「……そう言えば……リュックとか忘れちまったな」
歩きながらつぶやく。
正邪と闘う前、邪魔くさかったからみんな置いてしまったんだ。確か、ウエストポーチの中にスペカを入れてたから、今は通常弾幕と能力しかないわけだ。
誰にも勝てる気がしねえ……
と思いながら辺りを見ると、いつの間にか辺りは霧に包まれていた。
五里霧中。白い闇のまっただ中。
だけど、だからと言ってもと来た道を帰っても何もないよなぁ。全ての道はローマに続く。
俺は真っ直ぐ真っ直ぐ歩き出した。
すると、
「……ん?」
一瞬だけ異彩が見えた。
白の中に確かに今、灰色が見えた。
俺は見えた方向に走ると、だんだんそれが見えて来た。
それは、灰色の大きな洋館だった。
レンガ造りらしく、両開きの木の扉がある。
「お?こいつぁありがてえ……とりあえず一応中を見ておこう」
俺は門柱をみると、門柱には【Prism river house】と刻んであった。
「……ぷりすむ……りべる……いや、リバーか?まぁいいか」
手入れの行き届いた庭を横目に俺は玄関に駆け寄り、扉をノックする。
「ノックしてもしも〜し」
俺は木の扉に耳を当てる。
物音一つ聞こえない。
よくよく見ると、どの部屋も真っ暗だ。
「無人か?まあいいや。家を漁るのは強盗と勇者の特権だぜ」
俺は木の扉を真っ直ぐ全体重をのせて蹴り抜く。
ばばぁん!と大きな音を立てて扉が開き、壁にぶつかる再び騒音を鳴らす。
館を開けたとたん入り込んできた鼻にカビの臭いに思わず顔をしかめて、中をキョロキョロ見渡す。
中は暗く、光源と呼べるものはせいぜい扉の外からの淡い光くらいだ。
「きゃんゆーひあみー?きゃんゆーひあみー?」
入り口から正面に微妙に見える大きな階段へのレッドカーペットを歩きながら、誰か聞こえないかと声をかける。
きっとさっきのノックは音量が小さくて聞こえなかったのだろう。
適当に自分に言い聞かせながら、中を歩く。
しかし、ここの空気は何かがおかしい。幻想郷の他のところとは決定的に足りない。何かが。
その時、音がした。
が、それは俺の淡い希望を粉砕するものだった。
ぎぃ……っと音がして、後ろからの光源がだんだん小さくなり、やがてなくなった。
「!?」
俺は扉があった位置まで走り寄り、ドアノブを探そうとする。
でも、俺の触感が伝えたのは、どこか温い木の扉の感触ではなく冷たいレンガの感覚だった。
ドアノブなどもなく、ただただレンガが俺を遠さぬと立ちはだかってる。
「……勘弁してくれよ」
くすくすくす……
「!?」
後ろからの笑い声に条件反射的に振り向き、妖力弾による弾幕を放とうとする。
が、出たのはたったの三発だった。
「なっ!?」
そして気付いた。
ここの空気になくて、他のエリアにはあったもの。それは妖力だ。
ゼロではないが、かなり薄い。これじゃあいつものようにバカスカ撃てない。なら、もう俺にはおよそ回避にしか使えそうにない能力しかない。
そして、さっきの弾で何かが動いたという気もしない。つまり、もうすでに相手はいなかったのだ。
あたりは暗いクライ闇ばかり。
ひゅるるる……
「うぇ!?」
どこからか聞こえた風の音さえ、今の俺には恐怖の対象となっていた。
ともかく、このままじゃ埒があかない。
「これが俺の最後の波紋だ……」
俺の中の出がらしのような妖力で俺は光球をつくった。そして、撃ちださずに左手の指先に停滞させる。
申し訳程度の光が辺りを照らす。
まあ、ないよりはマシだろう。
光球を構えながら辺りを見ると、ここはエントランスで、割と広く、正面は先ほども言ったように大きな階段、左右に廊下が伸びている。
俺はエントランスの壁に沿って歩いて見て回っていると、階段の下に扉を見つけた。
「……そういや、どこぞのポッターさんは階段の下に部屋があったよなぁ」
俺は扉に触れてみる。
どうやら引き戸らしく、引いて中に入る。そして、先ほどのように閉じ込められないように中にあった棺桶の蓋を入り口に置いておく。
これでもう閉まらないだろう。
「何処かにいいことないかなーなんて裏がして自分に問うよ♪自問自答自問他答他問自答連れ回し♪アッー♪本能的に触れちゃって♪でも言いたいことってないんです!」
歌いながら中を漁る。ここは物置のようだ。が、物置にしてはわりと整理が行き届いてて、香霖堂と張り合えそうだ。
スライドドアを開けるたびに人生ゲームやらスコットランドヤードやらボードゲーム類が襲いかかる俺の部屋とは大違いだ。
「……これとか使えそうだな。これも多分。あー、これとこれで……酒が足りねえ。酒ねえかな」
薪、マッチ、タオルだったらしい布、方位磁石などを肩かけバッグに突っ込み、階段の下を出た。
「さて、どうするかな」
方位磁石を見ると、階段に向かう方向が北となってる。廊下は東西に伸びてるから、まず東から向かおう。
東側の廊下は壁に扉が二つ、奥に扉が一つある。
とりあえず近くの扉から開けていくことにした。
「でえい!」
扉に回し蹴りをして入る。
中はホテルとかによくある便所と風呂が一緒になった部屋らしい。
奥には厚手のカーテン、入って左手側に洗濯機っぽい何かとカゴがある。
そういえば、妖怪になってからある程度我慢できるようになったものの、ちょくちょく便所行かなきゃなんだよなぁ。で、そろそろ我慢の限界なわけで。
俺は半ズボンを下ろし、洋風の便器に腰掛ける。
「……ふう」
どうでもいい話。
小学校の頃、俺は確か、和式は一つのものにいろんな使い道を用意してるけど、洋式は物事の一つ一つに道具を変えてるとかなんとかそういうことを聞いた気がする。例えば、部屋。洋式だと机でさえ勉強机やら食卓やら色々と種類がある。それに、座ったりするのは普通は椅子を使うし、寝るとしたらベッドを使う。
でも、和式は違う。和室の畳は、座ってよし、寝てよし、柔道しでよし、茶道してもよし。
机もちゃぶ台で全てが丸く収まる。
例えば食事。洋食はフォークやスプーン、ナイフなどを使って食べる。特にフランス料理なんかは前菜用のナイフとか、同じようで違うものがたくさんあってややこしくてかなわん。もともとフランス料理は雰囲気が嫌いだったりするが。
その点、和食は箸一膳で粗方対応できる。
つまり、全体的に和式がオールラウンダーなのだ。
が、便所は、洋式と和式が逆転してる気がする。俺にはこれがわりと不思議だ。和式便所は二種類、洋式は一種類。これがだいぶ昔からの些細な謎。
閑話休題。
俺は用を足し終え、半ズボンを履き、この場を去ろうとした時、ごぷっ……っと水音がカーテンの向こうから聞こえた。
「……なんだ?」
俺が奥のカーテンを開けると、そこには風呂桶があった。そして、風呂桶からはどんどんと何か赤い液体が溢れ出していて、そして、ついに並々とこぼれ出した。
鼻にツンと来たのは鉄の匂い。
「う……血か?これ……趣味悪……」
風呂桶をじっと見てると、一つの紙が浮いて来た。
「紙?」
俺が紙を拾い上げると、紙には赤い液体でこう書いてあった。
【Lunasa
Merlin
Lyrica
and I.
We are sisters.
So, we live here together.】
「……なんだこれ?ルナサ……メルリン?あ、メアリン?んで、リーリカ?アンドアイ……私達は姉妹だから、ずっとここで永遠に住む?なんだこいつ、結婚しない気か?」
何と無くポケットにぐしゃぐしゃとつっこむと、風呂桶からぶくぶくと泡が出てる。程なくして、ざばぁっと音とともに、人の手首から先が血を滴らせながらこっちに向かって来た。
「まどはんどー!?」
流石にこれには驚いたので、まっしぐらにドアまで走り、ドアを力いっぱい閉めてやり、全力で廊下を逃げた。
廊下の突き当たりのドアまで来た時、そっと後ろを振り向くと、もう追いかけて来てなかった。
「……よかった……誰だよ……石破天驚ゴッドフィンガーした奴……」
愚痴りながら、左手の妖力球は消えずに残っててくれた。
「よかった……これでなんとかなるな。さてと」
俺はまわりを光球の光で照らすと、背にしてるドアともうひとつ、北向きに扉がついてるドアがあった。
「……ま、手前から手前から」
俺は北側についたドアをあけた。
中は台所らしい……が、トントン、と妙な音はするくせに人の気配はない。
「なんだ?どういうんだ?」
俺が流しまで歩くと、そこにはまな板の上で肉を切ってる白い手があった。
「ああ、忙しい忙しい」
どうやって喋ってるのかは知らんが、そんな声が聞こえた。
こちらもおなじ手首から先オンリーだけど、さっきのとは違ってこっちに向かってないが故に冷静でいられた。
「なんだ。妖怪アパートのるり子さんか」
適当にそう結論づけて、俺はがさ入れを開始する。
「黒いスニーカーに足突っ込んで♪地面を蹴って鳴らしてる♪曇り空を見上げて言いましょ♪今日はすっごくいい天気♪やがて空は水玉こぼし♪大地に恵みを施すよ♪全身で水浴び笑顔を咲かせ♪傘なんてものはなげすてて♪今を全力で楽しんで♪過去も未来も投げ出せば♪」
干し肉などの保存食、フォークをバックに突っ込む。そして、一度妖力を身体に戻し、キャベツや肉の脂身などに酒をかけてから、マッチで火をともす。そして、薪の端っこ布で巻いて柄として、もう片方に酒をかけてから燃え上がってるキャベツなどに近づける。
火は無事、薪の酒をかけてる方に燃え移ってくれた。それに、さっきしまった妖力を薄く広く走らせることで軽い結界をはり、無駄に燃え移らないし、突風が吹いても消えないようにする。
結果、即席の松明ができる。
試しに思いっきりスイングするも、消えない。
「……よし、上出来」
上半身を脱いでワニキャップでもつけたい気分だ。まぁ、これでやっとおやぶんゴーストも倒せるって感じ?
「ま、このご時世にドラクエ5なんてナンセンスかな。しかも一番最初のボスなんて誰も覚えてねえし」
とかいいつつ、腐ってなさそうな野菜を生でもりもり食べながら、奥にあった東向きの扉を開けると、そこは食堂になっていた。奥にもう一個同じ向きの扉があるあたりと方位磁石の情報から、先ほどもたれかかってた扉の先だと思われる。
「……ま、確かにこうする方が飯をすぐ運べるから当たり前っちゃあ当たり前」
俺は松明の光に照らされた食堂をぐるり見渡した。
すると、
「……絵?」
額縁の中には顔が赤く塗りつぶされてる者が二人、黒く塗りつぶされてるのは三人、ちゃんと顔が見えるのが一人描いてあった。
赤く塗りつぶされてるのは、立派なタキシードを着た男、ゆったりと椅子に腰掛けたなんか服がおばさんくさい女性。
黒く塗りつぶされてるのは三人とも女の子らしい。背の高い順に、なんかすましたポーズをした黒い服のやつ、荒ぶる鷹のポーズしてる薄いピンク色っぽい服のやつ、荒ぶる鷹のポーズしてる奴の右で右手を出して親指を上に立ててYouTubeの高評価サインしてる赤い服のやつ。
唯一顔が見えるのは、黒髪の髪をした女の子で一番背が低いらしい。すましたポーズの女の子の左からそっとこちらに微笑みかけてる。
服は真っ青である。
「……なんだ?家族なのか?なんだっけ…プリズムリバーってところの」
パリーン
「うぎゃあ!?」
大きな音がして、何かがぶつかったように額縁のガラスが割れる。
ありえん……もちろん銃声なんてなかった。エネルギー弾も察知できなかった。だいたいこの破損の仕方ならまず俺に当たってる。
こいつは……おちょくってる。
お前のタマなんざいつでもとれる。という挑発だ。
「……舐めやがって……」
俺は歯噛みして、食堂を出た。
もともと発動できる能力を一応発揮して、他者からは本当の自分からは少し左、俺からみたら右にずれてるように見せながら、俺はずんずんと西側の廊下に足を踏みしめた。
見た感じ、ドアは遠くに二つ。
北側についてるのと西側についてるの。
廊下の南側には窓がある。
そして、近くには一つ扉がある。
「ま、手前から手前から」
俺は手前のドアを開けてみると、中は広さの割りに飾りっ気のない無機質な部屋、置いてあるものもタンスとベッドが六つ。壁にかかったぞ地味なアナログ時計。
「……なんだここ……」
俺は一番近くにあったタンスをおぺんする。
中には、これまた実用的なだけでどこぞの神裂さんが着てたような堕天使エロメイドセットのような趣味の匂いも何もないメイド服があった。
とりあえずバッグに詰める。
そのタンスのしたの棚を開けると、丁寧にたたまれた女性の下着があった。
それに手を伸ばすと、いきなり棚がしまった。
「おあま!」
思いっきり指を挟んだ。じんじんと指が熱をもって痛みを訴えてくる。思わず涙がこみ上げてくる。
いや、違うんだ。こういう時は、余すところなく物を調べないと詰むんだよ。多分。人魚沼ってホラゲでもタンスに物語を解くキーアイテムがあったし。ゲームクリアするだけなら取らなくて良かった気もするけど。
そう言いながら、二つ目のタンスを開ける。
中には執事服が入ってた。
何と無くバッグに詰める。
「そーいや、最近ハヤテのごとく!を読んでないな」
とか言いながらタンスの下の棚をあける。
中にはヤローの下着が入ってたので、思いっきり蹴ってとじる。
「いらん」
そう愚痴りつつ、もうひとつのタンスを開ける。
中には執事服があったが、同じデザインなので多分同じ物だろう。
下の棚も同じく下着だったので、足で締める。
もうひとつタンスを開けると、今度は作業着があった。
いろんなポケットがあったので一つ一つ探っていると、銀の鍵と十徳ナイフを発見したので、バッグに詰める。
もう一つはちょっと小さいメイド服で、下の棚は空いてくれなかった。
もう一つの棚の中は作業着があり、ポケットの中からはどごぞの国のコインがあった。
「なにこれ?……アルゼンチンペソ?アルゼンチンペソしかないの?というかどこだよアルゼンチン……さてと、これでとれる物はだいたい盗ったか……後はベットを探るか」
ベッドは六つ全て奥に詰めて入れられていた。ベッドの上の方は何もなかった。当たり前だ。こんなところに何か入れてたら、寝れたもんじゃない。こういう時、物を隠す場所は一つに決まってる。
俺はしゃがみ、ベッドの下を覗いてみた。そして手を突っ込む。
「……お?何かある?」
俺は手探りで何かを手繰り寄せる。
それは何か本らしい。
「せい!」
埃を手で払い、中をペラペラとめくる。
「……ふぁ!?」
条件反射とも言える速度で地面に叩きつける。
中にはあられもない姿になった男と女が絡み合ってる絵が描いてあった。なんかこう……女の方の表情がなんかあかん。これ以上は教育上よろしくない。
「だぁもう!というか、これ、絶対メイドとかと一緒に寝てたろ!なんで我慢しなかったかなぁ!」
頭をブンブン振ってさっき脳に入った強烈な絵面を忘れようとする。が、忘れようとすれば忘れようとするほど、じわじわと目に浮かんでくる。
「くそ!なんだこの斬新なトラップ!」
俺が頭を抱えてると、後ろからゲラゲラと耳障りな笑い声が聞こえた。
「ぎょわ!?」
もしもを思って後ろ回し蹴りをしながら振り向く。が、そこには人の姿はなかった。松明の明かりに照らされてうつったのは、六つのタンスとボロボロの人形だけだ。
「……ってあれ?人形?」
関節がむき出しのくすんだ茶色のからくり人形。昔は髪だったらしい紐はボサボサで、目玉かわりのガラス玉はひとつない。
そんな人形が座り込んでいた。
「……まぁ、普通じゃないな。これは」
俺はじっと人形をみてると、人形は急に口を開けた。
「!?」
何と無く口からビームとかだすかと思ったので、俺は横に跳ねる。
が、俺の予想は外れ、人形はカラカラと歌い始めた。
『Sam♪Sam♪Sam♪He lived in』
「知るかぁ!英語なんざぁ!」
わかるはずもないので、俺は一人で歌う人形を放置し、その部屋を出て廊下へ。
「えーっと、奥に二つ扉があったよな」
真正面の南側には、窓ガラス。西の方向を見ると、やはり扉は二つある。ここから見る限り、窓は一つしかないらしい。
「ろりあえず、あそこを探って行くか」
なんか噛んじゃったけど気にしたら負け。
俺はクラウチングスタートで全力で西廊下を走り出した。
三分後
「……おかしい……」
俺はつぶやいた。
先ほどからどう考えても前に進めてない。それに、窓には何回も過ぎてるのに、扉は全くみない。
「……もしかして」
俺は後ろを振り向き、少し歩いただけで扉に出会えた。
その扉の中は先ほどの六つのタンスとベッドと、人形のみ。
「……くそったれ」
痰を吐き捨て、もう少し東側に歩くといともたやすく入り口まで来れた。どうやら、窓あたりから西へ行けないようになってるらしい。
「まぁ、これで晴れて一階の探索は終わったし。二階行くか」
レッドカーペットの上を歩き、階段を上る。
その先は北側に扉が一つ、東西の壁に扉が二つずつ、南側には一つの扉があった。
「……なんと言うか、珍しい間取りだな……」
北の扉には【Meeting room】、そこから時計回りに【Lunasa's room】【Merlin's room】【Master's room】【Lyrica's room】【Leila's room】とプレートがあった。その全てに鍵がかかっていて、あかなかった。
「……あー、ダメだ。英語わからねぇ」
先ほど作業着から取り出した鍵を端から試そうとしたら、最初の【Meeting room】を開けれた。
「なんだ。一個目か……どらどら?」
中は真ん中に大きくて埃をかぶりながらもどこか輝いてる机と、大きくてふかふかしたソファがあった。
「……みーちんぐ……あ、あれミーティングか!ってことはサッカーで試合前にするアレか!なるほどなぁ……ここでフォーメーション決めたり、戦術とか決めたりしてたのか?」
隅にあった本棚を漁ると、幾つか日本語表記のものがあった。
「お!ラッキー!……って厚いな……ってうげ!」
英和辞典である。
「……うわぁ、この電子辞書全盛期だってのに今更紙辞書?ないわー」
ズンと手元に来る重量には嫌な思い出しかない。
中学の頃、どれだけのバッグの肩紐がちぎれたことか……俺が全教科持ち歩いてたことも悪いが。
「まあいいや。電子辞書もないし、一応持って行くか。いろいろわかるかもしれんし」
恐る恐るバッグに英和辞典をいれる。
「……あ、これならあの人形が何言ってたかわかるかな」
ということで。
「話を聞こうじゃないか」
俺は英和辞典を持って人形の前に座った。
人形はカタカタと歌い出し、俺はそれをメモする。
『Sam♪Sam♪Sam♪He lived in his house with two brothers ,three sisters and parents.One day, he stopped biological response modifer,some people broke the relationship of family, and they left his house.How many people live in his house now?』
何周も何周も聞いてメモを取り終わって、英和辞典でいろいろ調べて見た。
「……お?biological response modiferはBRMと略すことがある?……んで、parentsは両親、motherとfatherか……なら」
俺は人形に向けてこう言った。
「ふぁいぶぴーぷるりぶ」
うまい発音はできず、子供のような物言いだった。
すると人形はその場で音もなく消えて行った。
「うーん、正解とかなんとか言ってくれないのか?」
俺は西側廊下に出ると、少し先ほどと何か違う気がした。
「……もしかしたら」
俺は西側廊下を走ると、簡単に西側の奥までいけた。
「よし!ループがなくなってる!これで探索ができるぜ!」
俺は西側廊下の北側に扉がついた扉をあけた。
中は図書室らしく、大量の本棚が並んでいた。
「……燃え移っりはしないよな?」
試しに自分で松明を触ってみるが、熱いけど着火はしなかった。
俺は気を取り直して各種本棚を適当に見て回った。
「どれどれ……【Magic item in Far east】?【The book which gives death to readers 】?【Lonly ib 】?
【Mathematics Workbook】?だめだ。英語の本ばっかりだ」
こういう時の本棚は色々と頼れるものがあると思ったが……読めないんじゃ仕方ない。
俺は図書室を出て、西側廊下の端っこの扉を開けた。
「コレクションルーム?」
そこには彫像やら何やらがたくさん飾ってある部屋だった。宝石や本など小さなものはガラスケースに入れられていた。
籠に入れられている手足のないテディベアを見ながら歩いてると、ドンと、人らしきものにぶつかった。
「ふぁ!?あ、すいません」
俺が前方不注意だったし、どう考えても俺が悪いので、万が一を考えてとりあえず謝っておく。
そして、頭を上げた時、俺の視界に入ったのは。
松明の明かりに照らされた黄色い服を着て首のない黒いマネキンだった。
「ぎゃーっす!ってマネキンかよ!ビビらせやがって!」
……
「……やめよう。なんか虚しい……」
何が悲しくてこんな松明が手放せない暗いところでテンションを上げなきゃいけないんだ……ドラクエⅧでぼうれい剣士と戦ってる時ならともかく。
「……くそったれ……ってあり?」
一つ、赤い布が引かれていて、説明らしき紙があるだけの台があった。きっと、何かものがあったのだが、何かしらの理由でなくなってしまったのだろう。
俺は松明を口でくわえ、英和辞典を取り出して紙を手に取り、書いてある英語を読み解くことにした。
「えっと?『ここには三つの道具がある。このヴァイオリンはすとらでぃばりうすも着の身着のままで逃げる程の名器である。また、このトランペットは多くのジャズトランペッターの生き血を吸ってきた、恐怖のトランペット。そして、これがかの有名アーティスト、ブレイバー・クインテットが使ってたが、音が独特すぎて幻と消えたシンセサイザーだ。私は生まれてからずっと道具に恵まれて生きてきた。私がこのようなマジックアイテムと巡り会えたのは、決して運なのではなく実力なのだ。その証拠に私が取り扱う商品も同じく、いいものばかりなのだから』って訳せるのか?要するにここには楽器があったのか……」
俺は紙を元あった場所に戻そうとした時、紙が元あった位置に先ほどまでなかったものを見つけた。
「……鍵?」
松明の光を反射するそれは、紛れもなく鍵だった。
キーホルダーにはタグがついていて、【Leila's room】と彫られていた。
「……上の部屋の鍵か」
俺は鍵をバッグに突っ込み、部屋を出た。
少年移動中…
鍵穴に鍵をいれ、手首を捻る。
カチッと音がしたところで鍵を抜き、ドアノブをひねって押す。
この部屋は、今まで来た部屋とはだいぶ雰囲気が違った。
妖力こそないものの、何処か空気が違う。
まるで俺以外の誰かがいるみたいに。何者かの意思を感じる。
「……女子の個室か?」
三歩くらいあるいたとき、俺の後ろから、それの声は聞こえた。
「……あなたは…だれ?」」
それはなんとも言えない不思議な声をしていた。
性別はわかる。女だ。怒気を孕んでるというのもわかる。だが、子供のようでも、老婆のようでもある。そんな風に感じた。
声は続く。
「ここは、私達の家族の家……私の思い出の形なの……なのにそんなズカズカ土足で上がり込んで……でてってよ……速く!はやく!ハヤク!でていけぇぇぇぇぇぇ!」
振り向くと、黒髪の少女が俺にパレットナイフを振り下ろしてきていた。脳天を狙ったつもりだろうが、能力の関係で俺の右肩にナイフはむかってる。
「ぬるい!」
俺は叫んで一瞬ビビらせた後、右手腕でナイフを持つ少女の腕をそらしながら、思いっきり少女の弁慶の泣き所を蹴り、怯んだ少女の頭を壁に叩きつける。
「舐めてんのか!妖力も霊力も何もねえじゃねえか!あんなんじゃ、せいぜい残り花弁が一枚の赤い薔薇を散らすことくらいしかできねえよ!悔しかったらフェイントの一つでも覚えてこいこのダボハゼがぁ!」
今まで散々怖い思いして何気ストレスが溜まってたので、叫んで発散。
「……ったく。ほら、返事の一つでもしたらどうだ?ってあり?」
少女の顔を覗き込んでみると、白目をむいてた。どうやら気絶してしまったらしい。
「……ま、じっくり話を聞きたいけど……少し寝かせてやるか」
うん。大丈夫。レイラさんのことはそこそこ調べてる。だから大丈夫。あ、そうそう。謎解き謎解き。
人形のやつのね。
あれは、stopped BRMだから。BRMの三文字を取ればよかった。brotherとmotherから。そうすると、残るのは二つともother、つまり他人になる。だから、母親と兄弟が家族の縁を切って出て行って、残ったのは三人の姉妹と父親とSamだけ。あまりよくできた話ではないけど……許してね?