「……うわ、ガチで電気ついてる……」
俺は図書室で、電灯の光の下、なんか有益そうな本を探していた。
その他、廊下にも風呂場にも、電灯の光が灯ってた。
エントランスなんて光輝くシャンデリアがぶら下がってた。いらなくなった松明は表面をコーティングしてた妖力を自分に還元して、水をぶっかけて消した後、残った薪は窓から力一杯投げ捨てた。
「……化かされてたかな……多分、何かしらレイラがキーだったんだろうし……お、あった」
魔法の家と英語で書かれた本を手に取る。
どう考えても、ここの家は普通じゃない。なら、こういうのも見るべきだろう。
俺は椅子に座って英和辞典お先ほど見つけた本を机の上に置き、じっくり読み解くことにした。
【……などのことが言える。 特に魔女の家は魔女の強大な魔力で姿を変えていて、後戻り部屋が消えてたりなどはよくある。また、本体が直接人を追いかけてる時などはやはり力が下がるらしく、瀕死の魔女ならせいぜいポルターガイストを引き起こすことしかできないと推測できる。
場合によっては、所有者の感情や意思がまっすぐ家に反映される場合がある。もし、そのようなケースだと判断したなら、とにかく所有者を怒らせないようにするのが一番だろう。家自体に魔力などがこもってる場合、ほぼ勝ち目はないだろう。例えば、少し魔力をこめて天井を操るだけで簡単に一つの部屋を倒壊することもできるし、部屋自体を外界から切り離し、一生帰れなくすることも可能だ。うまく機嫌を取り、気に入られることが重要である。そして……】
「……もう無理……疲れた……限界だ……やめるね」
俺は英和辞典と本をほっぽり出して、机に体を投げ出した。
なんと言うかこう……慣れないことをしたせいで頭が痛い。だるい。
「……うー……英語嫌いー……」
ぐったりと脱力する。
ぼんやりと、ここに来る前の高校時代を思い出す。
来る日も来る日も同じように汗水垂らして学校行って、教室に詰められて、記憶するだけの退屈かつ無理ゲーな作業の繰り返し。
そこまで考えて、俺は頭を少しバックさせ、机に叩きつけた。
ゴンッと鈍い音が静かな図書室に響く。
「……ダメだ。考えるだけ鬱になるだけだ。明るいことでも考えるか」
右手でズキズキと痛む額を抑えながら肘をつける。
「そうだな。俺、無事にここから出れたらヤマメに会いに行こう。うん。帰りはちょっと会えなかったけど、また仲良く話してくれるよね……はぁ」
そこまで考えて、ため息をつく。
「……地霊温泉郷の宣伝しなきゃだけど……やっぱり今のままじゃだめだよなぁ……」
アリスの反応や、草の根妖怪ネットワークでの宣伝結果を思い出す。
と言っても後者は俺が悪いけど。
「まず、地底のイメージアップをはからないとだな……もともと地底は強い奴や怖い奴がたくさんいるから恐れられて嫌われて……だっけ?どうするか……」
何と無く右手の親指と人差し指を動かしてエアそろばんをする。
昔、そろばんをしてた年上の従兄弟がいた。暗算とかいって指先でエアそろばんして高速で計算してた。
それがカッコよくて見よう見まねでマネしてたらそのままくせになってしまったんだ。
まぁ、他からみたら異常な行動にしか見えないわけで、ついでに俺は考え事をする時には割とブツブツ口に出すから、つまり……
「木亥君?…大丈夫?」
知らない人から見たら割と驚かれるわけでして。
「い、いや、考え事してただけや」
「……無理しない方がいいですよ?」
「いやいや。と言うか、なにしに来たんや?」
「ああ。えっと、晩御飯の準備ができましたので、いかがですの?」
俺はぼけっと図書室の中にあった柱時計を見た。6:30である。まぁ、頭使うことしてお腹空いたし、もらっておこうかな。
「あ、じゃあごちになります」
俺はレイラについて行って、食堂へ向かった。
「どうぞ、召し上がって?」
食卓の上には、何かしらの揚げ物と野菜スープが二人分。緊張したような面持ちで、レイラは机の反対側、ニコニコと柔和な笑みで見つめてた。
「いただきます」
俺は手を合わせ、フォークをつかんだ。
……フォーク?
木亥広星は箸が好きだ。食事と言ったら箸。これは俺の中の方式である。前述したとおり、箸はありとあらゆる飯に対応できるオールマイティアイテムなのだ。パスタも箸。ステーキも箸。流石にプリンとかデザートを箸で食うのはしないが、おかずやらを食べるのは箸でなくてはならない。なぜかと言うと。ナイフとかフォークとか使い方間違えると金属通しが擦れる嫌な音が出るのだ。子供の頃、どこかの店でそれを起こしてすごく嫌な思いをし、周りの客から一斉に見られて、怖かったのでそれ以来、箸を愛用してきた。
が、今手元にはフォークがある。
冷たい冷たいフォーク。
人口の光に照らされて光るその金属は今から音を立ててやらんと俺を見てる気がする。
「……あのさ、レイラ……箸ってない?」
おれがそう聞くと、レイラはキョトンとした後、首を横に振る。
「ないですわね」
ぞわり。予想はしてたものの、恐怖が俺を襲う。
こんなんだったら、どこぞの食いしんぼう探偵みたいに、懐に金のマイ箸をしこんどきゃよかった。
なぜなんだ……なぜこうも俺は……僕は……私は……。
またあんなことをしたらどうしよう。
いや、それよりも。目の前のレイラに不快な思いをさせてしまう。一応泊まらせてもらってる人だぞ!?ご飯だってくれたんだぞ!?恩を仇で返すのは勘弁したい。じゃあ飯を食わないのか?それはそれで『お前の飯なんざ食えるかよ』って風にレイラに受け取られてレイラが不快な思いをするんじゃないか?どうする!?
「……あ、あの……木亥君?大丈夫……ですの?」
レイラの声が聞こえた途端、俺はとっさにフォークを振り上げ、自分の太ももに突き刺した。
「ひっ!?」
レイラが怯えたような声を上げる。
鋭い痛みと血が自分から消えてく感覚がする。だが、それがイイ。
そうだ。冷静になれ木亥広星。ちょっと今頭に血が上ってる。だから、血を抜かなきゃ。
そう。今この状況を普通の食事と捉えるのではない。失敗したら死ぬ、戦場だと捉えればいいんだ。
俺は深呼吸をし、気持ちを鎮める。
そして、フォークを何かのフライに突き立て、少しずつ力を込めて行った。
その刹那、ぞくりと嫌な予感がし、ぱっとフォークを引く。
危ない。もう少しでフォークが皿まで届くところだったみたいだ……
俺は最後のコードを切る爆弾解体者の気分で、フライの先ほどフォークで開けた穴にフォークを違う角度で突っ込み、湾曲したその得意な形状をいかし引っ掛け、口に運ぶ。
白魚のフライらしいが、薄味、というか味付けがない。全然ない。
ぶっちゃけいえば、ちょっとB級なくらいが好きな俺としては、不味く感じてならない。
これは一体なんだろう。なんなんだろう。塩を一応ふってあるようだが、流石に少な過ぎる。
でもレイラが用意してくれたもんだし、食べなきゃ……。
俺は精神を統一し、無心の境地でただただ揚げ物類を口に運んだ。
続いて、野菜スープ。
俺は器ごと口まで運び、流し込む。
一瞬喉を通った時、確信した。
普通、野菜スープだってコンソメやらなにやらで多少味付けされてるもんだ。だが、これはどうだ?申し訳程度の塩があるのみで、なにもない。少ししょっぱい野菜風味のお湯に野菜が浮いてるだけ。
俺はどんと器を置き、手を合わせる。
「ごちそうさまでした」
と、言ってから気づいた。
レイラがいなかった。
忽然と姿を消していた。
「……?」
食堂の扉を見ると、レイラが立ってた。手には赤十時の白い箱。
「あ、あの……木亥さん。大丈夫ですの?」
「……一番いいのを頼む」
本のちょっぴし、俺はこの女に戦慄した。
いくら食事に集中してたとはいえ、流石に目の前で人が立ち、歩いたことくらいには気づける。多分、この距離なら席を立った時点で気づけるだろう。
では。今このレイラの立ち位置は?
やはり、何かはある。まだ、ギミックが。
手は抜けないな。
「木亥さん?どうしたんですの?深刻そうな顔をして」
「いや、なんでもない」
「そうですの……なら詮索は不要ですわね。あ、ガーゼ貼りましたの。でも。あんまり怪我をしないでくださいまし。他人が傷つくのはあまり見たくないんですの」
「ああ、すまんな。気をつけるぜ」
「わかればいいんですの」
「だからって撫でんなっつの!俺子供じゃねえぜ!?ちゃんと九九が暗唱できる大人だぜ!?」
「ふふ……あ、先ほどお風呂がわいたようですので、先行かれてはいかがです?」
「お、じゃあ入らせてもらうか」
俺がさりげなく食卓を確認すると、食器類は片付けられてた。
それを確認した後、俺は食堂を出た。
ぶっちゃけこれ連投だから特になにも言えないんだよね