翌日。
俺、木亥広星は作業員用の服を勝手に拝借し、寝床にしてる使用人部屋を出た。
「……ねみ」
頭をぶんぶんとふり、眠気を振り払おうとする。が、眠いもんは眠い。
俺が眠気覚ましに顔を洗いに水場に行こうとすると、それは聞こえてきた。
楽器だ。微かだが、確かに弦楽器の音だ。
「……お?」
聞き耳を立てて、注意深く音を聞く。音源を確かめるために、だ。
「こっちだな」
二階に登り、レイラの部屋の扉を開ける。
中では、レイラが三日月型のフレームに何本か糸を張った楽器らしきものをもっていた。どっかで見たことあるような気がするが……。
と思ってると、レイラが口を開いた。
「あら。木亥君。ダメですのよ?他人の部屋に入って来る時はノックくらいしないと。それが異性の部屋ならなおさらでしょう?」
「ああ。すまんな。なんか音が聞こえたもんで。んで?なんだそれ?」
「これはハープという楽器ですわ?ご存知なさらなくて?」
「グリーンハーブとレッドハーブなら知ってるな。混ぜたら体力が全回復する薬になる」
「う、うーん……それは私が知らないですわね」
「んで、さっきまでひいてたん?」
「ええ。あ、聞きにきたんですの?」
「せやな。ちーっと聞かせてくれや」
「わかりましたわ」
そう言って、レイラはハープで音を紡ぎ始めた。
その音は聞いてて、どんどん目が冴えてくる。鬱の反対側に躁があるように。夢やまどろみ、転じて幻想とかそういうあやふやなものと反発する。そんな音だった。
最後の一音を鳴らし、レイラはこちらに微笑みかけた。
「……どうですの?」
「ディモールト・ベネってこういう時いうのかな?」
「ふふ……ありがとう」
「もしかしてレイラってオーケストラする人?」
「いえ?しがない貿易商の娘ですわ。でも、そっちの道でもよかったですわね」
「じゃあ、趣味?」
「はい。そうなりますわね。ほんの嗜み程度ですわ。昔はよく、姉達と合奏して遊んだものですわ……ルナサ姉様はヴァイオリン、メルラン姉様はトランペット、リリカ姉様は主にシンセサイザー。懐かしいものですわね」
「へぇ。今はしないんだ……あれ?お前、じゃあ最近はやってねえのか?どうして?」
一瞬、レイラが凄く悲しそうな、そして寂しそうな表情を浮かべた。あれはたしか、悲しいことを思い出してる時の人の顔だった。
その時、瞬きしたほこりが目に入ってきて、俺は反射的に瞬きした。そして。もう一度レイラを見た時にはレイラの表情はいつも通りの柔らかい笑みに戻ってた。
「えっと、家庭の事情ってことで言えませんわね」
「そっか。詮索して悪かったな。つーか、いいよなぁ。俺あんまり楽器とかできねえかんな」
「じゃあ、教えてさしあげますわよ?」
これは意外な発言だった。
てっきり謙遜のセリフでも返ってくるものかと思った。
けど、割と興味をそそられたので、たまにはいいかな。
「じゃあやってみようかね」
「ふふ……わかりましたわ」
そう言うと、レイラは楽しげに自分の部屋の収納スペースを漁り始めた。
「なんか楽しそうやな。レイラ」
「ええ。趣味を他人と共有できるのって大変喜ばしいことですのよ……あ、ありましたわ」
レイラが取り出したのは藍色のラインが所々入ったねずみ色のカラーリングを施されたハープ。
「これなら、多分木亥君でも弾けますわね。差し上げますわ」
「え?いいのか?」
「これくらい幾らでも買えますのよ」
……何気なく金持ち自慢された。表情的に、本人に悪意がないのだろう。だからこそなおさらたち悪い。
「どうしたんですの?そんな苦虫を噛み潰したような顔をして」
「……なんでもねえぜ。んで?どうやって弾くんだ?」
「えっと……この弦を指で撫でるように弾いて……」
学校の音楽は嫌いだった。成績を気にしながらやってたから。けれど、レイラに教えてもらって行く今は。ただただ音を楽しむことに集中できた。
本当はね?こうやってね?一日一日描写をしたかったよ?でも、ちょっとサボっちゃったぜ。げへげろ。