「ミルラまでが……」
ズィ「ずっと気絶していたのか?」
「閉じ込められたのに気づいてすぐにやられた。あとは起こされるまでずっと――」
ここではっとする。
「いや、違う。ミルラを殺したのは私じゃない」
三人は顔を見合わせる。
テン「さすがにドクターが犯人とは……」
ジェ「こんな怪しまれる状況でわざわざ殺すとは思えません」
ズィ「まあそうだな。気絶した状態も演技とは思えなかったし」
「せめて何か証拠があればな。だが密室状態で二人しかいなかった」
ズィ「いや、密室じゃなかったぞ」
へ? あ、そうだ。密室だった加工所に三人が入ってきてるじゃないか。
ズィ「とりあえず何があったか説明するぞ。実は宿舎でも一時的に密室になっていたんだ」
「なんだって?」
ズィ「テンニンカがトイレに行きたいと言い、ずっこけてドアを止めていた椅子をずらしやがった。その瞬間を見計らうようにドアが閉まり、閉じ込められたんだ」
テン「わ、わざとじゃないから」
ズィ「いくらなんでもタイミングがよすぎるんだよ。やっぱりお前が外部犯とつながってるんじゃないのか?」
テン「ど、どうやってつながるのさ。だって拘束されてて、誰とも会話ができない状態だよ。そんな中椅子を外す意味なんてないじゃん」
どうだろう。今のテンニンカの証言は一見正しいが……。
ズィ「それは知らん。どっちにしろお前が椅子を外さなかったら、もっと早く助けに行けたんだよな。犯人を捕まえられたかもしれない」
テン「それはごめんなさい」
ズィ「ひとまず、アタシら以外に犯人がいるのは確定でいいかな」
テン「あたしの疑いは……」
ズィ「まだだ。犯人は二人以上いるのは確定なんだ」
テン「うえーんそんなー」
泣くテンニンカに戸惑うジェシカ。
「まあ待て。話をまとめると、宿舎も加工所も一時的に隔離されていたってことか」
ズィ「そういうことになる。時間にしてどのくらいだったか」
ジェ「たぶん二十分くらいは閉じ込められていたと思います」
「に、二十分?」
(そういう設定な。実際の時間は数分だ)
ややこしいが、私は二十分くらいは気絶していたと。二十分の間、ズィマーたちは当然何もできなかっただろう。
やはり外部犯がいて、そいつも殺人を?
「現場の状況は?」
ジェ「まず、檻のドアが内側から閉まってます。おそらく電子ロックか何かでしょう。目視でしか状況は確認できませんが、凶器の鉄パイプ以外は何もありませんでした」
檻の方を振り返る。ミルラの遺体のそばには資材が階段状に積まれており、通気口までは容易に到達できるようになっている。密室ではないが……他の三人はアリバイがあるだろう。もちろん私も。
ズィ「外部犯がいるのは確定だな。だが手がかりはなしだ。何が起こったのかさっぱりわからない。しかも遺体を調べられないときた」
そうか。ニェンから遺体の情報があまりなかったのはそのためか。情報がないのは困ったぞ。
ズィ「ここから見た感じだと、撲殺されたとしかわからねえな」
それ以外の情報はない。ただ、横にだらんと出された右手がグーの形をしているのが不自然だなと思うだけだ。
ジェ「どうしてミルラさんまで殺されたんでしょう。彼女は何もしてないのに……」
ん?
「何もしてないってどういう意味だ?」
ジェ「あ、いや」
なぜか目が泳いでいる。
ジェ「何の罪もないのに殺されたのはかわいそうって意味です」
ズィ「とにかく」
流れを断ち切るように強い口調で言った。
ズィ「これからどうする。犯人はこっちを無力化する武器まで持ってやがる。固まったとしても意味がねえから、こっちも武器を持って対抗するしかない」
テン「ならあたしの拘束具も解いてよ」
ズィ「お前は怪しすぎるから絶対にダメだ。じゃあ各々武器を取ったら移動するぞ」
加工所にあるパイプを拾い上げぶんぶんと振る。ウルサス人にかかったら鉄パイプも恐ろしい凶器だろう。
他の子も私も、仕方なく鉄パイプを取る。用意ができたらミルラを残し、加工所を後にした。ズィマーを先頭に廊下を歩くと、
ズィ「ん? エレベーターが閉まってる」
何だって?
見てみると、確かに廊下は暗く、エレベーターが閉まってる。つまり動くようになってるのだ。
この階を離れるの、異様に早くないか?
ジェ「これで一階に行ける?」
ズィ「ようやくこのふざけた状況も終わりか」
本当に? 何か嫌な予感がするが、ここは演技としてほっとしておくべきか。
ズィ「善は急げだ。さっさと行くぞ」
「あ!」
ここで思い出した。
「しゅ、宿舎に忘れ物をした。少し待ってくれ」
追い抜いてすぐさま宿舎に入る。ミルラのボイスレコーダーを回収しなくてはならない。確か、ベッドに仕掛けたと言っていたっけ。手前右手にあるベッドの前に屈み、下を見てみる。
床にはない。続いてベッドの継ぎ目あたりを手探りで探してみたが、何の感触があるわけでもない。
ミルラが仕掛けたボイスレコーダーが、どこにもない?
テン「何を探してるの?」
はっとしてみると、三人とも私を見ている。
ズィ「また閉じ込められてもしらねえぞ。何を探してんだ」
「さっきペンを落としてな。床にないなら、ベッドの下かと思ったが」
三人の反応は薄かった。ベッドの下と聞いて何も反応しなければ、盗んでないと見ていいのか。だがこの三人以外、誰が盗めるというのか。
「見つからないならいい。早く上に行こうか」
首をかしげる三人は、やはり何か隠している様子はない。ミルラが嘘を吐いているとは思えないが……。
謎は解けないままエレベーターへと入る。まぶしい光の中、一階のボタンを押す。するとドアは閉まり、上へと上がる浮力が内臓を浮き上がらせる。
おそらく最終地点だろう一階に、このまま無事に着くのだろうか。
エレベーターが停まり、ドアが開いて深淵がお目見えだ。だが、目の前には宿舎に続くドアはない。
体を廊下に出して、それはようやく見える。
一階の制御中枢だ。
エレベーターから右斜め前にあるドア。ちょうどエレベーターの明かりが届かず、闇と同化している部分に、電子キーがチカチカと光っている。
ジェ「あそこに行けば誰かいるかも!」
ジェシカが掛けていき、電子キーを操作。しかし案の定、ドアはびくとも動かなかった。
ズィ「ちっ! 予想どおりかよ」
テン「また別の部屋に入るしかないんじゃない? どうせ廊下のドアも開いてないんでしょ」
テンニンカの言うとおり両端のドアは開かない。そこで取る行動は一つ、トイレの先にある新たな部屋に入るのみだ。これまでずっとそうしてきた。
一階は応接室である。今までと違うのは、開放的な空間なこと。応接用のソファとテーブルのみの簡素な家具で、窓からの光は今までの部屋と一線を画す。
窓といっても、はめ殺しの強化ガラスだから脱出はできないが。
ジェ「今は停まってるんですね」
眼下にはロドスが、遠目には荒野にそびえる山脈がある。稼働している様子はなかった。
ズィ「ここなら暗くできねえから、奇襲の心配もない。なあ、事件の話をまとめないか」
「いいと思うぞ。やろうか」
ジェ「何かできるかな……」
私の対面に、ズィマー、テンニンカ、ジェシカと座る。それぞれ足を組んだり、膝をそろえたりと姿勢はバラバラだ。テンニンカはミノムシのようになるのが精一杯だが。
「では話を進めていこうか。まずは地下四階の事件からだ」
鉄パイプを置き、今までの事件を振り返る。