朝
「ふぁぁ〜……」
あくびをしながら俺はよろよろと早苗の部屋から出た。
早苗は疲れて寝ている。まぁ、夜通しやってたから、当たり前だろう。
「おはよう。朝からお疲れみたいだね」
金髪でカエルみたいな帽子をかぶった少女が挨拶してきた。確か早苗が洩矢諏訪子って言ってた気がする。
諏訪子はほがらかに続ける。
「いやぁ、昨日はお楽しみだったみたいだね」
「あり?もしかして昨日なにしてたかわかんの?なんか恥ずかしいな」
「わかるに決まってるよ。だってあんなに声が漏れてたじゃん」
「ああ……いろいろとヒートアップしてたしな」
「だからね」
あくまで笑顔で諏訪子は続けた。
「せめて深夜にOOの機体で覚醒するたびに【トランザム!】って叫ぶのやめよ?一番あれが響いてたよ?」
「はい。さーせんっした」
「全く。もっと深夜だってことをもうちょい考えて欲しいね。ほとんどねれなかったんだからね?私」
冷静になってから考えるとかなり申し訳ないのでペコペコと頭を下げる。
「んで?君は?」
「ああ、俺は普通風味の男子高校生、木亥広星だ。そういう君は洩矢諏訪子」
「まぁ、うちにダニーとか犬はいないけどね」
とか話してる内に携帯のことを思い出した。
「なあ洩矢さん、神奈子さんは?」
「……あのさ?仮にも私達神様だよ?さんづけは馴れ馴れしいとか思わないの?」
「え?じゃあ諏訪子様って呼んだら成績上がったりするの?」
「いや。勉強くらい自力で頑張ろ?」
「OH NO!俺の一番嫌いな言葉は『努力』で!二番目は『頑張る』なんだぜぇー!」
「君はもうジャンプを読むな」
「え?このセリフ一応ジャンプに属する主人公の発言だけど?」
「……神奈子なら部屋で寝てるよ。そういえば携帯片手に何かをしてた気がするけど……あ、神奈子の部屋はそこね」
よし!なんか勝った気がする。
「でも、寝てるところを起こすと神奈子怒るy」
「ダイナミックお邪魔します!」
俺は蹴ってドアを開けた。
「聞けよ!」
中は暗いが、なにかが動いた気配がする。
「……?」
足元に1円玉が落ちてたので、拾い上げる。
すると、頭上を何かが通り抜けて行った。
ぞりって髪の毛がすこしもってかれた。
「……こ〜せ〜」
中から怒気を孕んだ声が聞こえる。
明らかに俺をロックオンしてる。俺の名前を読んだあたりが。
「え、なんすか?」
恐怖を誤魔化しながら、聞き返すと、中から髪がボサボサの神奈子が恐ろしい速度で迫ってきて俺にアイアンクローをかけて壁に叩きつけた。
「がは……」
「静かにしてなさいね?私はもうちょっと寝たいんだか」
頭蓋骨からミシミシと音が聞こえる気がする。
「いや!悪かった!悪かったからこれだけ!携帯どうなった?」
「んぁ?……食卓の上」
「わかった!じゃあおやすみ!」
というと、手が離れた。
「……おやすみ」
そして、よろよろと神奈子は部屋に戻って行った。
「こわぁ……」
「ね?開けない方が良かったろ?」
「…そうだな。すまん諏訪子さん。言う通りにするべきだった」
「……まぁ、いいか……ふぁ」
「眠いのか?」
「うん……私はもう少し寝てくるよ。おやすみ」
と、諏訪子は自分の部屋らしきところに入ってしまったので、早速食卓に向かい、携帯を回収する。
そして、電源をつけると画面に映ったのは見慣れたリンゴのアイコンではなく、目を閉じ、寝ている水色の髪の美少女だった。携帯の中にいるようだが、どこぞの人造エネミーとは違って悪さをしてる気配はなく、おっとりした雰囲気がする。少女は起き上がり目を開けると、笑顔をこちらに浮かべて口を動かした。
「おはようございますご主人様」
「ぎぃやぁぁぁ!しゃべったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
なんなのだろうこいつは。新手のポルナレフだろうか。いや、俺のポルナレフがこんなに可愛いわけがない。
「ご主人様?」
美少女が首を傾げてる。
「あ、悪い。というか誰だお前!?」
「私は、このiPhoneに憑いた意識体です」
「どう言うこと?」
「私はもともとこの携帯の音声案内機能と、もともとこの中に入っていた【アプリ彼女】というアプリを合わせて妖怪化したもの……というべきですかね。他を媒介として、力をバッテリーに変換して奪えます」
「……ごめん。アプリ彼女なんて俺入れた覚えがないけど」
「私に言われても困ります」
「んで?今は何を媒介にしてるんだ?」
「ご主人様の生命力です」
「はぁ!?アホか!やめろ!」
「うばっちゃうよ〜?うばっちゃうよ〜?」
「るっせえ!てめえなんかポイ捨てしてやるってできねぇ!?」
「この 装備は 呪われてます。 外すことが できません」
「しゃなく!」
「MPが足りてません」
「くそ!あ、そういや、もし生命力がなくなったら俺どうなるの?」
というと、美少女は含みのある笑みを浮かべ、人差し指を唇に当てて、こう告げた。
「ひ・み・つ♡」
「これ確実にあかんやつだ!これ確実にあかんやつや!」
画面の中で美少女がくすくすと笑ってる。
「大丈夫ですって。こうしてる今もご主人様ピンピンしてるでしょ?」
「確かに……」
「私はモンスターハンターでいうなら腹減り倍加【小】くらいの存在ですので」
「よくわからん!というかそれはセーフなのか!?」
「さぁ?余程のことがない限り安全のはずです。今のところ」
「ま、まあ、これからよろしくな。っと、お前名前なんて言うんだ?」
というと、美少女はもじもじと困ったような表情をする。
「それが……まだないんですよ。ご主人様がつけてくれませんか?」
と言われて、少し考えることにした。
「そうだな……じゃあ、サユリ……ってどうだ?」
「わかりました!サユリですね!よろしくお願いします!」
さて、サユリ、との信頼度上げもできたことだし……
「さて。これどうやってiPhoneを元のように使えるんだ?」
「あ、その時は私がステルスするんですよ」
というとサユリの姿が見えなくなる。
「お、なるほど」
草の根妖怪ネットワークにつなげようとアイコンのあたりを押す。そのとき
「ぁん……///」
「!?」
サユリの声がいきなりしたので指を引っ込める。
「ご主人様、急にそんなとこ触るなんて……大胆ですね」
「姿が見えないから全くわからねえよ!教えなくていいけど!とりあえずお前は姿だしてiPhoneのすみにいろ!」
すると、サユリがぁ!でてきてぇ!サユリがぁ!画面端ぃ!に座り込んだ。
「さてと」
今度こそアイコンを
「ゃん……///」
「明らかに今のは触ってねえよ俺!?」
「ぶっちゃけ今iPhoneに触る=私に触るですから」
「ふざけんな!思春期男子の心を弄ぶな!」
とりあえずマナーモードにすると声が出なくなったので、安心してiPhoneをいじれるようになった。
まぁ、画面端でサユリが赤面してビクビクしてるけど、気にしたら負けだ。さっきちらっとみたら動揺してる俺をみてニヤニヤしてた。明らかに遊ばれてる。
「全く……ん?」
草の根妖怪ネットワークで、一つ個人メッセージが来てた。
そして、そのメッセージは一言、こうあるだけだった。
『弱者が見捨てられない楽園に興味はないか?』
ということで、輝針城編の始まり始まり。