哲学的ゾンビの横行   作:後菊院

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第7話 裂

    1

 

 

 「——手がかりは 集まった?」

 

 時折にこやかに微笑んでそう言うソニアを、微妙な顔で眺めていたジュンは、居間の椅子に座って考え込んでいるヒカリを振り返り、「どういうことだこれ?」と尋ねる。

 

「同じ顔のやつが2人いるぞ」

 

「うん……」

 

 ヒカリはそこに立っているソニア(ジュンが「自我なしソニア」と勝手に命名)と、奥の寝室に続く扉を交互に見ながらうなずく。巣穴の奥から現れた方のソニアは、寝室のベッドに寝かせていた。

 

「双子か? それともあれか、クローンかよ」

 

「どうだろう……いや、違う気がする」

 

 ヒカリは顎に手を当てながら呟く。

 

「巣穴の奥から現れたんだよね。じゃあ、この世界のソニアさんじゃないのかもしれない」

 

「ふーん? つまり寝室のソニアは別の世界のソニアってことか?」

 

「あるいは、別の時間のソニアさんか……」ヒカリはそう補足した。「まあ、髪型とか違ったけど顔は本当にそっくりだったから、年齢が違うってことは無い気がするけど」

 

 ジュンは腕を組んで「ふーむ」と唸る。その後、「やっぱ本人に訊くのが一番はえーな」と言って立ち上がり、寝室の方に向かって歩き出した。ヒカリは慌ててジュンを押し留める。

 

「今はまずいよ、まだ意識ないんだから」

 

「つっても熱はもう引いただろ? 大丈夫だって、ちょっと様子見てくるだけだから」

 

 ヒカリを押しながら扉にたどり着いたジュンは、ドアノブに手をかける——と、その時、ノブがひとりでに回った。ガチャンという音がして、ジュンとヒカリの前で扉が開く。扉の向こう側にいる女性——ソニアが2人と鉢合わせになった。

 

「あ」

 

 ソニアが呟く。開けようとした扉がジュンにぶつかりそうになったので、そこで止めた。ジュンも自身の顔面目掛けて向かってきた扉を片手で制す。ピタリと扉が半開きで止まり、沈黙の時間が流れた。

 

「わ、すみません」

 

 ヒカリが言って、ジュンを後ろに引きずる。「うおっと?」とジュンはバランスを崩しかけ、ヒカリのなすがままに後退させられた。「あ、こっちこそ……」とソニアは一瞬扉を閉めかけたが、ヒカリの好意を無碍にするのもどうかと思ったのか、素直に開け放ち、居間に出てくる。彼女はスリッパを履いていて、片手にタオルと氷枕を持っていた。

 

「あの、これ、おふたりが……?」

 

 ソニアは氷枕を軽く掲げて問う。「ああはい!」とヒカリがうなずいた。「身体、大丈夫?」

 

「は、はい。おかげさまで、なんとか……」

 

 ソニアはぎこちなさが残る笑みを作りながら謝辞を述べた。「ありがとうございます。助かりました」

 

「礼にはおよばねーよ」

 

 ヒカリに腕を掴まれたままジュンが言う。「困った時はお互い様だからな」

 

 本人としてはきっちり決めたセリフのつもりなのだろうが、姿勢が元にもどりきっていないため、微妙に格好がついていなかった。

 

 ソニアは2人に礼を言いながら居間を見渡して、片隅に立っているもう1人の人物に気がつき、ぎょっとする。彼女はソニアの方にちらりと顔を向け、にこやかな笑顔で言った——「手がかりは 集まった?」

 

 ソニアとソニアが顔を合わせていた。

 

「やっぱそっくりだな」

 

「うん。そっくり」

 

 ヒカリとジュンは彼女たちの顔を改めて見比べてみる。髪型は違うし、なんだったら化粧だって多少の差があるが、顔のつくりは何から何まで同じだった。

 

 寝室から出てきた方のソニアは、最初こそ自身にそっくりな者の存在に驚いていたようだったが、すぐに「あ、そうか私か……」と、何かを理解したように一人うなずく。そしてヒカリたちの方を見た。

 

「ええっと、信じられないかも知れないんですけど……私、別の世界から来たんです」

 

 ヒカリとジュンはお互い顔を見合わせた後、またソニアを見る。

 

「やっぱそうか」とジュンが言った。

 

「驚かないの!?」

 

 ソニアの方が面食らって、言葉から敬語が取れる。「……あ、驚かれないんですか?」と彼女は言い直した。

 

「敬語じゃなくても大丈夫だよ。私たち、多分同い年だし」

 

 ヒカリが言うと、ソニアは「え?」と、何故自分の年齢を知っているのか不思議がるような顔をする——が、すぐに「隣のソニア」のことを思い出し、彼女の方を見て「ああ」と言った。

 

「こっちの私とあなたは知り合いなんですね……なのね?」

 

「知り合いの知り合いって感じかな。ダンデくん伝いにね」

 

「ダンデくんって……じゃああなたたち、研究者か何か?」

 

「え、いや違うよ」

 

 ダンデと知り合いだと、どうして研究者になるのだろうと疑問に思いながら、ヒカリは否定の言葉を口にする。

 

「あ、違うんだ」

 

 ソニアは少し残念そうな顔をする。が、すぐに気を取り直したようで、「私はソニア。ブラッシータウンのソニア。マクロコスモスの暴走を止めるためにこの世界に来ました」と自己紹介をした。

 

「イヌヌワン!」

 

 すると台所にいたワンパチがソニアの声に反応するように鳴いた。「え? ワンパチ?」——ソニアは台所の方を見る。

 

「ああ気にしないで。機械的な反応だから」

 

「機械的って……」とソニアが言い終わるより早く、ソニアと同じ声が「手がかりは 集まった?」と言う。短髪の方のソニアは怪訝な顔になり、この世界のソニアの方を訝しげに見た。

 

「手がかり?」

 

「おう気にすんな。機械的な反応だ」

 

 ジュンが言う。ソニアの頭には更なるクエスチョンマークが踊った。

 

「これが今、このガラルで起こっている異変なの」ヒカリが説明する。「誰も彼もが変化せず、延々と同じ動作を繰り返す。対策をしていないとみんなこうなっちゃうんだから」

 

 そう言うとヒカリはくるりと後ろを向き、居間のソファに腰を落ち着けてソニアの方を見る。そして対面の座席を手で示した。

 

「私はヒカリ。フタバタウンのヒカリ。話を聞かせて、ソニア」

 

 

    2

 

 

 ——おかしい。

 

 何が、とは具体的にわからないが、ユウリは自身の隣を歩く青年に微妙な違和感を覚えていた。

 

 コウキと名乗った青年——出身地も言っていたはずだが忘れてしまった——を、いまひとつ信用できない感じがするのだ。

 

 先に、ユウリとニアミスした忙しない青年のことを話しても、コウキは「それは別働隊だね。連絡取れないから、今すぐ合流は無理かな」としか答えてくれなかった。ガラルの異変を解決しようと動いている者たちがどれくらいいるのか、なぜコウキがたった1人で動いていたのかはユウリにはわからない。コウキがどんな組織のどんな構成員なのか、全体像を把握できなかった——いや、それらは別に重要ではない。要救助者であるユウリに救助隊側の事情を話す必要はないことぐらいユウリにもわかる。そこはコウキを疑う理由にはなっていない。

 

 彼は、ユクシーを痛めつけてボールに入れたのだ。

 

 それが、ユウリがコウキを信用できない一番の理由である。

 

 無論、ユウリにだってわかっている、ある程度弱らせてからでないとポケモンをボールに入れても捕まえられないことぐらいは——ユウリ自身、ポケモンを捕まえる際は何度となくポケモンに技を見舞い、状態異常にして、延々とボールを投げ続けてきた。しかし何と言うか、ユウリの勘としか言いようのない部分が、あの時のコウキの所作を思い起こし、「ポケモンを道具のようにしか扱っていない」と告げるのだ。

 

 なにか、どこか冷めている。

 

 冷静なのはわかるが、それ以上に、冷めてはいけない場所が冷え切っている印象を受けていた。

 

「——着きました。ここから先がまどろみの森です」

 

「そう。ここが」

 

 そんな不信感を隠しながら、ユウリは彼をまどろみの森まで案内する。

 

 この青年をこの森に入れてしまっていいものだろうか——そんな風に躊躇して、しかしいやいや大丈夫だと首を振ってそれを打ち消す。曖昧な感覚で人を疑うのは良くない。何より彼はこのガラルにおいて、現在唯一の正気を保った人間なのだから、敵対などしたくなかった。

 

 その時、ユウリのウルトラボールがカタカタと震えたが、誰も気づかず。

 

 ユウリはまどろみの森へ踏み込む。

 

 得体の知れない何かと一緒に。

 

 

    3

 

 

 「——マクロコスモスって会社は、こっちの世界にもある?」

 

 ジュンが差し出した茶に口をつけた後、ソニアは2人にそう尋ねた。

 

「うん。ガラルの会社でしょ?」

 

「あるぞ。どでかい企業だ」

 

 向いに座る2人がうなずいたのを確認すると、ソニアはもう一つ質問をする。

 

「半年前、マクロコスモスが『無限のエネルギー』を生み出す実験を成功させたってニュースは流れた?」

 

「いや……」

 

 ヒカリはジュンの方を窺うように見る。ジュンも首を横に振ったので、「多分、流れてない」とソニアに向き直って答えた。

 

「やっぱりか」と、ソニア。

 

「ソニアの世界ではそんなニュースが流れたの?」

 

 ヒカリが尋ねると、ソニアは「うん」とうなずいた。

 

「3000年前にガラル地方を襲った災厄、『ブラックナイト』を利用して、際限の無いエネルギー資源を確保することに成功した——って、世界中を駆け巡る大ニュースがあったんだ」

 

「無限のエネルギーぃ?」

 

 いかにも胡散臭いワードを、ジュンは眉を寄せて反芻した。「そんなの実現できんのかよ」

 

「……実際に今、マクロコスモスは強力なエネルギー供給源として規模を拡大させている」

 

 深刻な顔でソニアは言う。「格安で、安定したエネルギー資源を全世界に輸出していて、他の企業が連携して対策を取っても全く疲弊しないの。まさに無限……、マクロコスモスは、とてつもなく巨大な勢力に急成長している」

 

「なんかディストピア的だね」

 

 ヒカリは乾いた笑いを漏らした。「ソニアはマクロコスモスの敵なの?」

 

「……最初は、味方だった」

 

 ソニアは呟くように言う。

 

「ローズさんの、ガラルを愛する気持ちは本物だし、あの人の意志を体現する会社、マクロコスモスは決して悪徳企業なんかじゃないから。私もガラル地方の人間だし、ガラルのエネルギー問題を憂うローズさんには共感もしてたんだよ? けど……」

 

「けど、無限のエネルギーなんてありえない」

 

 俯くソニアに代わって、ヒカリがきっぱりと言い切った。「マクロコスモスの生み出すエネルギーには、何か裏があるんだよね?」

 

「うん。その通り」

 

 ソニアは困った顔をしながらうなずいた。

 

「『無限』と言われているエネルギーがどこから来ているのか、調べたんだ。協力してくれた人たちと一緒に。そうしたら、恐ろしいことがわかったの」

 

「ははぁ、なるほどな」ジュンはポンと膝を打った。「それで、この異変か」

 

 ソニアは目を伏せる。

 

「マクロコスモスは他の世界からエネルギーを吸い取っている」

 

 重々しい調子で、彼女は言った。

 

「ムゲンダイナっていうポケモンを軸に使ってね……。時空を超えて、平行世界のエネルギーを吸い取ってるんだ。吸収の対象になった世界は最初、ガラルを中心に時が狂って、空間が歪む。やがて風が凪ぎ、太陽が昇らなくなって、世界が暗黒に包まれる……『星の停止』が起きてしまう」

 

「そうか……」

 

 ジュンの頬を、冷や汗が一筋つたった。

 

「いや、やべーじゃんかよ。世界滅亡じゃねーか」

 

「本当にごめんなさい」

 

 ソニアは深く頭を下げた。「他の世界のみんなに迷惑をかけてしまって……もう、なんて言っていいのか」

 

「大丈夫、頭を上げて」

 

 ヒカリがソニアに優しく言う。「ソニアはマクロコスモスを止めようとしてくれてるんでしょ?」

 

「うん……」ソニアの目には涙が滲んでいた。「でも一度失敗したんだ、私。みんなでマクロコスモスに乗り込んで、強硬突破しようとしたけど、勝てなかった」

 

「強硬突破って……、そこまで切羽詰まってたのか」

 

 ジュンの問いに、ソニアは小さく頭を縦に振る。

 

「最後の手段だった。けど、いざポケモン勝負に持ち込めれば勝てると思ってたんだよ。でも、駄目だった。行手を塞いだギンガ団のボス——コウキに、私たちは惨敗したんだ……」

 

 ソニアが俯きながらそう言った後、沈黙が流れた。その時間はひどく重苦しく、ソニア当人にとっても耐えがたいものであって——しかし、いつまでたってもヒカリとジュンから何の反応も無く、いくらなんでも沈黙が長すぎるのではないかと不審に思って、ソニアはおそるおそる顔を上げる。

 

 2人は、これまでで最大の驚愕を表したような顔をソニアに向けていた。

 

 ヒカリもジュンも、あんぐりと口を開け、それと同じように目も見開いている。ソニアが自分たちの方を向いたからかどうなのか、2人は口を開けたまま互いが互いに視線を合わせてアイコンタクトをし、再びソニアを見る。

 

「…………今、なんて言った?」

 

 永い沈黙を破って、ジュンが尋ねた。

 

「え、その、私たち、ポケモン勝負に負けたって——」

 

「誰に」

 

 食い気味にヒカリが訊いてくる。

 

「誰に負けたって?」

 

 

    4

 

 

 まどろみの森は常に霧が立ち込めている、鬱蒼とした原生林だが、古代に建造された祭壇のある泉の周辺だけは晴れ渡っている。ユウリとコウキは霧を抜け、泉のほとりにたどり着いていた。

 

「ここです、どうですか……?」

 

 ユウリはコウキを振り向き、躊躇いがちに訊く。ユウリも改めて自分で目の前の祭壇を見渡してみたが、歯車らしき部品が置かれているようには見えなかった。あてが外れたんじゃないだろうか。

 

 しかしコウキに落胆した様子はなく、祭壇の中に立ち入ると、そのまま祭壇を通り越して泉のもとに近寄る。

 

「『ときのはぐるま』はね、祀られると同時に隠されているものなんだ」

 

 彼は腰元からモンスターボールを1つ取り出すと、それを放ってポケモンを出す。流線形のアヒルの玩具が立ち上がったようなポケモン——「ポリゴンZ」とコウキがその名を呼んだ。

 

「サイコキネシス」

 

 ポリゴンZは一声鳴くと、コウキの見つめる先に向かってサイコキネシスを使った。物体を触れずに動かすエスパー技——泉の水に放たれたそれは、ゴゴゴゴという音と共に泉を分割する。

 

 泉の底まで、石の階段が敷かれていた。

 

 階段の終わったところに鎮座するのは、鈍い輝きを放つ、掛け時計ほどの大きさの歯車。

 

「こんなものが……」

 

「やはりあったか」

 

 コウキはポリゴンZのつくった水の裂け目に悠々と降りてゆく。ユウリはその様を祭壇の横から眺めていた——と、その時、コウキの腰元から1体のポケモンが飛び出る。

 

 ユクシーだった。

 

「きょううんっ!」

 

 コウキは現れたユクシーの姿を確認すると同時にもう1つのモンスターボールを投げる。「マニューラ、ねこだまし」——技を使おうとするユクシーより早く、現れたマニューラがユクシーの目の前でバシリと両手を合わせた。くらりとよろけるユクシー。間髪入れず、コウキはマニューラに「こおりのつぶて」と指示を出す。マニューラは、またもユクシーに技をたたき込んだ。

 

「なにをっ!?」

 

 思わず叫ぶユウリ。どうしたというのだ、いきなり。なぜ自分のポケモン同士を戦わせるのか。

 

 ユクシーは階段の淵にどさりと沈む。

 

「言うことを聞かないのは当然か」

 

 ユウリの問いに答えないまま、コウキは呟いた。

 

「おっと、お前たち、こいつと目を合わせるなよ。記憶を抜かれるぞ」

 

 コウキの言葉にうなずくように、マニューラとポリゴンZが鳴く。ユクシーはボロボロの身体で、それでもなお起き上がろうともがいていた。

 

「マニューラ、こおりのつぶて」

 

 マニューラがユクシーにとどめを刺そうと、氷片を打ち付ける直前。

 

 マニューラとユクシーの間に、ユウリが立ち塞がった。

 

「やめてください!」

 

 ユウリはコウキを睨む。予期せぬ邪魔者が間に入ったことで、マニューラは技を撃つのをやめた。

 

「なにするんですか!」ユウリは大きく手を広げてユクシーを庇う。コウキはふうとため息をついた。

 

「こっちのセリフだよ……見てなかったのかい、そいつが僕に技を撃とうとするのを」

 

「それは……」

 

 確かに、ユクシーはボールから勝手に飛び出たように見えた。何らかのエスパー技を、コウキに向かって放とうとしている様子もあった。ユウリは首を捻ってユクシーの方を振り向く。ユクシーは「きょううん……」と弱々しく鳴く。

 

 ——騙されないで。

 

 ユクシーは、ユウリに向かってそう語りかけている風に見えた。

 

 ——その人間が、この世界を狂わせた張本人なのです。

 

 精神感応のような現象だったのかもしれない。それはユウリの脳内に直接語りかけていた。その思念に嘘偽りの混じった箇所など無く、ユウリに真っ直ぐに届く。

 

 ユウリは毅然とコウキを見据えた。

 

 ユウリの態度に、コウキは一瞬驚いたような顔をしたが、落ち着いて目を閉じ、また開く。そこに狼狽の色など一切なく、ただただ冷たい、仮面のような表情に変わっていた。

 

「——そうか」

 

 コウキが呟く。

 

「まあ、いい。歯車は見つかったんだ。もう君に用は無い」

 

「『ときのはぐるま』って、なんなんですか」

 

 マニューラが爪をきらめかせても、ユウリは怖気づいていなかった。孤独や悲壮には弱くとも、この手の逆境には、ユウリは強い。

 

 このガラルで、一番強い。

 

「世界を安定させる道具だよ」

 

 コウキは言った。

 

「それはある種の切り札だ——これが君たちの側に揃う限り、『星の停止』は修正され、僕たちにエネルギーが回ってこない」

 

「君たちって……あなたはこの世界の人間じゃないんですか!?」

 

「ふむ、ご明察だ。喋りすぎたかな」

 

 ——まあいずれにしても君はここで消えるのだし、多少の漏洩は問題ないか——と、コウキは呟き、マニューラに「こおりのつぶて」と指示を出す。マニューラはその冷気によって小型の氷片を複数個作り出し、それらを勢いよくユウリに飛ばした。

 

 ユウリは逃げず、両手を大きく広げたままそこに立つ。当たればただではすまないその氷片が寸分の狂いもなくユウリに注がれる時——その瞬間、ユウリの視界が光に覆われた。

 

 その光はまばゆくて。

 

 赤くて。

 

 何よりその光は、他の何物も比肩できないほどキョダイであった。

 

「ギャオオオオオオオオ——!」

 

 ムゲンダイナ。

 

 ユウリの腰に提げていたウルトラボールから噴き出た赤い光が、この地における最強のポケモンを顕現させる。ムゲンダイナはマニューラの「こおりのつぶて」を容易く払い、ユウリを取り巻くような体勢でコウキたちに吠えた。

 

「なるほどね……」

 

 嵐のようなムゲンダイナの咆哮を受けても涼しい顔を崩さず、コウキは呟く。「そいつが君を守っていたんだな」

 

「ムゲンダイナ——」

 

 ユウリは自分の身体が仄かに赤く光っていることに気づく。暖かく、優しい光——ムゲンダイナからエネルギーを供給されているのだとわかった。

 

「——ありがとう」

 

 赤い光はユウリの身体を伝って、腰のモンスターボールにも充填される。エネルギーがボールを満たした時、湧き出るようにユウリのポケモンたちが飛び出てきた。インテレオン、アーマーガア、パルスワン、リザードン、ザシアン。それぞれが高らかに吠え叫び、全員でコウキに相対する。

 

「話を聞かせてもらいます、コウキさん」

 

 チャンピオン・ユウリは段上のコウキを見据えて言った。コウキは少し笑い、「構わないけど——」と応じる。

 

「銀河を敵にまわす覚悟はあるかい」

 

 コウキは2つのハイパーボールを構え、中空に投げた。

 

 

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