俺がにとりのラボに着いたのは太陽が地平線の向こうに沈みきるかきらないかの時間帯だった。
俺はにとりのラボの前にチャリンコを降りる。
「……ってよくよく考えたらチャイムねえな……どうしよ」
仕方なく俺は扉をどんどんと叩くことにした。
すると、しばらくしてラボの扉が開く。
「遅かったね。盟友君。待ちくたびれたよ」
どこぞの暦さんがよく言われるような言葉をもらった。俺は何となく額に黒い布を巻いた後、しゃがんで耳に指を当てる。
「待たせたな」
というと、にとりはポケットからサングラスをとりだし、戯けてこういった。
「待ってたぜ」
「さてと。携帯電話の草の根妖怪ネットワーク契約だったね?ついてきて」
「おう。無限に広がる大宇宙」
俺はにとりについて行き、入り口にリュックサックを置く。
にとりは応接室っぽいところに俺を通し、座って待つように言って何処かへ歩いて行った。
椅子に腰掛けた途端、腹の音がなる。
「……なかなかきつくなってきたな……」
椅子にぐったりともたれかかり、ぼんやりと天井を見つめる。
「……ごはん」
俺の口からぽつりとこぼれた言葉は、LEDライトっぽい電灯の光に消えて行った気がする。
なんて妄想なんてしてると、扉が開く音がした。
何と無く二者面談を思い出し、背筋をしゃんとして座る。
にとりが俺の前の椅子に腰を下ろした。そして本題に入る。
「さてと、代金にして二万円……が、当初の予定だったね」
「は?なんだその含みのある言い方」
俺が言い返すと、にとりは深刻そうな表情をして告げる。
「単刀直入に言わせてもらうとこのままじゃこれはすぐに使い物にならなくなる」
「……嘘こけ。そんなこと言ってデタラメな改造して金を巻き上げる気だろ?」
「現実的に考えて、これはバッテリーで動いてるだろ?それに、君は外来人らしいじゃないか。家はないだろ?」
「……つまり、追加料金さえ払えばバッテリーの心配をなくすと?」
「まぁそうだね。で、どうする?」
「価格的には?」
「うーん……ざっと二万五千円くらい?」
「……無理だな。払えん」
「そっか……じゃあどうする気だい?」
「さぁ?とりあえずシンキングタイムだ。ま、なにも思い浮かばないなら、また来るぜ。とりあえず、今は二万円で、そいつをくれ」
俺は二万円を机に置き、にとりに差し出す。にとりの方も俺に携帯を渡した。
「さんきゅーな」
「こちらこそ。外の携帯をじっくりと見るいい機会だった。ありがと」
にとりに背を向けて応接室を出……るまえに、振り返ってにとりの方を向き、告げる。
「あ、そだ。地底に地霊温泉郷ができたんだよ。今度行ってみたら?」
地底、と言った途端の一瞬、にとりから表情が消えた。
が、すぐに愛想笑いを浮かべ、こう返してきた。
「慎んで遠慮させてもらうよ」
「……わかった。んじゃあな」
俺はそっとにとりのラボの出口に立つ。
外は真っ暗だった。
「……あの、にとりさん。今日泊めてもらえません?」
「いや、でも君、地底のだろ?」
「そこをなんとか!」
「一泊千八百円」
「お値段以上なんて嘘なんだな……」
「悪いね。いろいろと維持費とか大変なんだよ」
「いいし!くそ!これ以上の出費はしねえ!」
俺は外に出て、チャリンコを押して山路を歩き始めた。
すみません