ロドス殺人事件~閉ざされた基地にて~   作:ハセアキオ

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真犯人の正体

アー「ドクターの推理、お見事でした。やはりドクターの頭脳は何物にも代えがたい」

「そんな褒め言葉はどうでもいい。何が目的でこんなことをしたんだ」

アー「それはですね……」

ズィ「な、何をしやがる!」

 

はっとして後ろを見ると、黒子の衣装を身にまとった人間がズィマーを捕まえている。首に腕を巻き、右手のナイフを喉元に突きつける。

 

アー「どうでしょう。この行動で何かわかりませんか?」

「……ふざけたマネを」

アー「助けようとしても無駄ですよ。彼女に再起不能の怪我を負わせたくはないでしょう」

 

いつもの彼女らしからぬ脅しだ。明らかに身動きが取れない状況だとわかる。

だからこそ、大まかな動機はわかった気がする。

 

アー「推理の続きを聞かせてください。どうして私は七人を集めたのでしょう?」

「……各オペレーターが事件の時に働いていた。それなら、彼女たちは源石装置盗難事件の容疑者だった?」

アー「正解です」

 

アーミヤは薄く笑う。

 

アー「いいですね。及第点です。ここまで聞けばもういいでしょうから、私の口から真実を教えます」

 

こちらに向き直り、言葉を続けた。

 

アー「まずなぜこの六人に絞ったのかといえば、推理通りあの日あの時刻に仕事をしていたオペレーターだったからです。盗難事件の時、意図的に停電があった区画でもあります」

「その他にも宿舎には人がいたはずだ。応接室も基本は二人組で、ジェシカ一人ではなかったはずだ」

アー「計算ですよ」

「計算?」

アー「みなさんがフルでいた場合の計算が合わないんです。応接室の手がかり入手や事務室のパーセンテージのたまり具合。宿舎のみなさんの疲労の回復度合い。それぞれ時間に対する成果が明らかにずれているんです。だから、仕事を受け持っていた人間が一時的に離れていた証拠になるんです」

 

そんなところから導き出すのか。

 

アー「同じ場所にいたレッドさんに話を聞くと、ジェシカは停電の際にどこかに行ったらしいんです。その証言をもって再度計算したら、彼女が容疑者だと確信をしました。源石装置に関わった人数はおおよそ判断はついたので、宿舎で休んでいたオペレーターは関係ないと結論づけました。ズィマーを抜いたとした場合の、疲れの回復度の計算も合っていましたしね。だから地下四階宿舎を担当していたハイビスカス、地下三階宿舎を担当していたテンニンカ、地下一階宿舎のズィマー、あとはそこに隣接する各部屋、停電した箇所を担当したオペレーターに絞られた」

「ミントとミルラは、疑わしい程度だった?」

アー「その二人は数値では判断できませんでしたからね。ミントは相手のいない訓練室ですし、加工所は時間経過で数値は変わりませんからね。この二人だけは、疑わしいから集めたのです」

 

そうか。今の説明でミントの事件がわかった。

 

「ミントが殺されたのはそのためだったか。君は、時刻を餌にミントを誘ったんだな?」

アー「そうです。彼女が盗難事件の協力者かどうか見分ける必要がありました。手順としては、まずデジタル時計をあの事件を示唆する時刻に設定し、毒針を仕掛ける。その後テンニンカに指示するんです。デジタル時計の時刻を直した方がいいかもしれない。ドクターに勘づかれるかもとミントに話せって」

「勝手に脅しのネタに使われて不愉快だな」

アー「脅しなんて聞こえが悪いですね。彼女が何もしてなかったら絶対に取らない行動ですから、自業自得ですよ」

 

抑揚も感情もない声だ。

 

アー「それで思い出しましたが、ウタゲも同じ要領で殺そうとしたんです。だからカレンダーを29日にしましたが、ドクターが注目するので思わず停電にしてしまいました」

 

あの停電はそういう意味があったのか。

 

「でも計算は色々狂いましたね。停電のせいで蛍光塗料もバレたし、挙げ句の果てに証拠として握りしめるとは」

「……これを最後の質問にしよう。最後までズィマーを残したのは何のためだ?」

アー「それこそがこの大がかりな計画を実行した真の目的です。他の容疑者たちはロドスの裏切り者として処置しましたが、彼女だけは生かさなければならなかった」

「他の容疑者は平気で殺すのに、ズィマーは生かす? 何のために?」

アー「先ほどのアナウンスを思い出してください」

 

アナウンス? 何か番号を言って……あ。

 

「つまり一連の事件は、源石装置を盗んだ張本人をあぶり出すためだったのか。協力した人間と、直接文書を盗み隠した人間は分けられている。だから、協力だけと確定している人間を徐々に殺していったと」

アー「はい。ロドスはあの事件以降、トランスポーターや外との接触を避け、犯人捜しを秘密裏に行っていました。ですから源石装置はまだロドス内にあるのは絶対なんです。ですから直接パスワードを入れ、直接盗んだオペレーターを特定できればよかった」

「テンニンカは利用していたとして、なぜ応接室に来るまでジェシカを生かしたんだ?」

アー「彼女も最有力容疑者だったからです。源石装置盗難の内容を思い出してください。地下一階宿舎と応接室から真っ先に停電になったんです」

 

……確かに書かれていた。

 

アー「この二部屋はセキュリティルームに近く、階段などを使えば難なく到達できます。ですから真っ先に停電になった部屋にいた、ジェシカ、ズィマーの二人に絞りました。そして応接室でのパスワードの一部、5512の数字を聞いた時の反応、ミルラさんのボイスレコーダーに残った会話で確定をしたんです」

「どうしてここまで回りくどい計画をする必要がある。六人を集めて尋問でもすればよかったのではないか」

アー「それではダメですよ。先ほど言ったとおり、ミントやミルラさんはまだ仲間かどうか不明だったんです。真犯人を追い詰めるのと他に、その二人もあぶり出すためにやったんです」

「ミルラは? ミルラはどうだったんだ? 私と話した内容を聞く限り、仲間とは思えなかったぞ」

アー「そうですね。彼女だけは無関係でした。ですが、ボイスレコーダーを使うほどあの事件と今回の事件が密接に関わっていることに気づいていました。端的に言えば、知りすぎたので殺したんです」

「無関係な人間を殺すのか」

アー「不本意でしたよ。ですが、仕方がないんです。あの源石装置は絶対に知られてはならないんです。それこそ、知った者を始末しなければならないくらいには」

 

モニターを背景に、小さい体はシルエットとなって目の前に映る。だが、彼女のうつろな目だけはなぜかはっきりと見えた。どこか遠くを見ているような、恐ろしい意思をまとった瞳がこちらに向いている。

 

「一体その源石装置には何があるんだ。殺してまで守られなければならないものなのか」

アー「ええ、守らなければなりません、なにせあれには、ロドスの倫理観を疑われるものですからね」

ズィ「へっ! 何が疑われるだ。思いっきり倫理観から逸脱しているくせにな」

「なんだって?」

ズィ「いいかドクター。その装置の源石にはな、死んだ患者のオペレーターのものが使われているんだ。でも普通に死んだだけじゃあ駄目なんだ。ある方法で患者を殺し――」

 

その瞬間、後ろにいた黒子が口を塞ぐ。

 

ズィ「ぐぅ……」

アー「ここまでの計画を立てるのは骨が折れました。ただ、そのおかげで源石装置を盗み、その在処を知っているだろう実行犯を見つけられました」

ズィ「……」

アー「ズィマー。お前が源石装置を盗んだ目的は正義感か? それとも金か?」

ズィ「……」

アー「おそらくは誰かと結託したか。体に聞くしかないな」

ズィ「な、何をするつもりだ!」

アー「とっておきの自白剤がある。これが秘匿されるべき成分で、一人分しかなかったんだ。これも、今回のまわりくどい計画を立てた要因でもある。最重要人物にのみ使うしか道はなかったからな」

「ちょっと待て――」

 

アーミヤを止めようと手を伸ばすと、急に伸ばした右手首をつかまれる。別の黒子だ。

 

「な、何をする!」

アー「ドクター。ドクターはやはり優秀ですね。本当に殺さずに済んでよかった」

 

そのまま黒子に腕をロックされ、床に倒される。

 

アー「それほど優秀な頭脳でしたら、再び記憶喪失にする手間をかけてもいいでしょう」

「ど、どういうことだ! 私も殺そうとしていたのか?」

アー「私は絶対に生かしたかったのですが、ドクターを生かす価値があるかどうかを選別すると言って聞きませんでしたからね」

「誰が?」

アー「ケルシー先生とクロージャさんです」

「な!」

アー「当然、私の力だけでロドスをこんな状態にはできません。二人が手を貸すほど、装置の盗難は深刻な事態だったんですよ」

 

なんておそろしい。二人も裏で手を引いていたのか。

 

「知られるのが怖いからか? 患者を不当な手で死なせ、それで手に入れた源石を使っていたからか」

アー「何を話してもドクターは忘れるので、返答はしませんよ。ドクターが迷い込んだのは本当に偶然でした。あの時、地下四階の監視を怠っていたせいでしょうね。ドクターもミルラさんと同じようになっていたかもしれません。ですがここは何とか二人を説得し、もしこの複雑な状況を推理できたら、素晴らしい頭脳なので生かしておきましょうと説得をしたんです。つまり私はドクターの恩人です」

「……」

アー「もし推理が中途半端だったり、解けなかった場合は説得は無理だったかもしれません。いや、踏み込みすぎたので確実に殺されたでしょうね」

「待て……ズィマーはどうなる」

アー「死ぬより辛い目に遭った後、本当に死んでもらいます。彼女の命と引き換えに、ロドスの秘密は守られるでしょう」

 

ズィマーが黒子に連れて行かれる。アーミヤの元に行くと、彼女もこちらに背を向け、奥のドアへと向かう。私は精一杯の抵抗をしたが、押さえられた腕が痛むだけで何もできなかった。

 

ただ彼女の背中を見送るしか無かった。声にならない声を出すしかなかった。

 

患者を殺して作った源石装置。容易く六つの命を捨て去るほどの秘密。ロドスの深淵は、想像以上に……。

 

 

 

Good End 唯一の生存者


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