咲-Saki- side K 京太郎、雀士への道   作:しおんの書棚

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六本場 友と仲間、影響力の真価

京太郎 side

 

 俺と衣さんが友達になれたのは影響力のお陰なんだろうな。

 ふと思い出したのは衣さんと同卓してた人の牌譜……、全員が一向聴地獄だった。

 何一つ出来ない面々と卓を蹂躙する衣さんでは友達になれなかったし、結果の見えてる麻雀が楽しい訳も無い。

 

「トーカ! 衣に初めて友達が出来たぞ!」

 

 ああ、やっぱり。そう思った時、井上さんが衣さんに抱きついて言った。

 

「なんだよ、衣。俺達だって友達だろ〜?」

「お前達はトーカが集めた衣の……」

「きっかけは関係ない……」

「始まりはそうだった、でも今のボクは衣もみんなも友達で家族だって思ってる。ダメかな?」

 

 なるほどな、そういう集まりだったのか。

 

「ダメじゃないっ! じゃあ、トーカも友達で家族?」

「勿論! 当たり前ですわ!」

 

 目の前で繰り広げられる光景、今の俺には眩しすぎるよ。

 俺は一人抜け出し、離れたソファーに保たれて黄昏てた。

 

 不意に陰が差して見上げれば……。

 

「龍門渕さん?」

「違いますわ! 衣の友達ならわたくし達の友達という事。

 なら、そんな他人行儀ではなく透華と呼んで下さいまし!」

「勿論、俺達のこともな」

 

井上さ……、いや純さんか。その声と同時に小さな影が飛び付くのを受け止める。

 

「衣さん?」

「トーカ! キョータローも一緒がいい!」

 

ちょっ、話についてけないんですけど!?

 

「いい考えですわ! 貴方、龍門渕に来ませんこと? 歓迎しますわよ!」

 

「ありがたい申し出だけど、出会うのが少し遅かった。

 俺は月曜からある学校の麻雀部員だからな、待ってる友達も歓迎してくれてる人もいるんだ。

 

 それに龍門渕へ行っても五人が卒業したら俺一人になる」

 

「土日だけ無所属という訳でしたのね、規約の隙を突くなんて大胆な。

 逃した魚は大きかったですわ」

 

 そう言いながら爪を噛む透華さん。

 

「折角誘ってくれたのにごめんな、衣さん。

 でも友達なのは変わりないんだ、連絡先を交換しようか! 良かったら皆も」

 

 涙目の衣さんを思わず撫でながら俺はそう言った、年上なのに幼い先輩を想って。

 

京太郎 side out

 

 

衣 side

 

 折角友達になれたのに一緒にいられないのは悲しい。

 だが、キョータローにはキョータローの道がある、待ってる友がいるなら余計に。

 ならば、キョータローの本質を伝えて力になろう。それが今、衣に出来ることだ。

 

「キョータロー。

 先程の影響だが能力者の力とそれに由来する副産物全てを喪失する強力な物だ。

 衣は普段他家が上がった場合の危険度と海底牌が見え、他家は一向聴地獄に陥る。

 しかし、その牌すら見えなかったのだ。

 

 聴牌気配は感じられたが、これは衣自身の経験や勘から来た物。

 

 能力者にとってキョータローは天敵だな、あとは更に腕を上げよ」

「初心者から一週間、必死に自力で鍛えた程度だから、そこは理解してる。

 県大会は6月中旬、まずはそれまでに地力を引き上げるよ」

 

「なんですって! 貴方、部に所属していたのでしょう? 何故そんなことに。

 いえ、そもそもアレで一週間の腕前なんて信じられませんわ……」

 

 キョータローの力は能力とは違う、能力者特有の気配が全く感じられないのだ。

 表現するなら確かに影響力、緩急自在に出来るものでもない。

 衣が察したのは感知能力の高さ故に感じた微かな違和感のみだ。

 

「ところでその影響力はいつからなのだ?」

「入部した時には無かった……と思う、ぼろぼろにやられてたからなあ。

 指摘されたのは昨日、能力者3人と打った時でブレがあるって言われたよ」

「そして、今日か。ブレなど皆無、完全に機能していた」

 

 能力を喪失……。

 

「キョータロー、過去から遡って何か喪失してはいないか」

 

 これは衣の勘だ。だが、それが原因だと衣は確信していた。

 

衣 side out

 

 

京太郎 side

 

 喪失? 心当たりが無い訳じゃないが……。

 

「俺は中学の時、ハンドボールの県大会決勝で肩を壊したんだ。

 リハビリの結果、普通の生活は出来ても投擲できなくなったから引退した。

 そしてつい最近、人助けで無理をして肩から上に腕が上がらなくなり重い物も持てなくなった。

 高校に入ってからは部活での居場所を早々に失ってる。

 ついでに昨日転校前、二戦だけ頼み込んで打った後で一緒に打つ事も禁じられた。

 思い当たるのはそんなところだ、それと転校することもどこに行くかも教員しか知らない」

「それが原因だな、喪失に次ぐ喪失を繰り返して徐々に強化された。

 止めは昨日の出来事故に今日はブレすら消えて完成を見たのだろう。

 

 持つ者から一時的に持たざる者へ変える影響力。

 加えて恐らくだが……、誰かに触れればその者は能力者からの影響を受けない可能性が高い」

 

 心当たりは……ある。モモが見えたのは影響力の所為で、その時はそこまでの力だった。

 じゃないとモモと二人とも消えた理由が立たない。

 

 なら今モモと手を繋いで俺の影響力が上回っていれば……、モモは皆に見えるかも知れない!

 

「トーカ、ハジメ、トモキ。試すのに付き合って欲しい」

 

 そう言って始まった東風戦。

 衣さんの能力が猛威を奮ったが、二人づつに触れて対局した結果は衣さんの言う通り。

 触れていた二人は自分の麻雀を普通に打てる。

 そして、触れていない一人だけが衣さんの影響を受けるのを確認。

 流石にこれには全員が大いに驚くこととなった。

 

「ところでキョータロー。

 転入する学校の麻雀部が女子団体戦に出るなら遠慮なく衣達の情報を伝えるがいい」

「衣さん、俺にだって通すべき筋がある」

 

 いくらなんでも協力してくれたうえで友人になった人に対しての不義理、裏切り行為なんて俺には出来ない。

 

「それをわかったうえで言っている、倒すべき敵は強い方が衣も麻雀を楽しめるからな。

 

 キョータローとの麻雀は勿論楽しい。

 だが、それとは別に能力すら競っての麻雀も楽しみたいのだ。

 

 それにだ。

 キョータローのお陰で衣は麻雀を真剣に打つ楽しみを知り、相手を侮辱する打ち方を反省した。

 自身の感覚頼りの麻雀を打たされていたことにも気づけた。

 これからの衣はより一層強くなるぞ、だから安心して欲しい」

 

 そこまでの覚悟と自信があるのか。

 そして、衣さんの語り口から言えば遊び癖があってもあの強さだったと。

 

「……わかった、衣さんのライバルが生まれるよう俺に出来ることは全てやる。

 ただし、転入する学校内にそこまでの強者がいるかは保証出来ないけどな」

「それで十分だ、県大会決勝であい(まみ)えよう」

 

 決勝戦は確定なのか。いや、去年の全国出場校だからこその自信。

 そして今日の成長による確信なんだろう。

 

 その後、俺は惜しまれつつ送りだされ、来た時と同様黒塗りの高級車で実家へ帰宅した。

 さて、まずはモモに連絡するか。

 

「もしもし、モモか」

『京さん、こんばんわっす! どうしたんすか? こんな時間にって言う程でもないっすけど』

 

 21時30分、まあ言う通りかな。

 

「実は龍門渕高校の麻雀部、天江衣さん、龍門淵透華さん、井上純さんと打ってきた」

『……』

 

 ん?

 

『どういうことっすかー!?』

 

 うおっ、耳がぁー!?

 

「お、落ち着け! 今話すから、な?」

『当然っす! 何とんでもないことやってんすか!?』

 

 そこから経緯と結果をわかりやすく説明。勿論、規約に引っかからないことも合わせてな。

 

『とりあえずわかったっす。

 あと京さんが私を見える理由と、もしかしたら誰にでも私が見える方法も。

 それで今後はどうするっすか?』

「モモ、明日10時30分頃から何か予定入ってるか?」

『明日は暇してるっすよ?』

 

 丁度良かった、街を案内して貰いながら制服を取りに行こう……という口実で誘ってみるか。

 

「明日、制服とか体育着を受け取りに行くんだけどさ。

 良かったら、その時に街を案内してくれないか?」

『……二人きりっすか?』

 

 あー、流石に二回目で図々しかったかぁ。

 

「そう思ってたんだけど悪い、ちょっと図々しかったな」

『待つっす! そんな遠慮は無用、行くっすよ!』

 

 食いつき、はや! でもモモがいいなら俺も嬉しい。

 

「じゃあ、10時30分に駅前で待ち合わせだ。

 先に街を案内して貰ってから、制服を取りに行くってことで」

『わかったっす。じゃ、楽しみにしてるっすね〜♪ おやすみっす!』

「おやすみ、モモ」

 

 なんかやたら機嫌良くなったな、少しは脈あるのか? それはそれとしてっと……。

 

「まだ寝るには早いな……。

 そうだ、折角だからネット麻雀を新しいアカウントで始めて放銃率0%を目指すか!」

 

 俺の麻雀は始まったばかりなんだ。

 目標を高く設定した方が集中力の増す俺はそう決めると早速新規アカウントを作成。

 名前はフラン(振らん)にしよう。

 

 そういえば、そのうち俺を少しは認めてくれた和とネットで打つ事もあるんだろうか。

 けど結局最後は咲と優希を選んだんだ、もう清澄の事は忘れよう……。

 

「さあ、始めるか!」

 

 気分を一新して始めたネット麻雀、結局この日は一度も振らなかった。

 麻雀だけに集中してる時の俺に雑念は一切なかったんだから。

 

京太郎 side out

 

 

透華 side

 

 京太郎を入部させながら居場所を奪い、打つ事すら禁じた。

 

 自力であそこまでの打ち手になるのがどれほど難しいか、わたくし自身の経験からある程度想像できますわ! しかも一週間であれならばなんて恐ろしい成長速度。

 努力か才能かなど既に関係ありませんわ、仮に適切な指導があったなら今以上の相当な打ち手になっていた筈なのですから。どちらにしても……。

 

「許せませんわ」

「トーカ、事前調査でキョータローは清澄だったな? どういう状況だったか調べるぞ。

 友達を侮辱する有象無象にかける情け無し」

 

 衣にとって初めての友達、その怒りは今日という日もあって並ではありませんわね。

 当然、恩人であり友人となったわたくしもですが。

 

「勿論ですわ、特に清澄には原村和もいますし今の代では初出場。

 他にどんな打ち手がいるかわかったものではありません。

 

 普段であれば気にも留めませんが今回だけは別、タダで済むと思わないことですわ。

 京太郎を追い出した愚かさ、一生悔いるほど徹底的に……」

「「叩き潰す!」」

 

 衣と二人、笑みを浮かべる。

 

「ありゃヤバいぞ」

「でも、同感でしょ?」

「……同じく」

「まあな、あいつはいい奴だ。タダで済ますつもりはないぜ」

 

 あら、流石は自慢の家族ですわね? わたくしは聞こえてきた話し声に納得していました。なら早速。

 

「ハギヨシ!」

「速やかに調査を開始します、透華様。では、失礼します」

 

 名を呼べば、どこからともなく現れたハギヨシが即座に意図を察して行動を開始した事にわたくしは満足したのでした。

 

透華 side out

 

 

モモ side

 

 今日は日曜日、京さんとの約束で一緒に買い物っす。

 と言っても制服や体育着を取りに行くだけなんすけど、街を案内するし一応デートっすよね!

 

「遅れるのは失礼っすからね」

 

 待ち合わせ場所へ早めに来た私はそう呟く、聞こえる人は京さんしかいないから。

 

「おはよう、モモ」

 

 肩に軽く手を置かれてから、かかった声に思わず問いかけた。

 

「いつからいたっすか?」

「モモの声が聞こえた位かな」

 

 迂闊だったっすー! 浮かれて見落としたっすか!?

 でも問題無いっす! 同時、同時はセーフっすよね!?

 

 そんな私を京さんは特に気にすることなく言った。

 

「さて、モモ。まだ10時だし、喫茶店かどこかで少し時間を潰そうか」

 

 確かに、ほとんどのお店は10時30分開店が多いっすね。

 

「それじゃあ、私のとっておきに案内するっす!」

 

 隠れ家的なお店で私的にも人目を遮った席があるから安心して行ける数少ない場所。

 そう思って歩き出そうとしたんすけど……。

 

「モモ、俺がさっきから肩に手を置いてる理由、わかってないな?」

 

 そう言った後、小声で囁いた。

 

「急に可愛い子がどこからともなく現れたから見られてる(・・・・・)ぞ」

 

 その言葉に赤くなりながら周りを見れば、慌てて目を逸らす人達が見えた……。

 

モモ side out

 

 

京太郎 side

 

 モモは律儀そうだし、俺が頼んでおきながらモモより後に着くのは失礼だと余裕を持って来て正解だった。

 実の所、モモが来る更に前から駅前を見渡せる場所で待ってた訳だ。

 

 こう言ったら咲に怒られそうだが、モモと同じ様に誘っても友人だからと特に思う事は無かった。

 強いて言えば迷子の心配くらいなものだ。

 

 和は確かに好みだったけど高嶺の花、想像が関の山で付き合えるなんて思ってもいなかった。

 結局最後の二局以外、俺なんて眼中になくて何故か咲ばかり見てたし無理な話さ。

 

 けどモモは違う、初めて見た時から気になって。

 お互いの話を聞いて、今の俺を作る気力と居場所をくれた。

 

 今となっては、これまで出会った誰とも比べられない魅力的な女の子。

 用事を口実にして誘うのですら俺の人生で一番勇気が必要だった。

 

 今までの事を思えばモモには幸せになって欲しいと心から思う。

 例え、その隣に俺が立てなかったとしても。

 

 まだ諦めた訳じゃないぜ? けど、彼女いない歴=年齢な俺には自信が無くてさ。

 とはいえだ、何も行動すらしないで諦めるのは違うだろ? だからさ……。

 

「それじゃあ、モモのとっておきに行こうぜ!」

 

 俺はモモの手を取るとそう言った。

 

 勇気を出した新しい須賀京太郎の第一歩、それはモモと一緒に楽しむことから始めよう。

 今日、ここから始まる鶴賀での生活が実りある物になるよう願って。

 

京太郎 side out




甘〜い!w いや、書いたのは私なんですけどね?

それはともかく龍門淵高校の麻雀部全員と交友関係を構築した京太郎。
そして物騒な発言連発の彼女達。これ、結構大事ですね……。

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