大柄男が言うには、それぞれ投票したい相手の方に腕を伸ばす。これだけで、円形の中央上にあるカメラで見てる犯人が、最多票者を把握するらしい。
現在の投票は、
大柄男か、短髪メガネの菅野くん。
「まだ投票までは少し時間がある。じゃあ投票せずに1回だけ、全員の意見を聞こうぜ」
大柄男は立ち上がった。
「全員、目を瞑って下を向け」
私は、言われた通りに目を瞑って下を向いた。
従わない人がいたのか「はやく!」と大声を浴びせる声が聞こえる。
「お前は見てろ。メガネ。じゃあ聞く……メガネより俺の方が怪しいと思う奴は手を挙げろ」
私は手を挙げなかった。
正直、今のやりとりを見ていたら、2人を比べるとどちらかというと、菅野くんの方が怪しく見えた。
なぜ、彼が目立っているから吊りたいのか。
彼がいると、自分に害があるのか?
「おかしい……いや、お前ら、待て!」
流石に目を開けていいだろうと、私は顔を上げた。
「おいまだ……まあいいや」
見ると、誰も手を挙げていないのだ。
そして、バラバラと顔を上げていく人たち。
菅野くんは、歯をカチカチと鳴らし、怖さで踊っている瞳で、全員の事を見ていた。
「……だとよ?」
「お前!お前がベラベラと喋って、全員を恐怖に陥れた結果だろ!?手を挙げたのが自分だったら……次は狙われる!そう思って手を挙げなかったに違いない!!」
「あと5分……全員を説得してみろよ。俺は、お前に聞かれたことしか答えない。口を挟まない。さ、説得してみろ」
大柄男は、菅野くんに全てを丸投げた。
菅野くんは立ち上がり、全員の顔を見る。
「……コイツが怖いんだろ?」
ひとりに言っているようで、これは全員に言っている言葉なのだろう。
「手を挙げたら、次に狙われるのは自分だ……それが怖いんだろ?」
全員、彼とは目を合わせなかった。
初めての投票場の恐怖だけではなく、やはり大柄男の威圧というのもあるだろう。
「俺は人狼じゃない。今はアイツのせいで、俺が一番怪しく見えているだけ。お前らは、この流れに流されようとしているだけ……あいつの言う通りにしてていいのか!?アイツが人狼だったら、お前らはこの先も流されて、死ぬぞ!?」
死ぬぞ。その言葉の重み。
この場で最多票を集めた者は死ぬ、それがルール。
「でも、彼が人狼ならば、撤回はしてないと思うけど」
「……あぁ、そうだな。認める、認めるよ!」
「人狼を?」
海老原さんは急に口を挟み、彼を茶化す。
「ちがう!」
海老原さんの問いに、菅野くんは大きく反対した。
「俺は人狼じゃない!アイツの村人側が濃厚なのも認める!でも……でも俺は“今回も”人狼じゃない!俺に投票しちゃいけない!」
「今回も……?」
と大柄男は、急に真剣な顔をして呟いた。
「もう9時になります……!」
お嬢様女子が、切迫したトーンで話す。
海老原さんは、菅野くんへ腕を伸ばした。
それを見て、センター分け男子も真似をし、菅野くんへ腕を伸ばした。
「ごめん……っ!」
お嬢様女子は謝ると、目を瞑って腕を伸ばした。
「……俺じゃねえ!!」
菅野くんは、大柄男に。
大柄男は、真剣な表情で腕を伸ばした。
「……なんで」
その腕は、センター分け男子に向けられていた。
順々と、投票していく。
私は、ゆっくりと菅野くんへ指をさした。
これで、全員の投票が完了した。
「……なんでだよぉぉ」
「……ひとつ、聞かせろ」
大柄男は立ち上がり、菅野の目の前へ立った。
「お前も、後半戦なのか?」
「……そうだよ」
「……そっか」
「俺は!前回、狂人だった。俺は……あいつと違って、人を殺してないし、何も悪い事はしてない!」
大柄男は、泣き叫ぶ菅野くんを黙って見ていた。
「お前がもっと早くカミングアウトしてたら、別の相手にしていた。後半戦の奴と、犯人像やこれからの事について、もっと話したかった」
「……おせぇよ」
菅野くんは、テレビとは真逆の方へ歩いていく。
その方向には、壁しかなかった。
「白々しい演技だったよ。」
バァン!
風船を割ったような、衝撃音が鳴った。
菅野くんの向く側の壁は、彼の血がこびり付いていた。
どうやら、首輪の中央が破裂したようだ。
「……っ!」
大柄男は、顔を青くして、後ろに尻もちをついた。
「……え」
人の死の瞬間を見たのは初めて。
一瞬理解できなくて、すぐに強い恐怖感が襲ってきたのだ。