± 0

 咲   -20

 

「このメンバーで二位。出来過ぎですね、運が良かっただけか」

 

 最後の鳴きに後悔は無い、あそこで鳴いてなかったら誰かが聴牌してあがった筈だ。それでもあそこまで行ったら勝ちたかったな、俺はそう思っていた。

 

京太郎 side out

 

 

和 side

 

 私は須賀君の力量をこの東風戦二回で認めていました。

 

 何故なら須賀君はある意味パーフェクトゲームを成功させたからです。彼は結局一度も振らなかった、これは同じデジタル打ちとして見事というしかありません。

 

 優希や宮永さんが不調だったのは確かでしょう。ですが、それはツモに関してしか影響を与えない。なら、振らなかったのは須賀君の力量という事に変わりないのです。

 

「須賀君、とても楽しい麻雀でした。

 特に最後の鳴きは、あの局の優勢を決定付ける最高の鳴きだったと私は思います。

 

 もしもの話に意味は無いかもしれません。

 それでも須賀君がツモっていたなら間違いなくトップだったのは事実です。

 

 堅守しつつあがりを目指し、勝利への道を切り開くのが須賀君の麻雀なんですね。

 これからは一緒に切磋琢磨して行きましょう」

 

 私より強い雀士は沢山います、それでも須賀君の健闘と今日までの努力にどうしても言葉を贈りたいと思ったのです。同じデジタル打ちの一人、原村和個人として。

 

「俺はまだまだ未熟だから、振らない麻雀を目指した。

 

 自分で考えたのは、ただ鳴いて手牌を減らさないこと。

 安易にリーチして降りれなくなったり、手を変えてでもあがりを目指せなくなるのを防ぐこと。

 与える情報を極力制限したり、誤認させること。

 そのためにリーチと鳴きを封印して、門前で打つことを第一段階として鍛えてきた。

 

 本当ならこの二戦で鳴くつもりは無かった。

 けど、あの状況を打開して勝利するには鳴くしかないって思ったら鳴いてた。

 和が言う通りあそこで鳴いたからこその結果だと俺も思う。

 だから意味のない鳴きはしないが、本当に必要だと感じた時はもう鳴いてもいいって思ってる。

 

 けど、極力鳴かない今の打ち方は変えない。

 リーチも見極めが出来る様になるまで封印して振らない麻雀を続けるつもりだ」

 

 一人でそこまで考えて鍛えたからこその結果。私は須賀君の考えを応援したい、そう思いました。

 

和 side out

 

 

久 side

 

 確かに須賀君の力量とその努力は誰もが認めてる。けど、あの影響力は優希や咲、下手したら私の打ち筋を殺してしまう。それさえなければ手放しで喜べるのに……。

 

 私は決断を迫られていた、でも答えは既に出ている。ごめんね? 須賀君、本当にごめんなさい。

 

「須賀君、さっきの二戦で須賀君には相手の能力を制限する影響力があるってわかったのよ。

 まだブレがあるみたいだけどね」

「そんなオカルトありません!」

 

 和やまこには影響無かったからわからないことよね、これは。まあ、まこは咲の後ろから見てたから気づいてるんだけど。

 

「じゃあ、和。直接、優希と咲に聞いてみたら? ちなみに私は影響を受けたわ」

 

 私の言葉に和は優希と咲を見て絶句した。そりゃそうよね。優希は震えてるし、咲なんか泣いてるんだもの。

 

「宮永さん、どうして……」

「いつもなら見えるのに何も見えなくて……、あれって本当に麻雀なの?」

「ゆ、優希?」

「東場なのに何も出来なかったんだじょ……」

 

 辛いわよね、同じデジタル打ちで競えるかも知れない相手。それが大切な友達を、結果として傷つけたんだから。

 

「わかってくれたかしら、それで須賀君には申し訳ないんだけど……」

「何言ってるんですか? 俺は今日二戦お願いしただけです。

 もう打ちませんから問題無いですよね?」

 

 あ、あら? 随分あっさりしてるわね。

 

「須賀君!」

「ありがとう、和。でも、俺の事は気にしなくて大丈夫だから。

 

 さて、ちょっと遅くなったんで俺は片付けてから帰りますね。

 皆はいつも通り早く帰った方がいいですよ、暗くなると危ないですし」

 

 珍しく和が後ろ髪引かれる思いだったようだけど、優希と咲も心配で一緒に出ていく。そして、私はまこを連れ出して先に帰って貰った。

 

 部室に戻ると中から鍵が掛かってる。

 

「須賀君?」

「一人にしてくれませんか、今は誰とも話したくありませんし聞く気もありませんから」

「……わかったわ」

 

 ドア越しに聞こえてきた拒絶の言葉、今の私にはそれ以上何も出来なかった……。

 

久 side out

 

 

京太郎 side

 

 慣れって怖いもんだな、気づけば終わっていた後片付けを見てそう思った。

 

 それにしても卓につく能力者の力を制限する……か。それってただ全員同じ条件での実力勝負になるだけで、麻雀は本来そういうもんだろ? あったもんが無くなれば困惑するのはわかる、けど一緒に打てない理由にはならない筈だ。

 

 優希の南場と同じなんだから、東場で配牌も引きもいいのにあがれない相手の練習になる。実際、咲と和が一緒だと東場でもあがれない事が多いんだからな。

 染谷先輩は見た事がある対局のパターンが増えて強くなれる筈だ。

 和だって今は実力差があるけど、いずれ追いつけるかもしれない。そうなれば同じデジタル打ち同士、切磋琢磨できて悪いことじゃないよな。

 部長は悪待ち以外での実力を引き上げるいい機会だし、感覚で打つ咲の自力を上げるのにも役立つ筈なのに。

 

 ……ただ自分の能力が意味なくなるのを嫌がってるだけじゃないのか? 強いて言えば自信を失うのがマズいって所か。土台が俺は何もした覚えはない、ただ全力を尽くしただけだ。

 

 まあ、それももうどうでもいいさ。此処に俺の居場所は無いどころか打たせる気すら無いってハッキリしたし、月曜日からは受け入れてくれる人達の下で一緒に麻雀をするんだから。

 

 俺は退部届を白い封筒に入れ、ホワイトボードに張り付けると部室を出て施錠する。そして、もう二度と訪れることのない場所を振り返ることなく立ち去った。

 

京太郎 side out




未だ全容は掴めませんが、京太郎には能力を封じるなんらかがあるようです。
久が言う様にムラがあるようですが……。

2022/03/10 改訂
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