菅野くんが死に、少しの無音空間に入った。
大柄男の尻もちの音。
全員がビクッと体を震わせた。
「……いやっ、いやぁぁっ!!」
ショートカット女子は、涙を流してその場に座り込んだ。身体をガクガクと震わせ、両手は自分の体を抱きしめるように、胸の前で交差させていた。
「死ん……じゃっ……!」
お嬢様女子は、口に手を当て、彼の死体と逆方向のテレビの方に顔を向けた。
「お、おお、お、あああ……あああぁぁぁ……」
霊媒師の小柄な男子は、変な声を漏らしながら椅子から動けないでいた。どうやら椅子に座ったまま腰を抜かしているようだった。
すると、センター分け男子は立ち上がって、ふらふらとした足取りで大柄男の方に近づいていく。
「……なんで」
「……」
「なんで俺なんだよ」
「俺のテキトーな1票で状況は変わらない。俺はアイツに、投票したくなかった。あいつも……」
「だからって……俺にぃっ!」
センター分け男子は、右手で涙を拭う。
「……っ!」
私の口は震えていた。
まるで、雪山にいるみたい。
全身から血の気が引き、寒さに襲われた。
胃が気持ち悪い。喉が締め付けられている感じ。
「……やっぱり、人の死ぬ瞬間は、何度見ても慣れないもんなんだな」
大柄男は、椅子を使ってゆっくりと立ち上がる。
そして、そのまま大広間から立ち去ろうとする。
「逃げるの?」
大柄男の足は止まる。
そう言ったのは、海老原さんだった。
「何が、後半戦の人と話してみたかった……よ」
「……」
「当たってるといいねわね。貴方の、当たらない勘が」
「当たらない勘……?」
と、すぐそばに立ち尽くしていたセンター分け男子が、睨むように海老原さんを見た。その瞳は、涙で濡れて、照明が反射してキラキラと光っていた。
「彼は前回、ひとりも人狼を当ててない。それどころか、私は村人なのに、彼のさっきのような自信満々な様子で、殺されかけた」
「あいつは、人狼じゃなかった……?」
と、メガネ男子が呟く。
「いや、あいつは人狼だよ」
と、大柄男。
「自信あるのね、その自信はどこから来るのかしら」
「アイツの発言から」
「予言者カミングアウトの件なら、彼が狂人という可能性もあるけど」
「アイツは、前回は狂人って言ってた。“は”って事は、今回は違うって事だろ?それに、後半戦ならルールが分からないなんて言わないだろ。そういう嘘つく役職なんて、人狼しかねーだろうが」
彼の発言には、気力も力強さも無かった。
酷く疲れた様子で、海老原さんの事を睨みながらそう返している。
「……そっか。じゃあせめて、この死体の処理お願い」
「は?」
「前回もそうだったでしょ?男子が死体を、外に放り投げる役」
大柄男は、大股で海老原さんの方へ近づき、髪を掴む。
「てめえ、良い加減にしっ……ぁっ!」
彼は右手で、すぐに首輪に手を当てる。
彼の首輪の下から、血が細く流れるのが見えた。
「……じゃ、お願いね」
海老原さんはそう言うと、大広間から出て行った。
「……あいつ、絶対に殺す」
海老原さんも、大柄男の事を殺すって言っていた。
そして、今は彼が海老原さんを。
ここのふたりは、完全に敵対した。
◇◆◇
結局、菅野くんの死体は、男子が運ぶことになった。
霊媒師の子を除いた3人で。
霊媒師の子は、椅子で動かないでいた。
「菜穂さん、部屋、一緒に戻りませんか」
そう言ってきてくれたのは、ショートカット女子だった。その横には、ショートカット女子の腕を掴みながら震えている、お嬢様女子が立っていた。
「……うん」
ロング女子は、誘ったけど断ったそうだ。
女子3人で、大広間を出て、部屋の方へ向かった。
「そのノート、なに?」
「使うかなって思って持ってきたけど、使わなかった」
「そっか」
お嬢様女子に訊ねられ、ノートを使っていなかったなと改めて感じた。いや、使う暇なんてなかった。
あの場は、大柄男と菅野くんの喧嘩場だった。
いや、殺し合い場と言ってもいいのだろう。
「あの、さ。誰を占うかとか、決めてるの?」
「……ううん、まだ」
「あ、私の部屋、ここ」
508の部屋。
プレートには、尾田 希美乃と書かれていた。
「尾田ちゃんって言うんだ」
「あ、うん」
「私は、明戸苑果」
お嬢様女子が、尾田希美乃ちゃん。
ショートカット女子が、明戸苑果ちゃん。
私はそう、ノートに書き記していく。
2人の名前が判明した。
「あの、茶髪のがっしりと大きい人……多分柔道部かなんかなんだろうけど、あの人、ちょっと怖いな」
と、尾田ちゃんが呟く。
「ちょっと、圧あるよね……」
と、私も返した。
「人狼に殺されればいいのに」
苑果ちゃんは、暗い顔で呟く。
その発言には、2人ともびっくりだった。
「苑果ちゃん、その発言は怖いよ」
「だって、今日みたいに、あのメガネの子みたいに1対1の口論とかになったら、圧で殺されそうだから。だから……」
「まあ彼は、いちばん村人側に近い。攻めるところなんてないから、攻められて流されて殺されるだけ……」
と、尾田ちゃんも話に乗っかった。
「これで、彼が人狼だったら怖いけど」