哲学的ゾンビの横行   作:後菊院

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第1話 起

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「チャンピオン! 感動したあ!」

 

「うん! ありがとう!」

 

 2階のギャラリーからの声援に笑顔で応じながら、ユウリはゲートを通り、シュートスタジアムの1階ロビーに出る。つい数時間前はガラルスタートーナメントに参加する強豪トレーナーたちが雁首揃えていて、物々しい雰囲気が詰まっていたロビーだが、トーナメントが終わり、それからさらに2時間ほど経った今は、もういつもの空気に戻っていた。ボールガイが子供たちと戯れている(むしろボールガイが遊ばれている)微笑ましい姿は、チャンピオン・ユウリにとって見慣れた光景だ。

 

「……ん」

 

 その時、ユウリは視界の端に見知った顔を捉えた。

 

 「ななほしポケモン」イオルブを連れた、ユウリと同世代くらいの少女。ユウリにとっての最初のファンであり、サポーターである。駆け出しの頃からずっとユウリを応援してくれている子だった。ここにいるということは、彼女も今日の試合を観戦していたのだろう。

 

 そういえば、ユウリはまだ彼女の名前を知らなかった。まあファンと選手だから普通といえば普通なのだが、でも、これってどうなのだろうか。ずっと応援してきてくれたのに、なんだかちょっと薄情な気もしないではない……いや、する。

 うすぼんやりとした罪悪感と、ファンとの交流を深めたいという期待感の両方をもって、ユウリは彼女の方に近づく。

 

「ビババグ!」とイオルブが鳴く。少女と視線が合った。彼女もユウリの接近に気づいたらしい。

 

「グレートチャンピオン、ユウリ!」

 

 少女は笑顔でそう言った。

 

「チャンピオンになる才能をいちはやく見抜いていたわたしは、この眼力をいかし、多くのトレーナーを育てるのであった、なんてね……! 本当におめでとうだよ! うれしすぎるよ」

 

「あ、ありがとう」

 

 礼を言うユウリ。こちらから話しかけるつもりが、先制されてしまった。

 

「いつも応援ありがとう。できたらでいいんだけれど、名前……聞いても良いかな? こんなにずっと付いてきてもらえて、私、すごい嬉しくて、でも、それで名前も知らないなんてちょっと失礼かなって思って……」

 

 ユウリは上目っぽく少女を観察する。どうだろう、もしかしたらファンに露骨に接近する悪いチャンピオンと思われるかもしれないなんて不安になった。しかし少女はにこりと笑ったまま、もう一度口を開く。ああよかった大丈夫っぽい、これで逃げられたらかなり深く傷つくから本当によかったと、ユウリは安堵した——

 

「グレートチャンピオン ユウリ!」

 

 少女は笑顔でそう言った。

 

「チャンピオンに なる 才能を いちはやく 見抜いていた わたしは この 眼力を いかし 多くの トレーナーを 育てるので あった なんてね……! 本当に おめでとうだよ! うれしすぎるよ」

 

「……え?」

 

 きょとんとした顔のまま、少女を見つめるユウリ。

 

 予想外の返答だった。

 

 それは、どういうことだろうか。YESなのか、NOなのか、ユウリの頭ではちょっとよくわからなかった。というかこれって返答なのか? さっき言ったのと全く同じ言葉を繰り返しただけにしか聞こえなかったのだが。

 

「えっと、え? ごめん、あ、ありがとう……え?」

 

「グレートチャンピオン ユウリ!」

 

 少女は笑顔で言う。

 

「チャンピオンに なる 才能を いちはやく 見抜いていた わたしは この 眼力を いかし 多くの トレーナーを 育てるので あった なんてね……! 本当に おめでとうだよ! うれしすぎるよ」

 

「う、うん。ありがとう。あの、ど、どういうことかな……」

 

「グレートチャンピオン ユウリ! チャンピオンに なる 才能を いちはやく 見抜いていた わたしは この 眼力を いかし 多くの トレーナーを 育てるので あった なんてね……! 本当に おめでとうだよ! うれしすぎるよ」

 

「……」

 

 本気でわけがわからなかった。

 

 笑顔の少女を前にして、ユウリは固まる。助けを求めて隣のイオルブに視線を送るが、彼もまた「ビババグ!」と鳴くだけで何もしてくれない。また少女の方を見ると、彼女はまた同じセリフを繰り返した。

 

「グレートチャンピオン ユウリ! チャンピオンに なる 才能を いちはやく 見抜いていた わたしは この 眼力を いかし 多くの トレーナーを 育てるので あった なんてね……! 本当に おめでとうだよ! うれしすぎるよ」

 

 先ほどと寸分違わないトーンとテンポで——まるで同じ動画をまた初めから再生したような精度で、彼女は同じセリフを繰り返す。感情の籠もった声だし、表情は笑顔以外の何者でもないが、そこには言いようのない不気味さがあった。

 

 ユウリは思わず後ずさる。

 

 ユウリが1メートルほど離れたところで、少女はにこやかな笑顔から普通の表情に戻る。ユウリから視線を外し、まっすぐ前を見つめていた。ユウリもそちらを確認するが、特になにもない。向かいの壁があるだけだった。

 

「……なに、ドッキリ?」

 

 呟いてみるが、プラカードを掲げて近づいてくるTVクルーの姿はどこにもない。というか、ドッキリにしてはなんだか地味というか、よくわからない複雑さがあって、腑に落ちる感覚がなかった。

 

「……大、丈夫?」

 

 離れた位置から尋ねてみる。しかし少女はピクリとも反応しない。わずかに体が揺れているので、まさか立ったまま死んでいるなんてことはなさそうだが、それでも彼女はその場から一歩も動こうとしない。

 

 そろりとまた一歩近づいた瞬間、「ビババグ!」とイオルブが鳴く。「ひっ」と驚いてしまったユウリ——「グレートチャンピオン ユウリ!」と、またしても少女がユウリを称える。

 

「チャンピオンに なる 才能を いちはやく 見抜いていた わたしは この 眼力を いかし 多くの トレーナーを 育てるので あった なんてね……! 本当に おめでとうだよ! うれしすぎるよ」

 

「っ、あ、ありがとう……」

 

 おかしい。どう考えてもおかしい。

 

 ユウリはきょろきょろと辺りを見回し、この異変を共有している誰かがいないか探す。するとポケモンリーグのスタッフを見つけた。ゲートの向こうで、休めの姿勢でフロアを見渡している彼ならば、今の不思議な現象も目撃しているだろう。怖くなったユウリは彼に助けを求めるべく近づいた——その間、少女のほうをちらちらと伺うが、彼女はまた前を向いたまま停まっている。

 

「あの、すみません。あの子、いつからあそこにいるかわかります……?」

 

 もしかしたら、何かの病気なのかもしれない。体じゃなくて、心のほうの……キョウハクセイなんとかみたいな、そういう。ユウリは全然詳しくないのでよくわからないのだが、もしそうだとすれば、あの子が一人でこんなところにいるのは危ないんじゃないか? なんて考えつつ、少女の方に視線をやりながら、ゲートを挟んだすぐ向こう側にいるスタッフに話しかける。だが、なかなか返答がこない。あれ、おかしいなと思ったユウリは彼に視線を向けた。

 

 サングラスをかけているのでよくわからないが、彼はユウリをまっすぐ見つめているようだった。手を後ろに組んだまま、口を一の字に結び、じっとユウリを見ている。聞こえなかったのだろうか? 「ええと、あそこでイオルブと一緒にいる女の子のことなんですけど……」大人から向けられる無言の視線に耐えながら、ユウリは一生懸命説明する。しかし彼は何も言わない。「ああ」とも、「あの子かい?」とも、「うーん、ちょっとわからないな」とも、なんとも。

 

「お ユウリ! カッコいいよなあ」

 

 無言のスタッフに恐怖を覚え始めた頃、二階のギャラリーで手を振っていた観客から、そんな声がユウリにかかる。「あ、ありがとうございまーす」小さく手を振り返すユウリ。しかし、彼らは誰一人として階下のユウリを見ていなかった。談笑していたり、ロビー中央のモニターを観ていたり——何もない方向に手を振っていたり。

 

 彼らは、どうみても誰もいないロビーの真ん中を向いて、規則的な動作で手を降り続けていた。

 

「……なに、これ……」

 

 異様な光景だった。

 

 数はそんなに多くない。手を振っているのはせいぜい5、6人だ。しかし、そんな動作をしているのが1人だったとしても、十分におかしいと思うのはユウリだけだろうか。彼らの周りにいる人々は、彼らを全く気にせずモニターを観続けていたり、談笑したりしている。しかしモニターはさきほどからずっと代わり映えのない、トレーナーとポケモンの静止画しか映していない。特段読むべき文章が多く書かれているわけでもないのだ。彼らは本当にモニターを見ているのだろうか? そういえば、談笑している二人組も、さっきから全く同じ動作を繰り返しているだけのような——

 

「ぼ、ボールガイさんっ!」

 

 ユウリはゲートから跳びのくように離れると、見知った顔の男性のもとへ駆け寄る。いや、彼にしたって本名は知らないし、なんだったら顔だってモンスターボールの被り物をかぶっているから素顔を見たことはないのだが、それでも今いるこの場所では一番付き合いのある人物だった。

 

「ボールガイさんっ、あの、変なんです! あの子が同じ言葉をずっと繰り返したと思ったら、みんな壊れたおもちゃみたいにしか動かなくなって、それで——」

 

「ドリームボールは 眠った ポケモンを 捕まえやすくなる 夢のような ボールだ ボル」

 

 ボールガイはユウリのほうを振り向くと言った。

 

 それは確か、かなり前、ドリームボールをくれた時にしてもらった説明だ。

 

「さいみんじゅつや あくびを 使える ポケモンと 試してみる ボルよ!」

 

 なぜ。

 

 なぜ今、そんなことを言うのだろう?

 

 過去にしてくれた説明と、全くおなじことを。

 

「ぼ、ボールガイ……さん……」

 

「いやはや ボールって 本当に 奥が 深い ボルね〜」

 

 ボールガイはいつものおどけたポーズを取ると、また元の立ち姿に戻ってユウリを見つめる。彼のそばにいた二人の子供はそれを見てケラケラと笑い——その動作を、一定の感覚で繰り返していた。

 

 ユウリは顔を青褪めさせる。

 

 なにか、ユウリだけでは対処しきれない巨大な恐怖がしのびよってくる感覚があった。

 

「っ、そんな、そんな……!」

 

 逃げる。

 

 急に走り出して転びそうになりながらも、スタジアムから外に出る。ここにいたら、自分も同じようになってしまうのではないかと思って、必死に走った。

 

 

    2

 

 

 「——なにこれ、なにこれっ……!」

 

 ユウリは走る。

 

 スタジアムの外に出ても、異変は続いていた。

 

 手近にいたスタッフに助けを求めても、彼らは的外れな返答しかしない。いや、それは返事ではないのだ。あらかじめ決められたセリフを繰り返しているような、機械的な反応でしかない。

 

「いままで 観てきた なかで 最高の 試合でした……!」

 

「言葉が でないです…… すごかったです…… すごかった……」

 

 スタッフ以外の、一般の市民にもユウリはすがりついたが、結果は同じだった。

 

「ぼくはね スタジアムに 行かないよ 選手として 入るつもりだからね」

 

「リーグカード…… レアが ほしいのに 売り切れ!」

 

 ぱっと見では気づかない。ぱっと見ただけでは、彼らはごく普通に、佇んでいたり、ショップで買い物をしているように見える。しかしその実、彼らは何もしていない。ただ規則的に、それらしい動作を延々と繰り返しているだけなのだ。

 

 橋の上を駆けながら、辺りを見渡すユウリ——誰も彼もが機械仕掛けの人形のようになっている。その様子を見ていると恐怖がこみ上げてきて、猛烈な吐き気に襲われる。「ゔっ——」立ち止まって吐き気をやり過ごしていると、向こうから歩いてくる人影があった。よかった、動いている人がいる。救われた気持ちになって、ユウリはその女性に声をかける。

 

「あのっ、なんかっ、変になってて——」

 

「応援グッズ そろえなきゃ!」

 

 女性はユウリの前で止まり、それだけを口にした。

 

 前を向いたまま、それ以外何も言わない。

 

 ユウリが一歩さがると、彼女は一歩前進する。だが、ユウリがいるからなのか、それ以上は決して進まない。ユウリを避けていくこともせず、ただその場に停止していた。

 

 彼女もだ、とユウリは思った。

 

 彼女もまた、皆と同じ状態になってしまっている。

 

 ユウリが呆然としていると、女性はくるりと真後ろを向き返し、先ほどと全く同じ歩調で全く同じ道を戻っていった。それを見送ったユウリは、よろよろと道の真ん中から歩道に寄って行き、橋の手すりに寄りかかる。

 

 なんだ、何が起きている。

 

 明らかに普通じゃない。異常だ。これはおかしい。自分一人だけでは対処しきれない。ユウリはバッグからスマホロトムを取り出すと、通話機能を呼び起こして、ユウリの知る限り最も頼りになる人物の番号をプッシュする。通話ボタンを押すとコール音が鳴り出す……だが、なかなか相手が出てくれない。不安になるユウリ。まさか、と、最悪の予想が頭を過ぎる。とうとう留守番電話サービスに切り替わったので、「ダンデさん! ユウリです! あの、これを聞いたら折り返し連絡ください!」とメッセージを残し、ユウリは電話を切る。そしてバトルタワーの方を仰ぎ見た。

 

 ダンデなら、もうあそこに戻っているはずだ。

 

 いてもたってもいられなくなり、ユウリは駆け出した。

 

「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ——」

 

 モノレールの駅までの道を走る。さきほどからずっと走っていて、息が荒れてくるが、構わない。それよりももっと辛いことが起きているのだ。どうやら、モノレールは動いているらしい。あれに乗ってバトルタワーまで行こう——と、駅の前にタクシーが停車しているのに気付いた。ガラル名物、アーマーガアによって運ばれる空飛ぶタクシー。ゴーグルをつけた運転手が、暇そうに車に寄りかかっている。彼もまた他の人々と同じような状態なのだろう、そう思いながらも、顔馴染みである彼に、駄目元で声をかけてみる。

 

「あのっ、すみません、運転手さん——」

 

「シュートシティ 専門の そらとぶタクシーさ! どこに行きたい?」

 

 やっぱりだ、と落胆しながら、それでも一応「えっと、バトルタワーに……」と答える。すると運転手はにっと笑った。ああ、きっとまた同じ言葉を繰り返すんだろうな——と思っていると、彼はしかし、アーマーガアの背中に乗り込んで言った。

 

「オッケー! いこうぜ アーマーガア」

 

「えっ——?」

 

 どうやらバトルタワーに連れてってくれるらしい——彼は皆のようになっていないのか?

 

 ユウリが慌ててタクシーに乗り込むと、アーマーガアはバサバサと翼を動かして飛び立った。みる間に地上が遠くなる。

 

「運転手さんは、大丈夫なんですね?」

 

 腰を落ち着けて、安堵のため息をついた後、ユウリは屋根の上に向けて尋ねた。ああ怖かった、ちゃんと反応を返してくれる人間がいるというのはこうも幸せなことなのか——本当に、頭がどうにかなってしまうところだった。

 

 しかし、運転手からの返答は無い。

 

 ちょっと不安になったユウリは、アーマーガアの羽ばたきで声が届かなかったのかもしれないとも思い、もう一度声をかけてみる。

 

「運転手さん! あの! すみませーん!」

 

 返事はない。

 

 とたんに、座っている座席がひどく不安定なものに思え始めた——いや、実際に空とぶ椅子なのだから不安定なのだが。それでも、ガラルのタクシーに対する無事故無違反の信頼が、ユウリの中では、このタクシーには適用できなくなってしまった。このままどこか知らない場所へ連れて行かれるのではないか、そこでユウリも意志なき人形のように改造されてしまうのでは——なんて、悪い想像が加速する。乗らなければよかった、乗らなければよかった。後悔と恐怖が混じり合い、ユウリは叫ぶ。

 

「お、降ろしてください! 降ろしてっ!」

 

 返事はない。

 

 タクシーは同じ高度を保ちながら、悠々と空を飛ぶ。

 

 どうにかしないと、どうにかしないと私が私でなくなってしまう——その時、ユウリは自分の手持ちにもアーマーガアがいることを思い出した。そうだ、彼(ユウリのアーマーガアはオスである)に助けてもらおう。

 

「でてきてっ、アーマーガア!」

 

 モンスターボールを構えて、アーマーガアを出そうとする——しかし、なぜかアーマーガアが出てこない。「えっ……?」ユウリは手に持ったモンスターボールを見つめる。飴玉大の携帯用サイズから、手のひらサイズまでむくりと大きくなってはいるものの、ボールはぴくりとも反応しなかった。

 

 ポケモンに頼れない。

 

 これまでずっと自分を支えてくれたポケモンたちを、呼び出せない……?

 

「——あのっ! 運転手さん! 運転手さぁん! 反応してくださいっ! お願いですからぁ! 降ろしてぇ!」

 

 泣き喚くユウリ。もはや恥も体面も気にしていられない。ガンガンと扉を開けようと叩くが、落下防止のために厳重に施錠しているタクシーの扉が開くはずもなく、ユウリの抵抗は虚しく空に響くのみだった。もうタクシーはその辺のビルよりも高いところに来ている。飛び降りて助かるのは無理だろう。

 

 ——ああ、私はもう終わりだ。私もシュートシティのみんなみたいになってしまうんだ。

 

 絶望に沈みながら、ユウリは深く座席に腰掛ける。しかししばらくそうしていると、これまた様子がおかしいことに気づいた。タクシーの高度が下がってきているのだ。

 

 タクシーは、バトルタワー前の発着所に着陸した。

 

「オッケー! 到着だ! また 声を かけてくれよ」

 

 ユウリがタクシーから降りると、タクシーの運転手はそれだけ言い残して、またどこかへ飛び去ってしまった。

 

 全ては杞憂だったのだろうか?

 

 いや、そんなことはない。あの運転手は、ユウリが尋ねたことに一切答えてくれなかった。去り際の質問、「どうして何も答えてくれなかったんですか」も、彼は完膚なきまでに無視した。

 

 彼は気さくな性格の運転手だったはずだ。何も答えないなんて、明らかにおかしい。

 

 わけがわからない。

 

 神経を消耗したユウリは、それでもとぼとぼとした足取りでバトルタワーの入り口へ歩き出す。当初の目的を達成するために。

 

 だが、バトルタワー一階の人々もまた、シュートスタジアムのように奇妙な繰り返しの動きを続けていた。

 

 それは受付のスタッフも例外ではなく、

 

「ようこそ お越しくださいました バトルタワー受付です! では どうなさいますか?」と、彼女は繰り返す。

 

「ええっと、あの、ダンデさんはどこにいますか……?」

 

「ようこそ お越しくださいました バトルタワー受付です! では どうなさいますか?」

 

「ああ、ええ、その……私、ユウリです。その……一応、チャンピオンの、ユウリなんですけど……バトルじゃなくて、ダンデさんと話す必要があって……」

 

「ようこそ お越しくださいました バトルタワー受付です! では どうなさいますか?」

 

 やはり、何を言っても通じない。

 

 勝手に昇ってしまおうかとも思ったが、上階へ続くエレベーターの扉は、なぜかボタンを押しても開かない。ポケモンの助けも得られない今のユウリでは、上へ上がる手段が無い。それでもしばらくロビーのソファに座って、ダンデが降りてこないか粘ったが、彼が来る気配もまたゼロだった。

 

 この異変は、果たしてシュートシティ全域に広がっているものなのだろうか。

 

「……」

 

 なんにせよ、ここにいても始まらない。ユウリはソファから立ち上がると、入り口の方へ歩いていく。ダンデに会えないのならここにいる意味はないのだ。そもそも、ダンデがここにいるかどうかわからない。いつもならここにいるはずだというユウリの勘で、ここまで来たのにすぎないのだ。どこか別の場所にいて、事態への対策を練っているかもしれない。

 

 無意識に、ユウリは都合の良い方向に現実を解釈していた。

 

 

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