私と短髪メガネの菅野くんは、大広間に入った。
ここを出て以降、入るのは初めてだ。
「あとは、チビ霊媒師だけだな」
大柄の男がそう言うと、霊媒師の子が入って来た。
「よし、全員座れ!」
立っていた海老原さんや、髪の長いメガネ男子は、彼の一言で席に着く。
「……さて、議論を始めようか」
菅野くんと、視線があった。
彼は目で強く「言え」と訴えかけてくる。
「あ、あの……!」
「どうした予言者」
「その、怪しい人がいて……あなた……なんですけど」
「ほう??」
大柄の男は、余裕ぶった表情で私の方を見てくる。
「あとひとりくらい、いないか?怪しい人物」
「え……」
「んじゃあ聞く、俺のどこが怪しかった?」
「え……っと、その、自信満々な所、とか?」
「そりゃ、村人として予言者の確定は大きい。これだけで勝率はぐんと上がった。これを喜ばない方が逆に怪しい。他は?」
何も考えてない。
ただ言えって言われただけ。
そんな事、今更言えない。
「もしかして、朝に彼が言った事を気にしてる?」
「へ?」
ショートカット女子がそう訊ねてくる。
彼と言いながら、彼女は菅野くんに顔を向けた。
彼は、大広間を出る時にも言っていた。
その発言は、先に出て行った大柄男と海老原さん以外の、近くにいた人たちが聞いていただろう。
「その話、詳しく」
大柄男は、ショートカット女子に噛み付く。
「2人が出て行った後、彼が岳田さんに言ってたの。仕切ってる男が怪しいって」
大柄男は立ち上がった。
「立て、お前」
「……は?なんで俺が」
「俺は予言者さんからの指名。お前は、俺からの指名だ」
「お前に指名される権利なんてない」
「お前は予言者の女の子に言ったんだろ?俺を指名しろって。遠回しに言えば、お前が俺を指名した事になる。俺がお前を指名しても同じだろ」
「そんな理由、通じないな」
「じゃあ一方的に攻めさせていただくわ」
大柄男は、円形の中央に立つ。
「むしろ俺は、こいつがもうひとりで良かった!」
彼はまた、嬉しそうに演説を始める。
だが、声は少し震えている。
自分の死を、今身近に感じているのだろう。
「こいつが、全員の中でいちばん怪しかった!」
「……は?」
「予言者確認の時、こいつも声を上げたよな?」
「……ああ。そうだよ?だから?」
「こいつ、経験者って言ってたのに、声を上げた理由がルールが理解してないって?」
「は?そんな事言ってねーし」
「いや、言ったわ」
彼が、同じタイミングで声を上げたのは覚えていた。
でも、その後の内容は覚えていなかった。
でも、彼の言う通りルールが理解できてない……みたいな事を言っていた、そんな気はする。
「でもさっき、大広間に来る途中で会った時、彼はルール難しいよねって言ってました。だからあんまり分かってないんだと思います」
と、私はフォローを入れる。
「なに、ここに来る前に2人きりになったと?」
「え……うん」
「その時に、他に言われたことは?俺を指名しろってだけ?」
私は頷いた。
「へぇ……朝以外にもう一回、頼んでたんだ」
「そうだよ、お前が怪しいからな!」
「お前、予言者を名乗り出ようとしたんじゃないか?」
「……は?」
「彼女が名乗り出なかったら、お前が出てただろ?俺に対抗するために。でもお前の計画は崩れた」
「何言ってんのお前」
「お前は、俺が予言者だと思った。で、人狼陣営として対抗しようと思った。でももうひとりが手を挙げたから、これは狂人、もしくは仲間の人狼と被った。だから自分は折れよう。で、変な理由を言った。でも実際は俺のブラフに引っ掛かっただけ!俺が言ったバカはお前だった、違うか?」
「は?お前聞いてた?俺はただルールが理解できてないだけ」
菅野くんは、座りながら上目で、大柄男を睨んだ。
彼の目力は、やはり強い。
「じゃあどうぞ?お前が俺を怪しいと思った理由!」
「仕切ってるからだろ?!」
「仕切ってれば怪しいのか?」
「ああ。人狼っぽい!」
「人狼だったら、撤回するか?」
「するだろ」
「いやしないね。そのまま撤回しなかったら、予言者の対抗枠を取れただろ?確定予言者を作るなんて、人狼陣営はそんな自殺行為をするわけがない」
菅野くんは、大柄男を攻めれなかった。
理由が甘すぎたのだ。
「お前ら、普通は予言者が仕切るだろ?!なのに自分が仕切ってる、これは不自然だ!おかしい!」
「ならば、予言者と霊媒師に仕切ってもらおうぜ?これなら問題ないだろ?」
「ああ!問題ねーよ!変に出しゃばんなよな!」
大柄男は、余裕ぶった笑みを浮かべて椅子に座った。
すると、霊媒師の小柄男子は口を開く。
「俺は……あいつで良いと思うけど」
と、菅野くんを指さす。
「はぁ?!」
「じゃあ、そいつでいいだろ。反対のやつは挙手しろ」
菅野くん以外、誰も挙手をしなかった。
「おい!」
彼の怒鳴り先と視線は、私だった。
「お前何してんの!?」
「……でも」
「あいつを殺すって!あいつに票集めろって!」
一方的に頼まれただけで、そんな事は言ってない。
「予言者ちゃん、君名前は?」
「……菜穂」
「菜穂ちゃん。こんな奴の言うこと聞かなくて良いから。君が理由をハッキリ喋れなかった時、俺は誰かに言われたなってすぐに分かったぜ?」
「おい!そうやって仲間勧誘するなよ!」
と、菅野くんが割り込んでくる。
「お前もした事だろうがよ」
「は?してねーし!」
「頼んだんだろ?俺を殺せって」
「は?頼んでねーよ!」
「お前、言ってる事滅茶苦茶だわ」
お嬢様女子が口を開く。
「投票、どうやるんですか……」
「指投票だよ」
大柄男はそう言い、円形の中央の上を見上げた。
そこには、丸い監視カメラが付いてる。
「上からも見てる。腕を伸ばせば、誰が誰に入れたか分かる」
時計の針は、進んでいく。
ふたりの男子以外は、安全な場所にいる。
今日、投票されるのはどちらか。
私たちはまだ、人の死に対面していない。
想像もつかない分、恐怖も60%ほどしか感じない。
だけど、実際に人が死ぬと、
恐怖などが、一気に押し寄せるのだろうか。