「……よし」
俺は黄色髪の女性と緑髪の女の子を一箇所に揃え、LEDランタンをつけてから起こすことにした。
彫刻刀を持って揺さぶる。縄が無いのが残念だ。
「……えーっと、すいません。起きてくれます?」
「……っ」
「……」
黄色髪の女性と緑髪の女の子は殴ったり蹴ったりしたところを痛そうにしながら起きた。
「少女の顔を殴るなんて……どうかしてるよ」
黄色髪の女性が口を尖らせてる。さっきとは違い、邪気が見えない。
「あー、でも、あなたは俺を食おうとしてませんでした?」
「あーあー!きこえなーい!きこえなーい!」
黄色髪の女性が耳を抑えて叫んでる。
仕方がないので、まだわかりやすい質問からすることにした。
「えーっと、あなた方は?」
「私は黒谷ヤマメ。土蜘蛛だよ」
「……」
黄色の女性はヤマメというらしいが、緑髪の女の子はさっきから何も言わず、こっちを見てる。なん怖い。
「あ、こつちの娘は釣瓶落としのキスメ。まだ怒ってるみたいだね」
ヤマメが紹介してくれた。キスメは喋る気がないらしいのでヤマメに幾つか質問することにした。
「あ、俺の名前は木亥広星。ご覧の通り人間だ。さてと、ヤマメ、どうして俺を襲ったんだ?」
「ん?妖怪だから」
「……妖怪だと?」
「そそ、ようかんでもなく、妖怪」
「……じゃあ、なんで今襲わない?」
「ん?だって痛い目に遭いたくない し」
「妖怪なら本気だしたら俺なんてすぐに殺せるんじゃねえのか?」
「博麗の巫女がスペルカードルールってのを作ったから、争いは基本的にそれですべて解決するから肉弾戦はしないのよ。もし、あなたの今の戦いを博麗の巫女に見られてたら怒られてたかもよ?」
「いや。食われられてたまるか」
「それと、最近人間食べちゃダメって言ってるんだよ。ここの奥のさとり妖怪がさ、地霊温泉郷ってものを作ったらしくてさ。人間にも来てもらいたいらしいから生きた人間を食うことを禁止されたんだよ」
「それって飢え死にするんじゃないか?」
「いや、飯はあそこの燐って化け猫が死体運んでくるからいいんだけどさ……なんというか、病気にかかってない死体がすごく美味しくないんだよ。なんというか……さして味がしなくてもぐもぐと栄養だけ取れるみたいな?しかも、人間の恐怖心とかを糧に妖怪は力を得てるようなものなのに、何も恐れる要因がないから、肉弾戦の力とか勘は鈍る一方。参っちゃうよね……本当」
「逆らったりは?」
「ヤダよ。そんなことしてあの妖怪達にまで嫌われたら。私の居場所がなくなっちゃうじゃん。まあ、君みたいに外来人で死んでも違和感なさそうなのは食べようとするけど」
「……なるほど」
だいたい納得言った。まあ、もらえる情報はもらえるだけもらっておこう。
「ここはどこのどの辺?」
「幻想郷の地底の三丁目。奥に行けばさとり妖怪のいる地霊殿に。引き返せば地上に出れる」
「ありがと」
「……あ、そうだ。ちょっと待って」
ヤマメがイタズラっ子のような目でこっちを見て手招きしてる。嫌な予感しかしねえ。とりあえず質問だけしておこう。
「何をする気だ?」
「ちょっとここで生き残る糧をね」
「……なんでそれなら口に出さない?」
「まぁ、手取り足取り、この地底のアイドルヤマメちゃんが教えてあげようというわけ。だから、ちこうよれちこうよれ」
……一応彫刻刀を取り出しやすい位置に配置して近づく。
「なんだ?」
と俺が問おうとした瞬間に跳躍し、思いっきり踏まれた。
対応しきれなかった。決してスカートの中に気を取られてたわけではない。けっして中の黒い布なんて見てないんだ。信じてくれ。
俺の身体は地面に投げ出される。
そして、俺の四肢は蜘蛛の脚により、押さえつけられる。
「えへへ〜♪つかまえた〜♪」
ヤマメは愉快そうな笑みを浮かべてる。スカートの中の腰の後ろの方から蜘蛛の脚は出ているらしい。
ってそれどころじゃないな。どうするか。とりあえず、適当に話をしながら策を練ろう。
「お、おい、ヤマメ?どういうことだ?これは」
「ん?なんだと思う?」
と言いながら顔を近づける。口の中から牙がはみ出てる。
「……警告するぞ。顔を近づけるな。痛い目に合うぞ」
「今の君に何ができるかな?見ものだね」
自由な腕で頭を押さえつけられた。こいつ……姿勢的にはゲルズゲーのくせにアグリッサみたいなことしやがって……。電気でも流すのか?
と思ってたら、ヤマメの口が俺の口とくっつい……れ?
キス。接吻。あとは口づけ?とか言われた行為。確か外国では挨拶にするらしいが、その場合だって頬や額だ。でもよりによって……え?つうか顔近くね?
俺がときめいてる時間はそう長くはなかった。口の中に異物が侵入してきたからだ。舌なんてものではなく、もっとネバネバしたもの。そして、ヤマメは俺の唇に牙を立てた後、そっと顔を離した。
ヤマメは笑顔で告げた。
「噛んで」
「あ?」
「それをさっそと飲み込んで?」
仕方なく、俺はネバネバとしたものを噛み、飲み込んだ。
初めてのキスは、血やら何やらが混ざったような奇妙な味がした。
さて、これは何だったのだろう。
「ヤマメ、なにを飲ませた?」
「ん?ちょっとした薬のような物だよ。ちょっと人間をやめてもらっただけ」
「はぁ?」
「外の世界からこの前来たんだよ。ケツ十時キラーのスパイダーマン。それで、色々と調べてたら、蜘蛛が少年に噛み付いてスパイダーマンになったそうらしいから、ちょっとしたウイルスを作らせてもらったよ」
「……人間をやめる?」
「人間もどきになってもらったよ。そっちの方が何かと都合がいいからね」
「な、なんだってー!?」
「うふふ♪驚いた?」
「……具体的にはどう人間と違うの?」
「うーん、妖怪としての力、妖力が使えるかな。それであなたも弾幕ごっこができるよ」
「だんまくごっこ?」
「ちょっとはなれてて」
と言ってヤマメがそこらに手をかざすと、手のひらから光弾が出て行った。
「なんつーか……ドラゴンボールの登場人物みたいだな」
「うん。まぁ、私は説明苦手だし、さとり妖怪のところ行って教わって来よう。キスメ、ちょっとここあけるけど、待っててくれる?」
「……うん。わかった」
「じゃ、行くよ?」
「……拒否権は?」
「ないよ♪」
笑顔で手をLEDランタンの光に照らすと、蜘蛛の糸が出ていた。その先を目で追うと、俺の首に巻きついていた。いつの間に……あ、いや、さっきのき……キスの……キスの時か……
「ん?なんで赤くなってんの?」
「うっせぇ!さっさとそのさとり妖怪のところ行くぞ!」
「わかった。まあ、こっちだから行こー!」
歩き出すヤマメを見ながら俺は歩幅を合わせて歩き出した。そして、気になってた問いを訊いてみた。
「なぁ、さっき俺を妖怪っぽくせず食ってもよかったんだろ?なんで助けたんだ?」
ヤマメはあっけらかんとした笑顔でこっちを見て言った。
「えー?なんとなくなんとなく。深い考えはないよ〜」
仄暗い地の底はつまづいて転びやすそうだけど、なんとなく、俺はちゃんと二本の足で、大地を踏みしめ、足元に転がった石も乗り越えられそうな気がした。
はい。俺のイメージのヤマメさんはこんな感じで気まぐれです。キスメは無口んです。