人狼ゲーム BLOOMS《ブルームズ》   作:海老原

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9話 投票後の空間

 

 菅野くんが死に、少しの無音空間に入った。

 大柄男の尻もちの音。

 全員がビクッと体を震わせた。

 

「……いやっ、いやぁぁっ!!」

 

 ショートカット女子は、涙を流してその場に座り込んだ。身体をガクガクと震わせ、両手は自分の体を抱きしめるように、胸の前で交差させていた。

 

「死ん……じゃっ……!」

 

 お嬢様女子は、口に手を当て、彼の死体と逆方向のテレビの方に顔を向けた。

 

「お、おお、お、あああ……あああぁぁぁ……」

 

 霊媒師の小柄な男子は、変な声を漏らしながら椅子から動けないでいた。どうやら椅子に座ったまま腰を抜かしているようだった。

 

 すると、センター分け男子は立ち上がって、ふらふらとした足取りで大柄男の方に近づいていく。

 

「……なんで」

「……」

「なんで俺なんだよ」

「俺のテキトーな1票で状況は変わらない。俺はアイツに、投票したくなかった。あいつも……」

「だからって……俺にぃっ!」

 

 センター分け男子は、右手で涙を拭う。

 

「……っ!」

 

 私の口は震えていた。

 まるで、雪山にいるみたい。

 

 全身から血の気が引き、寒さに襲われた。

 胃が気持ち悪い。喉が締め付けられている感じ。

 

「……やっぱり、人の死ぬ瞬間は、何度見ても慣れないもんなんだな」

 

 大柄男は、椅子を使ってゆっくりと立ち上がる。

 そして、そのまま大広間から立ち去ろうとする。

 

「逃げるの?」

 

 大柄男の足は止まる。

 そう言ったのは、海老原さんだった。

 

「何が、後半戦の人と話してみたかった……よ」

「……」

「当たってるといいねわね。貴方の、当たらない勘が」

 

「当たらない勘……?」

 

 と、すぐそばに立ち尽くしていたセンター分け男子が、睨むように海老原さんを見た。その瞳は、涙で濡れて、照明が反射してキラキラと光っていた。

 

「彼は前回、ひとりも人狼を当ててない。それどころか、私は村人なのに、彼のさっきのような自信満々な様子で、殺されかけた」

 

「あいつは、人狼じゃなかった……?」

 

 と、メガネ男子が呟く。

 

「いや、あいつは人狼だよ」

 

 と、大柄男。

 

「自信あるのね、その自信はどこから来るのかしら」

「アイツの発言から」

「予言者カミングアウトの件なら、彼が狂人という可能性もあるけど」

「アイツは、前回は狂人って言ってた。“は”って事は、今回は違うって事だろ?それに、後半戦ならルールが分からないなんて言わないだろ。そういう嘘つく役職なんて、人狼しかねーだろうが」

 

 彼の発言には、気力も力強さも無かった。

 酷く疲れた様子で、海老原さんの事を睨みながらそう返している。

 

「……そっか。じゃあせめて、この死体の処理お願い」

「は?」

「前回もそうだったでしょ?男子が死体を、外に放り投げる役」

 

 大柄男は、大股で海老原さんの方へ近づき、髪を掴む。

 

「てめえ、良い加減にしっ……ぁっ!」

 

 彼は右手で、すぐに首輪に手を当てる。

 彼の首輪の下から、血が細く流れるのが見えた。

 

「……じゃ、お願いね」

 

 海老原さんはそう言うと、大広間から出て行った。

 

「……あいつ、絶対に殺す」

 

 海老原さんも、大柄男の事を殺すって言っていた。

 そして、今は彼が海老原さんを。

 

 ここのふたりは、完全に敵対した。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 結局、菅野くんの死体は、男子が運ぶことになった。

 霊媒師の子を除いた3人で。

 

 霊媒師の子は、椅子で動かないでいた。

 

「菜穂さん、部屋、一緒に戻りませんか」

 

 そう言ってきてくれたのは、ショートカット女子だった。その横には、ショートカット女子の腕を掴みながら震えている、お嬢様女子が立っていた。

 

「……うん」

 

 ロング女子は、誘ったけど断ったそうだ。

 女子3人で、大広間を出て、部屋の方へ向かった。

 

「そのノート、なに?」

「使うかなって思って持ってきたけど、使わなかった」

「そっか」

 

 お嬢様女子に訊ねられ、ノートを使っていなかったなと改めて感じた。いや、使う暇なんてなかった。

 

 あの場は、大柄男と菅野くんの喧嘩場だった。

 いや、殺し合い場と言ってもいいのだろう。

 

「あの、さ。誰を占うかとか、決めてるの?」

「……ううん、まだ」

「あ、私の部屋、ここ」

 

 508の部屋。

 プレートには、尾田 希美乃と書かれていた。

 

「尾田ちゃんって言うんだ」

「あ、うん」

 

「私は、明戸苑果」

 

 お嬢様女子が、尾田希美乃ちゃん。

 ショートカット女子が、明戸苑果ちゃん。

 

 私はそう、ノートに書き記していく。

 2人の名前が判明した。

 

「あの、茶髪のがっしりと大きい人……多分柔道部かなんかなんだろうけど、あの人、ちょっと怖いな」

 

 と、尾田ちゃんが呟く。

 

「ちょっと、圧あるよね……」

 

 と、私も返した。

 

「人狼に殺されればいいのに」

 

 苑果ちゃんは、暗い顔で呟く。

 その発言には、2人ともびっくりだった。

 

「苑果ちゃん、その発言は怖いよ」

 

「だって、今日みたいに、あのメガネの子みたいに1対1の口論とかになったら、圧で殺されそうだから。だから……」

 

「まあ彼は、いちばん村人側に近い。攻めるところなんてないから、攻められて流されて殺されるだけ……」

 

 と、尾田ちゃんも話に乗っかった。

 

「これで、彼が人狼だったら怖いけど」

 

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