アークナイツ in ホロライブ 作:うまい棒
周囲に響く怒号と喧騒が縮こまった私の耳を引き裂くが如くかき乱す。最初に来た際はその醜い様相に吐き気を催した程だ。今となってはもう慣れた事なので後の祭りでしかないのだが。
ここで食べられる食事というのはやはり不味い。明らかに人が食べる様なものではなかったが、ある人から聞いたこの世界の情勢を聞く限り、こういうものの方が普通なのだろうと理解した。
本当ならば、元の世界の美味しい食べ物でもありつけたい所だが、意味不明な理由でこの世界に呼ばれたとなったら、それは諦めるしかないのだろう。なんとも辛い現実だ。
「ここにいたか、ミオ」
「移動しちゃ駄目だった?」
「いや、そういう訳ではない」
既に凍えてしまった飲み物を抱えてやってきたのは私がここに呼ばれた際に初めて出会った女の子、フロストノヴァだった。
鉱石病……とかいう致死率100%の感染症を患ってしまった感染者の一人であり、私が今いる組織『レユニオン・ムーブメント』の幹部の一人だそう。
感染者の組織という訳だが、私は別に感染者と言うわけではない。非感染者の人質……と言えば聞こえはいいのだろう。尤も、私の監視をしてくれる彼女に至っては、そういう扱いをしない唯一の人物であり、この世界での唯一の話し相手だった。
「本当に冷たいね? 初めて出会った時もそうだったけど」
「私の傍にいるなら時期に慣れてくる。専用のフードも与えた筈だ」
「何と言うか、まだ着る気になれないんだ、ごめんね。 ここの事、まだよくわかんないから」
彼女の周囲は時が止まっているかのように凍え冷える。彼女と出会って約三か月、ここまで一緒にいなかったら耐え忍ぶのもやめていた程だ。いや、それを言うなら初めて出会った頃からそうするべきだった。
尤も、私が敵意を見せない姿を見るや否や、彼女は優しく手を取ってくれた。その一刻がなければ、今の私は存在していないだろう。どこかに逃げおおせて、野垂れ死ぬかの末路しかなかった。
そういう意味では、彼女には非常に感謝している。勿論非感染者と言う事だから、組織の私に対する視線はとても良いものではない。ただ庇護しているのが彼女という幹部の位置づけ故に中々言い出せないのが現状か。
「――不安か?」
彼女が私の思案する表情を案じ、声をかける。
「そりゃそうだよ。こんな事言って悪いけど、貴方達と違って私がこの世界の事何も知らないからね? 異世界転生……って言えば聞こえはいいんだけど、実際目の当たりにすると、心配で心配で死にそうになっちゃうよ」
「ふっ、ここにいれば何時でも死と隣り合わせだ。そういう感覚も時期に薄れていく」
「薄れちゃ駄目な気がするけど……」
「違いない」
秘めたる感想を言えば、こんな暴力的な所じゃなくてもっと善良で、それこそ誰か和気藹々に過ごせる場所とかが良かったが、私にはその権利がない。
でもこの組織の思想、そしてこの世界が抱えている問題を考えれば、何もわからなくはない。
聞けばその感染者という人達は、非感染者たちから差別的な扱いを受けている。それもそのはず、致死率100%の感染病を持った病人となれば、普通の人間なら恐怖して近寄りがたくもなる。
けれども感染者とて一つの人間に過ぎない。そんな人間の生きる場所を奪い、更には被害を生み出さないために虐殺をするという非道な環境に終止符を……と思えば、こんな組織が生まれてもおかしくなんてない。
なんでも『ロドス・アイランド』と言う場所は、名目上は感染者の保護と謳いながらその実態は酷く冷徹なものと称し、ここ組織では倒すべき存在らしい。名目上が詐欺ならそれは許される事ではない。
「そういえば、フロストノヴァは何か次の仕事とやらに行かなくていいの?」
「一応はお前を見張ってなければならないからな。変に暴動を起こされても厄介だ」
「そんな事しないよ……って言っても、信じてもらえないだろうけど」
「ああ、少なくとも組織内の人ならばな。殺せと言う者まで出てくる」
「や、野蛮だ……」
苦笑しながら彼女の話に相槌を打つ。彼女のような話し相手がいて本当に良かったと思う。なかったら今頃孤独死しているところだ。
孤独と言えば、この世界に来る前まで一緒に遊んでいたフブキは今頃何しているのだろうか? もしこの世界に来ていたら、誰か優しい人達に出会って生き延びているといいけど。間違っても鉱石病なんかにならないでよね?
「だが、お前も組織の為に動くとなれば考えを変える奴も出てくるだろう」
「……戦えってこと?」
「無理にとは言わない。戦闘経験がないともなれば足手まといになってしまう」
私は少し考え込んでしまう。優しくしてくれたのは事実だし、何か力になってあげたいというのは事実だ。
だがこれは要は、誰かを殺せと言っているようなものだ。それは行けない事だと思うし、出来る事なら平和解決を望みたい。けれど、そんな事を口に出してしまえばこの組織の現状を見るに、反感をかってしまうに違いない。
生き延びるためには誰かを犠牲にしないといけない。よくアニメとか漫画でも見る有名なワードが脳裏をよぎる。まさかこの言葉で考える日がくるなんて、夢にも思わなかった。
「それは困るなぁ。少し考える時間がいりそう」
「そうか。ならばお前のお仲間とやらは暫くこちらが探しておこう。といっても任務のついで、だが」
「それでいいよ、ありがとう」
戦う事は別に問題ない。誰かの命を殺めてしまうというのが問題だ。今まではゲームの中だったから問題なかったけど、こうしてそれが直に感じるようになってからは、そうも言っていられない。
ここはあくまで現実なんだ。殺めた命は帰ってこない。その上で自分はどう生きていくべきか、考えていく必要がある。
――そして一番大事な問題が、かつての仲間と敵対してしまうんじゃないかという問題。
いや、これは絶対ないな。今まで仲良くやってきた私達の仲だ。きっとすぐに笑って抱き合う事が出来るだろう。
「だがいつでも仕事ができるよう、銃の扱いぐらいには慣れておけ」
「……はーい」
――本当に、抱き合えるのだろうか?
不安になるなんて、私らしくもない。