【……マジックアイテムは自分を使わず、飾るだけの者を憎み、殺す……】
【……乱雑に扱った人間を恨むと言うことで付喪神は生まれる。要するに、道具は人のなしたことをよく見ており、決してわすれない……】
俺がレイラからハープをもらった日から八日間。俺は朝はハープを弾き、昼は家事をし、夜は図書館で本やら新聞やらを読み、一日一日を過ぎて行った。
【……プリズムリバー夫妻の死因は未だに解明されず、呪いではないかとも噂されています。また、娘のルナサ・プリズムリバー、メルラン・プリズムリバー、リリカ・プリズムリバーはそれぞれ他の家に無事に保護されたようで……】
【……また、このマジックアイテムは、記憶や思いを素材に騒霊を作ることも可能……】
だんだん本を読んで行くうちに、英語にもなれてきた。が、読めば読むほど、嫌な想像が頭をめぐる。
【……一つの集落そのものを巻き込む時、打ち出の小槌の魔力の効果の持続時間は、二週間まで保ってくれたケースはない……】
【……他者の記憶から作られた自我をもった騒霊は非常に不安定で、最低でも一ヶ月は強く想われていないと消えてしまう……】
俺はゆっくりと思考を巡らせる。
そして、確固たる形を持ち始める嫌な想像の答え合わせをするために俺は図書室を飛び出した。
『よろしかったら姉達の帰りを一緒に待っててくれません?私一人じゃ寂しいんですの』
『他人が傷つくのはあまり見たくないんですの』
洋館の廊下を走りながら、思い返すのはレイラの言葉達。
「……頼むから……思い違いであってくれ……」
俺は階段を駆け上がり、極力速度を落とさないように曲がりながら、レイラのドアまで走ってそのまま勢いでドアを蹴り抜いた。
「レイラァッ!いるかぁ!」
中には誰もいない。
ただ、ハープが電灯に照らされ、寂しげに影を作ってるだけだ。
でも、聞きたかった声は聞こえた。背後から。おっとりといつも通りの声で。
「もう木亥君ったら……そんな乱暴に扉を開けてはダメですのよ?」
「っ!レイラ!?……あ」
ばっと振り返ると、そこにはレイラがいつも通り、柔らかに微笑みながら立ってた。
ただ。いつもと違うというのは感じ取れた。現実は嫌という程正直だ。
レイラの姿は半透明で、淡く暖かい光を放っていた。
そっとうちわで仰いだら吹き飛んでしまいそうなほど、儚げだった。
「……」
「理由を聞かないんですのね……木亥君は今の私をなんだと思ってますの?」
「……少女だよ……優しくて……寂しがりな……」
今から約百年前くらいにレイラの親は死んだ。マジックアイテムの暴走だろう。そして姉達が何処かに預けられていったのに、レイラは一人ここに残った。そしてやがて人から忘れられ、幻想入りして、ここで死んだ。
もしかしたらそのまま幽霊になったのかもしれないが、もしそうだとしたらこのタイミングで透ける理由がない。
きっとだけど、こないだ針妙丸が使った打ち出の小槌の影響だろう。
あの時、特に魔法を使ってなんかない俺の道具さえ変わったんだ。曰く付きのマジックアイテムになんて魔力が行ったら。きっと、ここの道具達や館の記憶からレイラは騒霊としてまた生まれたのだろう。そして、打ち出の小槌の影響がどんどん弱まってきた。道具達もだんだん考えることをやめ、結果としてレイラは消えかかっているのだ。
「……というのが俺の仮説だ。どうなんだ?」
「合格点は出ると思いますの」
「でも、なんでこんな館に一人ぼっちで?姉達はもう帰ってこないんだろ?」
「いますわ。姉達は、騒霊としてですが……でも、異変が起きて、幻想郷の他の方々が主犯の方を追い始めた時、メルラン姉様が『異変なんてくだらないわ!私の歌を聴けぇぇぇぇぇぇぇぇ!』と言いながら館を出て、ルナサ姉様とリリカ姉様もメルラン姉様を追って……それっきりですの……」
「で、感傷にひたてってたら俺が突撃ラブハートしたと……」
「でも、そのおかげでこの少しの間、寂しさを感じずに入れましたの……ありがとう」
鈴の音が聞こえた。それと同時にレイラの身体を包む光が舞い上がる。
つむじ風に弄ばれる桜の花びらのように。
「お前……消えるのか?」
「ええ……ここでお別れのようですの……」
「なんで……なんでこんな……」
「偽物は消えるのが世の定めですわ……私は本物ではない……道具達の記憶が作り出したレイラ・プリズムリバー……」
「偽ってのはな!人の為って書いて偽なんだよ!だから!俺の為に……そうだ!マジックアイテム!俺の記憶でお前を作れば……」
「わがままはいけませんのよ?木亥君……レイラ・プリズムリバー永く生きすぎましたの……これ以上過去の人間にとらわれてはいけませんのよ……」
「……でも……だって……」
「これ以上私を困らせないでくださいまし。それに完全に消えるわけじゃありませんのよ?またこうして面と向かっておしゃべりはできませんけれど……私の意識はこの館に染み込んでいますの…だから、ここに来たらいつでもこれますの……」
「……」
「偽りとは虚しい物ですのよ……だから、あなたは私ではなく、現実をしっかり見て、しゃんと人を愛しなさい……木亥君……」
「……わーったよ」
レイラはそっと微笑み、優しく俺の頭を撫でてくれた。そして、そのまま口を動かし、俺に最後の一言を告げた。俺はなんとか笑みを浮かべようとしたけど、目から流れる熱い水は誤魔化せなかった。
涙を手で拭うと、レイラの姿はもうなかった。
照明は無かったけど……松明なんて野蛮な物はいらないようだ。
だって。館全体が何処と無く光を発してるから。優しくて柔らかくて暖かい光。
俺は館の窓を開けて、外を見た。
霧の中、向こうから確かに三人の少女がこちらに歩いて来ている。見たことはないが、きっとレイラの姉達だろう。
俺は図書室からそっと先もって見つけていた地図を回収し、レイラのハープを持って、館の裏口から出る。
何と無く右を見ると、西洋風の墓があった。
【レイラ・プリズムリバー
ここに眠る】
俺はそっと頭を下げる。
「お世話になった……おやすみなさい。レイラ」
はい。これにてひと段落。この回はLINEに載せた時、たくさん反響あったんだよね!まぁ、レイラ編は『クロエのレクイエム』を見て感動したからという理由で作ったやつで、最初と最後がやりたかっただけ。原案だと、広星にレイラへのレクイエムをひかせてやろうかと思ったけど、そもそも八日じゃそこまで技能上がらんよねって思って。あと、プリズムリバー三姉妹に存在がばれたりしたら雰囲気ぶち壊しだし。