まずは地下四階宿舎の殺人から振り返ろう。
ここではハイビスカスが、何者かが落とした段ボールで頭を打ち死亡している。遺体の位置は部屋隅で、棚に隠れるようにしてあった。ドアの開ける音や通気口の蓋の音が聞こえなかった時点で、宿舎にいた誰かが犯人なのは間違いないだろう。
ここで見つけた不審な点は、段ボールの水の跡。
ズィ「水の跡? なんだそりゃ」
「大きな水滴が垂れたか、濡れた指で触ったのかくらいの跡だな。あまり気にしてなかったんだが、ウタゲが何か思いついたみたいなんだ」
ジェ「ウタゲさんがですか?」
「マニキュアと言っていた。特殊な何かとは言ってたが、何か思いつかない?」
対面の三人は、何の反応もなし。
ズィ「マニキュアなんてやらんからな」
ジェ「わ、わたしもしませんので……」
テン「あたしも」
ウタゲは何を思いついたのか。
ズィ「マニキュアがどうこう言ったのっていつぐらいなんだ?」
「事務室から宿舎に行くときだ。停電で真っ暗になった後だ」
ズィ「ふうん……」
「これ以上考えても出ないかな。じゃあ次だ」
地下三階の訓練室の殺人。時計の秒や分を調整できるボタンに仕掛けられた毒針によってミントが死亡した。こちらは事前に仕掛ければいいため、外部犯でも当時一緒にいた人でも犯行は可能だ。
ここで考えるべきは一つだけ。ミントはなぜ時計の時刻を直そうとしたのか。
ズィ「最後に話してたのはテンニンカだったな。何を話してた?」
テン「事件の話とかだよ。それ以外は特に何も」
ズィ「何か気づいたことは?」
テン「いや何も」
何もなければ、こんな状況の中一人で訓練室に行くことはないだろう。源石装置が盗まれた時刻と同じ『AM2:26』を、なぜ彼女は直そうとしたのか。
ズィ「ダメだ。訓練室の殺人は何の手がかりもねえな。次行こう」
地下二階の事務室。毒を塗られたボウガンの矢でウタゲが殺された。内側からロックされており、通気口からしか出入りできない状態だった。
テン「だからあたしじゃないって」
ズィ「お前以外誰がいるんだよ。外部犯だとしたらエレベーターは動いてねえし、廊下のドアを開けたとしても、アタシたちとすれ違う可能性があるなら使うのをためらうだろ」
ジェ「テンニンカさんが犯人だとして、そもそもウタゲさんをどうやって事務室に連れて行ったのかが疑問です」
そういえば、ウタゲもどうして事務室に一人で行ったんだろうか。ミントもウタゲも、単独行動をする動機があったのか。
ズィ「お前なら事務室にも誘えるし、内側からロックを掛けた後、中から通気口に入ることはできるだろう」
テン「うう……」
とうとう反論もしなくなった。密室の問題は一応クリアはしている。あえて除外するとしたら残る謎は二つだ。
ボウガンの用意と、カレンダーを握りしめていたこと。
ジェ「外部犯の線が薄いとしたら、ボウガンは事前に事務室に隠してあったんですかね?」
「念のために用意していたのかな。確かにズィマーやウタゲは、普通に戦って勝てる相手ではない」
ズィ「ウタゲってやつは全く戦闘経験がなかったんだってな。それであのセンスはおかしい。アタシならともかく、普通のやつが相手は無理だろう」
「強敵相手のための凶器か」
ズィ「だがボウガンがあるなら、今までのやつらもそれでさっさと殺せばよかったよな? なぜ一階ごとにちまちま殺す必要があるんだ」
そうだな。今までの殺人を通しての謎は、なぜ階ごとに殺人を犯しているのか。
まるでゲームのフラグ管理がされてるみたいで、殺人が起きたら導かれるように次へと向かう。一体犯人はなぜこんな面倒な仕組みを作ったのだろう。
ズィ「動機は全くわからねえ。だから物的なものを確認するしかない。あいつが握りしめたカレンダーは、絶対に意味があるんだろうな」
「ダイイングメッセージか?」
ズィ「そういうやつだ。カレンダーのそばで死んでたから、最後の力を振り絞ってだろうな。弾みでカレンダーを破って握ったなんてならないだろうし」
ウタゲの意思があると。
ズィ「握ってたのは29日の……日付」
なぜか声が小さくなっていく。
「29日に何かあるのかな。源石装置の盗難事件があった日だが」
ズィ「い、いや握ってる方が証拠とは限らないだろう。30日の方を示したかったのかもしれない。それか、29、30という数字そのものに意味があるかも」
数字そのもの? いや、何も思いつかないが。
そういえばさっきからズィマーとばかり話してる。ここでジェシカにも話を振ろうとしたが、彼女は眉を寄せてうつむいていた。
ジェ「地下四階宿舎でハイビスカスさん、訓練室でミントさん、事務室でウタゲさん……」
「どうしたジェシカ?」
ジェ「あ、いえ! 何でもありません」
何でもないとは思えない焦りの表情。首を振り、手を前で振っている。今の並び順は特に意味がないように思えるが、何か思いついたのだろうか。
ジェ「つ、次に行きましょう。地下一階加工所。ここではミルラさんが撲殺されていました。わたしたちを部屋に隔離できたのは、外部犯しかいないでしょう」
テン「その犯人はどうして加工所の檻にロックを掛ける必要があったんだろう」
ズィ「撲殺だから、逃がさないようにするためか。いや、そもそも加工所も閉じ込められてたな。なんでわざわざ閉じ込めたんだ?」
「遺体に触れられたくないから……」
何気ない一言だったが、ここでジェシカが反応する。
ジェ「そういえば、ミルラさんもウタゲさんみたいに何かを握ってたような」
右手が不自然にグーの形を作っていたのは、そのためだろうか?
「なるほど。犯人の手がかりでも握ったかもしれないな。死後硬直、あるいは単純に強い力で握っていたから犯人は取れなかった。せめてもの抵抗で、鍵の掛かる檻の中に入れて鍵を掛け、通気口から脱出した」
ズィ「説明はつくな」
「ああ、だが憶測でしかない。ただそれらしい説明なだけだ」
もうちょっと可能性はありそうだが、それは思いついたらでいいだろう。ミルラの事件の情報は、遺体検分もできないせいで情報が少ない。
しかし、ミルラの事件で私だけが持っている情報が一つだけある。
ミルラのボイスレコーダーはどこへ行ったのか。
持ち去ったのは、おそらく外部犯だろうか。三人が宿舎を出た後、こっそり忍び込んで盗んだ。だとするなら、終始こちらの行動は筒抜けなのだろうか。
この事件の考えるべき謎はこのくらいだろうか。いや、待て。そういえば……。
(どうしてミルラさんまで殺されたんでしょう。彼女は何もしてないのに……)
ジェシカのこの言葉がやけに頭に引っかかっている。さっきの発言といい、ジェシカの言動が気になる。
思い立ち、問い詰めようとした、その時だった。
(あ……あ……)
全員が弾かれるように上を見た。そこにあるのは、どの部屋にもあるアナウンス用のスピーカー。そこから機械的な声が聞こえたのだ。
??(どうやら事件の話をしているようだな。真相がわからず、犯人もわからず、戸惑っている様子なのが見て取れる。実に滑稽だ)
ズィ「誰だ貴様は!」
??(わざわざ教える義理もないが……これだけは言っておこう)
じっとスピーカーを見ると、やつは一拍おいて言った。
??(私は言うなれば真犯人。ロドスの各部屋を隔離し、お前たちを追い詰めている張本人である)