「ここに集え我ら」
「鏡音一家」
俺がついたのは、一軒の小屋だった。レジスタンスとかかっけえ名前があったから、もっとド派手な基地でも構えてるものかと思ったけど、なんというかがっかりである。
「よく来たな。えっと、ミラージュ・コロイドだっけ?まあ入ってこい」
矢印のもようがはいったスカートをはいた女の子が扉を足で蹴って開けた。が、そのかかとは上を向いていた。
「なんだ……男か」
女の子は逆立ちしていたらしく、俺の足元の方に黒髪が見える。そして、俺のスカートの中をしっかり見てた。
「ばっ!てめ!なに見てんだよ!」
俺は女の子の顔にローキックしようとしたが、いきなり『男に蹴られたような感覚』を足に感じて、思わず足を引っ込める。
「いっ!……痛……」
それに対して女の子は涼しげな表情で続けた。
「というかあんた下着のセンスないな。これだったら褌の方がましだよ」
「うっせえ見んな!というか見世物じゃねえよ!誰も見ねえはずだしどうでもいいじゃねえか!」
「……ははーん、あんた童貞だろ?」
「は、はぁ!?何いって」
「やーいやーい!リアル童貞やーい!」
「やかましい!というかお前はなんで逆立ちしてるんだよ!お前はあれか!?阿良々木の大っきい方の妹かよ!?」
「そりゃあ女の子のスカートを覗くために……さ」
「阿良々木のお兄ちゃんの方か!あれか!?鬼に憑かれたのか!?」
「んで、本名なに?」
「突然戻るの!?というか、そういう時はお前から名乗るべきだろ」
「そこはあえて逆に……ね?」
「いやわけわからん」
「これだからオールドタイプは……いい?これからの時代、どんどん日常に変革をいれなきゃダメなんだよ?」
「そこまで言うなら……俺の名前は木亥広星、普通風味の男子高校生だ。よろしく頼む」
「ああ、よろしく」
「……」
「……」
「……んで?お前は名乗らないの?」
「私は名乗るなんて一言も言ってないよ」
「シャア!はかったな!?」
「ありとあらゆる不幸はだいたいお前を産んだ親が悪い」
「だまれ!」
「はいはい……正邪も……新入りさんも……喧嘩しないの」
と話してると入り口の方から声が聞こえた。
入り口にはちっこい、身長は120くらいの着物の少女が、三味線を肩からさげ、琴を背負って息をきらして入ってきた。お椀のような帽子からはみ出る髪色は紫。琴を支える腕はぷるぷると震えていて、足取りは重そうだ。
「……って大丈夫かよ!?」
俺はさっと少女に駆け寄り、琴を持ってやる。
「おっと、ヤムチャしやがって……」
自分の腕にごとりと重量が加わる。こんな少女に持たせるようなものじゃ無い。
「ありがとう、新入りさん」
少女は俺に笑顔を向けると、すたすたと歩いて琵琶を床に置いた。つられて俺も琴を床に置く。
そして、少女は自己紹介を始めた。
「ようこそレジスタンスに。と言ってもまだあまり大きくはないんだけど……私は少名針妙丸、小人族なの。草の根妖怪ネットワークではコロヒーローを名乗ってるの」
俺は何と無く印象をつぶやく。
「小人という割にしてはでかいし、かと言って人間にしてはチビだな」
「聞こえてるよ?」
ばれた。くそう。
少女はそのまま正邪と呼ばれた女の子を指差しながら言った。
「彼女は鬼人正邪。天邪鬼で、何でもひっくり返す程度の能力を持ってるの。ね?正邪?」
「おいおい針妙丸。ネタバレは無粋じゃないか?」
とかいいつつ、正邪はハンドスプリングのように起き上がった。俺の胸板を蹴り、俺を踏み台に飛び跳ねて空中で一回転してからストっと着地するという明らかに俺を蹴りたいがために無駄なステップを踏んだ方法で。おかげさまで後頭部が痛い。
「ぶぶぜら……」
「ま、紹介にあったとおり。正邪だ。よろしく」
立ってるのをよくよくみて気づいたが、正邪の黒髪は一房だけ赤く、頭には小さなツノか二本はえてた。
「あれ?そういや針妙丸。太鼓はどうした?」
「流石に無理だったの……」
「そうか。ま、準備はできたし、さっそくやってみる?」
「うん……やってみようか」
というと、針妙丸は裾から小さな木槌を取り出した。
俺は話が読めずにきく。
「それはゾンビですか?」
「いや?聞いたことない?打ち出の小槌って」
……『うん!先生が最強だよ!』とか、『そう、私は死を呼ぶもの』とか言ってくれてもいいのに……
「ああ、昔姫さんが小人を叩き潰して殺そうとして振ったらいきなり小人が大きくなった残念びっくりアイテムだろ?」
「何その伝説!?」
「ああ、それでその元小人は暴行未遂で訴えてやると脅してその姫と結婚して、その結果地獄に落ちて『無個性』と周りから言われながら働き続けてるわけ」
「やめて!これ以上私の祖先のありもしない歴史を捏造しないで!」
針妙丸が涙目でいう。聞き捨てならない単語があったので、俺はふざけるのをやめた。
「……祖先だと?」
「そうなの。あれは私の祖先なの。だから私は、これを振るう力があるの!」
「ということで、手始めに棄てられた惨めな道具に命を宿してみようと思ったんだ。ここから、私達のジャイアントキリングは始まる。女装やろ……いや、新入り、しっかりと私達の第一歩を見届けるんだ」
「おい今てめえ女装野郎っt」
「さあ針妙丸!その力をこの哀れな道具に使うんだ!」
「うん!わかったの!」
針妙丸はぶんぶんと木槌を振るう。
最初は軽くだったが、何も変わらないことに焦れてきたのか、だんだんおお振りになる。が、さっき琴なんて持って歩いてたし、スタミナはそう長く続かなかったらしく、頻繁に木槌を持つ手を変えて、振りつづけた。そして、
みしぃっ!
何かが壊れたような音と共に、閃光が俺の視界を潰した。
「ゲリョス!」
「うわ!?」
「ちっ……」
隣からも針妙丸と正邪も驚きの声を漏らしてるあたり、彼ら2人も予想外な出来事だったらしい。
ホワイトアウトした視界が元に戻った時、琴も琵琶もなかった。代わりに、自分の姿をみてオロオロしてる女の子が二人いた。一人は茶髪の女の子、一人は紫髪の女だった。二人とも着物のような感じで、スカートの裾のあたりに毛糸のようなものが円をかいていた。
「……あれ?何これ……私?」
「みて!動くよ!自由に動かせるよ!」
「え?……あなた誰?」
「ええ!?気づかないの琵琶っちゃん!あたしだよ!琴だよ!」
「……あ、琴!?でも……なんで」
「そんなことどうでもいいよぉ!」
「わ!何いきなり抱きついてるの!?離れなさい!」
「えへへ〜♪琵琶っちゃん温かい〜」
「ちょ、ちょっとどこ触ってるの!?やめなさいよ!そこはダメよ!」
「〜♪」
思わず百合が見れて俺は幸せです。
「新入り、顔キモい」
「な!?もうちょいオブラーもにつつめよ正邪!」
「天邪鬼でもね、たまに自分の気持ちに素直になりたくなる時だったあるよ?」
「おじさんもうちょっと違うタイミングで素直になって欲しかった!せめて人をけなすためにいってほしくなかった!」
「やーん。おじさん汗くさーい」
「さっきは言葉の綾でおじさんつったけどね!俺まだぴっちぴちの男子高校生だぜ!?」
「びっちゃびちゃのおっさんの間違いだろ?いくら誤魔化す程度の能力たって年齢まで誤魔化しても……ねえ?」
「いや!事実だよ!」
「……じゃあどうやってそれを証明する?」
「は?」
「周りがそろって嘘ついて騙されてるのかもよ?もしかしたら、覚えてないだけでもうかなりの時が過ぎてるのかもよ?そして、今思ってる自分の年齢は辻褄を合わせるために自分が自分を騙すために作った嘘なのかもよ?」
「うぅ……俺ちゃんと高校生だし。れっきとした高校生だもん!」
「お前がそう思うんならそうなんだろう。お前の中ではな」
「い、いや、ちょっとくらっとしそうになったけど、人生の終末感を楽しむにははまだ遠いぜ!?」
「あ、あのー」
俺が正邪と言い争ってると、先ほど『琵琶っちゃん』と呼ばれてた女が話しかけてきた。
「あなた方は?」
すると、針妙丸が答えた。
「えっと、こんにちは。私達はレジスタンス。弱者が報われる楽園を目指して、活動してるの。私は少名針妙丸、小人族」
「私は鬼人正邪。んで、これは粗大ゴミの木亥広星だ。よろしk」
「ちげえかんな!?俺まだ利用価値あるからな!?ゴミじゃ無いって!……ん?」
ここまで言って、琵琶と琴の女の表情が暗くなっていることに気づいた。
俺のさっきの一言で暗くなったような気が……。
「あー、広星クンが女の子泣かせたー。いーけないんだいけないんだ。センセーにいっちゃーお」
「正邪てめえ!話がややこしくなるからだーってろ!」
「……私は……」
すると、琵琶の方が口を開いた。
「私は、私達は……利用価値がないんでしょうか……ゴミとして棄てられた私達は……」
「違うよ……違うよ琵琶っちゃん、あたし達二人はまだ戦えるよ!勝手に自分の都合で棄てた人間達が悪いんだよ!」
「でも……」
……これ明らかにゴミって言った正邪のせいだろ。俺は悪くねえ。
と思い、正邪の方を見ると。正邪は。
笑顔だった。背筋がぞっとするような。凄惨な笑みを浮かべていた。それはまさに願い事を叶えるかわりに魂を要求する悪魔に似ていて。ただただ怖かった。
正邪は一瞬で真顔に戻ると、話を持ちかけた。
「気の毒だったね……人間という立場的強者にいいようにされて。そて、どうだ?私達と一緒に君たちのような弱者が見捨てられない楽園を作らないか?」
琵琶と琴が首を縦に振るのにあまり時間はかからなかった。
「じゃあこれからよろしくね、えっと……」
「あ、私達名前ないので、名前をつけてくれない?」
そう言われて、俺は少し考えた。
そして、琵琶の方に言う。
「なあ、琵琶。琵琶ってことは合奏できたりするの?」
「うーん、演奏ならできそうだけど…ほら」
琵琶から音が流れはじめた。まぁ、琵琶なんてきいたことねえから良くわからんが……。
「よし、なんかベンベンなってるから名前ベンベンにしようぜ!」
「安直!?」
「それかぺんぺん草な?」
「それは嫌!で、でも、カタカナって……」
「よし、なんか腹減ったし、せっかくだから俺は弁当の弁を選ぶぜ!」
「もはや私関係無い!もうちょっと考えてはくれないんですか!?というか苗字は!?」
「うーん、どうせお前九十九神だろ?じゃあ九十九でいいや。お前九十九弁々。確定。さーて、じゃあそこの琴は」
「あんまりです……人間みたいです」
「なぁ、広星」
珍しく名前呼びで正邪が俺の名前を呼んだ。
「なんだ?正邪」
「私は弁当よりも今猛烈に八ツ橋が食べたい」
「なんで今それを言ったの!?」
「あのパリッとした感じとゴマの風味をまた口の中で感じたいんだ……」
「馬鹿野郎!八ツ橋は生だろ!あのもちっとした感触とあのあんこの組み合わせがベストマッチだろ!」
「と言うことで今私達が八ツ橋が食べたいからってことであの琴の名前を八ツ橋にしようぜ!」
「よし!決定!苗字も考えるのめんどくさいし、九十九を使いまわそうぜ!」
「いぇーい!」
「イェーイ!」
何と無く正邪とハイタッチ。ハイタッチの時のダメージがなんか二倍だった気がするけど気にしない。兎にも角にも、名前を決める時は適当なくらいがちょうどいいんじゃ無いかと思う。
「本格的にあたし関係無い……というか、それなら弁々と家族みたいじゃん」
「……ああ。私の名前は弁々で確定なのね……」
「え?いいんじゃない?ねえ広星」
「そうだぜ!長いこと一緒にいたから家族同然ってよくきくフレーズだろ?」
「でも八ツ橋って、お菓子じゃん!なんかあたしペットみたいじゃん!他なんかないの?」
「ナポリタン」
「服のこと!?ねえそれ服のこと!?というか、外見に関しては女装してる人に言われたくない!」
「カルボナーラ」
「食べ物からはなれて!」
「狩猟笛」
「どこが!?あたし笛じゃ無いよ!?」
「茶髪」
「今すぐ全世界の茶髪に謝りなさい!」
「ミサカ」
「何が述べたい!?」
「十円」
「あたしの後頭部に十円ハゲができそうだよ!」
などと、正邪と俺で交互に名前を考えてたら、琴の方が疲れてきて、ついに
「……もう八ツ橋でいい……あたし、九十九八ツ橋……」
と言ったので、二人の名前をなんとか決めることに成功した。
「よし!これでもう次のステップにいけるんじゃね!?」
といいつつ、針妙丸の方をみた。
が、針妙丸は黙してじっと俺を見つめていた。
いや、正確には俺の背後。背中のリュックサックをじっとみてた。
「……どうした?針妙丸」
「ちょっとリュックサックの様子が変なの。みて欲しいの」
俺がリュックサックを前に引っ張ると、確かにぼうっと青紫の光をたたえている。そして、重量を感じない。
「……え?」
試しに手を離すと、リュックサックは落ちずにゆらゆら俺の周りを回りはじめた。
「なんだ?どう言うんだ?」
「どうやら他の道具にも影響が及んでるっぽいね」
正邪が意外と言った顔で告げた。
道具……もしかして!
「広星!?どうしたの!?」
俺は針妙丸を放置し、扉を蹴破り、外に出て俺の自転車をみた。やはりぼんやりとした淡い青紫の光を宿していた。が、特に自分で動いたりとかはしてなかった。
「よかった……」
俺はなんの気もなく触れると、いきなり光が俺を包んだ。
「なんだ!?」
そして、光は俺の身体を操り、俺を自転車に座らせ、そして無理やりチャリンコのペダルを踏ませた。
漕げば漕ぐたびにチャリンコを斜め上を飛び、地上から離れてく。
「おいおいなんだよ!俺をどこに連れて行く気……」
俺は顔をしかめながら進行方向を見た。
そして、驚愕のあまり一瞬動けなかった。
そこには。空には。
巨大な和風の建築物、主に住処として使われるが、防衛戦に有利な構造をした。それは。
「……城?」
本来ある瓦は下を向いている逆さの城だが、確かにそれは城だった。
なんかこう…ごめんなさいだな。正邪さんのキャラが本当にあらぶってるお。