とりあえず、ごめんなさい。
「……この辺に、霧の湖ってのがあるらしいが……」
霧はいつの間にか晴れていて、俺は森の中を歩いていた。木の隙間からチラチラと紅い建物が見える。これが紅魔館というのだろう。
あたりはすっかり闇に包まれていたが、空の星が、しっかりと道を教えてくれている。
「……い!こぉぉせぇぇ!」
誰かが俺を呼ぶ声がした。
誰だ?どこからだ?
「ふぅ…やっとこさ会えた……」
「こっちか!?」
声は後ろから……正邪の声だ。
俺が振り向くと、そこには誰もいなかった。そして、俺が顔を正面に直すと、正邪が立ってた。
パンピーにやられたらビビるけど、こいつのすることならなんとなくたねはわかったので、なんでもなかったように言う。
「俺を中心に音源を逆にさせやがって……」
「あ、わかった?」
「んで?正邪。生きとし生けるものは皆神の子。我が協会にどんな御用がおありかな?」
「おつげをきく」
「神は言っている……ここで死ぬ定ではないと……他に御用はおありかな?」
「呪いを解く」
「馬鹿野郎。うちの協会はそんなこと管轄外だぜ」
「そもそも、あんたどんな協会入ってるのさ?」
「日本引きこもり協会。人々は我ら日本引きこもり協会を親しみを込めて略称で呼ぶ。NHKとな……って遊んでる場合じゃねえ!正邪!なんのようだ!?」
「いや、こないだ天狗のカメラを拾ったから、あんたの女装写真を撮って人里にでもばらまこうかなと」
「ふざけんな!」
話してるうちに正邪が俺のリュックサックを背負っていること、そして、正邪が疲弊してることに気づいた。呼吸のペースがいつもよりはやい気がするし、目の下には少しクマがある。やつれかけてるし、服は所々破れてる。
「……いやぁ、なかなか似合ってたと思うんだけどなぁ」
「……お前」
外見的に異常なのは確実なのに、なおも正常をアピールしてる。ヤムチャしやがって……。
「正邪……大丈夫か?」
「じゃあ身をもって体験するといいよ」
正邪が指パッチンすると、何かぞわっと寒気がした。殺気って奴か?さっき感じたのは。
正邪はニヤニヤして言った。
「今、お前と私の周りからの印象を逆転させた。私は十日間逃げたぞ?お前は何日保つかな?」
そう言えば、レイラがこないだの異変の首謀者を捕らえようとしてるとか言ってたっけ……正邪のことか!?
「……マジかよ」
「じゃあせいぜいがんばってね?…おや?もうお客さんが来たらしいぜ?」
正邪が空を見上げてたので、俺も見上げると、そこには二人の女の子がいた。
一人は紫の髪をしてコウモリの翼をもった尊大そうな雰囲気をもつ女の子。
もう一人は金髪で両方の肩甲骨のあたりから黒い棒を生やして、ダイヤモンドを一本につき七個、左右合わせて十四個あり、外側から内側までの色使いが虹のそれだった。
正邪が口を開く。
「あちゃー。しょっぱなっからスカーレット姉妹か……というか、フランドールが出歩いてるのは珍しいな。あの金髪、いつも引きこもってるのに……」
紫髪の方が俺達2人をみて、告げた。
「お尋ね者の広星に、もう一人は……異変時に妖夢を撃退し、その後行方知らずとなった、頑なに地霊温泉郷を紹介する謎のもう一人の協力者ね?2人まとめて無力化させてあげる!」
やっぱり正邪がしたことが俺のせいに……あれ?
正邪の方を見ると、テスト当日にテスト範囲を間違えて勉強したことに気づいた友達みたいな顔してた。
正邪は視線に気づき、紫髪の方を指差して言った。
「……あれ?あのロリ何言ってるの?」
「え?俺も一応指名手配的な感じだお?」
「このイカレトンチキが!何やってるの!?ねえ何やってるの!?」
「いや、針妙丸に草の根妖怪ネットワークで勧誘されて、流されるままにがんばってたら……さ?」
「さ?じゃねえ!ってまずはあいつらをなんとかしなきゃ……」
紫髪とフランドールとか言われた奴らも何かを話してた。
そして、こっちをみて言った。
「あなたたち2人とも、この私、レミリア・スカーレットの前に跪くがいいわ!」
ぞわりと嫌な予感がした。ので、先もって妖力を溜めつつ、少しだけ細工して領域をはる。
「展開!」
すると、飛んでいたレミリアとフランドールが落ちてくる。
「なっ……!?」
「みゃっ!?」
俺はそのうちに正邪に手を差し出す。
「正邪!ウェストポーチ貸してやるよ!お前が使いな!だからリュックサックくらいはよこせ!」
「おお、それはありがたいね!」
予想通り、正邪は俺にウェストポーチを手渡した。
中にはしっかりと、俺のスペルカードがしっかりと入ってる。後、サユリ入り携帯……戦闘中には邪魔くさいだけなんだけどなぁ。まぁ、最悪投げるか。
俺がハープをどう転んでも流れ弾が当たりそうに無いあたりに置いてると、正邪が質問してきた。
「私の知らないタイプのルールだな。ねえワクワクさん。今回はどんなルールの領域を張ったんだい?」
「今日はね?さとりが話してた緋想天異変とやらの領域をベースにしたんだ」
「何それ、そんなの戦いたくないよーだ」
けど、ちょっとの細工で、今回は空中に停滞できる時間が制限されてる。この感覚は相手にとって新鮮なはずだ。
とか言ってると、レミリアが地面を走って向かって来た。
「これまた妙なルールにしたわね!でも、この程度!」
俺は正邪の腕を掴むと、正邪も俺の服の襟を掴んで来た。
「なんのつもりだ?広星」
「決まってるだろ!正邪【鬼人ミサイル】の出番だぜ!」
「知らねえよそんな技!というかお前が囮いけよ!」
「ふざけんな!お前妖怪だから強いだろ!?」
「その言葉ひっくり返してお前にやるよ!」
「安心しなさい。二人とも同時に屠ってあげる」
ぞわっと背後から殺気を感じた。
勘で少し膝を曲げ、姿勢を低くすると肩の上あたりをレミリアの腕が通る。
あぶねえ……と安心したのもつかの間。正邪がいきなり俺の身体の運動方向を逆にして持ち上げ、レミリアの腕を弾き、前に乱雑に投げた。
突き飛ばされた俺はやがて重力に従って落ちるが、何か人のような物を下敷きにし、普通よりダメージは軽度で済んだ。
俺はすぐさま起き上がり、立って正邪に怒鳴る。なんか起き上がる時、下敷きにした何かを踏みぬいた気がするが、気のせいだろう。
「おいこらてめえ!なんてことしやがる!」
「私はなにもしてないよ?お前がただ勝手に突っ込んだだけじゃん」
俺が正邪にさらに文句をぶつけようとした時、小さな少女の声が聞こえた。
「禁忌【スーパースキュラ】」
それは、フランドールのスペカ宣言だった。
「しらばってくれるのもいい加減に……!?」
俺は咄嗟に正邪を殴るフェイントをした後、足をすくい、正邪を掴んでフランドールの声がした方に向ける。
すると、もう目と鼻の先のあたりまで赤い破壊の光が迫って来ていた。
「うおっそう!?」
正邪にビームが全てあたり、俺はなんとか無傷で済んだ。
ビームが止んだ後、ちゃっかり正邪の様子を伺うと、特にダメージはなさそうだった。た手元にある、俺が着ていた巫女服を裏表逆にした物を持ち、こっちに恨みの念のこもった視線を投げてくる。
「女の子を盾にしてんじゃねえよこの男としてゴミ屑が!ひらり布がなかったら即死だったぞ!?」
「え?おまえ女子なの?性別ひっくり返してんじゃないの?」
「コロス」
レミリアの方を伺うと、泥だらけの服、土に汚れた顔と、ちょっと見てらんないような顔でこちらを睨んでいた。
「……天邪鬼とほぼ人間だと思って油断してた……でも、ウォーミングアップは十分。ふふ……教育してあげるわ。本当の吸血鬼の闘争というものを」
レミリアが背中の羽を大きく広げ、ピンク色の粒子を巻き始めた。
そして、レミリアはカードを掲げ、攻撃宣言をする。
「運命【パルマフィオキーナ】」
弾かれたようにレミリアがこちらに突撃してきた。
「わざわざ突っ込んでくれるとは、いい的だ!」
正邪がレミリアに向けて妖力弾を撃つ。が、弾はレミリアを通り過ぎて何処かへ。正邪がそれをみて驚きの声をあげる。
「量子化!?」
「違う。これは残像だ!レミリア本人の魔力が漏れ出た物が彼女の移動経路に質量を持った残像を残して行ってるんだ!」
「……化け物かよ」
「ええ……化け物よ」
レミリアの姿がようやく視界に収まった。しかし、もう手遅れ。レミリアの左手はがっちりと俺のコメカミをつかんでいた。
至近距離から煙る高濃度の瘴気に思わずむせそうになる。
「もし、あなたが自分が正しいつもりなら、私に勝って見せなさい」
レミリアの腕に力がこもる。
指の爪が肉に食い込み、握力が起こす圧力で頭蓋骨がみしみしと悲鳴を上げる。
「ぐぁぁぁ!」
「おい広星!」
正邪もこういう時は心配してくれるんだな……俺のこと。
「えへへ♪天邪鬼さん♪フランの方をみて欲しいな♪」
「そんな拘束時間長い技食らうな!一対一の状況をやめろ!そしてこの吸血鬼も引きつけやがれ!私が死んだらどうしてくれ……あぶなっ!」
やっぱり自分のことしか考えてねえのか……あいつ。
「このレミリアが倒せるぅ!?」
レミリアが俺を放り投げ、俺は勢いのまま、木に激突する。
肺から空気の塊が出ていく。
俺は木にもたれきり、空をぼんやりと見上げる。
みてて怖いくらいの紅い月がぽっかりと浮かんでいた。
土を踏みしめ、何かが歩み寄る音がする。逃げようと思うが、さっき、瘴気を吸い過ぎて身体が怠くてならない。
「ちょいとでもこの私に勝てるとでも思った?はっ!貧弱過ぎて話にならないわね!」
……月……吸血鬼……よる?
俺は意識をはっきりさせるため、自分の唇の端を噛み、正邪に叫ぶ。
「正邪ぁ!ラナルータしろ!昼夜を逆転させるんだ!」
その言葉を聞き、ばっとレミリアが正邪の方を向く。
「な!?でも、そんなことをしたとしても、領域内では作用されないんじゃ」
「もし、領域を展開した俺が、ボコボコにされて弱った拍子に、領域に不具合に出たという不幸な事故が起きたとしたら……どうだろうね?」
「ひっ!?」
正邪がこっちを向く。俺がハンドシグナルを送ると、正邪は楽しそうな笑みを浮かべて、能力を使い始める。
「やめてぇ!それだけはぁ!」
フランドールが正邪に向かい、スペルカードを提示する。
「傷の男【イシュヴァールの生き残り】!」
フランドールが正邪に向けて右手を伸ばす。
だが。
突如、真南の方向に太陽が昇る。
さっきまで暗かったのでちょっと目がくらみ、暖かいオレンジの光を身体全身で味わう。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!」
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
吸血鬼姉妹が頭を抱えてふさぎ込む。正邪はその様子で安堵の息を漏らしていた。
そして、正邪がフランを転ばせてマウントポジションを取ろうとする。
同じく、俺もレミリアの首に腕を回し、持ち上げながら首を絞める。
何が起きてるかわからないと言った顔のレミリアに俺はそっと言う。
「灰にするのもいいけど、人が死ぬのは見たくないかな……ってことで、おとなしくしててな?」
そう言い、俺は十徳ナイフを取り出そうとした時、突如手元からレミリアが消えた。なんの前触れもなく、まるでパラパラ漫画で途中のページを飛ばしてしまったように消え失せた。
正邪の方に駆け寄ると、フランドールもいなくなっていた。俺は正邪に尋ねた。
「おい、あの姉妹は?」
「わからない。とりあえず、すごい嫌な予感がするな」
いきなり周囲が夜の闇に戻る。
「!?何が起きたんだ!?」
「ん?ああ、私がひっくり返す程度の能力をやめたんだ。流石に時間そのものを変えるのは難しいから、この領域の背景だけ変えただけだし」
「お前がガチで姉妹の殺人犯にならずによかったぜ……」
そして聞こえて来たのは静かな声。
「さすが、噂に違わぬ下衆ぶりですね……そんな卑怯な手を使って良心には響かないんですか?」
声がした方を向くと、ショートカットにして、もみあげを三つ編みにした銀髪を持ち、藍色を基調としたメイド服を着て、冷たく鋭い目をした女と、緑色のチャイナドレスと帽子を被った朱色の髪を長く伸ばした長身の女がいた。
何と無く。なんとなくだけどこのメイドの女は気に入らない。ツンとした態度をして、主に人間風味の俺を馬鹿にしてる気がする。お高くとまって腹が立つ。
俺はさっきのダメージをなんとかほぐそうとストレッチをしつつ、答える。
「もしかしてさっきのことを言ってるのか?なら聞くけどさ。お前は猟師が全員素手で熊を倒すと思ってるのか?違うだろ?俺のような弱者からはお前らのような強者は理不尽でインチキなんだぜ?ずるくせえ」
「口だけは達者ね」
「heyメイド長!」
正邪が割って入ってきた。
「さっきから……十六夜咲夜に対する一つの疑問は、門番、紅美鈴を連れていると言うことだ」
正邪はピシッと赤髪の女を指差す。
つまり、メイド服が咲夜、赤髪がメイ・リンということか……それにしてもメイリンって明らかに漢字にできなさそうだよな……十数年日本人やってたが、そんな名前の奴を知らん。
「今は門番ではなく、ただの紅魔の戦闘者の内の一人として見てください。あなた方は決闘を侮辱する形でお嬢様と妹様に勝った。今、私がここにいる原因は『あなた方は私を怒らせた』。これに限ります」
メイリンが少し身体を逸らしつつ、俺達を指差す。それをじっと見て気づいた。
メイリンはプロだ。立ち居振る舞いに隙がない。拳は人を殴りやすい形に変形しているし、さっきからチラチラ見える脚や、モロに出してる腕にはバランス良く筋肉がついていて、怪力で俊敏と言った驚異的な性能を誇っていると想像することが可能だ。
「まぁいいぜ。お前らが邪魔するなら、押し通らせてもらう!強行突破だ!」
俺は右手を後ろにやる。が、何にも触れず手は空を切る。そういえば、リュックサックかしてるっけ?
俺は素直にファイティングポーズに戻ろうと思った。が、一つの考えが俺の頭をよぎる。
さっきわざわざカッコつけたセリフを言って、先制攻撃せずに防御なんてしてたらかなりダサいんじゃない?
何が辛いかって、正邪の嘲笑が一番頭に来る。人をバカにするのが生きがいみたいな奴にこんないい素材をあげたら、一生の笑われ者にされる。それに、さっきまで散々全員カッコつけてて、花火も持ってねえってのに俺だけ火傷するなんてごめんだ。
俺は後ろに持っていた手のひらに妖力の弾を作り、そっと親指と人差し指を立てて、人差し指に妖力を溜めつつ、親指の付け根に妖力弾を装填。
俺はバッと右手を咲夜に向け、妖力弾を撃ちだす。弾は人差し指をレールとして段階的に加速して行った。
「無駄ね。こんなの牽制にもならないわ。いい?攻撃というのはこうするのよ?」
そう
次の瞬間、ナイフが俺めがけて四本飛んできていた。
予備動作も投げるモーションも何も見えなかった。また、俺の意識の中で時間が飛んでいる。
「こなくそ!」
あえて前に突っ込み、当たらないギリギリのあたりを見切り、スライディングすると、目の前には足を振り上げて俺を蹴ろうとしてるメイリンがいた。
「まずは一人、です」
「あ、これ俺死ぬかも」
「逆転!」
するといきなりおれの体の進行方向が逆転し、メイリンの蹴りは俺の目と鼻の先で空振り。
「せんきゅー正邪!」
「感謝するなよ気持ち悪い!」
「しつこいな」
咲夜がナイフを振り下ろしてきた。
が、普通なら回避だってできただろう。
が。
考えられない速度で振り下ろされたナイフは俺の肉に深々と刺さり、俺の身体を傷つける。
でも、最悪の事態は避けられた。
俺の心臓部じゃなく、左腕に刺さるだけで済んで、本当によかった。
「少しだけ褒めてあげる。あの瞬間的加速で防御を出来たことをね」
「ほざけ!」
俺は脚を曲げて咲夜の脛を蹴ろうとするが、直前で咲夜は跳躍し、回避した。
でも、咲夜は明らかに俺の攻撃では無いものを避けた動きだ……なんだ?
「ほあちゃぁぁ!」
俺が上を見ると、メイリンが光る拳を俺に振り下ろそうとしていた。
「のわっ!」
俺はゴロゴロと横に転がり、なんとか地面を蹴って立つ。
メイリンはさっき俺がいた位置の地面に放射状のヒビを作っていた。俺があそこにいたら軽く消し飛んでいただろう。
でも。
「外したら俺のチャンスだよなぁ!」
俺は十徳ナイフを持ち、メイリンに駆け寄る。が、いきなり前方にメイド服が現れた。
今、俺は走ってやっと加速し始めたあたりで、攻撃も単調な物しか出来そうになく、すぐにはとまれそうにない。つまり、今前に回り込まれたら格好の的だ。
「青ざめたわね?」
俺は苦し紛れに殴りかかるフェイントをするが、咲夜はそれを見てふっと静かに嗤った。
次の瞬間には咲夜の脚が俺のみぞおちのあたりを捉えていた。
蹴られたと思った時点で俺の身体は宙を舞っていた。そして、俺の身体が動かなくなる。まるで、運動神経だけ時を止められたかのように。いや、俺自身の肉体の時がとまっているらしく、空中にとまったままだ。
咲夜は俺の目の前でナイフを取り出し、大量に投げつける。大量のナイフは全て目の前で止まる。
そして、静かにただ言葉を紡ぐ。
「あなたは囲碁や将棋で言うチェックメイトにはまったのよ」
咲夜が指パッチンすると、ナイフが一斉に俺に襲いかかる。
胸に、腹に、腕に、どんどんナイフが刺さって行く。なんとか俺の周りに薄く広く広がる結界をはったからダメージが普通より小さく済んだが、これはまずい……。
「駄目押しにもう一本」
ぐさりと追撃のナイフが肩に刺さる。
俺はそのまま脱力し、地面に倒れる。
「まずは一人……きっちりとトドメをさして無力化しなきゃ……」
ズルズルと何か板を引きずるような音と足音がゆっくりと近づいてくる。
感覚的になんとか戦闘続行不可能ではない。なら、俺はじっくりと待ち、極限まで近づいたところで不意打ちと洒落込むことにするか。
足元が近くでとまると同時に、俺はばっと足音の方へ向き、手に作っていた野球ボール大の妖力球を放つ。
「そろそろ起き上がって攻撃するだろうと思っていたわ!」
咲夜は後ろに下がり、妖力球のコースから離れる。けど、【射程圏内】だ。
「お前が俺の行動を予測したつもりでも、さらにその上の予測を俺は立ててたんだよ!」
突如妖力球が爆散し、多数の妖力で出来たトゲとなり咲夜に突き刺さる。
「な!?」
「ヘッジホッグ手榴弾ってな。原作でもプレイステーションオールスターバトルでも脅威だったんだぜ?」
俺はにっと笑いつつ後ろに跳ぶ。
「四尺マジックボム!」
正邪が何か日のついた丸い物を咲夜に投げつける。
「そんな声をあげれば誰だって対策するわ」
が、咲夜は一瞬で離れ、すぐにマジックボムは綺麗な大輪の花を咲かせる。が、誰もそれに巻き込めなかった。次のマジックボムを準備してる正邪を見ると、確かに一瞬こっちをみて、ウインクした。俺は正邪に駆け寄ると、正邪はマジックボムと同じようなサイズ、色をした弾をまき、マジックボムをメイリンと咲夜に一発ずつ投げて、正邪は地面に飛び込むように身を投げ出す。
「いくらダミーを増やしたって、本命は見えてます!」
また花火が炸裂する。
その光の中、正邪は地面に手をつき腕と膝を曲げた逆立ちのようなポーズを取る。
「騙しの手品だ!」
俺はその折り曲げられた正邪の脚の上に飛び乗ると正邪が肘と膝のバネを伸ばし、ついでに重力を逆転させ、トランポリンのごとく俺の身体を打ち上げる。
「紫色の隠者!」
普段あまり使わないが、俺は妖力を使って自分のタンパク質あたりとかどこか忘れたけど、身体の中の成分を手首から出し、それを妖力で繋ぎ止めることで糸を出すことができる。糸と言っても、その時の気分やイメージで自由にデザインを変えられるが。これもヤマメが俺をスパイダーマン風味にしてくれたおかげで、少し時間があってなおかつ急速移動を求められてる状況などでお世話になってる。だが、今回は移動ようでは無い。
俺は正邪の足首に糸をちょっと加工してこしらえた若干粘着して縛った相手に負担をかけない蔦のようなを巻いてさらに上へ。
「無駄無……!?」
俺を目で追って居た咲夜とメイリンが目を抑える。
俺は今、咲夜とメイリンから見て太陽を背にしているのだ。いくら屈強な人間でも、目に頼ってる奴にこれは防げまい!
「人を見下したてめえの態度を文字通り打ち砕いてやるぜ!」
俺は腕に力を込めて正邪を引っ張る。その間に正邪はリュックサックから打ち出の小槌のような物を取り出して構えた。
「さぁメイド長!でっかいハンマーの衝撃を!受けてみろぉぉぉ!」
腕を振り回して正邪を咲夜めがけて叩きつける。そして勢いに乗った正邪は勢いのままに打ち出の小槌で咲夜をぶん殴った。
「去りやがれ!」
正邪が地面で激突する寸前で掃除機のコードよろしく、ツタを高速で回収しつつ降りる。
頭から血を流しつつ、咲夜はゆらりと立ち上がった。
「これまたしかけてきたわね……」咲夜は頭から垂れる血をペロリと舐め、メイリンとアイコンタクトをした。
「最終ラウンドよ!」
メイリンが軽いステップでこちらに駆け寄ってきた。
「こぉぉぉぉ!」
「くっ!」
妖力弾を地面に何発か溜め撃ちしつつ、能力を発動する。
そして、メイリンが拳をふり、俺と正邪の姿は吹き飛ばされる。
「ザ・ワールド!かたを付ける!」
咲夜が叫ぶと俺と正邪の姿は止まり、咲夜とメイリンは空高く舞い、何処かへ移動する。次の瞬間。
「ロードローラーよ!」
咲夜が屋根に腰掛けたロードローラーをメイリンが上から降ってきた。
「もう遅い!脱出不可能よ!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァっ!」
「ぶっつぶれなさい!」
メイリンは声を上げて何度も拳を叩き込むと、肉を潰した音が辺りに響く。
「これにて無力化完了」
「なんとかやってやりましたね……」
咲夜とメイリンが地面に降りる。
その時、正邪が指パッチンした。
辺りに乾いた音が響くと、咲夜とメイリンはロードローラーの下敷きになっていた。そして俺達2人の姿をした物はさっき咲夜とメイリンが降りた位置に現れる。
「咲夜!次にお前は.『動けん!?バカな!』と言う」
「動けん!?バカな……ハッ!?」
俺が能力を解除すると、古臭い人形と地蔵がボロボロでその場に転がっている。
「ひっくり返す程度の能力……ですか」
そもそも、メイリンに殴られる前にちゃっかり俺は自分の位置を誤魔化し、カードを抜き取って多少オーバーに妖力を流し込んだウェストポーチをはずしつつ自分の身代わりにしつつ、正邪の位置を誤魔化して人形に攻撃が行くようにした。
そして、 音を立てないようにこっそりと離れていたのだ。
音に関してはサユリが機転を利かせてくれたのだろう。
「天邪鬼!あなた達はぁぁ!」
メイリンが必死にロードローラーの下から這い出ようとする。が、俺の妖力はロードローラーで二人を潰れないようなギリギリで保ちつつ、二人の行動を食い止めている。
「撚れ捻れ!旋毛まがれ!重力に押し潰されてゆけ!」
正邪は二人を見下し、中指を立てた。
咲夜がぎりっと歯ぎしりをすると、少し影が濃くなった気がした。
「さて、撤収しよう。広星」
「あ、ああ。わかったぜ」
俺と正邪が咲夜達に背を向けるといきなり咲夜の引きつったような声が響いた。
「ザァァァァフキエェェェェェル!」
いきなり地面が音を立てて、巨大な時計盤が現れた。
デザインとしてはローマ数字で数字は表現されてて、長針がスナイパーライフル、短針がアサルトライフルで表現されてるって感じ。
月に照らされた咲夜の影はぐちゅぐちゅと音を立てて大きくなる。
影からいきなり数本の手が伸び、人が這い出てくる。数は六。
それらは、咲夜の姿をして居た。ただ、髪が黒で左右のもみあげは長さが違い、目は片目が赤で片目は黄色で表面に時計のようなものが刻まれてるぐらい。
「おいおい、こいつぁオーバーだぜ……さとりの野郎、何がスペルカード戦では死力を尽くして闘わない……だ」
「反則返しよ……」
黒い咲夜達は口々に言うと、笑いながら、右腕でどこからか取り出したハンドガンを構え、左手はナイフを持ち、そっと銃にそえた。バンダナをつけてやりたくなる。
正邪が格闘用のスペルカードを構え、尋ねてきた。
「広星、殺れるか?」
「オーライ。自分の身くらい自分で守れよ?正邪」
「そんなの無理に決まってるじゃん♪」
「ほざいてろ!」
俺は右、正邪は左側に跳ぶ。
「六人いるってことは一人三体がノルマだぜ!この不利な戦況をひっくり返してみろよ!正邪!」
「あー、やだやだ。全く。ヒーローは三体で一人の悪役を殴る時代だってのに」
俺が黒咲夜のうち1人に殴りかかる。
「ベート」
すると、黒咲夜は俺ではなく、別の黒咲夜に向けて、一発発砲した。
「なんだ?ノーコンか?」
俺は右で殴るフェイントをして、右足で黒咲夜の股間を蹴り上げる。
本体と比べていくらか性能が劣ってる……いや、黒咲夜達は全体的に戦闘経験が本体と比べて少ないのだろうか。よく比べると、本体より幼い気がする。
「ポージングだけ伝説の傭兵を真似ても意味ないぜ。本職の嘘つきを舐めんな!」
怯んだ黒咲夜に肘鉄を食らわせ、ハンドガンを奪い取り、引き金を引いて黒咲夜の目を撃ち抜く。反動で腕を痛め、ぐらりとよろける。
「まず一体!次……!?」
さっき味方に撃たれた黒咲夜が凄まじい動きで笑いながらこちらに突っ込んできた。
そして、勢いのままに俺の腕をつかむ。
「!?」
振り払おうと思った時には抱きとめられていて、首筋には冷たい金属の感覚がある。
「きひひ……チェックが甘かったようね」
「お前がな」
思いっきり後頭部を咲夜の顔面に叩きつけ、そのままナイフを持ってる腕を掴み、一本背負いで地面に叩きつける。
「かは……」
「俺って割とスロースターターなんだ。いや、戦闘しすぎでアドレナリンがドバドバ出てるだけかもしれんが」
地面に寝転がった咲夜の顔面を踏みながら武装を盗む。
正邪の方を見やると、ちょうどスペルカード宣言する前だった。
「逆符【ゼログラビガ】」
正邪が手をあげると、いきなり周りにいた三体の黒咲夜が宙にうかび、正邪が殴るとくるくると回り出す。まるで、黒咲夜達だけ宇宙に浮かんでいるように。
「グラビガ!」
今度は黒咲夜達のみ重力が強くなったかのように重力に押しつぶされる。四つん這いになってる黒咲夜達を前に、正邪は打ち出の小槌っぽいものを取り出す。
「地に這いつくばって死んでもらおう!」
三回、頭蓋骨を砕くような音が聞こえた後、正邪がこっちにニッと笑いかける。
「こっちはOKだ」
その時、俺は二体しか倒してないことを思い出した。そして気付いた。近くの木からはみ出てる銃身に。それはどうやら、正邪に向いてるらしいと言うことに。
「正邪ぁ!」
「ザイン」
正邪に弾丸が当たる。すると、正邪の時がピタッと止まり、その正邪にナイフを持った黒咲夜がどんどん歩み寄り始める。
「これで確実に……なんの後腐れもなく倒せるわ」
やばい。あと正邪は何回斬りつけられた耐えられるか知ったもんじゃない!一応領域があるから死にはしないが、痛いものは痛いだろう。最悪精神が殺られる。そんなことはごめんだ!
そうだ。スペルカードだ。さっき取り出してたはずだ。
俺は間に合ってくれと願いながら、ポケットからカードを取り出す。
そこには。
6マナ
火属性呪文
【バーストショット】
効果:シールドトリガー(このカードがシールドから持ち主の手元に戻った時、このカードをマナを使わず使用しても良い)
パワー2000以下の相手クリーチャーを全て破壊する。
「……ってバカ!これスペルカードじゃねえじゃん!デュエルマスターズじゃねえか!マナなんてねえよ!じゃああとは何がある!?」
俺は足元を見ると、狙撃銃が転がってた。
弾は有るようだ。
「……これか」
俺は寝そべってメタルギアを思い出しながら銃を構える。
深呼吸してスコープを覗き込むと、もう黒咲夜は正邪に対してナイフを振りかざしてた。
俺は落ち着き払い、黒咲夜の肩をスコープの中心に入れ、引き金を引く。
「ぐぁぁぁ!」
「きょあーお!」
反動が思いの外大きく、スコープが眼球を強く圧迫し、右肩に銃床が激突する。右肩は脱臼を起こしたらしい。
痛む目を抑えて、さっきまでスコープで覗き込んでた方を見ると、黒咲夜が胸部に穴を開けて倒れていた。正邪は無事だ。時もちゃんと動き出したらしく、こちらに歩み寄ってきている。
「……これで……終わり……か?」
「まだ……私は…暴れたりない……ね」
正邪は俺の前で座り込んだ。そして、流れるように寝転び、目を閉じる。
「お、おい正邪!?」
返事がないが、ぐっと無理やり肩を戻して、痛みを堪えたながら正邪の前に跪くと、一応呼吸音はしていた。でも、しばらくは起きないだろう。
「……さて」
俺はロードローラーに駆け寄る。
咲夜も咲夜で気を失ってる。が、メイリンはまだこちらをにらんでいた。
俺はメイリンの前にしゃがむと、メイリンは警戒心たっぷりの声でこちらに話しかけてきた。
「なんのつもりですか?」
「なんだと思う?」
「……大事をもって殺す気ですか……いいでしょう。したいならすればいいです」
「お前さんが手を引くならこっちは特に何もしないよ。俺はこれ以上、目の前から人が消えて欲しく無いんだ」
「では」
メイリンは俺をまっすぐ見て問いかけた。
「では、今、これ以上危害を加えません。と言ったら信じてくれますか?」
「信じるしかないだろ?埒が明かない」
「……え?」
「信じてやるよ。なんなら、このロードローラーをどかすのを手伝ってやろうか?」
メイリンにかかった拘束分の妖力を自分に還元する。まぁ、戦闘は無理かな。五分保てばいい方だろう。
「いえ、拘束さえ解ければ自分でなんとかなります」
メイリンが身を起こすと、ロードローラーは傾き、そのままメイリンはロードローラーを持ち上げて咲夜を巻き込まない位置にそっと置いた。
俺はウエストポーチを回収して、妖力を自分に還元する。
「んじゃ、お互いここは手を引こうぜ。ぶっちゃけ辛い」
「そうですね……私も咲夜さんが心配です」
「まぁ、また、今度は戦闘抜きで話をしようぜ」
俺はハープを回収してから、正邪からリュックサックを外してハープを中に入れて自分で背負い、正邪を抱っこする。
予想よりも軽い。よくよく考えると、たとえ妖怪だとしても、相手は俺より身長がちっこい女の子だ。なのにこないだ、我ながら酷くこうげきしたもんだ。心の中でそっと詫びる。
俺はこの後どこに行こうか少し考え、駄目元で一つの行き先を思いつき、向かおうとすると。
「待ってください」
メイリンが呼び止めてきた。
「なんだ?」
「輝針城異変のいざこざで確保を求められてるのは二人ですが……あなたはその外来人の方ですよね」
俺はうなづきかけて、少し首を傾げた。
「あれ?正邪は俺と正邪の社会的肩書きをひっくり返してたような……」
「その天邪鬼……正邪さんが倒れた時、パッと勘違いに気づいたのですが……正しくは能力の影響だったんですね」
「そゆことだ」
「では、どうして正邪さんにご協力を?」
俺は少し上を見て、言葉を探した。そして、言葉を紡ぐ。
「異変の罪を問うとしたら、こいつはもう、こんなぶっ倒れて寝る程頑張ったんだよ。もうだいぶしんどい筈なんだよ。だからさ、許してやろう?必要以上に虐げたら、逆に復讐を返そうとして、連鎖が起こる。だから、ここで許すんだ」
「……だからと言って私達を攻撃するのって……」
「すまんな。不器用なもんで、他に方法が思いつかなかった」
メイリンはふっと笑うと、あくびとともに背伸びをする。
「まぁわかりましたよ……それにしても疲れました。今度、温泉にでもゆっくり浸かりましょうかね……」
メイリンがこっちにウインクした。
俺は意味がよくわからなかったけど、とりあえず笑って微笑んだ。
「よし、んじゃ、また会おう!」
「はい。ご縁があれば会いましょう」
俺は今度こそメイリンに背を向けて、歩き出した。
どうやら、夜は終わったらしく、朝日が本物の日光で俺の行き先を照らしてくれた。
わりと短かった…とりあえずごめんなさい。でも、咲夜さんとかフランちゃんとかネタにしやすいのが多いんだよね。紅魔組。レミリアさん微妙だけど。【ザフキエル】はスペカの一つとしてカウントしてください。ちなみに、個人的には、フランにフォーオブアカインドさせてから分身の三体に波紋の呼吸させて自分の身を壊しながら、敵に特攻する、『QED【495年の緋色波紋疾走】』をやりたかった。イメージとしてはヅダさん。
さてさて、なんとか旧作ネタもガンガンやって行きたいけど、いつになることやら。