ここで。さとりの言うことに逆らうという選択をしてもよかった。それでも、多分。きっと。でも。
「やっぱり筋は通さないとな」
夕闇に包まれる幻想郷。チャリンコを漕ぎ、最果ての地へと向かっていた。
俺はチャリンコを漕ぎながら携帯を取り出す。
「なぁ、サユリ」
「なんですか?携帯の扱いが雑なご主人様」
「その冠詞は余計だアホウ。んで、赤い巫女に妙な反応してたんだっけ?正邪」
「ええ。それに、草の根妖怪ネットワークでもよく噂されてるようです」
「サンキュー。ちょうど着いたことだし、顔出してくるか」
長い階段の前にチャリンコを駐める。上には鳥居があり、わかりやすく神社している。もう敵の本拠地みたいなもんか……。一応能力で自分を少し後ろにいるように錯覚するようにし向けておこう。
奇妙なもんだ。悪いことした時はいつも誤魔化して来た俺が、ちゃんと罪と向き合い、叱られに行くだなんて……。そう思うと、
「……すごい帰りたい」
あれだ。こう……なんというか……帰りたい。もう帰っちゃっていいんじゃね?俺もうがんばったよね?ここまで来たんだもん。
「別に帰ってもいいですけど……私はそれを見て嬉々としてご主人様のヘタレ具合をタイムラインに流しますよ?」
「は?仮に帰ったとして、お前はそのウエストポーチの中からそれを感じ取れるのか?」
「内蔵の方位磁石機能ですね。方向転換はよくわかります。そして、階段で今はだんだん高度を上げてるようですね。降りたらわかります」
「爆散すればいいのに」
なんでこいつに自我を持たせたんだろう。切実に思う。
なんて今更ながら忌々しく思いながら、階段の最後の一段を踏みしめる。
「ふう」
やはり、そこには神社があった。
そして、境内の前に二人の女がいた。一応、少しだけ近づいてよく観察してみる。
一人は、石畳の上に正座してうなだれて、めんどくさそうな表情をしてる、赤を基調とした巫女服に赤いリボンをつけた女の子。
そいつに向かってガミガミ言ってるピンク髪て髪を丸めて、小さな白い布に覆わせてると思われる、右腕に包帯左腕に手錠をつけた女。
なんで叱られにきたら、他人が叱られてるという気まずい場面に遭遇しなきゃならんのだ。
二人はこちらに気づいてないようだが……さて、どうした物か。
俺がそう思い、後ろを見ると、いきなり目の前をカエルが上から下へ落ちてった。
「……?」
俺はピンと神経を研ぎ澄ませて索敵を行う。降って来たのはアマガエルであり、量もそこまで多いわけではない。だから、天候を操って何かを足止めしようとしたものではないらしい。が、未知の状況を作るのはあまりよろしくない。
微かに。そこを注視したらやっとわかる程度に風景が歪んでいた。
「光学迷彩か」
不可視の敵には対策が幾つかあったような。煙玉を投げると一瞬だけ姿を現すし、姿が現れてる時に音爆弾を投げればびっくりしてしばらく姿を消せない。また、相手の体力が60%になってから角を攻撃することで、部位破壊が可能。角だけ破壊すると姿が半透明になる。そして30%以下で尻尾が切断可能になり、そうなると完全に能力が使えない。
と言っても、俺はジャンボ村出身でも、ドンドルマ出身でも、ポッケ村出身でもないからなあ。
ザ・フィアーを倒すには赤外線カメラを使って倒したし……。
やはり、他の人の意見を参照にしてやるってのは俺らしくないかな。幸い、相手も俺の能力にかかって奇襲を外した。
「誰だぁ?そこのスカタンはぁ。おじさん怒らないから出てこい」
俺はアニメとかの悪役を真似てニヤッと顔を歪め、おぞましい笑顔を演出しようとする。鏡がないから今自分がどんな顔してるのかわからんが……多分大丈夫だろう。
「ねぇ」
後ろから足音が聞こえて来た。
こいつか?俺はそう判断し、一歩右足を後ろに引いてから、右足を軸に回転し、全力の裏拳を繰り出した。
が、裏拳はかわされ、軸足を思いっきり足で払われた。そして、逆光で照らされててよくわからないが、女が目の前で『コォォォォ』という呼吸音とともに何か力を溜めてる気がする。これは、マズイ!
「これが仙道よ!」
回避も間に合わない速度で拳が振り下ろされた。
メメタァ!という音とともに、自分の中を何かが駆け巡る。
が、俺自身に痛みはなかった。
「……こけおどしか?ステルス女。痛くもなんとも……!」
その時、俺は自分自身が何をされたかを理解した。いや、自分にされてることは、物事の結果からで、実質行ったのは、俺の寝転がってる地面に対してらしい。
俺の寝転がってる石畳、それも俺の手足のあたりのところだけピンポイントで破壊されていて、奇妙なことに残骸が俺の手首と足首を包み込むように固定していた。
「全く。ただ歩み寄って来ただけでいきなり殴りかかるなんて作法がなってません。いくら妖精にイタズラされたからと怒りすぎですよ?だいたい……」
よく見ると、それはさっき説教してた方の女だった。というか、だらだらと俺に対して説教を垂れてきやがった。勘弁してくれ。やはり、俺の印象として【大人】=【話が長い】なんだよ。
「あー、ストップストップ。で?お前は誰だ?人に意見をたれるなら、まず名前を名乗りな」
「人間賛歌は勇気の賛歌……って、ああ。私としたことが、すみません。私は茨木華扇と言います。ところで、あなたは何用でここに?」
「そりゃあ私に用があったんじゃないの?大方、幻想郷の強者を一人一人潰しに来た……といったところでしょうが、あまりにあっけなくてあくびが出そうね」
薄い羽を持ったような少女を三体ほど、裾を持って引きずりながら、赤白の巫女が歩み寄って来た。
が、何か勘違いするようだ。なので一応弁明する。
「おいおい、俺は戦う気は無い。それならしょっぱなっから爆撃してる。そのよく燃そうな神社によお」
「そうね。そんなことをしたらもれなく陰陽玉プレゼントよ。ただし黄金長方形の回転をしてるけど」
「まぁ、ともかくだ。俺は戦うつもりも何も無い。詫びを入れに来た」
というと、霊夢は鳩が豆鉄砲食らったような顔してた。
「……え?」
「迷惑になったんなら謝らなきゃかなと」
「なるほどね……まぁ、言わんとしてることはわかったから、とりあえず上がりなさい。この姿勢じゃ話しづらいわ」
「なんなら、ちょっとこの拘束を解いてくれねえかな?動けねえんだ」「あ、すみません」
というと、華扇はまた俺に拳を振り下ろすと、再び石は割れ、粉々になる。
「ふぅ、やっと自由だ」
手の汚れをパンパンと払ってると、巫女に止められた。
「あ、待った。あなた凄い汚れてるじゃ無い。ちょっと井戸で身体を洗い流しなさい」
「いやでも、俺着替えないんだが、男の服装としてまともな物で、着替えをくれないか?」
「仕方ないわねぇ。る〜こと、出番よ」
すると、淡い緑の髪をした、青と白のメイド服の少女が明らかに脚についたブースターで急加速をして突っ込んで来た。
「およびっすかご主人!」
「今すぐこの人に合う服を作ってちょうだい。こんな薄汚れた奴に神社をうろつき回られたらたまったもんじゃないわ。作り終わったらすぐに井戸に行きなさい。いいね?」
「イエス!マム!」
というと、る〜ことと呼ばれた少女はスラスターをふかし、神社の中へすっとんで行った。
其の後に聞こえた何かが壊れる音は気のせいに違いない。
「……えっと、井戸はどっちだ?」
「……あっちの本殿の裏あたりよ」
「……なんというか……その……どんまい赤白巫女」
「私には霊夢って名前があるわ……はぁ。ただでさえお金が入りづらいっていうのに、何壊したのよ……」
そう言うと、霊夢は神社の本殿へ入って行った。
俺は指さされたとおり、俺は井戸に向かった。
「うっひょぉぉぉぉ!」
桶に入れた水を頭からかぶる。
水はパンツ一丁の俺の身体をつたい、地面を湿らせる。
キンキンに冷えてやがる……。
小学校のプールは確か殺人的に冷えてて、あれで幼いながらも互いの男を試しあったもんだ。
自分にこびりついた土は手でこすり、取れる範囲で落とす。
そして、リュックサックの中になんかあったあまりでかくはない普通のタオルで身体の水分をできるかぎりとる。
「ふう……さてと、これでだいたいOKかな。あのメイドロボは少し時間、がかかりそうだし、自分の服でも洗っておくか」
俺は桶に自分のさっきまで着てた服を突っ込み、ゴシゴシともみ洗いをする。すると、なんということでしょう、だんだん桶の中の水が茶色くなり、これは服が汚れを落とした証拠!雑菌。許さない。
「こんなもんかな……ふぁ……ゔぇくしょん!あり?……もしかして風邪?……参ったな」
大丈夫か大丈夫じゃないかで言われたら大丈夫っぽいが、放置はまずいかもしれん。
と思ってたら、スラスターの音が聞こえた。
感じたぞ!奴が来る!
今はいいのさ全てを忘れて、一人残った屍の俺が、この戦場で後に残れば地獄に落ちる〜♪
などと間抜けたことを考えてたら、る〜ことと呼ばれた少女が突っ込んできた。
「出来上がったっすー!」
思いっきり轢かれた。いや、はねられたと言っても違いはない。なんか思いっきり突っ込んできた物体と交通事故して、浅田真央とかよくしてるというトリプルアクセルを空中で余儀無くすることになり、地面に叩きつけられた。
「だ、大丈夫っすか?」
「い、一番いいのを頼む……」
目の前が暗くなってく……あれ?なんか鎌持った奴……小町じゃあないっぽいけど、なんか母さんっぽいのを連れてってる……あれ?ってここ三途の川じゃね?
「ってアウトぉぉぉ!俺死にかけてるやーん!」
と言って無理に体を動かそうとすると、井戸のそばで目を覚ますことができた。さすが妖怪。一撃じゃ死なない。
「だ、大丈夫っすか?」
俺のそばには『AED』とかかれたパッドを持ったる〜ことが心配そうに俺を見つめてた。
「大丈夫だ。問題ない……んで、服は?」
「あ、これっす」
そう言って彼女は汚れが大量にこびりついた服の形をした布を俺によこした。なりはTシャツ短パンだが、俺がギリギリ着れる程度の丈しかなさそうだ。というか、多分雑巾をつぎはぎしただけだこれ。
「……なにこれ。こんなの着たくないよーだ」
「あっはっは、馬鹿っすねぇ。他の人なら、他に替えはないって言ったらっすね。『あー僕も着たい!』って言うに決まってるっすから!」
「えぇ?本当かなぁ」
とか話しつつ、実際にきてみる。
身体を洗った後なのに雑巾を着るなんてとかいう考えがよぎったが、中にビニール袋がくっつけられてて、どちらかというとビニール袋を着る感じになっていた。それにしても、DEPOはいつの間に幻想入りしてたのか。いや、ポイ捨てされたビニール袋が幻想入りしただけかもしれない。そうだとすると嘆かわしいことだ。
「ほら、防水加工っすよ!」
「わー。すっごーい」
すっごくいらない。興味が毛頭無い。
「さて、ご主人もお待ちかねでしょうし、行くっすよ!」
「そうだな。行くか」
俺はリュックサックを回収し、本殿へ向かった。
「……ということだったんだ」
博麗神社の本殿。俺はちゃぶ台の前に正座し、輝針城異変について話をした。
針妙丸からの連絡。輝針城を出した時。刀を持った女(魂魄妖夢というらしい)と戦ったこと。正邪と会話したこと。レイラの家のこと。レミリア達と戦ったこと。
正邪はその後放置したと言っておいた。
俺の前には何人かの女が俺の話を聞いてた。
まず、紅白の巫女服の博麗霊夢。チャイナドレスっぽいの着てるさっき俺を地面に倒して殴ってきたツェ……茨木華扇。何故かガンプラとかよりも小さくなってる少名針妙丸。頭にブーメランが刺さったような感じのピーナッツクリームのような髪色をして俺が話をしてる間にも何度も瓢箪の中を飲んでた赤ら顔の伊吹萃香。下半身がなくて絵に描いたようなお化けの尻尾のようなものがスカートから出てる魅魔。緑髪でメイド服のる〜こと。
……いや、確実にる〜ことは聞いてない。なんか口を開けて宙をみてぼけっとしてる。
が、他は俺を見て神妙な顔してた。針妙丸もな!神妙な顔をな!……さぶっ。
思わず俯く。こんなに迷惑かけたんだ。さぞかし叱られることだろう。
もしかしたら、罰せられるかもしれない。もしかしたら左手の小指を持ってかれるかもしれない。何処かに閉じ込められるかもしれない。真っ赤に焼けた鉄棒を触らせられるかもしれない。穴を掘り、穴を埋める作業を延々とさせられるかもしれない。そう考えると今更ながら怖くてならなかった。
一分一秒がかなり長く感じられる静寂の後、霊夢はため息をついた。思わずビクッと反応してしまう。
「……それで?なに?私達に捕まったら怒られると思ったの?」
「ああ」
「……なんで来たの?」
「……こうしないとダメだって言われてな」
そういうと、霊夢は俺に歩み寄った。
思わず目を伏せる。
「ばかたれ」
そういって、霊夢は俺の頭をぺしっとたたいた。
そして、る〜ことの方をみていった。
「ねぇ、今何時?」
「えとねヨロレイヒー♪」
「わけがわからないよ。私は今何時って聞いてるの」
「そうねだいたいねー!」
「いい加減にして」
「えっと、申の刻っす」
「いい頃合いね……行くわよ」
そういって、俺以外の全員が立った。
「え?何処へ?」
「妖怪の山よ。黙ってついて来なさい。さもないと、容赦しないわ」
次回はいつになるかな!じゃ!ばいきゅー!