海老原さんは、前半戦での彼の事を話し始める。
「彼は、ずっと自信家だったわ」
「今も凄いですよね」
「ええ。その自信で、自分の意見を突き通す」
「……そうなんだ」
「私は、ずっと人狼だと言われてた。最後日の前日と、その前日は、あの男のせいで死にかけた。幸いなことに、途中から出しゃばった彼は、ほとんどの人から嫌われていたから、私は救われたんだけど。私が村人と分かった時の焦り具合、面白かったわ」
海老原さんは立ち上がる。
「だから、殺したいって思える」
「……え」
「私は2回も殺されかけた。彼の間違った自信と推測で。そしてさっきの発言……彼は死ぬ必要のない人の命をも捨てたのに、命を背負ってるなんて、よく言えたわね……って」
私は、海老原さんの、どこか遠くを見るような横顔を見つめながら、話を聞いていた。
「彼には、自信満々の状態で死んでほしい」
「……」
「あの男の絶望する顔を見てみたい」
海老原さんの口角は、少しだけ上がっている。
彼女は、彼の死ぬ話で少しだけ喜んでいる様子だった。
余程、追い込まれていたのだろう。
海老原さんが彼に対する感情は、復讐に近いのかもしれない。
「私、生き残れるかなぁ……」
話を変えようと、私はそう呟いた。
「生き残れるわよ。用心棒さえ死ななければ」
「……私、歌手になりたいんです」
「そうなの」
「小さい頃から歌うのが好きで、歌手を見て、かっこいいなって……だから、歌のレッスンにも参加してるんです」
「上手だったから、なれるわよ」
「ありがとう……」
私は、とても嬉しかった。
嬉しさのあまり、涙が出てきた。
「私、家族や友達に上手い上手いって言われても、あんまり嬉しくなかったんだ。無名だし、まだ誰も評価してくれない。褒めてくれるのは身内だけ」
海老原さんは、今あったばかり。
そんな海老原さんは、褒めながら私に近づいてくれた。
「……近くにいる人に言われるより、全然、言葉の強みが違うっていうか。全く知らない他人の……その、海老原さんに言われたから、嬉しかった」
海老原さんは「そう」と遠くを見ながら言葉を返す。
「だから、絶対にここから生きて出ないと。海老原さんも、絶対に出ましょう!」
「……」
海老原さんは、何も答えなかった。
「あなた、名前は?」
話題を変えられた。
でも、さっき話を振った時に見せた、遠くを見てるけどまた別の表情。彼女には、この外の世界で何か辛い事でもあったのかもしれない。
「聞いてる?」
「あ、はい!岳田菜穂です!」
「菜穂ね……よろしく」
「えっと、海老原さん?」
「海老原一香。よろしく」
◇◆◇
菜穂は、大浴場や食堂等で時間を潰し、
自分の部屋に帰ってノートとペンを持った。
夜の8時、そろそろ投票で集まる時間だった。
廊下を進むと、短髪メガネの男子と会った。
「予言者の人……でしたっけ」
「はい」
「良かったら、一緒に行きましょう」
この人の名前は、菅野 勇と言った。
「難しいですよね、ルールいっぱいあって」
「そうですね、私も何が何だか!」
「……朝、言ったこと覚えてますか」
「??」
「あの、仕切ってる男が怪しい」
「……うん」
その男は、海老原さんからも恨まれてた。
ここで2票が固まった。
「投票の提案、してくれませんか」
「へ?」
「俺が言っても、説得力ないし」
「……う、うん」
それはつまり、殺す人の指名をしろと言ってるのだ。
役職が確定していて、殺されない立場にいる。ということは逆に、指名する側に立っているということにもなる。
「頑張ってみる……」
正直、あの自信家を押せる気がしない。
〜登場人物・整理〜
〈女子〉
・岳田 菜穂 (前髪ぱっつん三つ編み) →予言者
・海老原 一香 (ポニーテール女子)
・??? (ロング女子)
・??? (ショートカット女子)
・??? (お嬢様女子)
〈男子〉
・??? (茶髪の大柄男)
・??? (センター分け男子)
・??? (長髪メガネ)
・??? (低身長男子) →霊媒師
・菅野 勇 (短髪メガネ)