ロドス殺人事件~閉ざされた基地にて~   作:ハセアキオ

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源石装置盗難事件

ウタ「わたしの演技どうだった?」

「迫真でビビったぞ」

 

頬に傷のメイクを作ったウタゲはどや顔をしている。

 

ウタ「で、気づいていると思うけど、わたしが握ってるのは11月29日のカレンダーだよ」

ミル「なんでそんなものを?」

ウタ「さあね。それは自分で考えて」

 

ウタゲはのんきに腕を組む。

 

(さて、ここでまたまた事件説明の時間だ。といっても今回の事件の説明は少ないな)

 

つらつらと、現場の状況がニェンから話される。凶器はボウガンで間違いなく、毒はミント殺害に使われたのと同じヒエンソウと呼ばれるものだ。矢の先端に塗られていたそれが頬をかすめ、絶命したと。

 

(ロドスのドアの鍵は、各部屋で内側からロックが掛けられるようになっている。外から解除するにはマスターキー的なものか、制御中枢からの遠隔操作が必要となる。またこのあたりもよくわかっていない設定のため、ちょっと都合がいいのは目をつぶってもらって)

「何を言ってるんだ」

(とりあえず内側から鍵が掛かっていた。つまり密室だったってわけだ)

 

密室殺人か。また古典的な。

 

(ウタゲが握っていたカレンダーと密室の謎。うんうんミステリーじみてきたな)

「ミステリーじみてるにしては、こっちの情報がだいぶ制限されてるな。明らかに重要そうな盗難事件についてはいつわかるのか」

(それについては、この後だ。宿舎に戻ってる時にスムーズに出してやろう。現場はもう情報は出そろってるから見なくていいぞ)

 

ブツッと会話は途切れた。

 

 

「……ええと」

 

あ、そうだ。

 

「ウタゲ……どうして死んでしまったんだ」

「うわーん」

「しくしく」

 

泣きを入れて現場を離れる。暗い廊下に戻り、ズィマーを先頭に、私を後ろにして歩く。

盗難事件の情報がこれから出されるだろうが、はたしてどんな内容なのか。

 

ミル「29……29ですか」

 

隣にいたミルラがつぶやく。

 

「どうしたんだミルラ?」

ミルラ「あの日付に覚えがあるんです」

 

前にいるオペレーターたちもこちらを見た。

 

ズィ「日付?」

ミル「あの日付って、例の事件が起きた時じゃないですか?」

ジェ「例のって、源石装置が盗まれたやつですか?」

ミル「はい」

 

(よし、ここで情報解禁だ。源石装置盗難事件の説明は各人で見てくれ。事前に渡された端末を使ってな)

 

端末? あのレプリカのことか。

 

(レプリカといっても、通信ができないだけで文字は入れられるんだ。そこには源石装置盗難事件の概要が書かれてある)

 

指示通り端末を持つと、そこにはみっちりと事件の概要が書かれていた。

 

 

 

 

――11月29日の深夜に、何者かがセキュリティルームの中に忍び込み、源石装置を盗んだ。完全にセキュリティの穴を突かれた犯行だった。週で替わるパスワードの書類をシュレッダーに掛けたが、どうもそのゴミが抜かれた形跡がある。それを復元されて今週のパスワードを知られたのだろう。

各場所で停電を引き起こした手際、人員の目に付かない犯行から、かなり練られた計画だったと思う。監視カメラの無力化の手際や見張りの人員を考えるなら、最低でも二人。それ以上の可能性も充分ある。確実に単独では無理な犯行である。

停電によって最初にカメラが無力化されたのは、『AM2:26』の時である。B1宿舎とその周りの施設、および1Fの応接室周りにまず停電が起こった。そこから順次セキュリティホームまでの道筋に停電が起こっている。

ロドスはここ数日どこにも停泊しておらず、外部へ持ち出すのは不可能だ。まだ中にある可能性が高いと見て捜査を進めている。

犯人を見つけるため秘密裏に開発した自白剤を使わなければならないが、あいにく一人分しかない。複数人を尋問するのは可能だが、源石装置を直接盗んだ人間を問いただすべきだろう。

あれを持ち出されたらまずい。あれには外部に秘匿するべき恐ろしい情報があるのだ。

容疑者から一人を絞りたいが……どうしたものか。

 

 

 

とんでもないことが起きてるじゃないか。しかも自白剤など物騒なことも書かれている。

いや、そんな突飛な説明よりも目を引く文面がある。

 

11月29日

AM2:26

 

今回の事件に関わっている時刻と日付だ。この盗難事件と関わりのある数字。

これは一体どういうことだ?

 

(当然知ってる情報として扱ってくれ。じゃあ頑張れ)

 

ブツッと途切れた。ようやくこの情報を使った演技ができるというわけだ。

 

「言われてみれば、今回の事件に出てくる数字はこの盗難事件に関わるものが出るな。日付と時刻がそれだ」

テン「うーんどうしてだろう」

 

とぼけるように言ったテンニンカに対し、ズィマーが鋭い目を向けた。

 

ジェ「たまたま……じゃないですよね。でも、だとしたら犯人の目的は何だろう」

ズィ「犯人の目的なんてどうでもいい。捕まえて聞けばいい」

 

ズィマーが宣言するように言った。

 

ミル「いや、でも犯人はわからないじゃないですか」

ズィ「わかったよ」

ミル「え?」

ズィ「犯人がわかった。現場の状況を見て全てな」

 

意気揚々とズィマーは言う。

 

ジェ「現場は密室でしたが……」

ズィ「密室ではないだろう。確かに内側からロックが掛かっていたし窓もない。だが、一つだけ外とつながる場所がある」

 

彼女の言うとおり、唯一の通り道がある。

 

「通気口か」

ズィ「そうだ。今まで誰かさんが通ってきた道だ」

 

そうして横にいた二人をにらむ。

 

ズィ「ならそこを通れる人間が犯人に決まってる。テンニンカとミルラは外から中に侵入できたのだから、当然二人が疑うべき対象だ」

ミル「え! そ、そんな……」

ズィ「だがミルラは、宿舎に来てからは廊下に一歩も出なかった。ジェシカと暖炉の前にずっといただろ?」

ジェ「は、はい。二人一組になった方がいいと思って、ずっと一緒にいました。廊下に出てもいません……じゃあ」

 

全員がテンニンカを見る。

 

ズィ「そうだな。テンニンカが犯人としか考えられねえ」

テン「ちょ、ちょっと待ってよ! 確かに通気口は入れるけどさ。それだけで犯人と決めつけられるのはおかしいよ」

ズィ「充分すぎるだろ。だがこの状況をお前が一人で作れるとは思えねえ。密室殺人はほぼ確定だが、ロドスの色んなドアが閉まっている謎がわからない。だから……」

 

踏みしめるように歩き、テンニンカの前に陣取る。

 

ズィ「お前を拘束させてもらう」

テン「そ、そんな!」

ズィ「これでもかなり譲歩してやってるつもりだ。当然トイレくらいは同伴で許してやるし、腹が減ったら飯を食わせてやる。しかもその状態で殺人が起きればお前の潔白が証明される。これほど恵まれた処遇は無いぞ。それともなにか? 拘束されたら計画が実行できなくなるから嫌なのか?」

テン「違うよ……」

 

顔を伏せたが、すぐに地団駄を踏む。

 

テン「ああもうわかったよ! 拘束されればいいんでしょ! そうすればあたしの潔白は証明できるはずだよ」

 

何か言いたかったが、せっかくの流れを止めたくないので黙る。いや、現実だったらちゃんと止めるぞ。

 

ズィ「よし、じゃあ……ああ」

 

気を張っていたような演技が抜け、耳に手を当てる。

 

ズィ「GMって言えばいいのか。話があるんだが」

(なんだ?)

 

私の耳にも聞こえた。

 

ズィ「テンニンカを縛る紐とかないか? 当然きつく拘束はしないから、見た目だけ何とかしたいが」

(容疑者を縛って無力化すると。わかった。一旦中断して手伝いのものに持ってこさせる)

 

しばらく待つと、閉まっていたはずの廊下のドアがウィンと開く。

あ、おかっぱの医療オペレーターの子。

 

一言も発さず近づき、何本もつながったベルトみたいな物をズィマーに渡してきた。そうしてぺこりとお辞儀し、さっさとドアに避難する。

 

ズィ「ハーネスかよ。クライミングや高所作業で落ちないようにする本格的な装備じゃねえか」

(ちょうどいいと思ったんだよ。見た目的にはどっかの博士の拘束具みたいじゃん。その前部分に紐を付ければ拘束できるだろう。痛くはないだろうし)

 

テンニンカも渋々それを着る。そしてズィマーが胸部分のベルトに細い紐をくくりつける。

……まるで犬を散歩させてるみたいな格好になった。

 

ズィ「痛くはないか?」

テン「大丈夫だよ」

ズィ「なるべく力は入れないようにはするが、痛かったらすぐに言えよ」

(じゃあ演技開始だ。はいスタート)

 

イヤホンのやかましい声が止み、辺りは静まりかえる。そして、

 

テン「痛いよー離してよー!」

 

急にスイッチが入ったわめき声。

 

ズィ「うるせえ。痛いだろうが我慢して歩け」

「おい、乱暴にするなよ」

ズィ「いいじゃねえか。十中八九こいつが犯人だからな。本来ならここで殴ってもいいところを止めたんだぞ。むしろ感謝してほしいくらいだ」

 

さっきまでの気遣いを吹き飛ばす演技だ。なかなか堂に入っている。

 

ズィ「さてここから……ん? エレベーターが」

 

エレベーターを見ると、ドアが閉まっている。気づいてすぐ目の前に行きボタンを操作すると、ドアは普通に開かれた。

 

ズィ「使えるようになってるか。こんなタイミングよく復旧するわけないし、やっぱりお前がやってるのか。それとも誰かと協力してんのか?」

テン「知らないよー! あたしは何もしてないって」

ズィ「まあいいや。とっとと乗り込もうぜ」

 

こうして地下二階とはおさらばだ。人数は続々と減り、さらには一人を拘束している。さて、ここからどう動くのか。

 

ズィ「どうせ次の階で止まるんだろ。どうせな」

 

そうならないでくれと思いながら、ボタンを押して扉を閉めた。


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